説明

シリンダーヘッドガスケット及びエンジン

【課題】高温化するシリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間の温度差を低減することのできるシリンダーヘッドガスケット及びこのシリンダーヘッドガスケットを介装したエンジンの提供を目的とする。
【解決手段】シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の間に介装し、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101との間のシール性を確保するともに、基材1aの平面視内側に、シリンダーボア110に対応するボア孔2を備えたシリンダーヘッドガスケット1であって、ボア孔2の周縁部における少なくとも一部に配置して基材1aと一体構成するとともに、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の両方に当接する周縁部材を備え、周縁部材を、基材1aを構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材製の高熱伝導性周縁部材10で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車等のエンジンにおけるシリンダーブロック及びシリンダーヘッド間に介装し、シリンダーブロック及びシリンダーヘッドとの間のシール性を確保するためのシリンダーヘッドガスケット及びこのシリンダーヘッドガスケットを介装したエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等のエンジンは、下から順に、別部材で構成されるオイルパン、シリンダーボアを有するシリンダーブロック、シリンダーヘッド及びシリンダーヘッドカバーを組付けて構成している。そして、シリンダーボアの上面部分を構成するシリンダーヘッドと、シリンダーブロックとの間には、シリンダーヘッドガスケットを介装させて、シリンダーヘッドとシリンダーブロックのシール性を向上させている。
【0003】
このようなエンジンは、燃料と空気を所定の比率で混合させた混合気をシリンダーボア内で圧縮して爆発させて駆動するため、シリンダーボアを有するシリンダーブロックが高温となる。ここで、高温であるシリンダーブロックに対して、シリンダーヘッドガスケットを介して固定されるシリンダーヘッドに温度差が生じると、シリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間に温度差による変位や応力が生じ、シール性が低減する惧れがある。
【0004】
また、シリンダーブロックとシリンダーヘッドとの間に温度差が生じると、シリンダーブロックとシリンダーヘッド内に熱歪が生じ、カムシャフト、シリンダー及びその他の摺動部材とのフリクションロスが大きくなり、燃費が悪化するといった問題もあった。
【0005】
そのような問題に対して、シリンダーヘッドガスケットにおけるボア孔同士の間に、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの両方に接触する良熱伝導性部材を備えたシリンダーヘッドガスケットが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
これにより、高温であるシリンダーブロックの熱を、良熱伝導性部材を介して積極的にシリンダーヘッドに熱伝導して、シリンダーブロックとシリンダーヘッドとの温度差を低減することができるとされている。
【0007】
しかし、最近のエンジンは、燃費向上や排ガスのクリーン化のため、燃焼効率を向上させており、シリンダーブロックをはじめとするエンジンの高温化がさらにすすんでいる。
【0008】
このように、エンジンの高温化がすすむと上記良熱伝導性部材を用いただけでは、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの温度差を十分に低減することができないという問題があった。
【0009】
これは、混合気を爆発させているシリンダーボア付近がもっとも激しく温度上昇しており、その影響はシリンダーボアから離れるとともに緩やかになっている。たしかに、良熱伝導性部材によってシリンダーブロックからシリンダーヘッドに熱伝導されるものの、良熱伝導性部材は温度上昇の影響の少ないシリンダーボア間に介装されているため、その温度差の解消効果は少なくなる。
【0010】
これに対し、シリンダーブロック及びシリンダーヘッド間に介在するシリンダーヘッドガスケットによりシリンダーボア周囲のシリンダーブロックからシリンダーヘッドへの熱移動が阻害され、急激に温度上昇するシリンダーブロックとシリンダーヘッドとの間に大きな温度差が生じる。したがって、上記問題を十分に解決することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−346172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこでこの発明は、高温化するシリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間の温度差を低減することのできるシリンダーヘッドガスケット及びこのシリンダーヘッドガスケットを介装したエンジンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、シリンダーブロック及びシリンダーヘッド間に介装し、前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドとの間のシール性を確保するともに、前記ガスケット本体の平面視内側に、シリンダーボアに対応するボア孔を備えたシリンダーヘッドガスケットであって、前記ボア孔の周縁部における少なくとも一部に配置して前記ガスケット本体と一体構成するとともに、前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドの両方に当接する周縁部材を備え、該周縁部材を、前記ガスケット本体を構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材の高熱伝導性周縁部材で構成したことを特徴とする。
【0014】
上記シリンダーヘッドガスケットは、ステンレスや鋼等の金属、樹脂、黒鉛、あるいはその他適宜の耐熱性を有する素材で形成したシリンダーヘッドガスケットとすることができる。
【0015】
上記ボア孔の周縁部における少なくとも一部に配置して前記ガスケット本体と一体構成する周縁部材は、ガスケット本体と異部材で構成された周縁部材を、溶接やカシメ等によって一体構成した部材とすることができる。殊に、ガスケット本体と周縁部材との一体化は、振動溶接や超音波溶接のように、内部応力の生じない結合方法で結合することがより好ましい。
【0016】
さらに、上記ボア孔の周縁部における少なくとも一部に配置して前記ガスケット本体と一体構成する周縁部材は、ボア孔の周縁部の全周に配置された周縁部材、あるいは、例えば、ボア孔の断面においてより高熱化される排気側部分等の部分的に配置された周縁部材、さらには、ボア孔の周縁部の全周において、高温化される側の周縁部材を熱伝導性の高い高熱伝導性材で構成し、他の部分を通常の周縁部材で構成し、一体化された周縁部材等で構成することもできる。
【0017】
上記高熱伝導性周縁部材は、ガスケット本体を構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材であればよく、例えば、アルミニウムや銅、さらにはそれらの合金で構成することができる。
【0018】
この発明により、例えば、燃費向上や排ガスのクリーン化のために燃焼効率を向上させることで高温化がすすむシリンダーブロックであっても、高温化したシリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間の温度差を低減することができる。これにより、急激な温度差が生じやすいエンジン始動時において、温度分布の早期均一化を図ることができる。
【0019】
詳しくは、混合気が爆発することでもっとも激しく温度上昇するシリンダーボア付近におけるシリンダーヘッドガスケットのボア孔の周縁部の少なくとも一部に、前記ガスケット本体と一体構成され、前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドの両方に当接する周縁部材を備えたことにより、シリンダーブロックの熱を、前記周縁部材を介してシリンダーヘッドに熱伝導することができる。
【0020】
さらに、周縁部材を、前記ガスケット本体を構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材製の高熱伝導性周縁部材で構成したことにより、周縁部材に比べて熱伝導性の低いガスケット本体を介さず、ガスケット本体より熱伝導性の高い高熱伝導性周縁部材を介してシリンダーブロックの熱をシリンダーヘッドに熱伝導することができる。
【0021】
したがって、高温化されたシリンダーブロックと、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドとの間の温度差を低減できるため、温度差による変位や応力を抑制し、シリンダーブロック及びシリンダーヘッド間におけるシリンダーヘッドガスケットによるシール性を確保することができる。
【0022】
また、高温化されたシリンダーブロックと、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドとの間の温度差を低減することによって、温度差に起因する変位や応力を抑制できるため、シリンダーヘッドガスケット自体の追随性・耐割れ性を向上することができる。
【0023】
したがって、追随性・耐割れ性が向上していない従来のシリンダーヘッドガスケットにおいて、シリンダーヘッドガスケットとしての機能であるシール性を確保するために積層させたシリンダーヘッドガスケットを用いる場合であっても、シリンダーヘッドガスケット自体の追随性・耐割れ性を向上することによって単層で同様のシール性を確保できる。よって、シリンダーヘッドガスケットに要するコストの低減を図ることができる。
【0024】
また、高温化されたシリンダーブロックと、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドとの間の温度差を低減できるため、シリンダーブロック及びシリンダーヘッド間の温度差に基づく熱歪によって大きくなるカムシャフト、シリンダー及びその他の摺動部材とのフリクションロスを低減させ、温度差に起因する燃費の悪化を防止することができる。
【0025】
この発明の態様として、前記高熱伝導性周縁部材の厚みを、前記基材の厚み以上の厚みで形成することができる。
この発明により、シリンダーヘッドガスケットによるシール性を確保できる程度にシリンダーブロックとシリンダーヘッドとをシリンダーヘッドガスケットを介して固定させた状態において、シリンダーブロック及びシリンダーヘッドと高熱伝導性周縁部材との密着性を向上することができる。したがって、高温化したシリンダーブロックの熱をシリンダーヘッドに確実に熱伝導することができる。
【0026】
また、エンジンの起動、停止、駆動状態における加減速等に起因する振動等によって、シリンダーブロックとシリンダーヘッドとのシリンダーヘッドガスケットを介した接合面において捩れ方向の力が作用した場合であっても、高熱伝導性周縁部材を基材の厚み以上の厚みで形成しているため、高熱伝導性周縁部材によるシリンダーブロック及びシリンダーヘッドへの接触を確保することができる。よって、高温化したシリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間の温度差を確実に低減することができる。
【0027】
また、この発明の態様として、前記高熱伝導性周縁部材における前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドに対向する表面のうち少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高い高熱伝導性被覆を備えることができる。
【0028】
上記耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高い高熱伝導性被覆は、耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高いゴム、樹脂、あるいはカーボン等の被覆で構成するとともに、通常の被覆の膜厚に比べて薄膜化することによって熱伝導性を向上した高熱伝導性被覆、ミクロシール性を確保したふっ素樹脂等の高熱伝導性微細粒子分散複合材で構成する高熱伝導性被覆とすることができる。なお、上記耐摩耗性を有する被覆とは、摺動した際の摩擦に対して摩耗しにくい被覆及び摺動する際の摩擦を低減する低摩擦係数の被覆とすることができる。
【0029】
この発明により、高熱伝導性周縁部材を介したシリンダーブロック及びシリンダーヘッド間の熱伝導性を被覆によって阻害することなく、温度差を低減できるとともに、ボア孔の内周縁でのシール性を向上することができる。
【0030】
したがって、シール性を確保しながら、高温化されたシリンダーブロックからシリンダーヘッドへの熱伝導が促進され、シリンダーヘッドガスケット内部における面内熱伝導量を低減することができる。
よって、ガスケット本体を構成する基材の必要耐熱性を低減できるため、基材を構成する材料の選択肢が増え、基材に関する材料コストの低減を図ることができる。
【0031】
また、この発明の態様として、前記ボア孔の径外側にビードを備えるとともに、前記ガスケット本体の表面に、シール性を向上するためのシール被覆を備え、該シール被覆が、前記ビードを跨いでビード近傍を被覆することができる。
【0032】
上記ビードは、フルビード、ハーフビード、クォータービード或いは台形ビード等の適宜の形状のビードとすることができる。
この発明により、確実なシール性を確保することができる。
【0033】
また、高熱伝導性周縁部材に高熱伝導性被覆を備えた場合、ボア孔の内周縁でのシール性を向上することができるとともに、シリンダーヘッドガスケット内部における面内熱伝導量を低減することができるため、シール被覆の耐久性を向上するとともに、通常のシリンダーヘッドガスケットの表面に形成する被覆に比べて耐熱性の低い材料を用いて被覆することができる。よって、被覆材料の選択肢が増え、被覆材料に関する材料コストの低減を図ることができる。
【0034】
また、この発明は、上記シリンダーヘッドガスケットを、前記シリンダーブロックと、前記シリンダーヘッドとの間に介装したエンジンであることを特徴とする。
この発明により、上記シリンダーヘッドガスケットが奏する効果を有するエンジンを構成することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、高温化するシリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間の温度差を低減することのできるシリンダーヘッドガスケット及びこのシリンダーヘッドガスケットを介装したエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】シリンダーヘッドガスケットの斜視図。
【図2】シリンダーヘッドガスケットのボア孔周辺の拡大端面図を用いた説明図。
【図3】シリンダーヘッドガスケットを介装した状態のシリンダーボア周辺の拡大端面図。
【図4】シリンダーヘッドガスケットにおける高熱伝導性周縁部材による熱伝導についての概念図。
【図5】別の実施形態のシリンダーヘッドガスケットのボア孔周辺の拡大端面図を用いた説明図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1はシリンダーヘッドガスケット1の斜視図を示し、図2はシリンダーヘッドガスケット1のボア孔2周辺の拡大端面図を用いた説明図を示している。また、図3はシリンダーヘッドガスケット1を介装した状態のシリンダーボア110周辺の拡大端面図を示し、図4はシリンダーヘッドガスケット1における高熱伝導性周縁部材10による熱伝導についての概念図を示している。
【0038】
図1に示すように、シリンダーヘッドガスケット1は、薄板状の平面視略長方形形状で形成され、長手方向に3つのボア孔2を隣接させて配置するとともに、その周囲に複数のボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5を配置している。
【0039】
ボア孔2は、エンジン100を構成するシリンダーヘッド101とシリンダーブロック102の内部に形成されたシリンダーボア110に対応する形状及び配置で形成し、内周縁2a(図2)に高熱伝導性周縁部材10を備えている。このように3つのシリンダーボア110を備えたシリンダーヘッドガスケット1は、3気筒のエンジン100用のシリンダーヘッドガスケットである。
【0040】
ボルト孔3は、シリンダーヘッド101とシリンダーブロック102とを固定するボルトの貫通を許容する貫通孔である。冷却水口5は、シリンダーヘッド101とシリンダーブロック102との内部に形成されたウォータジャケット(図示省略する)を連通させ、ウォータジャケット内を循環する冷却水の通過を許容する貫通孔である。同様に、潤滑油口4は、潤滑油であるエンジンオイルの通過を許容する貫通孔である。
【0041】
また、各ボア孔2、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の外周側には、ビード6(6a,6b)を形成している。
詳しくは、ボア孔2の径外側にはフルビード6aを形成し、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の外側にはハーフビード6bを形成している。しかし、シリンダーヘッドガスケット1の要求性能に応じて、ボア孔2の径外側にハーフビード6bを形成してもよく、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の外側にフルビード6aを形成してもよい。
【0042】
さらには、各ボア孔2、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の外周側におけるシリンダーヘッドガスケット1の表面は、ビード6を跨ぐ態様のシール膜21によって被覆されている。なお、図1において、斜線のハッチングで示す部分がシール膜21に被覆された部分を示している。
【0043】
上記構成について、図2とともに、さらに詳しく説明する。
シリンダーヘッドガスケット1は、鉄鋼板で構成する基材1aを上記形状に形成している。そして、ボア孔2の径外側にはフルビード6aを形成し、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の外側にハーフビード6bを形成している。さらには、ビード6を跨ぐ態様でシリンダーヘッドガスケット1を構成する基材1aの両表面をシール膜21で被覆している。
なお、基材1aは、鉄鋼板に限定されず、ステンレス鋼板やアルミ板等の金属、樹脂、黒鉛等の適宜の耐熱性を有する材料で構成することができる。
【0044】
なお、シール膜21のボア孔2、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5側の端部は、ボア孔2、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5におけるそれぞれの内周縁2aからわずかに控えた位置となり、ボア孔2、ボルト孔3、潤滑油口4及び冷却水口5の内周縁2a近傍では、基材1aが露出している。なお、シール膜21は、耐摩耗性と適度な耐熱性能を有する樹脂製で構成している。
【0045】
高熱伝導性周縁部材10は、基材1aより熱伝導性の高い銅合金製のリング状に形成され、ボア孔2の内周縁2aに溶接によって結合されて一体構成となっている。また、高熱伝導性周縁部材10は、基材1aの厚みTaより厚い厚みTbで形成しているため、基材1aの両表面から上下方向に突出厚みTc分突出している。さらにまた、銅合金製の高熱伝導性周縁部材10は適宜の弾性及び変形性を有している。
【0046】
なお、高熱伝導性周縁部材10をボア孔2の内周縁2aに結合する溶接方法としては、結合により内部応力の生じない振動溶接や超音波溶接等の溶接方法を用いることができる。
また、高熱伝導性周縁部材10は、銅合金製に限定されず、アルミ合金等の所望の熱伝導性並びに、適宜の弾性及び変形性を有する材料で構成することができる。
【0047】
また、高熱伝導性周縁部材10におけるシリンダーヘッド101及びシリンダーブロック102に対向する両表面10a,10aを、耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高い高熱伝導性シール膜20で被覆している。
【0048】
高熱伝導性シール膜20は、ミクロシール性を有する高熱伝導性微細粒子分散配合樹脂で構成することによって、高熱伝導性、耐熱性及び耐摩耗性を有している。なお、高熱伝導性シール膜20は上記シール膜21より半分以下の厚みで形成している。したがって、材質及び厚み共に、シール膜21に比べて高い熱伝導性を有している。
【0049】
このように構成したシリンダーヘッドガスケット1は、図3に示すようにシリンダーヘッド101とシリンダーブロック102との接合部分100aにおいて、上下から挟まれた状態でエンジン100に介装される。
【0050】
このとき、シリンダーヘッドガスケット1は、シリンダーヘッド101とシリンダーブロック102に上下から押圧されているため、ビード6は略平坦な扁平状になるとともに、高熱伝導性周縁部材10及び高熱伝導性シール膜20は圧密され、図3におけるb部の拡大図である図4に示すように、高熱伝導性シール膜20を介した高熱伝導性周縁部材10の表面が、接合部分100aにおけるシリンダーヘッド101及びシリンダーブロック102の接合面に密着して接触することとなる。
【0051】
また、基材1aは、ビード6付近において、シール膜21を介して、接合部分100aにおけるシリンダーヘッド101やシリンダーブロック102の接合面と接触しているため、シリンダーヘッド101及びシリンダーブロック102の接合部分100aにおける接合面内のシール性を確保している。
【0052】
この状態で、エンジン100が始動すると、シリンダーボア110内の混合気の爆発によりシリンダーブロック102から加熱されるため、シリンダーヘッドガスケット1を介して固定された上方のシリンダーヘッド101との間に温度差が生じる。しかし、熱伝導性の高い高熱伝導性周縁部材10をボア孔2の内周縁2aに備えているため、加熱されたシリンダーブロック102からシリンダーヘッド101に矢印Aで示すように熱伝導される。
【0053】
また、高熱伝導性周縁部材10は基材1aより熱伝導性が高いため、シリンダーブロック102の熱は矢印Aで示すように積極的に高熱伝導性周縁部材10によってシリンダーヘッド101に熱伝導される。
【0054】
また、高熱伝導性周縁部材10は、基材1aの厚みTaより厚い厚みTbに形成し、シリンダーヘッド101とシリンダーブロック102との挟み込みによって押圧されているため、接合部分100aにおけるシリンダーヘッド101とシリンダーブロック102の接合面と確実に接触し、確実に矢印Aに示す熱伝導が行われる。
【0055】
さらにまた、シリンダーボア110内の混合気の爆発による熱もシリンダーヘッドガスケット1を直接加熱するが、その際には、ボア孔2の内周縁2aに配置した高熱伝導性の高熱伝導性周縁部材10から加熱される。
【0056】
そこで、シリンダーボア110側から直接加熱された高熱伝導性周縁部材10の熱は、高熱伝導性周縁部材10に比べて熱伝導性の低い基材1aに熱伝導されず、矢印Bに示すように、高熱伝導性周縁部材10を介して、シリンダーブロック102に比べて低温である上方のシリンダーヘッド101に熱伝導される。
【0057】
したがって、高熱伝導性周縁部材10を加熱した熱は基材1aに面内熱伝導せず、シリンダーボア110側からの熱によるシリンダーヘッドガスケット1の温度上昇を抑制することができる。よって、基材1aやシール膜21に要求される必要耐熱性を低減でき、基材1aやシール膜21を構成する材料の選択肢が増え、基材1aやシール膜21に関する材料コストの低減を図ることができる。
【0058】
詳しくは、高温化するシリンダーブロック102、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101の間の温度差を低減することができる。
また、このように、ボア孔2の内周縁2aに高熱伝導性周縁部材10を備えるとともに、両表面10a,10aを高熱伝導性シール膜20で被覆したことにより、矢印A,Bで示すように、シリンダーブロック102からシリンダーヘッド101へ伝達される熱や、シリンダーボア110からの熱を積極的にシリンダーヘッド101へ熱伝達することができる。したがって、基材1aでの面内熱伝導量を低減することができるとともに、高温化されたシリンダーブロック102からシリンダーヘッド101への基材1aを介した熱伝導量(矢印C参照)を、高熱伝導性周縁部材10を備えない通常のシリンダーヘッドガスケットに比べて同等以下にすることができる。
【0059】
これにより、例えば、シリンダーブロック102からシリンダーヘッド101への基材1aを介した熱伝導量(矢印C参照)が、高熱伝導性周縁部材10を備えない通常のシリンダーヘッドガスケットに比べて低減する場合は、基材1aの面内熱伝導量低減による必要耐熱性低減効果に加えて、高熱伝導性周縁部材10を備えない通常のシリンダーヘッドガスケットの表面を被覆するシール膜に比べて、シール膜21の必要耐熱性をさらに低減することができる。よって、シール膜21を構成する被覆材料の選択肢が増え、被覆材料に関する材料コストの低減を図ることができる。
【0060】
このようなシリンダーヘッドガスケット1の作用効果について詳述すると、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の間に介装し、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101との間のシール性を確保するともに、基材1aの平面視内側に、シリンダーボア110に対応するボア孔2を備えたシリンダーヘッドガスケット1を、ボア孔2の周縁部における少なくとも一部に配置して基材1aと一体構成するとともに、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の両方に当接する周縁部材を備え、周縁部材を、基材1aを構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材製の高熱伝導性周縁部材10で構成したことにより、例えば、燃費向上や排ガスのクリーン化のために燃焼効率を向上させることで高温化がすすむシリンダーブロック102であっても、高温化したシリンダーブロック102、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101の間の温度差を低減することができる。これにより、急激な温度差が生じやすいエンジン100の始動時において、温度分布の早期均一化を図ることができる。
【0061】
詳しくは、混合気が爆発することでもっとも激しく温度上昇するシリンダーボア110付近におけるシリンダーヘッドガスケット1のボア孔2の周縁部に、基材1aと一体構成され、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の両方に当接する周縁部材として高熱伝導性周縁部材10を備えたことにより、シリンダーブロック102の熱を、周縁部材を介してシリンダーヘッド101に熱伝導することができる。
【0062】
さらに、高熱伝導性周縁部材10を、シリンダーヘッドガスケット1を構成する基材1aより熱伝導性の高い高熱伝導性材で構成したことにより、周縁部材に比べて熱伝導性の低い基材1aを介さず、基材1aより熱伝導性の高い高熱伝導性周縁部材10を介してシリンダーブロック102の熱をシリンダーヘッド101に熱伝導することができる。
【0063】
したがって、高温化されたシリンダーブロック102と、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101との間の温度差を低減できるため、温度差による変位や応力を抑制し、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の間におけるシリンダーヘッドガスケット1によるシール性を確保することができる。
【0064】
また、高温化されたシリンダーブロック102と、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101との間の温度差を低減することによって、温度差に起因する変位や応力を抑制できるため、シリンダーヘッドガスケット1自体の追随性・耐割れ性を向上することができる。
【0065】
したがって、追随性・耐割れ性が向上していない従来のシリンダーヘッドガスケットでは、シリンダーヘッドガスケットしての機能であるシール性を確保するために積層させたシリンダーヘッドガスケットを用いる場合であっても、シリンダーヘッドガスケット1自体の追随性・耐割れ性を向上することによって単層で同様のシール性を確保できる。よって、シリンダーヘッドガスケット1に要するコストの低減を図ることができる。
【0066】
また、高温化されたシリンダーブロック102と、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101との間の温度差を低減できるため、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101間の温度差に基づく熱歪によって大きくなるカムシャフト、シリンダー及びその他の摺動部材(図示省略)とのフリクションロスを低減させ、温度差に起因する燃費の悪化を防止することができる。
【0067】
また、高熱伝導性周縁部材10を、厚みTa以上の厚みTbで形成しているため、シリンダーヘッドガスケット1によるシール性を確保できる程度にシリンダーブロック102とシリンダーヘッド101とをシリンダーヘッドガスケット1を介して固定させた状態において、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101と高熱伝導性周縁部材10との密着性を向上することができる。したがって、高温化したシリンダーブロック102の熱をシリンダーヘッド101に確実に熱伝導することができる。
【0068】
また、エンジン100の起動、停止、駆動状態における加減速等に起因する振動等によって、シリンダーブロック102とシリンダーヘッド101とのシリンダーヘッドガスケット1を介した接合面において捩れ方向の力が作用した場合であっても、高熱伝導性周縁部材10を厚みTa以上の厚みTbで形成しているため、高熱伝導性周縁部材10によるシリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101への接触を確保することができる。よって、高温化したシリンダーブロック102、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101の間の温度差を低減することができる。
【0069】
したがって、シリンダーブロック102、シリンダーヘッドガスケット1及びシリンダーヘッド101の間の温度差による変位や応力を抑制し、シリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の間におけるシリンダーヘッドガスケット1によるシール性を確保することができる。
【0070】
また、シール性を向上するための高熱伝導性周縁部材10の両表面10a,10aを被覆する高熱伝導性シール膜20の厚みをシール膜21の厚みの半分以下の厚みで形成するとともに、耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高い、ミクロシール性を有する高熱伝導性微細粒子分散配合樹脂で構成したことにより、高熱伝導性周縁部材10を介したシリンダーブロック102及びシリンダーヘッド101の間の熱伝導性を被覆によって阻害することなく、温度差を低減できるとともに、ボア孔2の内周縁2aでのシール性を向上することができる。
【0071】
したがって、例えば、シリンダーボア110内部の爆発圧が高くなる過給器付きのエンジンであっても、シール性を確保しながら、高温化されたシリンダーブロック102からシリンダーヘッド101への熱伝導が促進され、シリンダーヘッドガスケット1内部における面内熱伝導量を低減することができる。これにより、基材1aに要求される耐熱性を低減でき、基材1aを構成する材料の選択肢が増え、基材1aに関する材料コストの低減を図ることができる。
【0072】
また、高熱伝導性周縁部材10によって、高温化されたシリンダーブロック102からシリンダーヘッド101への熱伝導が促進され(矢印A,B参照)、シリンダーヘッドガスケット1内部における面内熱伝導量が低減し、矢印Cに示す基材1aを介したシリンダーブロック102からシリンダーヘッド101への熱伝導量が同等以下となるため、シール膜21の耐久性を向上するとともに、通常のシリンダーヘッドガスケットの表面に形成する被覆に比べて耐熱性の低い材料を用いて被覆することができる。よって、シール膜21の選択肢が増え、シール膜21に関する材料コストの低減を図ることができる。
【0073】
また、ボア孔2の径外側にビード6を備え、シール膜21が、ビード6を跨ぐ態様で基材1aの表面におけるビード6近傍を被覆するため、確実なシール性を確保することができる。
【0074】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のガスケット本体は、基材1aに対応し、
以下同様に、
基材の厚みは、厚みTaに対応し、
高熱伝導性周縁部材の厚みは、厚みTbに対応し、
高熱伝導性被覆は、高熱伝導性シール膜20に対応し、
シール被覆は、シール膜21に対応し、
ビードは、ビード6,フルビード6a及びハーフビード6bに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0075】
例えば、高熱伝導性周縁部材10をボア孔2の周縁部における全周に配置したが、その一部にのみ配置してもよい。また、高熱伝導性周縁部材10はボア孔2の周縁部に溶接によって結合させたが、図5に示すように、ボア孔2の内周縁2aに形成したカシメ凸部2bに高熱伝導性周縁部材10をカシメて一体構成してもよい。このとき、基材1aと高熱伝導性周縁部材10との一体化は内部応力の生じない結合方法で結合することがより好ましい。
【0076】
さらにまた、ビード6は、フルビード6aやハーフビード6bだけでなく、クォータービードや台形ビード等のシリンダーヘッドガスケット1に要求される要求性能に応じた適宜のビード形状で構成してもよい。
【0077】
また、基材1aを複数積層させてシリンダーヘッドガスケット1を構成してもよい。この場合、上記効果に加え、積層された基材1aの厚みより高熱伝導性周縁部材10を厚く形成するため、従来の積層したシリンダーヘッドガスケットの場合に用いる、ボア孔2の内周面における接触圧を確保するためのシムを備えずとも同様の効果を得ることができる。
【0078】
さらにまた、上記説明では、ボア孔2を3つ配置したシリンダーヘッドガスケット1について説明したが、気筒数はこれに限定されず、2つ、4つ等のボア孔2を配したシリンダーヘッドガスケット1であってもよい。
【0079】
また、燃費向上を図るために軽量化されたアルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドで構成するエンジンに、上記シリンダーヘッドガスケット1を介装させてもよい。
【0080】
このように、熱伝導性の高いアルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの間に、通常のシリンダーヘッドガスケットを介装させると、熱伝導性の悪いシリンダーヘッドガスケットが、アルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの間の熱伝導性の阻害因子となり、アルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの間に温度差が生じ、上述したように、シリンダーブロック、シリンダーヘッドガスケット及びシリンダーヘッドの間に温度差による変位や応力が生じ、シール性が低減したり、熱歪によるカムシャフト等の摺動部材とのフリクションロスが大きくなり、燃費が悪化したりする。なお、アルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの場合、通常の鉄製のシリンダーブロックやシリンダーヘッドに比べて変形性が高く、温度差による熱歪みの影響は大きくなる。
【0081】
しかし、熱伝導性の高いアルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの間に、シリンダーヘッドガスケット1を介装させることで、基材1aより熱伝導性の高い銅合金製のリング状に形成され、ボア孔2の内周縁2aに配置された高熱伝導性周縁部材10によって、アルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの間の熱伝導性を向上させて、アルミ製シリンダーブロックとアルミ製シリンダーヘッドとの温度差を低減することができる。
【0082】
したがって、アルミ製シリンダーブロック及びアルミ製シリンダーヘッドの温度差による変位や応力に起因するシール性の低減や、熱歪によるフリクションロスの増大に起因する燃費の悪化等を防止することができる。
このように、シリンダーヘッドガスケット1は、シリンダーブロック及びシリンダーヘッドを構成する材質によらず上記効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…シリンダーヘッドガスケット
1a…基材
2…ボア孔
6…ビード
6a…フルビード
6b…ハーフビード
10…高熱伝導性周縁部材
20…高熱伝導性シール膜
21…シール膜
100…エンジン
101…シリンダーヘッド
102…シリンダーブロック
110…シリンダーボア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーブロック及びシリンダーヘッド間に介装し、前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドとの間のシール性を確保するともに、前記ガスケット本体の平面視内側に、シリンダーボアに対応するボア孔を備えたシリンダーヘッドガスケットであって、
前記ボア孔の周縁部における少なくとも一部に配置して前記ガスケット本体と一体構成するとともに、前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドの両方に当接する周縁部材を備え、
該周縁部材を、前記ガスケット本体を構成する基材より熱伝導性の高い高熱伝導性材製の高熱伝導性周縁部材で構成した
シリンダーヘッドガスケット。
【請求項2】
前記高熱伝導性周縁部材の厚みを、
前記基材の厚み以上の厚みで形成した
請求項1に記載のシリンダーヘッドガスケット。
【請求項3】
前記高熱伝導性周縁部材における前記シリンダーブロック及び前記シリンダーヘッドに対向する表面のうち少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、
耐摩耗性、耐熱性及び熱伝導性の高い高熱伝導性被覆を備えた
請求項1又は2に記載のシリンダーヘッドガスケット。
【請求項4】
前記ボア孔の径外側にビードを備えるとともに、
前記ガスケット本体の表面に、シール性を向上するためのシール被覆を備え、
該シール被覆が、前記ビードを跨いでビード近傍を被覆することを特徴とする
請求項1から3のうちいずれかに記載のシリンダーヘッドガスケット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のシリンダーヘッドガスケットを、前記シリンダーブロックと、前記シリンダーヘッドとの間に介装した
エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−144912(P2011−144912A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8327(P2010−8327)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(391061831)三和パッキング工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】