説明

シンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法

【課題】容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現できるシンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法を提供する。
【解決手段】シンチレータ2Aは、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊20を備える。結晶塊20の内部には、複数の改質領域21が形成されている。複数の改質領域21は、結晶塊20の内部にレーザ光を照射することにより形成され、結晶塊20の内部において周囲と異なる屈折率を有する。複数の改質領域21は、所定の第1の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、結晶塊20における第1の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器は、例えばPET(Positron Emission Tomography)装置に用いられる。PET装置に用いられる放射線検出器は、陽電子放出アイソトープ(RI線源)が投入された被検体内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生し互いに逆方向に飛行する一対のガンマ線を検出する。PET装置は、複数の放射線検出器を利用した同時計数法により一対のガンマ線を検出し、この同時計数情報を蓄積してヒストグラムを作成する。そして、PET装置は、このヒストグラムに基づいて、測定空間における一対のガンマ線の発生頻度の空間分布を表す画像を再構成する。このPET装置は核医学分野等で重要な役割を果たしており、これを用いて例えば生体機能や脳の高次機能の研究を行うことができる。
【0003】
このようなPET装置等において好適に用いられる放射線検出器として、シンチレータおよび光検出器を備えているものがある。シンチレータは、入射したガンマ線を吸収してシンチレーション光を発生する。光検出器は、シンチレータ表面に取り付けられ、シンチレーション光を検出する。このような構成により、シンチレータにおけるガンマ線入射位置およびガンマ線量が特定される。
【0004】
特許文献1には、シンチレータおよび光検出器を備える放射線検出器が開示されている。この文献に記載されたシンチレータは、シンチレーション光の進行方向を制限する光導体領域を内部に有している。このような光導体領域の例としては、実質的に異なる屈折率の媒体間の界面、反射フィルム、気泡、欠陥、結晶粒界のような結晶欠陥などが挙げられている。
【0005】
また、特許文献2には、フェムト秒パルスレーザ光による多光子吸収を用いて、シリコン基板、シリカガラス、サファイア等の加工対象物の内部に、屈折率が周囲と異なるアモルファス構造の改質領域を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特表2007−532864号公報
【特許文献2】特開2005−293735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、PET等で用いられている放射線検出器のシンチレータは、複数のシンチレータセルを2次元的あるいは3次元的に配列したシンチレータアレイによって実現されている。このようなシンチレータアレイにおいて位置分解能を向上するには個々のシンチレータセルを小さくする必要があり、近年ではシンチレータセルのピッチが数ミリメートルないしサブミリメートル程度であることが求められている。しかし、シンチレータセルを小さくするほどシンチレータアレイの組み立てが困難となり、製造期間の長期化や製造コストの増大を招いてしまう。また、個々のシンチレータセルを機械的に加工する必要があるので、シンチレータセルの小型化には限界がある。したがって、放射線検出器の位置分解能ひいてはPETの解像度の向上が抑制されてしまう。
【0007】
なお、特許文献1に記載された技術では、光導体領域が放射線に対して不感領域となってしまい、シンチレータの放射線検出感度が低下してしまう。また、特許文献2に記載された技術は光メモリ素子を生産する方法であって、放射線検出器とは異なる。
【0008】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現できるシンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明によるシンチレータは、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される複数の光検出器または位置検出型光検出器にシンチレーション光を提供するために用いられるシンチレータであって、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成され、結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を有し、複数の改質領域は、所定の第1の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、結晶塊における第1の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されていることを特徴とする。
【0010】
上記したシンチレータにおいては、周囲と異なる屈折率を有し細長形状を呈する複数の改質領域が、その長手方向(第1の方向)と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されているので、第1の方向と交差する方向へのシンチレーション光の移動が複数の改質領域によって妨げられる。これにより、シンチレーション光を第1の方向に沿って進行させることができるので、第1の方向と交差する面内においてシンチレーション光の位置分解能が得られる。したがって、例えば第1の方向と交差する結晶塊の端面に複数の光検出器または位置検出型光検出器を配置すれば、入射位置に応じて複数の光検出器のそれぞれにまたは位置検出型光検出器にシンチレーション光を好適に配分することができる。
【0011】
そして、このような複数の改質領域をレーザ光を照射して形成することにより、例えば太さ数μmといった極めて細い改質領域を結晶塊内部の任意の位置に高密度に形成することができる。したがって、上記したシンチレータによれば、複数のシンチレータセルを2次元的あるいは3次元的に配列する従来の方法と比較して、高い位置分解能を実現することができる。また、上記したシンチレータによれば、結晶塊にレーザ光を照射することにより複数の改質領域を形成するので、複数の改質領域を形成する際に機械的な加工が必要なく、複数のシンチレータセルを配列する従来の方法と比較して当該シンチレータの製造が格段に容易となる。
【0012】
また、上記シンチレータにおいては、複数の改質領域のそれぞれが、第1の方向における結晶塊の一端面と他端面との間で連続して延在してもよい。或いは、複数の改質領域のそれぞれが、第1の方向における結晶塊の一端面と他端面との間で断続的に形成されていてもよい。複数の改質領域のそれぞれがこれらのうち何れの形態を有していても、上述した本発明の効果を好適に得ることができる。
【0013】
また、上記シンチレータにおいては、複数の改質領域のそれぞれが、第1の方向から見て格子点状に配列されていてもよい。或いは、シンチレータは、複数の改質領域のそれぞれが、第1の方向から見て不規則に分散して配置されていてもよい。複数の改質領域のそれぞれがこれらのうち何れの形態を有していても、上述した本発明の効果を好適に得ることができる。
【0014】
また、上記シンチレータは、複数の改質領域とは別に、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成され、結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の第2の改質領域を更に有し、複数の第2の改質領域は、第1の方向と交差する所定の第2の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、結晶塊における第2の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されていることを特徴としてもよい。このような構成により、第2の方向と交差する面内においてもシンチレーション光の位置分解能が得られるので、例えば第2の方向と交差する結晶塊の端面に複数の光検出器または位置検出型光検出器を更に配置すれば、これらの光検出器に対しても入射位置に応じてシンチレーション光を好適に配分することができる。
【0015】
また、上記シンチレータは、複数の改質領域のそれぞれが、結晶塊の内部において発生したシンチレーション光がその発生位置に応じた配分比率で複数の光検出器それぞれにまたは位置検出型光検出器に配分されるように配置されていることを特徴としてもよい。これにより、シンチレータへの放射線の入射位置を容易に算出することができる。
【0016】
また、上記シンチレータは、複数の改質領域が、屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つであることを特徴としてもよい。これにより、レーザ光の照射により形成され周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を好適に実現できる。
【0017】
また、本発明による放射線検出器は、上記した何れかのシンチレータと、第1の方向における結晶塊の端面と光学的に結合された複数の光検出器または位置検出型光検出器とを備えることを特徴とする。この放射線検出器は上記シンチレータを備えるので、容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現できる。
【0018】
また、本発明によるシンチレータの製造方法は、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される複数の光検出器または位置検出型光検出器にシンチレーション光を提供するために用いられるシンチレータを製造する方法であって、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより、結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を形成する工程を含み、上記工程において、所定の第1の方向を長手方向とする細長形状を各々呈するように、且つ結晶塊における第1の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されるように複数の改質領域を形成することを特徴とする。
【0019】
上記したシンチレータの製造方法では、周囲と異なる屈折率を有し細長形状を呈する複数の改質領域を、その長手方向(第1の方向)と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置するので、当該方法により製造されるシンチレータにおいて、第1の方向と交差する方向へのシンチレーション光の移動が複数の改質領域によって妨げられる。これにより、シンチレーション光を第1の方向に沿って進行させることができるので、第1の方向と交差する面内においてシンチレーション光の位置分解能が得られる。したがって、例えば第1の方向と交差する結晶塊の端面に複数の光検出器または位置検出型光検出器を配置すれば、入射位置に応じて複数の光検出器のそれぞれにまたは位置検出型光検出器にシンチレーション光を好適に配分することができる。
【0020】
そして、このような複数の改質領域をレーザ光を照射して形成することにより、例えば太さ数μmといった極めて細い改質領域を結晶塊内部の任意の位置に高密度に形成することができる。したがって、上記したシンチレータの製造方法によれば、複数のシンチレータセルを2次元的あるいは3次元的に配列する従来の方法と比較して、高い位置分解能を実現することができる。また、上記したシンチレータの製造方法によれば、結晶塊にレーザ光を照射することにより複数の改質領域を形成するので、複数の改質領域を形成する際に機械的な加工が必要なく、複数のシンチレータセルを配列する従来の方法と比較して当該シンチレータの製造が格段に容易となる。
【0021】
また、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域のそれぞれを、第1の方向における結晶塊の一端面と他端面との間で連続して延在するように形成することを特徴としてもよい。或いは、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域のそれぞれを、第1の方向における結晶塊の一端面と他端面との間で断続的に形成することを特徴としてもよい。複数の改質領域のそれぞれをこれらのうち何れの形態として形成しても、上述した本発明の効果を好適に得ることができる。
【0022】
また、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域のそれぞれを、第1の方向から見て格子点状に配列させることを特徴としてもよい。或いは、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域のそれぞれを、第1の方向から見て不規則に分散して配置させることを特徴としてもよい。複数の改質領域のそれぞれをこれらのうち何れの形態として形成しても、上述した本発明の効果を好適に得ることができる。
【0023】
また、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域とは別に、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより、結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の第2の改質領域を更に形成するとともに、複数の第2の改質領域を、第1の方向と交差する所定の第2の方向を長手方向とする細長形状を各々呈するように、且つ結晶塊における第2の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されるように形成することを特徴としてもよい。このような方法により製造されるシンチレータにおいては、第2の方向と交差する面内においてもシンチレーション光の位置分解能が得られるので、例えば第2の方向と交差する結晶塊の端面に複数の光検出器または位置検出型光検出器を更に配置すれば、これらの光検出器に対しても入射位置に応じてシンチレーション光を好適に配分することができる。
【0024】
また、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域のそれぞれを、結晶塊の内部において発生したシンチレーション光がその発生位置に応じた配分比率で複数の光検出器それぞれにまたは位置検出型光検出器に配分されるように配置することを特徴としてもよい。これにより、シンチレータへの放射線の入射位置を容易に算出することができる。
【0025】
また、上記したシンチレータの製造方法は、複数の改質領域が、屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つであることを特徴としてもよい。これにより、レーザ光の照射により形成され周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を好適に実現できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現可能なシンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるシンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下に示す図において、図示の都合上、シンチレータ結晶塊の内部に形成される改質領域を実線で描いている。
【0028】
まず、本発明に係るシンチレータ、及びこのシンチレータを備える放射線検出器の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る放射線検出器1の外観を示す斜視図である。また、図2は、放射線検出器1が備えるシンチレータ2Aの内部構成を示す斜視図である。なお、理解を容易にするため、図1及び図2にはXYZ直交座標系が示されている。
【0029】
本実施形態の放射線検出器1は、シンチレータ2Aの他、シンチレータ2Aの表面と光学的に結合される複数の光検出器3を備えている。
【0030】
シンチレータ2Aは、複数の光検出器3にシンチレーション光を提供するための部材である。シンチレータ2Aは、ガンマ線などの放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊(シンチレータ結晶)20により構成されている。この結晶塊20は、例えば多面体状や球形状といった様々な外観を有することができるが、本実施形態の結晶塊20は略直方体状の外観を有しており、XY平面に沿った一対の矩形の端面20a,20b(図2を参照)と、該端面20a,20bと直交しYZ平面に沿った一対の矩形の側面20c,20dと、端面20a,20b及び側面20c,20dと直交しZX平面に沿った一対の矩形の側面20e,20fとを有している。なお、結晶塊20の寸法は、例えば一辺10mmである。
【0031】
シンチレータ2Aは、結晶塊20に入射した放射線を吸収し、その線量に応じた強さのシンチレーション光を発生する。結晶塊20は、例えばBiGe12(BGO)、CeがドープされたLuSiO(LSO)、Lu2(1−X)2XSiO(LYSO)、GdSiO(GSO)、PrがドープされたLuAG(LuAl12)などの結晶によって好適に構成される。
【0032】
複数の光検出器3は、例えば光電子増倍管やアバランシェフォトダイオード(APD:Avalance Photo Diode)、或いはMPPC(Multi-Pixel PhotonCounter)といった半導体光検出器により好適に構成される。なお、MPPCは、複数のガイガーモードAPDのピクセルから成るフォトンカウンティングデバイスである。本実施形態の放射線検出器1は32個の光検出器3を備えており、そのうち16個の光検出器3は結晶塊20の端面20aと対向するように結晶塊20上に取り付けられており、他の16個の光検出器3は結晶塊20の端面20bと対向するように結晶塊20上に取り付けられている。これにより、16個の光検出器3は結晶塊20の端面20aと光学的に結合され、他の16個の光検出器3は結晶塊20の端面20bと光学的に結合されている。
【0033】
より具体的には、結晶塊20の端面20a上に取り付けられた16個の光検出器3は、端面20aを縦4列、横4列の合計16箇所の正方形領域に分割した各々の領域上にそれぞれ配置されており、1つの二次元半導体光検出器アレイを構成している。同様に、結晶塊20の端面20b上に取り付けられた16個の光検出器3もまた、端面20bを縦4列、横4列の合計16箇所の正方形領域に分割した各々の領域上にそれぞれ配置されており、1つの2次元半導体光検出器アレイを構成している。結晶塊20の内部において発生したシンチレーション光は、その発生位置に応じて各光検出器3へ配分され、各光検出器3からの出力比に基づいて、シンチレーション光の発生位置が特定される。
【0034】
なお、結晶塊20の端面20aに取り付けられた16個の光検出器と、対向する端面20bに取り付けられた他の16個の光検出器に代えて、端面20a及び20bにそれぞれ単一の位置検出型光検出器を取り付けて用いることも可能である。位置検出型光検出器とは、受光面上の光入射位置に応じた電気信号を出力する素子である。
【0035】
ここで、本実施形態のシンチレータ2Aについて更に説明する。図2に示されるように、シンチレータ2Aの結晶塊20の内部には、複数の改質領域21が形成されている。複数の改質領域21は、結晶塊20の内部において周囲と異なる屈折率を有しており、例えば屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つの領域によって構成されることができる。これらの領域は、結晶塊20の内部にレーザ光を照射することにより好適に形成される。
【0036】
各改質領域21は、例えば太さ数マイクロメートル程度(例えば10μm)の細長形状(ストライプ状)の領域である。各改質領域21は、結晶塊20の内部において所定の第1の方向(本実施形態ではZ軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向(すなわち、X成分及びY成分から成るベクトルにより表される方向)に互いに間隔をあけて規則的に配置されている。間隔は、例えば10μmである。
【0037】
例えば、本実施形態の改質領域21は、その一端及び他端が、第1の方向(Z軸方向)における結晶塊20の一端面20a及び他端面20bにそれぞれ位置しており、この両端面20a及び20bの間で連続して延在している。また、複数の改質領域21のそれぞれは、第1の方向(Z軸方向)から見て格子点状に配列されている。換言すれば、結晶塊20をXY平面に沿って切断した場合に、複数の改質領域21の断面が、X軸方向およびY軸方向に沿って二次元状に周期的に並んでいる。
【0038】
図3は、この放射線検出器1にガンマ線等の放射線Rが入射した様子を示す斜視図である。放射線Rがシンチレータ2A(結晶塊20)に入射すると、その放射線Rの強度に応じたシンチレーション光SCが結晶塊20の内部で発生する。シンチレーション光SCは該発生位置から全方向へ進行しようとするが、複数の改質領域21によってシンチレーション光SCが散乱することによりその直進成分が抑えられ、シンチレーション光SCの拡散範囲が制限される。上述したように、複数の改質領域21はその長手方向(Z軸方向)と交差する二次元方向(X軸方向、Y軸方向)に互いに間隔をあけて配置されているので、XY平面内でのシンチレーション光SCの移動が複数の改質領域21によって妨げられる。
【0039】
これにより、シンチレーション光SCがZ軸方向に沿って進行することとなり、XY平面内においてシンチレーション光SCの位置分解能が得られる。したがって、本実施形態のように、Z軸方向と交差する結晶塊20の端面(すなわち端面20a,20b)に複数の光検出器3(または位置検出型光検出器)を配置することによって、入射位置に応じて複数の光検出器3のそれぞれに(または位置検出型光検出器の受光面に)シンチレーション光SCが好適に配分される。そして、一方の端面20a上に配置された光検出器3同士の出力比、または他方の端面20b上に配置された光検出器3同士の出力比から(或いは、位置検出型光検出器からの出力に基づいて)XY平面内での重心位置を求め、一方の端面20a上に配置された光検出器3と他方の端面20b上に配置された光検出器3との出力比(或いは、一方の端面20a上に配置された位置検出型光検出器と他方の端面20b上に配置された位置検出型光検出器との出力比)からZ軸方向の重心位置を求めることによって、放射線Rの入射位置を三次元的に特定することができる。
【0040】
ここで、複数の改質領域21の好適な配置としては、例えば結晶塊20において発生するシンチレーション光SCが、第1の方向(Z軸方向)と交差する面内(XY平面内)における発生位置に応じた配分比率で各光検出器3に配分されるように、各改質領域21が配置されているとよい。なお、発生位置に応じた配分比率で配分されるとは、例えばシンチレーション光SCの発生により各光検出器3へ入射する光の強度が、端面20a側から見たシンチレーション光SCの発生位置と各光検出器3との距離の関数となるようなことを意味する。
【0041】
ここで、シンチレータ2Aにおける改質領域21の配置パターン(密度分布)の決定方法について説明する。改質領域21の配置パターンを決定する際には、シンチレータ2A内のどの位置でシンチレーション光SCが発生した場合であっても、シンチレーション光SCの発生位置を特定する際の解像力が最大となる(すなわち分解能が最小となる)ような配分比率でもって、シンチレーション光SCが各光検出器3へ配分されることが望ましい。
【0042】
例えば、シンチレータの或る一面に2個の光検出器a,bが結合されている場合、一次元の位置演算(X方向)における各光検出器a,bの最適応答関数Fa及びFbは、以下の式により与えられる。
Fa(x)=Ksin2(αx)
Fb(x)=Kcos2(αx)
なお、上式においてKは定数、αはπ/(2L)、Lはシンチレータ幅である。
【0043】
また、上式を2次元に拡張して4個の光検出器を接合した場合、各光検出器a,b,c,及びdの最適応答関数Fa,Fb,Fc,及びFdは、以下の式により与えられる。
Fa(x,y)=Ksin2(αx)sin2(βy)
Fb(x,y)=Ksin2(αx)cos2(βy)
Fc(x,y)=Kcos2(αx)sin2(βy)
Fd(x,y)=Kcos2(αx)cos2(βy)
【0044】
シンチレータ2Aの全体において高い解像力(分解能)を得るためには、上式のような光検出器の応答(光配分)が実現されるように、シンチレータ2A内に改質領域21の密度分布パターンを形成するとよい。なお、このような密度分布パターンを形成する為には、例えば光拡散イメージングで用いられている光拡散方程式を逐次近似法により解く手法を適用することができる。
【0045】
図4は、複数の改質領域21を含むシンチレータ2Aを製造する一工程を説明するための図であり、この工程に使用されるレーザ加工装置100の構成を示している。
【0046】
レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの光路上に設けられたシャッタ103と、レーザ光Lの反射機能を有し且つレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー104と、ダイクロイックミラー104で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される結晶塊20が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。
【0047】
なお、Z軸方向は、結晶塊20に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。したがって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、結晶塊20の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX軸方向、Y軸方向への各移動は、結晶塊20をX軸ステージ109、Y軸ステージ111によりX軸方向、Y軸方向に移動させることによりそれぞれ行う。
【0048】
レーザ光源101は超短パルスレーザ光を発生するYb:KGWレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Yb:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。なお、結晶塊20の加工にはパルスレーザ光を用いても良く、連続波レーザ光を用いても良いが、パルスレーザ光が好適である。
【0049】
パルスレーザ光としてはフェムト秒パルスレーザ光やピコ秒パルスレーザ光等が挙げられる。フェムト秒やピコ秒のレーザパルスは、レーザエネルギの吸収速度が熱拡散速度より早いため、被加工部位の周辺への熱による影響が少なく、また高い電場密度を容易に得ることができるので、クラックを生じさせない屈折率変化などの改質領域21を好適に形成できる。なお、ナノ秒レーザパルスは、加工閾値以上の電場密度を得るためにはフェムト秒やピコ秒のレーザパルスの数倍の照射エネルギを必要とし、またレーザエネルギが被加工材料に蓄熱され易いので、屈折率変化などの改質領域21の形成には更なる工夫が必要となる。
【0050】
レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された結晶塊20を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー104及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119とを備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー104が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー104及び集光用レンズ105を透過し、結晶塊20の被加工部位を照明する。
【0051】
レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー104及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置されたCCDカメラ121及び結像レンズ123を備える。被加工部位を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー104、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されてCCDカメラ121で撮像され、撮像データとなる。
【0052】
レーザ加工装置100はさらに、CCDカメラ121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129とを備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点を結晶塊20上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が結晶塊20に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして結晶塊20の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
【0053】
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、シャッタ103、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
【0054】
続いて、本実施形態に係るシンチレータ2Aの製造方法について説明する。図5は、上述したレーザ加工装置100を用いてシンチレータ2Aの結晶塊20を製造する方法を示すフローチャートである。
【0055】
まず、結晶塊20をレーザ加工装置100の載置台107上に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて結晶塊20を照明する。照明された結晶塊20の表面(例えば端面20a)をCCDカメラ121により撮像する。CCDカメラ121により撮像された撮像データは、撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて、撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が結晶塊20の表面に位置するような焦点データを演算する。この焦点データは、ステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向に移動させる。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が結晶塊20の表面に位置する(S101)。なお、撮像データ処理部125は、撮像データに基づいて結晶塊20の表面の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に結晶塊20の表面の拡大画像が表示される。
【0056】
続いて、結晶塊20の内部に改質領域21を形成するためのレーザ光Lの集光点が、結晶塊20の表面または内部における一つの改質領域21の加工初期位置となるよう、X軸ステージ109、Y軸ステージ111及びZ軸ステージ113により結晶塊20を移動させる(S103)。この状態でシャッタ103を開いてレーザ光Lを照射し、該集光部分におけるシンチレータ材料を改質(アモルファス化)させることによって、結晶塊20の内部に周囲と異なる屈折率を有する領域を形成する。そして、このような領域を形成しながら、Z軸ステージ113により結晶塊20をZ軸方向に一定速度で移動させる(S105)。これにより、Z軸方向を長手方向とする細長形状(ストライプ状)の改質領域21が形成される(S107)。
【0057】
この改質領域21は、例えば屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つの領域である。また、この改質領域21は、その一端及び他端が、Z軸方向における結晶塊20の一端面20a及び他端面20bにそれぞれ位置するように、両端面20a及び20bの間で連続して形成されるとよい。その後、レーザ光Lのシャッタ103を閉じる(S109)。
【0058】
続いて、他に形成すべき改質領域21がある場合(S111:Yes)、レーザ光Lの集光点が結晶塊20の内部における当該改質領域21の加工初期位置となるよう、X軸ステージ109、Y軸ステージ111及びZ軸ステージ113により結晶塊20を移動させる。例えば、先に形成した改質領域21に対して所定のピッチだけX軸方向またはY軸方向に結晶塊20を移動させるとよい(S113)。
【0059】
以降、上述したステップS103ないしS113を繰り返すことによって、複数の改質領域21を形成することができる。このとき、各改質領域21を、結晶塊20の内部においてその長手方向(Z軸方向)と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて規則的に配置されるように形成するとよい。例えば、複数の改質領域21のそれぞれが、Z軸方向から見て格子点状に配列されるように形成するとよい。
【0060】
なお、複数の改質領域21の全てを形成し終えると(S111:No)、この工程を終了する。
【0061】
以上に説明した本実施形態のシンチレータ2A及びその製造方法、並びに該シンチレータ2Aを備える放射線検出器1においては、上述したように複数の改質領域21をレーザ光Lを照射して形成することにより、例えば太さ数μmといった極めて細い改質領域21を結晶塊20内部の任意の位置に高密度に形成することができ、しかもシンチレータ2Aの内部にクラックを発生させることなく屈折率変化のみを誘起させることができる。したがって、複数のシンチレータセルを2次元的あるいは3次元的に配列する従来の方法と比較して、高い位置分解能を実現することができる。また、結晶塊20にレーザ光Lを照射することにより複数の改質領域21を形成するので、複数の改質領域21を形成する際に機械的な加工が必要なく、複数のシンチレータセルを配列する従来の方法と比較して当該シンチレータ2Aの製造が格段に容易となる。したがって、製造コストの低減および製造期間の短縮が可能となる。なお、レーザ光Lにより改質(アモルファス化)された領域は、アニール処理により加工前の状態に戻すことが可能である。
【0062】
また、例えば前述した特許文献1に記載された光導体は放射線に対して不感領域となるが、本実施形態における改質領域21はレーザ光Lにより形成されるので極めて微小(直径数μm程度)であり、且つシンチレーション光発生機能は失われないので、不感領域が全く無いシンチレータを実現できる。
【0063】
また、本実施形態のように、複数の改質領域21のそれぞれは、第1の方向(Z軸方向)における結晶塊20の一端面20aと他端面20bとの間で連続して延在するとよい。複数の改質領域21のそれぞれが例えばこのような形態を有することにより、上述した効果を好適に得ることができる。
【0064】
また、本実施形態のように、複数の改質領域21のそれぞれは、第1の方向(Z軸方向)から見て格子点状に配列されているとよい。複数の改質領域21のそれぞれが例えばこのような形態を有することにより、上述した効果を好適に得ることができる。
【0065】
また、本実施形態のように、複数の改質領域21のそれぞれは、結晶塊20の内部において発生したシンチレーション光SCがその発生位置に応じた配分比率で複数の光検出器3それぞれに(または位置検出型光検出器に)配分されるように配置されていることが好ましい。これにより、例えば前述した最適応答関数Fa,Fb,Fc,及びFdのように、光検出器3の任意の幾何学的配置に対して最適な光応答関数を作成できるので、シンチレータ2Aへの放射線の入射位置を容易に算出することができる。
【0066】
また、本実施形態のように、複数の改質領域21は、屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つであることが好ましい。これにより、レーザ光Lの照射により形成され周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域21を好適に実現できる。
【0067】
[実施例]
本発明者は、上述した実施形態に係るシンチレータ2Aを実際に作製した。作製時の条件は以下の通りである。
・レーザ光源…Yb:KGWレーザ
・レーザ光の波長…1030[nm]
・レーザ光のパルス幅…700[fs]
・レーザ光の繰り返し周波数…1[kHz]
・レーザ光の照射エネルギー…225[μJ]
・改質領域形成時のZ軸ステージ移動速度…1[mm/s]
・集光用レンズ…f=9[mm]、NA=0.4
【0068】
図6は、上記条件および図5に示した製造方法に従い、一辺10mmの立方体状のLSOから成る結晶塊20にストライプ状の改質領域21を形成した様子を示す断面写真である。ここでは、長さ10mm、太さ(直径)10μm程度の改質領域21を間隔10μmで形成している。この断面写真に示すように、上記実施形態に係るシンチレータ2A及びその製造方法によれば、極めて細い改質領域21を結晶塊20内部の任意の位置に高密度に形成することができる。
【0069】
[第1の変形例]
図7は、上記実施形態の変形例として、シンチレータ2Bの内部構成を示す斜視図である。同図に示されるシンチレータ2Bは結晶塊30により構成されており、図2に示した結晶塊20の端面20a,20b及び側面20c〜20fと同様の形態を有する端面30a,30b及び側面30c〜30fを有している。この結晶塊30は、上記実施形態における結晶塊20と同じ材料によって好適に構成される。
【0070】
シンチレータ2Bの結晶塊30の内部には、複数の改質領域31が形成されている。複数の改質領域31は、結晶塊30の内部において周囲と異なる屈折率を有しており、上記実施形態における改質領域21と同質の領域である。改質領域31は、結晶塊30の内部にレーザ光を照射することにより好適に形成される。
【0071】
各改質領域31は、例えば太さ数マイクロメートル程度の細長形状の領域である。各改質領域31は、結晶塊30の内部において所定の第1の方向(本変形例ではZ軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて規則的に配置されている。
【0072】
また、本変形例では、複数の改質領域31のそれぞれが、その長手方向(Z軸方向)における結晶塊30の一端面30aと他端面30bとの間で断続的に形成されている。換言すれば、一端面30aと他端面30bとに亘りZ軸に沿った所定の軸線上に、複数(図7では3つ)の改質領域31が間隔をあけて並んで形成されている。
【0073】
なお、上記実施形態と同様に本変形例においても、複数の改質領域31のそれぞれは、Z軸方向から見ると格子点状に配列されている。
【0074】
上記実施形態に係る放射線検出器1は、シンチレータ2Aに代えて、本変形例のシンチレータ2Bを備えても良い。本変形例のように、複数の改質領域31のそれぞれが、その長手方向(Z軸方向)における結晶塊30の一端面30aと他端面30bとの間で断続的に形成されている場合でも、上記実施形態と同様の効果を好適に得ることができる。加えて、本変形例によれば、シンチレーション光の一部が改質領域31に沿った(側面30c,30d,30e,30f)に到達するので、改質領域31の長手方向(Z軸方向)と交差する面(XY平面)内での位置分解能だけでなく、改質領域31に沿った面(YZ平面及びZX平面)での位置分解能、すなわち三次元位置分解能を高精度で得ることができる。
【0075】
[第2の変形例]
図8は、上記実施形態の変形例として、シンチレータ2Cの内部構成を示す斜視図である。同図に示されるシンチレータ2Cは結晶塊40により構成されており、図2に示した結晶塊20の端面20a,20b及び側面20c〜20fと同様の形態を有する端面40a,40b及び側面40c〜40fを有している。この結晶塊40は、上記実施形態における結晶塊20と同じ材料によって好適に構成される。
【0076】
シンチレータ2Cの結晶塊40の内部には、複数の改質領域41が形成されている。複数の改質領域41は、結晶塊40の内部において周囲と異なる屈折率を有しており、上記実施形態における改質領域21と同質の領域である。改質領域41は、結晶塊40の内部にレーザ光を照射することにより好適に形成される。
【0077】
各改質領域41は、例えば太さ数マイクロメートル程度の細長形状の領域である。各改質領域41は、結晶塊40の内部において所定の第1の方向(本変形例ではZ軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されている。
【0078】
また、本変形例では、Y方向に隣接する改質領域41のそれぞれは、X方向に互いにずらして配置されている。なお、上記第1変形例と同様に、本変形例においても、複数の改質領域41のそれぞれは、その長手方向(Z軸方向)における結晶塊40の一端面40aと他端面40bとの間で断続的に形成されている。
【0079】
上記実施形態に係る放射線検出器1は、シンチレータ2Aに代えて、本変形例のシンチレータ2Cを備えても良い。本変形例のように、複数の改質領域41のそれぞれが互いにずらして配置されることにより、改質領域41をより高密度に形成することが可能であり、改質領域41の長手方向(Z軸方向)と交差する面(XY平面)内での位置分解能をより高めることができる。
【0080】
[第3の変形例]
図9は、上記実施形態の変形例として、シンチレータ2Dの内部構成を示す斜視図である。同図に示されるシンチレータ2Dは結晶塊50によって構成されており、図2に示した結晶塊20の端面20a,20b及び側面20c〜20fと同様の形態を有する端面50a,50b及び側面50c〜50fを有している。この結晶塊50は、上記実施形態における結晶塊20と同じ材料によって好適に構成される。
【0081】
シンチレータ2Cの結晶塊50の内部には、複数の改質領域51が形成されている。複数の改質領域51は、結晶塊50の内部において周囲と異なる屈折率を有しており、上記実施形態における改質領域21と同質の領域である。改質領域51は、結晶塊50の内部にレーザ光を照射することにより好適に形成される。
【0082】
各改質領域51は、例えば太さ数マイクロメートル程度の細長形状の領域である。各改質領域51は、結晶塊50の内部において所定の第1の方向(本変形例ではZ軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されている。
【0083】
また、本変形例では、複数の改質領域51のそれぞれは、Z軸方向から見て不規則に分散して配置されており、また、X軸方向およびY軸方向から見ても揃っておらず、各改質領域51が任意の位置にランダムに配置されている。
【0084】
上記実施形態に係る放射線検出器1は、シンチレータ2Aに代えて、本変形例のシンチレータ2Dを備えても良い。本変形例のように、複数の改質領域51のそれぞれが不規則に分散して配置される場合、シンチレーション光が光検出器3へ最適な割合で配分されるように各改質領域51を配置することが可能となり、より少ない光検出器3でもって放射線の入射位置を検出できる。
【0085】
[第4の変形例]
図10は、上記実施形態の変形例として、シンチレータ2Eの内部構成を示す斜視図である。同図に示されるシンチレータ2Eは結晶塊60によって構成されており、図2に示した結晶塊20の端面20a,20b及び側面20c〜20fと同様の形態を有する端面60a,60b及び側面60c〜60fを有している。この結晶塊60は、上記実施形態における結晶塊20と同じ材料によって好適に構成される。
【0086】
シンチレータ2Bの結晶塊60の内部には、複数の改質領域61と、該複数の改質領域61とは別に複数の改質領域62が形成されている。なお、複数の改質領域62は、本変形例における第2の改質領域である。複数の改質領域61,62は、結晶塊60の内部において周囲と異なる屈折率を有しており、上記実施形態における改質領域21と同質の領域である。改質領域61,62は、結晶塊60の内部にレーザ光を照射することにより好適に形成される。
【0087】
各改質領域61,62は、例えば太さ数マイクロメートル程度の細長形状の領域である。改質領域61は、結晶塊60の内部において所定の第1の方向(本変形例ではZ軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて規則的に配置されている。また、改質領域62は、結晶塊60の内部において上記第1の方向と交差する所定の第2の方向(本変形例ではX軸方向)を長手方向として、その長手方向と交差する二次元方向(すなわち、Y成分及びZ成分から成るベクトルにより表される方向)に互いに間隔をあけて規則的に配置されている。
【0088】
より具体的には、複数の改質領域61は、その一端及び他端が、Z軸方向における結晶塊60の一端面60a及び他端面60bにそれぞれ位置するように、両端面60a及び60bの間で連続して形成されている。また、改質領域62は、その一端及び他端が、X軸方向における結晶塊60の一端面(側面)60c及び他端面(側面)60dにそれぞれ位置するように、両端面(側面)60c及び60dの間で連続して形成されている。そして、複数の改質領域61をX軸方向に並設して成る複数の第1の改質領域群と、複数の改質領域62をZ軸方向に並設して成る複数の第2の改質領域群とが、Y軸方向に間隔をあけて交互に積層されている。
【0089】
なお、上記実施形態と同様に本変形例においても、複数の改質領域61のそれぞれをZ軸方向から見ると格子点状に配列されており、複数の改質領域62のそれぞれをX軸方向から見ると格子点状に配列されている。
【0090】
上記実施形態に係る放射線検出器1は、シンチレータ2Aに代えて、本変形例のシンチレータ2Eを備えても良い。本変形例のように、複数の改質領域61と長手方向が交差する複数の第2の改質領域62を更に形成することで、第1変形例(図7を参照)と較べてより高い三次元位置分解能を得ることができる。
【0091】
本発明によるシンチレータ、放射線検出器、およびシンチレータの製造方法は、上記した実施形態および各変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および各変形例ではシンチレータの結晶塊の形状として立方体を例示したが、本発明における結晶塊の形状はこれらに限られるものではなく、例えばこれら以外の多面体や、曲面を有する球などの形状も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】一実施形態に係る放射線検出器1の外観を示す斜視図である。
【図2】放射線検出器1が備えるシンチレータ2Aの内部構成を示す斜視図である。
【図3】放射線検出器1にガンマ線等の放射線Rが入射した様子を示す斜視図である。
【図4】複数の改質領域21を含むシンチレータ2Aを製造する一工程を説明するための図であり、この工程に使用されるレーザ加工装置100の構成を示している。
【図5】レーザ加工装置100を用いてシンチレータ2Aの結晶塊20を製造する方法を示すフローチャートである。
【図6】一辺10mmの立方体状のLSOから成る結晶塊20にストライプ状の改質領域21を形成した様子を示す断面写真である。
【図7】第1変形例として、シンチレータ2Bの内部構成を示す斜視図である。
【図8】第2変形例として、シンチレータ2Cの内部構成を示す斜視図である。
【図9】第3変形例として、シンチレータ2Dの内部構成を示す斜視図である。
【図10】第4変形例として、シンチレータ2Eの内部構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
1…放射線検出器、2A〜2E…シンチレータ、3…光検出器、20,30,40,50,60…結晶塊、20a,20b…端面、20c〜20f…側面、21,31,41,51,61…改質領域、62…第2の改質領域、100…レーザ加工装置、101…レーザ光源、102…レーザ光源制御部、103…シャッタ、104…ダイクロイックミラー、105…集光用レンズ、107…載置台、109…X軸ステージ、111…Y軸ステージ、113…Z軸ステージ、115…ステージ制御部、117…観察用光源、119…ビームスプリッタ、121…CCDカメラ、123…結像レンズ、125…撮像データ処理部、127…全体制御部、129…モニタ、P…集光点、R…放射線、SC…シンチレーション光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される複数の光検出器または位置検出型光検出器に前記シンチレーション光を提供するために用いられるシンチレータであって、
前記結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成され、前記結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を有し、
前記複数の改質領域は、所定の第1の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、前記結晶塊における前記第1の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されていることを特徴とする、シンチレータ。
【請求項2】
前記複数の改質領域のそれぞれが、前記第1の方向における前記結晶塊の一端面と他端面との間で連続して延在することを特徴とする、請求項1に記載のシンチレータ。
【請求項3】
前記複数の改質領域のそれぞれが、前記第1の方向における前記結晶塊の一端面と他端面との間で断続的に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のシンチレータ。
【請求項4】
前記複数の改質領域のそれぞれが、前記第1の方向から見て格子点状に配列されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシンチレータ。
【請求項5】
前記複数の改質領域のそれぞれが、前記第1の方向から見て不規則に分散して配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシンチレータ。
【請求項6】
前記複数の改質領域とは別に、前記結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成され、前記結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の第2の改質領域を更に有し、
前記複数の第2の改質領域は、前記第1の方向と交差する所定の第2の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、前記結晶塊における前記第2の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシンチレータ。
【請求項7】
前記複数の改質領域のそれぞれは、前記結晶塊の内部において発生したシンチレーション光がその発生位置に応じた配分比率で前記複数の光検出器それぞれにまたは前記位置検出型光検出器に配分されるように配置されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシンチレータ。
【請求項8】
前記複数の改質領域は、屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシンチレータ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のシンチレータと、
前記第1の方向における前記結晶塊の端面と光学的に結合された複数の光検出器または位置検出型光検出器と
を備えることを特徴とする、放射線検出器。
【請求項10】
放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される複数の光検出器または位置検出型光検出器に前記シンチレーション光を提供するために用いられるシンチレータを製造する方法であって、
前記結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより、前記結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の改質領域を形成する工程を含み、
上記工程において、所定の第1の方向を長手方向とする細長形状を各々呈するように、且つ前記結晶塊における前記第1の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されるように、前記複数の改質領域を形成することを特徴とする、シンチレータの製造方法。
【請求項11】
前記複数の改質領域のそれぞれを、前記第1の方向における前記結晶塊の一端面と他端面との間で連続して延在するように形成することを特徴とする、請求項10に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項12】
前記複数の改質領域のそれぞれを、前記第1の方向における前記結晶塊の一端面と他端面との間で断続的に形成することを特徴とする、請求項10に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項13】
前記複数の改質領域のそれぞれを、前記第1の方向から見て格子点状に配列させることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項14】
前記複数の改質領域のそれぞれを、前記第1の方向から見て不規則に分散して配置させることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項15】
前記複数の改質領域とは別に、前記結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより、前記結晶塊の内部において周囲と異なる屈折率を有する複数の第2の改質領域を更に形成するとともに、
前記複数の第2の改質領域を、前記第1の方向と交差する所定の第2の方向を長手方向とする細長形状を各々呈するように、且つ前記結晶塊における前記第2の方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されるように形成することを特徴とする、請求項10〜14のいずれか一項に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項16】
前記複数の改質領域のそれぞれを、前記結晶塊の内部において発生したシンチレーション光がその発生位置に応じた配分比率で前記複数の光検出器それぞれにまたは前記位置検出型光検出器に配分されるように配置することを特徴とする、請求項10〜15のいずれか一項に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項17】
前記複数の改質領域は、屈折率が周囲より小さい領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つであることを特徴とする、請求項10〜16のいずれか一項に記載のシンチレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−139375(P2010−139375A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316008(P2008−316008)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】