説明

シールド管及びワイヤハーネス

【課題】合成樹脂管に金属層を形成してシールド性能や取り扱い性、汎用性を維持すると共に、低コストで経済性にも優れたものとする。
【解決手段】ワイヤハーネス1において、シールド管2は、コルゲートチューブの表面に金属層4を所定厚みで形成してなり、金属層4が形成される面には、軸方向の長さL1の総計がシールド管2の全長の1/12以下となり、且つ周方向の長さL2がシールド管2の全周の1/2以下となる金属層の非形成部5,5・・が複数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のワイヤハーネスにシールド性能を付与するために用いられるシールド管と、そのシールド管を用いたワイヤハーネスとに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車のインバータ装置にモータ駆動電流を供給する導電線には、高周波電流による電磁ノイズが発生するため、この電磁ノイズを遮蔽するためにワイヤハーネスにシールド管が用いられている。例えば特許文献1には、ワイヤハーネスの中間部を金属製のパイプからなるメインシールド部で被覆し、インバータ装置と接続される端部には、筒状網組部材と接続用パイプとを含む変形可能なサブシールド部で被覆するシールド管の構成が開示されている。また、特許文献2には、ワイヤハーネスを被覆する金属製の筒状部材の端部に螺旋状の接続ネジ部を形成し、これをコネクタハウジングの導入部に形成された雌ネジ部に螺合させて接続するシールド管の構成が開示されている。なお、筒状部材の間には、屈曲用蛇腹部を断続的に形成して、ワイヤハーネスの経路に沿って任意に屈曲可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−171952号公報
【特許文献2】特開2009−123461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のシールド管は金属製であるため、重量が大きくて取り扱い性が悪く、車両の床下等に沿わせて取り付ける際には、ブラケット等の取付部材を介して取り付ける必要があって配置スペースも大きくなっていた。また、定位置に高精度の取り付けが要求されることで作業に手間も掛かっていた。
さらに、蛇腹部を設けたりしても柔軟性には限界があるため、一定の車種に適用が制限され、汎用性が低くなっていた。
そこで、軽量で可撓性もある合成樹脂管の表面又は裏面に金属層を形成してシールドを図ることも考えられるが、合成樹脂管の全面に金属層を形成するとコストアップに繋がってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、合成樹脂管に金属層を形成することで、シールド性能の確保は勿論、取り扱い性や汎用性を維持すると共に、低コストで経済性にも優れたシールド管及びワイヤハーネスを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、合成樹脂管の表面又は裏面に金属層を所定厚みで形成したシールド管であって、金属層が形成される面に、軸方向の長さの総計がシールド管の全長の1/12以下となり、且つ周方向の長さの総計がシールド管の全周の1/2以下となる金属層の非形成部を複数形成したことを特徴とするものである。
ここで、「軸方向の長さの総計」とは、シールド管の軸方向全長のうち、非形成部が軸方向に占める正味部分を意味する。従って、例えば軸方向に並ぶ非形成部が複数列形成されて非形成部が周方向にも並ぶ場合は、周方向に重複するそれぞれの非形成部の軸方向の長さを加算するのではなく、一つの軸方向長さのみを加算する。
同様に、「周方向の長さの総計」も、シールド管の周方向全長のうち、非形成部が周方向に占める正味部分を意味する。従って、例えば周方向に並ぶ非形成部が複数列形成されて非形成部が軸方向にも並ぶ場合は、軸方向に重複するそれぞれの非形成部の周方向の長さを加算するのではなく、一つの周方向長さのみを加算する。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、非形成部の軸方向の長さの総計をシールド管の全長の1/24以下としたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、合成樹脂管は蛇腹構造を有することを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、ワイヤハーネスであって、請求項1乃至3の何れかに記載のシールド管に1又は複数の電線を挿通させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び4に記載の発明によれば、シールド性能を確保して取り扱い性や汎用性を維持できる。また、非形成部によって金属層をシールド性能に必要な限度まで減らしているので、低コストとなって経済性に優れたものとなる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、10kHz〜1GHzの幅広い帯域で好適なシールド性能を得ることができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、可撓性に優れて取り扱い性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ワイヤハーネスの横断面図である。
【図2】ワイヤハーネスの側面図である。
【図3】実施例1のワイヤハーネスのシールド性能を示すグラフである。
【図4】実施例2のワイヤハーネスのシールド性能を示すグラフである。
【図5】実施例2のワイヤハーネスの100MHz〜1GHz帯のシールド性能を示すグラフである。
【図6】参考例のワイヤハーネスのシールド性能を示すグラフである。
【図7】参考例のワイヤハーネスの100MHz〜1GHz帯のシールド性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1にワイヤハーネスの一例を示す。このワイヤハーネス1は、筒状のシールド管2に2本の電線3,3を挿通させてなる。ここで使用されるシールド管2は、図2に示すように、一般にコルゲートチューブと称される蛇腹構造の合成樹脂管で、ここではシールド管2の表面に金属層4が形成されている。この金属層4には銅やアルミニウム等が用いられるが、単独の金属に限らず、例えば銅+スズ、銅+ニッケルのように複数層で形成することも考えられる。
【0010】
シールド管2における金属層4の形成手段としては、メッキがよく用いられるが、これ以外に蒸着や塗布、或いは金属箔を加圧接着させることでも形成可能である。
また、金属層4の厚みは、ワイヤハーネスに要求されるシールド性能を得るために、13μm以上とするのが望ましい。厚みの上限は、コストを考慮すれば50μm〜80μmとするのが望ましい。
【0011】
但し、ここでの金属層4はシールド管2の全面ではなく、一部に金属層4のない非形成部5,5・・が設けられている。この非形成部5は、シールド管2の軸方向と周方向とに所定の長さ(例えば軸方向及び周方向共に1mm)を有する四角形状で、シールド管2の軸方向に沿って所定間隔で複数箇所に形成されている。
また、非形成部5は、大き過ぎるとシールド性を低下させてしまうため、全ての非形成部5の周方向に重複しない軸方向の長さL1,L1,L1・・の総計がシールド管2の全長の1/12以下、望ましくは全長の1/24以下となるように、且つ軸方向に重複しない周方向の長さL2がシールド管2の全周の1/2以下となるように形成されている。
【0012】
従って、このワイヤハーネス1によれば、合成樹脂のシールド管2における金属層4の形成面に、軸方向の長さL1の総計がシールド管2の全長の1/12以下となり、且つ周方向の長さL2がシールド管2の全周の1/2以下となる金属層の非形成部5,5・・を複数形成したことで、シールド性能を確保して取り扱い性や汎用性を維持できる。また、非形成部5によって金属層4をシールド性能に必要な限度まで減らしているので、低コストとなって経済性に優れたものとなる。
【0013】
なお、金属層の非形成部の数や形状は上記形態に限らず、円形や楕円形等の他の形状であってもよい。但し、何れの場合も軸方向及び周方向の長さは、各方向で最大となる寸法となる(例えば円形の非形成部では軸方向及び周方向共に直径寸法で計算される)。
また、非形成部を軸方向に一列設ける場合に限らず、複数列設けても差し支えない。この複数列の場合、軸方向の長さの総計は、周方向に並ぶ(重複する)非形成部では各形成部の軸方向長さを加算せず、一つの軸方向長さのみ加算する。同様に周方向の長さの総計も、軸方向に並ぶ(重複する)非形成部では各形成部の周方向長さを加算せず、一つの周方向長さのみ加算する。
【0014】
一方、シールド管についても、円形断面に限らず、長円形や楕円形の断面であっても差し支えないし、金属層は裏面に非形成部と共に形成してもよい。また、表面に金属層を形成する場合、金属層の外側に合成樹脂等によるコーティングを施すようにすれば、金属層が露出することがなく、他の電線等が接触しても金属層による短絡等が防止される。
さらに、シールド管は全体に蛇腹構造を有するものに限らず、部分的に蛇腹構造を複数箇所に有する合成樹脂管や、可撓性があれば蛇腹構造を有しない合成樹脂管であっても使用して差し支えない。
【0015】
加えて、合成樹脂管の軸方向全長に亘ってスリットを形成して表面及び分断された一方の端部の裏面とに金属層を形成し、裏面に金属層を形成した一方の端部を他方の端部に外側から所定の重ね代で重ね合わせてシールド管を形成してもよい。これによればスリットを介して電線の挿脱が容易になる。
一方、円形断面の合成樹脂管をその軸方向に沿って二分割して、得られる一対の半割り管の表面にそれぞれ金属層を、何れか一方の半割り管の両端部の裏面に金属層を形成し、一方の半割り管の外側から他方の半割り管を、両端部同士が所定の重ね代で全長に亘って重なり合うように対向状に組み合わせてシールド管を得るようにしてもよい。このように二分割しても半割り管の剛性によって重ね代での接触状態が維持され、シールド管を屈曲させても一体性は維持できる。
これらの場合、非形成部は重ね代の部分で形成してもよいが、非形成部を端部間で重合させる必要があるため、重ね代以外の部分で形成するのが望ましい。
【0016】
以下、具体的な実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
外径が18φ、内径が15φで長さが1.2mのコルゲートチューブの表面に、30μmの厚さで銅メッキによる金属層を形成すると共に、金属層に、軸方向の長さが1mmで、周方向の長さが軸線回りの角度で表して100°/360°(28%)となる非形成部を、軸方向の長さの総計が40mmとなるように所定間隔をおいて複数形成し、このシールド管に3sqの電線を2本挿通させてワイヤハーネスを作成した。得られたワイヤハーネスのシールド性能を計測した結果を図3に示す。
この測定結果によれば、10kHz〜1GHzの略全帯域に亘って40dB以上のシールド性能が得られることが確認できた。
【実施例2】
【0018】
外径が18φ、内径が15φで長さが1.2mmのコルゲートチューブの軸方向全長に亘ってスリットを1箇所形成し、コルゲートチューブの表面全体と、スリットによって分断される一方の端部の裏面とに、50μmの厚さで銅メッキによる金属層を形成してシールド管を作成し、このシールド管に3sqの電線を2本挿通させてワイヤハーネスを作成した。
次に、シールド管の裏面に金属層を形成した一方の端部を他方の端部に外から重ね合わせて、重ね合わせ部分以外の箇所に、軸方向の長さが1mmで軸方向の総計が40mmとなる非形成部を所定間隔をおいて複数形成し、各非形成部の周方向の長さを、軸線回りの角度で22°/360°(1/16カット)〜360°/360°(完全カット)となる範囲で段階的に変更し、それぞれの割合でのシールド性能を計測した。計測結果を図4,5に示す。
【0019】
この計測結果によれば、30MHz以上の高周波帯域でシールド性能の相違が顕著となり、非形成部の周方向の長さの総計が1/2(周方向カット率50%)以下であれば、30MHz〜1GHzの高周波帯域でも必要なシールド性能(40dB以上)が得られることがわかった。
【0020】
[参考例]
ここでは非形成部の軸方向長さの総計の上限を検証する。
外径が18φ、内径が15φで長さが1.2mmのコルゲートチューブの軸方向全長に亘ってスリットを1箇所形成し、コルゲートチューブの表面全体と、スリットによって分断される一方の端部の裏面とに、25μmの厚さで銅メッキによる金属層を形成してシールド管を作成し、このシールド管に3sqの電線を2本挿通させてワイヤハーネスを作成した。
次に、シールド管の裏面に金属層を形成した一方の端部を他方の端部に外から重ね合わせて、両端部の間で厚み方向に形成される隙間の軸方向の長さの総計を、5mm〜200mmの範囲で段階的に変更してそれぞれの長さでのシールド性能を計測した。計測結果を図6,7に示す。
【0021】
この計測結果によれば、30MHz以上の高周波帯域でシールド性能の相違が顕著となり、非形成部の軸方向の長さの総計が100mm以下(シールド管の全長の1/12以下)であれば、30MHz〜1GHz帯でも必要なシールド性能(40dB以上)が得られ、当該総計がシールド管の全長の1/24以下であれば、全帯域に亘ってシールド性能が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0022】
1・・ワイヤハーネス、2・・シールド管、3・・電線、4・・金属層、5・・非形成部、L1・・非形成部の軸方向の長さ、L2・・非形成部の周方向の長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂管の表面又は裏面に金属層を所定厚みで形成したシールド管であって、
前記金属層が形成される面に、軸方向の長さの総計が前記シールド管の全長の1/12以下となり、且つ周方向の長さの総計が前記シールド管の全周の1/2以下となる金属層の非形成部を複数形成したことを特徴とするシールド管。
【請求項2】
前記非形成部の軸方向の長さの総計を前記シールド管の全長の1/24以下としたことを特徴とする請求項1に記載のシールド管。
【請求項3】
前記合成樹脂管は蛇腹構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド管。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のシールド管に1又は複数の電線を挿通させたことを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−124032(P2012−124032A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273977(P2010−273977)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】