説明

ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法

【課題】金属触媒を使用せずに低コストでグリセリンを酸化し、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることのできる、優れたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】グリセリンと、前記グリセリンに対して1〜14倍モルの重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法に関し、より詳細には、金属触媒を使用せずに低コストでグリセリンを酸化し、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることのできる、優れたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオディーゼル燃料(BDF)が、カーボンニュートラルな軽油代替燃料として注目されつつある。BDFを製造する過程では、副生物としてグリセリンが生成されるが、将来的なBDF生産増に伴い、グリセリンは供給過剰となることが予想され、その有効活用が模索されている。
グリセリンの酸化により得られるジヒドロキシアセトンやグリコール酸は、様々な用途に有用であり、例えば、医薬品や化粧品の原料などとして使用される。このようなグリセリンの酸化反応については、Bi−PtやAuといった金属触媒を用いた基礎研究が行われているが(特許文献1、非特許文献1)、工業化されていないのが現状である。また、このような金属触媒は特殊で高価なものであり、高コストになるなどの問題がある。また、用いた金属触媒は、反応後に回収する必要があり、手間がかかることや、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも望ましくないなどの問題がある。
【0003】
したがって、金属触媒を使用せずに低コストでグリセリンを酸化し、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることのできる、優れたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、未だ求められているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特許3276413号公報
【非特許文献1】Chem.Commun.,2002,696−697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、金属触媒を使用せずに低コストでグリセリンを酸化し、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることのできる、優れたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、亜臨界水条件下で、グリセリンと、重金属元素を含まない酸化剤とを特定量反応させることにより、グリセリンの酸化が起こり、ジヒドロキシアセトン経由でグリコール酸が生成され、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
前記方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、そのため、低コストである点で、有利である。また、前記方法は、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、手間がかからず、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> グリセリンと、前記グリセリンに対して1〜14倍モルの重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法である。
<2> 重金属元素を含まない酸化剤が、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、並びに、次亜塩素酸及びその塩類からなる群より選択される少なくとも一種である前記<1>に記載のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、金属触媒を使用せずに低コストでグリセリンを酸化し、効率的かつ選択的にジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得ることのできる、優れたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法)
本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、グリセリンと、重金属元素を含まない酸化剤とを、亜臨界水中で反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて適宜その他の工程を含む。
【0010】
<グリセリン>
前記グリセリンは、ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を得るための出発原料として使用される。
前記グリセリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物由来のもの、動物由来のもの、合成されたもののいずれであっても使用することができる。また、前記グリセリンとしては、精製グリセリン、粗グリセリンのいずれであっても使用することができる。
【0011】
前記出発原料として、前記グリセリンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、前記出発原料としては、前記グリセリンに加え、更に他の成分が含まれる原料を使用してもよい。
前記グリセリンの使用量としては、特に制限はなく、例えば、所望の反応物の生成量(ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の生成量)等に応じて、適宜選択することができる。
【0012】
<重金属元素を含まない酸化剤>
前記酸化剤は、前記グリセリンを酸化させる目的で使用される。
前記酸化剤としては、重金属元素を含まないものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、次亜塩素酸及びその塩類、臭素酸及びその塩類、ヨウ素酸及びその塩類、硝酸及びその塩類などが挙げられる。これらの中でも、価格、安全性などの点で、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、次亜塩素酸及びその塩類が好ましい。
前記塩類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0013】
なお、前記重金属元素とは、比重が4〜5以上の金属元素をいい、一般的には鉄以上の比重を持つ金属の総称である。前記重金属元素としては、例えば、鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマスなどが挙げられる。前記重金属元素を含む酸化剤を用いた場合では、この酸化剤自体が有毒(有害)である、反応後回収の必要がある、亜臨界水条件下では反応が進行しない、などの問題がある。
【0014】
前記酸化剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
前記酸化剤の使用量としては、前記グリセリンのモル量に対して、1〜14倍モルであり、1〜10倍モルが好ましく、2〜8倍モルがより好ましい。前記酸化剤の使用量が、前記グリセリンのモル量に対して、1倍モル未満であると、理論当量に及ばないため、所望の程度の反応物(ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸)が得られないこと等があり、14倍モルを超えると、反応が進行しすぎてしまい、水と二酸化炭素まで分解してしまうこと等がある。一方、前記酸化剤の使用量が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0015】
<亜臨界水>
前記グリセリンと、前記重金属元素を含まない酸化剤との反応は、亜臨界水中で行われる。ここで、前記亜臨界水とは、超臨界水の臨界点(374℃、22.1MPa)よりも低い温度で、飽和水蒸気圧以上の圧力の高温・高圧の水のことをいう。
【0016】
前記亜臨界水の温度としては、180〜370℃であり、中でも、200〜350℃が好ましい。前記温度が、180℃未満であると、反応が進行しないこと等があり、370℃を超えると、水と二酸化炭素まで分解してしまい、目的の反応物(ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸)が得られないこと等がある。一方、前記温度が、好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0017】
前記亜臨界水の圧力としては、1〜25MPaであり、中でも、1.5〜20MPaが好ましい。前記圧力が、1MPa未満であると、180℃の飽和蒸気圧に達しないこと等があり、25MPaを超えると、水と二酸化炭素まで分解してしまい、目的の反応物(ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸)が得られないこと等がある。一方、前記圧力が、好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0018】
前記亜臨界水として用いる水の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、純水、超純水を用いることが好ましい。
前記純水とは、一般に電気抵抗率が1〜10MΩ・cmの水をいい、前記超純水とは、一般に電気抵抗率が15MΩ・cm以上の水をいう。一般的な水道水に含まれる不純物には、塩類、残留塩素、溶解性でない微粒子、有機物、電解しないガスなどがあり、純水とは、これらのうち、主に塩類や残留塩素が高度に除去された状態の水を指す。純水は、不純物を取り除く方法により、RO水(逆浸透膜を通した水のこと)、イオン交換水(イオン交換樹脂などによりイオンを除去した水のこと)、蒸留水などと呼ばれる。なお、水道水レベルの水を単にフィルターなどでろ過、又は活性炭を通しただけの水は純水とは呼ばれない。また、超純水とは、純水から更に、微粒子、有機物、ガス等が高度に除去された状態の水を指す。これらの純水、超純水は、常法に従い調製することができる。
【0019】
前記水は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
前記水の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記グリセリンに対して、質量比で、1〜100倍量が好ましく、5〜50倍量がより好ましい。前記水の使用量が、前記グリセリンに対して、1倍量未満であると、反応が進行しないことがあり、100倍量を超えると、グリセリンの濃度が薄くなるため、生成効率が悪くなることがある。一方、前記水の使用量が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0020】
<反応>
前記グリセリンと、前記重金属元素を含まない酸化剤とを、前記亜臨界水中で反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、超臨界流体反応装置などを用いて行うことができる。前記反応は高温・高圧条件下で行うことが必要となるため、前記超臨界流体反応装置には、通常、高温高圧に耐え得るハステロイ、インコネル等の耐圧容器が用いられる。一般には、設計圧力30MPa、設計温度400℃程度のシステムが使用され、また、バッチ式と流通式のシステムのいずれをも使用することができる。
【0021】
具体的には、例えば、前記超臨界流体反応装置に、前記グリセリン、前記重金属元素を含まない酸化剤、及び、水を仕込み、前記水が亜臨界状態となるような温度・圧力をかけることにより、反応を進行させることができる。
【0022】
前記反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.25〜5時間が好ましく、0.5〜3時間がより好ましい。前記反応時間が、0.25時間未満であると、反応が進行しないことがあり、5時間を超えると、目的とする化合物がさらに反応し、著しく収率が低下することがある。一方、前記反応時間が、より好ましい範囲内であると、適度な反応が進行し、所望の程度の反応物を得ることができる点で、有利である。
【0023】
前記反応により、前記グリセリンの酸化が起こり、ジヒドロキシアセトン経由でグリコール酸が生成される。前記反応により得られる反応物には、ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸が含まれるが、ここで、前記「ジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸」としては、「ジヒドロキシアセトン及びグリコール酸の両者」であってもよいし、「ジヒドロキシアセトン及びグリコール酸のいずれか一方のみ」であってもよい。例えば、所望に応じて前記反応条件を適宜変更することにより、ジヒドロキシアセトンのみを含む(グリコール酸を含まない)反応物を得ることもできる。
反応終了後、得られた反応物中のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸は、再結晶、晶析、各種クロマトグラフィー等を利用し、常法に従い分離、精製することができる。
【0024】
[効果]
本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、低コストである点で、有利である。また、本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、手間がかからず、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を4.1g(54.3mmol)、超純水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、3時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を4.1g(54.3mmol)、超純水41gを仕込み、温度を250℃に昇温し、0.5時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0028】
(実施例3)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を13.1g(173mmol)、超純水42gを仕込み、温度を350℃に昇温し、1時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0029】
(実施例4)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を18.1g(239mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0030】
(実施例5)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に粗グリセリン(純度80%)を2g(17.4mmol)、45質量%過酸化水素水を6.6g(87mmol)、超純水42gを仕込み、温度を350℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表1に示す。
【0031】
(実施例6)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、酸素を3.5g(109mmol)、イオン交換水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0032】
(実施例7)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、次亜塩素酸ナトリウムを4.0g(54.3mmol)、イオン交換水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0033】
(実施例8)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、亜塩素酸ナトリウムを4.9g(54.3mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0034】
(実施例9)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、塩素酸ナトリウムを5.8g(54.3mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0035】
(実施例10)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、過塩素酸ナトリウムを6.6g(54.3mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を8.2g(109mmol)、超純水22gを仕込み、温度を420℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表3に示す。反応後のHPLC測定では、有機物はほとんど検出されなかった。
【0037】
(比較例2)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、超純水41gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表3に示す。反応後のHPLC測定では、グリセリンのみが検出された。
【0038】
(比較例3)
内容積100mLの圧力計付きオートクレーブ装置に精製グリセリンを2g(21.7mmol)、45質量%過酸化水素水を24.6g(326mmol)、超純水36gを仕込み、温度を300℃に昇温し、2時間反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。反応条件の詳細及び結果を表3に示す。反応後のHPLC測定では、有機物はほとんど検出されなかった。
【0039】
(比較例4)
実施例1で用いた重金属元素を含まない酸化剤(45質量%過酸化水素水)に代えて、金属触媒(過マンガン酸カリウム、又は五酸化バナジウム)を用い、実施例1と同様に反応を行った。得られた反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量を下記のように定量した。いずれの金属触媒を用いた場合においても、グリセリンの酸化開裂反応は進行せず、原料が回収されるのみであった(表中には結果示さず)。詳細は不明であるが、高温高圧下において金属触媒が分解し、その機能を失った可能性がある。
【0040】
[反応物中のジヒドロキシアセトン及びグリコール酸量の定量方法]
前記実施例及び比較例の各反応終了後、得られた反応物について、下記の分析条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行った。各反応物(サンプル)は溶離液により、5倍に希釈して測定を行った。内部標準としてイソプロピルアルコールを用い、ジヒドロキシアセトン及びグリコール酸標準物質による検量線を作成し、定量を行った。
−分析条件−
カラム:Inertsil ODS−3 4.6φ×250mm
カラム温度:40℃
溶離液:0.1% HPO水溶液
流速:1.0mL/min
分析時間:30min.
検出器:RI
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
以上、実施例1〜10、及び、比較例1〜4の結果から、グリセリンと、重金属元素を含まない酸化剤とを特定量、亜臨界水条件下で反応させることを特徴とする本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法(実施例1〜10)は、前記各要件の少なくともいずれかを満たさない比較例(比較例1〜4)の製造方法と比較して、目的物のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸を効率的かつ選択的に得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、特殊で高価な金属触媒を使用する必要がなく、低コストである点で、有利である。また、本発明のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法は、反応後の金属触媒の回収等を行う必要もないため、手間がかからず、近年望まれているグリーンケミストリーの観点からも、有利な製造方法であるということができる。本発明により得られたジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸は、例えば、医薬品、化粧品の原料などとして、様々な用途に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンと、前記グリセリンに対して1〜14倍モルの重金属元素を含まない酸化剤とを、温度180〜370℃、圧力1〜25MPaの亜臨界水中で反応させることを特徴とするジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法。
【請求項2】
重金属元素を含まない酸化剤が、過酸化水素、酸素、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、並びに、次亜塩素酸及びその塩類からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のジヒドロキシアセトン乃至グリコール酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−137891(P2009−137891A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316281(P2007−316281)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】