シートの製造方法
【課題】
シート製造時にロスを出すことなく厚み調整手段の延伸後の対応を正確に推定し厚みを精密に調整するシートの製造方法を提供する。
【解決手段】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法において、加工完了前のシート幅方向厚み分布と加工の完了後シート幅方向厚み分布を比較することで、両シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいてシートの厚みを制御する。
シート製造時にロスを出すことなく厚み調整手段の延伸後の対応を正確に推定し厚みを精密に調整するシートの製造方法を提供する。
【解決手段】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法において、加工完了前のシート幅方向厚み分布と加工の完了後シート幅方向厚み分布を比較することで、両シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいてシートの厚みを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムなどのシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
延伸フィルムの製造を例として図面を参照しながら本発明の背景を説明する。図1は一般的なシートの製造設備の全体概略構成を示す図であり、図2は、図1に示すダイ4の要部拡大斜視図である。
【0003】
図1のシートの製造設備は、押出機3により押しだされた重合体などの溶融材料を、シートの厚み調整手段10を幅方向に多数配置したダイ4によりシート状に成形し、成形されたシート1を延伸機2で延伸するなどの加工を更に施し、シート厚みを厚み測定器8にてシート幅方向の分布として測定し(以下、測定したシートの幅方向の厚み分布測定値を厚みプロファイルということがある)、シート1を巻き取るものである。このようなシート製造設備では、一般に、測定した厚みプロファイルを予め設定した目標の厚みプロファイルに近づけるため、ダイ4のシート幅方向に多数配設されたシートの厚み調整手段10に対応する厚み測定位置での厚み測定値が予め設定された目標値に近づくように、制御手段9を介して各厚み調整手段10を制御するようにする。図3はダイ4における厚み調整手段10と厚み測定器8の位置での厚み調整手段の対応関係を説明する図である。図3の上部横線はダイ4でのシートを表しており、下部横線は厚み測定器8でのシートを表している。ダイ4での各厚み調整手段10の位置21a〜21dを通過した重合体は、幅方向の延伸等の加工をうけ、厚み測定位置で幅方向位置22a〜22dを通過する。したがって、たとえば、22aでの厚み測定値が目標値に近づくように21aにある厚み調整手段10を制御する必要がある。
【0004】
このようなシートの製造方法においては、各厚み調整手段10とシート厚みの測定位置との対応関係が精度良く決定されていることが重要である。精度良く決定されていないと、たとえば、図3で22aのシート厚みを調整するために21bの厚み調整手段を操作すると22bのシート厚みが変わるなど、本来調整すべき位置とは異なった位置のシート厚みを変更することになり、シートの厚みを精度良く制御することができず、シートの品質が低下する。
【0005】
上記の問題は主に、延伸や発泡などのシートの寸法変化を伴う加工において幅方向に均一性が実現できていないことに起因している。以下、この問題が顕著に発現する加工として、シート幅方向の延伸を行う場合を例にとって説明する。
【0006】
すなわち、ダイ4よりシート状に成形したのみの、未延伸のシートの製造においては、重合体押し出し時にネッキングのあるシート幅方向の端部を除いて、各厚み調整手段とシート厚みの測定位置との対応関係は幾何学的な位置関係よりおおむね対応させることができるのに対して、延伸工程中の温度ムラ等に起因してシート幅方向の延伸倍率がシート幅方向の位置に関して均一でないため、幾何学的な位置関係だけでは対応させることができないのである。
【0007】
そのため厚み調整手段と測定位置の対応関係を決定する際に通常用いられている方法としては、厚みが安定している時に厚み測定器により厚みプロファイルを測定しておき、特定の厚み調整手段に製品製造時とは大きく異なる操作量を与え、シートの厚みが定常状態になったところで再度厚み測定器により厚みプロファイルを測定することで、厚み調整手段を操作したことにより起こるシートの厚み変動のシート幅方向分布の変化を求め、求めた厚み変動のシート幅方向分布からピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を上記操作をした厚み調整手段のシート幅方向対応位置とし、その対応位置は経時変化せずに一定であるとみなして、当初対応位置に基づいて厚み調整を行う特許文献1に記載の方法が知られている。しかし、上述の延伸シートの製造工程においては、各厚み調整手段に対応するシートの幅方向位置は、シートのばたつきや延伸工程での変化等から経時的にずれてしまうことがあるため、シートの厚みを精度良く制御することが困難であった。
【0008】
このような課題に対して、未延伸シートの厚み測定器を設置し、未延伸シートの厚みプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルからそれぞれの対応関係を求めることを利用した特許文献2および特許文献3の方法が提案されている。特許文献2に記載の方法では、未延伸シートにおいては各厚み調整手段の対応位置がおおむね幾何学的に求められることを利用して、未延伸シートの厚みプロファイルを測定し、未延伸シートの厚みプロファイルを一定区間に分割し、分割した未延伸シートの各部のプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルとの部分的な相互相関関数を求めることで対応位置を検出している。
【0009】
また特許文献3に記載の方法では、厚み調整手段に与えた操作量と工程遅れ時間後の未延伸シートの厚みプロファイルとの部分的な相関を演算することで、各厚み調整手段と未延伸シートの対応関係を求め、未延伸シートの厚みプロファイルとさらに工程遅れ時間後の延伸シートとの部分的な相関を演算することで、未延伸シートと延伸シートの対応関係を求め、延伸シートにおける各厚み調整手段の対応位置を検出している。
【0010】
また未延伸シートの厚み測定器を付加せず、延伸シートの厚みプロファイルの時系列データと厚み調整手段に与えた操作量の時系列データの相互相関演算することで、各厚み調整手段の対応関係を求める特許文献4の方法が提案されている。
【0011】
これらの方法を用いると、ある状況が限られた場合においてシートの製造中にロスを発生させることなく厚み調整手段の対応を推定することができるとされている。
【特許文献1】特開平9−323351号公報
【特許文献2】特開昭63−315221号公報
【特許文献3】特開平10−44231号公報
【特許文献4】特公平5−76412号公報
【非特許文献1】株式会社日科技連出版社発行大村平著「多変量解析のはなし」134ページから161ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者の知見によると、特許文献2および特許文献3に記載の手法は次に述べるような厚みプロファイルの測定精度に依存する相関精度低下とあらかじめ設定した区間で相互相関を求めることに起因した誤検出や検出漏れの難点を有していた。
【0013】
まず厚みプロファイルの測定精度の問題を明確にするため、本発明者の知見に基づき、ポリエチレンテレフタレートフィルムを例としてシートの厚みムラに関する特徴を述べる。
【0014】
シートの厚みムラは大きく分けて、シート流れ方向厚みムラとシート幅方向厚みムラと両方向性の厚みムラの3種類に分けることができる。シート幅方向厚みムラとは、ダイにおいて溶融材料を吐出する間隙のシート幅方向での相違や延伸機内での温度ムラ等が原因で発生しているもので、左記のような原因に関する状況が変わらなければ、シート流れ方向のどの位置で調べて同様に発現するシート幅方向の厚みムラである。これは、例えば10mや100m以上の流れ方向長さの間での平均的なシート幅方向の厚みプロファイルのなかで見出すことができる。このようなシート幅方向厚みムラは、ダイに備えた厚み調整手段で調節することが可能であり、フィルムの巻き姿に影響するため小さくする必要がある。そのため、シート幅方向で5mから10mの間における平均厚みプロファイルの最大値と最小値の差は、平均厚みを基準として0.5%程度まで、厚み調整手段で制御している。
【0015】
またシート流れ方向厚みムラとは、シート流れ方向の位置によって厚みが異なることをいい、原因の状況が変わらなければ、シート幅方向のどの位置で調べても同様に発現するシート流れ方向の厚みムラである。これは、シート流れ方向の各部においてシート幅方向で厚みの平均値をとり、そのシート流れ方向における変化のなかで見出すことができるものである。これは、溶融したポリマーがダイから押し出される際の振動現象が典型的な原因である。
【0016】
また両方向性の厚みムラとは、シート幅方向に不均一に発生する時間的に変化を伴う厚みムラで、流れ方向厚みムラと同じく溶融したポリマーがダイから押し出される際の振動現象が典型的な原因である。
【0017】
図4にシートの厚み分布の例を示す。シート幅方向厚みムラ、シート流れ方向厚みムラおよび両方向性の厚みムラの典型例が現れている。なお図4では平均厚み12μmのシートの厚み分布を表しており、図4のシート厚み方向軸では実際の厚みから平均厚み12μmを減算した値を表示している。シート流れ方向厚みムラおよび両方向性の厚みムラは図4に示したように、製膜速度に依存するが数10cmから数mの間にランダムに変動する特徴を持っている。
【0018】
この流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの特性を見るために幅方向の定点で測定したときのシート流れ方向の厚み分布を図13に示す。これらの流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの和は、数10cmから数m程度で最大値と最小値の差を求めると平均厚みを基準として5%程度の厚みムラとなることが多い。これに対して、ダイで制御すべきシート幅方向厚みムラを見るために、シート流れ方向における定点で観測したときのシート幅方向の厚み分布を図14に示す。図13と図14とを比較すれば容易に理解できるように、シート幅方向厚みムラは最大値と最小値の差で平均厚みを基準として0.5%程度であるのに対し、流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの和は10倍程度大きい。
【0019】
このような状況にあって、通常、シートの製造時にシート幅方向の厚み分布を検出するために用いられている厚み測定器8は、一つの厚み測定器をシート幅方向に走査することでシート幅方向厚みプロファイルを測定するよう構成されている。図15に厚み測定器8がシート幅方向に走査する模式図を示した。この方式では、図4に示したようにシート流れ方向における厚みムラが存在する場合には、シート幅方向に走査することによって得られたプロファイルはシート幅方向の厚み分布だけではなく流れ方向の厚みムラも加算されてしまう。そのため、特許文献2および特許文献3に記載の方法では、未延伸シートの厚みプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルの相互相関を演算するにあたり、未延伸シートにおいて厚みを測定したシート上の位置と延伸シートにおいて厚みを測定したシート上の位置が実質的に完全に対応しない限りは意味のある相関がとれず、現実的には大きな誤差を含んでいるという課題があった。特許文献3に記載の方法では、厚み調整手段から未延伸シートまでの工程時間、未延伸シート測定部から延伸シート測定部までの工程時間を考慮しているが、上記理由より、流れ方向の厚みムラや両方向性の厚みムラが原因で現実的には用いることができなかった。
【0020】
また、特許文献2に記載の方法では仮に流れ方向厚みムラが全くない場合であっても、あらかじめ設定した区間で相互相関を求めるために、次のような問題がある。分割した区間の境界に厚みプロファイルの凹凸があった場合、区間内で大きな特徴を除去するために、厚みムラが発生している場所によって相関を演算する際に利用される場合とされない場合があった。また分割した全区間に未延伸シートと延伸シートの厚みプロファイルで共通した厚みムラの特徴があればよいが、特徴がない場合誤検出してしまう問題があった。
【0021】
同様に特許文献3に記載の方法でも、流れ方向厚みムラが全くない場合であっても、全ての厚み調整手段もしくはあらかじめ決定した複数の厚み調整手段で未延伸シートと延伸シートの相互相関を求め、求めた相互相関が最大となる箇所を対応として決定するため、対応位置を演算する全ての厚み調整手段において、未延伸シートと延伸シートの厚みプロファイルで共通した厚みムラの特徴があればよいが、特徴がない場合誤検出してしまう問題があった。
【0022】
また特許文献4に記載の方法では、未延伸シートの厚みを測定せずに、厚み調整手段に与えた操作量の時系列データと、その操作量に起因する延伸シートでの厚み変化の時系列データの相関を求めることで、全ての厚み調整手段の対応位置を求めているが、上記と同様に延伸シートにおいてシート幅方向厚みムラが小さい箇所においては、厚み調整手段に与える操作量と厚みムラとの間の相関が小さく、誤検出してしまう問題があった。
【0023】
本発明の目的は、上記の従来の欠点を解消した方法すなわち、シート製造時にロスを出すことなく厚み調整手段の延伸後の対応を正確に推定し厚みを精密に調整するシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば、複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了前のシート幅方向厚み分布を前記シートにおけるシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第1の厚み分布測定値の時系列データと、前記所定の加工の完了後に前記シートにおける前記シート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較し、前記所定の加工の完了前の前記シートと完了後のシートとの幅方向の各部の位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第1の厚み分布測定値の時系列データと前記第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、前記第1の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記第2の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記各代表的な幅方向厚み分布を比較することを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布と前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布とを比較するに際し、前記いずれか一方の代表的な幅方向厚み分布において相対的に厚みの凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸が大きい箇所の位置ともう一方の厚み分布を比較することを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0027】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第2の厚み分布測定値の時系列データと前記第1の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0028】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記加工の完了後のシートの代表的な幅方向厚み分布と前記加工の完了前のシートの代表的な幅方向厚み分布の両者を比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0029】
また、本発明の別の形態によれば、複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了後のシート幅方向厚み分布を測定して得た厚み分布測定値の時系列データとその間に与えた各厚み調整手段の操作量の時系列データとを記憶し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向厚み変動の分布の時系列データと、各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較し、前記所定の加工の完了後のシートの厚み変動の分布の時系列データにおいて相対的に凹凸が大きい時刻および幅方向箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量の変動の時系列データとを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記各厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後の前記シートにおけるシート幅方向対応位置を用いて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0030】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シート幅方向の厚み変動の分布の時系列データと各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較するに際し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの代表的な幅方向厚み変動の分布、各厚み調整手段の操作量の代表的な幅方向操作量変動の分布をそれぞれ求め、前記所定の加工の完了後のシートの代表的な厚み変動の分布において相対的に凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量変動の分布とを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定することを特徴とする請求項6に記載のシートの製造方法が提供される。
【0031】
本発明は、上記のように構成されているので、厚みプロファイルの時系列データを用いることで、シート流れ方向や両方向性の厚みムラの影響を少なくし、所定の加工完了前後の厚みプロファイルの比較から両者のシート幅方向対応を求めることができる。またあらかじめシートの幅方向対応を求める幅方向位置を決めることなく、シート幅方向厚みプロファイルにおける凹凸の大きい場所において、加工完了前後の厚みプロファイルを比較し、相互相関関数の最大値が閾値以上の場合にのみ、対応位置を決定することで、対応関係を誤ることなく求めることが可能となる。
【0032】
本発明において、「厚み調整手段」とは、機械的または熱的にあるいは電気的にダイのギャップを変えることにより溶融材料の吐出量を変える方式のダイに配置したボルト、あるいは、ヒーター発生熱を変えることにより、その個所の溶融材料の粘性を変えて流速を変えることにより吐出量を変えるヒーター方式のダイに配置したヒーターをいう。たとえば2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造工程においては、調整可能な吐出の範囲が相対的に大きいことからボルト方式が好ましく用いられる。
【0033】
また本発明において、「溶融材料」とは、シートを構成する原料であって、溶融状態にあるものをいう。たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、あるいは製紙材料のパルプスラリー等任意の材料が考えられる。
【0034】
また本発明において、「操作量」とは、厚み調整手段において溶融材料の吐出量を変更するために各、各厚み調整手段に印加されるエネルギー量やこれに対応する数値をいう。たとえば、ヒーター等を使う場合は、パワーユニットを介して入力される電力量やこれに対応する、制御手段中の変数雅語レに該当する。例えばボルトを熱的伸縮させるヒートボルト方式では、ボルトに付設したヒーターに電力が供給されてボルトが加熱され、それに応じてボルトが伸縮してギャップの幅を調整する。他の方式でも電力が供給されて厚み調整手段が動作するのが普通である。
【0035】
また本発明において、「所定の加工の完了前」とは、シートの製造における任意の加工工程において溶融材料の流れがシート幅方向にも成分を持つ際に、ダイから吐出した溶融材料が少なくとも厚み調整手段において制御するべき幅方向位置でシート幅方向に流れの成分を持たない、もしくはシート幅方向の流れの大きさが相対的に十分小さいため、各厚み調整手段とシート幅方向の対応位置が幾何学的な関係から推定できる段階をいう。
【0036】
また本発明において、「所定の加工の完了後」とは、シートの製造における、溶融材料の流れがシート幅方向にも成分を持つ加工工程が完了した後の段階をいう。
【0037】
また本発明において、「第1の厚み分布測定値の時系列データ」とは、所定の加工の完了前において、シート幅方向厚み分布をシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得たものである。例えば、1つの厚み測定器が複数回シート幅方向に走査することによって得られる。また厚み測定器をシート幅方向に複数配し、流れ方向に複数回厚みを測定することによっても得ることができる。また、「第2の厚み分布測定値の時系列データ」とは、所定の加工の完了後における同様のデータをいう。
【0038】
また本発明において、「代表的なシート幅方向厚み分布」とは、厚み分布測定値の時系列データにおいてシート流れ方向の厚みムラの影響を低減した平均的なシート幅方向の厚み分布のことであり、たとえば直近の複数回分の測定にかかる厚みプロファイルを流れ方向に単純平均や加重平均をすることで求めることができる。
【0039】
また本発明において、「相対的に厚みの凹凸が大きい箇所」とは、シート幅方向にある一定間隔におけるシート厚みの最大値と最小値との差や、厚み分布の標準偏差等の任意の厚み測定値のバラツキを表す指標が平均的な部位よりも大きい箇所のことである。
【0040】
また本発明において相互相関係数とは、所定の加工前後の一部のシート幅方向厚みプロファイルや操作量偏差プロファイルをベクトルとして、それぞれのベクトルの類似性を定量化した指標である。例えば、ベクトルの全ての要素の平均値が0、ベクトルの大きさが1となるように正規化した後、二つの異なるベクトルの内積を求めることで計算することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、以下に説明するとおり、製品製造時に大きなロスを出すことなく厚み調整手段と厚み測定位置との対応関係がより正確に推定できる。したがって、シートを製造する場合には、決定した対応関係を用いて厚み調整が正確に行えるので、歩留まりが向上し生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の第1の実施形態の例をポリエチレンテレフタレート等の重合体を溶融材料とし、これをシートに成形してプラスチックフィルムを製造する工程に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0043】
図8は、図1に記載の一般的なシートの製造設備に未延伸シートの厚み測定器を付加した設備の全体概略構成を示す図であり、図2は、ダイ4の要部拡大斜視図である。
【0044】
このシートの製造設備は、重合体を押し出す押出機3と、押し出された重合体をシート状に成形するダイ4、上記シート状に成形された重合体(以下シート1という)を冷却する冷却ロール5、シート1を少なくともシート幅方向に延伸する延伸機2、延伸されたシート1を巻き取る巻取機6を備えている。ダイ4は、シート1の幅方向(図の紙面に垂直な方向)に配列された多数の厚み調整手段10と重合体を吐出する間隙11を備えている。さらにこのシートの製造設備は、シートの幅方向に延伸シートの厚み分布を測定する厚み測定器8と、前記厚み分布に基づいて厚み調整手段を制御する制御手段9を備えている。
【0045】
また上述の延伸シートの厚み測定器8とは別に、未延伸シートの幅方向に厚み分布を測定する厚み測定器12を備えている。
【0046】
厚み測定器8および厚み測定器12はシート1の厚みをシート幅方向に走査してシートの幅方向の厚み分布を測定するものが一般的であるが、機械的な走査ではなく光学的にシート幅方向に走査するものや、小型の厚さ測定器をシート幅方向に連続的に並べるものなどを用いることもできる。厚み測定器8および厚み測定器12としては、β線、X線、赤外線等の吸収を利用したものや、可視光、赤外光等の干渉を利用したもの等、任意の厚み測定器を用いることができる。
【0047】
制御手段9は、上記シート1の厚み測定値と目標厚み値との差値に基づいて、操作量を演算し、操作量を厚み調整手段10に加える。
【0048】
厚み調整手段10は、ダイ4にシートの幅方向に複数個(ここではn個とする)、等間隔で配設されている。具体的構成としては、厚み調整手段10にヒートボルトを用い、これらのボルトの温度を変化させてボルトを熱膨張、収縮させることによりダイ4の間隙11を調整するヒートボルト方式や、厚み調整手段10にリップヒーターを用い、重合体の温度を変化させて重合体の粘性率の変化によりダイ4から吐出される重合体の吐出量を変えることによりシート1の厚みを調整するリップヒーター方式のものを用いることができる。
【0049】
制御手段9が操作量を演算する際には、上記シート1の厚み測定値と目標厚み値との差である偏差データに対してフィルタ処理等の変換処理を行うことが好ましい。フィルタ処理としては、シートの幅方向に移動平均処理する幅方向のフィルタ処理や、過去の偏差データとの間で加重平均処理する時間方向のフィルタ処理などを用いることができる。このフィルタ処理をすることにより、前述した厚み測定値に重畳している流れ方向厚みムラの影響を減らすことができる。
【0050】
さらに制御手段9は、上記のフィルタ処理ずみの、厚み調整手段の数に個数を間引いた偏差データに基づいて操作量を算出し、厚み調整手段10を制御する。制御方法は、PID制御や数学的モデルを利用した現代制御を用いることができる。
【0051】
上記シートの製造設備において、各厚み調整手段と各厚み測定位置との対応関係はおよそわかっているが、精度よくシートの厚みを制御するには、前記対応関係を常に精度よく推定し、その対応関係を用いて厚みを制御することが望ましい。以下に本実施形態における、シートの各厚み調整手段に対する延伸シートのシート幅方向対応位置を常時推定する方法について説明する。
【0052】
まずシートの各厚み調整手段10と各厚み測定位置の対応関係は、初期値として、経験的に求める対応や、特許文献1に記載の方法のようにそれぞれ干渉がない程度に離れた厚み調整手段を複数選択肢し、選択した厚み調整手段を操作して、厚みが最も変化する箇所をそれぞれの対応位置と決定し、選択していない厚み調整手段に関しては選択した厚み調整手段の対応関係を補間することで決定する方法など任意の方法で対応関係を決定し、シートの厚み制御を実行する。
【0053】
厚み制御を実行している最中に、図5に示したフローのようにしてシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の対応関係をシートの生産の定常状態において常時推定する。延伸シートおよび未延伸シートについて、それぞれ、シート流れ方向の異なる複数の位置において走査をした際の厚みプロファイルを制御手段9のメモリに保存する。本実施形態のようなシートの製造工程においては、シートはシート流れ方向に搬送されているので、時間的にずれた複数のタイミングで厚み測定器8や12を走査させて測定すればこのような厚みプロファイルを得ることができる。こうして保存した各走査における厚みプロファイルから、その間の代表的な厚みプロファイルを演算する。この場合代表的な厚みプロファイルは複数回走査して得られた厚みプロファイルの平均プロファイルとするとよいが、過去の厚み測定値の影響ある一定の割合などの所定のルールに従って漸減させていく指数フィルタ等を用いて代表的な厚みプロファイルを演算してもよい。このような演算をすることで、厚み測定値から流れ方向厚みムラの影響を減らすことができる。100回以上走査した厚みプロファイルから平均プロファイルを演算することが好ましい。また演算した代表的な厚みプロファイルに対して高周波通過フィルタを適用し、細かなピッチの厚み分布を強調し、低周波の厚みプロファイルを除去することも有効である。この操作により、延伸工程にて発生する可能性のある低周波の厚みムラの影響を除去することができる。
【0054】
また、代表的な厚みプロファイルを演算する他の方法としては、単純な平均ではなく加重平均を用いる方法を用いても良い。またシートに機能を付加するために微細な粒子やボイドと呼ばれる空洞を混入し、シートに通常の厚み分布よりもはるかに大きい凹凸を故意に作ることもあるので、各厚み測定位置毎の厚みの時系列データから測定された厚みのバラツキが例外的に大きい箇所を除去した後に、単純平均や加重平均を求めることも良い方法である。
【0055】
次に、求めた延伸シートの代表的なシート幅方向厚みプロファイルから特徴のある厚みプロファイルを抽出する。この特徴ある厚みプロファイルとはシート幅方向の厚みプロファイルのうち、相対的に凹凸が大きい部分を取り出したもので、幅は大きくても全体の幅の1/5程度とすると幅方向の延伸が均等に行われていない場合でも対応できるので好ましい。相対的に厚みムラが大きい箇所を抽出する方法は、種々用いることができるが、たとえば、次のような方法で抽出することができる。まず抽出する領域の幅を一定値で決め、全体のシート幅方向の厚みプロファイルから前記一定幅のシート幅方向部分厚みプロファイルを設け、端から順にシート幅方向の部分厚みプロファイルを設ける位置を動かしてゆき、部分厚みプロファイル内の最大値と最小値の差を各部分プロファイルで把握する。そして、その差が大きく、かつ極大値である順に部分厚みプロファイルを選ぶことで、相対的に凹凸が大きい箇所を数箇所選択する。
【0056】
そして抽出した延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルについて、未延伸シートにおける厚みプロファイルの対応すると思われる箇所を探索する。この探索方法について図9に示した。図9において、26は延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルから上記のようにして抽出した相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイルである。未延伸シートの厚みプロファイル27の中から、幾何学的な位置関係から求めたか経験的に求めた予想対応位置を中心として対応位置ズレが発生すると予想される範囲Kで、抽出した延伸シートの相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイル26と形状が似ている未延伸シートのシート幅方向厚みプロファイル27中の領域を探索する。対応を探索する方法は様々なパターンマッチング手法を取ることができる。本実施形態では一例として正規化相関法を用いた。正規化相関法を用いた場合に、抽出した延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルについて、未延伸シートにおける厚みプロファイルの対応すると思われる箇所を探索するフローを図6に示した。正規化相関法では、抽出した延伸シートの相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイル26をベクトルy1と、未延伸シートの厚みプロファイル27のうち28−1から28−Kで表されるシート幅方向部分厚みプロファイルをベクトルy2−k(ここでkは1からKまでの自然数)として、正規化した後に各kについて相互相関係数Φkを演算し、最も相互相関係数の大きい箇所を対応位置として推定する。正規化の演算も含めて、延伸シートのシート幅方向部分厚みプロファイルのベクトルy1と未延伸シートのシート幅方向部分厚みプロファイルをベクトルy2−kから相互相関係数Φkを求める計算は次式で計算される。
【0057】
【数1】
【0058】
この際、各抽出した厚みムラ領域に対して、最も相互相関係数が高くなる位置とそのときの相関係数がそれぞれ一つずつ求められる。最大となる相互相関係数が所定のしきい値より小さい場合は、延伸シートにおける厚みムラ領域でも未延伸シートで対応が取れなかった位置と考えられる。そこで相互相関係数が所定のしきい値以上となった箇所について、延伸シートでの厚みムラ領域において未延伸シートとの対応関係が推定される。加えて、未延伸シートでは各厚み調整手段との対応は幾何学的な位置によっておおむね安定に決まるので、最終的に厚みムラ領域(延伸eシートにおいて厚みムラが相対的に大きい場所)において厚み調整手段の対応位置を求める。
【0059】
なお本実施形態では、延伸後の製品となるシートの厚みを精度良く制御するためには、延伸後のシートの厚みムラ箇所において、その厚みムラを目印として厚み調整手段の対応位置を推定すれば良いので、延伸後シートにおいて厚みムラが大きい領域を抽出した後に、抽出した延伸シートの厚みプロファイルについて未延伸シートの厚みプロファイルにおいて対応する箇所を探している。一方で、未延伸シートにおいて厚みムラが大きい領域を抽出した後に、抽出した未延伸シートの厚みプロファイルについて延伸シートの厚みプロファイルにおいて対応する箇所を探すことも可能である。
【0060】
なお本実施形態では、未延伸シートおよび延伸シートの厚みプロファイルの時系列データから、加重平均を含む時間的な平均を用いて代表的な厚みプロファイルを算出し、未延伸シートと延伸シートの幅方向対応関係を求めているが、時系列データのまま相互相関を演算することも可能である。以下にその一例を示す。すなわち、延伸シートにおいてあらかじめ定めたシート流れ方向および幅方向の範囲において、前記範囲での厚み分布の最大値と最小値の差を演算し、演算した値がある閾値以上である場合に、厚みムラ領域として抽出する。次に抽出した厚み領域でのシート幅方向部分厚みプロファイルの時系列データをシート流れ方向と幅方向という行列からベクトルに次式のように変換することで上述した方法を用いることができる。
【0061】
【数2】
【0062】
ここで、
y(t):時刻t、厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向における幅方向部分厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
上式では列ベクトルである1回の走査による厚みプロファイルを複数並べて行列となっているものに対して、列ベクトルを上下に連結することによって、時系列データの行列をベクトルに変換している。また上記変換をしたベクトルの相互相関を求める際に、未延伸シートと延伸シートの間の時間差を考慮することも良い方法である。例えば、未延伸シートおよび延伸シートの厚み測定器の幅方向の走査が同期しており、流れ方向において未延伸シートの厚み測定位置から延伸シートの厚み測定位置までの搬送時間が、厚み測定器の一回の走査時間と等しい場合には、延伸シートにおける部分厚みプロファイルの時系列データを次式で表される縦ベクトルに変換し、
【0063】
【数3】
【0064】
未延伸シートにおける部分厚みプロファイルの時系列データを次式で表される縦ベクトルに変換すれば良い。
【0065】
【数4】
【0066】
ここで、
y1(t):時刻tで、厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向一部における延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
y2(t):時刻tで、延伸シートにおいて厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向一部に対応する候補と考えられる、未延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
である。このように延伸シートの時系列データと未延伸シートの時系列データをベクトルに変換する際に、搬送時間分縦ベクトルの要素をずらすことで、シートの搬送によって発生する遅れに関わらず、フィルム流れ方向において同一箇所で相互相関を求めることができる。なお、ここでは簡単化のため、未延伸シートの厚み測定器と延伸シートの厚み測定器が同期して測定しており、流れ方向において未延伸シートの厚み測定位置から延伸シートの厚み測定位置までの搬送時間が、厚み測定器の一回の走査時間と等しい場合について記述したが、未延伸シートの厚み測定器と延伸シートの厚み測定器の走査周期が異なる場合や、搬送遅れが1回の走査時間と異なる場合は、適宜内挿処理することも好ましい。
【0067】
かくして推定された厚み調整手段のシート幅方向対応位置に関して、シートの厚み制御に用いている対応設定を更新する。
【0068】
本実施形態では、延伸後もしくは延伸前のシートの厚みムラ箇所において延伸後のシートにおける厚み調整手段の対応関係を求める方法であるため、目立ったシート幅方向厚みムラが発生していない領域では、そもそも対応関係を求めない厚み調整手段も多数存在する。これら厚み調整手段の対応に関しては、厚みムラがない、もしくは厚みムラで対応が取れないので初期に設定した対応関係を変更しない方法を採ることができる。この際、厚み調整手段の対応関係から現実的ではない延伸倍率にならないように延伸後のシートにおける厚み調整手段の間隔に制限を設けることも良い方法である。また対応関係が取れた厚み調整手段から線形な補間をして更新しても良い。あるいは、推定された厚み調整手段の対応のみを更新するのではなく、対応位置を推定した厚み調整手段に関して、推定した対応位置と初期に設定してある対応位置との差を対応位置ズレとし、対応位置を推定した厚み調整手段の近隣の厚み調整手段に対しても、同様の対応位置ズレがあるとして、これらの厚み調整手段の対応を更新してもよい。
【0069】
以上のプロセスを製膜中に繰り返すことにより、定常状態においては各厚み調整手段の延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルにおける対応位置を常時監視し、補正することができる。
【0070】
また以上述べた方法では、延伸や発泡の加工前に厚み測定をする必要があるが、実際には加工前の部位に厚み測定器を設置してないシートの製造設備も存在する。その際には次に説明する第2の実施形態ような方法をとることにより、上記発明と同様に製品製膜中にロスを発生させることなく、厚み調整手段の対応位置を求めることができる。
【0071】
まず上記第1の実施形態と同様にシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の初期値としての対応関係は今までに経験的に求めていた対応や、特許文献1に記載の方法のようにそれぞれ干渉がない程度に離れた厚み調整手段を複数選択肢し、選択した厚み調整手段を操作して、厚みが最も変化する箇所をそれぞれの対応位置と決定し、選択していない厚み調整手段に関しては選択した厚み調整手段の対応関係を補間することで決定する方法を用いて、シートの厚み制御を実行する。
【0072】
そして厚み制御を実行している最中に、次のようにしてシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の対応関係を常時推定する。延伸シートにおいて、シート流れ方向に異なる複数の位置で走査をした際の厚みプロファイルを制御手段9のメモリに保存し、その間の代表的な厚み変動プロファイルを演算する。たとえば、この代表的な厚み変動プロファイルとは式(1)でΔyとして近似される項とする。次式(2)を評価関数とし、式(2)の評価関数E1を最小とするg(t)およびΔyを求める。
y0+g(t)×Δy ・・・式(2)
【0073】
【数5】
【0074】
ここで
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
y(t):時刻tにおける延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(要素数はシートの測定点数と同じ数の要素を持つ)
Δy:厚み測定位置で測定された厚み分布ベクトルの空間的変動成分ベクトル(≠零ベクトル)
g(t):時刻tにおける厚み分布ベクトルの時間的変動成分
y0:メモリされた複数回の厚みプロファイルの中で、初期の厚み分布ベクトル
E1:y(t)から式(2)で近似される厚み変動を最小2乗法で抽出するための評価関数(未知パラメータはy0、Δy、g(t))
である。
【0075】
式(3)のE1を最小とするΔyを求める手法としては、様々な多変量解析の手法を用いることができる。例えば、y(1)、y(2)、・・・、y(td)のシート幅方向厚み分布ベクトルに対して、多変量解析の一手法である主成分分析を用いれば良い。主成分分析に関して数多くの文献があり、例えば非特許文献1に記述がある。図7は主成分分析を説明するための模式図である。主成分分析とは、多次元で多数の測定データ(図7で示した測定データ23の分布)をできるだけ情報の損失なしに1個あるいは複数の少ない指標で代表させる方法である。そして代表させる際の重要度の大きいものから第1主成分、第2主成分、・・・と呼ばれる。図7で厚み測定点が2個である場合で説明すると、測定された1回の厚み分布ベクトル23を点で表している。複数の厚み分布ベクトル23の分布を楕円近似した近似楕円24の長軸(データの分布の分散が最も大きい軸)が第1主成分25となる。式(3)のE1を最小とするΔyを主成分分析で求めるには、シート幅方向の厚み分布y(t)(t=1、2、・・・、td)をデータ数td個のデータの分布として考えたとき、データの分布の分散が最も大きい軸を第1主成分Δyとして与え、次に分布の分散が大きいΔyに直交する成分を第2主成分とする。そのため、操作量変動に起因する厚み変動の分散が最も大きい時に、第1主成分として厚みの空間的変動成分Δyを求めることができる。また各時刻のシート幅方向の厚み分布y(t)をΔyに射影することで、時間的変動成分g(t)を求めることができる。主成分分析以外にもg(t)が時間的にノイズやその他のプロセス変動と独立であることを利用した、独立成分分析などの方法を用いることができる。その他各種の適宜統計的手法を用いることができる。
【0076】
このように求めた代表的厚み変動プロファイルに対して、前述した、延伸前シートの厚みプロファイルと延伸後のシートの厚みプロファイルの相互相関を取ることで厚みムラ箇所で厚み調整手段の対応位置を推定した方法と同様に厚み変動プロファイルの中で厚み変動が大きい箇所を抽出する。そして抽出した厚み変動が大きい箇所の厚み変動プロファイルについて、厚み調整手段へ与えた操作量の偏差プロファイルにおいて対応すると思われる箇所を左右移動させながら最も相互相関係数が高くなる箇所を探す。ここで操作量の偏差プロファイルとはt=tdにおける各厚み調整手段へ与えた操作量とt=1における各厚み調整手段に与えた操作量の偏差である。ここでシート幅方向の厚み分布を測定する回数であるtdは、流れ方向厚みムラや両方向性の厚みムラの影響を弱めるために100回以上とすることが好ましい。
【0077】
この探索方法について図10に示した。図10において、操作量の偏差プロファイル30の中から、予想対応位置を中心として対応位置ズレが発生すると予想される範囲で、抽出した延伸シートの厚みプロファイル29と形状が似ている操作量の偏差プロファイルの領域を探索する。
【0078】
この際、各抽出した特徴ある厚み変動プロファイルに対して、最も相互相関係数が高くなる位置とそのときの相互相関係数がそれぞれ一つずつ求められる。最大となる相互相関係数が低い場合は、延伸シートにおける厚み変動が大きかった場所でも与えた操作量の偏差で対応が取れなかった位置と考えられる。そこで相互相関係数値が一定以上となった箇所について、延伸シートでの厚み変動が大きい箇所において厚み調整手段との対応関係が推定される。
【0079】
本実施形態では、延伸後のシートの厚み変動プロファイルの中で変動が大きい箇所と厚み調整手段の対応関係を求める方法であるため、そもそも対応関係を求めない厚み調整手段も多数存在する。これら厚み調整手段の対応に関しては、厚み変動が小さい、もしくは厚み変動で対応が取れないので、初期に設定した対応関係を変更しない方法を採ることができる。この際、厚み調整手段の対応関係から現実的ではない延伸倍率にならないように延伸後のシートにおける厚み調整手段の間隔に制限を設けることも良い方法である。たとえば、シートの厚みムラに関わらず延伸倍率は平均延伸倍率に対して±5%以内の変化しかないなど制約を入れることで、偶然厚みムラが他の対応位置で似たときに間違った検出として棄却するのに用いることができる。また対応関係が取れた厚み調整手段から線形な補間をして更新しても良い。あるいは、推定された厚み調整手段の対応のみを更新するのではなく、対応位置を推定した厚み調整手段に関して、推定した対応位置と初期に設定してある対応位置との差を対応位置ズレとし、対応位置を推定した厚み調整手段の近隣の厚み調整手段に対しても、同一の対応位置ズレがあるとして、これらの厚み調整手段の対応を更新してもよい。
【0080】
しかしながら本実施形態の方法は各厚み調整手段の対応がずれたためにシート厚みが乱れて発生するロスを低減することはできるが、固定的に厚みムラが残っているような場合、すなわち厚み調整手段との対応ずれはあるが、そのズレ量が厚み調整手段の1個分未満の時には有効に動作しない。なぜなら本実施形態では、操作量の変化によって発生する厚みの変化から、各厚み調整手段の対応位置を求めるため、固定的に厚みムラが残るような場合は、厚みムラが大きい場合が時間的に変化しない。一方で、厚み調整手段のピッチ1個分以上のズレ量であった場合は、操作量の変化とともに厚みの変化が発生するために、各厚み調整手段の対応位置を求めることができるのである。
【0081】
これに対し、先の実施形態は、延伸前のシートの厚みプロファイルを用いることで、延伸後のシートの厚みプロファイルが変化しない固定的な厚みムラであっても、延伸前のシートの厚みプロファイルと延伸後のシートの厚みプロファイルで対応を取ることができるため、未延伸シートの厚み測定をする前記方法の方が精度良く対応を決定できる点で本実施形態より優れている。一方、延伸前のシートの厚みを測定する測定器を要しない点で本実施形態の方が優れている。
【実施例】
【0082】
以下に上述の第1の実施形態をシートの製造工程に適用した実施例を示す。
【0083】
図8に示すシートの製造設備を用いて、厚み6μmの磁気記憶テープフィルム用の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。厚み調整手段10としてはカートリッジヒーターを内蔵したボルトを熱的に膨張収縮させて間隙11を調整するヒートボルト方式を用いた。厚み測定器8としてはβ線の吸収現象を利用したβ線厚み測定器を、厚み測定器12としてはX線の吸収現象を利用したX線厚み測定器をそれぞれ用いて、シート幅方向に走査しながらシートの幅方向厚み分布を測定した。また、厚み測定器8がシートの幅方向1回を走査するごとにPID制御を用いて厚み制御を行った。厚み制御をするにあたり、当初必要となる各厚み調整手段と厚み測定位置との対応関係の初期値は、特定の厚み調整手段を大きく操作し、延伸後のシートで最も厚み変化が大きい位置を求め、操作したそれぞれの厚み調整手段の対応を求めた後に、補間することで全ての厚み調整手段の対応位置を求め、初期値として制御で用いた。
【0084】
厚み測定器8がシート幅方向を1回走査することが完了して、新たに延伸シートの厚みプロファイルが得られる毎に次の操作をした。
(1)代表的な厚みプロファイルの演算および前処理
まず、過去2時間の未延伸シートの平均厚みプロファイルと延伸シートの平均厚みプロファイルを演算し、制御手段9である計算機上のデータを更新した。次に求めた未延伸シートと延伸シートのシート幅方向平均厚みプロファイルに対して、厚み調整手段3個分以下のピッチの凹凸のみを残すようなフィルタを適用した。フィルタにはガウス関数を畳み込む低域通過フィルタを作成し、低域通過フィルタにて阻止される成分のみを抽出してフィルタとした。もちろん、高域通過フィルタの特性を持つIIRフィルタ、FIRフィルタのどれを用いてもよいが、望ましくは位相シフトが発生しないフィルタが望ましい。
(2)厚みムラ箇所の摘出
延伸シートの厚みムラ箇所を次のように摘出した。全てのシート幅方向位置で、その位置を中心として製膜しているシート幅の1/10の範囲で、シート厚みの最大と最小の差を求めた。なお製品部と大きく厚みの異なる端部が範囲入る箇所に関しては、仮想的に最大と最小の差を0とし、後の演算には用いないこととした。そして、求めた最大と最小の差が大きく、それぞれが重ならない4箇所を決定し、製膜しているシート幅の1/10の領域4箇所を厚みムラ領域として摘出した。
(3)厚みムラ箇所における延伸シートと未延伸シートの対応決定
摘出した延伸シートの厚みムラ箇所それぞれに対して次の操作をした。まず摘出した箇所のシート幅方向厚みプロファイルをサンプリングし、それぞれシート幅方向に100点のシート幅方向位置のデータを有するプロファイルとした後、このプロファイルを100個の要素を持つベクトルと考えて、ベクトルの大きさが1となるよう正規化した。次に、制御開始時に設定した対応関係から厚み調整手段に換算して±1.5個ピッチ分に対して、中心の位置を微小にずらした31個(+1.5、+1.4、・・・、−1.5)の対応すると思われる未延伸シートの厚みプロファイルを抽出した。この際、抽出した未延伸シートの幅方向の長さは、延伸シートで抽出したシート幅方向の長さと対応する、すなわち抽出した未延伸シートの幅方向長さに横延伸倍率を乗算したときに抽出した延伸シートの幅方向長さになるようにした。具体的には未延伸シート幅の1/10のシート幅方向長さとした。31個の厚みプロファイルに対して延伸シートのプロファイルと同じくシート幅方向に100点のシート幅方向位置のデータを有するプロファイルとなるようサンプリングした後、平均値を除去しさらにベクトルの大きさが1になるように正規化した。正規化した31個の未延伸シートの厚みプロファイルのベクトルに対して、延伸シート厚みプロファイルのベクトルの内積、すなわち相互相関係数を演算した(図9)。そして最も相互相関係数が高くなった延伸前の厚みプロファイルのズレ量が設定してある対応からのズレであるが、相互相関係数の値が0.8未満となった場合は、対応が取れなかったと判断し、推定結果を棄却した。
(4)厚みムラ箇所における延伸シートと厚み調整手段の対応決定
厚みムラ箇所において延伸シートと厚み調整手段の対応を決定するには、安定している厚み調整手段と未延伸シートの対応関係を用いた。すなわち事前に、厚み調整手段を操作して、延伸シートでの対応位置を求める際に同様な方法で、厚み調整手段と未延伸シートの対応位置を求めておいた。図11は、ダイでの厚み調整手段の位置21a〜21dと延伸前の厚み測定器との対応位置20a〜20d、延伸後の厚み測定器での対応位置22a〜22dとの関係を示す図である。そこから厚みムラ箇所における延伸シートと厚み調整手段の対応を決定した。
(5)決定した厚みムラ調整手段の対応の制御へのフィードバック
厚みムラ箇所での厚み調整手段対応位置は厚み調整手段のピッチにして0.1個分で設定することができる。このとき、一定間隔で存在する飛び飛びの位置である厚み調整手段に対応する位置が延伸シートの厚みプロファイルでどこにあたるかを正確に設定する必要がある。そのため、平均的な延伸倍率から厚み調整手段1個の延伸シートの幅を近似的にもとめ、厚みムラ箇所に最も近い厚み調整手段の対応位置を演算する。また最も近い厚み調整手段だけでなく左右1本づつで隣りあう対応位置も同様にして演算する。得られた結果を厚み制御へは2時間に1回の頻度でフィードバックし、厚み調整手段の対応位置を製膜中に推定し、制御系を修正する適応制御を実現した。
(6)評価
厚みムラの評価は、製品部での厚みプロファイルの2時間の平均厚みプロファイルに対して厚みの最大と最小の差で評価した。まず製品製膜前に厚みが安定している時に特許文献1に記載の、特定の厚み調整手段に製品製造時とは大きく異なる操作量を与え、厚み調整手段を操作したことにより起こるシートの厚み変動のシート幅方向分布の変化を求め、求めた厚み変動のシート幅方向分布からピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を上記操作をした厚み調整手段のシート幅方向対応位置とし、その対応位置は経時変化せずに一定であるとみなして、当初対応位置に基づいて厚み調整を行い、厚みムラが一定値に収束した後に、本手法を適用した。結果、本手法を適用する前と適用後の厚みの最大と最小の差は適用前が0.035μmであるのに対して0.028μmとなり、約2割程度改善した。結果を図12に示した。図12では2時間の平均厚みプロファイルに対して厚みの最大と最小の差をプロットしており、逆三角形で本手法適用時刻を記した。
【0085】
なお、第2の実施形態の手法を用いても、厚み調整手段のピッチ1個分に満たない範囲のずれがのこることはあるものの、上記と同様の結果が得られるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、プラスチックフィルムの製造に限らず、紙の製造や金属箔の製造などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来のフィルム製膜プロセスの概略説明図である。
【図2】図1に示すダイの要部拡大斜視図である。
【図3】ダイでの厚み調整手段の位置と延伸後の厚み測定器での対応位置との関係を示す図である。
【図4】一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果であり、シート流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの特徴を示す図である。
【図5】第1の実施形態における演算のフローを示す図である。
【図6】第1の実施形態において、延伸前の厚みプロファイルと延伸後の厚みプロファイルの対応を求める部分のフローを示す図である。
【図7】第2の実施形態で用いる主成分分析という手法の概念を示す図である。
【図8】第1の実施形態のフィルム製膜プロセスの概略説明図である。
【図9】第1の実施形態において、延伸後の抽出した厚みプロファイルから未延伸の厚みプロファイルの対応を求める方法を示す図である。
【図10】第2の実施形態において延伸後の抽出した厚み変動プロファイルから操作量の偏差プロファイルとの対応を求める方法を示す図である。
【図11】ダイでの厚み調整手段の位置と延伸前の厚み測定器での対応位置、および延伸後の厚み測定器での対応位置の関係を示す図である。
【図12】実施例における厚みムラの時間的変化を示す図である。
【図13】図4に示した一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果におけるある幅方向位置での厚み分布測定値を示す図である。
【図14】図4に示した一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果におけるシートの流れ方向に厚み分布測定値を平均化した、シート幅方向厚みムラの特徴を示す図である。
【図15】一般的な構成における厚み測定器がシート幅方向に走査する様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 :シート(フィルム)
2 :延伸機
3 :押出機
4 :ダイ
5 :冷却ロール
6 :巻取機
7 :搬送ロール
8 :厚み測定器
9 :制御手段
10:厚み調整手段
11:間隙
12:厚み測定器
20a〜d:延伸前の厚み測定位置での厚み調整手段の対応位置
21a〜d:ダイでの厚み調整手段の対応位置
22a〜d:延伸後の厚み測定位置での厚み調整手段の対応位置
23:測定された1回の厚みプロファイル
24:近似楕円
25:厚みプロファイルの分布の主成分
26:延伸シートにおける相対的にムラの大きな箇所の部分厚みプロファイル
27:未延伸シートの厚みプロファイル
28−1から28−K:未延伸シートにおいて、延伸シートの厚みムラ箇所27と対応する可能性のある候補領域
29:延伸シートにおいて変動の大きい箇所の厚み変動プロファイル
30:操作量の偏差プロファイル
31−1から31−K:操作量の偏差において、延伸シートの厚みムラ箇
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムなどのシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
延伸フィルムの製造を例として図面を参照しながら本発明の背景を説明する。図1は一般的なシートの製造設備の全体概略構成を示す図であり、図2は、図1に示すダイ4の要部拡大斜視図である。
【0003】
図1のシートの製造設備は、押出機3により押しだされた重合体などの溶融材料を、シートの厚み調整手段10を幅方向に多数配置したダイ4によりシート状に成形し、成形されたシート1を延伸機2で延伸するなどの加工を更に施し、シート厚みを厚み測定器8にてシート幅方向の分布として測定し(以下、測定したシートの幅方向の厚み分布測定値を厚みプロファイルということがある)、シート1を巻き取るものである。このようなシート製造設備では、一般に、測定した厚みプロファイルを予め設定した目標の厚みプロファイルに近づけるため、ダイ4のシート幅方向に多数配設されたシートの厚み調整手段10に対応する厚み測定位置での厚み測定値が予め設定された目標値に近づくように、制御手段9を介して各厚み調整手段10を制御するようにする。図3はダイ4における厚み調整手段10と厚み測定器8の位置での厚み調整手段の対応関係を説明する図である。図3の上部横線はダイ4でのシートを表しており、下部横線は厚み測定器8でのシートを表している。ダイ4での各厚み調整手段10の位置21a〜21dを通過した重合体は、幅方向の延伸等の加工をうけ、厚み測定位置で幅方向位置22a〜22dを通過する。したがって、たとえば、22aでの厚み測定値が目標値に近づくように21aにある厚み調整手段10を制御する必要がある。
【0004】
このようなシートの製造方法においては、各厚み調整手段10とシート厚みの測定位置との対応関係が精度良く決定されていることが重要である。精度良く決定されていないと、たとえば、図3で22aのシート厚みを調整するために21bの厚み調整手段を操作すると22bのシート厚みが変わるなど、本来調整すべき位置とは異なった位置のシート厚みを変更することになり、シートの厚みを精度良く制御することができず、シートの品質が低下する。
【0005】
上記の問題は主に、延伸や発泡などのシートの寸法変化を伴う加工において幅方向に均一性が実現できていないことに起因している。以下、この問題が顕著に発現する加工として、シート幅方向の延伸を行う場合を例にとって説明する。
【0006】
すなわち、ダイ4よりシート状に成形したのみの、未延伸のシートの製造においては、重合体押し出し時にネッキングのあるシート幅方向の端部を除いて、各厚み調整手段とシート厚みの測定位置との対応関係は幾何学的な位置関係よりおおむね対応させることができるのに対して、延伸工程中の温度ムラ等に起因してシート幅方向の延伸倍率がシート幅方向の位置に関して均一でないため、幾何学的な位置関係だけでは対応させることができないのである。
【0007】
そのため厚み調整手段と測定位置の対応関係を決定する際に通常用いられている方法としては、厚みが安定している時に厚み測定器により厚みプロファイルを測定しておき、特定の厚み調整手段に製品製造時とは大きく異なる操作量を与え、シートの厚みが定常状態になったところで再度厚み測定器により厚みプロファイルを測定することで、厚み調整手段を操作したことにより起こるシートの厚み変動のシート幅方向分布の変化を求め、求めた厚み変動のシート幅方向分布からピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を上記操作をした厚み調整手段のシート幅方向対応位置とし、その対応位置は経時変化せずに一定であるとみなして、当初対応位置に基づいて厚み調整を行う特許文献1に記載の方法が知られている。しかし、上述の延伸シートの製造工程においては、各厚み調整手段に対応するシートの幅方向位置は、シートのばたつきや延伸工程での変化等から経時的にずれてしまうことがあるため、シートの厚みを精度良く制御することが困難であった。
【0008】
このような課題に対して、未延伸シートの厚み測定器を設置し、未延伸シートの厚みプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルからそれぞれの対応関係を求めることを利用した特許文献2および特許文献3の方法が提案されている。特許文献2に記載の方法では、未延伸シートにおいては各厚み調整手段の対応位置がおおむね幾何学的に求められることを利用して、未延伸シートの厚みプロファイルを測定し、未延伸シートの厚みプロファイルを一定区間に分割し、分割した未延伸シートの各部のプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルとの部分的な相互相関関数を求めることで対応位置を検出している。
【0009】
また特許文献3に記載の方法では、厚み調整手段に与えた操作量と工程遅れ時間後の未延伸シートの厚みプロファイルとの部分的な相関を演算することで、各厚み調整手段と未延伸シートの対応関係を求め、未延伸シートの厚みプロファイルとさらに工程遅れ時間後の延伸シートとの部分的な相関を演算することで、未延伸シートと延伸シートの対応関係を求め、延伸シートにおける各厚み調整手段の対応位置を検出している。
【0010】
また未延伸シートの厚み測定器を付加せず、延伸シートの厚みプロファイルの時系列データと厚み調整手段に与えた操作量の時系列データの相互相関演算することで、各厚み調整手段の対応関係を求める特許文献4の方法が提案されている。
【0011】
これらの方法を用いると、ある状況が限られた場合においてシートの製造中にロスを発生させることなく厚み調整手段の対応を推定することができるとされている。
【特許文献1】特開平9−323351号公報
【特許文献2】特開昭63−315221号公報
【特許文献3】特開平10−44231号公報
【特許文献4】特公平5−76412号公報
【非特許文献1】株式会社日科技連出版社発行大村平著「多変量解析のはなし」134ページから161ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者の知見によると、特許文献2および特許文献3に記載の手法は次に述べるような厚みプロファイルの測定精度に依存する相関精度低下とあらかじめ設定した区間で相互相関を求めることに起因した誤検出や検出漏れの難点を有していた。
【0013】
まず厚みプロファイルの測定精度の問題を明確にするため、本発明者の知見に基づき、ポリエチレンテレフタレートフィルムを例としてシートの厚みムラに関する特徴を述べる。
【0014】
シートの厚みムラは大きく分けて、シート流れ方向厚みムラとシート幅方向厚みムラと両方向性の厚みムラの3種類に分けることができる。シート幅方向厚みムラとは、ダイにおいて溶融材料を吐出する間隙のシート幅方向での相違や延伸機内での温度ムラ等が原因で発生しているもので、左記のような原因に関する状況が変わらなければ、シート流れ方向のどの位置で調べて同様に発現するシート幅方向の厚みムラである。これは、例えば10mや100m以上の流れ方向長さの間での平均的なシート幅方向の厚みプロファイルのなかで見出すことができる。このようなシート幅方向厚みムラは、ダイに備えた厚み調整手段で調節することが可能であり、フィルムの巻き姿に影響するため小さくする必要がある。そのため、シート幅方向で5mから10mの間における平均厚みプロファイルの最大値と最小値の差は、平均厚みを基準として0.5%程度まで、厚み調整手段で制御している。
【0015】
またシート流れ方向厚みムラとは、シート流れ方向の位置によって厚みが異なることをいい、原因の状況が変わらなければ、シート幅方向のどの位置で調べても同様に発現するシート流れ方向の厚みムラである。これは、シート流れ方向の各部においてシート幅方向で厚みの平均値をとり、そのシート流れ方向における変化のなかで見出すことができるものである。これは、溶融したポリマーがダイから押し出される際の振動現象が典型的な原因である。
【0016】
また両方向性の厚みムラとは、シート幅方向に不均一に発生する時間的に変化を伴う厚みムラで、流れ方向厚みムラと同じく溶融したポリマーがダイから押し出される際の振動現象が典型的な原因である。
【0017】
図4にシートの厚み分布の例を示す。シート幅方向厚みムラ、シート流れ方向厚みムラおよび両方向性の厚みムラの典型例が現れている。なお図4では平均厚み12μmのシートの厚み分布を表しており、図4のシート厚み方向軸では実際の厚みから平均厚み12μmを減算した値を表示している。シート流れ方向厚みムラおよび両方向性の厚みムラは図4に示したように、製膜速度に依存するが数10cmから数mの間にランダムに変動する特徴を持っている。
【0018】
この流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの特性を見るために幅方向の定点で測定したときのシート流れ方向の厚み分布を図13に示す。これらの流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの和は、数10cmから数m程度で最大値と最小値の差を求めると平均厚みを基準として5%程度の厚みムラとなることが多い。これに対して、ダイで制御すべきシート幅方向厚みムラを見るために、シート流れ方向における定点で観測したときのシート幅方向の厚み分布を図14に示す。図13と図14とを比較すれば容易に理解できるように、シート幅方向厚みムラは最大値と最小値の差で平均厚みを基準として0.5%程度であるのに対し、流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの和は10倍程度大きい。
【0019】
このような状況にあって、通常、シートの製造時にシート幅方向の厚み分布を検出するために用いられている厚み測定器8は、一つの厚み測定器をシート幅方向に走査することでシート幅方向厚みプロファイルを測定するよう構成されている。図15に厚み測定器8がシート幅方向に走査する模式図を示した。この方式では、図4に示したようにシート流れ方向における厚みムラが存在する場合には、シート幅方向に走査することによって得られたプロファイルはシート幅方向の厚み分布だけではなく流れ方向の厚みムラも加算されてしまう。そのため、特許文献2および特許文献3に記載の方法では、未延伸シートの厚みプロファイルと延伸シートの厚みプロファイルの相互相関を演算するにあたり、未延伸シートにおいて厚みを測定したシート上の位置と延伸シートにおいて厚みを測定したシート上の位置が実質的に完全に対応しない限りは意味のある相関がとれず、現実的には大きな誤差を含んでいるという課題があった。特許文献3に記載の方法では、厚み調整手段から未延伸シートまでの工程時間、未延伸シート測定部から延伸シート測定部までの工程時間を考慮しているが、上記理由より、流れ方向の厚みムラや両方向性の厚みムラが原因で現実的には用いることができなかった。
【0020】
また、特許文献2に記載の方法では仮に流れ方向厚みムラが全くない場合であっても、あらかじめ設定した区間で相互相関を求めるために、次のような問題がある。分割した区間の境界に厚みプロファイルの凹凸があった場合、区間内で大きな特徴を除去するために、厚みムラが発生している場所によって相関を演算する際に利用される場合とされない場合があった。また分割した全区間に未延伸シートと延伸シートの厚みプロファイルで共通した厚みムラの特徴があればよいが、特徴がない場合誤検出してしまう問題があった。
【0021】
同様に特許文献3に記載の方法でも、流れ方向厚みムラが全くない場合であっても、全ての厚み調整手段もしくはあらかじめ決定した複数の厚み調整手段で未延伸シートと延伸シートの相互相関を求め、求めた相互相関が最大となる箇所を対応として決定するため、対応位置を演算する全ての厚み調整手段において、未延伸シートと延伸シートの厚みプロファイルで共通した厚みムラの特徴があればよいが、特徴がない場合誤検出してしまう問題があった。
【0022】
また特許文献4に記載の方法では、未延伸シートの厚みを測定せずに、厚み調整手段に与えた操作量の時系列データと、その操作量に起因する延伸シートでの厚み変化の時系列データの相関を求めることで、全ての厚み調整手段の対応位置を求めているが、上記と同様に延伸シートにおいてシート幅方向厚みムラが小さい箇所においては、厚み調整手段に与える操作量と厚みムラとの間の相関が小さく、誤検出してしまう問題があった。
【0023】
本発明の目的は、上記の従来の欠点を解消した方法すなわち、シート製造時にロスを出すことなく厚み調整手段の延伸後の対応を正確に推定し厚みを精密に調整するシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば、複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了前のシート幅方向厚み分布を前記シートにおけるシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第1の厚み分布測定値の時系列データと、前記所定の加工の完了後に前記シートにおける前記シート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較し、前記所定の加工の完了前の前記シートと完了後のシートとの幅方向の各部の位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第1の厚み分布測定値の時系列データと前記第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、前記第1の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記第2の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記各代表的な幅方向厚み分布を比較することを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布と前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布とを比較するに際し、前記いずれか一方の代表的な幅方向厚み分布において相対的に厚みの凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸が大きい箇所の位置ともう一方の厚み分布を比較することを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0027】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第2の厚み分布測定値の時系列データと前記第1の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0028】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記加工の完了後のシートの代表的な幅方向厚み分布と前記加工の完了前のシートの代表的な幅方向厚み分布の両者を比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0029】
また、本発明の別の形態によれば、複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了後のシート幅方向厚み分布を測定して得た厚み分布測定値の時系列データとその間に与えた各厚み調整手段の操作量の時系列データとを記憶し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向厚み変動の分布の時系列データと、各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較し、前記所定の加工の完了後のシートの厚み変動の分布の時系列データにおいて相対的に凹凸が大きい時刻および幅方向箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量の変動の時系列データとを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記各厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後の前記シートにおけるシート幅方向対応位置を用いて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法が提供される。
【0030】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シート幅方向の厚み変動の分布の時系列データと各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較するに際し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの代表的な幅方向厚み変動の分布、各厚み調整手段の操作量の代表的な幅方向操作量変動の分布をそれぞれ求め、前記所定の加工の完了後のシートの代表的な厚み変動の分布において相対的に凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量変動の分布とを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定することを特徴とする請求項6に記載のシートの製造方法が提供される。
【0031】
本発明は、上記のように構成されているので、厚みプロファイルの時系列データを用いることで、シート流れ方向や両方向性の厚みムラの影響を少なくし、所定の加工完了前後の厚みプロファイルの比較から両者のシート幅方向対応を求めることができる。またあらかじめシートの幅方向対応を求める幅方向位置を決めることなく、シート幅方向厚みプロファイルにおける凹凸の大きい場所において、加工完了前後の厚みプロファイルを比較し、相互相関関数の最大値が閾値以上の場合にのみ、対応位置を決定することで、対応関係を誤ることなく求めることが可能となる。
【0032】
本発明において、「厚み調整手段」とは、機械的または熱的にあるいは電気的にダイのギャップを変えることにより溶融材料の吐出量を変える方式のダイに配置したボルト、あるいは、ヒーター発生熱を変えることにより、その個所の溶融材料の粘性を変えて流速を変えることにより吐出量を変えるヒーター方式のダイに配置したヒーターをいう。たとえば2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造工程においては、調整可能な吐出の範囲が相対的に大きいことからボルト方式が好ましく用いられる。
【0033】
また本発明において、「溶融材料」とは、シートを構成する原料であって、溶融状態にあるものをいう。たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、あるいは製紙材料のパルプスラリー等任意の材料が考えられる。
【0034】
また本発明において、「操作量」とは、厚み調整手段において溶融材料の吐出量を変更するために各、各厚み調整手段に印加されるエネルギー量やこれに対応する数値をいう。たとえば、ヒーター等を使う場合は、パワーユニットを介して入力される電力量やこれに対応する、制御手段中の変数雅語レに該当する。例えばボルトを熱的伸縮させるヒートボルト方式では、ボルトに付設したヒーターに電力が供給されてボルトが加熱され、それに応じてボルトが伸縮してギャップの幅を調整する。他の方式でも電力が供給されて厚み調整手段が動作するのが普通である。
【0035】
また本発明において、「所定の加工の完了前」とは、シートの製造における任意の加工工程において溶融材料の流れがシート幅方向にも成分を持つ際に、ダイから吐出した溶融材料が少なくとも厚み調整手段において制御するべき幅方向位置でシート幅方向に流れの成分を持たない、もしくはシート幅方向の流れの大きさが相対的に十分小さいため、各厚み調整手段とシート幅方向の対応位置が幾何学的な関係から推定できる段階をいう。
【0036】
また本発明において、「所定の加工の完了後」とは、シートの製造における、溶融材料の流れがシート幅方向にも成分を持つ加工工程が完了した後の段階をいう。
【0037】
また本発明において、「第1の厚み分布測定値の時系列データ」とは、所定の加工の完了前において、シート幅方向厚み分布をシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得たものである。例えば、1つの厚み測定器が複数回シート幅方向に走査することによって得られる。また厚み測定器をシート幅方向に複数配し、流れ方向に複数回厚みを測定することによっても得ることができる。また、「第2の厚み分布測定値の時系列データ」とは、所定の加工の完了後における同様のデータをいう。
【0038】
また本発明において、「代表的なシート幅方向厚み分布」とは、厚み分布測定値の時系列データにおいてシート流れ方向の厚みムラの影響を低減した平均的なシート幅方向の厚み分布のことであり、たとえば直近の複数回分の測定にかかる厚みプロファイルを流れ方向に単純平均や加重平均をすることで求めることができる。
【0039】
また本発明において、「相対的に厚みの凹凸が大きい箇所」とは、シート幅方向にある一定間隔におけるシート厚みの最大値と最小値との差や、厚み分布の標準偏差等の任意の厚み測定値のバラツキを表す指標が平均的な部位よりも大きい箇所のことである。
【0040】
また本発明において相互相関係数とは、所定の加工前後の一部のシート幅方向厚みプロファイルや操作量偏差プロファイルをベクトルとして、それぞれのベクトルの類似性を定量化した指標である。例えば、ベクトルの全ての要素の平均値が0、ベクトルの大きさが1となるように正規化した後、二つの異なるベクトルの内積を求めることで計算することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、以下に説明するとおり、製品製造時に大きなロスを出すことなく厚み調整手段と厚み測定位置との対応関係がより正確に推定できる。したがって、シートを製造する場合には、決定した対応関係を用いて厚み調整が正確に行えるので、歩留まりが向上し生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の第1の実施形態の例をポリエチレンテレフタレート等の重合体を溶融材料とし、これをシートに成形してプラスチックフィルムを製造する工程に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0043】
図8は、図1に記載の一般的なシートの製造設備に未延伸シートの厚み測定器を付加した設備の全体概略構成を示す図であり、図2は、ダイ4の要部拡大斜視図である。
【0044】
このシートの製造設備は、重合体を押し出す押出機3と、押し出された重合体をシート状に成形するダイ4、上記シート状に成形された重合体(以下シート1という)を冷却する冷却ロール5、シート1を少なくともシート幅方向に延伸する延伸機2、延伸されたシート1を巻き取る巻取機6を備えている。ダイ4は、シート1の幅方向(図の紙面に垂直な方向)に配列された多数の厚み調整手段10と重合体を吐出する間隙11を備えている。さらにこのシートの製造設備は、シートの幅方向に延伸シートの厚み分布を測定する厚み測定器8と、前記厚み分布に基づいて厚み調整手段を制御する制御手段9を備えている。
【0045】
また上述の延伸シートの厚み測定器8とは別に、未延伸シートの幅方向に厚み分布を測定する厚み測定器12を備えている。
【0046】
厚み測定器8および厚み測定器12はシート1の厚みをシート幅方向に走査してシートの幅方向の厚み分布を測定するものが一般的であるが、機械的な走査ではなく光学的にシート幅方向に走査するものや、小型の厚さ測定器をシート幅方向に連続的に並べるものなどを用いることもできる。厚み測定器8および厚み測定器12としては、β線、X線、赤外線等の吸収を利用したものや、可視光、赤外光等の干渉を利用したもの等、任意の厚み測定器を用いることができる。
【0047】
制御手段9は、上記シート1の厚み測定値と目標厚み値との差値に基づいて、操作量を演算し、操作量を厚み調整手段10に加える。
【0048】
厚み調整手段10は、ダイ4にシートの幅方向に複数個(ここではn個とする)、等間隔で配設されている。具体的構成としては、厚み調整手段10にヒートボルトを用い、これらのボルトの温度を変化させてボルトを熱膨張、収縮させることによりダイ4の間隙11を調整するヒートボルト方式や、厚み調整手段10にリップヒーターを用い、重合体の温度を変化させて重合体の粘性率の変化によりダイ4から吐出される重合体の吐出量を変えることによりシート1の厚みを調整するリップヒーター方式のものを用いることができる。
【0049】
制御手段9が操作量を演算する際には、上記シート1の厚み測定値と目標厚み値との差である偏差データに対してフィルタ処理等の変換処理を行うことが好ましい。フィルタ処理としては、シートの幅方向に移動平均処理する幅方向のフィルタ処理や、過去の偏差データとの間で加重平均処理する時間方向のフィルタ処理などを用いることができる。このフィルタ処理をすることにより、前述した厚み測定値に重畳している流れ方向厚みムラの影響を減らすことができる。
【0050】
さらに制御手段9は、上記のフィルタ処理ずみの、厚み調整手段の数に個数を間引いた偏差データに基づいて操作量を算出し、厚み調整手段10を制御する。制御方法は、PID制御や数学的モデルを利用した現代制御を用いることができる。
【0051】
上記シートの製造設備において、各厚み調整手段と各厚み測定位置との対応関係はおよそわかっているが、精度よくシートの厚みを制御するには、前記対応関係を常に精度よく推定し、その対応関係を用いて厚みを制御することが望ましい。以下に本実施形態における、シートの各厚み調整手段に対する延伸シートのシート幅方向対応位置を常時推定する方法について説明する。
【0052】
まずシートの各厚み調整手段10と各厚み測定位置の対応関係は、初期値として、経験的に求める対応や、特許文献1に記載の方法のようにそれぞれ干渉がない程度に離れた厚み調整手段を複数選択肢し、選択した厚み調整手段を操作して、厚みが最も変化する箇所をそれぞれの対応位置と決定し、選択していない厚み調整手段に関しては選択した厚み調整手段の対応関係を補間することで決定する方法など任意の方法で対応関係を決定し、シートの厚み制御を実行する。
【0053】
厚み制御を実行している最中に、図5に示したフローのようにしてシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の対応関係をシートの生産の定常状態において常時推定する。延伸シートおよび未延伸シートについて、それぞれ、シート流れ方向の異なる複数の位置において走査をした際の厚みプロファイルを制御手段9のメモリに保存する。本実施形態のようなシートの製造工程においては、シートはシート流れ方向に搬送されているので、時間的にずれた複数のタイミングで厚み測定器8や12を走査させて測定すればこのような厚みプロファイルを得ることができる。こうして保存した各走査における厚みプロファイルから、その間の代表的な厚みプロファイルを演算する。この場合代表的な厚みプロファイルは複数回走査して得られた厚みプロファイルの平均プロファイルとするとよいが、過去の厚み測定値の影響ある一定の割合などの所定のルールに従って漸減させていく指数フィルタ等を用いて代表的な厚みプロファイルを演算してもよい。このような演算をすることで、厚み測定値から流れ方向厚みムラの影響を減らすことができる。100回以上走査した厚みプロファイルから平均プロファイルを演算することが好ましい。また演算した代表的な厚みプロファイルに対して高周波通過フィルタを適用し、細かなピッチの厚み分布を強調し、低周波の厚みプロファイルを除去することも有効である。この操作により、延伸工程にて発生する可能性のある低周波の厚みムラの影響を除去することができる。
【0054】
また、代表的な厚みプロファイルを演算する他の方法としては、単純な平均ではなく加重平均を用いる方法を用いても良い。またシートに機能を付加するために微細な粒子やボイドと呼ばれる空洞を混入し、シートに通常の厚み分布よりもはるかに大きい凹凸を故意に作ることもあるので、各厚み測定位置毎の厚みの時系列データから測定された厚みのバラツキが例外的に大きい箇所を除去した後に、単純平均や加重平均を求めることも良い方法である。
【0055】
次に、求めた延伸シートの代表的なシート幅方向厚みプロファイルから特徴のある厚みプロファイルを抽出する。この特徴ある厚みプロファイルとはシート幅方向の厚みプロファイルのうち、相対的に凹凸が大きい部分を取り出したもので、幅は大きくても全体の幅の1/5程度とすると幅方向の延伸が均等に行われていない場合でも対応できるので好ましい。相対的に厚みムラが大きい箇所を抽出する方法は、種々用いることができるが、たとえば、次のような方法で抽出することができる。まず抽出する領域の幅を一定値で決め、全体のシート幅方向の厚みプロファイルから前記一定幅のシート幅方向部分厚みプロファイルを設け、端から順にシート幅方向の部分厚みプロファイルを設ける位置を動かしてゆき、部分厚みプロファイル内の最大値と最小値の差を各部分プロファイルで把握する。そして、その差が大きく、かつ極大値である順に部分厚みプロファイルを選ぶことで、相対的に凹凸が大きい箇所を数箇所選択する。
【0056】
そして抽出した延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルについて、未延伸シートにおける厚みプロファイルの対応すると思われる箇所を探索する。この探索方法について図9に示した。図9において、26は延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルから上記のようにして抽出した相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイルである。未延伸シートの厚みプロファイル27の中から、幾何学的な位置関係から求めたか経験的に求めた予想対応位置を中心として対応位置ズレが発生すると予想される範囲Kで、抽出した延伸シートの相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイル26と形状が似ている未延伸シートのシート幅方向厚みプロファイル27中の領域を探索する。対応を探索する方法は様々なパターンマッチング手法を取ることができる。本実施形態では一例として正規化相関法を用いた。正規化相関法を用いた場合に、抽出した延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルについて、未延伸シートにおける厚みプロファイルの対応すると思われる箇所を探索するフローを図6に示した。正規化相関法では、抽出した延伸シートの相対的にムラの大きな箇所のシート幅方向部分厚みプロファイル26をベクトルy1と、未延伸シートの厚みプロファイル27のうち28−1から28−Kで表されるシート幅方向部分厚みプロファイルをベクトルy2−k(ここでkは1からKまでの自然数)として、正規化した後に各kについて相互相関係数Φkを演算し、最も相互相関係数の大きい箇所を対応位置として推定する。正規化の演算も含めて、延伸シートのシート幅方向部分厚みプロファイルのベクトルy1と未延伸シートのシート幅方向部分厚みプロファイルをベクトルy2−kから相互相関係数Φkを求める計算は次式で計算される。
【0057】
【数1】
【0058】
この際、各抽出した厚みムラ領域に対して、最も相互相関係数が高くなる位置とそのときの相関係数がそれぞれ一つずつ求められる。最大となる相互相関係数が所定のしきい値より小さい場合は、延伸シートにおける厚みムラ領域でも未延伸シートで対応が取れなかった位置と考えられる。そこで相互相関係数が所定のしきい値以上となった箇所について、延伸シートでの厚みムラ領域において未延伸シートとの対応関係が推定される。加えて、未延伸シートでは各厚み調整手段との対応は幾何学的な位置によっておおむね安定に決まるので、最終的に厚みムラ領域(延伸eシートにおいて厚みムラが相対的に大きい場所)において厚み調整手段の対応位置を求める。
【0059】
なお本実施形態では、延伸後の製品となるシートの厚みを精度良く制御するためには、延伸後のシートの厚みムラ箇所において、その厚みムラを目印として厚み調整手段の対応位置を推定すれば良いので、延伸後シートにおいて厚みムラが大きい領域を抽出した後に、抽出した延伸シートの厚みプロファイルについて未延伸シートの厚みプロファイルにおいて対応する箇所を探している。一方で、未延伸シートにおいて厚みムラが大きい領域を抽出した後に、抽出した未延伸シートの厚みプロファイルについて延伸シートの厚みプロファイルにおいて対応する箇所を探すことも可能である。
【0060】
なお本実施形態では、未延伸シートおよび延伸シートの厚みプロファイルの時系列データから、加重平均を含む時間的な平均を用いて代表的な厚みプロファイルを算出し、未延伸シートと延伸シートの幅方向対応関係を求めているが、時系列データのまま相互相関を演算することも可能である。以下にその一例を示す。すなわち、延伸シートにおいてあらかじめ定めたシート流れ方向および幅方向の範囲において、前記範囲での厚み分布の最大値と最小値の差を演算し、演算した値がある閾値以上である場合に、厚みムラ領域として抽出する。次に抽出した厚み領域でのシート幅方向部分厚みプロファイルの時系列データをシート流れ方向と幅方向という行列からベクトルに次式のように変換することで上述した方法を用いることができる。
【0061】
【数2】
【0062】
ここで、
y(t):時刻t、厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向における幅方向部分厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
上式では列ベクトルである1回の走査による厚みプロファイルを複数並べて行列となっているものに対して、列ベクトルを上下に連結することによって、時系列データの行列をベクトルに変換している。また上記変換をしたベクトルの相互相関を求める際に、未延伸シートと延伸シートの間の時間差を考慮することも良い方法である。例えば、未延伸シートおよび延伸シートの厚み測定器の幅方向の走査が同期しており、流れ方向において未延伸シートの厚み測定位置から延伸シートの厚み測定位置までの搬送時間が、厚み測定器の一回の走査時間と等しい場合には、延伸シートにおける部分厚みプロファイルの時系列データを次式で表される縦ベクトルに変換し、
【0063】
【数3】
【0064】
未延伸シートにおける部分厚みプロファイルの時系列データを次式で表される縦ベクトルに変換すれば良い。
【0065】
【数4】
【0066】
ここで、
y1(t):時刻tで、厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向一部における延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
y2(t):時刻tで、延伸シートにおいて厚みの凹凸が相対的に大きいとして抽出したシート幅方向一部に対応する候補と考えられる、未延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(抽出したシート幅方向一部の厚み測定点数と同じ数の要素を持つ縦ベクトル)
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
である。このように延伸シートの時系列データと未延伸シートの時系列データをベクトルに変換する際に、搬送時間分縦ベクトルの要素をずらすことで、シートの搬送によって発生する遅れに関わらず、フィルム流れ方向において同一箇所で相互相関を求めることができる。なお、ここでは簡単化のため、未延伸シートの厚み測定器と延伸シートの厚み測定器が同期して測定しており、流れ方向において未延伸シートの厚み測定位置から延伸シートの厚み測定位置までの搬送時間が、厚み測定器の一回の走査時間と等しい場合について記述したが、未延伸シートの厚み測定器と延伸シートの厚み測定器の走査周期が異なる場合や、搬送遅れが1回の走査時間と異なる場合は、適宜内挿処理することも好ましい。
【0067】
かくして推定された厚み調整手段のシート幅方向対応位置に関して、シートの厚み制御に用いている対応設定を更新する。
【0068】
本実施形態では、延伸後もしくは延伸前のシートの厚みムラ箇所において延伸後のシートにおける厚み調整手段の対応関係を求める方法であるため、目立ったシート幅方向厚みムラが発生していない領域では、そもそも対応関係を求めない厚み調整手段も多数存在する。これら厚み調整手段の対応に関しては、厚みムラがない、もしくは厚みムラで対応が取れないので初期に設定した対応関係を変更しない方法を採ることができる。この際、厚み調整手段の対応関係から現実的ではない延伸倍率にならないように延伸後のシートにおける厚み調整手段の間隔に制限を設けることも良い方法である。また対応関係が取れた厚み調整手段から線形な補間をして更新しても良い。あるいは、推定された厚み調整手段の対応のみを更新するのではなく、対応位置を推定した厚み調整手段に関して、推定した対応位置と初期に設定してある対応位置との差を対応位置ズレとし、対応位置を推定した厚み調整手段の近隣の厚み調整手段に対しても、同様の対応位置ズレがあるとして、これらの厚み調整手段の対応を更新してもよい。
【0069】
以上のプロセスを製膜中に繰り返すことにより、定常状態においては各厚み調整手段の延伸シートのシート幅方向厚みプロファイルにおける対応位置を常時監視し、補正することができる。
【0070】
また以上述べた方法では、延伸や発泡の加工前に厚み測定をする必要があるが、実際には加工前の部位に厚み測定器を設置してないシートの製造設備も存在する。その際には次に説明する第2の実施形態ような方法をとることにより、上記発明と同様に製品製膜中にロスを発生させることなく、厚み調整手段の対応位置を求めることができる。
【0071】
まず上記第1の実施形態と同様にシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の初期値としての対応関係は今までに経験的に求めていた対応や、特許文献1に記載の方法のようにそれぞれ干渉がない程度に離れた厚み調整手段を複数選択肢し、選択した厚み調整手段を操作して、厚みが最も変化する箇所をそれぞれの対応位置と決定し、選択していない厚み調整手段に関しては選択した厚み調整手段の対応関係を補間することで決定する方法を用いて、シートの厚み制御を実行する。
【0072】
そして厚み制御を実行している最中に、次のようにしてシートの各厚み調整手段と各厚み測定位置の対応関係を常時推定する。延伸シートにおいて、シート流れ方向に異なる複数の位置で走査をした際の厚みプロファイルを制御手段9のメモリに保存し、その間の代表的な厚み変動プロファイルを演算する。たとえば、この代表的な厚み変動プロファイルとは式(1)でΔyとして近似される項とする。次式(2)を評価関数とし、式(2)の評価関数E1を最小とするg(t)およびΔyを求める。
y0+g(t)×Δy ・・・式(2)
【0073】
【数5】
【0074】
ここで
t:時刻(t=1,2,・・・td、ここでtdは制御手段9にメモリされている厚みプロファイルの総数であり、単位は厚み測定器が一回の走査にかかる時間である)
y(t):時刻tにおける延伸シートの幅方向厚み分布ベクトル(要素数はシートの測定点数と同じ数の要素を持つ)
Δy:厚み測定位置で測定された厚み分布ベクトルの空間的変動成分ベクトル(≠零ベクトル)
g(t):時刻tにおける厚み分布ベクトルの時間的変動成分
y0:メモリされた複数回の厚みプロファイルの中で、初期の厚み分布ベクトル
E1:y(t)から式(2)で近似される厚み変動を最小2乗法で抽出するための評価関数(未知パラメータはy0、Δy、g(t))
である。
【0075】
式(3)のE1を最小とするΔyを求める手法としては、様々な多変量解析の手法を用いることができる。例えば、y(1)、y(2)、・・・、y(td)のシート幅方向厚み分布ベクトルに対して、多変量解析の一手法である主成分分析を用いれば良い。主成分分析に関して数多くの文献があり、例えば非特許文献1に記述がある。図7は主成分分析を説明するための模式図である。主成分分析とは、多次元で多数の測定データ(図7で示した測定データ23の分布)をできるだけ情報の損失なしに1個あるいは複数の少ない指標で代表させる方法である。そして代表させる際の重要度の大きいものから第1主成分、第2主成分、・・・と呼ばれる。図7で厚み測定点が2個である場合で説明すると、測定された1回の厚み分布ベクトル23を点で表している。複数の厚み分布ベクトル23の分布を楕円近似した近似楕円24の長軸(データの分布の分散が最も大きい軸)が第1主成分25となる。式(3)のE1を最小とするΔyを主成分分析で求めるには、シート幅方向の厚み分布y(t)(t=1、2、・・・、td)をデータ数td個のデータの分布として考えたとき、データの分布の分散が最も大きい軸を第1主成分Δyとして与え、次に分布の分散が大きいΔyに直交する成分を第2主成分とする。そのため、操作量変動に起因する厚み変動の分散が最も大きい時に、第1主成分として厚みの空間的変動成分Δyを求めることができる。また各時刻のシート幅方向の厚み分布y(t)をΔyに射影することで、時間的変動成分g(t)を求めることができる。主成分分析以外にもg(t)が時間的にノイズやその他のプロセス変動と独立であることを利用した、独立成分分析などの方法を用いることができる。その他各種の適宜統計的手法を用いることができる。
【0076】
このように求めた代表的厚み変動プロファイルに対して、前述した、延伸前シートの厚みプロファイルと延伸後のシートの厚みプロファイルの相互相関を取ることで厚みムラ箇所で厚み調整手段の対応位置を推定した方法と同様に厚み変動プロファイルの中で厚み変動が大きい箇所を抽出する。そして抽出した厚み変動が大きい箇所の厚み変動プロファイルについて、厚み調整手段へ与えた操作量の偏差プロファイルにおいて対応すると思われる箇所を左右移動させながら最も相互相関係数が高くなる箇所を探す。ここで操作量の偏差プロファイルとはt=tdにおける各厚み調整手段へ与えた操作量とt=1における各厚み調整手段に与えた操作量の偏差である。ここでシート幅方向の厚み分布を測定する回数であるtdは、流れ方向厚みムラや両方向性の厚みムラの影響を弱めるために100回以上とすることが好ましい。
【0077】
この探索方法について図10に示した。図10において、操作量の偏差プロファイル30の中から、予想対応位置を中心として対応位置ズレが発生すると予想される範囲で、抽出した延伸シートの厚みプロファイル29と形状が似ている操作量の偏差プロファイルの領域を探索する。
【0078】
この際、各抽出した特徴ある厚み変動プロファイルに対して、最も相互相関係数が高くなる位置とそのときの相互相関係数がそれぞれ一つずつ求められる。最大となる相互相関係数が低い場合は、延伸シートにおける厚み変動が大きかった場所でも与えた操作量の偏差で対応が取れなかった位置と考えられる。そこで相互相関係数値が一定以上となった箇所について、延伸シートでの厚み変動が大きい箇所において厚み調整手段との対応関係が推定される。
【0079】
本実施形態では、延伸後のシートの厚み変動プロファイルの中で変動が大きい箇所と厚み調整手段の対応関係を求める方法であるため、そもそも対応関係を求めない厚み調整手段も多数存在する。これら厚み調整手段の対応に関しては、厚み変動が小さい、もしくは厚み変動で対応が取れないので、初期に設定した対応関係を変更しない方法を採ることができる。この際、厚み調整手段の対応関係から現実的ではない延伸倍率にならないように延伸後のシートにおける厚み調整手段の間隔に制限を設けることも良い方法である。たとえば、シートの厚みムラに関わらず延伸倍率は平均延伸倍率に対して±5%以内の変化しかないなど制約を入れることで、偶然厚みムラが他の対応位置で似たときに間違った検出として棄却するのに用いることができる。また対応関係が取れた厚み調整手段から線形な補間をして更新しても良い。あるいは、推定された厚み調整手段の対応のみを更新するのではなく、対応位置を推定した厚み調整手段に関して、推定した対応位置と初期に設定してある対応位置との差を対応位置ズレとし、対応位置を推定した厚み調整手段の近隣の厚み調整手段に対しても、同一の対応位置ズレがあるとして、これらの厚み調整手段の対応を更新してもよい。
【0080】
しかしながら本実施形態の方法は各厚み調整手段の対応がずれたためにシート厚みが乱れて発生するロスを低減することはできるが、固定的に厚みムラが残っているような場合、すなわち厚み調整手段との対応ずれはあるが、そのズレ量が厚み調整手段の1個分未満の時には有効に動作しない。なぜなら本実施形態では、操作量の変化によって発生する厚みの変化から、各厚み調整手段の対応位置を求めるため、固定的に厚みムラが残るような場合は、厚みムラが大きい場合が時間的に変化しない。一方で、厚み調整手段のピッチ1個分以上のズレ量であった場合は、操作量の変化とともに厚みの変化が発生するために、各厚み調整手段の対応位置を求めることができるのである。
【0081】
これに対し、先の実施形態は、延伸前のシートの厚みプロファイルを用いることで、延伸後のシートの厚みプロファイルが変化しない固定的な厚みムラであっても、延伸前のシートの厚みプロファイルと延伸後のシートの厚みプロファイルで対応を取ることができるため、未延伸シートの厚み測定をする前記方法の方が精度良く対応を決定できる点で本実施形態より優れている。一方、延伸前のシートの厚みを測定する測定器を要しない点で本実施形態の方が優れている。
【実施例】
【0082】
以下に上述の第1の実施形態をシートの製造工程に適用した実施例を示す。
【0083】
図8に示すシートの製造設備を用いて、厚み6μmの磁気記憶テープフィルム用の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。厚み調整手段10としてはカートリッジヒーターを内蔵したボルトを熱的に膨張収縮させて間隙11を調整するヒートボルト方式を用いた。厚み測定器8としてはβ線の吸収現象を利用したβ線厚み測定器を、厚み測定器12としてはX線の吸収現象を利用したX線厚み測定器をそれぞれ用いて、シート幅方向に走査しながらシートの幅方向厚み分布を測定した。また、厚み測定器8がシートの幅方向1回を走査するごとにPID制御を用いて厚み制御を行った。厚み制御をするにあたり、当初必要となる各厚み調整手段と厚み測定位置との対応関係の初期値は、特定の厚み調整手段を大きく操作し、延伸後のシートで最も厚み変化が大きい位置を求め、操作したそれぞれの厚み調整手段の対応を求めた後に、補間することで全ての厚み調整手段の対応位置を求め、初期値として制御で用いた。
【0084】
厚み測定器8がシート幅方向を1回走査することが完了して、新たに延伸シートの厚みプロファイルが得られる毎に次の操作をした。
(1)代表的な厚みプロファイルの演算および前処理
まず、過去2時間の未延伸シートの平均厚みプロファイルと延伸シートの平均厚みプロファイルを演算し、制御手段9である計算機上のデータを更新した。次に求めた未延伸シートと延伸シートのシート幅方向平均厚みプロファイルに対して、厚み調整手段3個分以下のピッチの凹凸のみを残すようなフィルタを適用した。フィルタにはガウス関数を畳み込む低域通過フィルタを作成し、低域通過フィルタにて阻止される成分のみを抽出してフィルタとした。もちろん、高域通過フィルタの特性を持つIIRフィルタ、FIRフィルタのどれを用いてもよいが、望ましくは位相シフトが発生しないフィルタが望ましい。
(2)厚みムラ箇所の摘出
延伸シートの厚みムラ箇所を次のように摘出した。全てのシート幅方向位置で、その位置を中心として製膜しているシート幅の1/10の範囲で、シート厚みの最大と最小の差を求めた。なお製品部と大きく厚みの異なる端部が範囲入る箇所に関しては、仮想的に最大と最小の差を0とし、後の演算には用いないこととした。そして、求めた最大と最小の差が大きく、それぞれが重ならない4箇所を決定し、製膜しているシート幅の1/10の領域4箇所を厚みムラ領域として摘出した。
(3)厚みムラ箇所における延伸シートと未延伸シートの対応決定
摘出した延伸シートの厚みムラ箇所それぞれに対して次の操作をした。まず摘出した箇所のシート幅方向厚みプロファイルをサンプリングし、それぞれシート幅方向に100点のシート幅方向位置のデータを有するプロファイルとした後、このプロファイルを100個の要素を持つベクトルと考えて、ベクトルの大きさが1となるよう正規化した。次に、制御開始時に設定した対応関係から厚み調整手段に換算して±1.5個ピッチ分に対して、中心の位置を微小にずらした31個(+1.5、+1.4、・・・、−1.5)の対応すると思われる未延伸シートの厚みプロファイルを抽出した。この際、抽出した未延伸シートの幅方向の長さは、延伸シートで抽出したシート幅方向の長さと対応する、すなわち抽出した未延伸シートの幅方向長さに横延伸倍率を乗算したときに抽出した延伸シートの幅方向長さになるようにした。具体的には未延伸シート幅の1/10のシート幅方向長さとした。31個の厚みプロファイルに対して延伸シートのプロファイルと同じくシート幅方向に100点のシート幅方向位置のデータを有するプロファイルとなるようサンプリングした後、平均値を除去しさらにベクトルの大きさが1になるように正規化した。正規化した31個の未延伸シートの厚みプロファイルのベクトルに対して、延伸シート厚みプロファイルのベクトルの内積、すなわち相互相関係数を演算した(図9)。そして最も相互相関係数が高くなった延伸前の厚みプロファイルのズレ量が設定してある対応からのズレであるが、相互相関係数の値が0.8未満となった場合は、対応が取れなかったと判断し、推定結果を棄却した。
(4)厚みムラ箇所における延伸シートと厚み調整手段の対応決定
厚みムラ箇所において延伸シートと厚み調整手段の対応を決定するには、安定している厚み調整手段と未延伸シートの対応関係を用いた。すなわち事前に、厚み調整手段を操作して、延伸シートでの対応位置を求める際に同様な方法で、厚み調整手段と未延伸シートの対応位置を求めておいた。図11は、ダイでの厚み調整手段の位置21a〜21dと延伸前の厚み測定器との対応位置20a〜20d、延伸後の厚み測定器での対応位置22a〜22dとの関係を示す図である。そこから厚みムラ箇所における延伸シートと厚み調整手段の対応を決定した。
(5)決定した厚みムラ調整手段の対応の制御へのフィードバック
厚みムラ箇所での厚み調整手段対応位置は厚み調整手段のピッチにして0.1個分で設定することができる。このとき、一定間隔で存在する飛び飛びの位置である厚み調整手段に対応する位置が延伸シートの厚みプロファイルでどこにあたるかを正確に設定する必要がある。そのため、平均的な延伸倍率から厚み調整手段1個の延伸シートの幅を近似的にもとめ、厚みムラ箇所に最も近い厚み調整手段の対応位置を演算する。また最も近い厚み調整手段だけでなく左右1本づつで隣りあう対応位置も同様にして演算する。得られた結果を厚み制御へは2時間に1回の頻度でフィードバックし、厚み調整手段の対応位置を製膜中に推定し、制御系を修正する適応制御を実現した。
(6)評価
厚みムラの評価は、製品部での厚みプロファイルの2時間の平均厚みプロファイルに対して厚みの最大と最小の差で評価した。まず製品製膜前に厚みが安定している時に特許文献1に記載の、特定の厚み調整手段に製品製造時とは大きく異なる操作量を与え、厚み調整手段を操作したことにより起こるシートの厚み変動のシート幅方向分布の変化を求め、求めた厚み変動のシート幅方向分布からピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を上記操作をした厚み調整手段のシート幅方向対応位置とし、その対応位置は経時変化せずに一定であるとみなして、当初対応位置に基づいて厚み調整を行い、厚みムラが一定値に収束した後に、本手法を適用した。結果、本手法を適用する前と適用後の厚みの最大と最小の差は適用前が0.035μmであるのに対して0.028μmとなり、約2割程度改善した。結果を図12に示した。図12では2時間の平均厚みプロファイルに対して厚みの最大と最小の差をプロットしており、逆三角形で本手法適用時刻を記した。
【0085】
なお、第2の実施形態の手法を用いても、厚み調整手段のピッチ1個分に満たない範囲のずれがのこることはあるものの、上記と同様の結果が得られるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、プラスチックフィルムの製造に限らず、紙の製造や金属箔の製造などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来のフィルム製膜プロセスの概略説明図である。
【図2】図1に示すダイの要部拡大斜視図である。
【図3】ダイでの厚み調整手段の位置と延伸後の厚み測定器での対応位置との関係を示す図である。
【図4】一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果であり、シート流れ方向厚みムラと両方向性の厚みムラの特徴を示す図である。
【図5】第1の実施形態における演算のフローを示す図である。
【図6】第1の実施形態において、延伸前の厚みプロファイルと延伸後の厚みプロファイルの対応を求める部分のフローを示す図である。
【図7】第2の実施形態で用いる主成分分析という手法の概念を示す図である。
【図8】第1の実施形態のフィルム製膜プロセスの概略説明図である。
【図9】第1の実施形態において、延伸後の抽出した厚みプロファイルから未延伸の厚みプロファイルの対応を求める方法を示す図である。
【図10】第2の実施形態において延伸後の抽出した厚み変動プロファイルから操作量の偏差プロファイルとの対応を求める方法を示す図である。
【図11】ダイでの厚み調整手段の位置と延伸前の厚み測定器での対応位置、および延伸後の厚み測定器での対応位置の関係を示す図である。
【図12】実施例における厚みムラの時間的変化を示す図である。
【図13】図4に示した一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果におけるある幅方向位置での厚み分布測定値を示す図である。
【図14】図4に示した一枚のシートの厚みムラ分布を測定した結果におけるシートの流れ方向に厚み分布測定値を平均化した、シート幅方向厚みムラの特徴を示す図である。
【図15】一般的な構成における厚み測定器がシート幅方向に走査する様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 :シート(フィルム)
2 :延伸機
3 :押出機
4 :ダイ
5 :冷却ロール
6 :巻取機
7 :搬送ロール
8 :厚み測定器
9 :制御手段
10:厚み調整手段
11:間隙
12:厚み測定器
20a〜d:延伸前の厚み測定位置での厚み調整手段の対応位置
21a〜d:ダイでの厚み調整手段の対応位置
22a〜d:延伸後の厚み測定位置での厚み調整手段の対応位置
23:測定された1回の厚みプロファイル
24:近似楕円
25:厚みプロファイルの分布の主成分
26:延伸シートにおける相対的にムラの大きな箇所の部分厚みプロファイル
27:未延伸シートの厚みプロファイル
28−1から28−K:未延伸シートにおいて、延伸シートの厚みムラ箇所27と対応する可能性のある候補領域
29:延伸シートにおいて変動の大きい箇所の厚み変動プロファイル
30:操作量の偏差プロファイル
31−1から31−K:操作量の偏差において、延伸シートの厚みムラ箇
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了前のシート幅方向厚み分布を前記シートにおけるシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第1の厚み分布測定値の時系列データと、前記所定の加工の完了後に前記シートにおける前記シート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較し、前記所定の加工の完了前の前記シートと完了後のシートとの幅方向の各部の位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法。
【請求項2】
前記第1の厚み分布測定値の時系列データと前記第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、前記第1の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記第2の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記各代表的な幅方向厚み分布を比較することを特徴とする請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布と前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布とを比較するに際し、前記いずれか一方の代表的な幅方向厚み分布において相対的に厚みの凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸が大きい箇所の位置ともう一方の厚み分布を比較することを特徴とする請求項2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記第2の厚み分布測定値の時系列データと前記第1の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項5】
前記加工の完了後のシートの代表的な幅方向厚み分布と前記加工の完了前のシートの代表的な幅方向厚み分布の両者を比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とする請求項2または3に記載のシートの製造方法。
【請求項6】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了後のシート幅方向厚み分布を測定して得た厚み分布測定値の時系列データとその間に与えた各厚み調整手段の操作量の時系列データとを記憶し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向厚み変動の分布の時系列データと、各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較し、前記所定の加工の完了後のシートの厚み変動の分布の時系列データにおいて相対的に凹凸が大きい時刻および幅方向箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量の変動の時系列データとを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記各厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後の前記シートにおけるシート幅方向対応位置を用いて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法。
【請求項7】
前記シート幅方向の厚み変動の分布の時系列データと各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較するに際し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの代表的な幅方向厚み変動の分布、各厚み調整手段の操作量の代表的な幅方向操作量変動の分布をそれぞれ求め、前記所定の加工の完了後のシートの代表的な厚み変動の分布において相対的に凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量変動の分布とを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定することを特徴とする請求項6に記載のシートの製造方法。
【請求項1】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了前のシート幅方向厚み分布を前記シートにおけるシート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第1の厚み分布測定値の時系列データと、前記所定の加工の完了後に前記シートにおける前記シート流れ方向の異なる複数の位置において測定して得た第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較し、前記所定の加工の完了前の前記シートと完了後のシートとの幅方向の各部の位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後のシート幅方向対応位置を決定し、決定した前記シート幅方向対応位置に基づいて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法。
【請求項2】
前記第1の厚み分布測定値の時系列データと前記第2の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、前記第1の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記第2の厚み分布測定値の時系列データから前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布を求め、前記各代表的な幅方向厚み分布を比較することを特徴とする請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記所定の加工の完了前の代表的なシート幅方向厚み分布と前記所定の加工の完了後の代表的なシート幅方向厚み分布とを比較するに際し、前記いずれか一方の代表的な幅方向厚み分布において相対的に厚みの凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸が大きい箇所の位置ともう一方の厚み分布を比較することを特徴とする請求項2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記第2の厚み分布測定値の時系列データと前記第1の厚み分布測定値の時系列データとを比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項5】
前記加工の完了後のシートの代表的な幅方向厚み分布と前記加工の完了前のシートの代表的な幅方向厚み分布の両者を比較するに際し、両者の相互相関係数を演算し、演算した相互相関係数の最大値が閾値以上の場合にのみ厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置の対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて厚み制御を行うことを特徴とする請求項2または3に記載のシートの製造方法。
【請求項6】
複数個の厚み調整手段を備えたダイを用いて溶融材料をシート状に押出し、延伸または発泡を含む所定の加工を実施することで所望のシートとなすとともに、前記所定の加工の完了後の該シートの幅方向厚み分布を測定し、測定値に基づいて各測定位置に対応する前記厚み調整手段に加える操作量を計算し、該操作量によって前記厚み調整手段を操作してシート厚みを制御するシートの製造方法であって、前記所定の加工の完了後のシート幅方向厚み分布を測定して得た厚み分布測定値の時系列データとその間に与えた各厚み調整手段の操作量の時系列データとを記憶し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向厚み変動の分布の時系列データと、各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較し、前記所定の加工の完了後のシートの厚み変動の分布の時系列データにおいて相対的に凹凸が大きい時刻および幅方向箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量の変動の時系列データとを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定し、決定した該対応関係に基づいて、前記各厚み調整手段に対する前記所定の加工の完了後の前記シートにおけるシート幅方向対応位置を用いて厚み制御を行うことを特徴とするシートの製造方法。
【請求項7】
前記シート幅方向の厚み変動の分布の時系列データと各厚み調整手段の操作量の時系列データを比較するに際し、それぞれの前記時系列データの中から前記所定の加工の完了後の前記シートの代表的な幅方向厚み変動の分布、各厚み調整手段の操作量の代表的な幅方向操作量変動の分布をそれぞれ求め、前記所定の加工の完了後のシートの代表的な厚み変動の分布において相対的に凹凸が大きい箇所を抽出し、抽出した該凹凸の大きい箇所の位置と前記操作量変動の分布とを比較することにより前記各厚み調整手段と前記所定の加工の完了後の前記シートの幅方向位置との対応関係を決定することを特徴とする請求項6に記載のシートの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−30288(P2007−30288A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215480(P2005−215480)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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