説明

ジアリールエーテルの改良された触媒合成法

【課題】ジアリールエーテルの改良された触媒合成法を提供する。
【解決手段】式(I):Ar−O−Ar’ (I)〔式中、Arはアリールまたは置換アリール基であり、かつ、Ar’はアリール、置換アリール、ヘテロアリールまたは置換ヘテロアリール基である〕のジアリールエーテルを、式(II)のアリールまたは式(III)のアリールオキシ塩:Ar−OH (II) Ar−OR (III)〔式中、Arは式(I)におけるものと同じ意味を有し、そしてRはアルカリ金属である〕と式(IV):Ar’−Br (IV)〔式中、Ar’は式(I)におけるものと同じ意味を有する〕の臭化アリールまたは臭化ヘテロアリールとを反応させることによって製造する方法であって、この反応を、触媒系としての銅(I)塩および1−置換イミダゾールの存在下に実施することを特徴とする方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールエーテルの有利な触媒合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、ウルマン(Ullmann)カップリングは、ジアリールエーテルの製造のための最適な方法であった。大量の、通常化学量論を超える量の銅または銅塩、過剰のフェノール、および高温が、ハロゲン化アリールを相当するジアリールエーテルに転化するために用いられていた(非特許文献1)。
【0003】
改良法が1990年代後半にパラジウム触媒を適用して導入された(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。この手順は次の数年中にさらに最適化された(例えば非特許文献4)が、全てのパラジウム触媒反応の共通の欠点は、触媒金属の価格と、多くの場合に高価なホスフィン配位子の必要性とである。
【0004】
従来の銅介在ウルマン・カップリング反応を改良しようとする試みは、塩基、溶媒、および特に配位子の使用を変動させることよって、より低い温度にて減少した銅含量で、反応を触媒的にすることを目的としている。
【0005】
ソン(Song)および協同研究者ら(非特許文献5)は、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオンを、様々な臭化アリールとフェノール類とをカップリングさせるための好適な配位子として適用することができることを報告した。この改良法は、ウルマン・ジアリールエーテル合成の従来の手順では通常うまくいかない反応、例えば電子供与性基を有するハロゲン化アリールと、電子求引性基を有するフェノール類とのカップリング反応の場合に著しい改良をもたらした。しかし、強い電子求引性基を有するフェノール類は所望のエーテル形成を受けず、オルト−メトキシおよびオルト−アセトキシ基を有するフェノール類は反応が遅かった。
【0006】
ツァイ(Cai)ら(非特許文献6)は、ウルマン・ジアリールエーテル合成の加速のために、非常に効率的な配位子、N,N−ジメチルグリシンを記載した。この配位子を適用すると、反応を、ジオキサン中、ウルマン・ジアリールエーテル・カップリングにとって非常に低温である90℃で行わせることが可能になる。電子が豊富なハロゲン化アリールおよび電子不足のハロゲン化アリールの両方ともがこの反応に好適な基質であり、相当するジアリールエーテルが良好な収率から優れた収率で得られる。ハロゲン化アリールおよびフェノール類の両方において、立体障害は反応にわずかに不利である。しかし、より高い温度、ならびにより高い触媒および配位子使用量を適用すると、この障害が克服された。例えば、立体障害がある2−ブロモトルエンと4−メトキシフェノールとの反応では、反応温度を105℃に上げることによって良好な収率が得られた。L−プロリンもまた、この反応を加速させるための有効な添加剤であることが報告された。
【0007】
この点における別の貢献として、ハウプトマン(Hauptman)および共同研究者ら(非特許文献7)によるものがある。彼らは、2−ブロモ−4,6−ジメチルアニリンとナトリウムフェノラートとの銅触媒カップリングにおいて、広範な一、二および三配座ピリジン含有配位子を「インテリジェント/ランダム・ライブラリースクリーニング」することによって、さまざまな配位子を体系的に研究した。ジグリムすなわちジメトキシエタン中での、小さい「配位挟角(bite angle)」の二座キレート形成剤、特に2−アミノピリジンおよび8−ヒドロキシキノリンの使用が最も成功し、アレーン副生物がより少量に減少して、より良好な収率が得られることが分かった。一方、この最も有効な配位子は他の溶媒中ではうまく働かず、この反応の複雑性を示唆した。
【0008】
ホセインザデー(Hosseinzadeh)ら(非特許文献8)は、配位子として1,10−フェナントロリンおよび塩基として酸化アルミニウムに担持されたフッ化カリウムを使用するヨウ化銅(I)の存在下での、フェノール類とヨウ化アリール(X=I)とからのジアリールエーテルの合成の改良を報告した。
【0009】
銅が介在するジアリールエーテル合成におけるこれまでの最良の配位子の中に、クリスタウ(Cristau)らによって記載された多配座N−ドナーである、Chxn−Py−Al、サリチルアルドキシム(Salox)、およびジメチルグリオキシム(DMG)がある(非特許文献9)。この反応は、酸化銅(I)をプレ触媒として使用して、ウルマン・ジアリールエーテル合成に用いられる最も低い温度の1つである、80℃にて、アセトニトリル中で実施された。ヨウ化アリールは臭化アリールと比較してより高い反応性を示した。高収率(80〜100%)のジアリールエーテルはまた、反応が、DMF中、110℃にて実施されたときにも得られた。この方法は、立体障害のあるo−クレゾールと2−ヨードトルエンとのカップリングにも同様に有効であった。この方法の主な欠点は、それが電子不足のフェノール類をカップリングさせることができないことであった。
【0010】
他の著者は、高められた触媒溶解性を達成するために、配位子を加える代わりに、触媒を改質することによって、ウルマン・ジアリールエーテル合成を改良しようと試みた。新たな変形が、スニーカス(Snieckus)および共同研究者によって報告された(非特許文献11)。彼らは、塩基としてのCsCOの存在下、還流トルエンまたはキシレン中で、空気に不安定な(CuOTf)・C錯体(非特許文献10)よりもむしろCuPF(MeCN)(5モル%)を用いた。この改良法の合成適用範囲は、o−ヨード−およびo−ブロモ−ベンズアミドならびに−ベンゼンスルホンアミドと、フェノール類とのカップリングで確立された。バックウォルド(Buchwald)の系とは対照的に、オルト第二および第三ベンズアミドのカップリングプロセスが、ヨウ化物と臭化物との間にわずかな収率の差を有しながら十分に可能になった。例えば、N−エチル−2−(m−トリルオキシ)−ベンズアミドが、N−エチル−2−ヨードベンズアミドとm−クレゾールとから88%の収率で得られた。
【0011】
グジャデュール(Gujadhur)およびベンカタラマン(Venkataraman)は、ジアリールエーテルの合成のための改質触媒として空気および水分に安定なCu(PPhBr錯体の使用を報告した(非特許文献12)。この触媒はほとんどの有機溶媒に可溶であり、反応はいかなる共溶媒も必要としない。この方法を用いて、フェノール類を、N−メチルピロリジノン中、4−ブロモ−1−ニトロベンゼンおよび4−ブロモベンゾニトリルなどの電子不足の臭化アリールとカップリングさせることができる。しかし、電子が豊富な臭化アリールと電子が豊富なフェノール類とのカップリングでの良好な収率(55〜88%)にもかかわらず、電子不足のフェノール類をカップリングさせることができなかった。
【0012】
銅触媒の溶解性はまた、フェナントロリン配位子の使用によって高めることができる。(非特許文献13)には、2つの空気および水分に安定な銅−フェナントロリン錯体が、臭化アリールとフェノール類とのカップリングに用いられて、良好な収率でジアリールエーテルを形成することが記載されている(10モル%のCu(neocup)(PPh)Br、CsCO、トルエン、110℃、36時間)。しかし、ジアリールエーテルの収率は、オルト置換基を有する臭化アリールについては実質的により低かった(p−メチルフェノールとo−メチルブロモベンゼンとのカップリングについては31%の収率)。
【0013】
o−およびp−置換フェノール類と、不活性化臭化およびヨウ化アリールとのカップリングについて、シュー(Xu)ら(非特許文献14)は、反応性中間体の形成に関与することによって、その後の反応の速度を高める、ラネー(Raney)ニッケル−アルミニウム合金を使用する配位子なしのクロスカップリング法を報告した。ジオキサン、DMF、またはNMP中、110℃にて、さまざまな銅塩(例えばCuCl、CuBr、CuI)が、配位子の不存在下に使用されている。
【0014】
コンドム(Comdom)およびパラシオス(Palacios)(非特許文献15)は、超音波を用いてピリジン/KCO系でフェノール類とハロゲン化アリールとからジアリールエーテルを製造した。得られた収率は、高沸点アルコール(130〜170℃)が溶媒として用いられた文献に報告されたものに等しいかまたはそれより優れていた。
【0015】
レン(Ren)および共同研究者ら(非特許文献16)は、ハロゲン化物をベースとするイオン性液体、具体的にはハロゲン化1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(bmiX)を溶媒として使用した。銅およびパラジウム塩が触媒として試されたが、銅塩のみがジアリールエーテルの形成を促進するのに成功することが分かった。この方法はヨウ化アリールでうまくいくにすぎず、また溶媒の初期価格が非常に高いことがある。
【0016】
別の新規触媒系は、トルエン中の、20モル%のCuI、配位子としての30モル%のジメチルアミノメチルホスホン酸誘導体、およびKCOからなる(非特許文献17)。
【0017】
有機−無機ハイブリッド材料での固定化銅が、フェノール類と、ヨウ化、臭化、または塩化アリールとのウルマン反応を触媒することが記載されている(非特許文献18)。このプロトコルには、溶媒としてのDMSO、および塩基としてのフッ化カリウムの使用が含まれる。この反応により、相当するクロスカップリング生成物が良好ないし優れた収率で生じた。さらに、シリカに担持された銅は、反応溶液の簡単な濾過によって回収およびリサイクルすることができ、その反応性を損なわずに10回の連続した試行のために使用することができた。しかし、これらの溶媒および塩基はいずれも工業生産に適していない。
【0018】
銅添着活性炭は、臭化アリールとフェノール類とのクロスカップリングを触媒する(非特許文献19)。このエーテル化反応は、マイクロ波加熱によって促進される。
【0019】
別の新規な方法が、R.−S.ツォン(R.−S.Zeng)および共同研究者ら(非特許文献20)によって提供された。ここでは、カップリングは、DMF中、100℃にて、2モル%の塩化銅(II)および7.5モル%の2,2’−ビスイミダゾールを用いて行われる。このプロトコルの重大な欠点は、ヨウ化アリールに限定され、かつ、使用する塩基が高価なCsCOに限定されることである。
【非特許文献1】J.リンドレー(J.Lindley)、Tetrahedron 40(1984)、1433−1456ページ
【非特許文献2】J.F.ハートウィグ(J.F.Hartwig)、Angew.Chem.Int.Ed.37(1998)、2047−2067ページ
【非特許文献3】R.A.ワイデンヘッファー(R.A.Widenhoefer)、H.A.チョン(H.A.Zhong)、S.L.バックウォルド(S.L.Buchwald)、J.Am.Chem.Soc.119(1997)、6787−6795ページ
【非特許文献4】S.ハーカル(S.Harkal)、K.クマール(K.Kumar)、D.ミシャリック(D.Michalik)、A.ザップ(A.Zapf)、R.ジャックステル(R.Jackstell)、F.ラタボウル(F.Rataboul)、T.リールメイエル(T.Riermeier)、A.モンシース(A.Monsees)、M.ベラー(M.Beller)、Tetrahedron Lett.2005、46、3237−3240ページ
【非特許文献5】E.バック(E.Buck)、Z.J.ソン(Z.J.Song)、D.ツシャエン(D.Tschaen)、P.G.ドーマー(P.G.Dormer)、R.P.ボランチ(R.P.Volante)、P.J.レイダー(P.J.Reider)、Org.Lett.2002、4、1623−1626ページ
【非特許文献6】Q.ツァイ(Q.Cai)、B.L.ツォウ(B.L.Zou)、D.W.マー(D.W.Ma)、Angew.Chem.Int.Edit.45(2006)、1276−1279ページ
【非特許文献7】P.J.ファーガン(P.J.Fagan)、E.ハウプトマン(E.Hauptman)、R.シャピロ(R.Shapiro)、A.カサルヌオボ(A.Casalnuovo)、J.Am.Chem.Soc.122(2000)、5043−5051ページ
【非特許文献8】R.ホセインザデー(R.Hosseinzadeh)、M.タジュバクシュ(M.Tajbakhsh)、M.モハジェラニ(M.Mohadjerani)、M.アリカラミ(M.Alikarami)、Synlett 2005、1101−1104ページ
【非特許文献9】H.−J.クリスタウ(H.−J.Cristau)、P.P.セリアー(P.P.Cellier)、S.ハマダ(S.Hamada)、J.−F.スピンドラー(J.−F.Spindler)、M.タイルレファー(M.Taillefer)、Org.Lett.2004、6、913−916ページ
【非特許文献10】J.F.マルクー(J.F.Marcoux)、S.ドイエ(S.Doye)、S.L.バックウォルド(S.L.Buchwald)、J.Am.Chem.Soc.119(1997)、10539−10540ページ
【非特許文献11】A.V.カリーニン(A.V.Kalinin)、J.F.バウアー(J.F.Bower)、P.リーベル(P.Riebel)、V.スニーカス(V.Snieckus)、J.Org.Chem.64(1999)、2986−2987ページ
【非特許文献12】R.グジャデュール(R.Gujadhur)、D.ベンカタラマン(D.Venkataraman)、Synth.Commun.2001、31、2865−2879ページ
【非特許文献13】R.K.グジャデュール(R.K.Gujadhur)、C.G.ベイツ(C.G.Bates)、D.ベンカタラマン(D.Venkataraman)、Org.Lett.2001、3、4315−4317ページ
【非特許文献14】L.−W.シュー(L.−W.Xu)、C.−G.シャ(C.−G.Xia)、J.−W.リー(J.−W.Li)、X.−X.フー(X.−X.Hu)、Synlett 2003、2071−2073ページ
【非特許文献15】R.F.P.コンドム(R.F.P.Comdom)、M.L.D.パラシオス(M.L.D.Palacios)、Synth.Commun.2003、33、921−926ページ
【非特許文献16】Y.T.ルオ(Y.T.Luo)、J.X.ウー(J.X.Wu)、R.X.レン(R.X.Ren)、Synlett 2003、1734−1736ページ
【非特許文献17】Y.ジン(Y.Jin)、J.Y.リュー(J.Y.Liu)、Y.W.イン(Y.W.Yin)、H.フー(H.Fu)、Y.Y.チアン(Y.Y.Jiang)、T.F.チャオ(Y.F.Zhao)、Synlett 2006、1564−1568ページ
【非特許文献18】T.ミアオ(T.Miao)、L.ワン(L.Wang)、Tetrahedron Lett.2007、48、95−99ページ
【非特許文献19】B.H.リップシュッツ(B.H.Lipshutz)、J.B.アンガー(J.B.Unger)、B.R.タフト(B.R.Taft)、Org.Lett.2007、9、1089−1092ページ
【非特許文献20】A.ワン(A.Wang)、R.S.ツォン(R.S.Zeng)、H.Q.ウェイ(H.Q.Wei)、A.Q.ジア(A.Q.Jia)、J.P.ツォウ(J.P.Zou)、Chin.J.Chem.24(2006)1062−1065ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、ジアリールエーテルを良好な収率および選択性で製造することを可能にする方法の提供が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、適切な溶媒中、添加剤/配位子としての安価な1−置換イミダゾールおよびアルカリ化合物の存在下で銅塩を使用して、臭化アリールまたは臭化ヘテロアリールとフェノール類とからジアリールエーテルを形成させる、新規な手順を可能にする触媒系に関する。これらの条件下で、電子不足の臭化アリールおよび電子が豊富な臭化アリールのいずれもが、良好ないし優れた収率および選択性でフェノール類と反応し、本方法を工業的規模で適用できるものにする。
【0022】
式(I):
Ar−O−Ar’ (I)
(式中、Arはアリールまたは置換アリール基であり、かつ、Ar’はアリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリール基である)
のジアリールエーテルを、式(II)のアリールまたは式(III)のアリールオキシ塩:
Ar−OH (II) Ar−OR (III)
(式中、Arは式(I)におけるものと同じ意味を有し、そしてRはアルカリ金属である)
と式(IV):
Ar’−Br (IV)
(式中、Ar’は式(I)におけるものと同じ意味を有する)
の臭化アリールまたは臭化ヘテロアリールとを反応させることによって製造する新規な方法であって、
この反応を、触媒系としての銅(I)塩および1−置換イミダゾールの存在下で実施することを特徴とする方法が見いだされた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
Arは、アリールまたは置換アリール、特にフェニル、置換フェニル、クレジル、アニリン、ブロモアニリン、またはビフェニル基であり、Ar’は、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリール、特にフェニール、置換フェニル、クレジル、ピリジニル、またはナフチル基である。
【0024】
本発明による触媒系の特色のある利点は、4−ブロモアニリンなどの多官能性基質が自己カップリングの兆候を全く示さず、酸素原子での反応に向けての本触媒系の完全な選択性を示すことである。
【0025】
フェノラートのような式(III)のアリールオキシ塩の使用が好ましい。典型的には、リチウム、ナトリウム、またはカリウムのアリールオキシ塩などの式(III)のアルカリアリールオキシ塩が系内で調製される。式(III)のアリールオキシ塩を調製するために用いられるアルカリ化合物は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはナトリウムメチラートのようなアルカリ土類金属水酸化物またはアルコキシドであり、酢酸ナトリウムのような弱有機酸のアルカリ土類塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、または炭酸水素ナトリウムが非常に好適である。
【0026】
本発明者らの発明に使用される触媒の1つの化合物は、CuBr、CuF、CuCN、CuI、CuCl、またはCuOなどの銅(I)塩である。CulまたはCuClが好ましい。塩は、式(IV)の化合物の量から計算して0.01モル%〜100モル%の量で添加することができる。好ましくは、塩は1モル%〜10モル%の量で添加する。
【0027】
触媒系の第2化合物として、1−メチルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−アセチルイミダゾールのような、置換基がアルキル、フェニル、アルケニル、またはアシル基である1−置換イミダゾール、より好ましくは1−ブチルイミダゾールが使用される。触媒は、式(IV)の化合物の量から計算して、1モル%〜500モル%の量で加えるか、または反応用の溶媒として使用することができ、好ましくは、触媒は50モル%〜200モル%の量で加える。
【0028】
好ましい反応温度は、60℃〜200℃、より好ましくは100℃〜140℃である。
【0029】
一般に、反応は、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンセン、ジクロロベンゼンのような芳香族炭化水素をはじめとする、適切な溶媒中で実施する。上述したように、反応に使用する配位子、例えば1−ブチルイミダゾールは、溶媒としても使用することができよう。
【0030】
要約すれば、本発明は、添加剤/配位子としての1−置換イミダゾールの存在下に銅塩を使用することによる、臭化アリールまたは臭化ヘテロアリールとフェノール類とからジアリールエーテルを形成させるための新規触媒系の適用を記載する。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、本発明を例示するものとして提示するが、銅/1−アルキルイミダゾール触媒ジアリールエーテル合成に本発明を限定するものではない。
【0032】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【0033】
実施例1
2,6−ジイソプロピル−4−フェノキシアニリン(表1、エントリ1)の合成:
アルゴン注入口、還流冷却器、およびストッパー付きの250mLの3口バルブ中の、32.4g(0.234モル)のKCO、0.58g(5.8ミリモル)のCuCl、13.2g(0.14モル)のフェノール、および30g(0.117モル)の4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルアニリンに、4.7mL(58ミリモル)の1−メチルイミダゾールおよび100mLのo−キシレンをアルゴン雰囲気下で加えた。この混合物を、薄層クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)が残った出発原料4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルアニリンの存在を全く示さなくなるまで撹拌し且つ140℃に加熱した(約30時間)。冷却後に、水およびジエチルエーテルを加え、有機相を10%のKCO溶液、水、および食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒を蒸発させた後に、暗色油状物質の一部を、溶媒としてトルエンを使って短いシリカゲル・プラグを通して濾過し、溶媒を除去し、真空で乾燥した後に、暗色固体を得た。純度は、GCによって95%と測定される。計算による収率は99%である。
MS(m/z,(強度)):269(100),254(97),146(10),134(7),77(10)。
H(CDCl,400MHz,300K):7.27(m,2H);6.99(m,1H);6.92(m,2H);6.77(s,2H);3.62(bs,2H,NH);2.94(6重項(hept),2H,CH(CH);1.24(d,12H,CH(CH)。
13C(CDCl,100MHz,300K):159.21;148.30;136.57;134.32;129.45;121.61;116.75;115.08;28.14;22.39。
【0034】
実施例2
1−(o−トリルオキシ)ナフタレン(表1、エントリ4)の合成:
278μL(2ミリモル)の1−ブロモナフタレン、20mg(0.2ミリモル)の塩化銅(I)、550mg(4ミリモル)の炭酸カリウム、260mg(2.4ミリモル)のo−クレゾール、130μLの1−ブチルイミダゾール、2mLのトルエン、および200μLの内部標準物質(テトラデカン)を、アルゴン下、エース(Ace)圧力管に加え、120℃に16時間加熱した。冷却後に、水およびジエチルエーテルを加え、有機相を10%のKCO溶液、水、および食塩水で洗浄し、NaSO上で乾燥させた。有機相のGC分析は89%の収率を示した。溶媒の蒸発後に、暗褐色オイルをシリカゲル上のカラムクロマトグラフィー(溶離液:石油エーテル)にかけた。0.38gの無色オイルを回収した(81%単離収率)。この物質をGC/MSおよびNMR分光分析法によって同定した。
MS(m/z,(強度)):234(100),129(20),191(8),128(77),115(26)。
H(CDCl,300MHz,300K):8.32(m,1H);7.85(m,1H);7.52(m,3H);7.30(m,2H);7.13(bm,2H);6.91(m,1H);6.67(m,1H);2.29(s,3H)。
13C(CDCl,75MHz,300K):154.83;153.74;134.93;131.56;129.92;127.75;127.30;126.64;126.16;125.86;125.80;124.12;122.28;122.11;119.78;110.55;16.21。
【0035】
実施例3
2−(2,6−ジメチルフェノキシ)ピリジン(表1、エントリ15)の合成:
191μL(2ミリモル)の2−ブロモピリジン、20mg(0.2ミリモル)の塩化銅(I)、550mg(4ミリモル)の炭酸カリウム、293mg(2.4ミリモル)の2,6−ジメチルフェノール、130μLの1−ブチルイミダゾール、2mLのトルエン、および200μLの内部標準物質(テトラデカン)を、アルゴン下、エース圧力管に加え、120℃に16時間加熱した。冷却後に、水およびジエチルエーテルを加え、有機相を10%のKCO溶液、水、および食塩水で洗浄し、NaSO上で乾燥させた。有機相のGC分析は95%の収率を示した。溶媒を蒸発させた後に、暗褐色オイルをシリカゲルのカラムクロマトグラフィーにかけた(石油エーテルと酢酸エチルとの混合物を溶離液として使用した)。0.32gの淡黄色固体を回収した(80%単離収率)。この物質をGC/MSおよびNMR分光分析法によって同定した。
MS(m/z,(強度)):199(65),184(61),182(100),167(14),78(17)。
H(CDCl,300MHz,300K):8.15(m,1H);7.64(m,1H);7.03〜7.13(m,3H);6.92(m,1H);6.80(m,1H);2.12(s,6H)。
13C(CDCl,75MHz,300K):163.23;150.38;148.03;139.38;131.17;128.77;125.38;117.64;109.66;16.59。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
Ar−O−Ar’ (I)
(式中、Arはアリールまたは置換アリール基であり、そしてAr’はアリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリール基である)
のジアリールエーテルを、
式(II)のアリールまたは式(III)のアリールオキシ塩:
Ar−OH (II) Ar−OR (III)
(式中、Arは式(I)におけるものと同じ意味を有し、かつ、Rはアルカリ金属である)と式(IV):
Ar’−Br (IV)
(式中、Ar’は式(I)におけるものと同じ意味を有する)
の臭化アリールまたは臭化ヘテロアリールとを反応させることによって製造する方法であって、
前記反応を、触媒系としての銅(I)塩および1−置換イミダゾールの存在下で実施することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記銅(I)塩がCuBr、CuF、Cul、CuCl、またはCuOであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1−置換イミダゾールが、1−ブチルイミダゾールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記銅(I)塩を、式(IV)の化合物の量から計算して0.01モル%〜100モル%の量で加えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(III)の前記アリールオキシ塩が、アルカリ化合物を反応混合物に添加することによって系内で調製されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ化合物が、アルカリ土類金属水酸化物または金属アルコキシドであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応を、60〜200℃の反応温度で実施することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応を、溶媒としての1−ブチルイミダゾール中で実施することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Arが、フェニル、置換フェニル、クレジル、またはビフェニル基であり、かつ、Ar’が、フェニル、置換フェニル、アニリン、クレジル、ピリジニル、またはナフチル基であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ジアリールエーテルの触媒合成のための触媒系としての銅(I)塩/1−置換イミダゾール系の使用。

【公開番号】特開2009−132713(P2009−132713A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298711(P2008−298711)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(506207853)サルティゴ・ゲーエムベーハー (35)
【Fターム(参考)】