説明

シールドフラットケーブルの製造方法、および、この製造方法に用いるシールドテープ

【課題】複数の導体の両面を被覆する絶縁層と、最外層のシールド層複数の導体の両面を被覆する絶縁層とシールド層を有するシールドフラットケーブルを製造する際に、シールド層と該シールド層に接する層との間に発生する気泡の発生を抑えたシールドフラットケーブルの製造方法、および、このシールドフラットケーブルの製造に用いるシールドテープを提供する。
【解決手段】複数本の導体を平行に配列した導体列の配列面の両面に絶縁樹脂層を貼り合わせ、最外層にシールドテープを貼り付けて加熱加圧することで、シールド層9を一体に形成したシールドフラットケーブルを製造する。シールドテープを貼り付ける際に、シールドテープの接着面に接着剤を縞状、ドットマトリクス状、縦横の格子状に部分的に設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドフラットケーブルの製造方法、および、この製造方法に用いるシールドテープ関し、特に、シールドテープを接着する際の気泡の発生を抑えたシールドフラットケーブルの製造方法、および、この製造方法に用いるシールドテープに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、例えば、各種ビデオ機器、カメラ、コンピュータ、液晶機器等の精密電子機器の内部配線として多用されているが、これら機器の多機能化にともなって、機器の内部にノイズ対策を必要とする部位が増加する傾向にあり、これに対応すべくフラットケーブルについても、例えば、特許文献1に開示されているようなシールド付きのものに対する需要が増加しつつある。
【0003】
また、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等に接続される電子機器の高速伝送用の配線ケーブルとして使用する場合は、シールドフラットケーブルの特性インピーダンスを、高速デジタル信号の送信用・受信用ICのインピーダンスと同じ値に設定する必要がある。このため、特許文献2には、複数の導体の両面を被覆する絶縁フィルムと最外面を被覆するシールド層との間に、低誘電層を設け、この低誘電層の材料と厚みを変えることにより、シールドフラットケーブルの特性インピーダンスの値を所望の値とすることが開示されている。
【0004】
図7は、このような低誘電層を有するシールドフラットケーブルの断面を簡素化して示した図であり、シールドフラットケーブル101は、複数の導体102と、導体102の両面を被覆する絶縁樹脂層103と、この絶縁樹脂層103の外面に設けられた低誘電層104と、低誘電層104の外面を被覆するシールド層105とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−180547号公報
【特許文献2】特開2008−198592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に示すシールドフラットケーブルを製造するにあたっては、まず、導体102の両面表面を、接着剤層を表面に設けた絶縁樹脂層103で挟み込み、加熱加圧処理を行うことにより、連続的に絶縁樹脂層103を導体102にラミネート接着して、導体102の両面を絶縁樹脂層103により被覆した長尺品を作成している。
【0007】
次いで、絶縁樹脂層103の表面に、表面に粘着剤層を設けた低誘電層104を載置し、粘着剤層を介して一対の絶縁樹脂層103の外面に低誘電層104を設け、さらに、予め作製しておいたシールドテープを、フレキシブルフラットケーブル1の両側外面に位置する低誘電層104を被覆するように巻き付けることにより、低誘電層104の外面にシールド層105を配設している。
【0008】
ここで、シールドテープとしては、図8で示すような、樹脂フィルム106、金属箔層107、接着層108の三層構造のシールドフィルム109からなり、接着層108をシールドテープ109の接着面全面に設けたものを用いている。そして、図9で示すように、このようにしてできた、シールドフラットケーブル1の中間品を、押さえ部材20で挟んで加熱加圧処理を行うことにより、絶縁樹脂層103、シールド層105、および、低誘電層104を一体に接着している。ここで、押さえ部材20としては、アルミプレートからなる基台21の上にゴム板22を積層したものを用いることができる。
【0009】
しかし、シールド層105をプレスにより接着させる際に、シールド層104と誘電層104との間の空気が抜けず、図10で示すような気泡aが発生することがあった。この気泡aは、大きいとその箇所でのフラットケーブルのインピーダンスを部分的に変化させ(スパイクを発生させ)、程度によってはフラットケーブルの不良の原因ともなるものであり、外観上も好ましいものではない。また、このような気泡の発生は、誘電体層104を設けず、シールド層104の外面にシールド層105を設けたシールドフラットケーブルにおいても同様に見られた。
【0010】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたものであり、複数の導体の両面を被覆する絶縁層とシールド層を有するシールドフラットケーブルを製造する際に、シールド層と該シールド層に接する層との間に発生する気泡の発生を抑えたシールドフラットケーブルの製造方法、および、このシールドフラットケーブルの製造に用いるシールドテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明によるシールドフラットケーブルの製造方法は、複数本の導体を平行に配列した導体列の配列面の両面に絶縁樹脂層を貼り合わせ、最外層にシールドテープを貼り付けて加熱加圧することで、シールド層を一体に形成したシールドフラットケーブルの製造するにあたって、シールドテープを貼り付ける際に、シールドテープの接着面に対して部分的に接着層を設けている。この接着層としては、縞状、ドットマトリクス状、縦横の格子状に設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シールドフラットケーブルのシールド層とこのシールド層に接する層との間に発生する気泡の発生を抑えたり小さく分散することができ、見栄えもよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法の対象となるシールドフラットケーブルの構成を示す概略図である。
【図2】本発明のシールドフラットケーブルの製造方法に係る一例を示す図である。
【図3】本発明に用いるシールドテープの一例を示す図である。
【図4】本発明に用いるシールドテープの他の一例を示す図である。
【図5】本発明に用いるシールドテープのさらに他の一例を示す図である。
【図6】実験によりシールドフラットケーブルに発生した気泡を示す図である。
【図7】低誘電層を有するフラットケーブルの断面を簡素化して示した図である。
【図8】従来のシールドフラットケーブルの製造に用いるシールドテープの例を示す図である。
【図9】従来の製造方法による押さえ部材を説明するための図である。
【図10】従来の製造方法によって、大きな気泡が発生したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明のシールドフラットケーブルの製造方法および製造に用いられるシールドテープに係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の製造方法の対象となるシールドフラットケーブルの構成を示す概略図であり、図1(A)は上面から見た図、図1(B)は図1(A)のA−A断面図である。また、図2は、本発明のシールドフラットケーブルの製造方法に係る一実施形態を示す図である。なお、以下の例では、シールドフラットケーブルとして低誘電層を有するものについて説明するが、本発明に係るシールドフラットケーブルの製造方法は、低誘電層を設けていないものについても適用できる。
【0015】
本実施形態のシールドフラットケーブル1は図1で示すように、複数の平板状の導体2を平行に配列した導体列の配列面の両面を、絶縁樹脂層3により被覆した構造を有する。絶縁樹脂層3は、樹脂層5と、この樹脂層5上に積層された接着剤層4により構成されており、2つの絶縁樹脂層3の間に、複数の導体2が挟まれた状態で、これら2つの絶縁樹脂層3を貼り合わせた構造を有している。
【0016】
絶縁樹脂層3の外側には、シールドフラットケーブル1の特性インピーダンスを調整するための低誘電層6が設けられている。本実施形態のシールドフラットケーブル1では、低誘電層6上に積層された粘着剤層7を介して、一対の樹脂層5の外面に、低誘電層6を設ける構造としている。
【0017】
さらに、本実施形態のシールドフラットケーブル1は、一対の低誘電層6の外面に、電磁干渉とノイズを低減させるためのシールド層9を設ける構成となっている。このシールド層9の作製については後述する。
【0018】
また、低誘電層6とシールド層9の間には、易接着層8が設けられており、この易接着層8を介して、低誘電層6とシールド層9とが接着される構成となっている。
なお、シールドフラットケーブル1の端部では、導体2をプリント基板や電気電子部品等に設けられた図示しない接続端子と接続するために、少なくとも一方の絶縁樹脂層3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させる構成となっている。
【0019】
このシールドフラットケーブル1の製造にあたっては、まず、図2(A)に示すように、複数の導体2を平行に配列する。導体2は、銅箔、錫メッキ軟銅箔等の導電性金属箔や平角導体からなり、使用する電流量に対応するが、摺動性等を考慮すると、厚み20μm〜100μmの導体が好適に用いられる。そして、図2(B)に示すように、導体2の配列面の両面を、樹脂層5上に接着剤層4を積層した絶縁樹脂層3で挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2の両面を絶縁樹脂層3により被覆した中間品を作製する。
【0020】
ここで、樹脂層5としては、柔軟性に優れた樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる、フレキシブルフラットケーブル用として汎用性のある樹脂フィルムが、いずれも使用可能であり、厚みは12μm〜50μmのものが好適に使用できる。
また、接着剤層4としては、樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル系樹脂に難燃剤を混合した接着剤などが使用できる。また、接着剤層4の厚みは、20μm〜50μmのものが好適である。
【0021】
次に、予め、低誘電層6の内面に粘着剤層7を、外面に易接着層8を設けたテープを一対形成しておき、図2(C)に示すように、粘着剤層7を介して樹脂層5の外面に低誘電層6を配設する。易接着層8は低誘電層6と後述するシールド層9との接着を確実に行うためのものである。
【0022】
低誘電層6としては、低誘電性を有するとともに、環境に対する負荷が小さい、硬質な樹脂組成物を主成分とするものが使用され、この樹脂材料としては、ポリエチレン(PE),ポリカーボネート樹脂(PC)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエチレンテフタレート(PET)、フッ素系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、およびオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることができる。また、シールドフラットケーブル1の特性インピーダンスの値を所望の値に設定するために、その厚みを、例えば、100μm〜350μmとしている。
【0023】
粘着剤層7を構成する樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂(EVAなど)、アクリル系樹脂、天然ゴム、ポリイソプレンプレン系ゴム、ニトリルゴム、スチレン・ブタンジエンゴム、ブチルゴム、ポリメタクリレート樹脂、ポリビニルブチラート、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂等を使用することができる。粘着剤層8の厚みは、5μm〜60μmのものが好適に使用できる。
【0024】
易接着層8を構成する樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート樹脂、ゴム系樹脂等を使用することができる。なお、これらの樹脂は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。易接着層8の厚みは、0.1μm〜5μmのものが好適に使用できる。
【0025】
なお、本実施形態では低誘電層6を設けているが、先述したように、低誘電層6を設けない場合は、低誘電層6の内面に粘着剤層7を、外面に易接着層8を設けたテープを設ける工程を省くことができる。
【0026】
次に、図2(D)で示すように、予め作製しておいたシールドテープを、シールドフラットケーブル1の両側外面に位置する低誘電層6の易接着層8、およびシールドフラットケーブル1の厚さ方向の両側端面を被覆するように巻き付けて、低誘電層6の外面にシールド層9を設けている。なお、シールドテープを上下からそれぞれ貼り付けてもよい。
【0027】
次いで、図2(D)で示す状態の積層体のシールド層9の上下両面を押さえ部材で挟んだ状態で熱プレス装置によって加熱加圧することにより、絶縁樹脂層3、低誘電層6、シールド層9を一体に接着することにより、シールドフラットケーブル1を得ている。この加熱加圧工程は、図9で示した押さえ部材20を用いることができる。
【0028】
図3、図4、図5は、それぞれ本発明で用いるシールドテープの例を示す図である。
シールドテープ10は、樹脂フィルム11、金属箔層12、接着層13からなり、図3に示すシールドテープ10は、例えば、厚み9μmのポリエチレンテレフタレート樹脂等の絶縁性の樹脂フィルム11の内側面に、例えば、銀、アルミニウム、銅等の導電性金属を蒸着して金属箔層12を形成し、さらに、この金属箔層に、例えば、接着層13として、ポリエステル系接着剤や、銀ペースト等の導電性接着剤層を塗布している。
【0029】
そして、図3に示すシールドテープ10では、接着層13をシールドテープ10の接着面全面に設けることなく、縞状に塗布するようにしている。これにより、シールドテープ10をその下層の誘電体層6に巻き付けたときに、外部に連通する空気の抜け道wが形成され、図2(D)で示す加熱加圧工程で、接着剤が溶融・接着する際に気泡の発生を抑えることができる。ここで、接着剤を設ける縞の幅は1.5mm〜2.0mm、接着剤を設けない縞と縞の間隔の幅は1.0mm〜1.6mmとすると好適である。
【0030】
また、図4に示すシールドテープ10は、接着層13がドットマトリクス状になっている。そして、接着剤が島の部分に塗布されているため、シールドテープ10をその下層の誘電体層6に巻き付けたときに、外部に連通する空気の抜け道xが形成される。このため、図2(D)で示す加熱加圧工程で、接着剤が溶融・接着する際に気泡の発生を抑えることができる。
【0031】
また、図5に示すシールドテープ10は、接着層13が縦横の格子状になるように接着剤を塗布している。図5に示すシールドテープ10をその下層の誘電体層6に巻き付けたときに、格子で区切られた空間に気泡が残ることがあるが、図2(D)で示す加熱加圧工程で発生する気泡は、図6に示すように小さく抑えることができる。したがって、格子を細かく区切ることにより発生する気泡を小さくすることが可能となる。
【0032】
ちなみに、図9で示すような押さえ部材20として、ゴム板22をショアA硬度70のゴムを用いてシールドフラットケーブルを作製したところ、従来のように接着剤を全面にベタ塗りした場合、生じた気泡の径(幅)の最大値は8mmであったが、図3で示すように縞状に塗布し、接着剤を設ける縞の幅を1.5mm〜2.0mm、接着剤を設けない縞と縞の間隔の幅を1.0mm〜1.6mmとした場合は、生じた気泡の径(幅)の最大値は2mmであった。また、図5で示すように格子状に塗布し、接着剤を設ける縞の幅を1.5mm〜2.0mm、接着剤を設けない縞と縞の間隔の幅を1.0mm〜1.6mmとした場合も、それぞれ生じた気泡の径(幅)の最大値は2mmとなった。以上から、本発明では、硬いゴムを用いてプレスを行った場合でも発生する気泡の大きさを小さくすることができた。
【0033】
以上、本実施形態では、シールド層9を形成するために。シールドテープ10を巻き付けるようにしたが、両面あるいは片面に貼るようにしてもよい。
【0034】
また、導体2にグランド線がある場合は、グランド線となる導体2の上層に設けた絶縁樹脂層3の一部を除去して導体2を露出させ、グランド線となる導体2とシールド層9とを電気的に接続させてもよい。この場合、導体2を露出させた窓が大きいと、接着剤がない部分でグランド線となる導体2と金属箔層12とを接触させることができるが、シールドテープ10の接着層13として導電性接着剤を用い方が、導体2と金属箔層12との電気的接続を図る上で望ましい。
【符号の説明】
【0035】
1…シールドフラットケーブル、2…導体、3…絶縁樹脂層、4…接着剤層、5…樹脂層、6…低誘電層、7…粘着剤層、8…易接着層、9…シールド層、10…シールドテープ、11…樹脂フィルム、12…金属箔層、13…接着層、20…押さえ部材、21…基台(アルミプレート)、22…ゴム板、101…シールドフラットケーブル、102…導体、103…絶縁樹脂層、104…低誘電層、105…シールド層、106…樹脂フィルム、107…金属箔層、108…接着層、109…シールドテープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導体を平行に配列した導体列の配列面の両面に絶縁樹脂層を貼り合わせ、最外層にシールドテープを貼り付けて加熱加圧することで、シールド層を形成したシールドフラットケーブルの製造方法であって、
前記シールドテープを貼り付ける際に、シールドテープの接着面に対して部分的に接着層を設けたことを特徴とするシールドフラットケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記接着層を縞状に設けたことを特徴とする請求項1に記載のシールドフラットケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記接着層をドットマトリクス状に設けたことを特徴とする請求項1に記載のシールドフラットケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記接着層を縦横の格子状に設けたことを特徴とする請求項1に記載のシールドフラットケーブルの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載のシールドフラットケーブルの製造方法に用いるシールドテープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−258433(P2011−258433A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132533(P2010−132533)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】