説明

シート状材料の洗浄治具およびその洗浄治具を用いたシート状材料の洗浄方法

【課題】 少量のシート状材料を洗浄する場合であっても、均一に効率よく洗浄できるシート状材料の洗浄治具およびその洗浄治具を用いた洗浄方法を提供すること。
【解決手段】 洗浄治具1は、シート状材料6の上辺部をクランプしてシート状材料6を吊下げるハンガー3と、このハンガー3により吊下げられるシート状材料6に隣合い、シート状材料6の水平方向の移動を制限するとともに液体が流通する開口部4aを有するセパレータ4とをラック2に組み込んで構成されている。この洗浄治具1を、洗浄液を充填した洗浄槽に浸漬してシート状材料6を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムや金属箔などの厚さ数μの薄いシート状材料を洗浄する洗浄治具およびその洗浄治具を用いたシート状材料の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
取り扱いが困難な、厚さ数μ単位の非常に薄いシート状材料、たとえば樹脂フィルムや金属箔などを、薬液や純水などで洗浄する装置として、シート状材料をロール状に巻き、洗浄槽内で連続的に浸漬洗浄する装置が市販されている。しかしながら、このような装置は、大量生産には適しているが、構成が複雑で取り扱いも複雑であるので、少量生産や研究開発などの目的で少量のシート状材料を洗浄する場合には適していない。このような場合には、むしろ所定寸法に切断した少量のシート状材料を必要な枚数だけ洗浄槽内に浸漬して洗浄する方が操作面やコスト面で優れている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、少量のシート状材料を必要な枚数だけ洗浄槽内に浸漬して洗浄する場合には、以下のような不具合が発生する場合がある。洗浄液を入れた洗浄槽に、被洗浄物であるシート状材料をそれぞれハンガーで吊下げ、その複数枚を同時に浸漬させると、洗浄液中の液流によってシート状材料が動き、シート状材料どうしが互いに貼り付いて密着してしまう場合があり、またシート状材料単独で洗浄槽の内壁に貼り付く場合もある。このような状態になると、その貼り付いた隙間に洗浄液が十分に回り込まず、均一な洗浄ができなくなる。
そこで、シート状材料を1枚づつ洗浄槽内に浸漬して洗浄を行い、かつ洗浄槽の内壁に貼り付くことのないように監視することが考えられるが、監視に時間と手間がかかり非効率である。またシート状材料の少なくとも対向する2辺をクランプしてシート状材料をたるみなく張った状態でラックに嵌め込んで、その複数枚を同時に浸漬洗浄させる方法が考えられているが、各シート状材料の浸漬されたクランプ部分は、洗浄液に接触しないため洗浄されず、また後工程で切断する部分が多くなり、シート状材料の歩留まりが悪くなるとともに切断工程も増加するという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、少量のシート状材料を洗浄する場合であっても、均一に効率よく洗浄できるシート状材料の洗浄治具およびその洗浄治具を用いた洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明によるシート状材料の洗浄治具は、シート状材料の上辺部をクランプしてシート状材料を吊下げるハンガーと、このハンガーにより吊下げられるシート状材料に隣合い、シート状材料の水平方向の移動を制限するとともに液体が流通する開口部を有するセパレータと、水平方向に延びる支持部を有し、この支持部によりハンガーおよびセパレータを支持するラックとを具備してなることを特徴とする。
【0006】
また本発明によるシート状材料の洗浄方法は、シート状材料の上辺部をクランプしてシート状材料を吊下げるハンガーと、このハンガーにより吊下げられるシート状材料に隣合い、シート状材料の水平方向の移動を制限するとともに液体が流通する開口部を有するセパレータと、水平方向に延びる支持部を有し、この支持部によりハンガーおよびセパレータを支持するラックとを備えた洗浄治具を用い、シート状材料を吊下げた1個または複数個のハンガーおよびセパレータをラックの支持部の所定位置にセットする工程と、ハンガーおよびセパレータをセットした洗浄治具を、洗浄液を充填した第1の洗浄槽に浸漬してシート状材料を洗浄する工程と、洗浄治具を、すすぎ液が流れている第2の洗浄槽に浸漬してシート状材料に付着している洗浄液をすすぎ落とす工程と、洗浄治具のシート状材料を乾燥する工程と、シート状材料のクランプされている部分を切断する工程とを具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるシート状材料の洗浄治具およびその洗浄治具を用いたシート状材料の洗浄方法によれば、ラックの支持部に必要な個数のハンガーおよびセパレータをセットするだけでよく、浸漬洗浄に際しては、ハンガーにより吊下げられるシート状材料は、セパレータにより、隣合うシート状材料または洗浄槽の内壁との接触が制限され、その間に洗浄液またはすすぎ液が流入して接触することになるので、シート状材料を均一に洗浄できるとともに、その洗浄状態を監視する必要がなく、また浸漬されるクランプ部分も少なくなることからシート状材料の切断部分も少なくなり、少量生産であっても効率よく洗浄することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。図1は本発明によるシート状材料の洗浄方法で用いる洗浄治具を示す分解斜視図、図2(a)は本実施の形態で使用するセパレータを示す正面図、(b)はその側面図、図3は図2に示すセパレータの斜視図、図4は図1に示す洗浄治具を用いてシート状材料を洗浄液で洗浄する工程を示す一部破断斜視図、図5は図4に示す洗浄工程を経たシート状材料をすすぎ液ですすぎ落とす工程を示す一部破断斜視図、図6は乾燥工程を経たシート状材料のクランプされた部分を切断する切断装置を示す斜視図である。
【0009】
図1において、洗浄装置1は、ラック2、ハンガー3、セパレータ4および取手5を備えている。ラック2は、縦横に配置された8本のロッド2Aおよび4本のジョイントバー2Bにより立方体の枠状に組み立てられ、上部に位置する水平方向に延びる2本のロッドにより水平方向に延びる支持部2a,2bが構成されている。このラック2の支持部2a,2bは段付きロッドであり、軸方向に沿ってその上面部に一定間隔で複数の径大部2c,2dと複数の溝2a1,2b1(図3)が交互に加工されており、この溝に後述するハンガー3の溝3c,3dが嵌り込むようになっている。
【0010】
ハンガー3は、着脱可能な一対の単位ハンガー3A,3Bを有し、その間に被洗浄物である厚さ数μの樹脂フィルムや金属箔などのシート状材料6を挟み込み、クランプボルト3a,3bの締め付け圧力でクランプすることによりシート状材料6を保持して吊下げることができるようになっている。この際、ハンガー3のシート状材料6をクランプする部分は、シート状材料6上辺部の一辺のみとする。ハンガー3は、長手方向の両端部下面にそれぞれラック2の支持部2a,2bに嵌合する溝3c,3dが形成されている。
【0011】
セパレータ4は、図2(a),(b)および図3に示すように、断面円形のロッド状の材料を平面状に折り曲げて柵状に構成したもので、シート状材料6が接触しても傷が付きにくいように滑らかな表面形状で形成されている。また洗浄液が回り込みやすいようにセパレータ4の平面方向中間部には開口部4aが広く設けられているとともに中間部にはX字状の筋交い部4bが設けられていてシート状材料6の水平方向の移動を制限し、シート状材料6どうしを密着させないようにしている。
【0012】
セパレータ4の平面方向両側に位置し、上方に突出する突出部4c,4dには、ラック2の支持部2a,2bの径大部2c,2dの貫通孔2c1,2d1に嵌挿され接着剤で固定されている。これによりセパレータ4は支持部2a,2bに支持されることになり、下方に延びるようにセットされるとともに前後左右に揺動しないように配設される。
【0013】
なお、セパレータ4の中間部の形状によっては、セパレータ4を設けていてもシート状材料6どうしが密着する部分が発生する場合があるが、このような場合には、洗浄工程で洗浄液または洗浄治具に振動を与えることにより容易にシート状材料5どうしを分離することができる。
【0014】
取手5は、ラック2にハンガー3およびセパレータ4をセットした後に、ラック2上部に位置する一対のジョイントバー間に橋渡してネジ5a,5bにより取り付けられ、この取手5を利用して洗浄治具1全体の持ち運びが可能となるように設けられている。また取手5は、洗浄時の振動運動の伝達や、ハンガー3にクランプされたシート状材料6が洗浄治具1から抜け落ちるのを防止する機能も有している。
【0015】
次に上記のように構成した洗浄治具1を用いてシート状材料5を洗浄する方法について説明する。
【0016】
一度に洗浄する枚数に対応してシート状材料6を吊下げた1個または複数個のハンガー3およびセパレータ4をラック2にセットし、セットが完了したところで、洗浄治具1の上面に取手5を取り付ける。この取手5を利用して図4に示すように、洗浄治具1を、洗浄液7を充填した第1の洗浄槽8内に所定時間、浸漬して洗浄する工程を実施する。ここで、機械的振動発生装置により、洗浄液7または洗浄治具1に矢印で示すように水平方向の振動を与えることにより、シート状材料6どうしが密着するのを防止するようにすることができる。また、洗浄効果を高めるために超音波発生器による超音波振動を与える場合もある。ただし超音波振動は、シート状材料6の材質によっては、ピンホールなどのダメージを与える場合があるので、注意を要する。
【0017】
洗浄する工程を実施した後、第1の洗浄槽8から洗浄治具1を取り出し、次に図5に示すように、洗浄治具1を、純水などのすすぎ液9が流れている第2の洗浄槽10に所定時間、浸漬してシート状材料6に付着している洗浄液をすすぎ落とす工程を実施する。この際にも洗浄治具1に振動を与えることができる。
【0018】
洗浄液をすすぎ落とす工程を実施した後、第2の洗浄槽10から洗浄治具1を取り出し、洗浄治具1を図示しない乾燥炉に入れて過熱し、シート状材料6を乾燥する工程を実施する。洗浄治具1は、洗浄液などの薬液や乾燥時の高熱に耐えることのできるようにテフロン(デュポン社 商品名)製とすることが望ましいが、洗浄や乾燥の条件によっては、金属や他の樹脂で製作することもできる。
【0019】
乾燥する工程を実施した後、常温まで冷却された洗浄治具1から、取手5を取り外してシート状材料6をクランプしているハンガー3を取り出し、次に図6に示すようにハンガー6のシート状材料6を切断装置により切断する工程を実施する。図6において、切断装置11は、テーブル11a上にハンガー3をクランプするクランプ部11b、駆動シャフト11cの回転により駆動シャフト11cの軸方向に沿って移動する切断ヘッド11d、切断ヘッド11dに設けられたロータリーカッター刃11eを備えている。
【0020】
シート状材料6の切断に際しては、まずハンガー3をテーブル11a上の所定の位置に載置するとともにシート状材料6を下部シートクランパー11f上に載置する。ハンガー3をクランプ部11bのスプリング11gの力で押し付けて固定する。さらにシート状材料6の上に上部シートクランパー11hを載せ、下部シートクランパー11fとの間に挟み込み、ローレットノブ11i,11iの締付け圧力でシート状材料6を固定する。これらの固定により、シート状材料6の切断面の破損を防ぐことができる。この状態で切断ヘッド11dを駆動シャフト11cに沿って移動させると、ロータリーカッター刃11eがシート状材料6上を転がり、シート状材料6を切断する。この切断によって、ハンガー3にクランプされていたシート状材料6の非洗浄部分が切り離されて取り除かれることになり、洗浄ムラのない均一に洗浄されたシート状材料6を得ることができる。
【0021】
切断装置11は、洗浄後のシート状材料6を取り扱うために常に清潔に維持されていなければならない。特にシート状材料6に接触する、上部シートクランパー11h、下部シートクランパー11fおよびロータリーカッター刃11eは、使用毎に洗浄する必要がある。また上部シートクランパー11hと下部シートクランパー11fは、シート状材料6に傷を与えないように柔らかい樹脂製であることが望ましい。
【0022】
図7に本実施の形態による洗浄方法のフローチャートを示す。図7において、シート状材料の上辺部をハンガーで挟み込み、クランプボルトで固定する(S1)。次にハンガーをラックの支持部の溝に嵌め込み、セパレータとともに洗浄治具の所定位置にセットする(S2)。所定枚数のシート状材料のセットが完了したか否かの確認を行ない、否(N)の場合には再度セットのやり直しを行ない、完了している場合(Y)の場合には次のステップに移る(S3)。洗浄治具に取手を取り付けてハンガーを固定する(S4)。次に洗浄治具を、洗浄液を充填した第1の洗浄槽に浸漬して洗浄する工程(洗浄工程)を実施する(S5)。この際、超音波または機械的に振動を与えることができる。洗浄工程が終了した後、次に洗浄治具を、純水などが流れている第2の洗浄槽に浸漬してシート状材料に付着している洗浄液をすすぎ落とす工程(リンス工程)を実施する(S6)。この際にも超音波または機械的に振動を与えることができる。リンス工程が終了した後、洗浄治具を乾燥炉に入れ、所定時間、所定温度で乾燥する工程(乾燥工程)を実施する。乾燥工程が終了した後、取手を取外し、ハンガーを洗浄治具から外す(S8)。次にハンガーを切断装置にセットし、シート状材料を上下部のシートクランパーで挟んで固定する(S9)。次に切断ヘッドを移動させ、ロータリーカッター刃でシート状材料の非洗浄部分を切断する(S10)。次に切断装置からハンガーおよびシート状材料を取り外す(S11)。
【0023】
このようにしてシート状材料を洗浄すれば、ハンガーにより吊下げられるシート状材料は、セパレータにより、隣合うシート状材料または洗浄槽の内壁との接触が制限されるとともに、その間に洗浄液またはすすぎ液が流入して接触することになるので、シート状材料を均一に洗浄することができる。また本実施の形態によれば、セパレータの存在により、隣合うシート状材料の間隔を広く取る必要がなくなり、これにより洗浄治具全体の寸法を大きくしたり、洗浄治具を入れる洗浄槽を大きくしたり、洗浄液の量も多くしたりする必要がなくなり、しかも洗浄状態を監視する必要がなく、また浸漬されるクランプ部分も少なくなることからシート状材料の切断部分も少なくなり、少量生産であっても効率よく洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるシート状材料の洗浄方法で用いる洗浄治具を示す分解斜視図である。
【図2】(a)は本実施の形態で使用するセパレータを示す正面図、(b)はその側面図である。
【図3】図2に示すセパレータと支持部の固定状態を示す斜視図である。
【図4】図1に示す洗浄治具を用いてシート状材料を洗浄液で洗浄する工程を示す一部破断斜視図である。
【図5】図4に示す洗浄工程を経たシート状材料をすすぎ液ですすぎ落とす工程を示す一部破断 斜視図である。
【図6】乾燥工程を経たシート状材料のクランプされた部分を切断する切断装置を示す斜視図である。
【図7】本実施の形態によるシート状材料の洗浄方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
1…洗浄治具
2…ラック
2A…ロッド
2B…ジョイントバー
2a,2b…支持部
2a1,2b1…溝
2c,2d…径大部
3…ハンガー
3A,3B…単位ハンガー
3a,3b…クランプボルト
3c,3d…溝
4…セパレータ
4a…開口部
4b…筋交い部
5…取手
5a,5b…ネジ
6…シート状材料
7…洗浄液
8…第1の洗浄槽
9…すすぎ液
10…第2の洗浄槽
11…切断装置
11a…テーブル
11b…クランプ部
11c…駆動シャフト
11d…切断ヘッド
11e…ロータリーカッター刃
11f…下部シートクランパー
11g…スプリング
11h…上部シートクランパー
11i…ローレットノブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状材料の上辺部をクランプして前記シート状材料を吊下げるハンガーと、このハンガーにより吊下げられるシート状材料に隣合い、前記シート状材料の水平方向の移動を制限するとともに液体が流通する開口部を有するセパレータと、水平方向に延びる支持部を有し、この支持部により前記ハンガーおよびセパレータを支持するラックとを具備してなるシート状材料の洗浄治具。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄治具を用い、シート状材料を吊下げた1個または複数個のハンガーおよびセパレータを前記ラックの支持部の所定位置にセットする工程と、
前記ハンガーおよびセパレータをセットした洗浄治具を、洗浄液を充填した第1の洗浄槽に浸漬して前記シート状材料を洗浄する工程と、
前記洗浄治具を、すすぎ液が流れている第2の洗浄槽に浸漬して前記シート状材料に付着している洗浄液をすすぎ落とす工程と、
前記洗浄治具のシート状材料を乾燥する工程と、
前記シート状材料のクランプされている部分を切断する工程と、
を具備してなる請求項1に記載の洗浄治具を用いたシート状材料の洗浄方法。
【請求項3】
前記シート状材料を洗浄する工程において、前記洗浄液または洗浄治具に振動を与えることを特徴とする請求項2に記載のシート状材料の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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