説明

シートを両面印刷する印刷方法および両面刷り兼用印刷機

【課題】両面刷り兼用印刷機でシートを両面印刷する方法を改良して、表面印刷側に高い光沢度が得られるものを提供する。
【解決手段】各シート32a,32b,32cが両面刷り兼用印刷機31を通走する間に、各シートを、第1のステップで、両面刷り兼用印刷機の第1の胴13に搬送し、その際、第1の胴を第1の温度T13に温度調節して、第1のシート面33を印刷し、第2のステップで、両面刷り兼用印刷機の反転装置5を用いて反転し、第3のステップで、両面刷り兼用印刷機の第2の胴16に搬送し、その際、第2の胴を、第1の温度とは異なる第2の温度T16に温度調節し、第2のシート面34を印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを両面印刷する方法および両面刷り兼用印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
両面刷り兼用印刷機で裏面印刷する際に、既に印刷された表面からインキが圧胴に移る可能性がある。
【0003】
これに対処するために、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19716424号明細書において、反転装置の下流側の圧胴にシリコーンゴム層を設けることが提案されている。追加的に、胴は、28℃以下の温度に冷却可能である。冷却のために、胴の内側に、冷却媒体用の管路系を配置することができる。シリコーンゴム層は、インキ反発性の層として機能し、冷却は、インキ反発効果を向上する働きをする。
【0004】
印刷プロセスに生じる別の問題は、シートの不十分な乾燥である。
【0005】
米国特許第7913622号明細書に記載されているように、赤外吸収体を備えた処理手段によりインキの乾燥を促進する試みが成された。
【0006】
不十分な乾燥の問題に関して、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102007056899号明細書において、印刷機が記載されており、この印刷機では、シートが反転装置の上流側のコーティングユニット内で加熱される。シートは、コーティングユニットの加熱された圧胴との接触により、印刷機の印刷ユニットが有する温度以上に加熱される。圧胴を加熱するために、圧胴を、加熱された液体が貫流する。
【0007】
両面刷り兼用印刷機で印刷する際の別の問題は、シートの表面印刷側の不十分な光沢度にある。この問題に関しては、今まで満足できる程度の対処手段が見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19716424号明細書
【特許文献2】米国特許第7913622号明細書
【特許文献3】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102007056899号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の課題は、冒頭で述べたようなシートを両面印刷する印刷方法を改良して、表面印刷側に高い光沢度が得られるものを提供することである。
【0010】
さらに本発明の課題は、このような印刷方法を実施する印刷機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するための本発明の装置によれば、両面刷り兼用印刷機でシートを両面印刷する方法において、各シートが両面刷り兼用印刷機を通走する間に、各シートを、第1のステップで、両面刷り兼用印刷機の第1の胴に搬送し、その際、第1の胴を第1の温度に温度調節して、第1のシート面を印刷し、第2のステップで、両面刷り兼用印刷機の反転装置を用いて反転し、第3のステップで、両面刷り兼用印刷機の第2の胴に搬送し、その際、第2の胴を、第1の温度とは異なる第2の温度に温度調節し、第2のシート面を印刷する。
【0012】
好適には、第1の胴として圧胴を用いる。
【0013】
好適には、第1の胴は、シート搬送方向にみて反転装置の上流側に配置されたコーティングユニットの構成要素である。
【0014】
好適には、第1のステップで、各シートを、シート搬送方向にみて反転装置の上流側に配置された、オフセット印刷用の複数の印刷ユニットにおいて順次印刷する。
【0015】
好適には、第1の胴を、両面刷り兼用印刷機の圧胴の温度よりも高い第1の温度に加熱する。
【0016】
好適には、第2の胴として圧胴を用いる。
【0017】
好適には、第2の胴は、シート搬送方向にみて反転装置の下流側に配置されたオフセット印刷用の印刷ユニットの構成要素である。
【0018】
好適には、第3のステップで、各シートを、シート搬送方向にみて反転装置の下流側に配置されたコーティングユニットにおいてコーティングする。
【0019】
好適には、第2の胴を、両面刷り兼用印刷機の圧胴の温度よりも低い温度である第2の温度に冷却する。
【0020】
この課題を解決するための本発明の方法によれば、両面刷り兼用印刷機において、第1のシート面を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第1のユニットを備え、第1のユニットは、シート搬送のための第1の胴を備えており、第2のシート面を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第2のユニットを備え、第2のユニットは、シート搬送のための第2の胴を備えており、第1の温度に第1の胴を温度調節し、第1の温度とは異なる第2の温度に第2の胴を温度調節するための少なくとも1つの温度調節装置を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明による、両面刷り兼用印刷機においてシートを両面印刷する方法は、以下の方法ステップを有している。第1の方法ステップでは、両面刷り兼用印刷機を通走する間に、各シートは、両面刷り兼用印刷機の第1の胴に搬送され、その際、第1の胴は、第1の温度に温度調節される。第1の方法ステップでは、各シートの第1のシート面が印刷される。第2のステップでは、各シートは、両面刷り兼用印刷機を通走する間に、両面刷り兼用印刷機の反転装置により反転される。第3のステップでは、各シートは、両面刷り兼用印刷機を通走する間に、両面刷り兼用印刷機の第2の胴に搬送され、その際、第2の胴は、第1の温度とは異なる第2の温度に温度調節される。第3の方法ステップでは、各シートの第2のシート面が印刷される。
【0022】
このような方法により、第1のシート面に特に高い光沢度が得られる。
【0023】
本発明による方法の別の態様によれば、第1の胴として圧胴が用いられる。
【0024】
別の態様によれば、第1の胴は、シート搬送方向にみて反転装置の上流側に配置されたコーティングユニットの構成要素である。
【0025】
別の態様によれば、第1のステップで、各シートは、シート搬送方向にみて反転装置の上流側に配置されたオフセット印刷用の複数の印刷ユニットにおいて順次印刷される。
【0026】
別の態様によれば、第1の胴は、両面刷り兼用印刷機の圧胴の温度よりも高い第1の温度に加熱される。好適には、圧胴は、両面刷り兼用印刷機の、温度調節されない、つまり加熱も冷却も行われない圧胴である。
【0027】
別の態様によれば、第2の胴として圧胴が用いられる。
【0028】
別の態様によれば、第2の胴は、シート搬送方向にみて反転装置の下流側に配置されたオフセット印刷用の印刷ユニットの構成要素である。
【0029】
別の態様によれば、第2のステップで、各シートは、シート搬送方向にみて反転装置の下流側に配置されたコーティングユニットにおいてコーティングされる。
【0030】
別の態様によれば、第2の胴は、両面刷り兼用印刷機の圧胴の温度よりも低い温度である第2の温度に冷却される。好適には、圧胴は、温度調節されない、つまり加熱も冷却もされていない前述の圧胴である。
【0031】
本発明によるシートを両面印刷する両面刷り兼用印刷機は、第1のシート面を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第1のユニットを備え、第1のユニットは、シート搬送のための第1の胴を備えている。さらに両面刷り兼用印刷機は、第2のシート面を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第2のユニットを備えており、第2のユニットは、シート搬送のための少なくとも1つの第2の胴を備えている。さらに両面刷り兼用印刷機は、第1の温度に第1の胴を温度調節し、第1の温度とは異なる第2の温度に第2の胴を温度調節するための少なくとも1つの温度調節装置を備えている。
【0032】
本発明によれば、第1の胴を温度調節するための第1の温度調節装置および第2の胴を温度調節するための第2の温度調節装置が設けられており、同様に第1の胴および第2の胴を温度調節するための共通の温度調節装置が設けられている。
【0033】
別の構造および機能に関する好適な態様は、後述の実施の形態の説明および図面の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】相前後して配置された複数のユニットを備えたタンデム型の枚葉印刷機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、図面に基づいて、本発明を実施するための形態を詳説する。
【0036】
枚葉印刷機は、両面刷り兼用印刷機31であり、両面刷り兼用印刷機31の両面印刷運転時にシートを反転するための反転装置5を備えている。反転装置5は、両面印刷運転モードから、単なる表面印刷運転モードに切換可能であり、表面印刷運転モードでは、シートは、反転装置5により反転されることなく反転装置5を通走する。シート搬送方向15にみて反転装置5の上流側に、図示していないシートフィーダ、印刷ユニット1,2、コーティング(ニス引き)ユニット3および乾燥ユニット4が記載の順序で配置されている。シート搬送方向15にみて反転装置5の下流側に、印刷ユニット6,7,8,9、コーティングユニット10および図示していないシートデリバリが記載の順序で配置されている。印刷ユニット1,2,6〜9は、平版オフセット印刷ユニットである。コーティングユニット3,10は、オフセット印刷像に保護ラッカ、クリアラッカまたは同等のコーティング液を塗着するために用いられる。
【0037】
印刷ユニット1,2,6〜9およびコーティングユニット3,10は、それぞれシートを搬送する胴11,12,13,16,17,18,19,20を備えており、胴11,12,13,16,17,18,19,20は圧胴である。乾燥ユニット4も同様にシートを搬送する胴14を備えている。シートを搬送する別の胴は、圧胴と反転装置5との間に配置されている。胴11〜14ならびに16〜20に対応して、それぞれ温度調節装置21,22,23,24,26,27,28,29,30が配置されており、温度調節装置21,22,23,24,26,27,28,29,30により、温度調節流体が各胴を通って循環される。温度調節装置21〜24,26〜30は、反転装置5の上流側の胴11〜14のための共通の温度調節装置と、反転装置5の下流側の胴16〜20のための共通の温度調節装置とにまとめるか、または同等の構成に群ごとにまとめることができる。符号32a,32b,32cで、両面刷り兼用印刷機31を通走する間の同一のシートの異なる位置を示している。
【0038】
シートを印刷する際の進行は以下の通りである。先ず印刷ユニット1,2において、シートの第1のシート面(表面)33にそれぞれオフセット印刷−印刷像が設けられる。次いで第1のシート面33は、コーティングユニット3においてコーティング(ニス引き)され、オフセット印刷−印刷像に光沢兼保護層が設けられる。コーティングユニット3は、反転装置5の上流側で最後に印刷またはコーティングを行うユニットである。シート32aは、コーティングに際して回転する胴13に沿って加熱され、その際、シート32aは、温度調節装置23により温度T13に加熱される。胴13の温度T13は、約30℃であってよい胴11,12,14,17〜20の温度T11=T12=T14=T17=T18=T19=T20よりも最低10K、最高30K高い。コーティングのあとで、第1のシート面33の表面印刷−印刷像は、乾燥ユニット4において熱気または暖気および/または赤外放射により乾燥され、その際、シートは、胴14を通って搬送される。
【0039】
シート32bは、次に反転装置5を通走し、反転装置5内で反転される。
【0040】
そのあとで反転されたシート32cの第2のシート面(裏面)34に、印刷ユニット6〜9においてそれぞれオフセット印刷−印刷像が設けられる。印刷ユニット6においてシート32を印刷する際に、シート32cは、胴16に沿って搬送され、その際、シート16は、温度調節装置26により温度T16に冷却される。胴16の温度T16は、約30℃であってよい胴11,12,14,17〜20の共通の温度T11=T12=T14=T17=T18=T19=T20よりも最低10K、最高30K低い。
【0041】
たとえば表面印刷に関与する胴13は、55℃に加熱され、同時に裏面印刷に関与する胴16は15℃に冷却される。加熱された胴13と冷却された胴16との間の温度差は、最低20Kおよび最高50Kである。印刷ユニット6は、反転装置5の下流側で第1の印刷またはコーティングを行うユニットである。ユニット6は、反転装置5に直接に続いている。
【0042】
そのあとでシート32c上の裏面−印刷像は、コーティングユニット10においてコーティングされ、第2のシート面34上の印刷像に光沢兼保護層が設けられる。
【0043】
運転方法および印刷方法の様々な変化態様が考えられる。
【0044】
1つの態様では、コーティングユニット3の胴13だけでなく、追加的に印刷ユニット1,2の胴11,12および/または乾燥ユニット4の胴14が約40℃〜60℃の温度に加熱される。したがってシート搬送方向15にみて反転装置5の上流側に位置する少なくとも1つのユニット1〜4または複数のユニット1〜4または全てのユニット1〜4におけるシートを搬送する胴が、上述の比較的高い温度に加熱されるかもしくは暖められる。
【0045】
上述の態様とは別にまたは上述の態様と同時に行うことができる別の1つの態様では、印刷ユニット6の胴16だけでなく、追加的に印刷ユニット7〜9の胴17,18,19および/またはコーティングユニット10の胴20が約10℃〜20℃の温度に冷却される。
【符号の説明】
【0046】
1,2 印刷ユニット、 3 コーティングユニット、 4 乾燥ユニット、 5 反転装置、 6〜9 印刷ユニット、 10 コーティングユニット、 11〜14 胴、 15 シート搬送方向、 16〜20 胴、 21〜24 温度調節装置、 26〜30 温度調節装置、 31 両面刷り兼用印刷機、 32a,32b,32c シート、 33 第1のシート面、 34 第2のシート面、 T11〜T20 温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面刷り兼用印刷機(31)でシート(32a,32b,32c)を両面印刷する方法において、各シート(32a,32b,32c)が両面刷り兼用印刷機(31)を通走する間に、各シート(32a,32b,32c)を、
−第1のステップで、両面刷り兼用印刷機(31)の第1の胴(13)に搬送し、その際、第1の胴(13)を第1の温度(T13)に温度調節して、第1のシート面(33)を印刷し、
−第2のステップで、両面刷り兼用印刷機(31)の反転装置(5)を用いて反転し、
−第3のステップで、両面刷り兼用印刷機(31)の第2の胴(16)に搬送し、その際、第2の胴(16)を、第1の温度(T13)とは異なる第2の温度(T16)に温度調節し、第2のシート面(34)を印刷する、
ことを特徴とする、両面刷り兼用印刷機でシートを両面印刷する方法。
【請求項2】
第1の胴(13)として圧胴を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の胴(13)は、シート搬送方向(15)にみて反転装置(5)の上流側に配置されたコーティングユニット(3)の構成要素である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第1のステップで、各シート(32a,32b,32c)を、シート搬送方向(15)にみて反転装置(5)の上流側に配置された、オフセット印刷用の複数の印刷ユニット(1,2)において順次印刷する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第1の胴(13)を、両面刷り兼用印刷機(31)の圧胴(11,12)の温度(T11,T12)よりも高い第1の温度(T13)に加熱する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
第2の胴(16)として圧胴を用いる、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第2の胴(16)は、シート搬送方向(15)にみて反転装置(5)の下流側に配置されたオフセット印刷用の印刷ユニット(6)の構成要素である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
第3のステップで、各シート(32a,32b,32c)を、シート搬送方向(15)にみて反転装置(5)の下流側に配置されたコーティングユニット(10)においてコーティングする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
第2の胴(16)を、両面刷り兼用印刷機(31)の圧胴(17,18,19)の温度(T17,T18,T19)よりも低い温度である第2の温度(T16)に冷却する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
特に請求項1から9までのいずれか1項記載の印刷方法を実施するためのシート(32a,32b,32c)を両面印刷する両面刷り兼用印刷機(31)において、
−第1のシート面(33)を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第1のユニット(3)を備え、該第1のユニット(3)は、シート搬送のための第1の胴(13)を備えており、
−第2のシート面(34)を印刷、コーティングまたは乾燥するための少なくとも1つの第2のユニット(6)を備え、該第2のユニット(6)は、シート搬送のための第2の胴(16)を備えており、
−第1の温度(T13)に第1の胴(13)を温度調節し、第1の温度(T13)とは異なる第2の温度(T16)に第2の胴(16)を温度調節するための少なくとも1つの温度調節装置(23,26)を備える、
ことを特徴とする、両面刷り兼用印刷機。

【図1】
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【公開番号】特開2012−232585(P2012−232585A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101575(P2012−101575)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, D−69115 Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】