説明

シリンダヘッドのウォータージャケット構造

【課題】排気系を一体型としたシリンダヘッドにおいて、排気ポートの直上を効果的に冷却する必要がある。しかし、燃焼室周りと排気ポート周りを分離して、それぞれにウォータージャケットを配置するのは、内燃機関の小型化には向かない。また、ウォータージャケットの容量を大きくするのも、内燃機関の小型化には不向きである。
【解決手段】複数気筒の排気ポートがシリンダ内で合流し、気筒配列方向に平行な一側に排気口を開口させた、排気マニホールドと一体型のシリンダヘッドのウォータージャケット構造であって、前記気筒配列方向の一端側に形成された冷却水入口と、前記気筒配列方向の他端側に形成された冷却水出口を備え、前記排気ポート上部の流路の、前記気筒の出口側から前記排気口側へ向かう方向の断面に、前記流路が狭くなる狭窄部が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドの冷却を行うウォータージャケットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、燃焼室で燃料を燃焼した後の高温の排気ガスを排気管から排出する。燃焼室の出口の部分は、高温の排気ガスが通過するため、加熱される。従って、燃焼室の出口にあたるシリンダヘッド内は、ウォータージャケットを配置して冷却される。
【0003】
特許文献1には、冷却水が燃焼室周りを通る第1ウォータージャケットと、排気マニホールド周りを通る第2ウォータージャケットを独立分離することで、排気マニホールド周りを冷却する冷却水の水量および流速を確保する発明が開示されている。この発明は、燃焼室周りと排気ポート周りのウォータージャケットが連通していると、それぞれの冷却水が行き来するので、冷却水量や流速を十分に確保できないという課題に基づいている。
【0004】
特許文献2は排気ポートを冷却する際に、排気ポートの上側と下側に関して、主として上側の冷却効率を高めるため、上部排気側ウォータージャケットの容積を下部排気側ウォータージャケットの容積より大きくした内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−278065号公報
【特許文献2】特開2009−047024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダヘッドでは、燃焼室から排出された直後の排気ガスが通過するポートを収納しているので、適切な冷却が行われなければ、内燃機関自体の温度によるダメージが生じるだけでなく、輻射熱によって周囲の部材まで熱劣化を生じさせてしまう。特に、排気ガスは燃焼室の上側から排気されるので、排気ポートの上面は高温に曝される。従って、特許文献1のように排気側の冷却能を上げることも、特許文献2のように上部排気側ウォータージャケットの冷却能を上げようとするのも妥当な技術方向であると考えられる。
【0007】
しかし、燃焼室周りと排気ポート周りを分離して、それぞれにウォータージャケットを配置するのは、内燃機関の小型化には向かない。同様に、排気ポートの上側を冷却するために上部排気側ウォータージャケットの容量を大きくするのも、小型化には不向きである。排気ポートは、シリンダヘッドの底部から中央にかけて形成される燃焼室から上方に向かって引き出され、シリンダヘッドの側面に向かって向きを変えながら引き出されるので、排気ポートの上側のウォータージャケットの容積を大きくするのは、必然的にシリンダヘッドの大きさが大きくなるからである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みて想到されたもので、シリンダヘッドの容量を増やさずに、排気ポート側の冷却を高める。
【0009】
より具体的に本発明のシリンダヘッドのウォータージャケット構造は、
複数気筒の排気ポートがシリンダ内で合流し、気筒配列方向に平行な一側に排気口を開口させた、排気マニホールドと一体型のシリンダヘッドのウォータージャケット構造であって、
前記気筒配列方向の一端側に形成された冷却水入口と、
前記気筒配列方向の他端側に形成された冷却水出口を備え、
前記排気ポート上部の流路の、前記気筒の出口側から前記排気口側へ向かう方向の断面に、前記流路が狭くなる狭窄部が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウォータージャケット構造は、排気ポート上流の流路中に狭窄部を設けて、排気ポート上流側に流れた冷却水が、燃焼室側に戻りにくくした。したがって、シリンダヘッド内に流れ込んだ冷却水で排気ポート側に流れた冷却水は、特に排気ポートの上流で流速が早くなり、冷却効果が上がる。
【0011】
また、狭窄部では、ウォータージャケットと排気ポートの距離がわずかに離れるので、シリンダヘッドを作製するために、各中子を組合わせる際、ウォータージャケットの中子と排気ポートの中子の干渉を回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシリンダヘッドの外観を示す図である。
【図2】本発明のウォータージャケットの中子と排気系の中子を示す図である。
【図3】本発明のウォータージャケットの横断面図を示す図である。
【図4】本発明のウォータージャケットの縦断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明のウォータージャケット構造について説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の趣旨から外れない範囲内で、下記の実施形態を変更しても、本発明の技術的範囲に含まれるのは言うまでもない。また、本明細書中では、ウォータージャケット構造1と、ウォータージャケット16を混在して使用するが、同意である。
【0014】
図1は本発明のウォータージャケット構造1を搭載したシリンダヘッド2の外観図である。図では3つの点火プラグの挿入口10a、10b、10cがある場合を示したが、気筒数は特に限定されるものではない。なお、説明の便宜上、挿入口10aを第1気筒、挿入口10bを第2気筒、挿入口10cを第3気筒の点火プラグとする。図1は、排気ポート17a〜17fが集合した排気マニホールド17mの出口17g側(図2参照)から見た斜視図である。
【0015】
なお、シリンダヘッド2の排気マニホールド17mの出口側のシリンダヘッド面12の表面の形状は凹凸を有するが、省略して平面と描いている。冷却水は、矢印9の下方からシリンダヘッド2に注入され、排水口13から排水され循環する。なお、符号9は後述する冷却水注入口の符号として使う(冷却水注入口9)。なお、A−AおよびB−Bは、図3および図4の断面図の断面を示す線である。
【0016】
図2は、図1のシリンダヘッド2のウォータージャケットの中子16および排気系の中子17を示す。本発明のウォータージャケット構造1は、シリンダヘッド2の中に、排気ポート17a〜17fと排気マニホールド17mがまとめて形成された排気系一体型のシリンダヘッドに好適に利用できる。排気ポート17a〜17fと排気マニホールド17mをまとめて排気系17と呼ぶ。従って、シリンダヘッド2内の排気系17およびウォータージャケット16は、シリンダヘッド2内に設けられた空間であるので、実際の形状は中子の状態でしか見ることはできない。そこで、以後ウォータージャケットとウォータージャケットの中子も、排気系と排気系の中子も、同じ符号(それぞれ16、17)で表す。
【0017】
本実施の形態では、3気筒の場合を示しているので、排気系17は、各気筒毎に2本ずつの排気ポート17a乃至17fが配設され、計6本の排気ポートがシリンダヘッド2内で集合し、排気マニホールド17mを形成し、1つの排気口17gから排気ガスを排出する。排気ポート17a、17bは第1気筒、排気ポート17c、17dは第2気筒、排気ポート17e、17fは第3気筒の排気ポートである。
【0018】
ウォータージャケット16は、燃焼室35(図4参照)および排気系17を冷却するために、シリンダヘッド2内の壁の隙間をできるだけ埋めるように形成されている。従って、複雑な形状をしている。
【0019】
ここで簡単にシリンダヘッド2の形成方法を説明する。中子は、微細な無機物(例えば砂)に樹脂を混ぜたもので、所望の空間形状に形成されている。排気系の中子17とウォータージャケットの中子16は、それぞれ別々に形成され、図2に示すように、ウォータージャケットの中子16の中に排気系の中子17が挿入され、固定される。そして、この状態で金型中に固定され、鋳造が行われる。その後、中子だけを破壊して除去することで、中子の部分が空間として残るシリンダヘッド2が完成する。すなわち、図2は、シリンダヘッド2の隙間空間だけを集めて形として示したものである。
【0020】
本発明のウォータージャケット16は、少なくともいずれかの排気ポート17a〜17fの直上部分に狭い狭窄部18を有することを特徴とする。狭窄部18は、後述するように燃焼室35周囲を冷却する経路と、排気ポート17a〜17f周囲を冷却する経路の行き来が生じる箇所に設けるのがよい。図2では、符号18で示した部分が狭窄部である。図2では、第2気筒の排気ポート17cと17dの直上箇所に狭窄部18が設けられた状態を示している。
【0021】
図3は、図1および図2に示すA−Aの断面図である。この断面は、排気ポート17a〜17fの上側での断面である。冷却水は冷却水注入口9から注入される。符号22a乃至22fは、吸気バルブ用の穴であり、符号24a乃至24fは排気バルブ用の穴である。また、符号20はオイル落とし穴である。
【0022】
冷却水注入口9から注入された冷却水は、燃焼室35周りとなる点火プラグ穴10の周囲を流れる第1の流路30と、排気系17の周囲を流れる第2の流路31に分けられる。ここで狭窄部は符号18の部分である。すなわち、符号18の部分では、第2の流路31から第1の流路30に向かう冷却水(33a、33b)は、流路の断面積が狭く、流れにくい。従って、第2の流路31は、第1の流路30と独立して流れるため、冷却水の流速が低下することがなく、冷却を効果的に行うことができる。なお、このような狭窄部18は、第1もしくは第3の気筒の排気バルブ用穴の部分(18a、18b)にも形成することができる。
【0023】
図4は、図1及び図2のB−Bの断面図である。図4(b)は図4(a)の一部拡大図である。排気ポート17dは、燃焼室35の上端の排気弁口36から上方に立ち上がり、排気マニホールド17mの方に方向を変える。従って、ポートルーフ17rの部分が最も温度が上がる。そこで、ウォータージャケット16には、第2の流路31が形成されるように形状を決める。ここで、ポートルーフ17rの部分を冷却しようとしてこの部分のウォータージャケットの容積を大きくする。例えば、図4の二点差線37のごとくである。なお、排気弁口36は、気筒の出口である。
【0024】
このようにすると、第2の流路31の容積は上昇するが、第1の流路30への冷却水の流れも容易になる。すると、第2の流路31内で、冷却水注水口9から遠い気筒の周辺(第2、第3気筒)では、排気ポート17c〜17f周辺の流速が低下し、冷却水の滞留が生じてしまう。これは冷却不足の原因となる。
【0025】
一方、排気ポート17a〜17fのポートルーフ17rの直上のウォータージャケット16に狭窄部18を設けると、第2の流路31から第1の流路30に冷却水が流れにくくなり、第2の流路31の流速が上昇するので排気ポート17a〜17fの直上が効果的に冷却できる。
【0026】
本発明では、狭窄部18は、第1の流路30から第2の流路31への空間を全く閉じることはしない。ウォータージャケット16の構造は複雑で、内面は多くの凹凸を有しているので、第1の流路30と第2の流路31の間を完全に閉じてしまうと、逆に冷却水の滞留箇所が発生してしまうからである。
【0027】
また、狭窄部18は、第2の流路31から見て、排気弁口36に近い位置に設ける。第2の流路31の幅31wを大きく確保するためである。また、狭窄部18の高さ18hは、第2の流路31の高さ31hの半分より低くする。第1の流路30に冷却水が流れにくくするためである。なお、狭窄部18の高さ18hも、第2の流路31の高さ31hも、排気ポート17a〜17f直上の高さとする。排気ポートのポートルーフ17rの温度がポートフロア17sの温度より高くなるからである。つまり、狭窄部18は、気筒の出口側(排気弁口36)から排気口(排気マニホールド17m)の出口17g側へ向かう断面中であって、気筒の出口側に設けられる。
【0028】
また、狭窄部18は、いずれかの気筒の排気ポートに少なくとも1箇所以上配置されていればよい。第1の流路30と第2の流路31は、シリンダヘッドの大きさと、排気弁、油落とし穴、点火プラグの配置によって、決まるからである。
【0029】
なお、図4を参照して、本発明のウォータージャケット構造1では、排気ポート17a〜17fの少なくとも1箇所以上に狭窄部18を設けているので、狭窄部18の排気ポート17a〜17fとウォータージャケット16の距離は離れる。これは、ウォータージャケットの中子16の中に、排気系の中子17を入れる際に互いが干渉しにくくなっており、シリンダヘッド2の製造の点からも不良品が生じにくいという効果も奏する。
【0030】
より具体的には、図4で、二点差線37のように、狭窄部18を設けなければ、排気ポートの中子17dが挿入される際にウォータージャケットの中子16と干渉してしまい、いずれかの中子が損傷してしまうおそれがある。本発明のウォータージャケット構造1であれば、このような不具合を回避することができる。以上のように本発明のウォータージャケット構造1は、排気系17が一体的に形成されたシリンダヘッド2において、効果的に排気系17を冷却することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は内燃機関のウォータージャケット構造、特に排気系を一体型としたシリンダジャケットに好適に利用することができるので、内燃機関の小型化に有用である。
【符号の説明】
【0032】
1 ウォータージャケット構造
2 シリンダヘッド
9 冷却水注入口
10、10a、10b、10c 点火プラグ用穴
12 排気マニホールドの出口側のシリンダヘッド面
13 排水口
16 ウォータージャケット(の中子)
17 排気系(の中子)
17a〜17f 排気ポート
17m 排気マニホールド
17g 排気マニホールドの排気口
17r ポートルーフ
17s ポートフロア
18 狭窄部
18a 第1気筒での狭窄部
18b 第3気筒での狭窄部
18h 狭窄部の高さ
22a〜22f 吸気バルブ用の穴
24a〜24f 排気バルブ用の穴

30 第1の流路
31 第2の流路
31w 第2流路の幅
31h 第2の流路の高さ
33a、33b 第2の流路から第1の流路への流れ
35 燃焼室
36 排気弁口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒の排気ポートがシリンダ内で合流し、気筒配列方向に平行な一側に排気口を開口させた、排気マニホールドと一体型のシリンダヘッドのウォータージャケット構造であって、
前記気筒配列方向の一端側に形成された冷却水入口と、
前記気筒配列方向の他端側に形成された冷却水出口を備え、
前記排気ポート上部の流路の、前記気筒の出口側から前記排気口側へ向かう方向の断面に、前記流路が狭くなる狭窄部が形成されたウォータージャケット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177342(P2012−177342A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40906(P2011−40906)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】