説明

シート材料の殺菌用電子線照射装置

【課題】紙パックを製作するシート材料の両面を、減圧雰囲気下で低エネルギーの電子線照射手段により効果的に滅菌処理が行え、しかもオゾンの発生もないシート材料の殺菌用電子線照射装置を提供する。
【解決手段】シート材料1を連続して搬送する搬送路10に、シート材料1の両面と対向するように電子線照射手段20を配置し、この電子線にてシート材料1の両面を滅菌処理する。搬送路10は、シート材料1を取り囲む中空箱状にし、この一部に電子線照射区画11を設け、減圧手段16により所定の減圧状態を維持させている。また、電子線照射手段20を配置する電子線照射区画11は、これに隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路10に、それぞれ少なくとも1つの小区画12を設け、小区画12を減圧する減圧手段16を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシート材料の殺菌用電子線照射装置に係り、特に飲料等の流体状食品を充填する容器の形成に用いるシート材料を、電子線で殺菌処理するのに好適なシート材料の殺菌用電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、牛乳やジュース類の如き飲料等の流体状食品を充填するには、紙製容器(以下、「紙パック」と称する。)が多く用いられている。紙パックに使用するシート材料は、例えばパルプ等から形成する厚紙に、少なくとも流体状食品と接する容器内面に熱シール可能な樹脂製薄層を組み合せ、或いはより流体状食品の密封状態を維持できるアルミニュウム箔層を組み合せて形成されている。
【0003】
紙パックを用いる食品は、良く知られているように供給装置に保持したロール状のシート材料を、連続して紙パックの成型工程側に供給し、所定の寸法に裁断したシート材料を成型手段において所望の形状の紙パックに折り曲げて形成してから、これ以降の充填工程で紙パック内に流体状食品を充填した後、充填口部分を密封して完成し、製造工程外に搬出している。
【0004】
紙パックに使用するシート材料は、供給装置から成型工程側に搬送するまでの間に、滅菌処理を施して雑菌付着のない無菌状態で後工程側に供給している。シート材料の滅菌処理は、従来では薬剤を用いたが、設備が大掛かりとなる上に、薬剤がシート材料に残留する恐れがあるから、薬剤を完全に除去するための工程を必要とするため、流体状食品に使用できる滅菌処理の装置の改善が望まれていた。
【0005】
このため、最近ではシート材料を薬剤で滅菌処理する装置に代えて、小型化できる電子線照射手段の電子線を用い、高速で搬送されるシート材料の両面を、電子線により効果的に滅菌処理できる装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1のシート材料の殺菌用電子線照射装置では、大気中の搬送路の一部に、シート材料を挟んで対向するように二つの電子線照射手段を配置し、高速で移動するシート材料に向けて各電子線照射手段から電子線を照射し、電子線でシート材料の両面を滅菌処理してから、後工程側に搬送している。そして、100kV以下の電圧で加速する低エネルギーの電子線を発生する各電子線照射手段は、それぞれ電子線発生源を容器で包囲し、電子線発生源から放出されるX線対策のために、容器内面に鉛板等の放射線遮蔽材を取り付けている。
【0007】
【特許文献1】特表2004−524895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来のシート材料の殺菌用電子線照射装置では、シート材料の両面を電子線で効果的に滅菌処理できるが、電子線照射手段を大気中で使用するため、ある程度の大きなエネルギーを持つ電子線での滅菌処理となるから、より低エネルギーの電子線照射手段を使用することができない欠点がある。また、大気中で使用する電子線照射手段は、この電子発生源から放出されるX線を遮蔽する放射線遮蔽材を取り付けねばならず、装置全体が大型化するため、シート材料の搬送路に適切に配置できなくなってしまう恐れがある。
【0009】
更に、大気中で使用の電子線照射手段は、プラズマが発生しやすいから、このプラズマで大気中の酸素からオゾン(O)が生成されてしまうことになる。生成されたオゾンは、滅菌処理したシート材料に付着してしまい、シート材料はオゾン臭がすることから、流体状食品用紙パックとして不適切となる。このオゾン臭の除去のため、電子線の照射工程中に窒素ガスを吹き付け、照射室内の酸素濃度を低くするなどの対策が必要になり、その分装置が複雑化する問題がある。
【0010】
本発明の目的は、紙パックを製作するシート材料の両面を、減圧雰囲気下で低エネルギーの電子線照射手段によって効果的に滅菌処理が行え、しかもオゾンの発生もないシート材料の殺菌用電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置は、シート材料を連続して搬送する搬送路に、シート材料の両面と対向するように電子線照射手段を配置し、前記各電子線照射手段の電子線にて前記シート材料の両面を滅菌処理する際に、前記搬送路はシート材料を取り囲む中空箱状とし、前記搬送路の一部に電子線照射区画を設けて電子線照射手段を配置し、前記電子線照射区画は減圧手段により所定の減圧状態を維持させ、前記電子線照射区画に隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路に、それぞれ少なくとも1つの小区画を設け、前記各小区画を減圧する減圧手段を備えて構成したことを特徴としている。
【0012】
望ましくは、前記小区画は、搬送路内に固定する隔壁とシート材料を搬送するローラーにて構成したことを特徴としている。
【0013】
また、別の本発明におけるシート材料の殺菌用電子線照射装置は、シート材料を連続して搬送する搬送路に、シート材料の両面と対向するように電子線照射手段を配置し、前記各電子線照射手段の電子線にて前記シート材料の両面を滅菌処理する際に、前記搬送路はシート材料を取り囲む中空箱状とし、前記搬送路の一部に電子線照射区画を設けて電子線照射手段を配置し、前記電子線照射区画は減圧手段により所定の減圧状態を維持させ、前記電子線照射区画に隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路に、それぞれ少なくとも1つの小区画を設け、前記各小区画を減圧する減圧手段を備え、かつ少なくとも前記電子線照射区画から最も離れた搬出側の小区画より外側の中空箱状の搬送路内にガス区画を設け、前記ガス区画に大気圧より高い圧力の清浄空気を供給する清浄空気供給手段を備えて構成したことを特徴としている。
【0014】
望ましくは、前記小区画及びガス区画は、搬送路内に固定する隔壁とシート材料を搬送するローラーにて構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のようにシート材料の殺菌用電子線照射装置を構成すれば、減圧状態の電子線照射区画内で、電子線を照射してシート材料の両面を滅菌処理するので、低エネルギーの電子線照射手段を用いて良好に行うことができる。また、減圧状態で照射処理を行うため、電子線照射手段においてオゾンの発生もないので、食品用のシート材料の滅菌処理に好適である。しかも、電子線照射手段ではX線の発生も著しく少ないので、電子線照射区画や電子線照射手段のX線遮蔽材も簡略化或いは省略でき、経済的に製作することができる。
【0016】
また、本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置では、更に少なくとも電子線照射区画から最も離れた搬出側の小区画よりも外側の中空箱状の搬送路内にガス区画を設け、このガス区画に清浄空気供給手段を備えて清浄空気を供給する構成にするので、シート材料を搬出する側の外部から、雑菌が中空箱状の搬送路中に入る恐れがなくなる。このため、シート材料は電子線による滅菌処理した後、この状態を良好に維持したまま後工程に搬送することができから、流体状食品を充填する紙パックの製造ラインに適用するのに極めて効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置は、シート材料を連続して搬送する搬送路に、シート材料の両面と対向するように電子線照射手段を配置し、この各電子線照射手段の電子線にてシート材料の両面を滅菌処理する。搬送路は、シート材料を取り囲む中空箱状とし、しかもこの搬送路の一部に設ける電子線照射区画に電子線照射手段を配置し、また電子線照射区画は、減圧手段により所定の減圧状態を維持させる。しかも、電子線照射区画に隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路に、それぞれ少なくとも1つの小区画を設け、これらの各小区画に内部を減圧する減圧手段を備えている。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置を、図1から図3に示す例で説明する。この図1は、流体状食品を充填する紙パックの製造工程中の一部であり、搬送路10はステンレス鋼材等の金属板を用いて、シート材料を取り囲む中空箱状に形成し、内部を大気と遮断できる構造としている。この中空箱状の搬送路10内を、供給装置(図示せず)からのシート材料が高速で搬送される。
【0019】
搬送路10は、その一部に電子線照射区画11を設け、電子線照射区画11は排気ポンプP等を有する排気系統17で真空排気装置等の減圧手段16と接続しており、これによって電子線照射区画11内を大気圧より低く減圧された状態にしている。また、電子線照射区画11に隣接するシート材料1の搬入側及び搬出側の搬送路10には、それぞれ少なくとも1つの小区画12を形成しており、各小区画12は排気ポンプP等を有する排気系統18で減圧手段16と接続している。
【0020】
小区画12は、図2から図4で中空箱状の搬送路10を具体的に示すように、例えば搬送路10内に固定する上下の隔壁19と、モータMで駆動するローラー20によって、微小間隙を有した状態で区画しすることができるし、或いは特定の小区画12は隔壁19のみで微小間隙を有した状態で区画することもできる。
【0021】
小区画12の形成に用いる隔壁19は、図3に示す例では、シート材料1を移送するローラー20と微小間隙を介して対向する面は大きな加工を施していないが、図4に示す例での隔壁19は、ローラー20と微小間隙を介して対向する端面に円弧部材19Aを設けており、円弧部材19Aの円弧部分を大きくすることで、図3に比べてローラー20との間に形成される微小間隙の幅を、より大きな範囲に調整できるようにしている。
【0022】
このような電子線照射区画11に隣接して少なくとも1つの小区画12を設けると、ラビリンスシール構造の働きと同様に、大気圧の外部までの流路抵抗が大きくなるので、特別にシール等を使用することなく区画することができる。
【0023】
このため、シート材料1の搬入側及び搬出側に、それぞれ少なくとも1つの小区画12を設けると、小区画12の働きで差動排気構成になり、電子線照射区画11は効果的に所定圧力の減圧状態を効果的に維持することができる。なお、シート材料1の搬入側及び搬出側に設ける小区画12は、電子線照射区画11内の減圧状態を所定の範囲に維持できる数を、適宜選定して設けるようにする。
【0024】
図1の殺菌用電子線照射装置の例では、シート材料1の搬入側に3つの小区画12を設けたものであり、この場合は小区画12が電子線照射区画11に近づくしたがって、大気圧から次第に所望の負圧までの状態の圧力調整範囲となる。また、同様にシート材料1の搬出側に3つの小区画12を設けており、この場合は小区画12が電子線照射区画11から離れるにしたがって、所望の負圧から次第に大気圧までの状態となり、この部分を圧力調整範囲にすることができる。
【0025】
排気系統17と排気系統18を、減圧手段16と接続して強制排気することにより、電子線照射区画11及びシート材料1の搬入側及び搬出側の各小区画12を大気圧より低くし、特に電子線照射区画11内は各小区画12のために、所定の減圧状態を維持することができる。電子線照射区画11内は、後述する如く電子線の照射を良好にするため、望ましくは100から10,000Paの減圧状態を維持できるように構造とする。
【0026】
電子線照射区画11の両側には、シート材料1を挟んで対向するように二つの電子線照射手段14を配置し、電源装置(図示せず)と接続している。これら電子線照射手段14の電子線発生源15からの電子線を、破線矢印で示す如くグラファイトシート等の薄膜を設ける照射窓14Aから照射する。
【0027】
電子線は、減圧状態を維持した電子線照射区画11内のシート材料1に向けて照射されて、シート材料1の両面を滅菌処理する。なお、図1の電子線照射区画11は、搬送路10の幅寸法のままとした例であるが、これよりも寸法を縮小して二つの電子線照射手段14間を狭め、より低エネルギーの電子線照射手段を用いて、シート材料1の両面を良好に滅菌処理することもできる。
【0028】
電子線照射区画11が減圧状態に維持されていると、電子線照射手段14からの電子線の減衰が大幅に軽減されるので、低い加速電圧で加速した低エネルギーの電子線でも、大気中に比べて電子の飛程(飛行距離)が長くなり、しかも電子線の発散量が少なく、シート材料1の両面を効果的に照射滅菌することができる。
【0029】
本発明における電子線照射手段14の電子線の加速電圧は、30から120kV程度、望ましくは70kV以下である。このような電子線照射手段14を用いると、電子線発生源15でX線の発生が少なくなるので、電子線照射区画11や電子線照射手段14部分は、X線遮蔽材を簡略化、或いは省略することができる。
【0030】
減圧手段16は、図1の例では電子線照射区画11とシート材料1の搬入側及び搬出側に設ける小区画12の排気系統17、18の全てを接続し、1台で排気を行っている。この減圧手段16は、小区画12の微小間隙から外部に漏れる量や、1台当りの排気容量を考慮して使用し、電子線照射区画11と搬入側及び搬出側の少なくとも1つの小区画12とは、それぞれに別の排気手段を備えて接続してもよく、また適宜共用することができる。
【0031】
また本発明では、シート材料1の搬出側で大気圧に近い側となる小区画12に隣接して、ガス区画13を設けている。このガス区画13は、例えば上記の小区画12と同様に隔壁23とローラー24で区画するものである。そして、ガス区画13は送風ポンプFPを有する供給系統22で、適切なフィルタを備える清浄空気発生装置等の清浄空気供給手段21と接続し、ガス区画13内を大気圧と同程度かそれ以上の圧力となるようにしている。
【0032】
搬送路10にガス区画13を設けると、滅菌処理したシート材料1が送り出される搬出側から、雑菌が圧力調整範囲の小区画12側に進入することがなくなるから、滅菌処理後のシート材料1に雑菌が付着する恐れもなくなる。
【0033】
したがって、シート材料1は、滅菌した状態を良好に維持したまま後工程である、次の紙パックの成型工程や、流体状食品を充填する充填工程に搬送でき、紙パック食品の製造ラインに支障なく適用することができる。
【0034】
ガス区画13は、上記のようにシート材料1の搬出側の小区画12に隣接して設けるだけでなく、シート材料1の搬入側の小区画12に隣接するように設けることもできる。そして、このガス区画13も同様に、送風ポンプFPを有する供給系統22により、清浄空気供給手段21と接続し、ガス区画13内を大気圧と同程度かそれ以上の圧力とすることで、同様に搬入側の小区画12に雑菌の侵入するのを阻止することができるができる。
【0035】
なお、搬入側の小区画12を経て移動するシート材料1は、雑菌が付着したとしても、電子線照射区画11で滅菌処理されるから、これを考慮して搬入側のガス区画13は、適宜設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置に用いる中空箱状の搬送路の一例を示す概略縦断面図である。
【図3】図2に示す中空箱状の搬送路の一例である側面断面図である。
【図4】図2に示す中空箱状の搬送路の別例である側面断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…シート材料、10…搬送路、11…電子線照射区画、12…小区画、13…ガス区画、14…電子線照射手段、16…減圧手段、17、18…排気系統、19…隔壁、20…ローラー、21…清浄空気供給手段、22…供給系統、P…排気ポンプ、M…モータ、FP…送風ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材料を連続して搬送する搬送路に、シート材料の両面と対向するように電子線照射手段を配置し、前記各電子線照射手段の電子線にて前記シート材料の両面を滅菌処理するシート材料の殺菌用電子線照射装置において、前記搬送路はシート材料を取り囲む中空箱状とし、前記搬送路の一部に電子線照射区画を設けて電子線照射手段を配置し、前記電子線照射区画は減圧手段により所定の減圧状態を維持させ、前記電子線照射区画に隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路に、それぞれ少なくとも1つの小区画を設け、前記各小区画を減圧する減圧手段を備えて構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。
【請求項2】
請求項1において、前記小区画は、搬送路内に固定する隔壁とシート材料を搬送するローラーにて構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。
【請求項3】
シート材料を連続して搬送する搬送路に、シート材料の両面と対向するように電子線照射手段を配置し、前記各電子線照射手段の電子線にて前記シート材料の両面を滅菌処理するシート材料の殺菌用電子線照射装置において、前記搬送路はシート材料を取り囲む中空箱状とし、前記搬送路の一部に電子線照射区画を設けて電子線照射手段を配置し、前記電子線照射区画は減圧手段により所定の減圧状態を維持させ、前記電子線照射区画に隣接するシート材料の搬入側及び搬出側の中空箱状の搬送路に、それぞれ少なくとも1つの小区画を設け、前記各小区画を減圧する減圧手段を備え、かつ少なくとも前記電子線照射区画から最も離れた搬出側の小区画より外側の中空箱状の搬送路内にガス区画を設け、前記ガス区画に清浄空気を供給する清浄空気供給手段を備えて構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。
【請求項4】
請求項3において、前記小区画及びガス区画は、搬送路内に固定する隔壁とシート材料を搬送するローラーにて構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−230668(P2008−230668A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74329(P2007−74329)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】