説明

シリンダヘッドのポートの製造方法

【課題】シリンダヘッドのポートの製造方法において、筒状密閉部内に配置される断熱材を溶かさずに製造する技術を提供する。
【解決手段】ポート中子21に第1アルミ板22を巻き付け、巻き付けられた第1アルミ板22の外側に断熱材を多孔質カバーで覆った断熱体23を巻き付け、巻き付けられた断熱体23の外側に第2アルミ板24を巻き付け、吸気ポートの両端部において第1、第2アルミ板22,24を接合して、第1、第2アルミ板22,24間に断熱体23を有する筒状密閉部25を形成し、筒状密閉部25内を真空引きするための吸引口26を形成し、シリンダヘッドの鋳型に吸引口26を形成したポートユニット20を配置し、吸引口26から真空引きを行って筒状密閉部25内を真空状態に維持しつつ、シリンダヘッドの鋳造を行い、シリンダヘッドにポートが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドのポートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダヘッドの鋳造時に、シリンダヘッドの鋳型内に中子を配設し、冷却水の通路である排気側横流し通路及び排気側縦流し通路をシリンダヘッドと共に一体的に形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−51601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、シリンダヘッドの吸気ポートや排気ポート等のポートも、上記背景技術の冷却水の通路と同様に、シリンダヘッドの鋳造時に、シリンダヘッドの鋳型内に中子を配設し、アルミ溶液等を流し鋳込むことで、シリンダヘッドと共に一体的に形成されている。
【0004】
しかし、シリンダヘッドのポートとして、内外周間に断熱材を有する筒状密閉部を形成した2重管構造のポートを用いる場合がある。この2重管構造のポートを製造する場合には、シリンダヘッドの鋳造時等に筒状密閉部内に配置される断熱材が溶けないように製造する必要がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリンダヘッドのポートの製造方法において、筒状密閉部内に配置される断熱材を溶かさずに製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関のシリンダヘッドのポートの製造方法であって、
ポート中子に第1金属板を巻き付け、
巻き付けられた前記第1金属板の外側に、断熱材を多孔質カバーで覆った断熱体を巻き付け、
巻き付けられた前記断熱体の外側に第2金属板を巻き付け、
ポートの両端部において前記第1、第2金属板を接合して、前記第1、第2金属板間に前記断熱体を有する筒状密閉部を形成し、
前記筒状密閉部内を真空引きするための吸引口を形成し、
シリンダヘッドの鋳型に前記吸引口を形成したポートを配置し、前記吸引口から真空引きを行って前記筒状密閉部内を真空状態に維持しつつ、シリンダヘッドの鋳造を行い、シリンダヘッドにポートが形成されることを特徴とするシリンダヘッドのポートの製造方法である。
【0007】
本発明では、シリンダヘッドの鋳型に吸引口を形成したポートを配置し、吸引口から真空引きを行って筒状密閉部内を真空状態に維持しつつ、シリンダヘッドの鋳造を行う。これによると、シリンダヘッドの鋳造時に筒状密閉部内が真空状態であるので、筒状密閉部内の断熱効果が高い。よって、高い断熱効果を有する筒状密閉部内に配置される断熱体には熱が伝わり難い。したがって、筒状密閉部内に配置される断熱体が有する断熱材を溶かさずにポートを製造することができる。
【0008】
本発明によると、断熱材が多孔質カバーで覆われているので、筒状密閉部内を真空状態
にするために真空引きしても、多孔質カバーで覆われた断熱材が吸い込まれることがない。また、断熱材が多孔質カバーで覆われることで断熱材が均一に配置されたまま固定されるので、断熱材が筒状密閉部内で偏ってしまうことがなく、均一に配置された断熱材により均一な断熱性能を得ることができる。
【0009】
本発明によると、筒状密閉部内に断熱体を介在させることで、筒状密閉部内を真空状態にしても第1、第2金属板が凹み難くなるので、第1、第2金属板は筒状密閉部内に断熱体を介在させない場合に比して薄いものを用いることができる。
【0010】
本発明によると、筒状密閉部内に断熱体を介在させることで、筒状密閉部内に断熱体を介在させない場合に比して第1、第2金属板間のずれが生じ難くなるので、第1、第2金属板間のずれが少ない高精度のポートを製造できる。
【0011】
巻き付けられた前記第1金属板の外側に、前記断熱体を巻き付ける際に、前記断熱材の長手方向を、ポート内を通過する気流の向きに揃えるとよい。本発明によると、断熱材の断熱性能を最大限発揮させることができるので、高い断熱効果を得ることができる。
【0012】
前記断熱材の直径は、前記多孔質カバーに設けられる孔の直径よりも大きいとよい。本発明によると、断熱材が多孔質カバーの孔から外に抜け出てしまうことがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、シリンダヘッドのポートの製造方法において、筒状密閉部内に配置される断熱材を溶かさずに製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0015】
<実施例1>
図1は、本実施例に係るシリンダヘッドのポートの製造方法を用いて製造された内燃機関のシリンダヘッドの概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関のシリンダヘッド1には、内燃機関の吸気ポート2、排気ポート3、冷却水の通路4、燃焼室5等が設けられている。吸気ポート2及び排気ポート3は燃焼室5につながっている。シリンダヘッド1は、シリンダヘッド1の鋳型にアルミ溶液等を流し鋳込むことで鋳造される。
【0016】
ここで、排気ポート3、冷却水の通路4、燃焼室5等は、シリンダヘッド1の鋳造時に、シリンダヘッド1の鋳型内に中子を配設することで、シリンダヘッド1と共に一体的に形成される。一方、吸気ポート2は、予めポートユニット20として製造され、シリンダヘッド1の鋳造時に、シリンダヘッド1の鋳型内にポートユニット20を配設することで、シリンダヘッド1に一体化される。本実施例の吸気ポート2が本発明のシリンダヘッドのポートの製造方法を用いて製造される。
【0017】
図2を用いて吸気ポート2のポートユニット20の製造手順を説明する。まず、図2(a)に示すように吸気ポート2の中空内部の形状に形成されたポート中子21を用意する。次に、図2(b)に示すようにポート中子21に第1アルミ板22を巻きつける。この際、巻きつけた第1アルミ板22の間には隙間が生じないよう溶接を行う。
【0018】
次に、図2(c)に示すように巻き付けられた第1アルミ板22の外側に、図3に示すような断熱材23aを多孔質カバー23bで覆った断熱体23を巻き付ける。
【0019】
ここで、断熱体23は、図3(a)の正面図に示すように表面全体を多孔質カバー23
bで囲まれたものであり、図3(a)のA−A断面である図(b)に示すように多孔質カ
バー23b内に断熱材23aが多数充填されている。断熱材23aとしては、例えば直径2〜8μmの円柱上のグラスウールが用いられる。その他にも、グラスファイバ、カーボンブラック、シリカ等を断熱材として用いてもよい。多孔質カバー23bは、直径1〜3μmの孔を有する多孔質材である。このように断熱材23aの直径は、多孔質カバー23bに設けられる孔の直径よりも大きい。よって、断熱材23aが多孔質カバー23bの孔から外に抜け出てしまうことがない。
【0020】
そして、図4に示すように巻き付けられた第1アルミ板22の外側に断熱体23を巻き付ける際に、断熱材23aの長手方向を、吸気ポート2内を通過する気流の向きに揃える。すなわち、断熱材23aであるグラスウールの長さ方向を、吸気ポート2内を通過する気流の上流側から下流側への向きに合わせる。これは、断熱材23aの長手方向が吸気ポート2内を通過する気流の向きに揃っていると、断熱材23aの断熱性能を最大限発揮させることができるので、吸気ポート2が高い断熱効果を得られるためである。また、吸気弁周り等の吸気ポート2内を通過する気流の流速が大きい場所では、熱伝達が大きいので、断熱材23aの密度を高くしてもよい。
【0021】
次に、図2(d)に示すように巻き付けられた断熱体23の外側に第2アルミ板24を巻き付ける。このとき、断熱体23は第1、第2アルミ板22,24間で押し付けられその第1、第2アルミ板22,2間に隙間なく充填されるようにする。またこの際、巻きつけた第2アルミ板24の間には隙間が生じないよう溶接を行う。
【0022】
そして、図2(e)に示すようにポートユニット20の両端部において第1、第2アルミ板22,24に蓋部材等を溶接によって接合して、第1、第2アルミ板22,24間に断熱体23を有する筒状密閉部25を形成する。筒状密閉部25は、その後の工程で真空状態にされることがあるため、隙間から漏れのない完全な密閉空間に形成される。なお、蓋部材等を用いず、直接第1、第2アルミ板22,24間を溶接等してもよい。
【0023】
次に、図2(e)に示すように筒状密閉部25内を真空引きするための吸引口26を形成する。吸引口26は、例えばニップル等をポートユニット20に付加して設けられ、吸引口26とバキュームポンプ27とがホースで接続される。また、吸引口26は、ポートユニット20に1つだけでなく複数設けてもよい。吸引口26が多くなる程、真空引きに要する時間を短縮することができる。以上のようにして、吸気ポート2のポートユニット20が製造される。
【0024】
そして、図5に示すように、吸気ポート2のポートユニット20は、ポート中子21を内部に有したまま、シリンダヘッド1の鋳型40内に配設される。また、同時に排気ポート3、冷却水の通路4、燃焼室5等に相当する中子41もシリンダヘッド1の鋳型40内に配設される。
【0025】
ここで、シリンダヘッド1を鋳造するためにアルミ溶液を鋳型40内に流し鋳込む前に、図5に示すように、吸気ポート2のポートユニット20は、吸引口26とバキュームポンプ27とがホースでつながれ、吸引口26から真空引きを行って、筒状密閉部25内を真空状態にする。そして、筒状密閉部25内を真空状態に維持しつつ、鋳型40内にアルミ溶液を流し鋳込みシリンダヘッド1の鋳造を行う。これにより、シリンダヘッド1に吸気ポート2が形成される。また、同時に排気ポート3、冷却水の通路4、燃焼室5等も形成される。
【0026】
以上のようにしてシリンダヘッド1に吸気ポート2を形成する場合には、シリンダヘッド1の鋳型40に吸引口26を形成したポートユニット20を配置し、吸引口26から真
空引きを行って筒状密閉部25内を真空状態に維持しつつ、シリンダヘッド1の鋳造を行う。これによると、シリンダヘッド1の鋳造時に筒状密閉部25内が真空状態であるので、筒状密閉部25内の断熱効果が高い。よって、高い断熱効果を有する筒状密閉部25内に配置される断熱体23には熱が伝わり難い。したがって、筒状密閉部25内に配置される断熱体23が有する断熱材23aを溶かさずに吸気ポート2を製造することができる。
【0027】
また、断熱材23aが多孔質カバー23bで覆われているので、筒状密閉部25内を真空状態にするために真空引きしても、多孔質カバー23bで覆われた断熱材23aが吸い込まれることがない。また、断熱材23aが多孔質カバー23bで覆われることで断熱材23aが均一に配置されたまま固定されるので、断熱材23aが筒状密閉部25内で偏ってしまうことがなく、均一に配置された断熱材23aにより均一な断熱性能を得ることができる。
【0028】
また、筒状密閉部25内に断熱体23を介在させることで、筒状密閉部25内を真空状態にしても第1、第2アルミ板22,24が凹み難くなるので、第1、第2アルミ板22,24は筒状密閉部25内に断熱体23を介在させない場合に比して薄いものを用いることができる。
【0029】
また、筒状密閉部25内に断熱体23を介在させることで、筒状密閉部25内に断熱体23を介在させない場合に比して第1、第2アルミ板22,24間のずれが生じ難くなるので、第1、第2アルミ板22,24間のずれが少ない高精度の吸気ポート2を製造できる。
【0030】
そして、以上のように製造された吸気ポート2では、内燃機関に実装時も吸引口26がホースでバキュームポンプ27とつながっていることで、筒状密閉部25内について真空から空気までの真空度の調整が可能となり、断熱効果を可変できる。よって、筒状密閉部25内を真空状態に制御した場合には、最も断熱効果が高く、低負荷でのHC低減、燃費低減ができる。一方、筒状密閉部25内を空気充填状態に制御した場合には、断熱効果が弱くなり、外部EGR装置が付いた内燃機関ではシリンダヘッドに熱を有効に逃がすことができ、NOx低減ができる。ここで、筒状密閉部25内の真空度の調整制御としては、内燃機関の運転状態が低負荷では筒状密閉部25内を真空状態に制御して断熱効果を高くし、内燃機関の運転状態が高負荷では筒状密閉部25内を空気充填状態に制御して断熱効果を弱くすることが行われる。
【0031】
なお、上記実施例では、吸気ポート2のポートユニット20を製造するに際し、第1、第2アルミ板22,24を用いたが、これに限らず、他の金属板を用いてもよい。
【0032】
また、上記実施例では、ポートユニット20から製造するポートを吸気ポート2に限っていたが、これに限らず、排気ポート3もポートユニット20を用いて製造してもよい。
【0033】
本発明に係るシリンダヘッドのポートの製造方法は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1に係る内燃機関のシリンダヘッドの概略構成を示す図。
【図2】実施例1に係る吸気ポートのポートユニットの製造手順を示す図。
【図3】実施例1に係る断熱体の概略構成を示す図。
【図4】実施例1に係る吸気ポートの気流の向きと断熱材の長手方向とを示す図。
【図5】実施例1に係る内燃機関のシリンダヘッドの鋳型の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 シリンダヘッド
2 吸気ポート
3 排気ポート
4 冷却水の通路
5 燃焼室
20 ポートユニット
21 ポート中子
22 第1アルミ板
23 断熱体
23a 断熱材
23b 多孔質カバー
24 第2アルミ板
25 筒状密閉部
26 吸引口
27 バキュームポンプ
40 シリンダヘッドの鋳型
41 中子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドのポートの製造方法であって、
ポート中子に第1金属板を巻き付け、
巻き付けられた前記第1金属板の外側に、断熱材を多孔質カバーで覆った断熱体を巻き付け、
巻き付けられた前記断熱体の外側に第2金属板を巻き付け、
ポートの両端部において前記第1、第2金属板を接合して、前記第1、第2金属板間に前記断熱体を有する筒状密閉部を形成し、
前記筒状密閉部内を真空引きするための吸引口を形成し、
シリンダヘッドの鋳型に前記吸引口を形成したポートを配置し、前記吸引口から真空引きを行って前記筒状密閉部内を真空状態に維持しつつ、シリンダヘッドの鋳造を行い、シリンダヘッドにポートが形成されることを特徴とするシリンダヘッドのポートの製造方法。
【請求項2】
巻き付けられた前記第1金属板の外側に、前記断熱体を巻き付ける際に、前記断熱材の長手方向を、ポート内を通過する気流の向きに揃えることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドのポートの製造方法。
【請求項3】
前記断熱材の直径は、前記多孔質カバーに設けられる孔の直径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダヘッドのポートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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