説明

シール装置、及びこれを用いた配管

【課題】 本発明は、電気腐食による腐食を防止するシール装置、及びこれを用いた配管を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかるシール装置は、被シール部材5,6間をシールするシール部材10を備えたシール装置において、シール部材10またはシール部材近傍に被シール部材5,6よりも電位列の高い部材7を配置したことを特徴とする。これにより、シール部材の外周側13または外周側13近傍に配置した犠牲電極7が集中的に腐食され、被シール部材5,6又はシール部材10の電気腐食を防止することができる。また、確実にガス漏れなどの点検を行うことができ、信頼性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被シール部材間をシールするシール装置に関し、特に電気腐食を防止するシール装置、及びこれを用いた配管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被シール部材としては、発電所における燃料設備やLNG船などにおけるLNG、液体水素、液体窒素、液体酸素などのような極低温流体が流通する配管のフランジ部がある。このようなフランジ部間には、ガスケット(うず巻き形ガスケット)等のシール部材によりフランジ部から極低温流体が漏れないようにシールされている。
このフランジ部には、一般的に炭素鋼、鋼、鋳鉄、ステンレス、銅、或いはアルミ合金などの金属材料が使用され、図3に示すモス型LNG船1の球形タンク2においては、アルミ合金が適用されている。この球形タンク上部2aには、図4に示すようにアルミ合金製の複数の配管3a〜3eが設けられている。これらの配管3a〜3eは、LNGの給排出の配管3a、ガス戻り配管3b、冷却用配管3c、或は、ポンプやバルブ等の補器類の配線を通す配管3d、圧力計や温度計等の計器類の配線を通す配管3e、及び安全弁用ガス放出管3f等、複数設けられている。
また、燃料設備側における配管4には耐火災用としてステンレス鋼が適用されている。このような配管3,4を連結するためのフランジ部5,6においては、異種金属間に雨水等が滞留すると、電流が流れる回路が形成され、電気的な腐食が進行する現象、いわゆる電気腐食が生じるという問題があった。
【0003】
このため、図5に示すように、LNGや液体水素等を流通する配管3,4においては、フランジ部5,6間にうず巻き形ガスケット8を介してボルト14及びナット15で締付力を付与することでシールしているが、絶縁による静電気の帯電を防止するため、必ずフランジ部5,6間を通電することが国際法により定められている。このため、LNG船等における配管3,4のフランジ部5,6間のシール部材として、通電性のあるグラファイトを用いたうず巻き形ガスケット8が好適に使用されている。
このうず巻き形ガスケット8は、ガスケット本体11と、ガスケット本体11に取り付けられた内輪12及び外輪13とで構成されている。ガスケット本体11は、アルミ等の金属製薄帯板(フープ)11aと、グラファイトやグラシール等の非金属材料のクッション材(フィラー)11bを交互にうず巻き状に巻き回して形成されている。内輪12は、ステンレス鋼の環状体で、締め付けによるガスケット本体11の半径方向内側への変形を抑制している。同様に、外輪13もステンレス鋼の環状体で、締め付けによるガスケット本体11の半径方向外側への変形を抑制するとともに、管内内圧による半径方向外側への変形を抑制する役目をする。このうず巻き形ガスケット8は、LNG等を流通する極低温下で良好なシール性が得られるものである。
【0004】
しかしながら、配管3,4のフランジ部5,6間と、外輪13との間に形成される隙間9に雨水や海水等が浸入・滞留し、外輪13及び/又はフランジ部5,6が電気腐食により腐食するといった問題があった。
このような問題を解決する手段として、例えば、特許文献1に示すような軟質材で隙間を完全にシールしたうず巻き形ガスケットが知られている。特許文献1には、ガスケットの外輪とフランジ部との間の隙間を埋める軟質部材が配設されたうず巻き形ガスケットが記載されており、軟質部材にて隙間をなくすことにより、雨水、海水等の浸入、滞留を防止することで、電気腐食によるフランジ部又はガスケットの腐食を防止するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平9−329278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フランジ部とガスケット部との隙間を軟質部材で完全に埋めてしまうと、ガスケットの劣化によりガスが漏れていたとしても、軟質部材でシールされているため、ガスケットのガス漏れを検知できないという問題がある。
さらには、軟質部材の経年劣化により、雨水や海水等が軟質部材の内部に侵入・滞留し電気腐食が生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑み、電気腐食による腐食を防止するシール装置、及びこれを用いた配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシール装置は、被シール部材間をシールするシール部材を備えたシール装置において、前記シール部材またはシール部材近傍に前記被シール部材よりも電位列の高い部材を配置したことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シール部材またはシール部材近傍に被シール部材よりも電位列の高い部材を配置したことにより、雨水や海水等による電気腐食によって、電位列の高い部材が集中して腐食される。このように、電位列の高い部材を犠牲電極として用いることにより、被シール部材またはシール部材の電気腐食を防止することができる。なお、犠牲電極としての電位列の高い部材は、シール部材近傍に別に配置してもよいし、シール部材と一体に配置してもよい。
【0010】
また、本発明にかかるシール装置において、前記電位列の高い部材は、アルミニウム合金よりも海水中における電位列の高い金属であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、被シール部材に一般的に用いられる材料の中で海水中での電位列が高ルミニウム合金よりも電位列の高い金属をシール部材またはシール部材近傍に配置することにより、犠牲電極として集中的に腐食される。これにより、被シール部材又はシール部材の電気腐食を防止することができる。また、犠牲電極を海水中での電位列が高い金属とすることにより、特に海水に曝される船舶において、被シール部材の電気腐食を防止することに有利である。
【0012】
また、本発明にかかるシール装置において、前記アルミニウム合金よりも海水中における電位列の高い金属は、カドミウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム合金、マグネシウムであることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、カドミウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム合金、又はマグネシウムをシール部材またはシール部材近傍に配置することにより、犠牲電極として集中的に腐食されるため、被シール部材又はシール部材の電気腐食を防止することができる。特に、犠牲電極として亜鉛を用いることにより、シール装置を安価に製作することができる。
【0014】
また、本発明にかかるシール装置において、前記電位列の高い部材は、外周側に配置されたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、海水や雨水が浸入・滞留して電気腐食が生じやすいシール部材の外周側に電位列の高い部材を配置することにより、犠牲電極として集中的に腐食される。これにより、被シール部材又はシール部材の電気腐食を防止することができる。
【0016】
また、本発明にかかるシール装置において、前記シール部材は、被シール部材間をシールするとともに、金属製のフープと非金属材料のフィラーとを交互にうず巻き状に巻き回して形成されたガスケット本体と、該ガスケット本体の内側に設けられた内輪と、該ガスケット本体の外側に設けられた外輪とにより構成されるうず巻き形ガスケットにおいて、前記外輪に前記電位列の高い金属が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、電気腐食が起こりやすいうず巻き形ガスケットの外輪に電位列の高い金属を設けたため、この電位列の高い金属が犠牲電極として集中的に腐食され、フランジ部の電気腐食を防止することができる。これによれば、耐腐食性に優れたシール装置を得ることができ、シール装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0018】
また、本発明にかかるシール装置において、前記電位列の高い部材は、前記シール部材の外周側にメッキにより配置されたことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、電位列の高い部材をメッキにより配置することにより、シール部材の外周側に容易に犠牲電極を配置することができる。これにより、シール部材の外周側に配置した犠牲電極が集中的に腐食され、被シール部材又はシール部材の電気腐食を防止することができる。また、シール部材の外周側にメッキにより犠牲電極を配置したことにより、犠牲電極の消耗を容易に確認できるとともに、ガス漏れなどの点検を容易に行うことができる。これにより、シール装置のメンテナンス性が向上される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシール装置、及びこれを用いた配管によれば、被シール部材又はシール部材の電気腐食を防止することができる。また、メンテナンスを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態にかかるうず巻き形ガスケット(シール部材)の構成について、図面を参照して説明する。従来のうず巻き形ガスケットの構成に加え、うず巻き形ガスケットまたはうず巻き形ガスケット近傍にフランジ部(被シール材)よりも電位列の高い部材(犠牲電極)を配置したものである。なお、従来と同一の構成については、同じ符号を附してある。
【0022】
図1には、シール装置におけるうず巻き形ガスケット(シール部材)10の縦断面図の中心線に対して片側部分のみが示されている。うず巻き形ガスケット10のガスケット本体11は、アルミ等の金属製薄帯板(フープ)11aとグラファイトやグラシール等の非金属材料のクッション材(フィラー)11bを交互にうず巻き状に巻き回し、巻き始めと巻き終わりを溶接等で固着されて形成されている。このガスケット本体11の内側に内輪12が取り付けられ、締付力によるガスケット本体11の半径方向内側への変形を抑制している。同様に、ガスケット本体11の外側には、外輪13が取り付けられており、締付力によるガスケット本体11の半径方向外側への変形を抑制する役目をしている。内輪12及び外輪13は、通常、ステンレス鋼(SUS)で形成されている。
【0023】
外輪13の外周側には、亜鉛メッキにより犠牲電極7が配置されている。この犠牲電極7は、フランジ部(ステンレス鋼又はアルミニウム合金)よりも海水中での電位列が高い金属、好ましくは、カドミウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム合金、或いはマグネシウム、さらに好ましくは、亜鉛が用いられる。
本実施形態における犠牲電極7は、外輪13の表面に亜鉛メッキを施して形成されているが、メッキの他に、接着剤により犠牲電極7を隙間9の近傍に固着させて配置してもよく、犠牲電極7の配置は、フランジ部の材質、温度や適用場所等の使用条件によって適宜選択される。
【0024】
図2には、本実施形態にかかるうず巻き形ガスケット10をフランジ部5,6に適用したシール装置の縦断面図が示されている。
図において右側はLNG船側の配管3で、フランジ部5を有している。この配管3は、LNG船の球形タンクと同じアルミ合金で形成されている。また、図において左側は燃料設備等の配管4で、フランジ部6を有している。この配管4は、耐火災用のため一般的にステンレス鋼で形成されている。2つの配管3,4はそれぞれフランジ部5,6の円周上に複数のボルト14及びナット15で連結されている。フランジ部5,6間には上記したうず巻き形ガスケット10が嵌挿され、このうず巻き形ガスケット10の外輪13の表面には犠牲電極として亜鉛メッキが施されている。うず巻き形ガスケット10の外周側とフランジ部5又は6との間に隙間9が形成されている。
【0025】
フランジ部5,6にて連結された配管3,4内の管路16をLNGが流通する。なお、管路16を流通する流体は、LNGに限らず、LPG、DME、液体アンモニア、液体水素、液体窒素、液体酸素などのような極低温流体であっても適用可能である。
【0026】
次に、犠牲電極によるフランジ部5,6の腐食防止について図2を用いて説明する。
図2において、配管3と配管4とがアルミ合金とステンレス鋼との異種金属で形成され、外輪13の表面に亜鉛メッキの犠牲電極7が形成されている場合、ガスケット10の外輪13と各フランジ部5,6との隙間9に雨水や海水等が浸入・滞留すると3種類の金属間に電流が流れる回路が形成される。このとき、3種類の金属のうち最も海水中の電位列が高い亜鉛に集中して電気腐食が進行することとなり、フランジ部5,6の腐食を防止することができる。
なお、犠牲電極7は、外輪13の近傍に別に配置してもよく、電気腐食が生じるうず巻き形ガスケット10の近傍、またはうず巻き形ガスケット10に一体に設けられていればよい。
【0027】
このように本実施形態にかかるガスケット及びこれを用いた配管において、特に、LNG船の球形タンクに接続される配管のうち、水平方向に管路が形成された配管3a,3b,3c及び3d(図4参照)のフランジ部5,6に対して効果的である。水平方向でのフランジ部5,6では、外輪13とフランジ部5,6との隙間9に雨水や海水等が浸入・滞留しやすくなるため、ガスケット本体11の外輪13またはガスケット本体11近傍に犠牲電極7を配置することによって、電気腐食によるフランジ部5,6又はうず巻き形ガスケット10の腐食が防止される。
【0028】
隙間9を軟質部材により埋めることがないので、フランジ部のガス漏れ検査等の際に、確実にガス漏れ等の検査を行うことができ、シール装置の信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態にかかるうず巻き形ガスケットの片側縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるうず巻き形ガスケットをフランジ部に適用したシール装置の縦断面図である。
【図3】一般的なモス型LNG船の構成を示す斜視図である。
【図4】モス型LNG船の球形タンクの平面図である。
【図5】従来のうず巻き形ガスケットをフランジ部に適用した場合の縦断面図である。
【符号の説明】
【0030】
3,4 配管
5,6 フランジ部
7 犠牲電極
10 うず巻き形ガスケット(シール材)
11 ガスケット本体
12 内輪
13 外輪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被シール部材間をシールするシール部材を備えたシール装置において、
前記シール部材または前記シール部材近傍に前記被シール部材よりも電位列の高い部材を配置したことを特徴とするシール装置。
【請求項2】
前記電位列の高い部材は、アルミニウム合金よりも海水中における電位列の高い金属であることを特徴とする請求項1記載のシール装置。
【請求項3】
前記アルミニウム合金よりも海水中における電位列の高い金属は、カドミウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム合金、マグネシウムであることを特徴とする請求項2記載のシール装置。
【請求項4】
前記電位列の高い部材は、前記シール部材の外周側に配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール装置。
【請求項5】
前記電位列の高い部材は、前記シール部材の外周側にメッキにより配置されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシール装置。
【請求項6】
前記シール部材は、被シール部材間をシールするとともに、金属製のフープと非金属材料のフィラーとを交互にうず巻き状に巻き回して形成されたガスケット本体と、
該ガスケット本体の内側に設けられた内輪と、
該ガスケット本体の外側に設けられた外輪と、により構成されるうず巻き形ガスケットにおいて、
前記外輪に前記電位列の高い金属が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシール装置。
【請求項7】
被シール部材の相互間をシール装置を介して継ぐ配管継手を有する配管において、前記シール装置は、請求項1〜6のいずれか1項に記載されたシール装置とされていることを特徴とする配管。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−125608(P2006−125608A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318473(P2004−318473)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】