説明

シート状ワークの銅めっき装置および方法

【課題】前処理としての化学めっきと電気めっきとのあいだで複数列(2〜10列)に配列搬送されるワークの再配置を不要とするシート状ワークの銅めっき装置を提供する。
【解決手段】ワークホルダ23に取り付けられたワーク20が浸漬される化学めっき槽8a,8bと、不溶性陽極31が収容された陽極室30が所定の極間ピッチPaで配置され、上記各ワーク20に対して銅めっきする電気めっき槽10とを備え、ワークホルダ23に所定のワーク間ピッチPwで取り付けられた各ワーク20を、化学めっき槽8a,8bに浸漬したのち、上記ワーク間ピッチPwを維持した状態で、所定の極間ピッチPaで配置された陽極室30の間に配置するよう電気めっき槽10に浸漬し、上記ワークホルダ23に取り付けられた各ワーク20と陽極室30内の不溶性陽極31とを対面させて銅めっきするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばFPC(フレキシブルプリント配線板)等に用いられるシート状ワークの銅めっき装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の電子機器の普及から、FPC(フレキシブル配線板)の需要が大幅に伸びている。また、これらの電子機器の小型化と高性能化が急激に進んでおり、FPCに対する品質要求もますます厳しいものとなっている。
【0003】
従来のFPCは、ポリイミド等の基材フィルムに圧延銅箔を接着剤で積層したものが主流であり、銅箔の厚みが9μm以上あり、回路のパターン幅も40μm以上のものが用いられていた。ところが、複雑な回路を高密度で形成するため、回路幅を狭くするファインパターン化が進んでおり、キャスティング法によるFPCや、さらにはめっき法によって基材フィルムに銅膜を形成させるFPCの生産方法が開示されている(例えば下記の特許文献1)。
【0004】
下記の特許文献1の生産方法は、枚葉のシート状ワークをキャリアに取り付け、ワークを列状に並べた状態でめっき槽に浸漬してコンベア等で列方向に搬送しながらめっきを行うものである。
【特許文献1】特開2000−226697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、列状に並べたワークを列方向に搬送しながらめっきするため、所定のめっき時間を確保しようとすると、列方向に長いめっき槽が必要となり、装置自体が大型化するという問題がある。特に、電気めっきの前処理めっきとして化学めっきを行う場合には、前処理めっきにも電気めっきと同様の列方向に長いめっき槽が必要となり、一層大型の装置が必要となる。したがって、特に、前処理めっきとして化学めっきを行ったのち電気めっきを行う場合には、上記特許文献1のような連続処理ではなく、めっき槽に一定時間ワークを浸漬して静置するバッチ式で処理を行うのが好ましい。このように、バッチ式でめっきを行う場合は、処理効率の関係から、複数枚のワークを多層状に積層してめっき槽に浸漬する方式が好ましい。
【0006】
しかしながら、上述したようにバッチ式で化学めっきと電気めっきを行おうとすると、電気めっきは所定の電極−ワーク間距離が必要となるため、ワーク間に電極を存在させたうえで所定の電極−ワーク間距離を確保するだけのワーク間距離が必要となる。特に、電気めっきの陽極として銅ボールを充填したアノードバスケットをアノードバッグに収容したものを用いた場合、銅ボールの表面とワーク表面との距離が一定しないうえ、めっき液の循環でアノードバックが揺動する分、ある程度の電極−ワーク間距離を確保しなければならない。一方、化学めっきは電極がないため、ワーク間距離は電気めっきに比べて小さくてすむ。
【0007】
このような状況で、上述したようなバッチ式で化学めっきと電気めっきを行おうとすると、両者の間で適切なワーク間距離が異なるため、処理効率を考慮すると、比較的狭いワーク間距離で化学めっきを行い、その後キャリア上のワークを載せ変えて比較的広いワーク間距離を確保してから電気めっきを行うことが行われていた。このような方法では、キャリア上のワークを載せ変える分、作業や工程が余分に必要になるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、電気めっき槽を小型化できるとともに、前処理としての化学めっきと電気めっきとのあいだで複数列に配列搬送されるワークの再配置を不要とするシート状ワークの銅めっき装置および方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のシート状ワークの銅めっき装置は、複数のシート状ワークが所定のワーク間ピッチで多層状に配置された状態で取り付けられるワーク治具と、上記ワーク治具に取り付けられたワークが浸漬される化学めっき槽と、不溶性陽極が収容された陽極室が、上記ワーク治具に取り付けられた多層状の各ワークと対面するよう所定の極間ピッチで配置され、上記各ワークに対して銅めっきする電気めっき槽と、上記ワーク治具に所定のワーク間ピッチで取り付けられた各ワークを、化学めっき槽に浸漬したのち、上記ワーク間ピッチを維持した状態で、所定の極間ピッチで配置された陽極室の間に配置するよう電気めっき槽に浸漬し、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークと陽極室内の不溶性陽極とを対面させる搬送手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明のシート状ワークの銅めっき方法は、複数のシート状ワークが所定のワーク間ピッチで多層状に配置された状態で取り付けられるワーク治具と、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークが浸漬される化学めっき槽と、不溶性陽極が収容された陽極室が上記ワーク治具に取り付けられた多層状の各ワークと対面するよう所定の極間ピッチで配置された電気めっき槽とを準備し、上記ワーク治具に取り付けたワークを化学めっき槽に浸漬して化学めっきする工程と、上記ワーク治具に所定のワーク間ピッチで取り付けられた各ワークを、上記ワーク間ピッチを維持した状態で、所定の極間ピッチで配置された陽極室の間に配置するよう電気めっき槽に浸漬し、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークと陽極室内の不溶性陽極とを対面させて銅めっきする工程とを行うことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明は、不溶性陽極が収容された陽極室が上記ワーク治具に取り付けられた多層状の各ワークと対面するよう所定の極間ピッチで配置された電気めっき槽を使用することにより、電気めっきの際のワーク−電極間距離を大幅に短くすることが可能となり、極間ピッチを大幅に短縮した電気めっき槽となる。そして、上記ワーク治具に取り付けたワークを化学めっき槽に浸漬して化学めっきしたのち、上記ワーク治具に所定のワーク間ピッチで取り付けられた各ワークを、上記ワーク間ピッチを維持した状態で、所定の極間ピッチで配置された陽極室の間に配置するよう電気めっき槽に浸漬し、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークと陽極室内の不溶性陽極とを対面させて銅めっきすることにより、化学めっきと電気めっきを同じワーク間ピッチでめっき処理が行える。
【0012】
このように、従来のように、列状に並べたワークを列方向に搬送しながらめっきするのではなく、バッチ処理を行うため、化学めっき槽、電気めっき槽ともにめっき槽を小型化できる。また、電気めっき槽は、不溶性陽極が収容された陽極室を多層状に配置するため、電極間距離が大幅に短縮し、めっき槽を小型化する効果が大きい。しかも、短いワーク間距離で電気めっきを行えることから、化学めっきと電気めっきを同じワーク間ピッチで処理でき、従来のような、化学めっきと電気めっきの間でワークを載せ変えるような作業や工程が全く不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明のシート状ワークの銅めっき装置の一実施例を示す全体構成図、図2は、ワークホルダ(ワーク治具)にワークを取り付けた状態を示す図、図3は、搬送手段を示す図、図4は、化学めっき槽にワークを浸漬した状態を示す断面図、図5は、電気めっき槽にワークを浸漬した状態を示す断面図であり、いずれも本発明のめっき方法を実現するものである。
【0015】
この例は、本発明をポリエチレンテレフタレート,ポリアミド,ABS樹脂,ポリプロピレン等の樹脂シートに、前処理、化学めっき、電気めっきによる銅めっきを行ってFPC等を形成するための装置に適用した例を示す。
【0016】
図1に示すように、このシート状のワークの銅めっき装置は、複数の処理槽が2列に並んで全体が構成されており、前処理を行う前処理ライン40と、めっき処置および後処理を行うめっきライン41とを備えて構成されている。
【0017】
上記前処理ライン40、めっきライン41には、それぞれ各処理槽に浸漬するワークを搬送するための搬送手段17a,17bが付設されている。また、前処理ライン40の下流端およびめっきライン41の上流端(図示の右側)には、前処理ライン40での処理を終えたワークをめっきライン41に搬送するためのトラバース装置の上流端(図示の右側)には、トラバース装置18が設けられている。
【0018】
このような全体構成により、ワークは、前処理ライン40の上流端(図示の左側)から搬入され、搬送手段17aで搬送されながら前処理ライン40で前処理が行われ、前処理ライン40の下流端まで搬送され、前処理が終了したワークはトラバース装置18でめっきライン41の上流端(図示の右側)に搬送される。そして、めっきライン41に搬入されたワークは、めっきライン41の上流端(図示の右側)から搬送手段17bで搬送されながらめっき処置および後処理が行われ、めっきライン41の下流端まで搬送される。
【0019】
図2に示すように、樹脂シートであるシート状のワーク20は四角形の枚葉シートであり、フレーム21とキャリア22から構成されるワークホルダ23に取り付けられる。
【0020】
上記フレーム21は、それぞれ1枚のワーク20を把持するもので、四角形のワーク20の上下を把持してたるみを除去するようにテンションをかけるものである。上記キャリア22は、複数(この例では8つ)のフレーム21を所定ピッチで吊り下げ可能としたものであり、この例では全体として枠状で、上記フレーム21の上部に形成された吊下部24に挿通されて各フレーム21を吊り下げた状態で取り付けるようになっている。図示していないが、上記キャリア22には、各フレーム21の吊り下げ箇所に嵌合部等が設けられ、各フレーム21を一定ピッチで位置決めしうるように形成されている。
【0021】
このような構成により、上記ワークホルダ23は、複数のシート状ワーク20が所定のワーク間ピッチPwで多層状に配置された状態で取り付けられるようになっている。
【0022】
図3は、搬送手段17a,17bを示す図である。この搬送手段17a,17bは、上述したようにワーク20が取り付けられたワークホルダ23を把持し、昇降動作と左右の搬送動作を行うものである。
【0023】
複数本(図では2本)の支柱27に複数本(図では2本)のレール部材28が架設され、上記レール部材28上を左右移動可能なように移動フレーム26が取り付けられている。また、上記移動フレーム26にはワークホルダ23のキャリア22を把持して昇降する昇降アーム25が取り付けられている。なお、昇降アーム25の昇降動作は、たとえばチェーン駆動、ベルト駆動、エアシリンダ、油圧シリンダ等を採用することができるが、特に限定するものではない。また、移動フレーム26の移動動作は、たとえばチェーン駆動やベルト駆動等を採用することができるが、特に限定するものではない。
【0024】
そして、上記レール部材28が前処理ライン40およびめっきライン41に沿うよう配置される。そして、昇降アーム25に、ワーク20が取り付けられたワークホルダ23を把持し、昇降アーム25を昇降させることにより、後述する化学めっき槽等の処理槽19内への各ワーク20の浸漬と引き上げを行う。また、各ワーク20を処理槽19から引き上げた状態で移動フレーム26を左右移動させることにより、ワーク20を異なる処理槽19に移し変えることが行われ、各ワーク20を処理槽19に浸漬した状態で移動フレーム26を左右移動させることにより、ワーク20を処理槽19内で移動させることが行われる。
【0025】
この搬送手段17a,17bは、上記のように、複数のワーク20が所定のワーク間ピッチPwで多層状に配置された状態で取り付けられたワークホルダ23を、シート状ワーク20のシート面に沿った方向に移動させるものである。したがって、処理槽19内で処理液にワーク20が浸漬された状態でもスムーズな搬送を行うことができる。なお、トラバース装置18は図示していないが、ワークホルダ23の前後両端部を把持し、ワークホルダ23をシート状ワーク20のシート面と垂直な方向に移動させる以外、基本的には上記搬送手段17a,17bと同様の構成である。
【0026】
図1に戻り、上記前処理ライン40、めっきライン41の詳細について説明する。
【0027】
上記前処理ライン40において、1は、ラインの最も上流側(図示の左側)に配置され、ワーク20が取り付けられたワークホルダ23をストックするストックヤード1である。
【0028】
2a,2bは、脱脂液が収容されてワーク20の表面に付着した油脂や指紋等を除去し、後のエッチングでの濡れ性を改善させるための脱脂を行う脱脂槽2a,2bである。2つの脱脂槽2a,2bの間には、脱脂後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着した脱脂液を回収するための回収槽13aが設けられている。14は脱脂槽2a,2bで脱脂されたワーク20を湯洗する湯洗槽14であり、15a,15bは湯洗後のワーク20を水洗する水洗槽15a,15bである。
【0029】
3は、湯洗・水洗後のワーク20表面の非晶質部分を選択的にエッチング除去して表面に微細凹凸を形成して粗化するためのエッチングを行うエッチング槽3である。エッチング液としては、例えば硫酸・クロム酸の混合溶液やりん酸等を用いることができる。13bはエッチング後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着したエッチング液を回収するための回収槽13bである。また、15c,15dは、エッチング後のワーク20を水洗する水洗槽15c,15dである。
【0030】
ここで、必要に応じて、本格的なエッチングの前に、有機溶剤でワーク表面の配向層を溶解させてエッチングを効果的に行わせるプリエッチングを行うようにしてもよい。
【0031】
4は、エッチング後にワーク20表面に残ったクロム酸を塩酸等で除去するための酸洗槽4である。13cは酸洗後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着した塩酸等の酸洗液を回収するための回収槽13cであり、15eは酸洗後のワーク20を水洗する水洗槽15eである。
【0032】
5は、次工程のキャタリストで使用するキャタリスト液と同じ液にワーク20を事前に浸漬して、次工程におけるキャタリスト液のなじみを良くするとともに、キャタリスト槽6でのキャタリスト液が薄くなるのを防止するためのプレディップ槽5である。
【0033】
6は、めっきライン41で行う化学めっきの核となる触媒金属をワーク表面に吸着させるためのキャタリスト槽6である。キャタリスト剤としては、例えばPd−Sn錯体等を用いることができる。13dはキャタリスト後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着したキャタリスト液を回収するための回収槽13dであり、15f,15gはキャタリスト後のワーク20を水洗する水洗槽15f、15gである。
【0034】
7は、酸またはアルカリ希薄液を用いて、キャタリスト後のワーク表面に付着したPd−Sn錯体のスズ塩を溶解させて酸化還元反応によって金属パラジウムを活性化させるアクセレータ槽7である。13eはアクセレータ後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着したアクセレータ液を回収するための回収槽13eであり、15hはアクセレータ後のワーク20を水洗する水洗槽15hである。
【0035】
以上が前処理ライン40である。
【0036】
上記めっきライン41において、8a,8bは、ラインの最も上流側(図示の右側)に配置され、上記前処理ライン40で前処理が終わったワーク20に化学めっき(無電解めっき)を行う化学めっき槽8a,8bである。化学めっきでは、パラジウム等の触媒層が植え付けられたワーク20表面上に導電層を形成するもので、通常無電解ニッケルまたは無電解銅めっきの析出が行われる。
【0037】
すなわち、触媒付与処理後のワーク20を無電解めっき液に浸漬すると、めっき液中の還元剤が触媒活性なパラジウム表面で酸化され、このとき放出される電子によって金属イオンが還元されてパラジウムの触媒核付近から金属が析出してめっき被膜が形成されるのである。
【0038】
化学めっき槽8a,8bが2つ設けられているのは、化学めっき槽8a,8bはある程度使用したらメンテナンスが必要となるため、一方をメンテナンスしている間に他方を使用するよう2つ設けているのである。16a,16bは、化学めっき後のワーク20を純水で洗浄するための純水洗槽16a,16bである。
【0039】
9は、次工程の電気めっきで使用するめっき液と同じ液にワーク20を事前に浸漬して、次工程における電気めっき液のなじみを良くするとともに、電気めっき槽10のめっき液が薄くなるのを防止するための酸活槽9である。
【0040】
10は、化学めっきで表面に導電層が形成されたワーク20に電気めっきを行って銅めっき層を形成するための電気めっき槽10である。電気めっき槽10の詳細については後述する。
【0041】
13fは電気めっき後のワーク20を暫く放置してワーク20やフレーム21に付着しためっき液を回収するための回収槽13fであり、15iはめっき後のワーク20を水洗する水洗槽15iである。11はめっき後のワーク20表面に形成された銅めっき層の表面の変色を防止する変色防止剤入りの変防槽11であり、15j,15kは変色防止処理後のワーク20を水洗する水洗槽15j,15kである。
【0042】
12は、めっき処理および後処理が終了したワーク20が取り付けられたワークホルダ23をストックするストックヤード12である。
【0043】
以上がめっきライン41である。
【0044】
上記前処理ライン40およびめっきライン41では、搬送手段17a,17bにより、ワーク20が取り付けられたワークホルダ23を処理槽への浸漬と引き上げを行って処理槽の移し変えを行ったり、各ワーク20を処理槽19に浸漬した状態で処理槽19内を移動させたりすることが行われる。
【0045】
上記めっきライン41では、化学めっき槽8a,8bでは、めっきステージが3ステージ設けられており、電気めっき槽10では、めっきステージが6ステージ設けられている。そして、化学めっき槽8a,8bでは、1ステージあたり所定の処理時間Tだけ処理して搬送手段17bで次のステージに移動させる。したがって、化学めっき処理時間は3×Tである。一方、電気めっき槽10でも、1ステージあたり所定の処理時間Tだけ処理して搬送手段17bで次のステージに移動させる。したがって、電気めっき処理時間は6×Tである。このように、所定の処理時間Tごとに1ステージ搬送して移動させながら処理するため、このラインではタクトタイムTごとに1つのワークホルダ23に取り付けられたワーク20(この例では8枚)の処理を行えるようになっている。
【0046】
そして、この装置では、上記搬送手段17bは、上記ワークホルダ23に所定のワーク間ピッチPwで取り付けられた各ワーク20を、化学めっき槽8a,8bに浸漬したのち、上記ワーク間ピッチPwを維持した状態で電気めっき槽10に浸漬するようになっている。
【0047】
ここで、化学めっき槽8a,8bについて説明する。
【0048】
図4に示すように、上記化学めっき槽8a,8bは、上記ワークホルダ23に取り付けられたワーク20が浸漬され化学めっきが施される。このとき、上記化学めっき槽8a,8bに浸漬されるワーク20のワーク間距離は、ワークホルダ23に取り付けられるワーク間ピッチPwである。また、上記化学めっき槽8a,8bには、上部開口縁に、ワーク20を化学めっき槽8a,8bに浸漬したワークホルダ23を前後(ワークの搬送方向に沿った方向)に揺動する揺動手段29が設けられている。これにより、めっき液に浸漬された状態のワーク20を揺動しながら化学めっきするようになっている。なお、図では、8枚のワーク20のうち5枚しか示していない。
【0049】
上記化学めっき槽8a,8bには、無電解めっき液として、例えば、硫酸銅、ロシェル塩、ホルムアルデヒド、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を含む無電解銅めっき液が収容される。無電解めっき液としては、上述したものに限定されるものではなく、各種の無電解銅めっき液を用いることができる。また、無電解銅めっき以外に、無電解ニッケルめっき液による無電解ニッケルめっきを行うようにしてもよい。
【0050】
つぎに、電気めっき槽10について説明する。
【0051】
図5に示すように、電気めっき槽10は、不溶性陽極31が収容された陽極室30が、上記ワークホルダ23に取り付けられた多層状の各ワーク20と対面するよう所定の極間ピッチPaで配置され、上記各ワーク20に対して銅めっきするようになっている。また、上記電気めっき槽10には、上部開口縁に、ワーク20を電気めっき槽10に浸漬したワークホルダ23を前後(ワークの搬送方向に沿った方向)に揺動する揺動手段29が設けられている。これにより、めっき液に浸漬された状態のワーク20を揺動しながら電気めっきするようになっている。なお、不溶性陽極31および陰極としてのワーク20への給電手段については図示していない。
【0052】
上記電気めっき槽10には、この例では、めっき液として、銅めっきに用いられる硫酸銅水溶液が収容されており、すなわち、上記めっき液は、硫酸銅(CuSO)、硫化水素(HSO)、水(HO)の混合溶液を主体とするものになっている。上記硫酸銅水溶液の好ましい濃度範囲はCuSO・5HOとして150〜300g/Lであり、HSOとしては40〜70g/Lである。また、上記めっき液には、銅めっきの光沢剤・平滑剤・濡れ性改良剤等を主成分とする添加剤が添加される。
【0053】
上記陽極室30は、この例では、ワーク20のシート面(めっき面)と対面するように設けられている。この例では、所定のワーク間ピッチPwで配置されるワーク20の丁度間に陽極室30が配置される。また、最も外側の2つのワーク20に対しても、シート面と対面するように陽極室30が設けられ、各ワーク20の両面にめっき層を形成するようになっている。上記各陽極室30内には、それぞれ不溶性陽極31が収容されている。上記不溶性陽極31は板状でワーク20のめっき面と平行に対面するよう配置されている。したがって、上記不溶性陽極31は、所定の極間ピッチPaで配置されており、ワーク間ピッチPwと極間ピッチPaは等しい寸法に設定されている。
【0054】
上記不溶性陽極31は、チタン板を基材とし、上記ワーク20のめっき面と対面する面に、酸化イリジウムを主成分とした被覆剤を被覆した陽極を好ましく用いることができる。被覆層の密着性の点からは酸化イリジウムに酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズなどを混合した混合酸化物の被覆剤が好適である。特に酸化タンタルと混合した酸化イリジウムが長時間の使用が可能である点で最も望ましい。また、陽極反応は酸素発生反応が主であるため水素イオンが発生し、酸性度が増大してチタン板の腐食が生じやすいため、チタン板と混合酸化物被膜の間に酸性電解液に耐食性の強いタンタル金属薄膜の中間層をスパッタリング等の方法で形成し、チタン板の腐食を防止するのが好ましい。
【0055】
上記陽極室30には、陽極液が収容される。上記陽極液としては、酸性電解液が用いられ、上記不溶性陽極31上で酸素ガスを発生させる電解液であれば、特に限定するものではなく、硫酸水溶液やりん酸水溶液等を用いることができるが、めっき液の酸性成分と合致させるのが好ましく、硫酸水溶液を好適に用いることができる。すなわち、上記陽極液は、硫化水素(HSO)、水(HO)の混合溶液を主体とするものになっている。ここで、好ましい酸性電解液の濃度範囲は40〜150g/Lである。
【0056】
また、上記陽極室30は、陽極反応で発生した酸素ガスを大気放出しない密封型のセルになっている。
【0057】
上記電気めっき槽内と陽極室30との間は、水素イオンを透過させて酸素イオンを透過させないイオン交換膜32で隔てられ、電気めっき槽10のめっき液と陽極室30の陽極液とが独立して存在するよう構成されている。上記イオン交換膜32は、炭化水素系のカチオン交換膜やパーフルオロカーボンのカチオン交換膜等のカチオン交換膜を好適に用いることができる。炭化水素系のカチオン交換膜としては、例えば旭硝子製のセレミオンやトクヤマ製のネオセプタなどをあげることができ、パーフルオロカーボンのカチオン交換膜としては、例えばデュポン社製のナフィオンなどをあげることができる。
【0058】
上記イオン交換膜32を隔ててめっき液と陽極液とを分離した状態で、不溶性陽極31の陽極反応で発生した水素イオンは陽極液からめっき液の方に透過してめっきの反応に寄与するが、めっき液中の銅イオンは、プラスに帯電しているので通電している限り不溶性陽極31の存在する陽極液の方に透過せず、銅イオンはめっき液中だけに存在することとなる。このようなイオン交換膜32と電気的な作用により、硫化水素水溶液である陽極液と硫酸銅・硫化水素水溶液であるめっき液との独立性が確保されている。
【0059】
上記電気めっき槽10と陽極室30において、つぎのようにしてめっきが行われる。
【0060】
電気めっき槽10には、めっき液として硫酸銅・硫化水素水溶液すなわちCuSO、HSO、HOの混合液が満たされており、陰極としてワーク20が存在している。一方、陽極室30には、陽極液として硫化水素水溶液すなわちHSO、HOの混合液が満たされており、不溶性陽極31が存在している。そして、電気めっき槽10と陽極室30の間はイオン交換膜32で隔てられ、めっき液と陽極液は上記イオン交換膜32を介して互いに混じり合うことなく独立して存在している。
【0061】
上記陰極であるワーク20と不溶性陽極31の間に直流電圧が印加されると、不溶性陽極31の表面では陽極反応として下記(1)の水の電気分解反応が生じ、酸素ガスOが発生するとともに、水素イオンHが発生する。
O→1/2O+2H (1)
【0062】
上記水素イオンHはイオン交換膜32を透過してめっき液側に移り、めっき反応に寄与する。すなわち、電気めっき槽10では、めっき液中の硫酸銅が下記(2)のように電離し、電離した銅イオンCuがワーク表面に銅めっき層として析出する。そして、硫酸イオンSO2−は、イオン交換膜32を透過してきた水素イオン2Hとともに下記(3)のように硫化水素を構成する。
CuSO→Cu+SO2− (2)
SO2−+2H→HSO (3)
【0063】
以上の反応が繰り返されて連続的にめっきが進行する。したがって、めっき液では銅イオンが消費されるため、硫酸銅粉末をめっき液中に投入することにより消費された銅イオンを補ってめっき液を管理することが行われる。また、陽極液では、硫化水素は反応に寄与せず、電気分解と蒸発で消費した水を陽極液中に補充することにより陽極液の管理を行っている。
【0064】
そして、上記装置では、上記ワークホルダ23に所定のワーク間ピッチPwで取り付けられた各ワーク20を、化学めっき槽8a,8bに浸漬したのち、上記ワーク間ピッチPwを維持した状態で、所定の極間ピッチPaで配置された陽極室30の間に配置するよう電気めっき槽10に浸漬し、上記ワークホルダ23に取り付けられた各ワーク20と陽極室30内の不溶性陽極31とを対面させて銅めっきを行う。
【0065】
以上のように、本発明では、不溶性陽極31が収容された陽極室30が上記ワークホルダ23に取り付けられた多層状の各ワーク20と対面するよう所定の極間ピッチPaで配置された電気めっき槽10を使用することにより、電気めっきの際のワーク−電極間距離を大幅に短くすることが可能となり、極間ピッチPaを大幅に短縮した電気めっき槽10となる。そして、上記ワークホルダ23に取り付けたワーク20を化学めっき槽8a,8bに浸漬して化学めっきしたのち、上記ワークホルダ23に所定のワーク間ピッチPwで取り付けられた各ワーク20を、上記ワーク間ピッチPwを維持した状態で、所定の極間ピッチPaで配置された陽極室30の間に配置するよう電気めっき槽10に浸漬し、上記ワークホルダ23に取り付けられた各ワーク20と陽極室30内の不溶性陽極31とを対面させて銅めっきすることにより、化学めっきと電気めっきを同じワーク間ピッチPwでめっき処理が行える。
【0066】
このように、従来のように、列状に並べたワークを列方向に搬送しながらめっきするのではなく、バッチ処理を行うため、化学めっき槽8a,8b、電気めっき槽10ともにめっき槽を小型化できる。また、電気めっき槽10は、不溶性陽極31が収容された陽極室30を多層状に配置するため、電極間距離Paが大幅に短縮し、めっき槽を小型化する効果が大きい。しかも、短いワーク間距離Pwで電気めっきを行えることから、化学めっきと電気めっきを同じワーク間ピッチで処理でき、従来のような、化学めっきと電気めっきの間でワークを載せ変えるような作業や工程が全く不要になる。
【0067】
また、電気めっき槽10と陽極室30との間がイオン交換膜32で隔てられ、めっき液と陽極液とが独立して存在していることから、陽極反応で発生した酸素ガスは、陽極液の中だけで存在してめっき液には接触しない。したがって、めっき液中の添加剤の酸素ガスによる分解がほとんど起こらなくなるため、添加剤の消耗を考慮することなく、電流密度を上げた状態での操業が可能となり、めっき効率を飛躍的に向上させることができる。また添加剤の消耗も大幅に減少し、添加剤にかかるランニングコストを大幅に節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の銅めっき装置を示す全体構成図である。
【図2】ワークホルダにワークを取り付けた状態を示す図である。
【図3】搬送手段を示す図である。
【図4】化学めっき槽にワークを浸漬した状態を示す断面図である。
【図5】電気めっき槽にワークを浸漬した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ストックヤード
2a,2b 脱脂槽
3 エッチング槽
4 酸洗槽
5 プレディップ槽
6 キャタリスト槽
7 アクセレータ槽
8a,8b 化学めっき槽
9 酸活槽
10 電気めっき槽
11 変防槽
12 ストックヤード
13a〜13f 回収槽
14 湯洗槽
15a〜15k 水洗槽
16a,16b 純水洗槽
17a,17b 搬送手段
18 トラバース装置
19 処理槽
20 ワーク
21 フレーム
22 キャリア
23 ワークホルダ
24 吊下部
25 昇降アーム
26 移動フレーム
27 支柱
28 レール部材
29 揺動手段
30 陽極室
31 不溶性陽極
32 イオン交換膜
40 前処理ライン
41 めっきライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート状ワークが所定のワーク間ピッチで多層状に配置された状態で取り付けられるワーク治具と、
上記ワーク治具に取り付けられたワークが浸漬される化学めっき槽と、
不溶性陽極が収容された陽極室が、上記ワーク治具に取り付けられた多層状の各ワークと対面するよう所定の極間ピッチで配置され、上記各ワークに対して銅めっきする電気めっき槽と、
上記ワーク治具に所定のワーク間ピッチで取り付けられた各ワークを、化学めっき槽に浸漬したのち、上記ワーク間ピッチを維持した状態で、所定の極間ピッチで配置された陽極室の間に配置するよう電気めっき槽に浸漬し、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークと陽極室内の不溶性陽極とを対面させる搬送手段とを備えたことを特徴とするシート状ワークの銅めっき装置。
【請求項2】
複数のシート状ワークが所定のワーク間ピッチで多層状に配置された状態で取り付けられるワーク治具と、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークが浸漬される化学めっき槽と、不溶性陽極が収容された陽極室が上記ワーク治具に取り付けられた多層状の各ワークと対面するよう所定の極間ピッチで配置された電気めっき槽とを準備し、
上記ワーク治具に取り付けたワークを化学めっき槽に浸漬して化学めっきする工程と、
上記ワーク治具に所定のワーク間ピッチで取り付けられた各ワークを、上記ワーク間ピッチを維持した状態で、所定の極間ピッチで配置された陽極室の間に配置するよう電気めっき槽に浸漬し、上記ワーク治具に取り付けられた各ワークと陽極室内の不溶性陽極とを対面させて銅めっきする工程とを行うことを特徴とするシート状ワークの銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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