説明

シース型K熱電対

【課題】 高温で長期間使用すると熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じ、また、シャントエラーと言われる高温において絶縁材の抵抗値の低下に起因し、(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線との間に漏れ電流が発生し、測定値に誤差が生じるという問題点を解決することを目的とする。
【解決手段】 金属製のシース内に絶縁材を介在させてニッケル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、高温で長期間使用すると熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じる問題を解決するために、(+)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%に形成したシース型K熱電対とした。
また、シャントエラーの問題を解決するために、(+)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%、(−)側熱電対芯線径をシース外径15〜22%に形成したシース型K熱電対とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シース型K熱電対に関し、特に、異径芯線の熱電対についてのものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシース型熱電対は、図5、図6に示すように、金属製のシース101内に酸化マグネシウム(MgO)や酸化アルミニウム(Al2 3 )等の無機絶縁材102を介在させて、(+)側熱電対芯線103と、(−)側熱電対芯線104とを収容し、先端側に感熱部105を形成し、基端開口部は無機絶縁材102へ湿分が侵入し絶縁が劣化することを防ぐためにエボキシ樹脂等でシール106を施している。このシース型熱電対の基端に熱電対芯線と補償導線の接続部を収容するスリーブや補償導線との接続のための端子台を収容した端子箱が設けられる場合もある。
【0003】
シース型K熱電対では、(+)側熱電対芯線にニッケル及びクロムを主とした合金、(−)側熱電対芯線にニッケルを主とした合金を用いたものである。この(+)側熱電対芯線、(−)側熱電対芯線の径は、JIS、ASTM及びIECの各規格においてシース外径の15%以上と規定されており、従来、(+)側熱電対芯線径、(−)側熱電対芯線径は、共にシース外径の15%から20%のものが製作され、使用されていた。
【0004】
このシース型K熱電対には、下記の問題点があった。
【0005】
一つは、高温で長時間使用すると、熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じることである。この芯線の劣化による誤差は、特に1000℃以上の還元雰囲気中(水素濃度の高い雰囲気中)での使用において著しい。
【0006】
もう一つの問題は、シャントエラーと言われているもので、高温において絶縁材の抵抗値が低下することに起因する。図5において、(+)側熱電対芯線103のA点から感温部105に至る抵抗値、(−)側熱電対芯線104のB点から感温部105に至る抵抗値と、(+)側熱電対芯線103と(−)側熱電対芯線104間の無機絶縁材102の抵抗値との比が高温において小さくなると、(+)側熱電対芯線103と(−)熱熱電対芯線104との間に漏れ電流が発生し、測定値に誤差を生じる。この誤差は、特に、800℃を超える場所に長尺の熱電対を敷設した場合に大きくなる。
【特許文献1】特開2002−122484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シース型K熱電対には、高温で長期間使用すると、熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じることがあり、また、高温の場所に長尺の熱電対を敷設して使用すると、絶縁材の抵抗値の低下に起因し、(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線との間に漏れ電流が発生し、測定値にシャントエラーと言われる誤差が生じるという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑み、シース型K熱電対の、高温で長期間使用すると、熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じるという問題点を解決すべく、金属製のシース内に絶縁材を介在させてニッケル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%に形成したシース型K熱電対とした。
【0009】
また、本発明は、具体的には、(+)側熱電対芯線径をシース外径の20%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の25%に形成した。
【0010】
さらに、本発明は、高温の場所に長尺の熱電対を敷設して使用すると、絶縁材の抵抗値の低下に起因し、(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線との間に漏れ電流が発生し、測定値にシャントエラーと言われる誤差が生じるという問題点を解決すべく、金属製のシース内に絶縁材を介在させてニケッル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K熱電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%に形成したシース型K熱電対とした。
【0011】
さらにまた、本発明は、具体的には、(+)側熱電対芯線径をシース外径の25%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の20%に形成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上述のように、金属製のシース内に絶縁材を介在させてニッケル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%に形成したシース型K熱電対としたので、高温で長期間使用すると熱電対芯線が劣化し、熱起電力が減少して測定値に誤差が生じるという問題点を解決することができる。
【0013】
また、本発明は、具体的には、(+)側熱電対芯線径をシース外径の20%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の25%に形成した。
【0014】
さらに、本発明は、金属製のシース内に絶縁材を介在させてニケッル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%に形成したシース型K熱電対としたので、高温の場所に長尺の熱電対を敷設して使用する場合に、絶縁材の抵抗値の低下に起因し、(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線との間に漏れ電流が発生し、測定値にシャントエラーと言われる誤差が生じるという問題点を解決することができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、具体的には、(+)側熱電対芯線径をシース外径の25%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の20%に形成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を添付する図1〜図4の具体的実施例に基づいて、以下詳細に説明する。
【0017】
図1、図2、図3、図4に示すシース型K熱電対は、金属製のシース1内に酸化マグネシウム(MgO)や酸化アルミニウム(Al2 3 )等の無機絶縁材2を介在させて、(+)側熱電対芯線3と、(−)側熱電対芯線4とを収容し、先端側に感温部5を形成し、基端開口部は無機絶縁材2へ湿分が侵入し絶縁が劣化することを防ぐためにエポキシ樹脂等でシール6を施している。
【0018】
図1、図2に示すシース型熱電対は、(−)側熱電対芯線4は従来のものより太くし、その径をシース1外径の25%とし、(+)側熱電対芯線3の径は従来の太径のものと同じシース1外径の20%としたものであり、高温で長期間使用した場合に、熱電対芯線の劣化に起因して熱起電力が減少することにより生じる測定誤差を無くする効果を持つ。(−)側熱電対芯線4の径をシース1外径の23〜27%、(+)側熱電対芯線4の径をシース1外径の15〜22%としたものでも同様な効果が確認されている。
【0019】
以下、この効果について説明する。
【0020】
熱電対芯線の劣化を調べるために、1000℃の還元性雰囲気中で、(+)側熱電対芯線および(−)側熱電対芯線の径がシース外径の15%のシース型K熱電対と、20%のシース型K熱電対を1000時間使用し、使用前後の測定値の変化を比較したところ、変化量に約3倍の差があり、芯線径が芯線劣化度合いに大きな影響を与えることが判った。さらに、使用後の(+)側熱電対芯線と未使用の(−)側熱電対芯線を用いたK熱電対と、使用後の(−)側熱電対芯線と未使用の(+)側熱電対芯線を用いたK熱電対の測定値の比較をしたところ、(−)側熱電対芯線の劣化が測定値に与える影響は、(+)側熱電対芯線の約2倍であった。以上の試験により、芯線、特に(−)側熱電対芯線を太くすることが、芯線径の劣化に対して効果があると認められた。
【0021】
表1は、この効果を確認した試験結果の例である。シース外径4.8mmのシース型K熱電対について、(+)側熱電対芯線径を0.72mm(シース外径の15%)とし、(−)側熱電対芯線径を0.72mm(シース外径の15%)、0.96mm(シース外径の20%)、1.1mm(シース外径の22%)、1.2mm(シース外径の25%)、および1.3mm(シース外径の27%)とした5本を作製し、1000℃還元性雰囲気中で1000時間の加熱を行った。
【0022】
【表1】

表1の最右欄が加熱開始直後と1000時間加熱時の測定出力の変化量であるが、(−)側熱電対芯線径が太いものほど熱起電力の減少が少なく、測定値が低下しないことを示している。
【0023】
しかしながら、シース外径には制限があり、シース外径の定まった熱電対において、芯線径の過大な増加は、絶縁材層を薄くし、このことによる新たな誤差の発生をもたらす。
【0024】
したがって、絶縁層を確保できる範囲で、(−)側熱電対芯線径の増加を重点的に行うことにより、芯線劣化による誤差が抑制されたシース型K熱電対を得ることができる。
【0025】
前記の(−)側熱電対芯線をシース外径の25%と従来のものより太くし、(+)側熱電対芯線の径を従来の太径のものと同じシース外径の20%としたシース型熱電対は、以上のような試験と考察に基づいて作られている。
【0026】
次に、図3、図4に示すシース型熱電対は、(+)側熱電対芯線3を従来のものより太くし、その径をシース1外径の25%とし、(−)側熱電対芯線4の径は従来の太径のものと同じシース1外径の20%としたものであり、高温の場所に長尺の熱電対を敷設して使用した場合に、絶縁材の抵抗値の低下に起因して(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線との間に漏れ電流が発生することにより生じるシャントエラーと言われる誤差を無くする効果がある。(+)側熱電対芯線3の径をシース1外径の23〜27%、(−)側熱電対芯線4の径をシース1外径の15〜22%でも同様な効果が確認されている。
【0027】
以下、この効果について説明する。
【0028】
シャントエラーについては、前述のように、高温時に絶縁材の抵抗値が低下し、芯線の抵抗、即ち、図5のA点から感温部105を経由しB点に至る芯線の抵抗値と、(+)側熱電対芯線と(−)側熱電対芯線間の絶縁材の抵抗値との比が高温時に小さくなることが発生原因である。したがって、芯線を太くして抵抗値を小さくすることが抑制に効果がある。また、A点から感温部105までの(+)側熱電対芯線の抵抗と、感温部105からB点までの(−)側熱電対芯線の抵抗は、芯線径が同一の場合、前者が約2.5倍大きく、このことは、(+)側熱電対芯線の径を太くする効果が(−)側熱電対芯線を太くする効果に比べて大きいことを意味する。
【0029】
表2は、このシャントエラー対する効果について確認した試験結果の例である。
【0030】
シース長さ60m、シース外径4.8mmのシース型K熱電対について、(−)側熱電対芯線を0.72mm(シース外径の15%)とし、(+)側熱電対芯線を0.72mm(シース外径の15%)、0.96mm(シース外径の20%)、1.1mm(シース外径の22%)、1.2mm(シース外径の25%)、および1.3mm(シース外径の27%)とした5本を製作し、各熱電対のシース長さ5mの範囲を1000℃に加熱して測定値の変化を調べた。
【0031】
【表2】

表2の最右欄の試験結果は、(+)側熱電対芯線径が太いものほどシャントエラーが少なく、測定値が変化しないことを示している。
【0032】
しかし、この場合も定まったシース外径においては、芯線を過大に太くすることは絶縁層を薄くすることによるシャントエラーの増加につながる。
【0033】
前記の(+)側熱電対芯線をシース外径の25%と従来のものより太くし、(−)側熱電対芯線の径は従来の太径のものと同じシース外径の20%としたシース型K熱電対は以上のような試験と考察に基づいて作られたものである。
【0034】
以上述べたように、図1と図2に示すシース型K熱電対は、前記の芯線の劣化による測定誤差の発生に対して効果があり、図3と図4に示すシース型K熱電対は、前記のシャントエラーに対して効果がある。
【0035】
したがって、1000℃を超える還元性雰囲気などの芯線の劣化による測定誤差が問題となる使用環境においては、図1、図2に示すシース型K熱電対を使用することにより、劣化による誤差を抑制し、長期間の高精度な測定が可能となる。
【0036】
また、800℃を超える還元性雰囲気に長尺のシース型K熱電対を敷設して使用する場合には、図3、図4に示すシース型K熱電対を用いることにより、シャントエラーを抑制することができる。
【実施例】
【0037】
シース外径が0.25mm〜8.0mmのもので効果が確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
シース型K熱電対について述べたが、他のシース型熱電対においても異径芯線で測定精度の向上が図られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のシース型K熱電対の縦断面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】本発明の他の実施例のシース型K熱電対の縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】従来のシース型K熱電対の縦断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…金属製のシース
2…絶縁材
3…(+)側熱電対芯線
4…(−)側熱電対芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のシース内に絶縁材を介在させてニッケル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%に形成したシース型K熱電対。
【請求項2】
(+)側熱電対芯線径をシース外径の20%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の25%に形成した請求項1記載のシース型K熱電対。
【請求項3】
金属製のシース内に絶縁材を介在させてニケッル及びクロムを主とした合金の(+)側熱電対芯線と、ニッケルを主とした合金の(−)側熱電対芯線とを収容したシース型K電対において、(+)側熱電対芯線径をシース外径の23〜27%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の15〜22%に形成したシース型K熱電対。
【請求項4】
(+)側熱電対芯線径をシース外径の25%、(−)側熱電対芯線径をシース外径の20%に形成した請求項3記載のシース型K熱電対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−90742(P2006−90742A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273540(P2004−273540)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000140454)株式会社岡崎製作所 (34)
【Fターム(参考)】