説明

ジエステルの改良された製造方法

以下の工程を含む少なくとも一種のジエステル化合物の製造方法:
a)少なくとも一種の以下の一般式(III)のジニトリル化合物の水の存在下での加水分解による以下の一般式(I)のイミド化合物の調整:



(ここで、Aは直鎖又は分岐の二価の炭素原子数2〜12の炭化水素基を示す。)
NC−A−CN (III)
b)以下の一般式(IV)の少なくとも一種のジエステル化合物及び随意の異なる式(e)の副生成物を含む反応生成物を得るための、前記イミド化合物と以下の一般式(II)の少なくとも一種のアルコールとの反応:
R−OH (II)
(ここで、Rは、ヘテロ原子を含んでも良い炭素原子数1〜20の直鎖又は分岐の脂肪族、脂環式、芳香族又はアリルアルキル炭化水素基を示す。)
R−OOC−A−COO−R (IV)
− 前記工程の少なくとも一つは触媒存在下で行われ、さらに、
− 前記二つの工程が触媒存在下で行われた場合は、工程b)は工程a)で用いた以外の少なくとも一種の触媒存在下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジニトリル化合物を出発してジエステルを製造する方法に関する。
より具体的には、ジニトリル化合物の加水分解を用いることにより、ジニトリル化合物を出発してジエステルを製造する方法に関する。
さらに具体的には、メチルグルタロニトリル、又は、ブタジエンのヒドロシアン化によってアジポニトリルを製造する工程における副生成物として得られる分岐ジニトリル化合物のような分岐ジニトリル化合物を出発して製造する方法に関する。
【0002】
ジエステルに基づく酸素含有溶媒は、驚くべきことに、環境に悪性のある他の炭化水素、塩素処理又は酸素含有溶媒の代用品として用いられる。
具体的には、アジピン酸、グルタル酸及びコハク酸の混合によって得られるRhodiasolv RDPE(登録商標)という名で販売されているジエステル溶媒は、毒性において非常に魅力的であり、生物分解が可能であり、再利用が容易である。分岐化合物及びより具体的にはメチルグルタロニトリル、エチルコハク酸ニトリル及びアジポニトリルの混合物から得られるジエステル化合物もまた、国際公開第2007/101929号に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/101929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献には、ジニトリル化合物を無機酸の存在下でアルコールと反応させた後、加水分解する反応が記載されている。この工程は、ピナー反応という名で知られている。しかしながら、この工程では、アンモニウム塩が副生成物として得られる。
【0005】
本発明の目的の一つは、先行技術の工程で不利であった点を示さず、特に、大量に流出せず、環境に害のある可能性のある副生成物を生成しない、ジニトリル化合物を出発してジエステルを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的に対し、本発明の主題は、以下の工程を含む少なくとも一種のジエステル化合物の製造方法である:
a)少なくとも一種の以下の一般式(III)のジニトリル化合物の水の存在下での加水分解による以下の一般式(I)の少なくとも一種のイミド化合物の調整:


(ここで、Aは直鎖又は分岐の二価の炭素原子数2〜12の炭化水素基を示す。)

NC−A−CN (III)
b)以下の一般式(IV)の少なくとも一種のジエステル化合物及び随意の異なる式(e)の副生成物を含む反応生成物を得るための、前記イミド化合物と以下の一般式(II)の少なくとも一種のアルコールとの反応:
R−OH (II)
(ここで、Rは、ヘテロ原子を含んでも良い炭素原子数1〜20の直鎖又は分岐の脂肪族、脂環式、芳香族又はアリルアルキル炭化水素基を示す。)
R−OOC−A−COO−R (IV)
− 前記工程の少なくとも一つは触媒存在下で行われ、さらに、
− 前記二つの工程が触媒存在下で行われた場合は、工程b)は工程a)で用いた以外の少なくとも一種の触媒存在下で行われる。
【0007】
本発明は、また、上記工程で得られる、又は、直接得られる生成物、ひいては複合材料に係る。本発明は、また、これらの生成物又は複合材料の使用、特に、溶媒、共溶媒、結晶化抑制剤、洗剤及び/又は脱脂剤、又は、剥離剤としての使用に係る。
【0008】
(定義)
本明細書において、「触媒」は、その天然型の触媒材料、当業者に周知の技術によって準備される基質又は支持体との混合体を意味する。
【0009】
「酸触媒」は、文字通り定義された、特に、「Jerry March, Advanced Organic Chemistry, 第3版, John Wiley and Sons, 1985, (pp.227、以下参照)」によって定義された、ルイスミーニング(the Lewis meaning)の範囲内の酸触媒、又は、本明細書で定義されたような触媒として理解される。
【0010】
「塩基性触媒」は、文字通り定義された、特に、「Jerry March, Advanced Organic Chemistry, 第3版, John Wiley and Sons, 1985, (pp.227、以下参照)」によって定義された、ルイスミーニング(the Lewis meaning)の範囲内の塩基性触媒又は、本明細書で定義されたような触媒として理解される。
【0011】
「実質的に触媒無し」は、以下の意味として理解される:
− 触媒の固定基盤が用いられていない、及び、
− 存在する場合は、支持体を除いて、総重量で反応物質に関して1%超、好ましくは0.5%超、好ましくは0.1%超、好ましくは0.01%超の固定基盤以外の触媒が用いられていない。
【0012】
本明細書において、「複合材料」は、例えば、数種の化合物を含む反応混合物等の、数種の化合物の混合物を意味する。特に、同じタイプの反応性官能基を示す、混合物としての反応物質に由来する生成物に関連し得る。材料組成は、同じ化学式(厳密式、一般式、又は、平均式)に対応する化合物を、好ましくは少なくとも50重量%含み、好ましくは少なくとも75重量%含み、好ましくは少なくとも90重量%含み、好ましくは少なくとも99重量%含む。
工程a)は、加水分解環化(cyclizing hydrolysis)工程と見なすことができる。本明細書において、工程a)は、また、「加水分解環化(cyclizing hydrolysis)」と言う。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(操作条件)
工程a)及び/又はb)は、気相で行うことができる。工程b)は、液相又は気相で行うことができる。一実施形態によれば、両工程は気相で行われる。別の実施形態によれば、工程a)は気相で行われ、工程b)は液相で行われる。これらの工程を気相で行うために、反応媒体を蒸発させた後に触媒に接触させてもよい。
工程a)は、好ましくは、固体触媒の存在下で気相で行われる。
【0014】
具体例によれば、
− 工程a)は固体酸触媒の存在下で行われ、
− 工程b)は塩基性触媒の存在下で行われる。
【0015】
別の具体例によれば、
− 工程a)は固体酸触媒の存在下で行われ、
− 工程b)は実質的に触媒無しで行われる。
【0016】
これら二つの形態により、特に高転化及び/又は高選択性を得ること、及び/又は、簡易な転化後の不都合な副生成物を制限することが可能となる。
用いられる酸又は塩基性触媒は、後述する。
【0017】
工程a)は、有利には、500℃未満の温度で行われ、好ましくは、250〜450℃で行われる。さらに、水のニトリル化合物に対するモル比は、有利には、2〜20、好ましくは4〜8である。
【0018】
工程b)は、有利には、アルコールのイミド化合物に対するモル比が1〜30、好ましくは5〜20で行われる。この工程について、過剰のアルコールを用いるのが好ましく、随意に、続けて未反応量を再利用するのが好ましい。これにより、特に選択性が増す。
【0019】
工程b)は、有利には、400℃未満、好ましくは100〜300℃、例えば150〜250℃の温度において、さらに好ましくは1〜100bar、特に10〜100bar、例えば15〜25bar又は30〜50barの圧力下で、好ましくは自己生成の圧力下において、液相で行われる。好ましい実施形態において、工程b)は、アルコールが反応物質及び溶剤として用いられる液相で行われる。
【0020】
工程b)の間、アンモニアが形成されると言われている。アンモニアは、(もし、工程b)が液相で行われるならば、反応容器のガスを含むヘッドスペースにおいて)この工程の間に、例えばガス状で反応容器から回収することにより除去することができる。特に、適切な装置、例えば、圧力を一定に保つことのできる装置によって除去してもよく、圧力がある値以上となったときにガスを逃がすことができ、適切な場合、ガスを逃がした後に液化させる装置によって除去してもよい。この装置は、導管によって反応容器から分離してもよい。アンモニアの除去は、特に、反応の促進及び副生成物の発生を抑制することを可能とする。アンモニアの除去は、共にガス状であり、同時に起こるアルコールの除去に伴う。同時に起こるアルコールの除去は、抑制するのが好ましい。例えば、この目的において、アルコールの少なくとも一部を液化し、反応容器へ戻すために、反応容器と装置とを分離する導管に沿ってガスを冷却してもよい。アンモニアとアルコールとの分離後、適切であれば、除去されたガスは、回収して再利用することができる。分離後、アルコールは工程b)の実施において再利用することができる。
【0021】
工程a)及びb)は、固定基盤状又は流動基盤状のいずれかにおいて、随意に固体触媒の使用を可能にする種々の反応容器の種類において、連続して、又は、バッチ式で行うことができる。反応は、大気圧下又はそれより高い気圧下で行ってもよく、例えば100barまでの気圧下、好ましくは30barまでの気圧下で行ってもよい。気圧は、当該工程が行われる温度において、反応溶媒の自己生成の圧力によるものであってもよい。
【0022】
濃縮後のジエステル化合物は、例えば蒸留又は液/液抽出等の通常の有機化合物の分離精製技術により、反応媒体から抽出される。
ジニトリル化合物の加水分解によって得られるイミド化合物は、通常の技術により有利に反応媒体から分離精製される。しかしながら、分離精製せずに、アルコールとの反応における直接反応物質として、加水分解工程後に得られた反応媒体を利用することも可能である。
【0023】
特に、当該方法は、工程b)の後に、以下の工程c)を含んでもよい:
工程c):ジエステル化合物の回収のための、工程b)からの反応生成物の加熱及び蒸留。
実質的に触媒無しで、又は、塩基性触媒の存在下で行われる場合、工程b)は、特に、例えば蒸留の間の加熱によって容易にイミドに戻ることのできる副生成物を生成する。当該工程の間に、酸触媒を用いれば、容易に転移されない不都合な副生成物の形成が促進される。このように、工程b)からの反応生成物は、特に当該工程が実質的に触媒無しで、又は、塩基性触媒の存在下で行われる場合、工程c)の間に有利に式(I)のイミドへ転移し、工程b)で再利用される副生成物を含むことができる。
【0024】
ジニトリル化合物は、好ましくは、メチルグルタロニトリル、エチルスクシノニトリル、アジポニトリル及びそれらの混合物を含む群から選択される。
アルコールは、好ましくは、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール及びそれらの混合物を含む群から選択される。例えばフーゼル油等のアルコールの混合物を用いることもできる。
【0025】
(酸触媒)
酸触媒は、好ましくは、固体触媒である。特に、例えば、以下から選択される、混成相で典型的に用いられる固体酸触媒であってもよい:
− アルミナ、酸化チタン、シリカ/アルミナ混合物等の金属酸化物、
− 酸性型のゼオライト
− 酸性型のクレイ、
− NaH2PO4等の過リン酸塩、又は、シリコンピロリン酸塩。
【0026】
酸触媒は、本発明の製造工程において、以下の種々の形態で提供される:その成形が随意に製品バインダーを用いて行うことが可能な、中空又は円筒状の粒状、ハニカム状又はペレット状の、粉末、ビーズ、粉砕材料又は押出材料。これらの形態は、特に、押し出し、鋳造、コンパクティング(compacting)、又は、他の周知の技術によって得られる。実際の産業レベルでは、効率及び利便性の両観点から最も有利な、粒、ビーズ又は押し出し形状である。
【0027】
「ゼオライト」は、天然又は合成の結晶性のテクトケイ酸塩を意味するものとして理解される。当該結晶は、4面体のSiO4及びTO4単位の三次元の集合体に由来する。ここで、Tは、アルミニウム、ガリウム、ボロン又は鉄等の3価元素であり、好ましくはアルミニウムである。アルミノケイ酸塩型のゼオライトが最も一般的である。ゼオライトは、結晶格子内で、細孔として知られる十分に明瞭な直径を有するチャネルによって互いに結合した空洞系を示す。それらは、チャネルの一次元、二次元又は三次元のネットワークを示す。天然又は合成のゼオライトを用いることができる。
菱沸石、クリノオプチオライト、エリオン沸石、フィリップサイト及びオフレット沸石等の天然のゼオライトを用いてもよい。
【0028】
合成ゼオライトもまた適している。一次元のネットワークのゼオライトとして、ゼオライトZSM−4、ゼオライトL、ゼオライトZSM−12、ゼオライトZSM−22、ゼオライトZSM−23、及び、ゼオライトZSM−48等を挙げることができる。二次元のネットワークのゼオライトとして、好ましくは、モルデン沸石又はフェリエ沸石を挙げることができる。三次元のネットワークのゼオライトとして、好ましくは、ゼオライトβ、ゼオライトY、ゼオライトX、ゼオライトZSM−5、ゼオライトZSM−11、又は、オフレット沸石を特に挙げることができる。
【0029】
ゼオライトの使用としては、特に、以下の形態を挙げることができる。
− Si/Al原子比率3.4のマッチー沸石
− Si/Al原子比率1.5〜3.5のゼオライトL
− Si/Al原子比率5〜150、好ましくは10〜100、さらに好ましくは10〜50のモルデン沸石
− Si/Al原子比率3〜10のフェリエ沸石
− Si/Al原子比率4〜8.5のオフレット沸石
− Si/Al原子比率10〜100、好ましくは12〜50のゼオライトβ
− ゼオライトY、特に、脱アルミニウム処理後に得られたゼオライト(例えば、水素化処理、塩酸による洗浄又はSiCl4による処理)、さらに、Si/Al原子比率3超、好ましくは6〜60のゼオライトUS−Y
− Si/Al原子比率0.7〜1.5のフォージャサイト型のゼオライトX
− Si/Al原子比率10〜500のゼオライトZSM−5又はケイ酸アルミニウム
− Si/Al原子比率5〜30のゼオライトZSM−11。
【0030】
これら全てのゼオライトの中で、本発明の製造方法に関して特にゼオライトUS−Yを挙げることができる。
ゼオライトは、酸性型で用いられる。必要であれば、処理を酸性下で行う。この目的において、従来の処理を用いることができる。明確な理解のために、以下の例で用いられるゼオライトの酸性を接頭語Hで示す。
さらに、触媒として用いられるゼオライトの外表面を失活させることもできる。この種の処理は、当業者にとって周知である。特に、この処理は、蒸気を用いた脱アルミニウム、酸処理、又は、シリル化で構成してもよい。
【0031】
用いられるゼオライトは、文献(Structure Commission of the International Zeolite Association (1992)出版の、W.M.MeierとD.H.OlsonによるAtlas of zeolites structure types参照)に記載された生成物として知られている。
【0032】
ゼオライトは触媒相を構成する。ゼオライトは、単独で又は無機マトリクスとの混合物として用いられる。触媒がマトリクスとの混合物として用いられる特別な場合において、このマトリクスは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び/又は酸化ジルコニウム等の金属酸化物、クレイ、さらにカオリン、タルク又はモンモリロナイトから選択することができる。このような触媒において、活性相内には、5〜100重量%の触媒が含まれている。
発明の一態様によれば、用いられるゼオライトは、酸性型のSi/Al原子比率3超、好ましくは10〜50のゼオライトUS−Yである。
【0033】
酸性型として用いられる好ましいクレイとしては、特に、フィロケイ酸塩であってもよく、それはその性質や物理化学特性によって分類され、カオリン、サーパンタイン、スメクタイト、モンモリロナイト、イライト、マイカ、海緑石、緑泥石、蛭石、アタパルガイト、海泡石、混合層クレイ、アロフェン、芋子石、及び、高アルミナ質のクレイ等が挙げられる。
【0034】
いくつかの種類のクレイは、拡張可能な層状構造を有している。それらは、それらが構成するシートの間において、シート間の静電結合力の低下の結果、固体の隆起を引き起こす種々の溶媒、特に水を吸収する顕著な特徴を示す。これらのクレイは、本質的に、スメクタイト族(又は、モンモリロナイト族)、及び、それらのいくつか、蛭石族に属する。
【0035】
それらの構造は、3層を有する「基本」シートで構成される。当該3層は、シリコンの一部が四面体位の他のカチオン、例えばAl3+又は随意のFe3+で置き換えることの可能なSiO4の四面体の2つの単純な層、及び、四面体位のこれら2層の間の、中心が金属カチオン、例えばAl3+、Fe3+又はMg2+に位置する酸素8面体の層である。この8面体層は、前述の四面体の頂点又は水酸基OHのいずれかに由来する酸素の集密束を構成する。これら酸素の集密六方晶系のネットワークは、6つの八面体の空洞を構成する。
【0036】
金属カチオンがこれらの空洞の4つ(例えばアルミニウムの場合は3つのうち2つの空洞)を占めるとき、当該層は、2八面体と呼ばれる;金属カチオンがこれらの空洞の全て(例えばマグネシウムの場合は3つのうち3つの空洞)を占めるとき、当該層は、3八面体と呼ばれる。
【0037】
これらのクレイの基本シートは、交換性陽イオン(Li+、Na+又はK+等のアルカリ金属カチオン、Mg2+又はCa2+等のアルカリ土類金属カチオン、及び、随意のヒドロニウムイオンH3+)の存在によって相殺される負電荷を運ぶ。スメクタイトは、シート上に、蛭石型のクレイより低い電荷密度を有する。すなわち、蛭石の単位セル当たりの電荷1〜1.4に対し、単位セル当たり約0.66である。
【0038】
相殺するカチオンは、実質的にはスメクタイトのナトリウム及びカルシウムであり、蛭石のマグネシウム及びカルシウムである。電荷密度の観点から、スメクタイト及び蛭石は、タルクと葉ろう石との中間体であり、一方、そのシートは中性である。また、一方では、マイカが、シート上に、通常K+イオンによって相殺される、高電荷密度(単位セル当たり約2)を有している。
【0039】
スメクタイト及び蛭石の層間カチオンは、平等に、且つ、容易に、例えばアンモニウムイオン、アルカリ土類金属イオン又は希土類金属イオン等の他のカチオンによるイオン交換によって置換することができる。
【0040】
クレイの膨潤性は、電荷密度及び相殺カチオンの特性等の種々の要因による。このように、蛭石よりも電荷密度の低いスメクタイトは、後者よりも著しく優れた膨潤性を示し、高利点の部類の固体を構成する。反復距離又は基底間隔は、2つの隣接シートに位置する結晶学的に同一の2つのユニットを分離する最小距離を示す。スメクタイトの基底間隔は、このように、膨張によって約1nmから2nm超に亘る。
【0041】
スメクタイト型の千枚岩のような膨張するケイ酸塩の中では、以下の一般式で示される主要な固体が挙げられる:
(M1n+)x/n(M2)2VI(M3)4IVO10(OH)2
ここで、
1は層間カチオンであり、
2は八面体位の金属であり、
3は四面体位の金属であり、
xはカチオンM1に寄与する電荷の数である。
2八面体のスメクタイト
モンモリロナイト (H,Na,Ca1/2)x(MgxAl2-x)VISi4IVO10(OH)2
バイデライト (H,Na,Ca1/2)x Al2VI(AlxSi4-x)IVO10(OH)2
ノントロライト (H,Na,Ca1/2…)x(Fe,Al)2VI(AlxSi4-x)IVO10(OH)2
3八面体のスメクタイト
ヘクトライト Nax(LixMg3-x)VI Si4IVO10(OH)2
サポナイト NaxMg3VI(AlxSi4-x)IVO10(OH)2
スティーブンサイト Na2xMg3-xVISi4IVO10(OH)2
【0042】
スメクタイトでの水又は極性有機溶媒の飽和状態までの吸収の後、層間距離(2つのシート間の距離)は最大となる。それは1nm近くにまで達することもある。
【0043】
これらの固体は、ポテンシャル表面としての触媒において、このように潜在的に有利であり、潜酸性が高い。
本発明の特定の形態によれば、酸触媒を構成するクレイはスメクタイトである。より好ましくは、クレイはモンモリロナイトである。
【0044】
あいにくクレイの中には、100℃まで加熱すると拡張性を失い、そのために拡張による表面での増加を維持できないという不利点を有しているものがある。これは、特にスメクタイトの場合に生じる。従来技術には、スメクタイトのシートの間に、加熱処理後の高層間距離を維持する架橋したスメクタイトを得るためのピラーやブリッジを導入する種々の方法の記載がある。
【0045】
金属水酸化物、特に水酸化アルミニウムのオリゴマーで構成されるブリッジを導入する方法がLahav、Shami及びShabtaiの「Clays and Clay Minerals, vol. 26 (No.2), pp. 107-115 (1978)」及び仏国特許発明第2394324号明細書に記載されている。シリコン及びボロンの混合水酸化物のオリゴマーで構成されるブリッジの構造は、米国特許第4248739号明細書に記載されている。アルミニウム、クロム、ジルコニウム、チタン等の水酸化物を用いて透析によりスメクタイトを架橋する技術は、欧州特許第0073718号明細書の特許請求の範囲に記載されている。
【0046】
これらの方法の原理は、クレイを、ヒドロキシアルミニウム型(アルミニウムの場合)の、おおよそオリゴマー形成されたイオン体を含む溶液に接触させることにある。この操作は、一般に比較的低濃度で、80℃未満の溶液中で行われ、可能であれば、金属水酸化物の沈殿の開始により形成された曇りが存在しない状態で行われる。金属イオン及びクレイの濃度は、固体ピラーの構造を十分に形成するために、また、クレイの空隙率が金属酸化物の過剰量の含有により大きく減少しないように最適化されるべきである。
【0047】
層間アルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンが、極希薄溶液を用いて直接、又は、好ましくはアンモニウム塩を用いた置換及び続けて300〜700℃での焼成のいずれかによってプロトンで置換されるとき、架橋されたスメクタイトは、例えば通常のゼオライトY又はモルデン沸石型のものより全体として低いが、高酸性を得る。
【0048】
本発明の特定の他の形態によれば、触媒は、クレイに加え、しばしばドープ剤と呼ばれる1又はそれ以上の他の金属化合物、例えば、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、鉄又は亜鉛の化合物で構成してもよい。これらのドープ剤の中で、クロム及び/又は鉄及び/又はチタンの化合物が最も有利であると見なされる。これらのドープ剤は、通常、クレイに対する重量比率で0〜10%、好ましくは0〜5%である。用語「金属化合物」は、ここでは金属元素及び金属イオンの両方、又は、金属元素を含む組み合わせを意味するものと理解される。
【0049】
酸性触媒の別の部類は、少なくとも1種の単純な、又は、シリコン、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン又は鉄からなる群から選択された少なくとも1種の元素の混合した無機酸化物の形成によって得られた微粒子の触媒を構成する。これらの酸化物は、非結晶又は結晶状で存在してもよい。特に、アナターゼ型のチタン酸化物が好ましい。特に、それは支持体を構成する。
【0050】
微粒子の触媒は、直径500Å超且つ5ml/100g以上の細孔に対応する細孔容積で特徴付けられるマクロの空隙率を示す。このマクロの空隙率は、後述の技術、又は、例えば細孔形成剤の添加等によって粒子を形成する工程の間に有利に形成される。
【0051】
触媒は、まず初めに油滴形成操作(又は、滴下凝固)による無機酸化物のビーズ状となっていてもよい。このタイプのビーズは、例えば、欧州特許出願公開第0015801号明細書又は欧州特許出願公開第0097539号明細書に開示のアルミナビーズの形成として記載された方法と類似の方法によって準備することができる。特に、空隙率は、欧州特許出願公開第0097539号明細書に記載の、水性懸濁液の滴下凝固又は無機酸化物の分散により調整することができる。ビーズもまた、グラニュレータ又は回転ドラムにおける凝集によって得ることが可能である。
【0052】
触媒もまた、無機酸化物の押出成形体であってもよい。後者は、無機酸化物に基づく材料のニーディング、及び、その後の押し出し成形によって得ることができる。これらの押出成形体の空隙率は、用いる酸化物の選択、及び、当該酸化物の製造条件、又は、押し出しの前のニーディング条件によって調整することができる。無機酸化物は、このように、ニーディングの間、細孔形成剤と混合することができる。例として、当該押出成形体は、米国特許第3856708号明細書に開示の方法によって準備することができる。
【0053】
同様に、調整空隙率を有するビーズは、細孔形成剤の添加、及び、回転ドラム又はグラニュレータにおける凝集、又は、油滴方法によって得ることができる。
【0054】
特定の実施形態によれば、触媒粒子は、10m2/g超の比表面積、及び、10ml/100g以上の細孔容積を有し、該細孔容積は、直径500Å超且つ10ml/100g以上の細孔に対応する。
【0055】
他の特定の実施形態によれば、触媒粒子は、50m2/g超の比表面積を有する。
有利には、それらは総細孔容積15ml/100g以上であり、該細孔容積は、直径200Å超且つ15ml/100g以上、好ましくは20ml/100g以上の細孔に対応する。
【0056】
これらの触媒粒子もまた、シリコン、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン又は鉄からなる群から選択される少なくとも1種の元素で構成することができ、又は、元素周期表(新表)の1〜16族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素の少なくとも1種の酸化物の支持体における、沈殿及び/又は吸収によって得ることができる。これらの元素又は化合物は、沈殿し、吸収され、又は、触媒粒子上で又は触媒粒子と共に練り上げられる。
【0057】
元素の酸素化合物を支持する多孔質粒子触媒を構成する手順において、これらの元素は、有利にシリコン、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン、リン、ボロン、鉄、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選択される。酸素化合物は、有利には、上述の元素の1種又はそれ以上の単一の又は混合された酸化物である。
【0058】
この実施形態において、多孔質触媒は、好ましくは、酸化アルミニウムである。有利には、この酸化アルミニウムは、上記定義の比表面積及び細孔分布の特性を示す。
【0059】
多孔質支持体に支持された酸素化合物の重量濃度は、有利には、触媒全体について酸素化合物の重量で示すと、1000ppm〜30%である。この濃度は、より好ましくは、0.5重量%〜15重量%である。
【0060】
多孔質支持体が本発明に係るアルミナに対応するとき、後者は、一般に、ギブサイト、バイヤライト、ノルドストランダイト又はそれらの混合物の脱水によって得られる。アルミナの種々の調整方法が、「Kirk-Othmer encyclopaedia, volume 2, pages 291-297」に記載されている。
【0061】
本発明の製造方法で用いるアルミナは、細粉状の水酸化アルミニウムを400〜1000℃の高温ガス流に接触させ、水和物とガスとの間の接触を10秒までのわずかの一定時間維持し、最後に部分的に無水アルミナ及び高温ガスを分離することによって製造してもよい。参考として、特に、米国特許第2915365号明細書に当該方法が記載されている。
【0062】
上述のようにして得られたアルミナの塊を水媒体中で、随意に酸存在下で、100℃超、好ましくは150〜250℃で、好ましくは1〜20時間の一定時間オートクレイブ処理し、その後乾燥させて焼成させることも可能である。
焼成温度は、上述の範囲内の比表面積及び細孔容積が得られるように調整される。
【0063】
特定の実施形態において、触媒は、好ましくはアナターゼ型の、随意にシリコン、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン、又は、鉄からなる群から選択され、又は、元素周期表(新表)の1〜16族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素の少なくとも1種の酸化物の支持体における、沈殿及び/又は吸収によって得ることができる、酸素化合物を支持する、酸化チタンに基づく多孔質粒子触媒を使用することができる。これらの元素又は化合物は、沈殿し、吸収され、又は、触媒粒子上で又は触媒粒子と共に練り上げられる。二酸化チタンの容量は、例えば、10〜80重量%であり、残渣は例えばシリカやアルミナであってもよい。
本発明の触媒は、有利には、50m2/g超の比表面積を有する。
また、それらは、有利には、直径0.1μm超の細孔を示し、該細孔容量は5ml/100g以上、有利には10ml/100g以上の細孔に起因する。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、これらの触媒もまた、直径0.5μm以上の細孔を示し、対応する細孔容量は5ml/100g以上、有利には10ml/100g以上である。
直径500Å超、好ましくは0.1μm超、有利には0.5μm超の細孔で形成されるこの細孔容量によって、高サイクル時間の触媒が得られる。
【0065】
本発明によれば、多孔質触媒で支持された酸素化合物を含む触媒が、一般に上述した元素の塩又は化合物の溶液によって、触媒、特にアルミナの含浸によって得られ、その後、乾燥して、随意に及び有利に、該化合物又は塩を酸素化合物、好ましくは酸化物に転移させるために、400℃以上で焼成される。酸化物は、多孔質触媒の細孔表面に堆積する。
【0066】
他の実施形態において、元素の化合物は、形成される前又は形成工程中に多孔質触媒の構成材料を添加してもよい。
該浸透触媒は、好ましくは空気のような酸化性雰囲気下で焼成される。
【0067】
特に、酸触媒として、過リン酸塩、一般には下記一般式の金属リン酸塩を用いることができる:
(PO4nhM, (Imp)p
− Mは、元素周期表の2a、3b、4b、5b、6b、7b、8、2b、3a、4a及び5a族から選択される二価、三価、四価又は五価の元素、それらの数種の混合、又は、M=0であり、
− Impは、電気的中性を得るために、対アニオンと結合した、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は、それらの金属の混合物で構成される塩基性含浸化合物であり、
− nは、1、2又は3であり、
− hは、0、1又は2であり、
− pは、0〜1/3の数字であり、浸透剤(PO4nhMに対する含浸剤Impのモル比に対応する。
【0068】
特に、元素周期表の2a、3b、4b、5b、6b、7b、8、2b、3a、4a及び5a族の金属は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、ボロン、ガリウム、インジウム、イットリウム、及び、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及び、ルテチウム等のランタニド系元素、ジルコニウム、チタン、バナジウム、ニオブ、点、ゲルマニウム、錫、又は、ビスマスであってもよい。
【0069】
ランタニド系元素のリン酸塩の中で、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム及びユウロピウムを含む、セリウムを含む希土類金属としても知られる軽希土類金属の正リン酸塩をまとめる第1族を区別することが可能である。これらの正リン酸塩は二形性である。それらは六面構造を示し、600〜800℃で加熱されるとき、単斜構造へ変化する。
【0070】
ランタニド系元素のリン酸塩の第2族は、ガドリニウム、テルビウム及びジスプロシウムの正リン酸塩をまとめる。これらの正リン酸塩は、セリウムを含む希土類金属の正リン酸塩と同一の構造を有するが、さらに高温(約1700℃)で二次構造の第三結晶相を示す。
ランタニド系元素のリン酸塩の第3族は、イットリウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムを含む、イットリウムの希土類金属としても知られる重希土類金属の正リン酸塩をまとめる。これらの化合物は、二次形態で単独で結晶化する。
上述の種々の希土類金属の正リン酸塩の族の中で、セリウムを含む希土類金属の正リン酸塩がさらに好ましい。
【0071】
上述の形態の金属リン酸塩として、上述の数種の金属のリン酸塩の混合物、上述の数種の金属の混合リン酸塩、又は、上述の1又はそれ以上の金属、及び、1又はそれ以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の他の金属を含む混合リン酸塩を用いても良い。
含浸化合物Impの形態に寄与する対アニオンは塩基性である。特に、水酸化物、リン酸塩、リン酸水素、リン酸二水素、塩化物、フッ化物、硝酸塩、安息香酸塩又はシュウ酸塩のイオンを用いても良く、さらにこれらに限られない。
モル比は、好ましくは、0.02〜0.2である。
【0072】
リン酸塩の通常の調整技術(例えば、特にPascal P. "Nouveau traite de chimie minerale" [New Treatise on Inorganic Chemistry], volume X (1956), pages 821-823, and in Gmelins "Handbuch der anorganischen Chemie" [Handbook of Inorganic Chemistry] (8th edition), volume 16 (C), pages 202-206 (1965)に記載)の参照のために、2つの主要なリン酸塩へ到達する方法を区別することが可能である。一方は、リン酸水素アンモニウム又はリン酸による水溶性の金属塩(塩化物、硝酸塩)の沈殿であり、他方は、沈殿の後の、一般的に温暖条件下でのリン酸による金属の酸化物又は炭酸塩(水溶性)の溶解である。
【0073】
上述の方法の1つにより得られた沈殿したリン酸塩は、乾燥し、有機塩基(アンモニア等)又は無機塩基(アルカリ金属水酸化物)で処理し、焼成することができる。これら3つの工程は、上記順序で行っても良く、異なる順序で行っても良い。
【0074】
pが0超を示す上述の形態の金属リン酸塩は、好ましくは水等の揮発性溶剤におけるImpの溶液又は懸濁液を用いた、上述の技術の1つによる化合物(PO4nhMの含浸によって調整することができる。
Impの溶解度が増すほど結果が良好となる。最近になって化合物(PO4nhMが製造されている。
このように、これらのリン酸塩の有利な調整方法は以下の工程を含む:
a)化合物(PO4nhMの合成、その後、好ましくは反応媒質からの(PO4nhMの非分離;
b)含浸剤Impの反応媒質への導入;
c)反応固体からの残液の分離;
d)乾燥及び随意の焼成。
【0075】
これらの触媒の能力、及び、特に不活性に対する抵抗は、さらに焼成によって改善される。焼成温度は、有利には300〜1000℃であり、好ましくは400〜900℃である。焼成時間は、幅広い範囲で行っても良い。例として、一般に1〜24時間である。
【0076】
用いることのできる触媒としては、特に、ランタンリン酸塩、焼成ランタンリン酸塩、セシウム、ルビジウム又はカリウムの誘導体の組み合わせのランタンリン酸塩、焼成セリウムリン酸塩、セシウム、ルビジウム又はカリウムの化合物の組み合わせのセリウムリン酸塩、セシウム、ルビジウム又はカリウムの化合物の組み合わせのサマリウムリン酸塩、アルミニウムリン酸塩、セシウム、ルビジウム又はカリウムの化合物の組み合わせのアルミニウムリン酸塩、焼成ニオブリン酸塩、セシウム、ルビジウム又はカリウムの化合物の組み合わせのニオブリン酸塩、焼成ジルコニウムリン酸水素塩、又は、セシウム、ルビジウム又はカリウムの化合物の組み合わせのジルコニウムリン酸水素塩を用いることができる。
上述の正リン酸塩は、リン酸(H3PO4)との混合物で用いても良い。
【0077】
触媒として、希土類金属、特にランタンのピロ(pyro)リン酸塩単独又は上述の正リン酸塩との混合物もまた用いることができる。このような触媒は、欧州特許第1066255号明細書に記載されている。
【0078】
(塩基性触媒)
塩基性触媒は固体であってもよく、固定でなくてもよい。塩基性触媒は、特に工程b)の間に、不均一型又は非不均一型で用いられる。特に工程b)の間に、反応媒質に溶解した形態で用いられる。
第1の実施形態によれば、塩基性触媒として、塩基性アニオンを含む有機塩を用いることができる。硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩又はホスホン酸塩族を含む化合物、又は、カルボン酸塩又はアルコキシド(又は「アルキレート」)族を含む有機化合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が特に好ましい。特に、カリウム、ナトリウム、リチウムのアルコキシド、特にナトリウムエトキシド又はリチウムエトキシドを用いることができる。
第2の実施形態によれば、塩基性触媒として、無機塩基を用いることができる。また、それは窒素又は無窒素無機塩基であってもよい。
【0079】
窒素含有塩基以外の無機塩基は、低コスト且つ環境にとって害がより少ないという利点を有する。最終的に、例えば1級又は2級アミンで見られるどのような副作用からの保護もなされる。
水酸化物、無機炭酸塩又は無機リン酸塩型の水溶性アルカリ金属塩が、特に好ましい。特に、これらの塩基の例として、NaOH、KOH又はLiOH等の水酸化物、又は、K2CO3、Na2CO3、K3PO4、Li3PO4等の弱酸と強塩基の塩が挙げられる。
【0080】
第3の実施形態によれば、塩基性触媒として、不均一塩基性触媒が挙げられる。この特定の場合では、用いられる塩基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び/又は、ランタニド系元素の、水酸化物及び/又は酸化物に基づく不均一触媒であってもよい。特に、酸化マグネシウム(MgO)、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、BaO、Ba(OH)2であってもよい。
特に、IV価を示さない、アルカリ土類金属及び/又は希土類金属の、酸化物、水酸化物及び塩基性塩及びそれらを含む鉱物から選択される触媒であってもよい。
【0081】
特に、天然鉱物、又は、ハイドロタルサイト等のような、金属酸化物又は水酸化物に基づく、挿入された層で構成される合成類似化合物を用いることができる。触媒は、特に、天然のハイドロタルサイト又は合成類似化合物を用いることができる。これらの塩基性塩は、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Te2+、Co2+等の金属カチオンM2+、及び、Al3+、Cr3+、Fe3+等の三価のカチオンM3+型の種々の組み合わせで構成してもよい。これらの金属カチオンに付随するアニオンは、ハロゲン、有機アニオン、又は、オキシアニオンであってもよい。特に、これらのハイドロタルサイトの例としては、式[Mg6Al2(O416]CO3・4H2Oに対応するものが挙げられる。
特に、イッテルビウム及びランタン等の希土類金属の酸化物及び炭酸塩が挙げられる。
【0082】
第4の実施形態によれば、例えばナトリウムのような金属形態のアルカリ金属を用いても良い。
塩基性触媒の例として、特に、以下のものが挙げられる:
− アルカリ金属アルコキシド(又は「アルキレート」)、特に、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−ter−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド又はカリウム−ter−ブトキシド;
− 金属ナトリウム;
− 酸化ランタン;又は、
− 酸化マグネシウム。
【0083】
(後続反応)
アルコールとしてメタノールを用いることによってメチルジエステルを調整し、続いて、より大量のジエステルを得るために、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール及びそれらの混合物等のより大量のアルコールを用いてエステル交換を実施することができることに注目すべきである。
本発明の他の詳細点や効果については以下の実施例の観点から明らかとなるが、それらに限定されない。
【実施例】
【0084】
実施例1:工程a)
開始材料として、以下の重量組成のジニトリル化合物の混合物を用いる:
86重量%のメチルグルタロニトリル
11重量%のエチルスクシノニトリル
3重量%のアジポニトリル。
275℃で加熱され、3l/hの窒素流で洗浄された、5mlのガラス粉末の2層間に設けられた4mlの酸化チタン(アナターゼ型)で構成された触媒固定層上に、二本の注入器で、1ml/hのジニトリルの混合物、及び、1ml/hの水を混合注入する。反応器の出口では、ガスが氷浴中に設けられた容器で濃縮される。6時間の反応の後、生成物をガスクロマトグラフィで分析する。そこで、97%のジニトリルの変換として、イミドの混合物の収率94%が得られる。
【0085】
実施例2.1:MgOでの工程b)
20gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)、175gのメタノール、及び、1gのMgO(Prolabo社製)を、300mlのステンレススチールの反応容器内に導入する。反応容器は、自己生成の圧力下で250℃まで加熱され、これらの条件が6時間維持される。冷却及び触媒の濾過の後、反応媒質をGCで分析する。90%のイミドの変換として、ジエステルの収率67%が得られる。
【0086】
実施例2.2:酸化ランタンでの工程b)
20gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)、175gのメタノール、及び、1gのLa23(Rhodia社製)を、300mlのステンレススチールの反応容器内に導入する。反応容器は、自己生成の圧力下で250℃まで加熱され、これらの条件が6時間維持される。冷却及び触媒の濾過の後、反応媒質をGCで分析する。95%のイミドの変換として、ジエステルの収率62%が得られる。
【0087】
実施例2.3:ナトリウムメトキシドでの工程b)
20gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)、175gのメタノール、及び、0.5gのナトリウムメトキシドを、300mlのステンレススチールの反応容器内に導入する。反応容器は、自己生成の圧力下で250℃まで加熱され、これらの条件が6時間維持される。冷却及び触媒の濾過の後、反応媒質をGCで分析する。92%のイミドの変換として、ジエステルの収率65%が得られる。
【0088】
実施例2.4:カリウム−tert−ブトキシドでの工程b)
20gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)、175gのメタノール、及び、0.5gのカリウム−tert−ブトキシド(Aldrich社製)を、300mlのステンレススチールの反応容器内に導入する。反応容器は、自己生成の圧力下で250℃まで加熱され、これらの条件が6時間維持される。冷却及び触媒の濾過の後、反応媒質をGCで分析する。89%のイミドの変換として、ジエステルの収率67%が得られる。
【0089】
実施例2.5:触媒無しでの工程b)
20gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)、及び、175gのメタノールを、300mlのステンレススチールの反応容器内に導入する。反応容器は、自己生成の圧力下で250℃まで加熱され、これらの条件が6時間維持される。冷却及び触媒の濾過の後、反応媒質をGCで分析する。85%のイミドの変換として、ジエステルの収率65%が得られる。
【0090】
実施例3.1:フーゼル油での例:ナトリウムエトキシドでの工程b)
25gのイミドの混合物(実施例1で得られた生成物)を、アンモニアを用いた連続パージ装置を備えた、300mlのステンレススチールの耐圧反応容器内に導入し、Wako社製の50gのフーゼル油(沸点110〜130℃、濃度0.810〜0.850)、及び、全イミドについて5重量%のナトリウムエトキシドを加える。反応容器は密閉され、反応媒質は撹拌しながら250℃まで加熱される。4時間後、イミドの変換が終了し、収率90%のジエステルが得られる。反応媒質は、触媒の回収のために、濾過される。濾液は、過剰のフーゼル油とジエステルの混合物とを分離するために、蒸留される。ジエステルの混合物の蒸留は160〜200℃、且つ、20mmHgで実施する。
【0091】
実施例3.2:フーゼル油での例:ナトリウム金属での工程b)
反応は、ナトリウムエトキシドの代わりに2.5重量%のナトリウム金属を用いて、実施例4のように行う。100%の変換として、ジエステルの収率91%が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む少なくとも一種のジエステル化合物の製造方法:
a)少なくとも一種の以下の一般式(III)のジニトリル化合物の水の存在下での加水分解による以下の一般式(I)のイミド化合物の調整:


(ここで、Aは直鎖又は分岐の二価の炭素原子数2〜12の炭化水素基を示す。)

NC−A−CN (III)
b)以下の一般式(IV)の少なくとも一種のジエステル化合物及び随意の異なる式(e)の副生成物を含む反応生成物を得るための、前記イミド化合物と以下の一般式(II)の少なくとも一種のアルコールとの反応:
R−OH (II)
(ここで、Rは、ヘテロ原子を含んでも良い炭素原子数1〜20の直鎖又は分岐の脂肪族、脂環式、芳香族又はアリルアルキル炭化水素基を示す。)
R−OOC−A−COO−R (IV)
− 前記工程の少なくとも一つは触媒存在下で行われ、さらに、
− 前記二つの工程が触媒存在下で行われた場合は、工程b)は工程a)で用いた以外の少なくとも一種の触媒存在下で行われる。
【請求項2】
− 工程b)が塩基性触媒の存在下で行われ、且つ
− 前記塩基性触媒が、以下から選択される請求項1に記載の方法:
− 塩基性アニオンを含む有機塩、
− 無機塩基、
− 不均一塩基性触媒、及び、
− 金属形態のアルカリ金属。
【請求項3】
前記塩基性触媒が、以下を含む請求項2に記載の方法:
− アルカリ金属アルコキシド、
− 金属ナトリウム、
− 酸化ランタン、又は
− 酸化マグネシウム。
【請求項4】
工程a)が固体触媒の存在下で気相で行われる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
− 工程a)が固体酸触媒の存在下で行われ、且つ
− 工程b)が塩基性触媒の存在下で行われる、
請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
− 工程a)が固定酸触媒の存在下で行われ、且つ
− 工程b)が実質的に触媒無しで行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程b)が液相又は気相で行われる請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程a)が500℃未満、好ましくは250〜450℃の温度で行われる請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程a)の間、水のニトリル化合物に対するモル比が2〜20、好ましくは4〜8である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程b)の間、アルコールのイミド化合物に対するモル比が1〜30、好ましくは5〜20である請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ニトリル化合物が、メチルグルタロニトリル、エチルスクシノニトリル、アジポニトリル及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記アルコールが、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
− 工程a)が固体酸触媒の存在下で行われ、且つ
− 前記固体酸触媒が以下から選択される請求項1〜12のいずれかに記載の方法:
− アルミナ、酸化チタン、シリカ/アルミナ混合物等の金属酸化物、
− 酸性型のゼオライト
− 酸性型のクレイ、
− NaH2PO4等の過リン酸塩、又は、シリコンピロリン酸塩。
【請求項14】
前記固体酸触媒がアナターゼ型の二酸化チタンを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程b)が液相において、400℃未満で、好ましくは100〜300℃で、且つ、好ましくは1〜100barの圧力下、好ましくは自己生成の圧力下で行われる請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
以下の工程c)を工程b)の後に含む請求項1〜15のいずれかに記載の方法:
c)ジエステル化合物の回収のための、工程b)からの反応生成物の加熱及び蒸留。
【請求項17】
工程b)からの反応生成物が、工程c)の間に式(I)のイミドに変換され、工程b)の実施において再利用される副生成物を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程b)の間にアンモニアが形成されて、該工程の間に取り除かれる請求項1〜17のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2011−500541(P2011−500541A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528437(P2010−528437)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064218
【国際公開番号】WO2009/056477
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】