説明

シール部材及び管継手

【課題】管の嵌め入れ時の抵抗を小さくでき、かつ、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能で、シール部材のはみ出しを極力抑制することができるシール部材を提供する。
【解決手段】接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒によって前記管を接続する管継手において、前記管と前記内筒との間に用いられるシール部材23であって、前記管の内面全周に密接する環状突起23aと、前記管を前記管の内周に部分的に当接しながら環状突起23aに向かって案内する複数の案内突起23bとを備え、前記複数の案内突起23bの間には、管の内面により押圧された環状突起23a及び案内突起23bの変形を許容する空間WAが形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒によって前記管を接続する管継手において、前記管と前記内筒との間に用いられるシール部材、及び、このシール部材を備えた管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、給水用又は給湯用の通水管などとして架橋ポリエチレンやポリブデン等の合成樹脂からなる管が採用され、このような管を相互に、あるいは、ヘッダー(分水器)等の機器へ容易かつ確実に接続するのに、種々の管継手が提案されている。
【0003】
この管継手には、管の内径側に嵌め込まれる内筒を用いたものがあり、そのような管継手の内筒と接続すべき管との間に用いられるシール部材は、管より柔らかい素材で製され、管の内面に強く押圧されて変形してシール性を確保するようになっている。
【0004】
そのため、管を嵌め入れていく際に、シール部材が変形すると同時に嵌め入れ方向に移動して、シール部材を収容した環状溝からはみ出すことがあり、そのはみ出しを如何になくすかが、解決課題となっていた。
【0005】
この問題は、管端切断面が斜めの場合、シール部材の一部が管内面から押圧を受けないためにはみ出しやすくなるため、より顕著に発生していた。
【0006】
その問題を解決するものとして、例えば、特許文献1に記載されたものが提案されており、図6は、その特許文献1に記載された管継手のシール部材と内筒の要部を示す図である。
【0007】
この管継手40は、接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒32と、前記管と内筒32との間に用いられるシール部材33とを備えており、このシール部材33は、突出部33aと、平坦部33bと、これらの突出部33aと平坦部33bとの間に設けられた凹条33cとで構成されている。
【0008】
内筒32には、シール部材33を収容する環状溝32eが設けられている。
【0009】
シール部材33は、上記の構成要素の内、平坦部33bに特徴がある。この平坦部33bは、突出部33aに先んじて、接続すべき管端面が斜めであっても、この斜め端面の最後部より奥の部分に収容されて管の全周からの押圧を受け、環状溝32eに押し付けられて、軸方向の移動が規制される。
【0010】
したがって、接続すべき管を更に押し込んで、管が突出部33aを乗り越えようとする際に、シール部材33の押し込み方向への移動が規制され、シール部材33が環状溝32eからはみ出すおそれが少ない、と特許文献1に記載されている(明細書の段落[0018])。
【0011】
しかしながら、このようなシール部材33にあっては、突出部33aの勾配が、単に、その径が一様に拡径していくようなものとなっているため、管で外側から拘束された場合に逃げ場所がなく、管が平坦部33bを通過して、突出部33aに当たると抵抗が大きく、この抵抗をより小さくすることが、上記はみ出しの問題を解決する一つの方法と考えられた。
【0012】
この際、突出部の勾配を緩やかにする方法もあるが、その場合、この勾配部分の軸方向長さが長くなって、シール部材全体の長さが長くなるという問題があった。
【0013】
また、特許文献1では、平坦部33bによって、斜めの管端切断面の場合を含めて、はみ出しの問題を解決しようとしたが、平坦部33bの部分だけ、シール部材33の軸方向長さが長くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−42370号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題を解決しょうとするもので、管の嵌め入れ時の抵抗を小さくでき、かつ、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能で、シール部材のはみ出しを極力抑制することができるシール部材及び管継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載のシール部材は、接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒によって前記管を接続する管継手において、前記管と前記内筒との間に用いられるシール部材であって、前記管の内面全周に密接する環状突起と、前記管を前記管の内周に部分的に当接しながら前記環状突起に向かって案内する複数の案内突起とを備え、前記複数の案内突起の間には、管の内面により押圧された環状突起及び案内突起の変形を許容する空間が形成されてなることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載のシール部材は、請求項1に従属し、案内突起の、管に最初に当接する側のみかけ外径(円周上に分配された案内突起の頂部が形成する外径)が、シール部材が内筒に装着された状態で前記内筒の外径とほぼ同一かより小さく、前記みかけ外径が、環状突起に向けて、拡径していることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の管継手は、内筒に環状溝を備え、該環状溝に、請求項1または2記載のシール部材を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の管継手は、請求項3に従属し、環状溝の軸方向長さは、環状突起まで管が嵌め入れられた際にシール部材が縮径して軸方向に伸長するのを許容すべく、前記シール部材の軸方向長さより長く形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の管継手は、請求項3または4に従属し、環状溝は、シール部材の管嵌め入れ方向への移動を規制する移動規制部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載のシール部材によれば、前記管の内面全周に密接する環状突起と、前記管を前記管の内周に部分的に当接しながら前記環状突起に向かって案内する複数の案内突起とを備え、前記複数の案内突起の間には、管の内面により押圧された環状突起及び案内突起の変形を許容する空間が形成されているので、この変形許容空間が、管の嵌め入れ時の導入抵抗を下げ、結果的に、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能となり、シール部材のはみ出しを極力抑制することができる。
【0021】
請求項2記載のシール部材によれば、請求項1の効果に加え、案内突起の、管に最初に当接する側のみかけ外径が、シール部材が内筒に装着された状態で前記内筒の外径とほぼ同一かより小さく、前記みかけ外径が、環状突起に向けて、拡径しているので、管の嵌め入れから、環状突起までの到達を滑らかに行わせることができる。
【0022】
請求項3記載の管継手によれば、内筒に環状溝を備え、該環状溝に、請求項1または2記載のシール部材を備えたので、請求項1または2の効果を管継手として発揮する。
【0023】
請求項4記載の管継手によれば、請求項3の効果に加え、環状溝の軸方向長さは、環状突起まで管が嵌め入れられた際にシール部材が縮径して軸方向に伸長するのを許容すべく、前記シール部材の軸方向長さより長く形成されているので、環状溝とシール部材との間の隙間が管に押圧されて変形するシール部材の逃げ場となり、その分、シール部材の環状溝からのはみ出しを防止することができる。
【0024】
請求項5記載の管継手によれば、請求項3または4の効果に加え、環状溝は、シール部材の管嵌め入れ方向への移動を規制する移動規制部を備えて、シール部材が環状溝からはみ出すのをより良く防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態(実施例)について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明のシール部材の一例を示すもので、(a)はその側面図、(b)はその正面図、(c)は(b)のAA縦断面図、(d)は(c)のBB横断面図、(e)は(c)のCC断面図、(f)はその外観斜視図である。
【0027】
このシール部材23は、接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒によって前記管を接続する管継手、つまり内径シールタイプの管継手の前記管と前記内筒との間に用いられるもので、全体としてはリング形状である。
【0028】
シール部材23のリング形状の中心を含む縦断面の形状の、外側は円錐台形状であって、その台形下部は円弧状となって端面側に続いている。そのリング形状の縦断面の内側は、外側の台形の小さい側が小径で、大きい側が大径の段付き穴と成っている。
【0029】
前記台形下部の円弧状外周部分は、接続すべき管の内面全周に密接するもので、環状突起23aと称する。前記台形の上部(小さい側)から、接続される管の内周に部分的に当接しながら、その管を環状突起23aに向かって案内する複数の案内突起23bが延びている。
【0030】
複数の案内突起23bの間には、管の内面により押圧された環状突起23a及び案内突起23bの変形を許容する変形許容空間WAが形成されており、このような案内突起23bと、環状突起23aとがこのシール部材23の特徴点であるが、その作用効果については、図2を用いて後に詳しく説明する。
【0031】
円周上に分配された複数の案内突起23bの頂部が形成する外径DDを、案内突起23bのみかけ外径DDと称するが、このみかけ外径DDの、複数の案内突起23bが管に最初に当接する側が、シール部材23が内筒22に装着された状態で、このシール部材23を嵌めて用いる内筒22の外径D5とほぼ同一かより小さくなっている(図3(a)参照)。
【0032】
加えて、この案内突起23bのみかけ外周DDが、図示しているように、環状突起23aに向けて、なだらかに拡径していることが、このシール部材23の他の特徴である。この案内突起23bの形状がもたらす作用効果についても、図2を用いて後に詳しく説明する。
【0033】
シール部材23の内径側段付き穴の小径側は小径穴部23c、大径側は大径穴部23dと称される。大径穴部23dの開口側(小径穴部23cへの段部でない側)は、円弧状となって端面側に続いており、この円弧部分は内側円弧部23eと称される。小径穴部23cの内径をD1、大径穴部23dの内径をD2とする。
【0034】
上記の記載から、また、特に、図1(c)から、シール部材23の外内の部分の関係は、外側の環状突起23aとこの近辺の案内突起23b部分の内側が大径穴部23dとなっており、外側の案内突起23bの反環状突起23a側の内側が小径穴部23cとなっていることが解る。
【0035】
シール部材23の素材としては、柔軟性、弾性があり、成形性の良いものが好適であるが、軟性合成樹脂ゴム、より好適には、エチレンプロピレンが採用される。そのような素材のシール部材23は、接続すべき架橋ポリエチレンやポリブデン等の合成樹脂からなる管の内面に押圧当接してシール性を良好に発揮する。
【0036】
図2は、図1のシール部材を備えた管継手の一例に接続すべき管を嵌め入れていく状態を順に示すもので、(a)は管の内面先端がシール部材に当接した状態の縦断面図、(b)は(a)のDD横断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)、(e)、(f)は管の内面先端がシール部材の環状突起付近まで到達した状態の縦断面図、そのEE断面図、要部拡大図である。
【0037】
図2(g)、(h)、(i)は管の内面先端がシール部材の環状突起を完全に通過した状態の縦断面図、そのFF断面図、要部拡大図、(j)、(k)、(l)は管の嵌め入れが完了した後、管に流体が供給され管の内面に流体圧が作用している状態の縦断面図、そのGG断面図、要部拡大図である。なお、これより既に説明した部分と同じ部分については同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0038】
図2で説明する管継手30は、図1のシール部材23と、このシール部材23をその環状溝22dに嵌め込んだ内筒22と、この内筒22の外側に嵌め入れられて接続される管Pの外側を覆う筒状部材11とを備えている。
【0039】
この図2では、以下、内筒22の環状溝22dに嵌め込まれたシール部材23が、管P(架橋ポリエチレンやポリブデン等の合成樹脂製であって、管Pの管継手30への嵌め入れの際には、自身は変形しないが、管としての可撓性は有する。)の嵌め入れによって、どのように変形するかを説明し、シール部材23と環状溝22dとの係合については、図3を用いて説明する。
【0040】
図2(a)〜(c)は、管Pを管継手30の内筒22の外側に嵌め入れて、管Pの内面先端がシール部材23の案内突起23bに当接した状態である。
【0041】
この状態では、シール部材23はまだ管Pの内面に案内突起23bの頂部部分で当接しただけで、管Pから押圧されることもなく、変形は生じていない。この状態で、本発明のシール部材23においては、複数の案内突起23b間には、図2(c)で解るように、管Pの内面により押圧された環状突起23a及び案内突起23bの変形を許容す変形許容空間WAが管Pとシール部材23との間に存在している。
【0042】
図2(d)〜(f)は、管Pの内面先端がシール部材23の環状突起23a付近まで到達した状態である。
【0043】
この状態では、案内突起23bは、自然状態で、そのみかけ外径DD(図1参照)が、管Pの内面に対してシール性を保つ程度に大きい外径である環状突起23aへ向けてなだらかに拡径しているものであるので、管Pの嵌め入れに従って、管Pの内面から拘束力を受け、縮径していく。
【0044】
この際、このシール部材23では、複数の案内突起23b間に変形許容空間WAがあるので、柔軟性のある案内突起23bは外側から押圧された分だけ、容易に、この変形許容空間WAをより小さくする方向へ変形する。したがって、管Pの嵌め入れによって生じる導入抵抗を、このような変形許容空間WAの無い場合に比べて、小さくすることができる。
【0045】
また、特許文献1のものでは、導入抵抗のない平坦部33bによって、斜めの管端切断面に対応していたが、このシール部材23では、特許文献1における突出部33aの嵌め込み側傾斜部分に相当する案内突起23b部分は、導入抵抗を小さくすることができるので、この案内突起23b部分が、特許文献1の平坦部33bの役割も果たすようにすることができる。
【0046】
つまり、本発明のシール部材23では、導入抵抗の小さい案内突起23bの存在によって、殊更に平坦部を設けることなく、斜めの管端切断面に対応可能であり、その分、シール部材23の軸方向長さを長くしないで済むこととなる。
【0047】
また、案内突起23bのみかけ外径DDは環状突起23aへ向けてなだらかに拡径しているので、管Pを嵌め入れる際の案内突起23bの変形による抵抗をよりなだらかな、滑らかなものとすることができ、管Pの嵌め入れを滑らかなものとすることができる。
【0048】
図2(g)〜(i)は、管Pの内面先端がシール部材23の環状突起23aを完全に通過した状態である。
【0049】
この状態では、環状突起23aが管Pの内面全周に密接してシール性を発揮すると共に、環状突起23aは管Pの内面に押圧されて変形し、その変形分は、環状溝22dとの隙間部分と埋めると同時に、変形許容空間WAをも埋める。
【0050】
つまり、管Pの嵌め入れに際し、シール部材23のはみ出し側となる環状突起23aの変形部分が、このはみ出し側である環状溝22dの奥側面側だけでなく、非はみ出し側である案内突起23b側の変形許容空間WAにも逃げるので、それだけシール部材23の環状溝22dからのはみ出し、抜け出しを防止することとなる。
【0051】
図2(j)〜(l)は、管Pの嵌め入れが完了した後、管Pに流体が供給され管Pの内面に流体圧が作用している状態である。
【0052】
この状態では、管Pの内面に流体圧が作用して、管Pは拡径するが、継手30に収容されている部分では、管Pの外径が筒状部材11で拘束されて、それ以上には拡径しない。ここで、管Pの内面も拡径するので、内筒22の先端部分では、管Pの内面との間に隙間を生じる状態となっている。
【0053】
しかしながら、シール部材23の環状突起23a部分は、外側が筒状部材11で拘束された管Pに圧接して、十分シール性を確保する程度の状態であり、案内突起23bの部分では、流体圧の作用しない場合に比べて、いく分、シール部材23に充填されない変形許容空間WAが大きくなっている。
【0054】
この管継手30では、筒状部材11は、内筒22に対して回動可能に組み込まれており、管Pはこの筒状部材11に流体圧で強力に押圧されて、シール部材23によってシール性は確保されながら、筒状部材11と共回り可能となっている。
【0055】
この際、管Pが回転しても、管継手30の内筒22とシール部材23とは、回転しないようになっている。つまり、相対的な回転は、シール部材23と管Pの内面との間によって生じ、その場合にもシール部材23によるシール性は確保されるようになっている。
【0056】
なお、流体圧が作用しない場合にも、嵌め入れられた管Pは管継手30に対して回動可能となっている。
【0057】
こうして、このシール部材23、および、このシール部材23を用いた管継手30によれば、管Pの嵌め入れ時の抵抗を小さくでき、かつ、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能で、シール部材23のはみ出しを極力抑制することができるという効果が発揮される。
【0058】
上述した環状突起23aと案内突起23bとについての説明から解るように、このシール部材23が具現化している発明思想の中核は、シール部材の管が嵌め入れに当接する側の傾斜部を、全周的に管の内面に当接するものとせず、部分的に当接する案内突起とし、その案内突起間に管に拘束されたシール部材の変形を許可する空間を設けた点にある。
【0059】
これにより本発明のシール部材は、導入抵抗の減少、斜めの管端切断面への対応、軸方向長さの短小化、シール部材のはみ出し防止、という効果を発揮するものである。
【0060】
したがって、形成される変形許容空間の形状は、上記目的を達成するものであれば良く、図1で例示したものには限定されない。例えば、案内突起が螺旋状となって、変形許容空間も螺旋状となるようなものであってもよい。
【0061】
また、案内突起は必ずしも、そのみかけ外径がなだらかに拡径するものでなくともよい。例えば、徐々に管内面への当接面積が大きく成るようなものとして、みかけ外径の変化を代替するようなものや、管の内面への最初に当接する部分だけ、傾斜を設け、その後は、案内突起の管内面への当接面積で代替するようなものであってもよい。
【0062】
また、特許文献1のように、斜め切断管端部に対応するためだけの平坦部が不要なので、その長さの分だけ、案内突起のみかけ外径の拡径の程度、つまり、シール部材が管の内面に拘束されて環状突起に至るまでの傾斜の程度を緩くして、管の導入抵抗を下げることも可能である。
【0063】
図3(a)は、図2で説明した管継手の要部拡大縦断面図、(b)は図1のシール部材を備えた管継手の他例を示す要部拡大縦断面図、(c)は本発明のシール部材の他例を備えた管継手の一例を示す要部拡大縦断面図である。
【0064】
環状溝22dは、シール部材23の小径穴部23cが嵌まり込む小径溝部22aと、大径穴部23dが嵌まり込む大径溝部22bと、この小径溝部22aから大径溝部22bへの段部である移動規制段部22cとを備えている。
【0065】
ここで重要なのは、シール部材23の軸方向の長さL1に対して、環状溝22dの軸方向の長さL2が、環状突起23aまで管が嵌め入れられた際にシール部材23が縮径して軸方向に伸長するのを許容すべく、より長くなっており、シール部材23が図3(a)に示すような管Pが嵌め入れられていない場合には、シール部材23の環状突起23a側と環状溝22dとの間には一定の隙間が生じている点である。
【0066】
このようなシール部材23の軸方向の長さL1と環状溝22dの軸方向の長さL2との関係から生じる作用効果については、図2で既に説明した。
【0067】
また、図1で説明したが、シール部材23の案内突起23bの管P挿入時に最初に管Pの内面に当接する部分のみかけ外径DDが、シール部材23が内筒22に装着された状態で、内筒22の外径D5とほぼ同一となっているので、この案内突起23bが、内筒22の外径Dと同一内径の状態の管Pの内面にスムーズに当接し、管Pの嵌め入れをスムーズにすることができる。
【0068】
なお、上記の説明から解るように、この部分のみかけ外径DDは、内筒22の外径D5より小さくしてもよく、その場合にも同様の効果を発揮する。
【0069】
もう一つ重要なのは、環状溝22dの小径溝部22aの直径D3と、ここに嵌まり込むシール部材23の小径穴部23cの自然状態の直径D1(図1(c)参照)との関係、及び、大径溝部22bの直径D4と、ここに嵌まり込む大径穴部23dの自然状態の直径D2(図1(c)参照)との関係である。
【0070】
具体的には、小径溝部22aの直径D3と小径穴部23cの直径D1との間には、小径穴部23cが小径溝部22aに嵌まり込んだ際には、弾性のあるシール部材23の小径穴部23cが10%以上で30%以下、より好適には、ほぼ17.7%拡径するような関係にある。
【0071】
小径穴部23cの拡径率が、10%より小さくなると、ずれ止め効果が発揮されず、30%より大きくなると、シール部材23の伸び率の許容範囲を超えて、断裂などの破損が生じる可能性がある。
【0072】
一方、大径溝部22bの直径D4と大径穴部23dの直径D2との間には、大径穴部23dが大径溝部22bに嵌まり込んだ際には、弾性のあるシール部材23の大径穴部23dが0%以上で10%以下、より好適には、ほぼ7.2%拡径するような関係にある。
【0073】
大径穴部23dの拡径率が0%より小さく(マイナス)となると、隙間が生じるので適切でなく、10%より大きくなると、管Pを嵌めない状態での環状突起23a部分の引っ張り応力状態が過度となり、材料の劣化が大きくなる。
【0074】
つまり、シール部材23を環状溝22dに嵌め込んだ際には、小径穴部23cはより大きく拡径し、小径溝部22aからより大きな力で押圧され、拘束された状態となる。一方、大径穴部23dはより小さく拡径し、その外側にある環状突起23a部分は、より弾性歪みの小さい状態となっている。
【0075】
このような関係から、シール部材23を環状溝22dに嵌め込んだ構成の、この管継手30によれば、小径穴部23c側でシール部材23を十分強固に環状溝22dの小径溝部22aで拘束させて、管の嵌め入れ方向(案内突起23bから環状突起23aへの方向。図3(a)における右から左への方向。)にシール部材23が移動するのを規制する。
【0076】
この移動規制には、環状溝22dの小径溝部22aから大径溝部22bへの移動規制段部22cも参加して、より強固にシール部材23が管の嵌め入れ方向に移動するのを規制している。
【0077】
つまり、この管継手30によれば、図2で説明した環状突起23a及び変形許容空間WAを生じる案内突起23bと相俟って、移動規制段部22cにより、シール部材23が管の嵌め入れ方向に移動するのを規制し、これにより、管嵌め入れ時のシール部材23の環状溝22gからのはみ出しをより効果的に防止することができる。
【0078】
一方、環状突起23a部分は、より弾性歪みの小さい状態となっているので、嵌め入れられる管の内周に当接して押圧された際、より余裕をもって柔軟に変形して、よりよくシール性を確保することができる。
【0079】
このような小径穴部と大径穴部の拡径率の関係は、最も望ましくは、上述したように、小径(案内突起)側で17.7%で、大径(環状突起)側で7.2%であるが、シール部材23の素材の性質とも関係して、それぞれ上述した範囲内では、好適な結果を生むものである。
【0080】
図3(b)の管継手30Aは、図3(a)の管継手30に比べて、環状溝22gにおいて、小径溝部22aから大径溝部22fへの段部分がよりシール部材23側への丸みを有した突起となった移動規制凸部22eとなっている点が異なっている。大径溝部22fの直径は、図3(a)の大径溝部22bと同じである。
【0081】
この移動規制凸部22eの丸みは、以下の移動規制効果を保持しながら、シール部材23の損傷を極力すくなくする作用をする。
【0082】
このような環状溝22gを備えた管継手30Aによれば、移動規制凸部22eがよりシール部材23側へ入り込んで、このシール部材23が管の嵌め入れ方向に移動しようとするのを、より強固に阻止することができ、管嵌め入れ時のシール部材23の環状溝22gからのはみ出しを更により効果的に防止することができる。
【0083】
また、上記で説明したシール部材の拡径率は、環状溝の小径溝部の直径と、シール部材の小径穴部の自然状態の直径との相対的関係、及び、大径溝部の直径と、大径穴部の自然状態の直径との相対的関係で定まるものある。
【0084】
したがって、この相対的関係を適宜選択すれば、環状溝側の小径溝部と大径溝部との外径をほとんど変えずに、同様の拡径率の関係を達成することも可能であり、その場合には、移動規制段部がなくなるので、この管継手30Aにおけるような移動規制凸部が特に有効となる。
【0085】
なお、上述の移動規制段部あるいは移動規制凸部が、特許請求の範囲に記載された移動規制部に相当する。
【0086】
図3(c)の管継手30Bは、図3(a)の管継手30に比べて、環状溝22d′の奥外径側に面取部22hが設けられ、一方、シール部材23Aの環状突起22aの面取部22h側にも対応して傾斜部23fとこれに続いた直立部23gとが設けられている点が異なっている。
【0087】
環状溝22d′の面取部22hと、シール部材23Aの直立部23gとの関係は、面取部22hの面取り深さHが、この直立部23gの上部位置に一致するような関係となっている。
【0088】
これにより、管が嵌め入れられて、シール部材23Aが押圧縮径して、直立部23gが環状溝22d′の対面する直立壁面に当接した際、シール部材23Aの環状突起22a部分がより効果的に滑らかに変形してシール性を向上させる。
【0089】
一方、環状溝22d′よりはみ出そうとする部分は、面取部22hと傾斜部23fで形成される空間を充填して、それ以外の部分にはみ出すことが少なくなる。
【0090】
つまり、このような構成の管継手30Bによれば、管が嵌め入れられた際のシール部材23のはみ出しを更により効果的に防止することができる。
【実施例2】
【0091】
図4は、図1のシール部材を2つ備えた管継手の一例を示す分解斜視図である。
【0092】
図1〜3で説明した管継手30〜30Bは、本発明の中核であるシール部材23、23Aの作用効果に重点を置いたもので、他の管継手の要素を捨象したものであったが、これより説明する管継手30Cは、管継手として必要な要素を全て組み込んだ、実際の製品として機能するものである。
【0093】
この管継手30Cは、図1のシール部材23を二個用いたもので、そのため既に説明した内筒22と同様の構成でありながら、二つのシール部材23のための、軸方向に前後した設けられた環状溝22dを備えた内筒22Cと、この内筒22Cに対応した筒状部材11Aとを備えている。
【0094】
管継手30Cは、加えて、内筒22Cをその一端内径側に組み付け、その他端によって管継手30Cを所望の機器(例えば、分水器)に連結可能とする継手本体21、接続した管Pの抜け出しを防止するための複数の抜け止め爪24aを備えた二つの抜止リング24、及び、接続した管Pの最終突き当たり部分で、管Pの先端部分をガイドするガイド部材25を備えている。
【0095】
管継手30Cは、また、ガイド部材25の奥側にあって、継手本体21と内筒22Cとの間の流体シールをおこなうシールリング(Oリング)26、及び、二つの抜止リング24間の軸方向距離を保ためのスペーサ27を備えている。
【0096】
管継手30Cは、継手本体21の内筒22Cの接続側で、接続した管Pの外側に設置される部品として、既述の筒状部材11Aと、この筒状部材11Aを継手本体21に接続し、かつ、管接続確認窓13を備えた係合部12とを備えている。
【0097】
係合部12と継手本体21との係合は、軸方向の移動は相互に規制するが、相互の回転は許容するような係合となっている。なお、筒状部材11Aと係合部12とを合わせて、外筒10と称する。
【0098】
内筒22Cは、奥側の環状溝22dに隣接して、順に抜止リング24、スペーサ27、抜止リング24、ガイド部材25を外嵌した後、継手本体21と接続一体化するための接続軸筒部22iと、この接続軸筒部22iの先端部に設けられ、継手本体21の雌ネジ部21aにネジ係合する雄ネジ部22jとを備えている。
【0099】
図5は、図4の管継手に接続すべき管を嵌め入れていく状態を順に示すもので、(a)は管の内面先端がシール部材に当接した状態の縦断面図、(b)は管の内面先端がシール部材の環状突起にほぼ到達した状態の縦断面図、(c)は管の嵌め入れが完了した状態の縦断面図、(h)は管の嵌め入れ完了後管に流体が供給され管の内面に流体圧が作用している状態の縦断面図である。
【0100】
まず、図5(a)に示すように、図4で説明した管継手30Cの各部品を組み付けておく。この際、組み付けられた状態で、シールリング26は、内筒22Cの接続軸筒部22iの外径と、継手本体21の内径との間に介在して、また、継手本体21とガイド部材25との間で軸方向に挟まれて、継手本体21と内筒22Cとの間の流体シール状態を維持している。
【0101】
ここで、図5(a)、(b)と管Pを嵌め入れていくと、すでに、図2、3で説明したように、シール部材23は、その環状突起2aと複数の案内突起2bにより、管Pの嵌め入れ時の抵抗を小さくでき、かつ、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能で、シール部材23のはみ出しを極力抑制することができるという効果を発揮する。
【0102】
さて、図5(c)を見ると解るように、この管継手30Cでは、流体のシール性をより向上させるために、シール部材23を軸方向に二か所隣接させて設置しているので、そのシール性をより良く発揮する。
【0103】
また、同様に軸方向に二か所に渡って設置された抜止リング24によって、一端嵌め入れられた管Pの抜け出しをより良く防止している。
【0104】
また、図5(c)から解るように、係合部12には、外周に向けてより拡開した管接続確認窓13があるので、ここを視認することで、管Pが所定位置まできちんと挿入されているかどうかを確認することができる。
【0105】
加えて、この管接続確認窓13は人の指先などを嵌め入れて、触覚により管Pがこの管接続確認窓13まできちんと挿入されているかどうかを確認することができる。つまり、夜間や、照明のない場合や、管継手30Cの設置場所の都合で、管接続確認窓13が視覚で確認できないが、指先は嵌め入れることができる場合にも、確実に管Pの正規の挿入を確認することができる。
【0106】
図5(d)から解るように、管Pに流体が流れ、流体圧が作用した場合、一番目のシール部材23の環状突起23aはその流体圧が及ぶ場合があるが、それを越して、流体圧が達することがないので、その奥側のシール部材23で、流体シールをより良好に発揮、維持することができる。
【0107】
また、シール部材23で遮られて、抜止リング24の部分に流体圧が作用せず、管Pの内径が膨らむことがないので、抜け止め効果をより良好に発揮、維持することができる。
【0108】
また、筒状部材11Aは、係合部12が継手本体21に対して回転可能となっているので、継手本体21に対して回転可能であり、接続された管Pは、接続状態で、この筒状部材11A、つまり、外筒10と共回可能となっている。
【0109】
したがって、たとえ、管Pの接続が、管Pに不要な捻じれを与えるような接続であっても、接続後にシール性を維持しながら、その捻じれをなくすようにすることができる。
【0110】
なお、本発明のサヤ管接続具及びサヤ管用接続装置は、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施例の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のシール部材及び管継手は、架橋ポリエチレンやポリブデン等の合成樹脂からなる管の内径シールタイプ用であって、管の嵌め入れ時の抵抗を小さくでき、かつ、軸方向長さを長くすることなく斜めの管端切断面の管に対応可能で、シール部材のはみ出しを極力抑制することが要請される産業上の分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明のシール部材の一例を示すもので、(a)はその側面図、(b)はその正面図、(c)は(b)のAA縦断面図、(d)は(c)のBB横断面図、(e)は(c)のCC断面図、(f)はその外観斜視図
【図2】図1のシール部材を備えた管継手の一例に接続すべき管を嵌め入れていく状態を順に示すもので、(a)は管の内面先端がシール部材に当接した状態の縦断面図、(b)は(a)のDD横断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)、(e)、(f)は管の内面先端がシール部材の環状突起付近まで到達した状態の縦断面図、そのEE断面図、要部拡大図、(g)、(h)、(i)は管の内面先端がシール部材の環状突起を完全に通過した状態の縦断面図、そのFF断面図、要部拡大図、(j)、(k)、(l)は管の嵌め入れが完了した後、管に流体が供給され管の内面に流体圧が作用している状態の縦断面図、そのGG断面図、要部拡大図
【図3】(a)は、図2で説明した管継手の要部拡大縦断面図、(b)は図1のシール部材を備えた管継手の他例を示す要部拡大縦断面図、(c)は本発明のシール部材の他例を備えた管継手の一例を示す要部拡大縦断面図
【図4】図1のシール部材を2つ備えた管継手の一例を示す分解斜視図
【図5】図4の管継手に接続すべき管を嵌め入れていく状態を順に示すもので、(a)は管の内面先端がシール部材に当接した状態の縦断面図、(b)は管の内面先端がシール部材の環状突起にほぼ到達した状態の縦断面図、(c)は管の嵌め入れが完了した状態の縦断面図、(h)は管の嵌め入れ完了後管に流体が供給され管の内面に流体圧が作用している状態の縦断面図
【図6】本発明の背景技術となる管継手の一例を示す要部縦断面図
【符号の説明】
【0113】
22〜22C 内筒
22d、22g 環状溝
22c 移動規制段部
22e 移動規制凸部
23〜23A シール部材
23a 環状突起
23b 案内突起
30〜30C 管継手
DD (案内突起の)みかけ外径
WA 変形許容空間
L1 シール部材の軸方向長さ
L2 環状溝の軸方向長さ
P 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続すべき管の内径側に嵌め込まれる内筒によって前記管を接続する管継手において、前記管と前記内筒との間に用いられるシール部材であって、
前記管の内面全周に密接する環状突起と、前記管を前記管の内周に部分的に当接しながら前記環状突起に向かって案内する複数の案内突起とを備え、
前記複数の案内突起の間には、管の内面により押圧された環状突起及び案内突起の変形を許容する空間が形成されてなることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
案内突起の、管に最初に当接する側のみかけ外径(円周上に分配された案内突起の頂部が形成する外径)が、シール部材が内筒に装着された状態で前記内筒の外径とほぼ同一かより小さく、前記みかけ外径が、環状突起に向けて、拡径していることを特徴とする請求項1記載のシール部材。
【請求項3】
内筒に環状溝を備え、該環状溝に、請求項1または2記載のシール部材を備えたことを特徴とする管継手。
【請求項4】
環状溝の軸方向長さは、環状突起まで管が嵌め入れられた際にシール部材が縮径して軸方向に伸長するのを許容すべく、前記シール部材の軸方向長さより長く形成されていることを特徴とする請求項3記載の管継手。
【請求項5】
環状溝は、シール部材の管嵌め入れ方向への移動を規制する移動規制部を備えていることを特徴とする請求項3または4記載の管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−208893(P2008−208893A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45298(P2007−45298)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】