説明

シール部材及びボールジョイント

【課題】組み付け性が良好で、かつ、充分な密閉性を得ることが可能なダストカバーを提供する。
【解決手段】ソケット16(ソケット本体21)側に取り付けるソケット側取付部47に、少なくとも径方向に伸縮性を有しソケット側取付部47と一体的に径方向に伸縮してソケット側取付部47をソケット16(ソケット本体21)のカバー固定溝28に締め付け固定可能な環状部材54を内包する。環状部材を別途取り付ける工程を要することなくソケット側取付部47を径方向に伸縮させつつソケット16に組み付けることが可能となり、組み付け性が良好になる。環状部材54及びソケット側取付部47の伸縮によりソケット16側に対応した緊縛力を得ることで充分な密閉性を得ることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材に取り付けられる取付部を有するシール部材及びこれを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車などの車両の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるこの種のボールジョイントは、内室及びこの内室に連通する開口部を有する円筒状のソケットと、このソケットの内室に取り付けられたベアリングシートであるボールシートと、このボールシートに摺動可能に保持されたボール部及びこのボール部から突出するスタッド部を有し、このスタッド部がソケットの開口部に挿通されたボールスタッドと、このボールスタッド及びソケットの間に取り付けられたシール部材としてのダストカバーとを備えている。このダストカバーは、一端側がボールスタッドのスタッド部に取り付けられ、他端側がソケット側に取り付けられて、ソケットの開口部を覆い、この開口部への塵埃などの侵入を防止している。
【0003】
このようなダストカバーにおいて、その他端側の取付部を中心軸方向へと締め付けてソケットに固定する円環状のクリップを取り付ける構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、この構成の場合、密封性に優れるものの、クリップを取り付ける工程を要するため、工程の増加を招き、また、クリップ絡みなどの問題が生じることもある。
【0005】
そこで、例えばダストカバーの他端側の取付部に円環状のリングを一体的に埋め込み、この一端部をソケット側へと圧入することにより固定する構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、この構成の場合、工程の増加及びクリップ絡みなどの問題は生じないものの、ダストカバーの他端部は径方向に伸縮性を有さないため、埋め込んだリングの緊縛力が強過ぎると組み付け性が低下し、弱過ぎると密閉性が低下するなど、リングの緊縛力の設定が容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−303448号公報(第3頁、図3)
【特許文献2】特開2000−230540号公報(第5−6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、例えばボールジョイントにおいて、組み付け性及び密閉性に優れたシール部材が望まれている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、組み付け性が良好で、かつ、充分な密閉性を得ることが可能なシール部材及びこれを備えたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のシール部材は、被取付部材の少なくとも一部が挿入される挿入開口部を備えたシール本体部と、このシール本体部に一体的に形成され、前記被取付部材に取り付けられる取付部と、この取付部に内包され、この取付部と一体的に伸縮して前記取付部を前記被取付部材に締め付け固定可能な環状部材とを具備したものである。
【0011】
請求項2記載のシール部材は、請求項1記載のシール部材が、内室及びこの内室に連通する連通開口部を有する被取付部材としてのソケットと、このソケットの前記内室に一部が摺動可能に保持されたボールスタッドとを備えたボールジョイントの前記ソケットに取付部が取り付けられシール本体部に前記ボールスタッドが挿通されて前記連通開口部を覆うダストカバーであるものである。
【0012】
請求項3記載のシール部材は、請求項1または2記載のシール部材において、環状部材は、取付部に対して非固着状態で内包されているものである。
【0013】
請求項4記載のシール部材は、請求項3記載のシール部材において、環状部材を非固着状態で被覆し、前記環状部材とともに取付部に内包される被覆部材を具備したものである。
【0014】
請求項5記載のシール部材は、請求項1または2記載のシール部材において、環状部材は、取付部に対して固着状態で内包されているものである。
【0015】
請求項6記載のシール部材は、請求項5記載のシール部材において、環状部材は、形状記憶合金により形成されているものである。
【0016】
請求項7記載のシール部材は、請求項3ないし6いずれか一記載のシール部材において、環状部材は、少なくとも2重に巻回されて形成されているものである。
【0017】
請求項8記載のボールジョイントは、内室及びこの内室に連通する開口部を有する被取付部材としてのソケットと、このソケットの前記内室に一部が摺動可能に保持されたボールスタッドと、取付部が前記ソケットに取り付けられシール部材本体に前記ボールスタッドが挿通されて前記開口部を覆う請求項1ないし7いずれか一記載のシール部材とを具備したものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のシール部材によれば、被取付部材に取り付けられる取付部に、この取付部と一体的に伸縮してこの取付部を被取付部材に締め付け固定可能な環状部材を内包することにより、例えば環状部材を別途取り付ける工程を要することなく取付部を伸縮させつつ被取付部材に組み付けることが可能となり、組み付け性が良好になるとともに、環状部材及び取付部の伸縮により被取付部側に対応した緊縛力を得ることで充分な密閉性を得ることが可能になる。
【0019】
請求項2記載のシール部材によれば、請求項1記載のシール部材の効果に加えて、ボールジョイントのソケットの連通開口部を覆うダストカバーの場合、ソケットへの組み付け性が良好になるとともに、環状部材及び取付部の伸縮によりソケット側に対応した緊縛力を得ることで連通開口部に対して充分な密閉性を得ることが可能になる。
【0020】
請求項3記載のシール部材によれば、請求項1または2記載のシール部材の効果に加えて、環状部材を取付部に対して非固着状態で内包することにより、環状部材と一体的に取付部を伸縮可能な構成を容易に形成できる。
【0021】
請求項4記載のシール部材によれば、請求項3記載のシール部材の効果に加えて、環状部材を非固着状態で被覆する被覆部材を環状部材とともに取付部に内包することにより、環状部材を取付部に対して容易に非固着状態で内包できる。
【0022】
請求項5記載のシール部材によれば、請求項1または2記載のシール部材の効果に加えて、環状部材を取付部に固着状態で内包することにより、環状部材と一体的に取付部を伸縮可能な構成を容易に形成できる。
【0023】
請求項6記載のシール部材によれば、請求項5記載のシール部材の効果に加えて、環状部材を形状記憶合金によって形成することにより、環状部材を取付部に固着状態としても、環状部材と取付部とが容易に一体的に伸縮可能となる。
【0024】
請求項7記載のシール部材によれば、請求項3ないし6いずれか一記載のシール部材の効果に加えて、環状部材を少なくとも2重に巻回して形成することにより、環状部材と一体的に取付部を伸縮可能な構成をより容易に形成できる。
【0025】
請求項8記載のボールジョイントによれば、請求項1ないし7いずれか一記載のシール部材を備えることにより、それぞれの効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態のシール部材を備えたボールジョイントを示す縦断面図である。
【図2】同上シール部材の製造工程の一部を示す説明断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態のシール部材を備えたボールジョイントを示す縦断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態のシール部材を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を図1及び図2を参照して説明する。
【0028】
図1において、11はボールジョイントを示し、このボールジョイント11は、例えば自動車などの車両の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるものである。そして、ボールジョイント11は、(一方の)被取付部材としてのハウジングであるソケット16と、このソケット16の内部に収容されたベアリングシートであるボールシート17と、このボールシート17に一部が摺動(回動)可能に保持された被シール部材としての挿通部材であるボールスタッド18と、ソケット16の外周面からボールスタッド18の外周面に亘って配置された(車両用)シール部材としての(車両用)ブーツであるダストカバー19とを備えている。
【0029】
ソケット16は、金属製などの円筒状のソケット本体21と、このソケット本体21に一体的に固定される金属製などの円板状の閉塞部材としてのプラグ22とを有している。
【0030】
ソケット本体21は、ボールシート17を収容する内室24を内部に備えているとともに、一端部(図1中、上端部)に、この内室24をソケット本体21の外部と連通する連通開口部としての(一方の)開口部である第1ソケット開口部25を備え、さらに、他端部(図1中、下端部)に、内室24をソケット本体21の外部と連通する被閉塞開口部としての(他方の)開口部である第2ソケット開口部26を備えている。また、このソケット本体21は、一端側(図1中、上端側)の外周面に、ダストカバー19の端部を取り付け固定するカバー取付部としてのカバー固定溝28が周方向に形成されている。さらに、このソケット本体21は、内室24と第1ソケット開口部25との連続部に、中心軸方向へと突出する突出部31が形成されており、内室24と第2ソケット開口部26との連続部に、プラグ22を保持する保持部32が段差状に形成されている。そして、ソケット本体21は、保持部32よりも他端側(図1中、下端側)の部分が、かしめ変形されることによってプラグ22を固定することによりボールシート17及びボールスタッド18をソケット16に固定するための固定部であるかしめ固定部33となっている。なお、ソケット本体21は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成されている。
【0031】
第1ソケット開口部25は、内室24側である突出部31から一端側(図1中、上端側)に向けて、徐々に拡径状に形成されている。
【0032】
第2ソケット開口部26は、内室24と略等しい径寸法を有している。
【0033】
カバー固定溝28は、第1ソケット開口部25の外側の位置にて、ソケット本体21の外周面全周に亘って円環溝状に凹設されている。
【0034】
また、プラグ22は、保持部32に周縁部が保持された状態でかしめ固定部33によりかしめ固定されることにより、内室24の他端側(図1中、下端側)、すなわち第2ソケット開口部26を閉塞するものである。
【0035】
ボールシート17は、例えば耐摩耗性に優れ弾性率が高い合成樹脂製などであり、ソケット本体21の内室24の内部に嵌着可能な円筒状に形成されている。すなわち、このボールシート17は、内部に球面状の摺動面35を備えているとともに、一端部(図1中、上端部)に、この摺動面35と連続してソケット本体21の第1ソケット開口部25と同軸状に連通するシート挿通開口部としての一方のシート開口部である第1シート開口部36を備え、さらに、他端部(図1中、下端部)に、摺動面35と連続してソケット本体21の第2ソケット開口部26と同軸状に連通するシート連通開口部としての他方のシート開口部である第2シート開口部37を備えている。そして、このボールシート17は、ソケット本体21の突出部31とプラグ22との間に保持されている。なお、ボールシート17は、1つの部材によって形成してもよいし、例えば互いに特性が異なる合成樹脂などにより形成された複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
【0036】
ボールスタッド18は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部41と、このボール部41に連結された軸状の他方の被取付部材であるスタッド部42とを一体に備えている。
【0037】
ボール部41は、その赤道(最大径位置)を含む外周面の一部がボールシート17の摺動面35に摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部41は、ボールシート17とともにソケット16の内室24に収容されている。また、ボール部41は、赤道の外径寸法、すなわち最大外径寸法が、ボールシート17の摺動面35の最大内径寸法と略等しく形成されている。すなわち、ボール部41の外周面の形状は、ボールシート17の摺動面35の形状と略一致している。さらに、このボール部41の外周面とボールシート17の摺動面35との間には、図示しないが、例えば潤滑剤(グリース)が保持されている。
【0038】
スタッド部42は、図示しない外部の被接続部材に接続されて荷重が加わる部分であり、各開口部36,25に挿通されてボールシート17及びソケット16から外方(図1中、上方)へと突出している。また、このスタッド部42には、図示しないが、被接続部材に接続するための図示しないねじ部、及び、このねじ部を被接続部材に接続した際の座面を形成する図示しない鍔部などが形成されている。なお、このスタッド部42は、ボール部41と一体に成形してもよいし、ボール部41と別体で成形した後、ボール部41に溶接などにより一体化してもよい。
【0039】
そして、ダストカバー19は、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれ、ボールスタッド18の揺動に拘らずソケット16の第1ソケット開口部25(ボールシート17の第1シート開口部36)を覆い、ソケット16あるいはボールシート17の内部への塵埃などの侵入を阻止するものである。このダストカバー19は、扁平な(軸方向よりも径方向の寸法が大きい)円筒状のシール本体部としてのダストカバー本体45と、このダストカバー本体45の一端側(図1中、上端側)に形成された(一方の)取付部としてのシール部であるスタッド側取付部46と、このダストカバー本体45の他端側(図1中、下端側)に形成された(他方の)取付部としての締付固定部であるソケット側取付部47とを一体に有している。
【0040】
ダストカバー本体45は、例えばクロロプレン、あるいはウレタンなどの合成樹脂製で、ソケット側取付部47側からスタッド側取付部46側へと徐々に縮径される円筒状に形成されている。すなわち、このダストカバー本体45には、一端側(図1中、上端側)に、ボールスタッド18のスタッド部42が挿通される(一方の)挿入開口部としての挿通開口部である第1開口部51が形成されているとともに、他端側(図1中、下端側)に、ソケット16(ソケット本体21)の第1ソケット開口部25側が挿入される(他方の)挿入開口部としての第2開口部52が形成されている。なお、このダストカバー本体45は、例えば軸方向の中間部分が外方へと膨出している形状など、任意の円筒形状としてもよい。
【0041】
スタッド側取付部46は、第1開口部51の縁部に沿って形成されており、スタッド部42の外周面に中心軸方向に向けて圧接されている。換言すれば、このスタッド側取付部46は、スタッド部42の外周面に対して気密(液密)に密着している。
【0042】
ソケット側取付部47は、第2開口部52の縁部に沿って形成されており、内包された環状部材54と一体的に径方向に伸縮性を有し、カバー固定溝28に内周側(内面側)が嵌着固定される。また、このソケット側取付部47は、環状部材54の伸縮性により、無負荷状態から拡径方向に伸張可能であるとともに、この拡径(伸張)状態では縮径方向に付勢されている。したがって、このソケット側取付部47は、カバー固定溝28に嵌着された状態でこのカバー固定溝28に対して中心軸方向へと圧接されている。換言すれば、このソケット側取付部47は、ソケット16(ソケット本体21(カバー固定溝28))に対して気密(液密)に密着している。
【0043】
そして、環状部材54は、クリップなどとも呼ばれ、例えばばね鋼、あるいはステンレスなどの金属製であり、2重に巻回された環状に形成されている。すなわち、環状部材54は、同軸状の環54a,54aが軸方向に互いに隙間を介して隣接し、これら環54a,54a間が端部の連続部54bで連続するように形成されている。また、この環状部材54は、ソケット側取付部47に対して固着(接着)されていない(非固着(非接着))状態で内包されている。換言すれば、この環状部材54は、ソケット側取付部47により伸縮性が阻害されることがなく、すなわち伸縮性が確保されており、このソケット側取付部47と一体的に伸縮可能となっている。
【0044】
次に、上記第1の実施の形態の作用を説明する。
【0045】
ダストカバー19を製造する際には、まず、図2に示すように、予め成形した環状部材54全体を中空状の被覆部材である円環状のチューブTによって被覆する。このとき、チューブTを、例えば環状部材54に固着しない合成樹脂部材により形成することにより、チューブTに対して環状部材54を固着しない(非固着)状態とする。なお、このチューブTは、例えば予め長尺円筒状に形成して環状部材54を挿入した後、両端部を接着固定して環状としてもよいし、予めシート状に形成して環状部材54の周囲に巻き付けた後、端部をそれぞれ接着固定して円筒環状としてもよい。
【0046】
この後、この環状部材54及びこの環状部材54を覆ったチューブTを中子として例えば加硫成形(射出成形)することで、図1に示すダストカバー19を完成する。なお、このときチューブTは、ソケット側取付部47と一体となってもよいし、このソケット側取付部47に対して一体でなくてもよい。
【0047】
ボールジョイント11の組み立ての際には、例えばボール部41を摺動面35により摺動(回動)可能に保持したボールシート17を、ソケット16のソケット本体21の内室24に第2ソケット開口部26から挿入した状態で、プラグ22を保持部32に保持し、かしめ固定部33を中心軸方向へとかしめ変形させてプラグ22をソケット本体21に一体的に固定することにより、ボールシート17及びボール部41をソケット16の内部に収容し、スタッド部42を第1ソケット開口部25側からボール部41に溶接する。
【0048】
この状態で、上記完成したダストカバー19の第2開口部52側からスタッド部42をダストカバー19内に挿入し、さらに、このスタッド部42を第1開口部51から突出させ、ソケット側取付部47を環状部材54とともに拡径方向に押し広げる外力を加えつつ、ソケット側取付部47を、第1開口部51に挿入されたソケット16(ソケット本体21)のカバー固定溝28に位置させた状態で外力を開放することにより、ソケット側取付部47が環状部材54とともに復帰変形して縮径し、カバー固定溝28に嵌着する。この状態で、ソケット側取付部47は、環状部材54の伸縮性によって、カバー固定溝28に対して中心軸方向へと縮径する緊縛力が付与される。
【0049】
上述したように、上記第1の実施の形態では、ソケット16(ソケット本体21)側に取り付けられるソケット側取付部47に、少なくとも径方向に伸縮性を有しソケット側取付部47と一体的に径方向に伸縮してソケット側取付部47をソケット16(ソケット本体21)のカバー固定溝28に締め付け固定可能な環状部材54を内包する構成とした。
【0050】
このため、例えばクリップなどの環状部材によりダストカバーをソケットに対して締め付け固定する従来の場合のように環状部材をダストカバーに対して別途取り付ける工程を要することなく、ソケット側取付部47を径方向に伸縮させつつソケット16に組み付けることが可能となり、また、組み付け時のクリップの絡み付きなども発生することがなく、組み付け性が良好になるとともに、例えば環状部材をダストカバーの端部に一体的に埋め込んでソケット側に圧入する従来の場合のようにリングの緊縛力を予め設定することなく、環状部材54及びソケット側取付部47の伸縮によりソケット側取付部47をソケット16のカバー固定溝28の形状(外径寸法)に対応した緊縛力を得ることができ、充分な密閉性を得ることができる。
【0051】
すなわち、ボールジョイント11のソケット16の第1ソケット開口部25を覆うダストカバー19の場合、ソケット16への組み付け性が良好になるとともに、環状部材54及びソケット側取付部47の伸縮によりソケット16側に対応した緊縛力を得ることで第1ソケット開口部25に対して充分な密閉性を得ることが可能になり、第1ソケット開口部25からの塵埃の侵入を効果的に防止できる。
【0052】
また、環状部材54をソケット側取付部47に対して非固着状態で内包することにより、環状部材54と一体的にソケット側取付部47を径方向に伸縮可能な構成を容易に形成できる。
【0053】
具体的に、環状部材54を非固着状態で被覆するチューブTを、環状部材54とともに中子としてダストカバー19を成形してソケット側取付部47に内包することにより、環状部材54をソケット側取付部47に対して容易に非固着状態で内包できる。
【0054】
さらに、環状部材54を少なくとも2重に巻回して形成することにより、環状部材54と一体的にソケット側取付部47を径方向に伸縮可能な構成をより容易に形成できる。
【0055】
そして、このダストカバー19を備えることにより、安価で密閉性が良好なボールジョイント11を得ることができる。
【0056】
なお、上記第1の実施の形態において、ダストカバー19の製造の際には、環状部材54を中子として、この環状部材54に固着しない材質によってダストカバー本体45及び各取付部46,47を一体成形してダストカバー19を形成してもよいし、表面にダストカバー19の材質と固着しない表面加工、例えば油分などの非親和性部材を付着させるなどの加工を施した環状部材54を中子としてダストカバー本体45及び各取付部46,47を一体成形してダストカバー19を形成してもよい。これらの場合には、予め環状部材54をチューブTにより覆う工程が必要なく、製造性が向上する。いずれにしても、環状部材54をソケット側取付部47に対して非固着として、環状部材54をソケット側取付部47と一体的に伸縮可能とすれば、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0057】
次に、第2の実施の形態を図3を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0058】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態の環状部材54に代えて、ソケット側取付部47に固着(接着)された状態で内包される環状部材56を備えるものである。
【0059】
この環状部材56は、クリップなどとも呼ばれ、2重に巻回された環状に形成されている。すなわち、この環状部材56は、同軸状の環56a,56aが軸方向に互いに隙間を介して隣接し、これら環56a,56a間が端部の連続部(図示せず)で連続するように形成されている。
【0060】
ここで、環状部材56は、例えば形状記憶合金により形成されている。また、この環状部材56は、環56a,56a同士が互いに固着(接着)されない状態でソケット側取付部47に対して内包されている。したがって、この環状部材56は、少なくとも径方向への伸縮性が確保され、ソケット側取付部47と一体的に少なくとも径方向に伸縮するように構成されている。
【0061】
そして、少なくとも径方向に伸縮性を有する環状部材56を、ダストカバー本体45の他端側に形成したソケット側取付部47に内包してこのソケット側取付部47と一体的に径方向に伸縮可能とするなど、上記第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0062】
また、環状部材56をソケット側取付部47に対して固着することにより、環状部材56と一体的にソケット側取付部47を径方向に伸縮可能な構成を容易に形成できるとともに、環状部材56を形状記憶合金により形成することで、環状部材56をソケット側取付部47に固着状態としても、環状部材56とソケット側取付部47とが容易に一体的に伸縮可能となる。
【0063】
特に、環状部材56を2重に巻回して、環56a,56a同士が互いに固着しないようにすることにより、環状部材56と一体的にソケット側取付部47を径方向に伸縮可能な構成をより容易に形成できる。
【0064】
次に、第3の実施の形態を図4を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0065】
この図4に示す第3の実施の形態は、上記第1の実施の形態の環状部材54を、(車両用)シール部材としての(車両用)ブーツ61に用いるものである。
【0066】
ブーツ61は、例えば車両である自動車の車軸などの被取付部材に装着される等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツ、シフトレバーなどの被取付部材に装着されるブーツ、車両である二輪車のシャフトなどの被取付部材に取り付けられるシャフトブーツなどである。そして、このブーツ61は、蛇腹円筒状に形成されたシール本体部としてのブーツ本体63と、このブーツ本体63の一端側(図4中、上端側)に形成された(一方の)取付部としてのシール部である第1取付部64と、このブーツ本体63の他端側(図4中、下端側)に形成され環状部材54を非固着状態で内包する(他方の)取付部としての締付固定部である第2取付部65とを一体に有している。
【0067】
ブーツ本体63は、例えばクロロプレン、あるいはウレタンなどの合成樹脂製で、第2取付部65側から第1取付部64側へと徐々に縮径されている。すなわち、このブーツ本体63は、一端側(図4中、上端側)に、車軸などの挿通部材が挿通される挿通開口部67が形成されているとともに、他端側(図4中、下端側)に、図示しない被取付部材が挿入される挿入開口部68が形成されている。また、このブーツ本体63は、その蛇腹形状により、軸方向に弾性変形可能となっている。なお、このブーツ本体63は、例えば軸方向の中間部分が外方へと膨出している形状など、任意の円筒形状としてもよい。
【0068】
第1取付部64は、挿通開口部67の縁部に沿って形成されており、挿通開口部67に挿通された挿通部材の外面に向けて圧接されている。換言すれば、この第1取付部64は、挿通部材の外面に対して気密(液密)に密着している。
【0069】
第2取付部65は、挿入開口部68の縁部に沿って形成されており、内包された環状部材54と一体的に径方向に伸縮性を有し、被取付部材に内周側(内面側)が嵌着固定される。また、この第2取付部65は、環状部材54の伸縮性により、無負荷状態から拡径方向に伸張可能であるとともに、この拡径(伸張)状態では縮径方向に付勢されている。したがって、この第2取付部65は、被取付部材に取り付けられた状態でこの被取付部材に対して中心軸方向へと圧接されている。換言すれば、この第2取付部65は、被取付部材に対して気密(液密)に密着している。
【0070】
そして、環状部材54は、上記第1の実施の形態と同様に、例えばチューブTにより被覆された状態で、これらを中子としてブーツ61を例えば加硫成形(射出成形)することにより、第2取付部65に対して非固着状態で内包される。
【0071】
さらに、このブーツ61を組み付ける際には、挿入開口部68側から挿通部材をブーツ61内に挿入し、さらに、この挿通部材を挿通開口部67から突出させ、第2取付部65を環状部材54とともに拡径方向に押し広げる外力を加えつつ、第2取付部65を、挿入開口部68に挿入された被取付部材の周囲に位置させた状態で外力を開放することにより、第2取付部65が環状部材54とともに復帰変形して縮径し、被取付部材に嵌着する。この状態で、第2取付部65は、環状部材54の伸縮性によって、被取付部材に対して中心軸方向へと縮径する緊縛力が付与される。
【0072】
このように、被取付部材側に取り付けられる第2取付部65に、少なくとも径方向に伸縮性を有し第2取付部65と一体的に径方向に伸縮して第2取付部65を被取付部材に締め付け固定可能な環状部材54を内包するなど、上記第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0073】
なお、上記第3の実施の形態において、環状部材54に代えて、上記第2の実施の形態の環状部材56を用いて、この環状部材56を取付部65に固着する構成としても同様の作用効果を奏することができる。
【0074】
さらに、上記各実施の形態において、シール部材は、少なくとも被取付部材が挿入される挿入開口部を備えていれば、両端に開口部を有する円筒状でなくてもよく、任意の被取付部材に対して用いることができる。すなわち、例えば上記第1の実施の形態あるいは第2の実施の形態において、スタッド側取付部46に環状部材54、あるいは環状部材56を内包してもよく、各取付部46,47にそれぞれ環状部材54、あるいは環状部材56を内包してもよい。
【0075】
また、環状部材54,56は、3重以上に巻回してもよく、また、例えば渦巻状、あるいはC型などの環状に形成されていてもよい。同様に、環状部材54,56は、例えばコイルばね状に巻回した長手状の部材を環状に形成したものなどでもよい。
【符号の説明】
【0076】
11 ボールジョイント
16 被取付部材としてのソケット
18 ボールスタッド
19 シール部材としてのダストカバー
24 内室
25 連通開口部としての第1ソケット開口部
41 ボール部
42 スタッド部
45 シール本体部としてのダストカバー本体
47 取付部としてのソケット側取付部
52 挿入開口部としての第2開口部
54,56 環状部材
61 シール部材としてのブーツ
63 シール本体部としてのブーツ本体
65 取付部としての第2取付部
68 挿入開口部
T 被覆部材としてのチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材の少なくとも一部が挿入される挿入開口部を備えたシール本体部と、
このシール本体部に一体的に形成され、前記被取付部材に取り付けられる取付部と、
この取付部に内包され、この取付部と一体的に伸縮して前記取付部を前記被取付部材に締め付け固定可能な環状部材と
を具備したことを特徴としたシール部材。
【請求項2】
内室及びこの内室に連通する連通開口部を有する被取付部材としてのソケットと、このソケットの前記内室に一部が摺動可能に保持されたボールスタッドとを備えたボールジョイントの前記ソケットに取付部が取り付けられシール本体部に前記ボールスタッドが挿通されて前記連通開口部を覆うダストカバーである
ことを特徴とした請求項1記載のシール部材。
【請求項3】
環状部材は、取付部に対して非固着状態で内包されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のシール部材。
【請求項4】
環状部材を非固着状態で被覆し、前記環状部材とともに取付部に内包される被覆部材を具備した
ことを特徴とする請求項3記載のシール部材。
【請求項5】
環状部材は、取付部に対して固着状態で内包されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のシール部材。
【請求項6】
環状部材は、形状記憶合金により形成されている
ことを特徴とする請求項5記載のシール部材。
【請求項7】
環状部材は、少なくとも2重に巻回されて形成されている
ことを特徴とする請求項3ないし6いずれか一記載のシール部材。
【請求項8】
内室及びこの内室に連通する開口部を有する被取付部材としてのソケットと、
このソケットの前記内室に一部が摺動可能に保持されたボールスタッドと、
取付部が前記ソケットに取り付けられシール部材本体に前記ボールスタッドが挿通されて前記開口部を覆う請求項1ないし7いずれか一記載のシール部材と
を具備したことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179549(P2011−179549A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42495(P2010−42495)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】