説明

ジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、その製造方法および用途

【課題】特に耐光性に優れる紙処理剤などとして有用なジアリルアミン系共重合体、このものを簡単な操作により高収率で製造する工業的に有利な方法、および上記ジアリルアミン系共重合体を含む耐光性に優れる紙処理剤を提供する。
【解決手段】ジアリルアミン類由来の構成単位とアリルスルホン酸化合物由来の構成単位と二酸化イオウ由来の構成単位とを有するジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、極性溶媒中で、ラジカル開始剤の存在下、ジアリルアミン類とアリルスルホン酸化合物と二酸化イオウを共重合させて、前記共重合体を製造する方法、並びに前記ジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体を含む紙処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、その製造方法および用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、紙処理剤、特に耐光性に優れる紙処理剤などとして有用なジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、このものを簡単な操作により高収率で製造する工業的に有利な製造方法、および上記ジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体を含む耐光性に極めて優れる紙処理剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般の水溶性高分子化合物は、その分子量、イオン性等によって、ろ水性向上剤、歩留り向上剤、サイジング剤、紙力増強剤、紙塗工剤、紙加工剤をはじめとする製紙用薬剤として製紙分野で大量に用いられている。
【0003】
このような製紙用薬剤の中で、アリルアミン類を原料として用いたものとして、例えばモノアリルアミン化合物やジアリルアミン化合物と、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸とを共重合させてなる両性高分子化合物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、近年、コンピュータ利用技術の普及により、コンピュータにより作成した資料をプリンターなどを用いてプリントアウトすることが頻繁に行われるようになってきた。その際使用されるプリンターとしてはドットインパクトプリンター、レーザープリンター、サーマルプリンター、インクジェットプリンターなどが挙げられるが、プリントアウト時の機械的騒音がほとんどなく、かつプリントアウトに伴うランニングコストの低さから、インクジェットプリンターが多く用いられている。このインクジェットプリンターを使用する際に用いられる用紙としては、通常、普通紙やコート紙が多く用いられている。
【0005】
このようなインクジェットプリンターに使用される用紙は、一般に紙処理剤によって表面処理されており、この紙処理剤の1つとして、ポリアリルアミンが用いられている。上記紙処理剤に対しては、耐光性に優れるものが要求されるが、ポリアリルアミンを用いた紙処理剤は、必ずしも耐光性が十分でないという問題があった。
【0006】
ところで、アリルアミン類を用いた重合体としては、モノアリルアミン系化合物およびジアリルアミン系化合物の中から選ばれる1種または2種以上を重合させてなる単独重合体や共重合体、あるいはモノアリルアミン系化合物やジアリルアミン系化合物と、不飽和カルボン酸やその他単量体との共重合体が知られている。しかしながら、ジアリルアミン系化合物とアリルスルホン酸化合物と二酸化イオウとの共重合体は、これまで知られていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−212597号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、紙処理剤、特に耐光性に優れる紙処理剤などとして有用なジアリルアミン系共重合体、このものを簡単な操作により高収率で製造する工業的に有利な製造方法、および上記共重合体を含む耐光性に優れる紙処理剤を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ジアリルアミン化合物由来の構成単位と、アリルスルホン酸化合物由来の構成単位と、二酸化イオウ由来の構成単位とを有するジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体が、耐光性に極めて優れる紙処理剤として有用であること、このものは、極性溶媒中でラジカル開始剤を用い、ジアリルアミン類とアリルスルホン酸化合物と二酸化イオウとを共重合させることにより、高収率で得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)(A)一般式(I−a)および一般式(I−b)
【0011】
【化6】



【0012】
(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
で表される構成単位、その付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(B)一般式(II)
【0013】
【化7】



【0014】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を示す。)
で表される構成単位と、(C)一般式(III)
【0015】
【化8】



【0016】
で表される構成単位とを有することを特徴とするジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、
【0017】
(2)(A)単位と(B)単位と(C)単位との含有割合が、モル比で(20〜0.5):1:(10〜0.1)である上記(1)項に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体、
(3)極性溶媒中において、ラジカル開始剤の存在下、(a)一般式(IV)
【0018】
【化9】



【0019】
(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
で表されるジアリルアミン類の付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(b)一般式(V)
【0020】
【化10】



【0021】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を示す。)
で表されるアリルスルホン酸化合物と、(c)二酸化イオウとを共重合させることを特徴とする上記(1)または(2)項に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体の製造方法、
【0022】
(4)極性溶媒が水、無機酸、無機酸の水溶液、無機酸の金属塩の水溶液、有機酸、有機酸の水溶液または極性有機溶媒である上記(3)項に記載の方法、
(5)上記(1)または(2)項に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体を含むことを特徴とする紙処理剤、および
(6)耐光性を有する上記(5)項に記載の紙処理剤、
を提供するものである。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体は、構成単位として、(A)一般式(I−a)および一般式(I−b)
【0024】
【化11】



【0025】
で表される単位、その付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(B)一般式(II)
【0026】
【化12】



【0027】
で表される単位と、(C)一般式(III)
【0028】
【化13】



【0029】
で表される単位とを有するものである。この共重合体はランダム、ブロックのいずれであってもよい。
【0030】
前記(A)構成単位において、一般式(I−a)、(I−b)におけるRは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。ここで、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、このようなものとしては、水酸基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基などを、さらにはシクロヘキシル基を好ましく挙げることができる。また、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基などを好ましく挙げることができる。
【0031】
前記一般式(I−a)、(I−b)で表される構成単位の付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。さらに、第四級アンモニウム塩としては、例えばN,N−ジメチルアンモニウムクロリド、N,N−ジエチルアンモニウムクロリド、N,N−ジプロピルアンモニウムクロリド、N,N−ジブチルアンモニウムクロリド、N,N−メチルベンジルアンモニウムクロリド、N,N−エチルベンジルアンモニウムクロリド、およびこれらのクロリド類に対応するブロミド類、ヨージド類、メチルサルフェート類などを挙げることができる。
前記(B)構成単位において、一般式(II)におけるRは水素原子またはメチル基、Xは水素原子、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属またはアンモニウム基を示す。
【0032】
本発明のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体における前記(A)構成単位と(B)構成単位と(C)構成単位の含有割合は、モル比で(20〜0.5):1:(10〜0.1)の範囲が好ましく、より好ましくは(10〜1):1:(5〜0.2)の範囲である。
また、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量で、通常500〜20,000、好ましくは800〜10,000の範囲である。
このジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体は、以下に示す本発明の方法により、効率よく、高収率で製造することができる。
【0033】
本発明の方法においては、極性溶媒中において、ラジカル開始剤の存在下、(a)一般式(IV)
【0034】
【化14】



【0035】
(式中、Rは前記と同じである。)
で表されるジアリルアミン類の付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(b)一般式(V)
【0036】
【化15】



【0037】
(式中、RおよびXは前記と同じである。)
で表されるアリルスルホン酸化合物と、(c)二酸化イオウとを共重合させる。
【0038】
上記極性溶媒としては、例えば水、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸など)またはその水溶液、無機酸の金属塩(塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)の水溶液、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸など)またはその水溶液、あるいは極性有機溶媒(アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなど)等を挙げることができるが、これらの混合物でもよい。また、これらの中で水系溶媒が好ましい。
【0039】
また、ラジカル開始剤としては、例えば分子中にアゾ基を有する水溶性ラジカル開始剤(以下、水溶性アゾ系開始剤と称すことがある。)や過硫酸塩系ラジカル開始剤を好ましく用いることができる。なお、本発明では、ラジカル開始剤として過硫酸塩系ラジカル開始剤が特に好ましい。
【0040】
前記の分子中にアゾ基を有する水溶性ラジカル開始剤としては、分子中にアゾ基とカチオン性窒素をもつ基とを有するラジカル重合開始剤が好ましく、このようなラジカル重合開始剤としては、従来公知の化合物の中から、任意に選択して用いることができ、中でも一般式(VI)
−N=N−R        …(VI)
[式中のRとRの少なくとも一方がアミノヒドロカルビル基、アミジニルヒドロカルビル基およびシアノアミノヒドロカルビル基の中から選ばれるカチオン化しうる窒素原子を含む基で、残りはヒドロカルビル基またはシアノヒドロカルビル基であり、RとRは、これらが一緒になって一般式(VII)
【0041】
【化16】



【0042】
(Rはアルキレン基、Yはカチオン化しうる窒素原子を含む基であり、共有結合(a)および(b)はそれぞれアゾ基の窒素原子と結合してアゾ基を含む環を形成している。)
で示される単一のアルキレン基を形成してもよい。]
で表されるアゾ化合物の無機酸塩または有機酸塩が、合成の容易さなどの点で実用に供される。
【0043】
この一般式(VI)におけるRおよびRの中で、アミノヒドロカルビル基としては、例えばアミノアルキル基、アミノアリール基、アミノアルカリール基、アミノアラルキル基などが挙げられ、アミジニルヒドロカルビル基としては、例えばアミジニルアルキル基、アミジニルアリール基、アミジニルアルカリール基、アミジニルアラルキル基などが挙げられ、シアノアミノヒドロカルビル基としては、例えばシアノアミノアルキル基、シアノアミノアリール基、シアノアミノアルカリール基、シアノアミノアラルキル基などが挙げられる。また、ヒドロカルビル基としては、例えばアルキル基、アリール基、アルカリール基、アラルキル基などが挙げられ、シアノヒドロカルビル基としては、例えばシアノアルキル基、シアノアリール基、シアノアルカリール基、シアノアラルキル基などが挙げられる。
一方、一般式(VII)のRで示されるアルキレン基としては、例えば直鎖状アルキレン基、アルキルアルキレン基、アリールアルキレン基などが挙げられる。
【0044】
上記一般式(VI)で表されるラジカル重合開始剤の例としては、2,2′−ジアミジニル−2,2′−アゾプロパン・塩酸塩[2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩]、2,2′−ジアミジニル−2,2′−アゾブタン・塩酸塩、2,2′−ジアミジニル−2,2′−アゾペンタン・塩酸塩、2,2′−ビス(N−フェニルアミジニル)−2,2′−アゾプロパン・塩酸塩、2,2′−ビス(N−フェニルアミジニル)−2,2′−アゾブタン・塩酸塩、2,2′−ビス(N,N−ジメチルアミジニル)−2,2′−アゾプロパン・塩酸塩、2,2′−ビス(N,N−ジメチルアミジニル)−2,2′−アゾブタン・塩酸塩、2,2′−ビス(N,N−ジエチルアミジニル)−2,2′−アゾプロパン・塩酸塩、2,2′−ビス(N,N−ジエチルアミジニル)−2,2′−アゾブタン・塩酸塩、2,2′−ビス(N−ジn−ブチルアミジニル)−2,2′−アゾプロパン・塩酸塩、2,2′−ビス(N−ジn−ブチルアミジニル)−2,2′−アゾブタン・塩酸塩、3,3′−ビス(N,N−ジn−ブチルアミジニル)−3,3′−アゾペンタン・塩酸塩、アゾ−ビス−N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン・塩酸塩;2,2′−アゾ−ビス(2−メチル−4−ジエチルアミノ)−ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′−アゾ−ビス(2−メチル−4−ジメチルアミノ)−ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′−アゾ−ビス(2−メチル−4−ジエチルアミノ)−ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′−アゾ−ビス(2−メチル−4−ジエチルアミノ)−ブチロニトリルまたは2,2′−アゾ−ビス(2−メチル−4−ジメチルアミノ)−ブチロニトリルを、ジメチル硫酸またはp−トルエンスルホン酸メチルなどで四級化して得た第4アンモニウム塩型アゾニトリル;3,5−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩、3−メチル−3,4−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩、3−エチル−3,5−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩、3,5−ジメチル−3,5−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩、3,6−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロヘキセン・塩酸塩、3−フェニル−3,5−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩、3,5−ジフェニル−3,5−ジアミジニル−1,2−ジアゾ−1−シクロペンテン・塩酸塩などが挙げられる。塩酸塩の場合、二塩酸塩でもよい。
【0045】
また、水溶性アゾ系開始剤として、一般式(VIII)
【0046】
【化17】



【0047】
[式中、R〜Rは、それぞれ独立に低級アルキル基、RおよびR10は、それぞれ独立に、一般式(IX)
【0048】
【化18】



【0049】
(ただし、Zは炭素数1〜12のアルキレン基)
で示されるヒドロキシアルキルアミド基またはヒドロキシアルキルエステル基を示す。]
で表される化合物も用いることができる。
【0050】
前記一般式(VIII)において、R〜Rで示される低級アルキル基としては、炭素数1〜10の飽和または不飽和のアルキル基が挙げられ、このアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、1つ以上の炭素原子がO、SまたはNによって置換されていてもよい。例えば、R〜Rは炭素数2〜9のアルコキシアルキル基などであってもよい。
【0051】
この一般式(VIII)で表される化合物の中で、R〜Rがいずれもメチル基であって、RおよびR10として、一般式(IX)におけるZがエチレン基であるものが好ましく、特に2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]が好適である。
さらに、水溶性アゾ系開始剤として、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩、2,2′−アゾビス(2−メチルブタンアミドキシム)塩酸塩なども好ましく用いることができる。
これらの水溶性アゾ系開始剤としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
一方、過硫酸塩系ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、その他のラジカル開始剤として、通常ラジカル重合に用いられる触媒、例えばベンゾイルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、アスカリドールなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸アミドなどの有機アゾ化合物、さらには各種レドックス系触媒なども用いることができる。
【0053】
本発明の方法においては、原料モノマーとして、(a)前記一般式(IV)で表されるジアリルアミン類の付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(b)前記一般式(V)で表されるアリルスルホン酸化合物と、(c)二酸化イオウが用いられる。
【0054】
ここで、(a)成分モノマーである前記一般式(IV)で表されるジアリルアミン類の付加塩としては、ジアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N−エチルジアリルアミン、N−プロピルジアリルアミン、N−ブチルジアリルアミン、N−2−ヒドロキシエチルジアリルアミン、N−2−ヒドロキシプロピルジアリルアミン、N−3−ヒドロキシプロピルジアリルアミンなどの塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩などを、前記一般式(IV)で表されるジアリルアミン類の第四級アンモニウム塩としては、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、臭化ジアリルジメチルアンモニウム、沃化ジアリルジメチルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアリルジエチルアンモニウム、臭化ジアリルジエチルアンモニウム、沃化ジアリルジエチルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルジエチルアンモニウム、塩化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、臭化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、沃化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルメチルベンジルアンモニウム、塩化ジアリルエチルベンジルアンモニウム、臭化ジアリルエチルベンジルアンモニウム、沃化ジアリルエチルベンジルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルエチルベンジルアンモニウムなどを挙げることができる。これらの(a)成分モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
また、(b)成分モノマーである前記一般式(V)で表されるアリルスルホン酸化合物としては、例えばアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸カリウム、メタリルスルホン酸カリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、メタリルスルホン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのアリルスルホン酸化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明における重合方法としては、例えば前記極性溶媒中に、所定の割合の前記(a)成分モノマーと(b)成分モノマーと(c)成分モノマーを加えると共に、前述のラジカル開始剤を、モノマー全量に対し、好ましくは0.1〜10モル%、より好ましくは0.5〜7モル%の割合で加え、0〜100℃程度、好ましくは25〜75℃の温度で重合反応を行う。反応時間は、モノマーの種類やラジカル開始剤の種類、反応温度などに左右され、一概に定めることはできないが、通常200時間以内である。なお、(c)成分モノマーの二酸化イオウは、通常ガス状で加えられる。
【0057】
重合反応は、前述の極性溶媒中において常法に従って行われるが、通常重合が進行するに伴い生成した共重合体が沈殿してくる。ただし、水系溶媒中で重合を行う場合には、モノマーの種類や濃度によって、最後まで共重合体が析出してこない場合もある。
【0058】
生成した重合体は、そのままろ別されるか、または適当な溶媒によって沈殿させ、ろ別される。しかし、水系溶媒中で重合させた場合には、そのまま実用に供せられる場合もある。
このようにして得られたジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体は、両性高分子化合物であるにもかかわらず、pH1〜13の範囲で水に溶解する性質を有し、紙処理剤や染色助剤などとして有用である。特に紙処理剤として用いる場合、極めて優れた耐光性を付与することができる。
【0059】
本発明はまた、前記ジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体を含む紙処理剤をも提供する。この紙処理剤は、従来のカチオン系重合体を含む紙処理剤に比べて、耐光性に優れており、例えばインクジェットプリンターに使用される用紙などに好適に用いられる。
【0060】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、共重合体の重合平均分子量は、下記の方法に従って測定した。
【0061】
〈共重合体の重量平均分子量の測定〉
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、日立L−6000型高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。溶離液流路ポンプは日立L−6000、検出器はショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器、カラムはアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS−220HQ(排除限界分子量3,000)とGS−620HQ(排除限界分子量200万)とをダブルに接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調整し、20μlを用いた。溶離液には、0.4mol/lの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。標準サンプルとして分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に共重合体の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0062】
実施例1 P(DAA−HCl/SAS/SO
攪拌機、温度計、還流式冷却管を装備した500mlの四つ口丸底セパラブルフラスコ中に、アリルスルホン酸ナトリウム(SAS)28.82g(0.2モル)、濃度65.76重量%のジアリルアミン塩酸塩(DAA−HCl)水溶液121.92g(0.6モル)、蒸留水80.05gを仕込み、さらに二酸化イオウガス(SO)12.81g(0.2モル)を吹込み導入し、均一透明なモノマー溶液を調製した。攪拌冷却下、フラスコ中に、濃度30重量%の過硫酸アンモニウム(APS)水溶液1.52g(モノマーに対して0.2モル%)を添加した。最初の添加より2時間後にさらにAPS 1.52g(0.2モル%)を添加した。温度を徐々に50℃まで上昇させながら、APSを分割添加して全モノマーに対して総量3.4モル%まで追加した。重合反応は96時間行った。
【0063】
得られた反応溶液を一部採取し、GPCを測定した。重合収率は94%、重量平均分子量は3300であった。得られた反応溶液の一部をイソプロパノール(IPA)中に投入することにより白色沈殿を生成させ、さらにIPAで洗浄後、ろ別して50℃で48時間の真空加熱乾燥を行った。元素分析の結果、C=38.84%、H=7.77%、N=6.53%、S=11.21%であった。これらより、DAA−HCl:SAS:SOの共重合比は、2.3:0.7:1.0であった。
【0064】
この共重合体の赤外分光スペクトルを図1に示す。赤外分光スペクトルには、1030cm−1にスルホン酸のS=O結合の伸縮に由来する吸収ピーク、1305cm−1、1125cm−1にスルホンのS=O結合の逆対称と対称伸縮に由来する吸収ピークがそれぞれ認められた。これらにより、ジアリルアミン単位以外に、アリルスルホン酸由来の単位と二酸化イオウ由来の単位が共重合体中に導入されたことが示された。
また、この共重合体のGPC測定によるクロマトグラムを図2に示す。なお、図2において保持時間18.3分のピークはシステムピークであり、重合体に関与していないピークである。
【0065】
実施例2〜9
実施例1において、DAA−HClの代わりに表1に示すジアリルアミン類を用い、かつ表1に示す反応条件と仕込み比で、実施例1と同様に重合を行い共重合体を得た。
この重合の重合収率および重量平均分子量を、重合時間と共に表1に示す。なお、モノマー濃度はすべて50重量%で行なった。
【0066】
【表1】



【0067】
[注]
MDAA−HCl:N―メチルジアリルアミン塩酸塩
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド
【0068】
比較例1 P(DAA−HCl/SAS)
攪拌機、温度計、還流式冷却管を装備した3000mlの四つ口丸底セパラブルフラスコ中にアリルスルホン酸ナトリウム388.0g(2.5モル)、濃度65.76重量%のジアリルアミン塩酸塩水溶液508.0g(2.5モル)、蒸留水493.8gを仕込み、均一透明のモノマー溶液を調製した。フラスコ内温を50℃、攪拌下、2,2’―アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(ABAP)27.1g(モノマーに対して2.0モル%)を添加し、さらに重合を開始してから24時間経過した後にもABAP 40.68g(3.0モル%)を添加した。重合反応は50℃で合計72時間行った。
【0069】
実施例10 インクジェット記録用紙の作製
シリカ[(株)トクヤマ製「ファインシールX−37B」]22.5重量部、ポバール[(株)クラレ製「PVA−117」]6.75重量部、試験対象ポリマー4.5重量部を混合し、シリカ濃度が15重量%になるように調整して紙処理剤を作製した。次いで、普通紙(コピー用紙)に、上記紙処理剤を、三矢化成(株)製「R.D.S.ラボラトリー・コーティング・ロッド」を用いて、乾燥厚さが10μmになるように均一に塗布し、加熱乾燥することにより、試験用紙を作製した。
【0070】
試験例1 耐光性試験
実施例10で作製した試験用紙に、市販のインクジェットプリンター「CANON BJ−F610」を用いて印刷した。これに、スガ試験機(株)製「キセノンフェードメーターX−25F」を用い、放射照度60W/m、BPT(ブラックパネル温度)63℃、湿度50%RH、照射時間24時間の条件で照射を行い、目視および色彩式色差計「ミノルタCR−321」を用い、耐光性を下記の判定基準で評価した、結果を表2に示す。
A:ほとんど退色なし
B:幾分退色あり
C:退色あり
【0071】
試験例2 耐水性試験
蒸留水に試験対象ポリマーを溶解し、そのポリマー溶液中に普通紙を浸漬させた後に、乾燥させることによって試験用紙を作製した。
次に、この試験用紙に、前記プリンターを用いて印刷し、自然乾燥後に一滴の蒸留水を垂らした。自然乾燥の後にその滲みの状態を目視で評価した。耐水性を下記の判定基準で評価した。結果を表2に示す。
A:ほとんど滲みなし
B:幾分滲みあり
C:滲みあり
【0072】
【表2】



【0073】
[注]
1)ブランク:紙処理剤に試験対象ポリマーを添加しないもの。
2)PAA:ポリアリルアミン、日東紡績(株)製、Mw1200
表2から、本発明のジアリルアミン―アリルスルホン酸ナトリウム―二酸化イオウ系共重合体は、紙処理に用いた場合、優れた耐光性を付与すると共に、ブランクに比較して耐水性の向上が見られる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、紙処理剤、特に耐光性に優れると共に、良好な耐水性を有する紙処理剤などとして有用なジアリルアミン−アリルスルホン酸ナトリウム―二酸化イオウ系共重合体を簡単な操作により収率よく、工業的に有利に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた共重合体の赤外分光スペクトル図である。
【図2】実施例1で得られた共重合体のGPC測定によるクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I−a)および一般式(I−b)
【化1】



(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
で表される構成単位、その付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(B)一般式(II)
【化2】



(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を示す。)
で表される構成単位と、(C)一般式(III)
【化3】



で表される構成単位とを有することを特徴とするジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体。
【請求項2】
(A)単位と(B)単位と(C)単位との含有割合が、モル比で(20〜0.5):1:(10〜0.1)である請求項1に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体。
【請求項3】
極性溶媒中において、ラジカル開始剤の存在下、(a)一般式(IV)
【化4】



(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
で表されるジアリルアミン類の付加塩および第四級アンモニウム塩の中から選ばれる少なくとも1種と、(b)一般式(V)
【化5】



(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を示す。)
で表されるアリルスルホン酸化合物と、(c)二酸化イオウとを共重合させることを特徴とする請求項1または2に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体の製造方法。
【請求項4】
極性溶媒が水、無機酸、無機酸の水溶液、無機酸の金属塩の水溶液、有機酸、有機酸の水溶液または極性有機溶媒である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のジアリルアミン−アリルスルホン酸−二酸化イオウ系共重合体を含むことを特徴とする紙処理剤。
【請求項6】
耐光性を有する請求項5に記載の紙処理剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−115675(P2004−115675A)
【公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−281638(P2002−281638)
【出願日】平成14年9月26日(2002.9.26)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】