説明

シート状部材の吸着固定装置及び方法

【課題】極薄の長尺シート状部材についてしわを発生させることなくこれを吸着保持することを可能とするシート状部材の吸着保持方法を提供する。
【解決手段】有効吸着領域を張力の付加方向とは垂直な方向における中央部及び該方向に関して中央部の両脇より有効吸着領域の外方に向かって等配で並べられた複数の吸着領域から構成する。吸着時に際しては、中央部の吸着領域から始め、有効吸着領域の外方に向かって並べられた吸着領域を中央部に隣接する内方側より外方側に向かって順次動作させてシート状部材の吸着領域を拡大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の部材を固定して穴あけ等の加工を施す際に当該シート部材を吸着固定するシート吸着固定装置及び方法に関する。より詳細には、長尺のシートを特定の方向にピッチ送りし、ピッチ送り停止時において当該シート状部材における被加工領域を吸着保持し、保持状態を維持して穴あけ等の加工を施した後に当該シート状部材をピッチ送りする装置に含まれるシート状部材の吸着固定装置、及び当該装置において実施されるシート状部材の吸着固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、積層型のチップコンデンサは、グリーンシートと呼ばれるシート状のセラミック部材に対して貫通電極或いはパターン電極の形成を行い、その後裁断、積層、焼成更には端子電極の形成等の処理を施すことによって得られる。ここで、シート状のセラミック部材は、通常搬送時にセラミック部材をシート形状に維持し且つ搬送を容易とするために所謂PETフィルム上に展延された状態で該フィルムの一面上に保持されている。また、量産時におけるセラミック部材の管理の容易化と加工時の効率化を図る観点から、該セラミック部材はPET フィルムと共にリール状に巻き取られた状態で取り扱われる。
【0003】
上述したチップコンデンサの製造工程においては、シート状のセラミック部材に対してレーザ光等を用いた穴あけ作業が施される。当該作業では、レーザ光による加工可能領域内に該セラミック部材の要加工領域を固定し、この状態でレーザ光の照射時間等の変更及び照射位置の適宜移動が為される。シート状セラミック部材を固定する際には、該部材を支持するPET フィルムの裏面から要加工領域全域或いは該領域より広い領域を平坦な支持テーブル上に吸着保持している。レーザ光による穴あけ加工では、加工位置の精度を高める或いは維持する観点から、レーザ光の照射位置が精度を確保できる領域内に要加工領域を収めることが好ましい。しかし、生産効率向上の観点からシートの幅は拡大する傾向にあり、要加工領域は拡大の一途を辿っている。このため、加工精度の維持と生産効率の向上とを両立させるために、例えば特許文献1に開示されるようなシート部材を固定するテーブルを移動させる構成が案出されている。
【0004】
特許文献1にも述べられるように、積層型チップコンデンサ等の電子部品の小型化、高性能化に伴って、セラミック部材のシート厚さは年々薄くなってきている。このため、シート状セラミック部材を吸着保持したテーブルがXY方向に移動した場合、移動量によってはシートにしわ等が発生し、穴あけにおける位置精度の低下、セラミック部材の変形等が生ずる恐れがある。特許文献1においてはシートを繰り出すローラ及び巻き取るローラ各々と、支持テーブルとの間にシートを弛ませた様な状態からなるバッファ領域を設け、該領域の存在によってテーブル移動に基づいて生ずるセラミック部材へかかる直接的な負荷を低減してしわ等の発生を防止することとしている。また、セラミック部材に対してしわが生じた場合の対処が特許文献2に開示されている。当該方法によれば、しわが生じた部分をしわ押さえ部材により押圧し、しわを無くした状態のセラミック部材とした後にテーブルにより吸着保持を行うこととしている。
【0005】
【特許文献1】特許第3640868号公開公報
【特許文献2】特開平4−206912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
長尺シート状の部材を繰り出しロール及び巻き取りロールを用いて一方向に搬送する場合、該部材に対してはその搬送方向に張力が加えられる。従って、これらロール間に配置される所定位置において該部材を一端吸着保持しようとした場合、該張力の影響により当該方向での微小な移動を伴う位置調整は大きく制限される。特許文献1に開示される構成においても、支持ステージ上においてシート状セラミック部材に対してはバッファ部分における該部材の自重による当該張力が加えられている。このため、特定の方向(この場合は張力負荷方向)のみの該部材の位置調整が制限されることとなることから、該シート状部材を支持ステージ上に均一に吸着することが難しくなり、該シート状部材にしわを発生させる可能性がある。当該可能性はシート厚さが薄くなるに従って大きくなると思われる。
【0007】
シート状部材に発生したしわを除去する容易な方法として特許文献2に開示する方法がある。当該方法においては、シート状部材の表面にある部材を押し当て更にある程度の負荷にて加圧することによってしわを伸ばすこととしている。グリーンシートのように電子部品製造に供されるセラミック部材は、電子部品の特性の維持といった観点から積層される各シートに対する異物等の混入を防ぐ必要がある。従って、シート表面をその他の部材と接触させるという操作は極力避けることが望ましい。また、当該シートの表面に電極パターン等の印刷が施されている場合には、この接触‐押圧という操作によって該パターンが損傷する恐れもある。
【0008】
本発明は以上述べた状況に鑑みて為されたものであり、一方向に搬送されるシート状部材を所定の位置にて吸着し固定保持する際において、当該保持を実際に行う支持テーブル上において該シート状部材を均一に吸着保持することを可能とし、しわ等の発生を防止するシート状部材の吸着固定方法及び当該方法を具現化したシート状部材の吸着固定装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る吸着固定装置は、延在方向に張力が付加された長尺シート状の部材を吸着面表面上の有効吸着領域に吸着保持する吸着固定装置であって、有効吸着領域において延在方向とは垂直な方向における中央部分に一が配置され該一を中心として垂直な方向に関して該一の両脇に等配で配置され、表面が吸着面表面を形成する複数の吸着プレートと、複数の吸着プレートの各々の内部に配置され、吸着プレートの裏面の開口から対応する吸着プレート表面に開口する吸着開口に繋がる吸引経路と、負圧を発生させて吸引経路を介して吸着開口に吸着力を生成する負圧供給手段と、吸着プレートの裏面の開口とを連通させる複数の吸着プレートの各々に対応して設けられる複数の真空経路と、真空経路の中に配置されて真空経路の開閉を行う複数のバルブと、複数のバルブ各々と接続されてバルブ各々に対して開閉操作を実行させる開閉制御手段と、を有し、長尺シート状の部材を吸着保持する際に、開閉制御手段は、中央部分に配置される該一の吸着プレートと対応するバルブを開放し、続いて該一の吸着プレートの両脇に等配で配置された複数の吸着プレートの内の該一の吸着プレートに近い側の吸着プレートに対応するバルブから順次開放することを特徴としている。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る吸着固定方法は、延在方向に張力が付加された長尺シート状の部材を吸着面表面上の有効吸着領域に吸着保持する吸着固定方法であって、有効吸着領域は張力の付加方向とは垂直な方向における中央部及び垂直な方向に関して中央部の両脇より有効吸着領域の外方に向かって等配で並べられた複数の吸着領域から構成されており、長尺シート状の部材の被吸着部を有効吸着領域の上方に配置し、中央部の吸着領域を動作させて長尺シート状の部材の張力付加方向と垂直な方向における中央領域を中央部の吸着領域に吸着し、中央部から有効吸着領域の外方に向かって並べられた吸着領域を中央部に隣接する内方側より外方側に向かって順次動作させて長尺シート状部材の被吸着領域を拡大させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型且つ高性能を有する電子部品の作成に供せられる極薄いグリーンシート等のシート状セラミック部材の加工に際し、しわの発生を抑制し且つ平らに当該シートを吸着固定することが可能となる。即ち、本発明によれば、吸着ステージ表面に対してシート部材の位置調整の自由度が最も制限される方向であるシート部材に対して与えられる張力の負荷方向に着目し、該負荷方向と垂直な方向における該シート部材の中央となる領域をまず吸着し、その後当該吸着領域の幅を広げて最終的に要吸着範囲全域を吸着保持することとしている。通常、シート状部材を平坦面に保持する場合に生じるしわは、シートと吸着ステージ表面との間に空間が生じた状態でその周囲が吸着保持される等、シート部材とステージ表面との間に気体が残存することにより生ずる場合が多い。極薄のシート状の部材に対して張力が作用することで位置調整(位置ずれ)の自由度が小さい環境下ではこのような気体の残存はあまり生じない。しかし、張力の作用が無く自由度が大きい場合にはたるみ等が生じ易く気体の残存も容易に生ずる。
【0012】
例えば特許文献1に開示する構成のように、張力を与えつつシート状部材の端部を略固定する部分を移動させること無く、張力負荷方向に垂直な方向にシート状部材を移動させた場合、セラミック部材を支持するPETフィルム等には内部応力が蓄えられる。このようなPETフィルムにおいて特定方向(シート状部材の繰り出し‐巻き取り方向)にのみ張力が作用した場合、当該方向以外の方向、特に張力付加方向と垂直となるシート状部材の幅方向においてPETフィルムのカール等が発生する可能性がある。本発明が対象とするシート状部材の場合、前述した自由度の大きさとこのカールの発生等が相まって、張力の付加が無い幅方向において気体の残存する可能性が大きくなると考えられる。本発明の如く、この幅方向の中央部分を最初に吸着保持し、その後吸着領域を幅方向に拡大させることとすることにより、気体がシート状部材‐吸着ステージ上面間から逃げる経路を確保しつつ吸着範囲を拡大することが可能となる。また、PETフィルムに内部応力が蓄えられた場合であっても張力の作用によって平坦性が保持されて最も気体を残存させにくい状態にある幅方向の中央部を最初に吸着保持することで、吸着初期時においても気体を残存させる可能性を低下させることが可能となる。従って、気体を残存させること無くシート状部材を吸着保持することが可能となり、シートのしわ等の発生を大きく抑制することが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、特許文献2に開示する方法とは異なり、シート状部材の表面に対して他の部材を接触させること無くしわの抑制を為すことが可能となる。従って、シート部材表面に対する異物接触に伴う汚染等が生じなくなり、最終製品たる電子部品の品質の安定化を図ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に図面を参照して説明する。図1A及び図1Bは、本発明の第一の実施形態に係るシート吸着固定装置における主要部であるシート状部材支持テーブルの概略構成を示すものである。図1Aは、シート状部材支持テーブル表面に対して垂直な方向から、該支持テーブルに吸着保持されるシート状部材1を介して当該支持テーブル10見た状態を示すものである。図1Bは、図1Aに示すシート状部材支持テーブル10を線1B−1Bに沿って切断した断面及びシート状部材支持テーブル10の内部に設けられた真空室と接続される各構成を模式的に示している。
【0015】
本実施形態において、シート状部材支持テーブル10は、複数の真空室11、及び各々の真空室11に対応する吸引経路13を有する吸着プレート15を有する。複数の真空室11は、各々所定の幅と有効吸着領域の長さと等しい長さとを有し、シート状部材1の搬送方向Aに対して各々平行に延在している。なお、シート状部材1は不図示の巻き取りローラ等により搬送されており、搬送方向Aは該ローラ等によりシート状部材1に与えられる張力の負荷方向と一致している。個々の真空室11は、略平板形状を有するシート状部材支持テーブル10の内部において該平板の裏面から表面(シート状部材吸着面)に向けて形成されている。また、吸着プレート15は、真空室11の上方開口部に配置されて真空室11を閉鎖する。また、吸着プレート15内部に設けられる吸引経路13は、該真空室11とシート状部材支持テーブル10の表面に設けられる吸着面10aを連通させる。なお、本実施の形態においては、吸着プレート15は多孔質性の部材を立方体形状に加工したものから構成されている。個々の吸着プレート15の間には、各々のプレート内部において繋がる微細穴が他の吸着プレートのそれと連通しないように、金属板等からなる仕切り板16が配置されている。なお、真空室11は、搬送方向Aに垂直な有効吸着領域の幅方向における中央部に一つ配置され、この中央部の真空室11を中心に有効吸着領域の幅方向において対象的に配置、即ち等配されることが好ましい。
【0016】
真空室11は、支持テーブル10の裏面を介して対応する真空経路17と接続されている。各々の真空経路17は開閉可能なバルブ19を介して真空ポンプ等からなる負圧供給手段21に接続されている。また、バルブ19は各々開閉制御手段23と接続されており、該開閉制御手段23によって開閉のタイミングが制御される。なお、開閉制御手段23はメモリ機能、演算機能等も有しており、予めメモリ機能に入力済みのシート状部材各々に応じた適当なタイミングを指定してバルブの開閉タイミングを制御することが可能である。或いは予めタイミングを設定するための条件式等を入力しており、シート状部材各々に応じたパラメータを入力或いは測定し、これら結果に基づいてバルブの開閉タイミングを演算して求め、該演算結果に応じたタイミング制御を行うこととしても良い。また、本実施形態においては、吸着プレート15の裏面の吸引経路の開口が、真空室11の存在を介して真空経路17と接続されることとしている。しかし、該吸引経路における吸着プレート裏面の開口と真空経路とを直接接続することも可能である。
【0017】
次に、当該装置が実際にシート状部材1を吸着保持する操作について述べる。シート状部材1は不図示のシート繰り出しローラと巻き取りローラ等によりピッチ送りされ、被加工領域が有効吸着領域の略直上に位置するように搬送される。当該位置で停止後、以下の操作に沿ってシート状部材1における被加工領域の吸着保持が実行される。本実施形態において、開閉制御手段23は、シート状部材1の吸着保持操作時において、中央部の真空室11に連通する真空経路17に配置されるバルブ19を開放してまずシート状部材1の幅方向中央部を吸着保持する。続いて、中央部真空室11において幅方向両隣に配置される真空室11と連通する真空経路17に配置されるバルブ19を開放する。当該真空室11に対応する吸着プレート15がシート状部材1における当該プレートと対向する領域を吸着した後に、更に当該真空室11の幅方向において隣接する真空室11と連通する真空経路17に配置されるバルブ19を開放する。以下、同様の操作を繰り返して、中央部よりシート状部材の幅方向外方に向けて順次吸着プレート15が吸引力を発生させるように、全てのバルブ19を開放することによって、シート上部際1のシート状部材支持テーブル10による吸着保持操作が終了する。シート状部材1の開放時には、これらバルブを閉鎖することによって個々の吸着プレート15の生じせしめる吸着力を低下させることとしている。
【0018】
なお、本実施形態において、開閉制御手段23は、単純なタイマに基づいて所定の時間間隔を空けて個々のバルブ19を開放することとしている。しかしながら、本発明は当該形態に限定されず、例えば個々の真空経路に圧力計を配置し、当該経路内の圧力が所定値以下となったことが確認された後に次のバルブを開放することとしても良い。当該構成とすれば、吸着プレート15に対応するシート状部材1の特定の領域が吸着保持された後に更なる領域の吸着操作が開始されることとなり、より確実に吸着領域を拡大させていくことが可能となる。なお、単純な時差を設ける場合においても、予めシート状部材1の特性に応じた最適な開放タイミングを求めておき、用いるシート状部材1に応じて当該タイミングを変更することとしても良い。
【0019】
また、本実施形態においては、単一の負圧供給手段21と同一のコンダクタンスを有する複数の真空経路17を配置することとしている。しかしながら、本発明は当該形態に限定されず、複数の負圧供給手段を配置する、或いは個々の真空経路17のコンダクタンスを対応する吸着プレート15の配置に応じて変更することとしても良い。例えばシート状部材支持テーブル10の移動量が大きくPETフィルムに大きな内部応力が蓄えられてしまっている場合等、実際にシート状部材1にカール等の変形が見られる場合には、中央部真空室11より得られる吸着力を大きくするほうが、より迅速且つ確実なシート状部材の吸着を行うことが可能となると思われる。この場合、中央部真空室11に繋がる真空経路17のコンダクタンスを大きくする、或いは当該真空経路17に繋がる負圧供給手段を他の真空経路と別系統のものとし且つ該負圧供給手段の排気速度を大きくすることによりこのような効果が得られる。
【0020】
次に、本発明に係る第二の実施形態について述べる。図2A及び図2Bは、第二の実施形態に係るシート吸着固定装置における主要部であるシート状部材支持テーブルの概略構成を示すものである。図2A及び図2Bは、図1A及び図1Bと同様の様式にて本実施形態に係るシート状部材支持テーブル10を示したものである。なお、第一の実施形態における各構成要素と同一の作用効果を呈する構成要素に関しては、第一の実施形態において用いた参照番号等と同一の参照番号等を用いて説明することとする。また、以下の説明においては第一の実施形態と異なる部分についてのみ述べることとする。
【0021】
第一の実施形態においては、吸着プレート15に多孔質の部材を用いることとし、吸引経路13は多孔質部材内部の微細穴が連通することにより形成されることとしている。また、吸着プレート15各々の間には、個々の吸着プレート15内部の吸引経経路13が相互に繋がらないように仕切り板16が配置されている。本実施形態においては、個々の吸着プレート15を、吸着プレート15における吸着面から真空室11側の面(吸着プレート裏面の開口)に繋がる吸引経路13を所定の配列にて形成した板状の部材より構成している。第一の実施形態においては吸着プレート15として多孔質部材を用いたことから、吸着プレート15における吸着面全域においてシート状部材1を吸着保持することが可能である。即ち、シート状部材1を面として吸着することから、しわ発生の予防といった観点からは当該構成が最も好ましい。
【0022】
本実施形態においては、所定配列の吸着経路13の吸着開口13aにより、局所的な吸着位置を複数個配列することによってシート状部材1を吸着保持することとしている。従って、しわ発生の予防においては第一の実施形態に劣る可能性がある。しかしながら、第一の実施形態では必須の構成として仕切り板16が存在しており、部品点数の増加に従って吸着面の平坦性を維持することが難しくなる。このため、装置コストの上昇或いはメンテナンス時の組立精度の要求が厳しくなる恐れがある。本実施形態においてはシート状部材支持テーブル10を構成する部品点数が第一の実施形態と比較して大幅に削減される。従って、吸着面の平坦性を維持することが容易となり、装置コスト或いはメンテナンス性においては、本実施形態は第一の実施形態より優れているといえる。
【0023】
なお、第二の実施形態においては、吸着経路13は一つの吸着プレートに対して10個が一定の間隔で一列に並び、更に当該列が二列配置されるように形成されている。しかしながら吸着経路13の配置は本実施形態に限定されない。例えば第一の実施形態により近づけるべく微細な径からなる貫通孔をより多く配置することとしても良い。また、例えばレーザ加工時におけるシート状部材支持テーブル10のXYの移動様式が略一定であり、しわを伸ばしつつ吸着保持する際にシート搬送方向に対して所定角度θ傾けた方向に吸着領域が順次拡大する方がしわの抑制についてより効率的であることも考えられる。図3はそのような場合の吸着開口13aの配置を図1Aと同様の様式にて示すものである。
【0024】
吸着経路13の配置を本実施形態とすることにより、実質的な吸着経路13の数を減少させることが可能となり、負圧供給手段21の負荷低減が為される。なお、吸着開口13a(経路13)の配置は、単純にθ傾けた一方向に整列させた場合に限定されない。二方向に整列させる、或いは中央部領域からある程度離れた後に傾けて整列させる等、加工機の駆動様式或いはシート状部材のカール等の癖に応じてこれら配列は決定されることが好ましい。また、本実施形態では、全ての吸着プレート15において吸着経路13の数、及び吸着経路形成領域内13bでの配置は同一としている。しかし、これらも加工機の駆動様式或いはシート状部材のカール等に応じて適宜変更されることが好ましい。
【0025】
即ち、本発明に係るシート状部材吸着固定装置においては、シート状部材の延在方向と略一致する張力付加方向と垂直な方向に関して、吸着プレートが中央部及びその両隣から有効吸着領域の外方に向けて等配に配置されて吸着面を構成している。なお、垂直な方向に関して等配に配置されるという文言は、張力付加方向に関しては整列していない例えば図3に示す形態等を包含している。各々の吸着プレートは、吸着プレートの吸着面に存在する吸着開口から当該吸着プレートと対応して設けられた真空室と連通する吸引経路を有する。また、各々の真空室は固有の真空経路及びバルブを介して負圧供給手段と連通している。更にバルブ各々は開閉制御手段によって開閉タイミングが制御されており、有効吸着領域内の前述した中央部吸着プレートを最初とし、その両隣から有効吸着領域の外方に向けて順番に吸着動作を行うようにバルブ操作を行うこととしている。なお、吸引経路における吸着プレート裏面の開口と真空経路とを直接接続することが可能であれば、真空室のような不要な空間内の排気が必要ではなくなりより効率的な吸着操作を行うことが可能となる。
【実施例】
【0026】
次に、上述した実施形態において示したシート状部材支持テーブル10を具体的に使用した装置を述べ、本発明の実施例として説明する。図4は、処理部としてレーザ加工、スクリーン印刷等を行うユニットが配置された場合であって、単一の処理部のみを有する装置の概略構成を模式的に示している。本実施例に係る処理装置は、処理対象であるシート状部材1を繰り出すための繰出部31、処理済のシート状部材1を巻き取るための巻取部33、及び繰出部31と巻取部33の間に配置された処理部41を有する。繰出部31は、シート状部材1を捲回した繰出リール31a、繰出モータ32及び繰出モータ軸32aを有する。繰出リール31aは繰出モータ軸32aによって支持され、繰出モータ32は不図示の制御部から指示に基づき繰出リール31aから所定長さのシート状部材1がピッチ送りされるように、繰出モータ軸32aを間欠的に回転させる。
【0027】
処理部41は、レーザ照射装置等の加工機43、シート状部材支持テーブル10、XY移動機構45、搬送機構47、第一のフリーローラ49a、及び第二のフリーローラ49bを有している。第一のフリーローラ49a及び第二のフリーローラ49bは、搬送方向に垂直且つシート状部材1のシート面と平行な方向に延びる回転軸を有し、該回転軸周りに回転可能なローラからなる。これらローラは、処理部41内部においてシート状部材1を一方向に延在させる際の両端部を所定の一定高さに支持するために用いられる。加工機43はこれらローラ間に支持されたシート状部材1の特定位置上方に配置される。シート状部材支持テーブル10は、シート状部材1を挟んで該加工機43と対向する位置において、該加工機43の加工可能領域を包含するように配置される。XY移動機構45は、シート状部材支持テーブル10を支持し、該テーブル10をシート状部材1の延在平面と平行なXY平面内において移動可能としている。搬送機構47は、シート状部材1の幅方向端部を把持し、この状態にて搬送方向に移動することによってシート状部材1を移動させる所謂グリップ式のものが用いられている。なお、加工機43、XY移動機構45、及び搬送機構47は、本発明の主たる構成に直接的な関係が無く、同名称で総称される公知の構成と種々置換が可能なことからここでの説明は省略する
【0028】
巻取部33は、シート状部材1を巻き取る巻取リール33a、巻取モータ34、巻取モータ軸34a、テンションバッファ部35、吸着部39、第三のフリーローラ40a、第四のフリーローラ40b、第五のフリーローラ40c、及び第六のフリーローラ40dを有する。巻取リール33aは巻取モータ軸34aによって支持され、巻取モータ34は不図示の制御部から指示に基づき巻取リール33aに対して所定長さのシート状部材1が一定の速度で巻き取られるように、巻取モータ軸34aを一定速度で回転させる。各々のフリーローラはシート状部材1が吸着部39の吸着領域上を通過し、テンションバッファ部35に対して所定の方向性を維持して導入・排出され、更には巻取リール33aに対しても所定の方向性を維持して巻き取られるように、シート状部材1の裏面と当接している。これらフリーローラは、搬送方向に垂直且つシート状部材1のシート面と平行な方向に延びる回転軸を有し、該回転軸周りに回転可能なローラからなる。
【0029】
テンションバッファ部35は、シート状部材1を巻取リール33aに巻き取る際のシートの緩みを防止するために配置される。テンションバッファ部35は、フリーローラ(図では第四及び第五のフリーローラ40b、40c)間においてシート状部材1の搬送方向及びシート状部材1のシート面に対して垂直な方向からシート状部材1に当接され該シート部材を該方向に押し下げるテンションプーリー35aを有する。テンションプーリー35aが所定の負荷にてシート状部材1を該方向に押圧することにより、巻取リール33aは緩みを有することなくシート状部材1を巻き取ることが可能となる。
【0030】
吸着部39は、繰出モータ32の繰り出しピッチ及び該ピッチと同期して行われる搬送機構47のシート送りピッチと同期して、所定の時間間隔にてシート状部材1を吸着固定する。これらの動作タイミングの位相を各々ずらすことにより、繰出部31、処理部41及び巻取部33の各間において、シート状部材1が自重によって鉛直下方に撓んだ自重バッファ部1a、1bをそれぞれ形成することが可能となる。このような自重バッファ部を十分な長さ確保することにより、加工処理時においてシート状部材1を吸着固定するシート状部材支持ステージが上述したXY方向に移動した場合にシート状部材1に加えられる張力を極小さなものとすることが可能となる。その結果、該張力による影響を極力抑え不必要なシート状部材のよじれ等の発生を防止することが可能となる。
【0031】
ここで、当該装置を用いてシート状部材1に対してレーザ加工等の処理を実際に施す場合の工程について述べる。繰出リール31aに捲回されたシート状部材1は繰出モータ32のピッチ送りに応じて所定長さ毎に間欠的に繰り出される。繰り出されたシート状部材1は、繰出部31と処理部41との間において自重バッファ部1aを一旦構成する。その後、搬送機構47の動作によって、再度所定長さづつ処理部41内部にシート状部材1は引き込まれる。処理装置43の下方の所定の処理位置に至った段階でシート状部材支持テーブル10によるシート状部材1の吸着保持が為される。なお、シート状部材支持テーブル10によるシート状部材1の吸着保持操作に関しては先の実施形態において既に述べていることからここでの説明は省略する。なお、その際、シート状部材1には搬送機構47と自重バッファ部1aとによって搬送方向に沿った張力が加えられる。当該吸着状態を維持したまま、加工機43が稼動し、且つXY移動機構が当該加工機43と協働することによって、シート状部材1における所定の被加工領域の加工が行われる。
【0032】
加工終了後、搬送機構47によってシート状部材1は更に巻取部33側に搬送される。搬送機構47によってシート状部材1は順次処理部外部に送り出され、自重バッファ部1bを形成する。自重バッファ部1bを経過したシート状部材1は、第三のフリーローラ40aにより搬送方向を修正された後に吸着部39によって吸着固定される。この吸着固定状態が維持されている間に、先に第四のフリーローラ40bより先に送られたシート状部材1に対してテンションプーリー35aによる加重の付加が為され、図中B方向のへの撓みが形成される。巻取リール33aは巻取モータ34により一定速度で回転されている。テンションプーリー35aによる一定の負荷を維持した状態でテンションバッファ35に存在するシート状部材1を巻き取ることにより、シート状部材1は緩み無く巻取リール33aに捲回されることとなる。以上の操作を通じて、所定の処理が施されたシート状部材を巻取リール33aに巻き取ることが可能となる。
【0033】
なお、以上に述べた処理装置において、例えばシート状で供せられるセラミック部材が極薄いものとなった場合、自重バッファ部の重量が小さくなる。このために、被加工領域においてシート状部材自体に加えられる張力が低下し、吸着固定時においてシート状部材にしわが発生する可能性が高くなる。また、加工処理時に被吸着固定部がXY方向への移動することにより、被吸着固定部以外のシートに対して変形を誘引する内部応力の蓄積を為すことも考えられる。このような場合に、本発明に係るシート吸着固定装置をシート状部材支持テーブルに用いることによって、しわ発生の可能性を効果的に抑制することが可能となる。
【0034】
次に複数の処理部を有する構成の第二の実施例について述べる。図5は、図4と同様の様式にて、更に検査装置、クリーニング装置等を第二の処理部として配した装置についての概略構成を示している。なお、図4において述べた諸構成と同一の作用効果を呈する構成に関しては図4の場合と同一の参照番号を用いてこれを示すこととし、その説明については省略することとする。また、本実施例において用いられるシート状部材1はある程度の厚さを有するものであり、先に述べた実施例における自重バッファ部がシート状部材1に対して十分な張力を提供するものとする。また、以下の説明においては第一の実施例と異なる部分についてのみ述べることとする。
【0035】
本実施例においては、第一の実施例に示した諸構成に加え第二の処理部51を有している。シート状部材1の搬送方向における第二の処理部の上流側及び下流側には各々第七のフリーローラ53a及び第八のフリーローラ53bが配置される。これらは、搬送方向に垂直且つシート状部材1のシート面と平行な方向に延びる回転軸を有し、該回転軸周りに回転可能なローラからなる。また、これらローラは、第二の処理部51内部を通過するシート状部材1を一方向に延在させる際の両端部を所定の一定高さに支持するために用いられる。また、本実施例においては、巻取部33におけるテンションバッファ35が省かれている。これは、対象とするシート状部材1が比較的厚めである等、自重バッファ部1bによって十分な張力を得ることが可能であることによる。
【0036】
続いて、当該装置を用いてシート状部材1に対してレーザ加工等の処理を実際に施す場合の工程について述べる。繰出リール31aに捲回されたシート状部材1は繰出モータ32のピッチ送りに応じて所定長さ毎に間欠的に繰り出される。繰り出されたシート状部材1は、繰出部31と処理部41との間に形成された自重バッファ部1aの重さ及び繰出リール31aによる移動の規制により第七及び第八のフリーローラ53a、53b間においてある程度の張力が加えられる。当該状態でシート状部材1は第二の処理部51の内部を通過し、クリーニング等の処理が施される。該第二の処理部51を通過後、シート状部材1は自重バッファ部1aを構成する。その後、搬送機構47の動作によって、所定長さづつ処理部41内部にシート状部材1は引き込まれる。処理装置43の下方の所定の処理位置に至った段階でシート状部材支持テーブル10によるシート状部材1の吸着保持が為される。なお、その際、シート状部材1には搬送機構47と自重バッファ部1aとによって搬送方向に沿った張力が加えられる。当該吸着状態を維持したまま、加工機43が稼動し、且つXY移動機構が当該加工機43と協働することによって、シート状部材1における所定の被加工領域の加工が行われる。
【0037】
加工終了後、搬送機構47によってシート状部材1は更に巻取部33側に搬送される。搬送機構47によってシート状部材1は順次処理部外部に送り出され、自重バッファ部1bを形成する。自重バッファ部1bを経過したシート状部材1は、第三のフリーローラ40a等により搬送方向を修正された後に巻取リール33aに捲回されることとなる。その際、シート状部材1には。自重バッファ部1bにおけるシート状部材の重さと巻取リール34aによる移動の規制によりある程度の張力が加えられることとなる。以上の操作を通じて、所定の処理が施されたシート状部材を巻取リール33aに巻き取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】本発明の一の実施形態に係るシート状部材の吸着保持装置の主要部を吸着面に対抗する方向から見た状態の当該装置の概略構成を示す図である。
【図1B】図1Aに示す装置に関して、線1B−1Bにおいて当該装置を切断した断面及び関連する諸構成を模式的に示す図である。
【図2A】本発明の二の実施形態に係るシート状部材の吸着保持装置の主要部を吸着面に対抗する方向から見た状態の当該装置の概略構成を示す図である。
【図2B】図2Aに示す装置に関して、線2B−2Bにおいて当該装置を切断した断面及び関連する諸構成を模式的に示す図である。
【図3】第二の実施形態に関し、更なる変形例を示す図である。
【図4】本発明に係るシート状部材の吸着保持装置を用いたシート状部材の処理装置の概略構成を示す一実施例である。
【図5】本発明に係るシート状部材の吸着保持装置を用いたシート状部材の処理装置の概略構成を示す他の実施例である。
【符号の説明】
【0039】
1:シート状部材、 10:シート状部材支持テーブル、 11:真空室、 13:吸着経路、 15:吸着プレート、 16:仕切り板、 17:真空経路、 19:バルブ、 21:負圧供給手段、 23:開閉制御手段、 31:繰出部、 32:繰出モータ、 33:巻取部、 34:巻取モータ、 35:テンションバッファ、 39:吸着部、 41:処理部、 43:加工機、 45:XY移動機構、 47:搬送機構、51:第二の処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在方向に張力が付加された長尺シート状の部材を吸着面表面上の有効吸着領域に吸着保持する吸着固定装置であって、
有効吸着領域において前記延在方向とは垂直な方向における中央部分に一が配置され前記一を中心として前記垂直な方向に関して前記一の両脇に等配で配置され、表面が前記吸着面表面を形成する複数の吸着プレートと、
前記複数の吸着プレートの各々の内部に配置され、前記吸着プレートの裏面の開口から対応する前記吸着プレート表面に開口する吸着開口に繋がる吸引経路と、
負圧を発生させて前記吸引経路を介して前記吸着開口に吸着力を生成する負圧供給手段と、前記吸着プレートの裏面の開口とを連通させる前記複数の吸着プレートの各々に対応して設けられる複数の真空経路と、
前記真空経路の中に配置されて前記真空経路の開閉を行う複数のバルブと、
前記複数のバルブ各々と接続されて前記バルブ各々に対して開閉操作を実行させる開閉制御手段と、を有し、
前記長尺シート状の部材を吸着保持する際に、前記開閉制御手段は、前記中央部分に配置される前記一の吸着プレートと対応する前記バルブを開放し、続いて前記一の吸着プレートの両脇に等配で配置された前記複数の吸着プレートの内の前記一の吸着プレートに近い側の前記吸着プレートに対応する前記バルブから順次開放することを特徴とするシート状部材の吸着固定装置。
【請求項2】
延在方向に張力が付加された長尺シート状の部材を吸着面表面上の有効吸着領域に吸着保持する吸着固定方法であって、
前記有効吸着領域は前記張力の付加方向とは垂直な方向における中央部及び前記垂直な方向に関して前記中央部の両脇より前記有効吸着領域の外方に向かって等配で並べられた複数の吸着領域から構成されており、
前記長尺シート状の部材の被吸着部を前記有効吸着領域の上方に配置し、
前記中央部の吸着領域を動作させて前記長尺シート状の部材の張力付加方向と垂直な方向における中央領域を前記中央部の吸着領域に吸着し、
前記中央部から前記有効吸着領域の外方に向かって並べられた前記吸着領域を前記中央部に隣接する内方側より前記外方側に向かって順次動作させて前記長尺シート状部材の被吸着領域を拡大させることを特徴とするシート状部材の吸着方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−34693(P2008−34693A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207866(P2006−207866)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】