説明

シート材料の殺菌用電子線照射装置

【課題】照射処理室の減圧状態を良好に維持でき、小型化して経済的に製作できるシート材料の殺菌用電子線照射装置を提供する。
【解決手段】シート材料1を搬送する搬送路に、電子線照射手段12を備える照射処理室を設置し、照射処理室10には内部を減圧状態にする減圧手段を有する排気系統17を連結している。照射処理室10に形成したシート材料の搬入口10A及び搬出口10Bに、減圧維持調整手段21、22を気密に取り付ける。各減圧維持調整手段21、22は、筐体23内にシート材料1を押圧挟持するように一対の挟持枠体24を配置し、この挟持枠体24の一方を固定側とすると共に、他方を可動側として加圧移動手段により筐体23内を進退できるようにしている。各挟持枠体24は、連続させた複数の子枠25と、各子枠内にそれぞれ回転可能に配置する小径ローラー26からなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシート材料の殺菌用電子線照射装置に係り、特にシート材料を搬送する途中で、減圧雰囲気の照射処理室で電子線により殺菌処理するのに好適なシート材料の殺菌用電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体状食品を充填する紙パックや即席食品用の樹脂フィルム袋に使用するシート材料は、供給装置から成型工程側に搬送するまでの間に、滅菌処理を施して雑菌付着のない無菌状態で後工程側に供給することが行われている。
【0003】
通常、シート材料の滅菌処理は、薬剤を用いた装置とすると、設備が大掛かりとなり、しかも薬剤がシート材料に残留する恐れがあるため、薬剤を完全に除去せねばならない等の種々の問題が生じる。このため、シート材料の滅菌処理用として、電子線照射装置の電子線照射手段からの電子線を活用し、電子線の照射でシート材料面を滅菌処理するようになってきている。
【0004】
例えば、特許文献1の殺菌用電子線照射装置では、搬送路中に二つの電子線照射手段を配置し、シート材料が両電子線照射手段間を搬送されるようにして、電子線照射手段からの電子線をシート材料の各面に照射させ、大気中での移動中に電子線で滅菌処理を行っている。この装置の電子線照射手段は、100kV以下の電圧で加速する低エネルギーの電子線を発生するものを使用している。
【0005】
上記の装置を使用すると、小型化した装置で搬送されてくるシート材料の両面を、連続して電子線により効果的に滅菌処理できる。しかし、大気中における電子線の滅菌処理では、電子線の飛程を考慮してある程度の大きなエネルギーを持つ電子線が発生する電子線発生源を備えた電子線照射手段が必要になる。大気中で電子線の照射をすると、大量のオゾンが発生するため、オゾンを除去する処理設備などを大掛かりにせねばならない問題が生じてくる。
【0006】
このため、特許文献2に記載されているように、10−3Pa以下の減圧状態とする照射処理室内で、容器やシート材料等の処理対象物に対して電子線照射手段から電子線を照射し、滅菌処理する電子線照射装置が提案されている。
【0007】
この電子線照射装置は、容器の滅菌処理を行うときには、照射処理室内に容器を配置してから、内部を所定値まで減圧してから電子線照射手段からの電子線で滅菌処理を行っている。また、シート材料の滅菌処理を行うときは、減圧状態を維持する照射処理室内に連続搬送し、移動中にシート材料の電子線による滅菌処理を行って、外部に搬出するものである。
【0008】
そして、シート材料の処理に用いる照射処理室は、減圧状態を維持する必要上、照射処理室の搬入側及び搬出側に直列に予備室を設けている。これら予備室は、シート材料が通過できる程度の微少なギャップを有するラビリンスシール構造、より具体的には隔壁とギャップローラーを多段に設けて真空漏れを防ぐ構造にし、照射処理室内を所定の減圧状態を維持している。
【0009】
【特許文献1】特表2004−524895号公報
【特許文献2】特開2007−113936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2のシート材料の殺菌用電子線照射装置は、照射処理室の搬入側及び搬出側に直列に予備室を設け、各予備室内を隔壁とギャップローラーを多段にしたラビリンスシール構造とすると、構造が複雑で大型化して経済的に製作できなくなる恐れがある。
【0011】
また、処理対象のシート材料が支障なく通過でき、かつ減圧状態を維持するラビリンスシール機能を満足させるには、各ギャップの調整に工夫を要するし、高速で搬送するギャップローラー等を含む駆動部の構成が複雑で装置の製作を容易に行えない欠点がある。
【0012】
しかも、隔壁とギャップローラーを用いた多段のラビリンスシール構造では、滅菌処理の準備作業の際に、シート材料を搬入側の予備室を通り、照射処理室を経て搬出側の予備室に至るように配置するには簡単に行えず、多くの時間が必要となってしまう使用上の欠点もある。
【0013】
本発明の目的は、照射処理室の減圧状態を効果的に維持でき、小型化して経済的に製作できるシート材料の殺菌用電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、シート材料を搬送する搬送路に、電子線照射手段を備える照射処理室を設置し、前記照射処理室に内部を減圧状態にする減圧手段を有する排気系統を連結したシート材料の殺菌用電子線照射装置であって、前記照射処理室に形成したシート材料の搬入口及び搬出口部分に気密に取り付ける減圧維持調整手段を備え、前記各減圧維持調整手段は筐体内にシート材料を押圧挟持するように一対の挟持枠体を配置し、前記挟持枠体の一方を固定側とすると共に、前記挟持枠体の他方は可動側として加圧移動手段により筐体内を進退可能に構成したことを特徴としている。
【0015】
好ましくは、前記筐体内に配置する挟持枠体は、連続した複数の子枠と、前記各子枠内にそれぞれ回転可能に配置する小径ローラーとにより構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のようにシート材料の殺菌用電子線照射装置を構成すれば、シート材料の搬入口及び搬出口に取り付ける減圧維持調整手段により、照射処理室内を減圧状態に維持することができるし、減圧維持調整手段を簡単な構造にできるため、装置全体を小型化して経済的に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置は、シート材料を搬送する搬送路に、電子線照射手段を備える照射処理室を設置し、この照射処理室は内部を減圧状態にする減圧手段を有する排気系統を連結している。照射処理室に形成したシート材料の搬入口及び搬出口に、減圧維持調整手段を気密に取り付けており、これら減圧維持調整手段は筐体内にシート材料を押圧挟持するように一対の挟持枠体を配置する。一対の挟持枠体は、その一方を固定側とすると共に、他方を可動側として加圧移動手段により筐体内を進退可能に構成する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置を、図1に示す実施例で説明する。
シート材料1を搬送する搬送路中に、電子線で滅菌処理を行う照射処理室10を設置している。
【0019】
照射処理室10は、架台2上に載置されており、照射処理室10の内部にはシート材料1用のフリーローラー14、15を設けると共に、上面に電子線照射手段12を取り付けている。電子線照射手段12は、内部の電子線発生源(図示せず)で電子線EBを発生させ、電子線EBを照射窓11から移動中のシート材料1に対して照射し、連続して滅菌処理を実施する。
【0020】
照射処理室10及び電子線照射手段12は、所定の減圧状態とするため、それぞれ真空ポンプVP等の減圧手段を有する排気系統17、18を連結している。また、照射処理室10及び電子線照射手段12には、X線遮蔽部(図示せず)が含まれている。
【0021】
この例では、右側から水平方向に送られてくるシート材料1を、照射処理室10の下面に至る垂直方向に搬送方向を変えるため、架台2内の搬送側及び搬出側の双方にフリーローラー13、16を設けており、これによりシート材料1が搬入口10Aから照射処理室10内を通り、搬出口10Bを通りフリーローラー16で水平方向に変え、左側の次の工程に搬送する構成にしている。
【0022】
そして、照射処理室10は定められた減圧状態を維持するため、搬入口10A及び搬出口10B部分に、本発明により左右を対象にした同様な構造の減圧維持調整手段21、22を気密に取り付けている。
【0023】
減圧維持調整手段21、22は、排気系統17を連結した照射処理室10が、減圧状態に維持されていると、電子線照射手段14から照射する電子線の減衰が大幅に軽減され、低い加速電圧で加速した低エネルギーの電子線によるシート材料1の滅菌処理を効果的に行うために取り付けて使用する。
【0024】
上記したシート材料の殺菌用電子線照射装置は、照射処理室10の下面に搬入口及び搬出口を形成し、これら搬入口10A及び搬出口10B部分に減圧維持調整手段21、22を気密に取り付け、載置する架台2内の空間を有効に活用しているから、装置全体の幅寸法を縮小して製作できる。
【0025】
各減圧維持調整手段21、22は、照射処理室10の下面に形成した搬入口10A或いは搬出口10Bを取り囲むように筐体23を気密に固定し、内部に一対の挟持枠体24を配置している。
【0026】
一対の挟持枠体24は、その一方を筐体23内に配置するだけの固定側に、他方が筐体23内を移動できるように配置する可動側としている。そして、双方の挟持枠体24で、シート材料1の両面を押圧して挟持することにより、シート材料1を搬送した際に照射処理室10の密封性を高め、所定の減圧状態を維持できる構造にする。
【0027】
減圧維持調整手段21について、図2を用いてより具体的に説明すると、筐体23内の挟持枠体24は、連続させて形成した複数の子枠25内に、それぞれ小径ローラー26を回転可能に配置している。図の例では、挟持枠体24を連続させた3つの子枠25に、それぞれ小径ローラー26を配置して構成したものであるが、子枠25及び小径ローラー26の数は、後述するように照射処理室10の高真空状態の維持に活用するものであるから、これを考慮して適宜選定する。
【0028】
そして、固定側の挟持枠体24(図中右)は、各小径ローラー26を例えばサーボモータ等の一つの駆動手段(図示せず)と、タイミングベルトや歯車機構等の同期手段(図示せず)とを用いて同期駆動し、各小径ローラー26を同期回転させてシート材料1の搬送に活用している。
【0029】
また、可動側の挟持枠体24(図中左)は、筐体23に設けるエアーシリンダー27やリニアブッシュと称される案内ガイド28等からなる加圧移動手段により、筐体23内をシート材料1に対して進退できるように配置している。
【0030】
上記した如くシート材料1は、左右の挟持枠体24にて搬送可能に所定の押圧力で挟持されるから、照射処理室10の搬入口10Aや搬出口10Bから減圧維持調整手段21、22を経て漏れ出る量を大幅に減少させ、減圧状態を維持することができる。このため、照射処理室10は真空ポンプVPを有する排気系統17の一つで減圧状態を効果的に集中管理できる。また、挟持枠体24を加圧移動手段で進退できる構成にしているから、シート材料1の処理開始時や事故時の掛け通し作業が容易に行えるし、押圧力の変更で気密性を調整することができる。
【0031】
なお、挟持枠体24に用いる各小径ローラー26は、表面に弾力性のある例えばウレタン樹脂を被覆層を形成し、シート材料1の搬送時の空転を防止、及び減圧維持調整手段21部分の気密性の維持に役立てるようにする。
【0032】
照射処理室10の搬入口10A及び搬出口10Bは、上記したように照射処理室10の下面に形成するだけでなく、装置を据付けて使用する場所に応じて適宜変更でき、例えばシート材料1を直線的に搬送したい時には、照射処理室10の側壁面に形成することができる。この場合、搬入口10A及び搬出口10B部分にそれぞれ気密に取り付ける減圧維持調整手段21、22は、図2の相当ものを横置することで一対の挟持枠体24を上下に配置し、水平方向に搬送するシート材料1を押圧して挟持し、照射処理室10内が所定の減圧状態を維持できる構成にする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例であるシート材料の殺菌用電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明のシート材料の殺菌用電子線照射装置に用いる減圧維持手段の一例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…シート材料、2…架台、10…照射処理室、10A…搬入口、10B…搬出口、12…電子線照射手段、13〜16…フリーローラー、17、18…排気系統、21、22…減圧維持調整手段、23…筐体、24…挟持枠体、25…子枠、26…小径ローラー、27…エアーシリンダー、28…リニアブッシュ、EB…電子線、VP…真空排気ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材料を搬送する搬送路に、電子線照射手段を備える照射処理室を設置し、前記照射処理室に内部を減圧状態にする減圧手段を有する排気系統を連結したシート材料の殺菌用電子線照射装置において、前記照射処理室に形成したシート材料の搬入口及び搬出口部分に気密に取り付ける減圧維持調整手段を備え、前記各減圧維持調整手段は筐体内にシート材料を押圧挟持するように一対の挟持枠体を配置し、前記挟持枠体の一方を固定側とすると共に、前記挟持枠体の他方は可動側として加圧移動手段により匡体内を進退可能に構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。
【請求項2】
請求項1において、前記筐体内に配置する挟持枠体は、連続した複数の子枠と、前記各子枠内にそれぞれ回転可能に配置する小径ローラーとにより構成したことを特徴とするシート材料の殺菌用電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−261633(P2009−261633A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114723(P2008−114723)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】