説明

シールドコネクタ

【課題】高いシールド性能を確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、小型化を図ることができるとともに、部品点数を抑えることもできるシールドコネクタを提供すること。
【解決手段】シールドコネクタ10のハウジング20は、複数の嵌合凹部20A,20Bを備えている。シールド部材30は、シールドシェル31と、境界シールド壁32とを備えている。シールドシェル31の両側面にはそれぞれ、側面接触子371,381が形成されている。境界シールド壁32の一方の側、他方の側にはそれぞれ、境界接触子321,322が形成されている。側面接触子371,381および境界接触子321,322のそれぞれの前端30Fは、コンタクト11の前端11Fよりも前方に位置している。また、2つの境界接触子321,322は、境界シールド壁32上で互いに異なる位置H1,H2に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
接地されたシールド部材(シェル)を備えたシールドコネクタが知られている(例えば、特許文献1)。このようなシールドコネクタでは、当該シールドコネクタおよび相手コネクタ共に、コンタクト(端子)を保持するハウジングにシールド部材を装着することにより、シールド部材を介してノイズを接地部に落としている。
また、コネクタにおいては、相手コネクタやその他の異物等の帯電物が接近した際に生じうるコンタクトへの静電気放電(electro-static discharge)を防止し、コンタクトが接続された回路部を保護することが好ましい。そのためには、相手コネクタ等が接近する側に向けて、接地された金属体をコンタクトよりも前方に配置し、この金属体に静電気放電させる方法がとられる。
特許文献1のシールドコネクタは、コンタクトを保持する樹脂製のハウジングと、ハウジングを収容する金属板からなるシールドケースとを備えており、シールドケースが接地部に接続されている。このシールドケースは、ノイズ対策のための部材であると共に、コンタクトへの静電気放電対策のための部材(上記の金属体)としても機能する。
この特許文献1では、多数のコンタクトが複数列に配列され、そのコンタクト列の間隔が大きい場合に、シールドケースではなくコンタクトに放電する可能性が増大することを背景に、ハウジングの嵌合面(前面)におけるコンタクト列の間に、シールドケースと一体にブリッジを設けている。このブリッジを通じて、放電電流を接地部に流している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−13131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば自動車搭載の通信機器用として用いられるシールドコネクタにおいては、通信品質向上や信頼性に対する要求が高まっており、そのために、機器から外部に向けたノイズの発生および外部機器からのノイズの影響を十分に抑制すると共に、コネクタの挿抜時などにおけるコンタクトへの静電気放電をより確実に防止することが望まれる。これに応えるためには、特許文献1のようにハウジングをシールドケースに収納したり、嵌合面にブリッジを設けるだけでは十分ではなく、シールド部材を相手コネクタのシールド部材に接触させる接触構造を設けることによって高いシールド性能を確保したい。
その接触構造としては、例えば、片持ちバネ式の接触子がある。図7に示すシールドコネクタ7は、1つの嵌合凹部75を有する。シールドコネクタ7は、コンタクト74を保持するハウジング70と、ハウジング70に装着されるシールドシェル71とを備えている。シールドシェル71の両側面部から内側に切り起こした部分が、片持ちバネである接触子72とされている。この接触子72は、相手コネクタのシールド部材に接触することにより、シールドシェル71を介してノイズを接地部に流すための部材であるとともに、コンタクト74の前端よりも前方まで延びていることで、コンタクト74への静電気放電を防止する部材でもある。
【0005】
ところで、2以上の嵌合凹部が必要とされる場合もあるため、本発明者らは次のように検討した。図8に、2つの嵌合凹部75A,75Bを有するハウジング70と、シールドシェル71とを備えたシールドコネクタ8が示されている。このシールドコネクタ8では、嵌合凹部75A,75Bの数が多い分、図7の構成よりも接触子72,72の間隔が広がる。すると、シールドシェル71の両側面近傍のコンタクト74への人体や、相手コンタクトを含んで構成されるワイヤーハーネス等の帯電物からの放電電流は接触子72,72によって捕捉できても、嵌合凹部75A,75Bの境界付近のコンタクト74は、接触子72から遠く、嵌合凹部75A,75Bに近づく帯電物と接触子72との距離よりもその帯電物とコンタクト74との距離の方が小さくなるので、シールドシェル71にではなくコンタクト74に短絡するおそれがある。
そこで、接触子72から遠いコンタクト74への短絡を防止するために、例えば、図9に示すようなシールドコネクタ9を構成することが考えられる。シールドコネクタ9は、シールドシェル71と、嵌合凹部75A,75B間に配置されるとともに、接触子761,771が形成されたシールド壁76,77とを備えている。このようにシールドシェル71およびシールド壁76,77を設けると共に、嵌合凹部75A,75Bの境界にも、接触子72と同様に構成された接触子761,771を配置すれば、高いシールド性能の確保、およびコンタクト74への短絡をより確実に防止する観点からは好ましい。
【0006】
ただし、図9の形態では、嵌合凹部75A,75Bの境界部に、各嵌合凹部75A,75Bに嵌合される相手コネクタのそれぞれに接触する接触子761,771を形成するための2つのシールド壁76,77が重ねて配置されるので、シールド壁76,77の厚みの分、コネクタが大型化してしまう。コネクタに対する省スペース化の要望は高く、僅かな厚み分のスペースをも無視できない。
さらに、この形態では、ハウジング70と、シールドシェル71と、2つのシールド壁76,77との4体を必要とするが、コストを削減するため部品点数を抑えたい。上記例では嵌合凹部75A,75Bの数は合計2つであるが、その数が増えるほど、部品点数の増加が顕著となる。
【0007】
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、高いシールド性能を確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、小型化を図ることができるとともに、部品点数を抑えることもできるシールドコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシールドコネクタは、それぞれに相手コネクタが嵌合される複数の嵌合凹部を有する絶縁性のハウジングと、ハウジングに装着される導電性のシールド部材とを備えている。
ハウジングは、コンタクトを保持する基部、および基部から立ち上がる周壁部を有するハウジング本体と、周壁部の内方の空間を区切ることで複数の嵌合凹部を形成する境界部とを有している。
シールド部材は、ハウジング本体に対応するシールドシェルと、境界部に対応する境界シールド壁とを有している。
シールドシェルには、複数の嵌合凹部のうち両端の嵌合凹部の一方に嵌合される相手コネクタのシールド部材に接触する接触子と、他方に嵌合される相手コネクタのシールド部材に接触する接触子とが形成されている。
境界シールド壁には、その一方の側の嵌合凹部に嵌合される相手コネクタのシールド部材に接触する境界接触子と、他方の側の嵌合凹部に嵌合される相手コネクタのシールド部材に接触する境界接触子とが形成されている。
当該シールドコネクタにおいて、周壁部の先端側であって相手コネクタに嵌合される側を前、基部側を後とすると、接触子の前端および境界接触子の前端はそれぞれ、前記コンタクトの前端よりも前方に位置している。
2つの境界接触子は、前記境界シールド壁上で互いに異なる位置に形成されている。
【0009】
本発明によれば、シールドシェルおよび境界シールド壁を備えることでシールド部材が複数の嵌合凹部をそれぞれ囲むように設けられるとともに、相手コネクタに接触する接触子、境界接触子がシールド部材に形成されていることにより、シールド部材を介して接地部にノイズを確実に落とすことができるので、高いシールド性能を確保できる。
また、シールドシェルに、コンタクトの前端よりも前方に位置する接触子が形成されていることに加え、境界シールド壁にも、同様の境界接触子が形成されていることにより、シールドシェルの接触子から遠い、嵌合凹部の境界付近のコンタクトも含め、各コンタクトへの静電気放電を防止できる。すなわち、相手コネクタや異物等の帯電物からコンタクトに流れようとする放電電流が、コンタクトよりも前方で境界接触子に短絡するので、コンタクトへの短絡を未然に防止できる。
【0010】
しかも、境界シールド壁に設けられる2つの接触子が境界シールド壁上で互いに異なる位置に形成されていることにより、これらの境界接触子を互いに干渉することなく1つの境界シールド壁に集約して形成することができる。これにより、2つの境界接触子を境界シールド壁を2つ用いて別々に形成する場合と比べ、境界シールド壁の厚み分、嵌合凹部が並ぶ方向に小型化できるとともに、境界シールド壁の数が2つから1つに減少するので部品点数を抑えることができる。
【0011】
本発明のシールドコネクタでは、各境界接触子は、境界シールド壁上の互いに異なる第1位置および第2位置に形成されているとともに、嵌合凹部が並ぶ方向において、第1位置、第2位置に交互に配置されていることが好ましい。
本発明によれば、嵌合凹部の数が3つ以上に増えても、後述する実施形態で述べるように、境界シールド壁が、境界接触子の形成位置を含めて同一の形状である同種のものとなる。これにより、部品の種類の数を抑えることもできる。
【0012】
本発明のシールドコネクタでは、嵌合凹部が並ぶ方向を含む面に沿って配置される回路基板に支持されることが好ましい。
上述した小型化により、シールドコネクタの回路基板上での占有スペースを小さくできる。これによって、シールドコネクタの近傍に形成される回路パターン等のレイアウトの自由度が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高いシールド性能を確保しつつ、コンタクトへの短絡を防止する静電気放電対策もとりながら、小型化を図ることができるとともに、部品点数を抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るシールドコネクタの斜視図である。
【図2】シールドコネクタの前面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視図である。
【図4】図2のIV−IV線矢視図である。
【図5】シールドコネクタが備えるシールド部材の斜視図である。
【図6】3つの嵌合凹部を有するシールドコネクタの前面図である。
【図7】1つの嵌合凹部を有するシールドコネクタの斜視図である。
【図8】2つの嵌合凹部を有するシールドコネクタの斜視図である。
【図9】(A)は、2つの嵌合凹部を有する他のシールドコネクタの斜視図である。(B)は、(A)のB−B線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1〜図3に示すように、本実施形態のシールドコネクタ10は、複数のコンタクト11を保持するハウジング20と、ハウジング20に装着されるシールド部材30とを備えている。このシールドコネクタ10は、回路基板S(図1に図示)に支持されている。
なお、シールドコネクタ10に嵌合される図示しない相手コネクタも、そのハウジングに装着されるシールド部材を備えている。このシールド部材は、例えば、そのコンタクトに接続されたケーブルの芯線を被覆する金属編組チューブに接触導通されている。
【0016】
ハウジング20は、図1、図3に示すように、相手コネクタが嵌合される側に向けて開口した直方体箱状のハウジング本体21と、境界部22とを有している。このハウジング20は、絶縁性の樹脂一体成形部材とされている。
ハウジング本体21は、コンタクト11を保持する板状の基部23と、基部23の周縁から立ち上がる断面長方形状の筒状の周壁部24とを有している。
以下では、基部23の表面に直交する方向を前後方向とし、周壁部24の先端側を前、基部23側を後として説明する。
【0017】
基部23は、本実施形態では、回路基板Sに対して垂直な面内に配置されるとともに、コンタクト11が挿入される孔231を有している。
周壁部24は、回路基板Sに沿って配置される下面部25と、下面部25に対向する上面部26と、下面部25および上面部26に直交する側面部27,28とを有している。
上面部26は、その下面部25との対向面に、前後方向に延びる突条261を有している。突条261は、嵌合凹部20A,20B内にそれぞれ2つずつ形成されている。これらの突条261は、嵌合時に相手コネクタをガイドする機能を有する。
【0018】
一方の側面部27は、図1に示すように、その側面部27上において回路基板Sに沿って配置されたシールドコネクタ10の下端10Dから所定の高さの第1位置H1で、厚み方向(ハウジング20の外側と内側とを結ぶ方向)に貫通した側面孔271を有している。この側面孔271は、図3に示すように、側面部27後端から、前端近傍までの範囲に亘り形成されている。また、側面孔271は、基部23側に開口した孔入口E(図3)を有している。孔入口Eの幅は、後述する側面接触子371の前端30Fが挿入可能な寸法に設定されている。
他方の側面部28は、その側面部28上での下端10Dから上記の側面孔271とは異なる高さの第2位置H2で、厚み方向に貫通した側面孔281を有している。この側面孔281は、その位置を除いては、側面孔271と同様に形成されている。
【0019】
境界部22は、図1、図3に示すように、周壁部24の互いに対向する長辺24A、24Aの中央において、これら長辺24A、24Aを結ぶ方向に沿って形成されている。この境界部22は、側面部27,28と同等の厚みであり、その厚み方向に貫通した境界孔221を有している。境界孔221は、図2に示すように、第1位置H1と第2位置H2とを含んだ範囲に亘って形成されている。この境界孔221も、その位置を除いては、側面孔271,281と同様に形成されている。
【0020】
そして、基部23と周壁部24とにより囲まれた空間が、境界部22によって区画されることで、境界部22を挟んで2つの嵌合凹部20A、20Bが形成されている。これらの嵌合凹部20A,20Bにはそれぞれ、相手コネクタが嵌合される。
嵌合凹部20A,20Bには、それぞれ予め定めた本数のコンタクト11が配置されている。コンタクト11の前端側111は、図4に示すように、ハウジング20の内側で前後方向に延びている。コンタクト11の後端側112は、ハウジング20の外側で前端側111に対して屈曲し、回路基板Sに電気的に接続されている。
【0021】
次に、金属板から形成される導電性のシールド部材30は、図5に示すように、ハウジング20の外周に設けられるシールドシェル31と、シールドシェル31内部の長手方向中央に配置される境界シールド壁32との2つの部材からなる。
シールドシェル31は、基部23に沿ったシールド後面部33と、上面部26に沿ったシールド上面部36と、側面部27,28に沿っていて、相手コネクタのシールド部材に接触されるシールド側面部37,38と、下面部25を支持する複数の支持片35とを有している。
【0022】
このシールドシェル31は、図4に示すように、その前後方向の寸法(奥行き)がハウジング本体21よりも大きく、かつ、シールドシェル31の前端とハウジング本体21の前端との位置がほぼ一致するように装着がなされるので、シールド後面部33は基部23よりも後側に位置している。この基部23とシールド後面部33との間には、コンタクト11の後端側112が配置されている。
シールド上面部36の下側の面には、境界シールド壁32が垂直に設けられている。
【0023】
一方のシールド側面部37は、図5に示すように、そのシールド側面部37上で第1位置H1に、シールドシェル31を構成する金属板の切り起こし片である側面接触子371を有している。側面接触子371は、シールド側面部37と連続した支持端371A(本実施形態では後端)と、相手コネクタのシールド部材に接触される自由端371B(本実施形態では前端)とを有しており、片持ちバネとされている。この側面接触子371は、支持端371Aから、シールド側面部37に沿って前方に延び、その前端側に、嵌合凹部20A内に突出するよう山型に折り曲げられた接点部Cを有している。図3に示すように、接点部Cの前端30Fは、コンタクト11の前端11Fよりも前方に突出する。
【0024】
他方のシールド側面部38は、そのシールド側壁部38上で第2位置H2に、側面接触子381を有している。この側面接触子381は、その位置を除いては、側面接触子371と同様に形成されている。
また、シールド側面部37,38にはそれぞれ、回路基板Sに設けられた図示しないグランド端子に電気的に接続された状態で回路基板Sに固定される突起375,385が形成されている。グランド端子は、回路基板Sおよびシールドコネクタ10を収容する機器筐体等に接地されている。これにより、シールド部材30は、外部の電場(あるいは電磁場)を遮蔽する。
【0025】
境界シールド壁32は、1枚の金属板からなり、シールドシェル31の内部を2つに区画している。
この境界シールド壁32は、側面接触子371,381と同様に切り起こし片として形成された2つの境界接触子321,322を有している。境界接触子321は、境界シールド壁32上での第2位置H2で嵌合凹部20A側に向けて突出し、境界接触子322は、境界シールド壁32上での第1位置H1で嵌合凹部20B側に向けて突出している。つまり、これらの境界接触子321,322は、境界シールド壁32上で互いに異なる第2位置H2、第1位置H1に配置されている。
【0026】
ここで、境界接触子321,322は、本実施形態では切り起こし片として形成されているが、他の形態とすることもできる。例えば、境界シールド壁32をプレスすることで、嵌合凹部20A側に向けて突出した部分を境界接触子321とし、嵌合凹部20B側に向けて突出した部分を境界接触子322とすることができる。
このように境界接触子321,322が境界シールド壁32を構成する金属板の一部として構成されている限り、これら境界接触子321,322が同じ第1位置H1(あるいは第2位置H2)に形成されたのでは互いに干渉してしまい、1つの境界シールド壁32にこれら境界接触子321,322を形成し得ないこととなる。したがって、1つの境界シールド壁32に2つの境界接触子321,322を形成するにあたっては、これら境界接触子321,322が互いに異なる第1、第2位置H1、H2に形成されていることが要件となる。
なお、側面接触子371,381についても、上述したような他の形態とすることができる。
【0027】
そして、上記の境界接触子321と境界接触子322とが互いに異なる第2位置H2、第1位置H1に配置されることにより、いずれも嵌合凹部20Aの内部空間に臨む側面接触子371と境界接触子321とが、互いに異なる第1位置H1、第2位置H2に配置されるとともに、いずれも嵌合凹部20Bの内部空間に臨む境界接触子322と側面接触子381とが、互いに異なる第1位置H1、第2位置H2に配置されることとなる。
したがって、これら接触子371,321,322,381は、嵌合凹部20A,20Bが並ぶ方向において、H1,H2,H1,H2の順に交互に位置を違えて配置されている。
【0028】
以上説明したシールドコネクタ10は、ハウジング20、シールドシェル31、および境界シールド壁32の3種3体からなる。このシールドコネクタ10を組み立てるには、先ず、境界シールド壁32の上端をシールド上面部36に接合することで、シールド部材30を製作する。そして、コンタクト11が組み付けられたハウジング20に対し、シールド部材30を後側から装着する。
【0029】
この装着の際には、基部23の下端をシールドシェル31の支持片35の上に載せるとともに、境界孔221と境界シールド壁32との位置を合わせ、ハウジング20をシールドシェル31の奥に向けて押し込む。すると、側面接触子371,381が側面部27,28にそれぞれ沿って配置されるとともに、境界接触子321,322が境界部22に沿って配置される。このとき、側面孔271,281および境界孔221の各孔入口Eから接触子371,381,321,322がそれぞれ容易に挿入される。
シールド部材30がハウジング20に装着されると、図3に示すように、嵌合凹部20A,20Bを隔てる境界部22には境界シールド壁32が1つのみ配置される。
【0030】
シールド部材30の装着が済んだら、シールドコネクタ10を回路基板Sに載置し、シールドシェル31の突起375,385を回路基板Sのグランド端子に接続するとともに、コンタクト11を回路基板S上の各端子にはんだ等で接続する。以上により、シールドコネクタ10の組立が完了する。
【0031】
次に、シールド部材30の作用について説明する。
シールドコネクタ10の嵌合凹部20Aの奥側に向けて図示しない相手コネクタを動かしていくと、先ず、コンタクト11の前端11Fよりも前方に位置する側面接触子371および境界接触子321の前端30Fがそれぞれ、相手コネクタのシールド部材に近接し、その後接触して電気的に接続される。さらに相手コネクタを奥へと押し込み、シールドコネクタ10と完全に嵌合させると、相手コネクタのシールド部材に各接触子371,321の接点部Cが押し付けられた状態で、コンタクト11が相手コネクタのコンタクトに接続されて電気的に接続される。
嵌合凹部20Bに相手コネクタを嵌合する際も同様であり、相手コネクタのシールド部材が、先ず、コンタクト11の前端11Fよりも前端30Fまでの距離が近い接触子381,322に近接し、その後接触して電気的に接続される。
【0032】
上記のように相手コネクタのシールド部材に接触子371,321(あるいは381,322)が近接すると、相手コネクタ、そのコンタクトに接続された複数の電線、その電線に設けられた結束帯、および固定用の部品等から構成されたワイヤーハーネスや、それを持つ指などに帯電した電荷(シールドコネクタ10の外部電荷)が、接触子371,321の少なくともいずれか(あるいは、381,322の少なくともいずれか)に放電されうる。シールドコネクタ10の外部電荷は、最短距離で放電される可能性が高いので、相手コネクタとコンタクト11との距離よりも、相手コネクタとの距離が近い接触子371,321の少なくともいずれか(あるいは、381,322の少なくともいずれか)に放電する可能性が高い。接触子371等への放電電流は、回路基板Sのグランド端子へと流れ去る。このため、コンタクト11が相手コネクタのコンタクトに接続されても、このコンタクト同士の接触点を介した外部電荷の移動が起こらない。
つまり、上記のように相手コネクタが、コンタクト11の前端11Fに近接するよりも前に、接触子371,321(あるいは381,322)に近接して静電気放電が生じることで、コンタクト11への静電気放電を未然に防止できる。
ここで、複数のコンタクト11のうち、側面部27,28近傍のコンタクト11への静電気放電は、上記で述べた相手コネクタに対する距離の差に起因して、主に、このコンタクト11の近傍に配置された側面接触子371,381によって防止される。一方、境界部22近傍のコンタクト11への静電気放電についても、同様の理由から、主に、このコンタクト11の近傍に配置された境界接触子321,322によって防止される。したがって、嵌合凹部20A,20Bの境界付近に配置されたコンタクト11を含め、各コンタクト11への静電気放電を防止できるので、コンタクト11が接続された回路基板Sの回路部が破損、誤作動することを防止できる。
【0033】
また、嵌合凹部20A,20Bをそれぞれ覆うようにシールドシェル31および境界シールド壁32が設けられ、かつ接触子371,321(あるいは381,322)が相手コネクタのシールド部材と接触していることにより、シールド部材40および相手コネクタのシールド部材を介してノイズをグランド端子に確実に落とすことができる。
なお、シールドコネクタ10と相手コネクタとが嵌合されているとき(接続中)、あるいはシールドコネクタ10から相手コネクタを抜くときにも、シールドシェル31および境界シールド壁32が設けられ、かつ接触子371,321(あるいは381,322)が相手コネクタのシールド部材と接触していることにより、シールド部材40および相手コネクタのシールド部材を介してノイズをグランド端子に確実に落とすことができる。
【0034】
ところで、嵌合凹部20A,20Bに相手コネクタではない異物が挿入されることもありうる。その異物が帯電していた場合でも、当該異物がコンタクト11の前端11Fに近接するよりも前に、接触子371,321,381,322の少なくともいずれかに近接して静電気放電されることで、コンタクト11への静電気放電を防止できる。
【0035】
上述のように、本実施形態のシールドコネクタ10によれば、ノイズをグランド端子に落とすことにより、外部機器からのノイズの影響、および外部機器に向けたノイズの発生を十分に抑制できるので、電磁両立性(EMC;Electromagnetic Compatibility)を確保できる。
さらに、コンタクト11への短絡による回路部の破損等を防止する静電気放電対策がとられていることにより、シールドコネクタ10が用いられる機器の信頼性を向上させることができる。
【0036】
その上、本実施形態のシールドコネクタ10によれば、嵌合凹部20A,20Bにそれぞれ嵌合される相手コネクタのシールド部材に接触する境界接触子321,322を、境界シールド壁32上での位置(第1位置H1,第2位置H2)が異なるために1つの境界シールド壁32で賄える。このため、図9に示したように、嵌合凹部間75A,75B間の境界部に2つのシールド壁76,77が配置された例と比べ、複数の嵌合凹部20A,20Bを備えるシールドコネクタ10の部品点数を抑えることができるとともに、金属板の板厚1枚分、嵌合凹部20A,20Bが並ぶ方向におけるシールドコネクタ10の幅寸法Wが小さくなるので、シールドコネクタ10を小型化できる。これにより、シールドコネクタ10の回路基板S上での占有スペースを小さくできる。したがって、シールドコネクタ10の近傍に形成される回路パターン等のレイアウトの自由度が増す。例えば、シールドコネクタ10の小型化により生じた空きスペースにパターンを配置することができる。
【0037】
なお、嵌合凹部20A,20Bの数が増える程、境界部22に境界シールド壁32が1つ配置される場合と、2つ配置される場合との幅寸法Wの差が拡大する。これに加え、嵌合凹部20A,20Bの数をnとしたとき、2(n−1)の数の境界シールド壁32が必要となるので、嵌合凹部20A,20Bの数が増える程、境界シールド壁32が1つ配置される場合と、2つ配置される場合との必要部品点数の差も拡大する。
すなわち、上記の部品点数減少と小型化の効果は、嵌合凹部20A,20Bの数を3以上に増やした場合に顕著となる。
【0038】
さらに、嵌合凹部20A,20Bが並ぶ方向において、境界接触子321,322がその2つの位置H1,H2を交互に違えて配置される構成とすれば、図6のように、嵌合凹部の数が3以上(嵌合凹部20A,20B,20C)に増えたときでも、隣り合う嵌合凹部20A,20B間および20B,20C間の境界部22に沿ってそれぞれ配置される境界シールド壁32,32がいずれも、境界接触子321,322の位置H1,H2および境界シールド壁32板面からの突出向きを含めて同一の形状である同種のものとなる。これにより、部品の種類の数を抑えることができる。
なお、この効果は、側面接触子371,381の位置H1,H2には関係なく得ることができる。
【0039】
ところで、接触子371,321,322,381の位置H1,H2は必ずしも交互に配置されていなくてもよく、任意である。例えば、その位置がH1,H1,H2,H2の順序で配置されていてもよい。このように境界接触子321,322の位置H1,H2が互いに異なれば、境界部22に沿って配置される境界シールド壁32の数を1つに抑えられるので、小型化と、部品点数を抑えることが可能となる。
また、上記実施形態では、接触子371,321,322,381の境界シールド壁32上での位置として2つの第1位置H1,第2位置H2が設定されていたが、これに限らず、3つ以上の位置が設定されていてもよい。例えば、第1位置H1、第2位置H2、および第3位置H3の3つの位置を設定することもできる。この場合の第1〜3位置H1〜H3の順序も、境界接触子321,322の境界シールド壁32上での位置が互いに異なる限り、任意である。
【0040】
さらに、上記実施形態では、境界接触子321,322の境界シールド壁32上での位置として、高さ方向(上下方向)で互いに異なる第1、第2位置H1,H2を示したが、境界接触子321,322が形成される位置はこれに限られない。本発明のシールドコネクタは、例えば、境界シールド壁32上の前後方向において互いに異なる位置に、境界接触子321,322が形成されている形態をも包含する。このような形態としても、これら境界接触子321,322を1つの境界シールド壁32で賄えるので、上述した効果が得られる。また、このように境界接触子321,322の形成位置を前後にずらした形態においても、コンタクト11の前端11Fより前方に、境界接触子321,322の前端30Fを位置させることにより、コンタクト11への短絡をより確実に防止できる。
【0041】
上記実施形態では、コンタクト11を保持する基部23の向きが回路基板Sに垂直であったが、これに限らず、基部23が回路基板Sに沿って平行となるように構成されたシールドコネクタにも本発明を適用できる。
なお、本発明のシールドコネクタは、回路基板Sに支持されるものには限定されない。
【0042】
上述した以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 シールドコネクタ
10D 下端
11 コンタクト
11F 前端
20 ハウジング
20A,20B 嵌合凹部
21 ハウジング本体
22 境界部
23 基部
24 周壁部
25 下面部
26 上面部
27,28 側面部
30,40 シールド部材
30F 前端
31 シールドシェル
32 境界シールド壁
33 シールド後面部
35 支持片
36 シールド上面部
37,38 シールド側面部
221 境界孔
231 孔
261 突条
271,281 側面孔
321,322 境界接触子
371,381 側面接触子
371A 支持端
371B 自由端
375,385 突起
E 孔入口
H1 第1位置
H2 第2位置
C 接点部
S 回路基板
W 幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれに相手コネクタが嵌合される複数の嵌合凹部を有する絶縁性のハウジングと、前記ハウジングに装着される導電性のシールド部材とを備え、
前記ハウジングは、前記コンタクトを保持する基部、および前記基部から立ち上がる周壁部を有するハウジング本体と、前記周壁部の内方の空間を区切ることで複数の前記嵌合凹部を形成する境界部とを有し、
前記シールド部材は、前記ハウジング本体に対応するシールドシェルと、前記境界部に対応する境界シールド壁とを有し、
前記シールドシェルには、複数の前記嵌合凹部のうち両端の前記嵌合凹部の一方に嵌合される前記相手コネクタのシールド部材に接触する接触子と、他方に嵌合される前記相手コネクタのシールド部材に接触する接触子とが形成され、
前記境界シールド壁には、その一方の側の前記嵌合凹部に嵌合される前記相手コネクタのシールド部材に接触する境界接触子と、他方の側の前記嵌合凹部に嵌合される前記相手コネクタのシールド部材に接触する境界接触子とが形成され、
前記周壁部の先端側であって相手コネクタに嵌合される側を前、前記基部側を後とすると、前記接触子の前端および前記境界接触子の前端はいずれも、前記コンタクトの前端よりも前方に位置し、
前記2つの境界接触子は、前記境界シールド壁上で互いに異なる位置に形成されていることを特徴とするシールドコネクタ。
【請求項2】
前記各境界接触子は、前記境界シールド壁上の互いに異なる第1位置および第2位置に形成されているとともに、前記嵌合凹部が並ぶ方向において、前記第1位置、前記第2位置に交互に配置されている、請求項1に記載のシールドコネクタ。
【請求項3】
前記嵌合凹部が並ぶ方向を含む面に沿って配置される回路基板に支持される、請求項1または2に記載のシールドコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−109880(P2013−109880A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252422(P2011−252422)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000227995)タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 (340)
【Fターム(参考)】