説明

シール部材

弁体1は、本体2の底壁に設けられ且つ段差を有する環状溝3に、ゴム製の弾性体が加硫接着され、環状のシール部材4が形成されたものである。シール部材4は、環状部41及び環状部42を有している。環状部41,42の各々の大部分は、それぞれ深溝部31及び浅溝部32に充填されており、環状部41の体
積が環状部42よりも大きく形成されている。また、環状部41,42間の境界部位には、下方に突設した環状凸部43が設けられており、また、所定の内角Qで傾斜する傾斜部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、流体が高圧充填される圧力容器、流体流路等に備わる弁に設けられるシール部材及びシール構造に関する。
【背景技術】
燃料電池自動車や天然ガス自動車には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガスが高圧(高圧縮)充填されたガスタンクが搭載される。例えば、燃料電池自動車では、政府関係省庁で検討が進められている高圧ガス保安法に基づく水素ガス供給ステーション及び高圧水素容器に関する規制の枠組みにおいて、35MPa、70MPaといった水素ガス充填量が議論されている。このような高圧ガスが充填されるガスタンクとしては、金属製のものやプラスチック製のもの等種々あるが、自動車用途では、高強度且つ軽量化の観点から、ライナーが繊維強化プラスチック(FRP)の外被で覆われたFRP製の圧力容器が主流となっている。
このような自動車用途を含め、種々の高圧流体(液体、気体)を貯蔵・放出するための圧力容器では、一般に、流体の吸排口にシャットバルブと呼ばれるような流体の流れを止めるための弁が取り付けられる。また、流体の封止を確実ならしめるべく、通常、弁にはシール部材を有するシール構造が設けられる。このようなシール構造の例として、特許文献1には、Oリング等の弾性シール部材を用い、弁が取り付けられる口金部をシールする構造が開示されている。このようなOリングを用いたシール構造は、弁自体にも広く採用されている。また、Oリングに限らず、角リングを用いたものや、弾性体としてのゴム材を加硫成形によって弁に接着させたもの等も知られている。
【特許文献1】特開平11−13995号公報
【発明の開示】
しかし、圧力容器の内圧力が、例えば上述の如く35MPaとか70MPaというように高圧になると、弁によって遮断して閉塞すべき空間間の差圧が非常に高くなる。こうなると、上記従来のOリング等のシール部材を用いたシール構造では、差圧によってシール部材が変形し、場合によってはシール部材が嵌め込まれた溝から外れてしまうおそれがあり、十分なシール性を実現できない。また、ゴム材を弁に加硫接着させたものでも、このような差圧による変形が顕著となってしまい、同様に十分なシール性を達成できない傾向にある。
後者の場合、ゴム材の変形を抑えるべく、ゴム材が加硫接着される溝を極力浅くしてゴム材を極力薄くすることも考えられる。しかし、加硫成形を行うためには、ある一定値以上の溝深さを確保する必要がある。また、変形に対する耐性を向上させるべく、ゴム材の硬度を大きくすることも考えられる。しかし、硬度がある程度高いゴム材は、加硫成形による接着自体が困難な傾向にある。本発明者の知見によれば、弁によって閉塞すべき空間間の差圧が20MPa程度(あるいは、弁シール材料や構造によっては数MPa程度)を超えると、上記従来の各シール構造では、要求される十分なシール性を実現し難く容器の密閉性を担保することが困難な傾向にある。また、圧力容器に限らず、閉塞すべき空間間に大きな差圧が発生するような流体流路の遮断弁等でも同様な問題が生じ得る。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、弁によって閉塞すべき空間間の差圧が数十MPa(あるいは数MPa)を超えても、十分なシール性を達成することが可能なシール部材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明による弁シール部材は、弾性体から成り、第1の圧力を有する第1の空間とその第1の圧力よりも小さい第2の圧力を有する第2の空間との連通を遮断するように設けられた弁を構成する弁体及び弁座のうちのいずれか一方に設けられるものであって、第1の空間側に形成されており、第1の圧力が印加され、且つ第1の体積を有する第1の環状部と、第2の空間側に形成されており、第2の圧力が印加され、第1の体積よりも小さい第2の体積を有する第2の環状部とを備える。
このように構成されたシール部材においては、シール部材が弁体に設けられる場合を例にとると、弁を閉じる際に、弁体が弁座に近接してシール部材が弁座に当接すると、第1の空間と第2の空間とが隔絶される。このとき、第1の環状部には第1の圧力が印加される一方で、第2の環状部には第2の圧力が印加される。第1の圧力は第2の圧力よりも大きいので、シール部材は、その差圧に応じて第1の環状部から第2の環状部へ向かう方向へ押圧される。
このとき、第1の環状部が第2の環状部よりも体積が大きくされているので、第1の環状部から第2の環状部へ向かって弾性体の流動が生じる。これにより、第2の環状部において弾性体と弁座との接触によるシール圧が増大され得る。また、言わば第1の環状部に予め配分された余剰体積分が第2の環状部に移動することになるので、シール部材全体の歪が緩和されて大変形が防止され、シール部材が弁体から剥離する等の不都合が抑止される。このような状態は、弁体がさらに弁座側に移動して弁体全体が弁座と当接しても維持される。なお、シール部材が弁座に設けられていても同様の作用が奏される(以下同様)。
また、弁体及び弁座のうちの他方、すなわちシール部材が装着されていない方と当該シール部材とが、仮に前記第1の圧力と前記第2の圧力とが等しい状態(つまり第1の空間と第2の空間との差圧がない状態を仮定した場合)で当接したときに、第2の環状部側に空隙部が画成されるように形成されると好ましい。
こうすれば、第1の空間と第2の空間との差圧によって流動し得る弾性体の体積分が、第2の環状部側に画成された空隙内に流入し、その空隙の少なくとも一部が弾性体で埋め込まれる。つまり、弾性体の流動分が空隙内に受け入れられるので、空隙部の形状・容積に応じて弾性体の変形を制御することができる。これにより、シール部材全体の不都合な変形が一層抑制される。また、第2の環状部側における弁座とシール部材との接触性が高められ、シール圧が一層増大する。
この場合、シール部材の形状パラメータ、弾性体の材質、その変形性(縦弾性係数、横弾性係数)、第1の空間と第2の空間との差圧、等の種々の条件に応じて、弾性体の流動量(容積)を予め求めておき、実際に予定される条件での弾性体の流動量と同等の容積を有する空隙部が画成されるようにするとより好ましい。こうすれば、差圧に起因する弾性体の流動分の略全部で空隙部を満たし得るので、シール部材の内部に応力の偏りが生じることが緩和され、残留歪を軽減でき、シール部材全体の変形がより一層確実に防止される。
より具体的には、弁体及び弁座のうちの他方(シール部材が装着されていない方)に対向する面における第1の環状部と第2の環状部との境界部位に環状凸部が設けられて成ると好適である。
こうすれば、弁体と弁座とが近接したときに、環状凸部が優先的に弁座と当接し、これにより、第2の環状部、環状凸部、及び弁座によって環状の空間領域が画成される。この空間領域は上述した空隙部として機能する。
或いは、第1の環状部は、弁体及び弁座のうちの他方(シール部材が装着されていない方)に対向する面に形成された第1の環状凹部を有しており、第2の環状部は、その面に形成された第2の環状凹部を有しても好ましい。この場合、弁体と弁座とが近接したときに、第1の環状凹部と第2の環状凹部との間の部位が優先的に弁座と当接し得る。また、第2の環状凹部と弁座とで画成される空間領域が、上述した空隙部として機能すると共に、その容積を調節し易くなる。
さらに、第1の環状部と第2の環状部との境界部において、第1の環状部から該第2の環状部に向かって厚さが徐々に小さくなるように形成されたものであるとより好適である。
ここで、「厚さ」とは、環状を成すシール部材の平面方向に垂直な方向における長さ(高さ)を示す(以下同様)。このようにすれば、第1の環状部と第2の環状部との間に、第1の空間部から第2の空間部に向かって勾配を有する傾斜部位が形成されるので、第1の環状部から第2の環状部へ弾性体が流動し易くなる。よって、弾性体の流動が阻害されることに起因する内部歪の増加及びそれによる極端な変形が生じてしまうことが抑制される。
より具体的には、第1の環状部が断面略矩形を成すものであり、第2の環状部が断面略矩形を成すものであると好ましい。
また、第2の環状部の厚さDbが、第1の環状部の厚さDaの略半分とされたものであると、シール部材の変形を所望に制御し易くなる。
さらに、シール部材の有効幅Dcが、第1の環状部の厚さDaの2倍以上とされたものであると、シール部材の変形を一層制御し易くなる。
またさらに、第1の環状部は、弁体及び弁座のうちの他方と対向し且つ第1の空間側に位置する第1の周縁部が、第1の空間側に延出するように形成されたものであり、第2の環状部は、弁体及び弁座のうちの他方と対向し且つ第2の空間側に位置する第2の周縁部が、第2の空間側に延出するように形成されたものであると好適である。こうすれば、第1の周縁部及び第2の周縁部におけるシール性が向上されると共に、シール部材の第1の周縁部及び第2の周縁部におけるシール部材の変形を、第1の空間側及び第2の空間側へ逃し易くなる。
一層具体的には、第1の環状部は、第1の周縁部が断面テーパ状に形成されたものであり、第2の環状部は、第2の周縁部が断面テーパ状に形成されたものであると更に好適である。また、第1の環状部は、第1の周縁部のテーパ面が曲線状を成すものであり、第2の環状部は、第2の周縁部のテーパ面が曲線状を成すものであると更に有用である。これらの場合、シール部材が設けられる弁体及び弁座のいずれか一方の溝等の周縁部にテーパを形成しておくと好ましい。このようにすれば、シール部材をその溝等に加硫接着する際に、シール部材を構成する弾性体を流入させ易くなる。
また、更に具体的には、環状凸部が断面略台形状を成すものであると好ましい。さらに、第1の環状部が断面略台形状を成すものであり、第2の環状部が断面略台形状を成すものであるとより好ましい。
またさらに、第1の環状部と第2の環状部との間に形成された境界部は、シール部材が設けられた弁体及び弁座のうちのいずれか一方との当接面が断面略直線状に形成されたものであると好適である。これにより、第1の環状部から第2の環状部へのシール部材の変形流動が円滑に行われ、不都合な変形がより一層十分に抑制される。
この場合、特に好ましくは、境界部は、弁体及び弁座のうち他方の面(すなわち、シール部材の平面方向)を基準とする当接面の勾配の内角Qが45°±5°の範囲内の角度とされたものであると一層好適である。
加えて、シール部材は、縦弾性係数(ヤング率)及び水素透過率が互いに異なる複数の部材で構成されたものであると更に一層好ましい。こうすることにより、シール部材として要求される所望の弾性とガスバリア性とを両立させることが容易となる。
以上のことから、本発明のシール部材によれば、体積が比較的大きくされた第1の環状部と体積が比較的小さくされた第2の環状部を有することにより、より高圧が印加される第1の環状部から第2の環状部に向かって弾性体が流動し、結果として十分なシール圧(面圧)を達成できる。よって、圧力容器に設けられた弁に本発明のシール部材を設ければ、その弁によって閉塞すべき空間間の差圧が数十MPaを超えても、十分なシール性を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は、図5における要部(本発明によるシール部材4及びその周辺部分)を示す拡大図である。
図2は、弁体1に設けられたシール部材4が弁座6のベース5と当接した状態を示す模式断面図である。
図3は、シール部材を図5に示す弁体1に装着したものを弁座6のベース5に当接させ、更に0.1mmベース5へ押し付けたときの面圧の解析結果を示すグラフである。
図4は、本発明によるシール部材の一実施形態を用いた高圧タンクの一例を示す模式断面図である。
図5は、図4における要部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、同一要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
図4は、前述の如く、本発明によるシール部材の一実施形態を用いた高圧タンクの一例を示す模式断面図である。高圧タンク100は、全体形状が略円筒状のタンク本体200と、その長手方向の一端部に設けられた口金103と、その口金103に着脱可能に取り付けられたバルブアッセンブリ104とを具備するものである。タンク本体200の内部は、例えば天然ガスや水素ガス等各種のガスといった流体を高圧で貯留する貯留空間105とされている。このような高圧タンク100を燃料電池システムに適用した場合には、例えば35MPa若しくは70MPaの水素ガス、又は20MPaのCNGガス(圧縮天然ガス)が、貯留空間105内に密閉保持される。
また、タンク本体200は、ガスバリア性を有する内側のライナー210(内殻)の外側がFRPから成るシェル12(外殻)で覆われた二重構造を有するものである。ライナー210は、例えば高密度ポリエチレン等の樹脂で形成される。ただし、タンク本体200をアルミニウム合金等の金属製容器としても構わない。さらに、タンク本体200内に貯留されるガスは、口金103に取り付けられたバルブアッセンブリ104を通して外部のガスラインから貯留空間105に供給されると共に、そのバルブアッセンブリ104を通して外部のガスラインへ排出されるようになっている。
口金103とタンク200との間は、図示しない複数のシール部材によって気密に封止されている。また、口金103の開口部の外周面には雌ネジ116が形成されている。バルブアッセンブリ104は、この雌ネジ116を介して口金103の開口部に螺合接続されるようになっている。さらに、バルブアッセンブリ104には、外部のガスラインと貯留空間105とを接続する流路118が設けられている。
このバルブアッセンブリ104には、種々のバルブや継手等の配管要素が一体的に組み込まれている。バルブアッセンブリ104は、例えば、流路118上に配置された元弁となるシャットバルブ10と、シャットバルブ10と直列に流路118上に配置された図外のレギュレータ(バルブ)とを備えている。なお、シャットバルブ10とレギュレータとを逆に配置することも可能であり、シャットバルブ10をバルブアッセンブリ104に一体的に組み込まず、バルブアッセンブリ104とは別体に構成して口金103に接続するようにしてもよい。
シャットバルブ10は、駆動用のソレノイドユニット11に接続された弁体1と、その弁体1に離間して対向設置された弁座6とを有しており、弁体1が駆動されることにより弁体1と弁座6とが密接して貯留空間105と流路118とが隔離シールされるようになっている。また、弁体1の上流側には、ガス入路G1が設けられており、弁座6の下流側には、流路118に接続されたガス出路G2が設けられている。
図5は、前述の如く、図4における要部を示す拡大断面図である。なお、図5においては、貯留空間105側すなわち上流側が図示上方になるように部材配置を示した。
弁体1は、本体2の底壁に設けられ且つ段差を有する環状溝3に、ゴム製の弾性体が加硫処理によって接着され、弁座6のベース5の上面5aに対向して配置されるように環状のシール部材4(本発明によるシール部材)が形成されたものである。
ここで、図1は、図5における要部(すなわち、本発明によるシール部材4及びその周辺部分)を示す拡大図である。シール部材4は、環状部41(第1の環状部)及び環状部42(第2の環状部)を有している。環状部41の大部分は環状溝3の比較的深い部分(深溝部31)に充填されており、一方、環状部42の大部分は環状溝3の比較的浅い部分(浅溝部32)に充填されている。このような構成により、環状部41が厚肉とされ且つ環状部42が薄肉とされると共に、下記式(1);
V1>V2 …(1)、
で表される関係が満たされる。式中、V1及びV2は、それぞれ環状部41,42の体積を示す。
また、環状溝3においては、深溝部31から浅溝部32にかけて断面略直線状を成す傾斜溝部33が形成されている。これにより、環状部41から環状部42にかけて、シール部材4の平面方向を基準とする内角Qが所定の鋭角とされた断面略直線状を成す傾斜部が形成されている。換言すれば、シール部材4は、環状部41から環状部42に向かって、その厚さが徐々に小さくなるように構成されている。
さらに、シール部材4は、環状部41,42の境界部分の底壁に、図示下方へ突出するように断面略逆台形状を成す環状凸部43が設けられている。またさらに、環状部41,42には、環状凸部43に隣接する部位に、それぞれ断面略台形状を成す環状凹部M1(第1の環状凹部)及び環状凹部M2(第2の環状凹部)が形成されている。また、環状溝3の開放端の周縁には、それぞれ環状部41,42側に断面略曲線状のテーパ34,35が、シール部材4よりも外側へ広がるように形成されている。これらにより、シール部材4を加硫接着させる際に弾性体が環状溝3内へ流入し易くされている。また、これらテーパ34,35部分にも弾性体が充填され、環状部41,42にスカート44,45(それぞれ第1の周縁部及び第2の周縁部)が形成されている。
換言すれば、スカート44が、後述する空間K1側へ延出しており、スカート45が、後述する空間K2側へ延出するように設けられている。また、スカート44,45の外面は、テーパ34,35の内面形状と同曲率を有する断面略曲線状に形成されている。
このように構成されたシール部材4を備えるシャットバルブ10の弁構造における動作(シール機構)について以下に説明する。図2は、上述したように、弁体1に設けられたシール部材4が弁座6のベース5と当接した状態を示す模式断面図である。同図において、弁体1及び弁座6を備えるシャットバルブ10等の弁は、空間K1,K2を遮断するものであり、シールされるべきガス等の流体は、弁の外周部(ガス入路G1側)から中央部(ガス出路G2側)、すなわち空間K1から空間K2へ向かって流通するものとする。
ここで、空間K1,K2における圧力を、それぞれF1(第1の圧力),F2(第2の圧力)で示すと、下記式(2);
F1>F2 …(2)
で表される関係が成立している。例えば、シール部材4が採用されるシャットバルブ10等の弁が、燃料電池自動車の高圧タンク100のような水素ガスタンクの封止弁であれば、上述したように、流体としての水素ガスの容器内圧(圧力F1)は最大35MPa又は70MPaとされる。一方、開放側の圧力F2は略大気圧であるので、空間K1,K2の差圧ΔFは極めて大きくなる。
弁体1は、例えば、先述したように、駆動用のソレノイドユニット11を備える電磁弁を構成するものであり、固定された弁座6側へ移動することにより、シャットバルブ10が閉じられるようになっている。弁体1が閉じられていくと、弁体1の本体2の底面2aよりも下方に突出した環状凸部43の先端面が、弁座6のベース5面に優先的に当接する(図2参照)。
このとき、環状部41,42の各々の環状凹部M1,M2の壁面には、それぞれ圧力F1,F2が印加される。圧力F1は上記の如く圧力F2より大きいので、環状凹部M1,M2の内壁面積が極端に相違しなければ、シール部材4全体としては、環状部41から環状部42へ向かって大きな応力が発生し、弾性体が図示矢印Yへ示す方向に流動する。
さらに、環状部42側には、環状凹部M2の内壁面と弁座6のベース5の上面とによって空隙部Vが画成されており、弾性体の流動分がこの空隙部V内に流れ込むようにシール部材4が変形する。換言すれば、差圧ΔFによって変形して流動した弾性体が空隙部Vによって受け入れられる。
こうして、空隙部Vが弾性体で埋め込まれ、環状凸部43だけでなく環状部42側でもシール部材4と弁座6のベース5上面とを接触させることができる。したがって、シール部材4の不都合に大きな変形を抑止できると共に、シール部材4が環状溝3から剥離してしまうことを防止できる。その結果、差圧ΔFが、数十MPa(あるいは、数MPa)を超えるような超高圧であっても、シール部材4による十分なシール性を確実に実現できる。そして、このような状態で弁体1が更に閉じられて弁座6と接触することにより、ガス等の流体が漏洩することなく、空間K1,K2間を完全に遮断することが可能となる。
また、環状部42に環状凹部M2が形成されているので、ある程度の容量を有する空隙部Vを画成させ易く、また、その容積Vvを簡易に調節することができる。さらに、傾斜溝部33が設けられているので、先述の如く、環状部41,42間(つまり、シール部材4の平面方向の中間部)に、空間K1から空間K2へ向かって下り勾配を有する傾斜部位が存在する。よって、図示矢印Yで示す方向へ弾性体が流動し易くなるので、弾性体の流動が阻害されたときに起こり得るシール部材4内の応力の偏り、並びにそれに起因する歪の偏在及び極端な変形を抑制することができる。
弾性体の流動量は、差圧ΔF、シール部材4の形状パラメータ、弾性体の材質、弾性係数、等に依存して異なる。そこで、このような弾性体の流動量に影響を与える種々の条件に応じて、弾性体の流動量を予め求めておき、空隙部Vの容積Vvを、実際に予定される条件での弾性体の流動量と同等となるように形成すると好ましい。こうすれば、弾性体の流動分(つまり変形分)の略全部で空隙部Vが満たされるので、シール部材4全体の更なる余計な変形を抑えることができる。よって、このようにしてシール部材4の変形を所望に制御することができ、もってシール部材4によるシール性能を一層向上させることができる。
また、弾性体の流動量ひいてはシール部材4によるシール性に与える影響が大きい要因としては、シール部材4の形状パラメータと弾性体の弾性係数が挙げられ、これらをパラメータとして、空隙部Vの容積Vvを適宜調節することにより、シール部材4の変形をより制御し易くなる。さらに、シール部材4の形状パラメータのなかでは、環状部41,42のそれぞれの厚さDa,Db(弁体1の本体2の底面2aからの高さ)、シール部材4の有効幅Dc、及び傾斜溝部33によって画成される傾斜部の内角Q(勾配)の値(図1参照)が、シール部材4の変形率及び流動量の支配要因として比較的重要である。
これら相互の関係としては、例えば、下記式(3)〜(5);
Db≒Da/2 …(3)、
Dc≧Da×2 …(4)、
Q≒45° …(5)、
で表される関係を好ましく例示できる。なお、シール部材4が加硫処理されている本実施形態では、製造上、環状部41の厚さDaとしてある一定の寸法が必要な傾向にある。より具体的には、例えば、Da=1mm程度、Db=0.5mm程度、Dc=2.5mm程度を挙げることができる。また、Qの好ましい範囲としては、式(5)に示す角度(45°)±5°程度である。
ここで、本発明者は、シール部材4として、縦弾性係数(ヤング率)が4MPa及び7MPaである二種類のゴム材が弾性体としてそれぞれ用いられ、且つ上記寸法を有する形状のものを想定し、差圧ΔFが数MPaの条件でFEM解析を実施し、シール部材4の変形度合いを評価した。また、段差形状を有さず(つまり環状部41,42の区別がなく)厚さがDaで一定のもの(従来の角リングに略相当する)についても同様なFEM解析を実施した。
その結果、本発明のシール部材4、及び従来品に相当するもののいずれも、環状凸部43の先端において最大主歪が観測され、その量は若干異なる程度であった。しかし、断面における二次元的な歪量のマップより、従来品に相当するものでは、有意な歪が生じている面積が全断面積の60〜70%程度であったのに対し、本発明のシール部材4では、有意な歪が生じている面積は全断面積の20〜30%程度であることが判明した。この傾向は、ゴム材のヤング率が異なっても同様であった。これらより、シール部材4では、弾性体が適度に流動し易くなり、応力による残留歪が十分に低減されることが確認された。
また、これらのことから、シール部材4に用いる弾性体材料のヤング率に依らず、本発明によるシール部材の有効性が確認された。したがって、ヤング率及び水素透過率が互いに異なる複数の部材を混合する等して組み合わせて用いることによってシール部材4を形成してもよい。こうすれば、シール部材4として要求される所望の弾性とガスバリア性とを両立させることが平易となる。
また、図3は、上述したように、それらのシール部材(本発明のシール部材4、及び従来品に相当するもの)を図5に示す弁体1に装着したものを弁座6のベース5に当接させ、更にベース5側へ0.1mm押し付けたときの面圧の解析結果を示すグラフである。なお、解析モデルにおいて、従来品に相当するシール部材は段差を有しないので、弁体に設ける環状溝も段差を有しないものとした。同図において、横軸は、弁体1の軸心からの半径方向距離を示し、軸心からの距離が4mm弱から5.5mm程度までの部位が、シール部材の領域に該当する。さらに、曲線L1は本発明のシール部材4での結果を示し、曲線L2は従来に相当するシール部材での結果を示す。
これらの結果より、本発明のシール部材4は、従来に比してベース5に対する面圧が全体的に且つ格段に向上されることが判明した。なお、縦軸の数値を省略したが、この解析例では、曲線L1における最大値(最大面圧)は約75MPaであった。特に、従来品に相当するシール部材では、中央部(軸心からの距離が4.5mm周辺)での面圧が小さいのに対し、本発明のシール部材4では、その中央部での面圧も十分に高められることが確認された。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、弁座6に環状溝3を設けてシール部材4を装着してもよい。また、上述したDa,Db,Dc,Qの値は例示であり、好ましい範囲が必ずしもそれらの例示に制限されるものではないが、上述したようなDa,Db,Dc,Qの関係を満たすと有用である。
【産業上の利用可能性】
本発明によるシール部材は、閉塞すべき空間間の差圧が数十MPaを超えても、十分なシール性を達成することが可能であるので、流体の性状に限られず、閉塞すべき空間間に差圧が生じ得る部位に設けられる弁、例えば、種々の流体用の圧力容器に備わる弁、流体流路に設けられる遮断弁等、及び、そのような圧力容器が搭載又は設置されたり、燃料ガスの供給路が設けられる燃料電池自動車、天然ガス自動車等の機器、動機、設備等に広く利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体から成り、第1の圧力を有する第1の空間と該第1の圧力よりも小さい第2の圧力を有する第2の空間との連通を遮断するように設けられた弁を構成する弁体及び弁座のうちのいずれか一方に設けられるシール部材であって、
前記第1の空間側に形成されており、前記第1の圧力が印加され、第1の体積を有する第1の環状部と、
前記第2の空間側に形成されており、前記第2の圧力が印加され、前記第1の体積よりも小さい第2の体積を有する第2の環状部と、
を備えるシール部材。
【請求項2】
前記弁体及び前記弁座のうちの他方と当該シール部材とが、仮に前記第1の圧力と前記第2の圧力とが等しい状態で当接したときに、前記第2の環状部側に空隙部が画成されるように形成されたものである、
請求項1記載のシール部材。
【請求項3】
前記弁体及び前記弁座のうち他方に対向する面における前記第1の環状部と前記第2の環状部との境界部位に環状凸部が設けられて成る、
請求項1又は2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記第1の環状部は、前記弁体及び前記弁座のうちの他方に対向する面に形成された第1の環状凹部を有しており、
前記第2の環状部は、前記面に形成された第2の環状凹部を有する、
請求項1又は2に記載のシール部材。
【請求項5】
前記第1の環状部と前記第2の環状部との境界部において、該第1の環状部から該第2の環状部に向かって厚さが徐々に小さくなるように形成されたものである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項6】
前記第1の環状部が断面略矩形を成すものであり、
前記第2の環状部が断面略矩形を成すものである、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項7】
前記第2の環状部の厚さDbが、前記第1の環状部の厚さDaの略半分とされたものである、
請求項6記載のシール部材。
【請求項8】
前記シール部材の有効幅Dcが、前記第1の環状部の厚さDaの2倍以上とされたものである、
請求項6又は7に記載のシール部材。
【請求項9】
前記第1の環状部は、前記弁体及び前記弁座のうちの他方と対向し且つ前記第1の空間側に位置する第1の周縁部が、該第1の空間側に延出するように形成されたものであり、
前記第2の環状部は、前記弁体及び前記弁座のうちの他方と対向し且つ前記第2の空間側に位置する第2の周縁部が、該第2の空間側に延出するように形成されたものである、
請求項1〜8のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項10】
前記第1の環状部は、前記第1の周縁部が断面テーパ状に形成されたものであり、
前記第2の環状部は、前記第2の周縁部が断面テーパ状に形成されたものである、
請求項9記載のシール部材。
【請求項11】
前記第1の環状部は、前記第1の周縁部のテーパ面が曲線状を成すものであり、
前記第2の環状部は、前記第2の周縁部のテーパ面が曲線状を成すものである、
請求項10記載のシール部材。
【請求項12】
前記環状凸部は、断面略台形状を成すものである、
請求項3記載のシール部材。
【請求項13】
前記第1の環状部は、断面略台形状を成すものであり、
前記第2の環状部は、断面略台形状を成すものである、
請求項4記載のシール部材。
【請求項14】
前記境界部は、当該シール部材が設けられた弁体及び弁座のうちのいずれか一方との当接面が断面略直線状に形成されたものである、
請求項5記載のシール部材。
【請求項15】
前記境界部は、前記弁体及び前記弁座のうち他方の面を基準とする前記当接面の勾配の内角Qが45°±5°の範囲内の角度とされたものである、
請求項14記載のシール部材。
【請求項16】
当該シール部材は、縦弾性係数及び水素透過率が互いに異なる複数の部材で構成されたものである、
請求項1〜15のいずれか一項に記載のシール部材。

【国際公開番号】WO2005/083307
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515314(P2006−515314)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003678
【国際出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】