説明

シート状組織接着剤

【課題】 新規なシート状組織接着剤を提供する。
【解決手段】 本発明は、主成分としてフィブリノゲンを含有する層、主成分としてトロンビンを含有する層、及び当該両層の間に介在する中間層から構成されることを特徴とするシート状組織接着剤に関する。本発明のシート状組織接着剤は、ハイドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体からなる中間層を介在することにより、フィブリノゲンが組織接着部位に十分浸透した後に、トロンビンと反応させることが可能となり、その結果、フィブリノゲンのゲル化速度が最適化されることにより、極めて優れた組織接着効果および止血効果を達成するものである。本発明のシート状組織接着剤は、外科手術時の止血や組織閉鎖に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分としてフィブリノゲンを含有する層(以下、フィブリノゲン層)、主成分としてトロンビンを含有する層(以下、トロンビン層)、及び両層の中間に位置する層(以下、中間層とする)からなる構造を有するシート状組織接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場、特に、外科手術においては、止血及び組織閉鎖等の組織接着操作は極めて重要な位置づけにあり、最大の作業の一つといえる。
【0003】
近年、フィブリノゲンとトロンビンを作用させ、生じる接着力を応用したフィブリン糊接着剤が幅広い外科手術の現場で利用されている。フィブリノゲンは、血液凝固カスケードの最終段階に存在する非常に重要な凝固因子である。血管が損傷を受けると凝固系の活性化が生じ、最終的に活性化されたトロンビンが可溶性フィブリノゲンを不溶性のフィブリンに変換する。このフィブリンは接着力を有し止血および損傷治癒に重要な機能を発揮する。
【0004】
このフィブリン糊接着剤には、2液を混合し患部に塗布または噴霧する2液混合製剤(特許文献1、特許文献2)とコラーゲン等の支持体にフィブリノゲンとトロンビンを混合固定化したシートを患部に貼付するシート製剤がある(特許文献3)。
【0005】
フィブリン糊接着剤の使用方法については、これまで様々な検討が加えられ改善が図られてきた。しかしながら、フィブリン糊接着剤のうち、2液を混合し患部に塗布または噴霧する2液混合製剤においては、凍結乾燥されたフィブリノゲンとトロンビンそれぞれを使用時に溶解して用いるため、溶解に時間を要し緊急時の手術への対応の面や簡便性において満足できる剤型とは言えない。
【0006】
また、現行のシート製剤においては、基材であるコラーゲンは厚みがあり、比較的硬質であるため、閉鎖すべき創傷部位での密着性が低く、効果的な閉鎖は困難である。また、本シート製剤は、基材が馬コラーゲンであり、かつトロンビンは牛由来であり、ヒト以外の動物成分が使用されているため、適用対象がヒトである場合、異種タンパクに対する抗体の出現やプリオン病等の人畜共通感染症の危険性が存在するため理想的なものとは言い難い。フィブリン接着剤を組織接着及び止血に使用する場合、他の局所組織接着剤に比較して異物反応は軽微であるという利点は有するものの、上述のような問題点がある。
【0007】
また、フィブリンに由来する接着力はフィブリノゲン濃度依存的であり、高濃度であるほど強い接着力が得られることから、強力な接着力を実現させるためには、高濃度のフィブリノゲンに少量の高濃度トロンビンを作用させることが必要とされている。
【0008】
しかしながら、現行の2液混合製剤は、等量混合のため濃度が半分になり、フィブリノゲンの最大効力を発揮できない。また、フィブリノゲンの濃度は現実的に10%程度溶液が濃度限界であることから2液等量混合の系において、濃度の改良も困難である。
【0009】
この点に関して、シート製剤の方が高濃度で患部に適用可能であるため、理論的には2液混合製剤より強固な接着力を期待できる。しかしながら、現行のシート製剤は、2液混合の製剤と同程度の接着力しか示さず、濃度の問題を解決できない。これは、シートの溶解時にフィブリノゲンとトロンビンが同時に溶解するため、組織接着部位へ十分浸透する前に凝固反応が進み、組織表面のみの接着となることが原因である。高濃度のフィブリノゲンと少量の高濃度トロンビンを反応させた場合に、固いフィブリンゲルを形成するが、接着の時期を逃すと反応が速すぎるために全く接着力を示さないのと同じである。
【0010】
従って、これらの現行製剤により全ての組織接着、止血を可能にするものではなく、現行製剤では要求される接着力を示さない場合があるため、医療現場では更に強力な接着力を持った組織接着剤が求められている(非特許文献1)。
【0011】
通常、完全にゲル化したフィブリンゲルが全く接着力を発揮しないことから、強固な接着力を発揮するためには、組織接着部位とその近傍組織内にフィブリノゲンが浸透した状態で強固にゲル化させることが重要であることがわかる。すなわち、均一な高濃度フィブリノゲン溶液が組織内の接着面に浸透した後に高濃度トロンビンを反応させれば、トロンビンの濃度勾配が形成され、その濃度依存的にフィブリンゲル化する速度を変化させることが可能になるはずである。
【0012】
フィブリノゲンとトロンビンの組み合わせにより、強力な接着力を示す剤形を推定することは可能だが、実際に利便性を期待できるシート状組織接着剤は確立されていない。それは、支持体上にフィブリノゲンを凍結乾燥したシート状フィブリノゲンとシート状トロンビンを単純に2枚重ねにしたとしても、患部に適用した際にフィブリノゲンが均一に溶解する前にトロンビンと反応するため、強力な接着力を示すことができないからである。
【0013】
従って、シート状組織接着剤でも溶液状組織接着剤と同等の効果が得られれば、液状では適用できない部位への利用が可能になるため、手術方法への適応範囲を広げることが可能となる。しかしながら、これは、上述の通り容易に達成できるものではなく、相当の創意工夫と試行錯誤が必要とされる。
【特許文献1】特許公開平9−2971号
【特許文献2】PCT公開WO97/33633号
【特許文献3】特許公表2004−521115号
【非特許文献1】日消外会誌33(1):18〜24,2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、組織接着剤に関する上記の諸課題を克服し、従来の組織接着剤と比較して、強い組織接着・止血効果を発揮するシート状組織接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、医学上または産業上有用な物質・方法として下記(1)〜(19)の発明を含むものである。
(1)主成分としてフィブリノゲンを含有する層(以下、「フィブリノゲン層」とする)、主成分としてトロンビンを含有する層(以下、「トロンビン層」とする)、及び両層の中間に位置する層(以下、「中間層」とする)より構成されることを特徴とするシート状組織接着剤。
(2)当該フィブリノゲン層が、シート様に加工されたフィブリノゲン凍結乾燥物、またはフィブリノゲンが支持体に固定化されるフィブリノゲン固定化支持体であることを特徴とする上記(1)記載のシート状組織接着剤。
(3)当該支持体が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸との共重合体、またはアルコールと水に溶解可能なセルロース誘導体からなる群より選択される材料である上記(2)に記載のシート状組織接着剤。
(4)当該支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布またはハイドロキシプロピルセルロースから選択される上記(2)または(3)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(5)当該支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布である上記(2)から(4)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(6)当該フィブリノゲン層が、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール、またはクエン酸ナトリウムからから選択される少なくとも一つの添加剤を含む上記(1)から(5)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(7)当該フィブリノゲン層が、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコールおよびクエン酸ナトリウムの全ての添加剤を含む上記(1)から(6)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(8)当該中間層が、アルコール及び水に溶解可能なセルロース誘導体を材料とする上記(1)に記載のシート状組織接着剤。
(9)当該セルロース誘導体が、ハイドロキシプロピルセルロースである上記(8)に記載のシート状組織接着剤。
(10)当該トロンビン層が、トロンビンが支持体に固定化されることを特徴とするトロンビン固定化支持体である上記(1)に記載のシート状組織接着剤。
(11)当該支持体が、アルコールと水に溶解可能なセルロース誘導体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、及びグリコール酸と乳酸との共重合体からなる群より選択される材料である上記(10)に記載のシート状組織接着剤。
(12)当該支持体が、ハイドロキシプロピルセルロースまたはポリグリコール酸を材料とする不織布から選択される上記(10)または(11)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(13)当該支持体が、ハイドロキシプロピルセルロースである上記(10)から(12)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(14)当該フィブリノゲン層、トロンビン層、及び中間層からなり、少なくともトロンビン層と中間層が積層される構造を有する上記(1)から(13)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(15)当該フィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の順に、3層が積層されてなる構造を有する上記(1)から(14)のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
(16)上記(1)から(15)のいずれかに記載のシート状組織接着剤からなる止血用材料。
(17)上記(1)から(15)のいずれかに記載のシート状組織接着剤からなる組織閉鎖剤。
(18)上記(1)から(14)のいずれかに記載のトロンビン層と中間層が予め積層された層、及びフィブリノゲン層からなる止血用または組織閉鎖用キット。
(19)上記(1)から(15)のいずれかに記載のフィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の順に3層が予め積層されている止血用または組織閉鎖用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるシート状組織接着剤は、
・組織接着効果に優れている;
・製剤自体の膠着性により貼付することが可能なため、縫合は簡略化あるいは必要としない;
・広範囲の患部でも形状を保持したまま面で補修できる;
・溶解の手間が要らず、適用方法も簡便である;
・安全性に優れている;
・経時的に吸収される;
・伸縮性・柔軟性に優れている;
のような性質を有しており、理想的な組織接着剤となることが明らかになった。本発明により、様々な領域の外科手術を始めとする各種医療分野において、安全、迅速かつ確実に組織接着を行うことのできる生体吸収性材料からなるシート状組織接着剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に使用されるシート状組織接着剤は、フィブリノゲン層、トロンビン層、及び中間層より構成される。
フィリノゲン層は、シート様に加工されたフィブリノゲン凍結乾燥物もしくはフィブリノゲンが支持体上に固定化されたことを特徴とするシート様に加工された凍結乾燥物である。当該支持体を形成しうる基材としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸及び乳酸の共重合体、またはハイドロキシプロピルセルロースなどの生体吸収性材料をシート様に加工したものが使用可能である。中でも、ポリグリコール酸を材料とする不織布に加工した生体吸収性材料は、本目的に好ましい素材である。
フィブリノゲン層は、フィブリノゲン溶液に予め成型された生体吸収性材料を浸漬させた後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、フィブリノゲン溶液と溶液状の生体吸収性材料を混合後、凍結乾燥することにより作製することもできる。
【0018】
フィブリノゲン層において、フィブリノゲン成分に加えて、薬学的に許容しうる添加剤を添加してもよい。そのような添加剤の例として、例えば、血液凝固第XIII因子(以下、FXIIIという。)、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、及びクエン酸ナトリウムなどがある。これらの添加剤を少なくとも一つ以上を適宜組み合わせて、または全てを添加することにより、フィブリノゲン成分の溶解性や、フィブリノゲン層の柔軟性を向上させることが可能となる。
【0019】
トロンビン層は、トロンビンの凍結乾燥物もしくはトロンビンを支持体上に固定化されたことを特徴とするシート様に加工された凍結乾燥物である。当該支持体を形成しうる基材として、アルコール及び水に溶解可能なセルロース誘導体および/またはポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはグリコール酸及び乳酸の共重合体などをシート様に加工したものが使用可能である。アルコール及び水に溶解可能なセルロース誘導体としては、ハイドロキシプロピルセルロースが本目的に好ましく、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはグリコール酸及び乳酸の共重合体としては、ポリグリコール酸を材料とする不織布に加工した生体吸収性材料が適している。
トロンビン層は、フィブリノゲン層と同様、トロンビン溶液に予め成型された生体吸収性材料を浸漬させた後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、トロンビン溶液と溶液状の生体吸収性材料を混合後、凍結乾燥することにより作製することもできる。
【0020】
フィブリノゲン、トロンビン、またはFXIIIとしては、ヒト血液由来または遺伝子組換え技術により得られるものが好ましい。
【0021】
中間層は、フィブリノゲンが組織接着部位に十分浸透した後に、トロンビンと反応させることが可能となるよう、生体内において適度な溶解性(瞬間的に溶解および拡散するのは好ましくない)を有することが求められる。この中間層の介在により、フィブリノゲンのゲル化速度を調整することが可能となる。
当該中間層に用いられる材料としては、アルコール及び水に溶解可能なセルロース誘導体からなる生体吸収性材料が好ましい。中でも、ハイドロキシプロピルセルロース(HPC)は本目的に好ましい素材である。当該HPC等からなる生体吸収性材料をシート状に加工したものが本発明の中間層として使用される。
HPCシートの調製において、溶媒に水を用いる場合、凍結乾燥することにより和紙状のHPCシートを調製できる。この際、ソルビトール等の保水性の高い糖アルコールを添加することにより、溶解速度を速くすることが可能である。また、溶媒にアルコールを用いる場合は、加温した状態で容器等に噴霧することによりアルコールを蒸発させ、フィルム状のHPCを調製することができる。
シートの厚みは使用するHPCの濃度と量を変化させることにより自由にコントロールすることが可能である。また、当該中間層は、溶解後に水分を保持する性質を有することから、組織接着剤における柔軟性の保持においても寄与している。
【0022】
本発明の組織接着剤は、最終的に、フィブリノゲン層、トロンビン層、及び中間層からなる構造を有するシート状組織接着剤であればよい。ただし、術場での使いやすさを考慮すると、少なくともトロンビン層と中間層の2層が予め積層され一体化された層からなる態様を有し、さらにフィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の3層が予め積層されてなる一体型3層構造を有するシート状組織接着剤は、その扱い易さ及び組織接着効果の観点から好ましい態様の一つとなる。
【0023】
このように、本シート状組織接着剤の構造では、各々の成分が互いに遮断された環境下にあるため、使用前にトロンビンとフィブリノゲンが反応して安定化フィブリンを形成することがない。
【0024】
本発明の組織接着用材料の具体的なキット構成としては、
A.トロンビン層と中間層の2層が予め積層され一体化されたシート及びフィブリノゲン層
B.フィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の3層が予め積層されてなる一体型3層シート
を基本構成とし、さらにこれに上述した添加剤や安定剤を適宜含むものである。
【0025】
Aの構成の場合、患部にフィブリノゲン層を貼付後、トロンビン層/中間層一体型シートの中間層側を貼付されたフィブリノゲン層に重層することにより使用される。
【0026】
トロンビン層と中間層が予め積層された層は、個別に調製したトロンビン層と中間層を圧着させることにより作製することが可能である。また、強力にシートを一体化させる場合は、少量のエタノールを使用することによりシート表面のみを溶解させ、密着することにより作製できる。
【0027】
Bの構成の場合、それぞれ個別に調製されたフィブリノゲン層、中間層及びトロンビン層をフィブリノゲン層、中間層及びトロンビン層の順に圧着させることにより作製することが可能である。また、強力にシートを一体化させる場合は、少量のエタノールを使用することによりシート表面のみを溶解させ、密着することにより作製できる。Bの構成からなるシート状組織接着剤は、フィブリノゲン層側を患部に直接貼付することで使用される。
【0028】
本発明により得られる組織接着剤は、高い粘着性、適度な強度、柔軟性および伸縮性を有することから、様々な形状の生体内膜状組織の欠損部および各種臓器・組織の欠損部、切離面あるいは接合部においても密着被覆及び止血操作が可能である。更には、生体適合性が良好であり、それ自体の膠着性により縫合を簡略化あるいは実施することなく組織を接着しうる。また、本発明の組織接着材料の基材として使用されるポリグリコール酸系生体吸収性不織布及びハイドロキシプロピルセルロースは既に医療用として使用されており、安全性も実証されているものである。
【0029】
このように本発明の組織接着剤は、生体内膜状組織の欠損部および各種臓器・組織の欠損部、切離面あるいは接合部に簡便かつ早急に対処が可能であり、血液凝固反応により効果的な組織接着を可能とする。しかも、いずれの成分も生体に安全なものを用いているため医療現場で安心して利用できる。
【0030】
以下、本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1:フィブリノゲンシートの調製>
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲンをアルコール沈殿により再精製したものを用いて、8%フィブリノゲン溶液(8%フィブリノゲン/1%アルブミン/0.2%血液凝固XIII因子/1.75%NaCl/1.2%クエン酸3ナトリウム/0.4%イソロイシン/0.2%グリシン/1.2%アルギニン−塩酸塩/1%グルタミン酸ナトリウム/0.1%グリセロール/0.1%tween 80を含む溶液)を調製する。このフィブリノゲン溶液5mLを、ポリグリコール酸系生体吸収性合成不織布(製品名:ネオベール/グンゼ(株),5 x 10cm)上に均一にしみ込ませる。このシートを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲンシートのサンプルとする(固定化されたフィブリノゲンの量:8mg/cm2)。
【0032】
<実施例2:トロンビンシートの調製>
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1〜2%濃度のトロンビン溶液を作製する。この溶液に10%HPC溶液を1%添加した後、4000単位トロンビン/1%HPCになるように調製した溶液6mLの全量を、6 x 11cmの容器に充填し凍結する。凍結完了後に24時間凍結乾燥させて得られた和紙状のトロンビンシートをサンプルとする(固定化されたトロンビンの量:60単位/cm2)。なお、HPC濃度が薄いと容易に溶解するトロンビンシートを作製できるが、もろくなる傾向にあるため、作製するシートの面積に応じてHPC濃度を上昇させる必要がある。
【0033】
<実施例3:中間層の調製>
水で溶解した1% HPC/0.5%ソルビトール/0.2%グリセロール/0.2%tween80溶液を作製する。この溶液15mLを、9 x 11cm の容器に全量注ぐ。これを凍結後、24時間凍結乾燥を行い調製したものを中間層のサンプルとする。
【0034】
<実施例4:トロンビンシート/中間層一体型シートの作製>
実施例2で調製したトロンビンシートと実施例3で調製した中間層を圧着させることにより2層を一体化し、トロンビンシート/中間層一体型シートとすることができる。また、強力に一体化させる場合は、少量のエタノールを使用することにより層表面のみを溶解させ、密着させることにより調製する。
【0035】
<実施例5:フィブリノゲンシート/中間層/トロンビンシート一体型シートの調製>
実施例1で調製したフィブリノゲンシート、実施例3で調製した中間層、及び実施例2で調製したトロンビンシートを、フィブリノゲンシート、中間層、及びトロンビンシートの順に積層し、圧着させることによって、3層を一体化させたシート(以下、一体型3層シートとする)をサンプルとする。
【0036】
<実施例6:フィブリノゲン及びトロンビンの反応開始時間の遅延効果>
実施例1で調製したフィブリノゲンシートと実施例2で調製したトロンビンシートを直接重ね合わせ、このシートに各成分を溶解させるために水分を添加した場合、フィブリノゲンが溶解するのと同時にトロンビンの溶解も開始するため、30秒程度でゲル化が完了した。
これに対して、実施例5で調製した一体型3層シートでは、中間層が溶解するまでフィブリノゲンとトロンビンが反応しないため、フィブリノゲンが溶解した後、1分経過後もフィブリノゲンのゲル化は生じなかった。反応を開始させる目的で、シートに圧力を加えると成分が拡散され、フィブリノゲンとトロンビンの反応を開始させることができた。これにより、フィブリノゲンの完全な溶解後にゲル化の開始時間を制御可能であることを示した。
【0037】
<実施例7:一体型3層シートの組織接着効果評価試験>
一体型3層シートの効果を確認するために、接着力の比較を行った。接着力はウサギの皮と当該シート(2cm×2cm)を接着させ、それを剥離させるために要する力を測定した。この際、使用するシートには事前に400μLの水を添加し40秒経過後にウサギの皮に貼付した。その後、37℃で5分間静置後、皮とシートとの接着力を測定した。対照としてフィブリン接着剤の成分が固定化されたコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株)):フィブリノゲン及びトロンビン等の成分が、スポンジ状のウマコラーゲンのシートを支持体とし、シートの片面に真空乾燥により固着されたもの:2cm×2cm)を使用した。その結果、図1に示したように、本発明の一体型3層シートは、比較対照のコラーゲンシート製剤が2±2 Nであったのに対し、10±3 Nの接着力を示した。中間層を使用しないフィブリノゲンシートとトロンビンシートを重ね合わせた2層シートは、コラーゲンシート製剤と同等の接着力を示した。
【0038】
<実施例8:液漏れ防止の効果評価試験>
一体型3層シートの液漏れ防止効果を確認するために、図2に示したように、穴を開けたウサギの皮に本シートを貼付後、皮を円筒に固定し、その円筒に充填した水分が漏出する圧力により、シートの液漏れ防止効果を評価した。まず、皮に穴を開ける際には18Gの注射針を用いた。シート(1cm×1cm)には、水分を事前に200μL添加し、40秒静置後ウサギの皮に貼付した。貼付後、37℃で5分間静置反応させた。シートを貼付した皮を円筒(圧力計を接続できるように加工した50mLシリンジ)に固定し、円筒に水分を充填した。それに対しシリンジで圧力を加え、接着部位から液が漏出する圧力を測定した。対照としてコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株))を使用した。その結果、図3に示したように、比較対照のコラーゲンシート製剤による漏出防止効果は確認できなかったが、一体型3層シートは約60mmH20の水圧に耐えることができた。
【0039】
<実施例9:各適用方法によるシート状組織接着剤の接着効果>
本発明のシート状組織接着剤の適用方法として以下のA〜Dのバリエーションが考えられるため、適用法の違いによる効果の差を確認した。接着力はウサギの皮とシート(2cm×2cm)を接着させ、それを剥離するために要する力を測定した。
A:ウサギの皮上の接着させる部位に事前に300μLの水を添加し、フィブリノゲンシートを先に患部に貼付した後に、トロンビンシート/中間層一体型シートの中間層側をフィブリノゲンシート側に重ねて患部に適用する方法
B:フィブリノゲンシート上に300μLの水を添加し30秒経過後に、当該フィブリノゲンシートをトロンビンシート/中間層一体型シートの中間層側に重ね一体型3層シートとし、フィブリノゲンシート側を患部に適用する方法
C:ウサギの皮上の接着させる部位に事前に300μLの水を添加し、一体型3層シートのフィブリノゲンシート側を直接患部に適用する方法
D:一体型3層シートのフィブリノゲンシート部分に事前に水分を滴下した後にフィブリノゲンシート側を患部に適用する方法
対照:コラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株))を事前に生食に浸し、患部に適用する方法
各方法とも、患部に適用後、37℃で5分間静置後、皮とシートとの接着力を測定した。
上記各バリエーションの接着力を比較したところ、表1に示したように、全て比較対照のコラーゲンシート製剤より強い接着力を示した。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】各シート状組織接着剤の接着力効果を示した図。
【図2】各シート状組織接着剤の漏出防止効果の評価方法を示した図。
【図3】各シート状組織接着剤の漏出防止効果を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてフィブリノゲンを含有する層(以下、「フィブリノゲン層」とする)、主成分としてトロンビンを含有する層(以下、「トロンビン層」とする)、及び両層の中間に位置する層(以下、「中間層」とする)より構成されることを特徴とするシート状組織接着剤。
【請求項2】
当該フィブリノゲン層が、シート様に加工されたフィブリノゲン凍結乾燥物、またはフィブリノゲンが支持体に固定化されるフィブリノゲン固定化支持体であることを特徴とする請求項1記載のシート状組織接着剤。
【請求項3】
当該支持体が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸との共重合体、またはアルコールと水に溶解可能なセルロース誘導体からなる群より選択される材料である請求項2に記載のシート状組織接着剤。
【請求項4】
当該支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布またはハイドロキシプロピルセルロースから選択される請求項2または3のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項5】
当該支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布である請求項2から4のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項6】
当該フィブリノゲン層が、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール、またはクエン酸ナトリウムからから選択される少なくとも一つの添加剤を含む請求項1から5のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項7】
当該フィブリノゲン層が、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコールおよびクエン酸ナトリウムの全ての添加剤を含む請求項1から6のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項8】
当該中間層が、アルコール及び水に溶解可能なセルロース誘導体を材料とする請求項1に記載のシート状組織接着剤。
【請求項9】
当該セルロース誘導体が、ハイドロキシプロピルセルロースである請求項8に記載のシート状組織接着剤。
【請求項10】
当該トロンビン層が、トロンビンが支持体に固定化されることを特徴とするトロンビン固定化支持体である請求項1に記載のシート状組織接着剤。
【請求項11】
当該支持体が、アルコールと水に溶解可能なセルロース誘導体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、及びグリコール酸と乳酸との共重合体からなる群より選択される材料である請求項10に記載のシート状組織接着剤。
【請求項12】
当該支持体が、ハイドロキシプロピルセルロースまたはポリグリコール酸を材料とする不織布から選択される請求項10または11のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項13】
当該支持体が、ハイドロキシプロピルセルロースである請求項10から12のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項14】
当該フィブリノゲン層、トロンビン層、及び中間層からなり、少なくともトロンビン層と中間層が積層される構造を有する請求項1から13のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項15】
当該フィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の順に、3層が積層されてなる構造を有する請求項1から14のいずれかに記載のシート状組織接着剤。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載のシート状組織接着剤からなる止血用材料。
【請求項17】
請求項1から15のいずれかに記載のシート状組織接着剤からなる組織閉鎖剤。
【請求項18】
請求項1から14のいずれかに記載のトロンビン層と中間層が予め積層された層、及びフィブリノゲン層からなる止血用または組織閉鎖用キット。
【請求項19】
請求項1から15のいずれかに記載のフィブリノゲン層、中間層、及びトロンビン層の順に3層が予め積層されている止血用または組織閉鎖用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−183649(P2009−183649A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29785(P2008−29785)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】