説明

シート状構造体及びその製造方法

【課題】炭素元素の線状構造体を用いた熱伝導度及び電気伝導度が極めて高いシート状構造体を提供する。
【解決手段】基板12上に炭素元素の線状構造体16を形成し、線状構造体16間に充填層18を形成し、充填層18及び線状構造体16を複数枚に切断し、切断された充填層18及び線状構造体16をそれぞれ含む複数のシート状構造体10を形成する。このように形成したシート状構造体10の線状構造体16の両端部は、開端している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素元素の線状構造体を有するシート状構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバーやパーソナルコンピュータのCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などに用いられる電子部品には、半導体素子から発する熱を効率よく放熱することが求められる。このため、半導体素子の直上に設けられたインジウムシートなどの熱伝導性シートを介して、銅などの高い熱伝導度を有する材料のヒートスプレッダが配置された構造を有している。
【0003】
しかしながら、近年におけるレアメタルの大幅な需要増加によりインジウム価格は高騰しており、インジウムよりも安価な代替材料が待望されている。また、物性的に見てもインジウムの熱伝導度(80W/m・K)は高いとはいえず、半導体素子から生じた熱をより効率的に放熱させるために更に高い熱伝導度を有する材料が望まれている。
【0004】
このような背景から、インジウムよりも高い熱伝導度を有する材料として、カーボンナノチューブに代表される炭素元素からなる線状構造体が注目されている。カーボンナノチューブは、非常に高い熱伝導度(1500W/m・K〜3000W/m・K)を有するだけでなく、柔軟性や耐熱性に優れた材料であり、放熱材料として高いポテンシャルを有している。
【0005】
カーボンナノチューブを用いた熱伝導シートとしては、樹脂中にカーボンナノチューブを分散した熱伝導シートや、基板上に配向成長したカーボンナノチューブ束を樹脂等によって埋め込んだ熱伝導シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−030200号公報
【特許文献2】特開2007−188841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いた従来の熱伝導シートでは、カーボンナノチューブの有する高い熱伝導度を充分に生かすことができなかった。
【0008】
本発明の目的は、炭素元素の線状構造体を用いた熱伝導度及び電気伝導度が極めて高いシート状構造体及びその製造方法、並びにこのようなシート状構造体を用いた高性能の電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の一観点によれば、炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、前記複数の線状構造体間に形成された充填層とを有するシート状構造体が提供される。
【0010】
また、実施形態の他の観点によれば、発熱体と、放熱体と、前記発熱体と放熱体との間に配置され、炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、前記複数の線状構造体間に形成された充填層とを含むシート状構造体とを有する電子機器が提供される。
【0011】
また、実施形態の更に他の観点によれば、基板上に、炭素元素の複数の線状構造体を形成する工程と、前記複数の線状構造体間に、前記複数の線状構造体を支持する充填層を形成する工程と、前記充填層及び前記複数の線状構造体を複数枚に切断し、切断された前記充填層及び前記複数の線状構造体をそれぞれ含む複数のシート状構造体を形成する工程とを有するシート状構造体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
開示のシート状構造体の製造方法によれば、一度の線状構造体の成長によって複数枚のシート状構造体を製造することができるため、製造プロセスを簡略化することができ、ひいては製造コストを低減することができる。また、開示のシート状構造体の製造方法を用いることにより、線状構造体の端部を表面に露出するとともに開端することができる。これにより、シート状構造体の熱伝導性及び導電性を大幅に向上できるとともに、被着体に対する接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図2】図2は、開端していないカーボンナノチューブ及び開端したカーボンナノチューブの構造を示す概略断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図4】図4は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図5】図5は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図6】図6は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図7】図7は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図8】図8は、カーボンナノチューブの端部に形成した被膜の構造の一例を示す斜視図である。
【図9】図9は、第3実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図10】図10は、第3実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図11】図11は、第3実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図12】図12は、第4実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図13】図13は、第4実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図14】図14は、第4実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図15】図15は、第4実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図16】図16は、第5実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図2は、開端していないカーボンナノチューブ及び開端したカーボンナノチューブの構造を示す概略断面図である。図3及び図4は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【0016】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図1を用いて説明する。図1(a)は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図であり、図1(b)は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートのカーボンナノチューブ端部における拡大断面図である。
【0017】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図1(a)に示すように、間隔を開けて配置された複数のカーボンナノチューブ16を有している。カーボンナノチューブ16の間隙には充填層18が形成されており、充填層18によってカーボンナノチューブ16が支持されている。本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、シート状の構造体を形成しており、複数のカーボンナノチューブ16は、シートの膜厚方向、すなわちシートの面と交差する方向に配向している。
【0018】
各カーボンナノチューブ16は、両端部において開端している。開端とは、カーボンナノチューブ16の端部が閉じていない状態を意味し、具体的には、図1(b)に示すように、チューブを形成するグラフェンの連続性が端部において途切れている状態である。開端したカーボンナノチューブ16の端部は、シートの表面に露出している。
【0019】
開端したカーボンナノチューブについて、図2を用いて説明する。なお、ここでは多層カーボンナノチューブの場合について説明するが、単層カーボンナノチューブの場合も同様である。
【0020】
一般的な多層カーボンナノチューブは、例えば図2(a)に示すように、入れ子状に形成された複数のグラフェンのチューブを有し、各層のグラフェンが端部においてそれぞれ閉じた構造を有している。カーボンナノチューブの閉じた端部は、成長の初期段階に形成されるものである。開端していない多層カーボンナノチューブでは、端部に露出しているのは、最外周のチューブだけである。これに対し、開端しているカーボンナノチューブは、例えば図2(b)に示すように、チューブを形成する各層のグラフェンが、端部において露出した構造を有するものである。
【0021】
上述のように、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10では、カーボンナノチューブ16の端部が、シートの表面に露出している。
【0022】
これにより、カーボンナノチューブシート10を放熱体又は発熱体と接触したとき、カーボンナノチューブ16が放熱体又は発熱体に対して直に接するため、熱伝導効率を大幅に高めることができる。また、カーボンナノチューブ16は導電性を有しているため、カーボンナノチューブ16の両端部を露出することにより、カーボンナノチューブ16を、シートを貫く配線体として用いることもできる。すなわち、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、熱伝導シートとしてのみならず、縦型配線シートとしても利用可能である。
【0023】
また、カーボンナノチューブ16の両端部が開端しているため、開端していない場合と比較して、カーボンナノチューブ16と被着体との間の接触面積を増加することができる。これにより、カーボンナノチューブ16と被着体との間の接触熱抵抗や接触抵抗を大幅に低減することができる。特に、多層カーボンナノチューブの場合は、被着体を内側のチューブにも直接接触させることが可能となり、内側のチューブを熱伝導や電気伝導に積極的に寄与させることができる。これにより、カーボンナノチューブシート10の熱伝導性及び導電性を大幅に向上することができる。
【0024】
カーボンナノチューブ16は、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ16の面密度は、特に限定されるものではないが、放熱性及び電気伝導性の観点からは、1×1010本/cm以上であることが望ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ16の長さは、カーボンナノチューブシート16の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。カーボンナノチューブシート10を、発熱源(例えば半導体素子)と放熱部品(例えばヒートスプレッダ)との間に形成するサーマルインターフェイスマテリアルとして使用する場合、少なくとも発熱源及び放熱部品の表面の凹凸を埋める長さ以上であることが望ましい。
【0026】
充填層18の構成材料としては、カーボンナノチューブ16の埋め込みの際に液体状の性質を示し、その後に硬化できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、有機系充填材としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ホットメルト樹脂などの熱可塑性樹脂等を適用することができる。また、無機系充填材としては、SOG(Spin On Glass)などの塗布型絶縁膜形成用組成物などを適用することができる。また、インジウム、はんだ、金属ペースト(例えば、銀ペースト)などの金属材料を適用することもできる。また、例えばポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性ポリマを適用することもできる。また、カーボンナノチューブシート10自体に撓み性や柔軟性が必要な場合には、硬化後にゴム状やゲル状になる充填材を用いてもよい。
【0027】
また、充填層18には、必要に応じて、添加物を分散混合してもよい。添加物としては、例えば熱伝導性の高い物質や導電性の高い物質が考えられる。充填層18部分に熱伝導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層18部分の熱伝導率を向上することができ、カーボンナノチューブシート全体としての熱伝導率を向上することができる。カーボンナノチューブシート10を導電性シートとして用いる場合にあっては、充填層18部分に電導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層18部分の導電率を向上することができ、カーボンナノチューブシート全体としての導電率を向上することができる。充填層18として例えば有機系充填材などの熱伝導性の低い絶縁材料を用いる場合には、特に有効である。熱伝導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、グラファイト、フラーレン等を適用することができる。電導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料等を適用することができる。
【0028】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図3及び図4を用いて説明する。
【0029】
まず、カーボンナノチューブシート10を形成するための土台として用いる基板12を用意する。基板12としては、シリコン基板などの半導体基板、アルミナ(サファイア)基板、MgO基板、ガラス基板などを用いることができる。また、これら基板上に薄膜が形成されたものでもよい。例えば、シリコン基板上に膜厚300nm程度のシリコン酸化膜が形成されたものを用いることができる。
【0030】
基板12は、カーボンナノチューブ16の形成後に剥離されるものである。この目的のもと、基板12としては、少なくともカーボンナノチューブ16に接する面が、カーボンナノチューブ16から容易に剥離できる材料によって形成されていることが望ましい。或いは、カーボンナノチューブシート10に対して選択的にエッチングできる材料によって形成されていることが望ましい。
【0031】
次いで、基板12上に、例えばスパッタ法により、例えば膜厚2.5nmのFe(鉄)膜を形成し、Feの触媒金属膜14を形成する(図3(a))。
【0032】
触媒金属としては、Feのほか、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、Pt(白金)又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金を用いてもよい。また、触媒として、金属膜以外に、微分型静電分級器(DMA:differential mobility analyzer)等を用い、予めサイズを制御して作製した金属微粒子を用いてもよい。この場合も、金属種については薄膜の場合と同様でよい。
【0033】
また、これら触媒金属の下地膜として、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、TaN(窒化タンタル)、TiSi(チタンシリサイド)、Al(アルミニウム)、Al(酸化アルミニウム)、TiO(酸化チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、TiN(窒化チタン)などの膜又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金からなる膜を形成してもよい。例えば、Fe(2.5nm)/Al(10nm)の積層構造、Co(2.6nm)/TiN(5nm)の積層構造等を適用することができる。金属微粒子を用いる場合は、例えば、Co(平均直径:3.8nm)/TiN(5nm)などの積層構造を適用することができる。
【0034】
次いで、基板12上に、例えばホットフィラメントCVD法により、触媒金属膜14を触媒として、カーボンナノチューブを成長する。カーボンナノチューブの成長条件は、例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、ホットフィラメント温度を1000℃、成長時間を20分とする。これにより、層数が3〜6層(平均4層程度)、直径が4〜8nm(平均6nm)、長さが80μm(成長レート:4μm/min)の多層カーボンナノチューブを成長することができる。なお、カーボンナノチューブは、熱CVD法やリモートプラズマCVD法などの他の成膜方法により形成してもよい。また、成長するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでもよい。また、炭素原料としては、アセチレンのほか、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類などを用いてもよい。
【0035】
こうして、基板12上に、基板12の法線方向に配向(垂直配向)した複数のカーボンナノチューブ16を形成する(図3(b))。なお、上記の成長条件で形成したカーボンナノチューブ16の面密度は、1×1011本/cm程度であった。
【0036】
次いで、例えばディップ法により、充填層18となる充填材を、カーボンナノチューブ16の間隙に充填する。例えば、粘度が800mPa・sのシリコーン系樹脂を、例えば1000rpm、20秒の条件でスピンコートした基板に対して、カーボンナノチューブ16が形成された基板12を例えば1分間押し付ける。これにより、充填材としてのシリコーン系樹脂が、毛細管現象により、カーボンナノチューブ16の間に、カーボンナノチューブ16とほぼ同じ高さまで充填される。
【0037】
充填材は、液体状の性質を示し、その後に硬化できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、有機系充填材としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂等を適用することができる。また、無機系充填材としては、SOGなどの塗布型絶縁膜形成用組成物などを適用することができる。また、インジウム、はんだ、金属ペースト(例えば、銀ペースト)などの金属材料を適用することもできる。また、例えばポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性ポリマを適用することもできる。
【0038】
次いで、カーボンナノチューブ16間に充填した充填材を硬化し、充填層18を形成する(図3(c))。例えば、充填材としてアクリル樹脂等の光硬化性の材料を用いる場合には、光照射によって充填材を硬化させることができる。また、充填材としてエポキシ樹脂やシリコーン系樹脂などの熱硬化性の材料を用いる場合には、熱処理によって充填材を硬化させることができる。エポキシ樹脂の場合、例えば150℃、1時間の熱処理により、熱硬化することができる。また、シリコーン系樹脂の場合、例えば200℃、1時間の熱処理により、熱硬化することができる。
【0039】
なお、充填層18の硬化後に、カーボンナノチューブ16の上端部が充分に露出していない又は充填層18によって覆われている場合には、化学的機械的研磨や酸素プラズマアッシングによって、カーボンナノチューブ16の端部上の充填層18を除去するようにしてもよい。また、充填層18を除去してカーボンナノチューブ16の上端部を露出するとともに、カーボンナノチューブ16の上端部を開端するようにしてもよい。
【0040】
次いで、ウォータージェットやダイヤモンドブレード等の切断手段を用い、充填層18及びカーボンナノチューブ16を、カーボンナノチューブ16の配向方向と交差する方向、例えば基板12の表面に平行な方向に沿って、複数枚にスライスする(図4(a))。
【0041】
充填層18及びカーボンナノチューブ16をスライスすることにより、切断面には、カーボンナノチューブ16が露出する。また、切断面のカーボンナノチューブ16は、開端した状態となる。また、カーボンナノチューブ16は樹脂材料等の充填層18と比較すると硬度が高いため、スライスした表面は、充填層18とカーボンナノチューブ16とが同じ高さ、或いは、カーボンナノチューブ16の端部が充填層18よりも突出した状態となる。
【0042】
こうして、開端した両端部が露出したカーボンナノチューブ16を有する本実施形態によるカーボンナノチューブシート10を完成する(図4(b))。
【0043】
本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法では、充填層18及びカーボンナノチューブ16をスライスすることにより、複数枚のカーボンナノチューブシートを形成する。図3(b)の工程において成長するカーボンナノチューブ16の長さは、形成しようとするシートの枚数及び厚さ、切り代等を考慮して、適宜設定することが望ましい。ウォータージェットやダイヤモンドブレード等の切断手段では、切り代は100μm程度である。
【0044】
このように、本実施形態によれば、一度のカーボンナノチューブの成長によって複数枚のカーボンナノチューブシートを製造することができるため、製造プロセスを簡略化することができ、ひいては製造コストを低減することができる。
【0045】
また、本実施形態による製造方法を用いることにより、カーボンナノチューブの両端部を表面に露出するとともに開端することができる。これにより、カーボンナノチューブシートの熱伝導性及び導電性を大幅に向上できるとともに、被着体に対する接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0046】
[第2実施形態]
第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図5乃至図8を用いて説明する。図1乃至図4に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し又は簡潔にする。
【0047】
図5は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図6及び図7は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。図8は、カーボンナノチューブの端部に形成した被膜の構造の一例を示す斜視図である。
【0048】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図5を用いて説明する。
【0049】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図5(a)に示すように、カーボンナノチューブ16の端部に被膜20,22が形成されているほかは、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート10と同様である。
【0050】
被膜20,22は、充填層18の構成材料よりも熱伝導率の高い材料により形成されている。被膜20,22を形成する材料は、充填層18の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。
【0051】
熱伝導性の高い被膜20,22を設けることにより、被膜20,22を設けない場合と比較して、カーボンナノチューブシート10の被着体(放熱体、発熱体)に対する接触面積を増加することができる。これにより、カーボンナノチューブ16と被着体との間の接触熱抵抗が低減され、カーボンナノチューブシート10の熱伝導性を高めることができる。カーボンナノチューブシート10を導電性シートとしても用いる場合には、導電性を高めることができる。また、被膜20,22を設けることにより、シートの表面に平行な方向への熱伝導性及び導電性を確保することも可能となる。
【0052】
なお、図5(a)では、カーボンナノチューブ16の両端部に被膜20,22を形成した場合を示したが、例えば図5(b)に示すように、被膜20及び被膜22のいずれか一方(図では、被膜20)のみを設けるようにしてもよい。
【0053】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図6及び図7を用いて説明する。
【0054】
まず、図3(a)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブの製造方法と同様にして、基板12上に、カーボンナノチューブ16を成長する(図6(a))。
【0055】
次いで、カーボンナノチューブ16上に、例えばスパッタ法により、例えば膜厚10nmのチタン(Ti)膜と、例えば膜厚300nmの金(Au)膜とを堆積する。これにより、カーボンナノチューブ16上に、Au/Tiの積層構造の被膜20を形成する(図6(b))。
【0056】
被膜20の構成材料は、充填層18の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途に用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。被膜20の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)、インジウム(In)、低融点はんだ等を用いることができる。被膜14aは、これら金属の単層構造でもよいし、上述のようなチタンと金との積層構造など、2層或いは3層以上の積層構造であってもよい。
【0057】
なお、上記の例でAu/Tiの積層構造を用いているのは、チタンがカーボンナノチューブ16に対する密着性に優れているからである。金膜とカーボンナノチューブ16との間にチタン膜を形成することにより、カーボンナノチューブ16と被膜20との間の接触熱抵抗並びに接触抵抗を低減することができる。密着性を向上する観点からは、10nm程度以上のチタン膜を形成することが望ましい。
【0058】
被膜20は、成長初期段階では、例えば図8(a)に示すように、各カーボンナノチューブ16の先端部分を覆うように形成される。成長膜厚が増加してくると、隣接する各カーボンナノチューブ16の先端部分に形成された被膜20が互いに接続される。これにより、被膜20は、例えば図8(b)に示すように、複数本の各カーボンナノチューブ16の先端部分を束ねるように形成される。被膜20の成長膜厚を更に増加すると、被膜20がシートの面に平行な2次元方向に完全に接続され、隙間のない完全な膜となる。後工程において充填層18を形成する充填材料の浸透性を維持するためには、被膜20が完全な膜とならないように膜厚を制御することが望ましい。
【0059】
なお、被膜22だけを形成する場合にあっては、上述の被膜20を形成する工程は不要である。
【0060】
次いで、図3(c)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、充填層18を形成する(図6(c))。
【0061】
カーボンナノチューブ16間に充填材を浸透する際、1本1本のカーボンナノチューブ16同士の凝集が起こり、カーボンナノチューブ16が元々保持していた配向性を失い、例えば横に倒れるなどの形状変化を起こすことがある。しかしながら、本実施形態では、カーボンナノチューブ12の上端部に被膜20が形成されているため、カーボンナノチューブ16の形状変化を抑制して凝集を防止することができる。
【0062】
次いで、図4(a)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、充填層18及びカーボンナノチューブ16を、複数枚にスライスする(図7(a))。
【0063】
次いで、スライスすることにより新たに露出したカーボンナノチューブ16の端部のうち、必要な端部に、被膜20の形成方法と同様にして、被膜22を形成する(図7(b))。被膜20を図6(b)の工程では形成せずに、充填層18及びカーボンナノチューブ16スライスした後に形成するようにしてもよい。
【0064】
こうして、本実施形態によるカーボンナノチューブシートを完成する。
【0065】
このように、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの端部に熱伝導性の高い被膜を形成するので、被着体に対する接触熱抵抗及び接触抵抗を低減することができる。これにより、カーボンナノチューブシートの熱伝導性及び導電性を更に向上することができる。
【0066】
[第3実施形態]
第3実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図9乃至図11を用いて説明する。図1乃至図8に示す第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し又は簡潔にする。
【0067】
図9は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図10及び図11は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【0068】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図9を用いて説明する。
【0069】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図9に示すように、シートの膜厚方向に配向した複数のカーボンナノチューブ16が充填層18により支持された構造を有する点で、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートと同様である。各カーボンナノチューブ16は、両端部において開端している。開端したカーボンナノチューブ16の端部は、シートの表面に露出している。カーボンナノチューブ16の一端部は、充填層18の表面から突出している。
【0070】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10では、充填層18が、熱可塑性樹脂によって形成されている。充填層18を形成する熱可塑性樹脂は、温度に応じて液体と固体との間で可逆的に状態変化するものであり、室温では固体であり、加熱すると液状に変化し、冷却すると接着性を発現しつつ固体に戻るものであれば、特に限定されるものではない。
【0071】
充填層18を形成する熱可塑性樹脂は、カーボンナノチューブシート10の使用目的に応じて、熱可塑性樹脂の融解温度をもとに選択することができる。熱可塑性樹脂の融解温度の下限値は、稼働時の発熱温度の上限値よりも高いことが望ましい。稼働時に熱可塑性樹脂が溶解すると、カーボンナノチューブシート10が変形してカーボンナノチューブ16が配向性を損なうなど、熱伝導性を低下するなどの不具合を引き起こす虞があるからである。熱可塑性樹脂の溶解温度の上限値は、発熱体及び放熱体の耐熱温度の下限値よりも低いことが望ましい。本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、放熱体及び発熱体に接触させた後にリフローを行うことが望ましいが、熱可塑性樹脂の溶解温度が耐熱温度より高いと、発熱体及び/又は放熱体にダメージを与えることなくリフローをすることが困難となるからである。
【0072】
例えば、カーボンナノチューブシート10をCPUなどの電子機器の放熱用途に用いる場合、CPU稼働時の発熱温度の上限がおよそ125℃であり、CPU電子部品の耐熱温度がおよそ250℃であることに鑑み、融解温度が125℃〜250℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。例えば、自動車エンジンのエキゾーストシステム等の用途に用いる場合、部位によるが発熱温度は500℃〜800℃程度であることに鑑み、融解温度が600℃〜900℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。
【0073】
また、充填層18には、必要に応じて、添加物を分散混合してもよい。添加物としては、例えば熱伝導性の高い物質や導電性の高い物質が考えられる。充填層18部分に熱伝導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層18部分の熱伝導率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての熱伝導率を向上することができる。また、カーボンナノチューブシート10を導電性シートとして用いる場合にあっては、充填層18部分に電導性の高い添加物を分散混合する。これにより、充填層18部分の導電率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての導電率を向上することができる。熱伝導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、グラファイト、フラーレン等を適用することができる。電導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料等を適用することができる。
【0074】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図10及び図11を用いて説明する。
【0075】
まず、図3(a)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、基板12上に、カーボンナノチューブ16を成長する(図10(a))。
【0076】
次いで、成長したカーボンナノチューブ16上に、フィルム状に加工した熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂フィルム)を載置する。熱可塑性樹脂フィルムの膜厚は、形成しようとするカーボンナノチューブシート10の厚さ程度、例えば4〜400μm程度とする。
【0077】
熱可塑性樹脂フィルムの熱可塑性樹脂としては、例えば、以下に示すホットメルト樹脂を適用することができる。ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、例えば、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」が挙げられる。また、ポリエステル系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH598B」が挙げられる。また、ポリウレタン系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH722B」が挙げられる。また、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂としては、例えば、松村石油株式会社製の「EP−90」が挙げられる。また、エチレン共重合体ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DA574B」が挙げられる。また、SBR系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6250」が挙げられる。また、EVA系ホットメルト樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製の「3747」が挙げられる。また、ブチルゴム系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6158」が挙げられる。
【0078】
ここでは、一例として、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」を厚さ200μmのフィルム状に加工した熱硬化性樹脂フィルムを用いた場合について説明する。なお、「Micromelt6239」は、融解温度が135℃〜145℃、融解時粘度が5.5Pa.s〜8.5Pa.s(225℃)のホットメルト樹脂である。
【0079】
次いで、熱可塑性樹脂フィルムを載置した基板12を、例えば195℃の温度で加熱する。これにより、熱可塑性樹脂フィルムの熱可塑性樹脂が溶解し、カーボンナノチューブ16の間隙に徐々に浸透していく。こうして、カーボンナノチューブ16の上半分程度が熱可塑性樹脂フィルムによって覆われるように、熱可塑性樹脂フィルムをカーボンナノチューブ16間に浸透させる。
【0080】
次いで、溶解した熱可塑性樹脂フィルムを固化し、熱可塑性樹脂の充填層18aを形成する(図10(b))。
【0081】
熱可塑性樹脂を予めシート状に加工しておくことにより、シートの膜厚によって充填材量のコントロールが可能となる。また、カーボンナノチューブ16の間隙に浸透する熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、熱処理時間によって制御することができる。
【0082】
熱可塑性樹脂フィルムの加熱温度及び時間は、熱可塑性樹脂フィルムが所望の位置まで浸透するように、カーボンナノチューブ16の長さ、熱可塑性樹脂の融解時の粘度、熱可塑性樹脂フィルムの膜厚等に応じて適宜設定することが望ましい。
【0083】
なお、熱可塑性樹脂の形状は、予めフィルム状に加工しておくことが好適であるが、ペレット状や棒状でも構わない。
【0084】
次いで、充填層18aを固化した後、カーボンナノチューブ16及び充填層18aを、基板12から剥離する(図10(c))。
【0085】
次いで、カーボンナノチューブ16の基板12からの剥離端側に、充填層18aの形成方法と同様にして、充填層18bを形成する(図11(a))。
【0086】
充填層18bを形成する際には、充填層18bとなる熱可塑性樹脂材料が充填層18aに達しないように、カーボンナノチューブ16の長さ、熱可塑性樹脂の融解時の粘度、熱可塑性樹脂フィルムの膜厚等に応じて、熱可塑性樹脂フィルムの加熱温度及び時間を制御する。
【0087】
次いで、充填層18a,18bを引き剥がすことにより、カーボンナノチューブ16及び充填層18aを有するシートと、カーボンナノチューブ16及び充填層18bを有するシートの、2つのカーボンナノチューブシートを形成する(図11(b)〜(c))。
【0088】
充填層18aと充填層18bとを引き剥がす代わりに、第1及び第2実施形態の場合と同様の切断手段を用いてカーボンナノチューブ16を切断してもよい。
【0089】
このように、本実施形態によれば、一度のカーボンナノチューブの成長によって2枚のカーボンナノチューブシートを製造することができるため、製造プロセスを簡略化することができ、ひいては製造コストを低減することができる。
【0090】
また、本実施形態による製造方法を用いることにより、カーボンナノチューブの端部を表面に露出するとともに開端することができる。これにより、カーボンナノチューブシートの熱伝導性及び導電性を大幅に向上できるとともに、被着体に対する接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0091】
[第4実施形態]
第4実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図12乃至図15を用いて説明する。図1乃至図11に示す第1乃至第3実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し又は簡潔にする。
【0092】
図12は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図13乃至図15は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【0093】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図12を用いて説明する。
【0094】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図12に示すように、カーボンナノチューブ16の端部に被膜20,22が形成されているほかは、図9に示す第3実施形態によるカーボンナノチューブシート10と同様である。
【0095】
被膜20,22は、充填層18の構成材料よりも熱伝導率の高い材料により形成されている。被膜20,22を形成する材料は、充填層18の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。
【0096】
熱伝導性の高い被膜20,22を設けることにより、被膜20,22を設けない場合と比較して、カーボンナノチューブシート10の被着体(放熱体、発熱体)に対する接触面積を増加することができる。これにより、カーボンナノチューブ16と被着体との間の接触熱抵抗が低減され、カーボンナノチューブシート10の熱伝導性を高めることができる。カーボンナノチューブシート10を導電性シートとしても用いる場合には、導電性を高めることができる。
【0097】
なお、図12(a)では、カーボンナノチューブ16の両端部に被膜20,22を形成した場合を示したが、例えば図12(b)に示すように、被膜20及び被膜22のいずれか一方(図では、被膜20)のみを設けるようにしてもよい。
【0098】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図13乃至図15を用いて説明する。
【0099】
まず、図3(a)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、基板12上に、カーボンナノチューブ16を成長する(図13(a))。
【0100】
次いで、図6(b)に示す第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、カーボンナノチューブ16上に、被膜20aを形成する(図13(b))。
【0101】
なお、被膜22だけを形成する場合にあっては、上述の被膜20aを形成する工程は不要である。
【0102】
次いで、被膜20aを形成したカーボンナノチューブ16上に、熱可塑性樹脂フィルムを載置する。
【0103】
次いで、図10(b)に示す第3実施形態によるカーボンナノチューブの製造方法と同様にして、熱可塑性樹脂フィルムをカーボンナノチューブ16間に浸透させ、充填層18aを形成する(図13(c))。
【0104】
次いで、カーボンナノチューブ16及び充填層18aを、基板12から剥離する(図14(a))。
【0105】
次いで、カーボンナノチューブ16の基板12からの剥離端上に、被膜20aの形成方法と同様にして、被膜20bを形成する(図14(b))。
【0106】
次いで、カーボンナノチューブ16の被膜22形成端部側に、充填層18aの形成方法と同様にして、充填層18bを形成する(図14(c))。
【0107】
次いで、充填層18a,18bを引き剥がし、カーボンナノチューブ16を2つに分断することにより、カーボンナノチューブ16及び充填層18aを有するシートと、カーボンナノチューブ16及び充填層18bを有するシートとを形成する(図15(a)〜(b))。カーボンナノチューブ16の切断端面は、開端した状態となる。
【0108】
次いで、スライスすることにより新たに露出したカーボンナノチューブ16の端部に、被膜20a,20bの形成方法と同様にして、被膜22a,22bを形成する(図15(c))。被膜20a,20bは、図13(b)及び図14(b)の工程では形成せずに、充填層18及びカーボンナノチューブ16スライスした後に形成するようにしてもよい。被膜20a,20bだけを形成する場合にあっては、上述の被膜22a,22bを形成する工程は不要である。
【0109】
次いで、充填層18a,18bを引き剥がすことにより新たに露出したカーボンナノチューブ16の端部のうち、必要な端部に、被膜20の形成方法と同様にして、被膜22を形成する(図7(b))。被膜20を図6(b)の工程では形成せずに、充填層18及びカーボンナノチューブ16スライスした後に形成するようにしてもよい。
【0110】
こうして、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10を完成する。
【0111】
このように、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの端部に熱伝導性の高い被膜を形成するので、被着体に対する接触熱抵抗及び接触抵抗を低減することができる。これにより、カーボンナノチューブシートの熱伝導性及び導電性を更に向上することができる。
【0112】
[第5実施形態]
第5実施形態による電子機器について図16を用いて説明する。なお、図1乃至図15に示す第1乃至第4実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔にする。
【0113】
図26は、本実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。
【0114】
本実施形態では、第1乃至第4実施形態によるカーボンナノチューブシートを熱伝導シートとして適用した電子機器について説明する。
【0115】
プリント配線基板50上には、多層配線基板などの回路基板54が実装されている。回路基板54は、はんだバンプ52を介してプリント配線基板50に電気的に接続されている。
【0116】
回路基板54上には、例えばCPUなどの半導体素子58が実装されている。半導体素子58は、はんだバンプ56を介して回路基板54に電気的に接続されている。
【0117】
半導体素子58上には、半導体素子58を覆うように、半導体素子58からの熱を拡散するためのヒートスプレッダ62が形成されている。ヒートスプレッダ62は、例えば有機シーラント60によって回路基板54に接着されている。半導体素子58とヒートスプレッダ62との間には、第1乃至第4実施形態のいずれかに記載のカーボンナノチューブシート10が形成されている。
【0118】
このように、本実施形態による電子機器では、半導体素子58とヒートスプレッダ62との間、すなわち発熱部と放熱部との間に、第1乃至第4実施形態によるカーボンナノチューブシート10が設けられている。
【0119】
上述のように、第1乃至第4実施形態によるカーボンナノチューブシートは、カーボンナノチューブ16がシートの膜厚方向に配向しており、面直方向の熱伝導度が極めて高いものである。また、カーボンナノチューブ16の両端部は開端しており、被着体に対する接触熱抵抗が極めて低く、熱伝導性も高い。また、第2及び第4実施形態によるカーボンナノチューブシートでは、カーボンナノチューブ16の一方の端部或いは両端に被膜20,22が形成されており、被着体に対する接触熱抵抗が更に低減されている。
【0120】
したがって、開示のカーボンナノチューブシートを、半導体素子58とヒートスプレッダ62との間に形成する熱伝導シートとして用いることにより、半導体素子58から発せられた熱を効率よくヒートスプレッダ62に垂直方向に伝えることができ、放熱効率を高めることができる。これにより、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0121】
また、カーボンナノチューブ16を支持する充填層18を熱可塑性樹脂材料により形成することにより、電子機器に搭載後、カーボンナノチューブシート10をリフローすることが可能となる。これにより、半導体素子58及びヒートスプレッダ62に対するカーボンナノチューブシート10の接着性を高めるとともに、カーボンナノチューブシート56による熱伝導性をも高めることができる。
【0122】
このように、本実施形態によれば、半導体素子とヒートスプレッダとの間に、第1乃至第4実施形態によるカーボンナノチューブシートを配置するので、これらの間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、半導体素子から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0123】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0124】
例えば、上記第1乃至第4実施形態では、カーボンナノチューブを用いたシート状構造体(カーボンナノチューブシート)を示したが、カーボンナノチューブの代わりに他の炭素元素の線状構造体を用いてもよい。炭素元素の線状構造体としては、カーボンナノチューブのほか、カーボンナノワイヤ、カーボンロッド、カーボンファイバが挙げられる。これら線状構造体は、サイズが異なるほかは、カーボンナノチューブと同様である。これら線状構造体を用いた放熱材料においても適用することができる。
【0125】
また、上記実施形態に記載の構成材料や製造条件は、当該記載に限定されるものではなく、目的等に応じて適宜変更が可能である。
【0126】
また、カーボンナノチューブシートの使用目的も、上記実施形態に記載のものに限定されるものではない。開示のカーボンナノチューブシートは、熱伝導シートとしては、例えば、CPUの放熱シート、無線通信基地局用高出力増幅器、無線通信端末用高出力増幅器、電気自動車用高出力スイッチ、サーバー、パーソナルコンピュータなどへの適用が考えられる。また、カーボンナノチューブの高い許容電流密度特性を利用して、縦型配線シートやこれを用いた種々のアプリケーションにも適用可能である。
【0127】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0128】
(付記1) 炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、
前記複数の線状構造体間に形成された充填層と
を有することを特徴とするシート状構造体。
【0129】
(付記2) 付記1記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体の少なくとも一方の端部に形成され、前記充填層よりも熱伝導率の高い材料の被膜を更に有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【0130】
(付記3) 付記1又は2記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体は、前記充填層の膜厚方向に配向している
ことを特徴とするシート状構造体。
【0131】
(付記4) 付記1乃至3のいずれか1項に記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体の前記両端部は、前記充填層から露出している
ことを特徴とするシート状構造体。
【0132】
(付記5) 付記1乃至4のいずれか1項に記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体のそれぞれは、多層構造を有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【0133】
(付記6) 発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と放熱体との間に配置され、炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、前記複数の線状構造体間に形成された充填層とを含むシート状構造体と
を有することを特徴とする電子機器。
【0134】
(付記7) 基板上に、炭素元素の複数の線状構造体を形成する工程と、
前記複数の線状構造体間に、前記複数の線状構造体を支持する充填層を形成する工程と、
前記充填層及び前記複数の線状構造体を複数枚に切断し、切断された前記充填層及び前記複数の線状構造体をそれぞれ含む複数のシート状構造体を形成する工程と
を有することを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【0135】
(付記8) 付記7記載のシート状構造体の製造方法において、
前記充填層を形成する工程は、前記複数の線状構造体の一端部に第1の充填層を形成する工程と、前記複数の線状構造体の他端部に第2の充填層を形成する工程とを含み、前記第1の充填層及び前記第2の充填層を有する前記充填層を形成し、
前記複数のシート状構造体を形成する工程では、前記第1の充填層と前記第2の充填層との間において前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断し、前記第1の充填層及び切断された前記複数の線状構造体の前記一端部側を含む第1のシート状構造体と、前記第2の充填層及び切断された前記複数の線状構造体の前記他端部側を含む第2のシート状構造体とを形成する
ことを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【0136】
(付記9) 付記7又は8記載のシート状構造体の製造方法において、
前記複数の線状構造体を形成する工程では、前記基板の表面と交差する方向に配向するように前記複数の線状構造体を形成し、
前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断する工程では、前記複数の線状構造体の配向方向と交差する方向に前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断する
ことを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【0137】
(付記10) 付記7乃至9のいずれか1項に記載のシート状構造体の製造方法において、
前記複数の線状構造体の端部に、前記充填層よりも熱伝導率の高い材料の被膜を形成する工程を更に有する
ことを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0138】
10…カーボンナノチューブシート
12…基板
14…触媒金属膜
16…カーボンナノチューブ
18…充填層
20,22…被膜
50…プリント配線基板
52,56…はんだバンプ
54…回路基板
58…半導体素子
60…有機シーラント
62…ヒートスプレッダ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、
前記複数の線状構造体間に形成された充填層と
を有することを特徴とするシート状構造体。
【請求項2】
請求項1記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体の少なくとも一方の端部に形成され、前記充填層よりも熱伝導率の高い材料の被膜を更に有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシート状構造体において、
前記複数の線状構造体のそれぞれは、多層構造を有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項4】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と放熱体との間に配置され、炭素元素により形成され両端部が開端している複数の線状構造体と、前記複数の線状構造体間に形成された充填層とを含むシート状構造体と
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項5】
基板上に、炭素元素の複数の線状構造体を形成する工程と、
前記複数の線状構造体間に、前記複数の線状構造体を支持する充填層を形成する工程と、
前記充填層及び前記複数の線状構造体を複数枚に切断し、切断された前記充填層及び前記複数の線状構造体をそれぞれ含む複数のシート状構造体を形成する工程と
を有することを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のシート状構造体の製造方法において、
前記充填層を形成する工程は、前記複数の線状構造体の一端部に第1の充填層を形成する工程と、前記複数の線状構造体の他端部に第2の充填層を形成する工程とを含み、前記第1の充填層及び前記第2の充填層を有する前記充填層を形成し、
前記複数のシート状構造体を形成する工程では、前記第1の充填層と前記第2の充填層との間において前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断し、前記第1の充填層及び切断された前記複数の線状構造体の前記一端部側を含む第1のシート状構造体と、前記第2の充填層及び切断された前記複数の線状構造体の前記他端部側を含む第2のシート状構造体とを形成する
ことを特徴とするシート状構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載のシート状構造体の製造方法において、
前記複数の線状構造体を形成する工程では、前記基板の表面と交差する方向に配向するように前記複数の線状構造体を形成し、
前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断する工程では、前記複数の線状構造体の配向方向と交差する方向に前記充填層及び前記複数の線状構造体を切断する
ことを特徴とするシート状構造体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−280528(P2010−280528A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134094(P2009−134094)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】