説明

ジエン系ゴムの分解方法

【課題】微生物そのものではなく、微生物から産出される成分を利用してゴムを分解する手段を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】本発明により、放線菌を培養し、その培養液を遠心分離して上清を採取し、該上清とジエン系ゴムを接触させるという工程を備えることを特徴とするジエン系ゴムの分解方法が提供された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放線菌が産出する成分を用いたゴムの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品はプラスチック製品とともに再利用しにくい材料であり、セメント工場などを中心として燃料として利用されている場合が多い。しかしながら、近年環境問題に対する関心の高まりとともに、ゴム製品を燃料として燃やすのではなく、コンポストのように低温で分解する省エネルギー型の方法や分解した材料を再利用するマテリアルリサイクルの方法の開発が求められている。
【0003】
一方、ゴム製品を分解する方法として、微生物による処理が考えられている。微生物処理は低温で行なわれる処理法なので、エネルギー消費は最も少ない処理法といえる。また、ゴム製品を微生物処理した後、分解物を再利用することも考えられる。例えば、分解されたモノマーやオリゴマーを再利用することが考えられる。
【0004】
またゴムの微生物が検討され、ゴムの処理に役立つ微生物のスクリーニングが従来から行われている。特に天然ゴムなどのポリイソプレン系ゴムについてはXantomonas sp.、Pseudomonas citronellolis、Pseudomonas aeruginosaなどの細菌が天然ゴムを分解することが知られている。またNocardia sp.、Gordona sp. 、Micromonospora sp.、 Streptomyces sp.、Amycolatopsis sp.などの放線菌が天然ゴムを分解することが知られている。なおXantomonas sp.によりゴムが分解されることが非特許文献1に、Nocardia sp.によりゴムが分解されることが非特許文献2に、それぞれ記載されている。
【0005】
しかし、これらの微生物分解の方法はゴムの分解効率が低いために、いまだに実用化には至っていない。さらに微生物分解では、微生物の培養および微生物による分解処理に用いられる培地には多くの成分が含まれるため、コストが高くなるという問題点がある。
【0006】
【非特許文献1】Akio Tsuchii, Kiyoshi Takeda, Applied and Environmental Microbiology, Vol.56, No.1, pp269-274 (1990)
【非特許文献2】Akio Tsuchii, Tomoo Suzuki, Kiyoshi Takeda, Applied and Environmental Microbiology, Vol.50, No.1, pp965-970 (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって上記の問題点を克服するために、微生物そのものではなく、微生物から産出される成分を利用してゴムを分解する手段を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は次の(1)〜(9)からなる。
(1)放線菌を培養し、その培養液を遠心分離して上清を採取し、該上清とジエン系ゴムを接触させるという工程を備えることを特徴とするジエン系ゴムの分解方法。
(2)前記ジエン系ゴムがポリイソプレン系ゴムであることを特徴とする上記(1)に記載の分解方法。
(3)前記ポリイソプレン系ゴムがシスポリイソプレンであることを特徴とする上記(2)に記載の分解方法。
(4)ゴム中の前記ポリイソプレン系ゴムの含有量が50重量%以上であることを特徴とする上記(2)に記載の分解方法。
(5)前記放線菌がノカルディア属に属する放線菌であることを特徴とする上記(1)から上記(4)のいずれか1つに記載の分解方法。
(6)前記ノカルディア属に属する放線菌がBS-HA1株であることを特徴とする上記(5)に記載の分解方法。
(7)放線菌を培養して得られる前記培養液中に含まれるジエン系ゴムを分解する成分の分子量が1万以下であることを特徴とする上記(1)に記載の分解方法。
(8)前記ジエン系ゴムを分解する成分を添加した水溶液中で前記分解を行なうことを特徴とする上記(7)に記載の分解方法。
(9)前記水溶液中に金属イオンを含むことを特徴とする上記(8)に記載の分解方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ノカルディア属に属する放線菌BS-HA1株が産出する成分により、ゴムを分解する方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を具体的に説明する。本発明者らは鋭意検討した結果、微生物から産出される成分を利用することにより、微生物処理と同様にジエン系ゴム、特にポリイソプレン系ゴムを分解できることを見出し、本発明を完成させるに至った。よって本発明は放線菌が産出する成分でジエン系ゴムを分解する方法に関するものである。ジエン系ゴムは主鎖に2重結合を持つ高分子量のゴムであり、天然ゴムなどのポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどが例示されるが、それらに限定されるものではない。
【0011】
この中でも、本発明の方法により最も分解しやすいジエン系ゴムはポリイソプレン系ゴムである。なお本願明細書でポリイソプレン系ゴムとは、主鎖がシスポリイソプレン又はトランスポリイソプレンであるゴム若しくはエラストマーを意味する。中でもシスポリイソプレンが最も好ましいが、イソプレンと他のモノマーとの共重合体を主鎖とするゴムまたはエラストマーにも本発明の方法を適用することができる。
【0012】
具体的なシスポリイソプレンの例としては、天然ゴムやNatsynなどの合成シスポリイソプレンを挙げることができる。またトランスポリイソプレンの例としては、ガッタパーチャなどの天然系のゴムを挙げることができる。ゴム中のポリイソプレン系ゴムの含有量が50重量%以上であれば本発明の方法を適用することができるが、ゴム中のポリイソプレンは好ましくは50重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0013】
ゴムを分解する機能を有する放線菌としてはNocardia sp.、Nocardia asteroides、Nocardia blasiliensis、Gordona sp.、Gordona polyisoprenivorans、Micromonospora aurantiaca、Micromonospora fortuitum、Sreptomyces coelicolor、Actinomyces elastica、Actinomycesfluscus、Proactinomyces ruber、Actinomadura libanotica、Actinoplanes missouriensi、Actinoplanes italicus、Actinoplanes utahensis、Dactylosporangium thailandense、Micromonospora sp.、Streptomyces sp.、Streptomyces acrimycini、Streptomyces albogriseu、Streptomyces albadunctus、Streptomyces antibioticus、Streptomyces atroolivaceus、Streptomyces aureocirculatus、Streptomyces daghestanicus、Streptomyces flavoviridi、Streptomyces fradiae、Streptomycesgriseus、Streptomyces griseobrunneus、Streptomyces griseoflavus、Streptomyces griseoflavus、Streptomyces griseoviridis、Streptomyces nitrosporeus、Streptomyces olivaceus、Streptomyces olivoviridis、Streptomyces tauricus、Amycolatopsis sp.など多くの種類の放線菌を例示できる。それらの放線菌の類そのものが存在しなくても、それが産出する成分のみでもポリイソプレンゴムを分解できることを発明者らは見出した。微生物そのものではなく、微生物が産出する成分でポリイソプレンゴムを分解するという点に本発明の最も顕著な特徴がある。
【0014】
特に放線菌の中でもノカルディア属に属する放線菌が本発明において好適であり、さらにノカルディア属に属する放線菌の中でもBS-HA1株が産出する成分はゴムの分解能力が優れているBS-HA1株は独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM−BP10750株として寄託されている。放線菌が産出する成分を用いてポリイソプレンゴムを分解する方法を以下に述べる。
【0015】
放線菌が産出するジエン系ゴムを分解する成分は、表1のような培地で放線菌を数日間培養することによって得られる。培地の成分は特に限定されないが、基本的な成分として、主として無機塩および栄養となる有機物を含む培地が好適である。培地に含まれる無機塩としては窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが例示され、重金属としては鉄、マンガンなどが例示される。また、栄養素となる有機物としては酵母エキスなどが例示される。
【0016】
【表1】

【0017】
次にBS-HA1株を7日間振とう培養した後、培養液を滅菌することにより、(BS-HA1株により生産される)ジエン系ゴムを分解する成分を含む培養液を得る。この培養液を用いてポリイソプレンゴムを分解することが可能である。さらに発明者らはこの培養液中の成分のうちポリイソプレンゴムを分解する成分を調べたところ、分子量が1万以下の成分がさらにポリイソプレンを分解することをつきとめた。分子量1万以下の成分を限外ろ過などで分離し、水溶液に添加することにより、さらに効率の良い分解が可能である。
【0018】
またBS-HA1株の培養液を滅菌することによらなくても、BS-HA1株に由来するジエン系ゴムを分解する成分を水溶液に添加し、該水溶液中でジエン系ゴムを分解することもできる。その際に、該水溶液中に金属イオンを含むことは本発明において好適である。そのような金属イオンとして、鉄やマンガンなどを例示することができるが、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
以下実施例で本発明を具体的に説明する。
【0020】
(実施例1)
前培養したBS-HA1株を白金耳で掻き取り、オートクレーブ滅菌した表1に示す培地に植え継ぎ、暗所にて30℃で7日間培養(300 rpm)を行った。培養後、プラスチック遠沈管に培養液を入れ、遠心分離機で5000 rpm、10分遠心分離を行った。遠心分離後の上澄み液を、セルロースアセテートフィルター0.2μmでろ過し、BS-HA1株由来のジエン系ゴムを分解する成分を含む水溶液とした。300 mLの三角フラスコに合成ポリイソプレンゴム(以下IRと称する)のクロロホルム溶液を2 mL入れ、溶媒を窒素乾固し、フラスコ底面にIR層を作成した。IR層を作った三角フラスコに、BS-HA1株由来のジエン系ゴムを分解する成分を含む水溶液100 mLをマグネティックスターラーと共に入れ、30℃、暗所にて攪拌培養(300 rpm)を1日おこない、ゴムを分解した。培養後、200 mMのラジカル禁止剤であるBHTをそれぞれの培地中に100μL加えて反応を停止させた。次に、クロロホルムを100 mL加え、三角フラスコ底面のIR層をクロロホルムに溶解させ、クロロホルム層の溶媒をエバポレーターで留去し、減圧乾固し、テトラヒドロフランに溶解させ、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)にて分子量測定を行った。
【0021】
(実施例2)
実施例1で得られたBS-HA1株由来のジエン系ゴムを分解する成分を含む水溶液を、更に1万の分子量をカットオフとする限外濾過膜で濾過し、分子量1万以上の成分を取り除いた。実施例1と同様にIR層を作った三角フラスコにこの水溶液100 mLを、マグネティックスターラーと共に入れた。実施例1と同様にゴムの分解と分子量測定を行った。
【0022】
(比較例)
実施例1におけるBS-HA1株由来のジエン系ゴムを分解する成分を含む水溶液の代わりに蒸留水100 mLを用い、実施例1と同様の実験を行った。
【0023】
実施例1、実施例2、および比較例の系について分子量を測定した結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1では比較例より重量平均分子量大きく低下していた。また実施例2では、実施例1より更に重量平均分子量が低下していた。これにより、BS-HA1株の産出する成分、とりわけ分子量1万以下の成分がゴム高分子を分解する活性を有することが示された。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、ノカルディア属に属する放線菌BS-HA1株が産出する成分によりゴムを分解する方法が提供された。本発明の方法は微生物が産出する成分を用いた方法であるので、エネルギー消費量が少なく、コストも安いという利点があるので、ゴムの処理などに大いに資すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放線菌を培養し、その培養液を遠心分離して上清を採取し、該上清とジエン系ゴムを接触させるという工程を備えることを特徴とするジエン系ゴムの分解方法。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムがポリイソプレン系ゴムであることを特徴とする請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記ポリイソプレン系ゴムがシスポリイソプレンであることを特徴とする請求項2に記載の分解方法。
【請求項4】
ゴム中の前記ポリイソプレン系ゴムの含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の分解方法。
【請求項5】
前記放線菌がノカルディア属に属する放線菌であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項6】
前記ノカルディア属に属する放線菌がBS-HA1株であることを特徴とする請求項5に記載の分解方法。
【請求項7】
放線菌を培養して得られる前記培養液中に含まれるジエン系ゴムを分解する成分の分子量が1万以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項8】
前記ジエン系ゴムを分解する成分を添加した水溶液中で前記分解を行なうことを特徴とする請求項7に記載の分解方法。
【請求項9】
前記水溶液中に金属イオンを含むことを特徴とする請求項8に記載の分解方法。

【公開番号】特開2009−13284(P2009−13284A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176476(P2007−176476)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月10日 高分子学会年次大会高分子学会予稿集に発表 平成19年5月29〜31日 高分子年次大会にて文書をもって発表
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】