説明

ジフェンヒドラミン含有水性組成物

【課題】本発明の目的は、ジフェンヒドラミンとアルギン酸を含んでいながら、ジフェンヒドラミンの安定性が改善されている水性組成物を提供することである。
【解決手段】(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩と共に、(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を配合して、水性組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性が改善されたジフェンヒドラミン含有水性組成物に関する。より詳細には、ジフェンヒドラミンとアルギン酸を含んでいながら、ジフェンヒドラミンの熱に対する安定性が改善されている水性組成物に関する。更に、本発明は、ジフェンヒドラミンとアルギン酸を含有する水性組成物を安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸には、Ca2+イオン等の二価以上の陽イオンによって部分的に架橋されてゲル化(高粘度化)する作用があり、アルギン酸を含む水性組成物を皮膚や粘膜に適用すると、皮膚や粘膜上に存在するCa2+イオンとアルギン酸が接触して、皮膚や粘膜上で水性組成物がゲル化する。皮膚や粘膜上で水性組成物がゲル化すると、他の有効成分の滞留性を高めたりすることが分かっている。このような理由から、アルギン酸は、粘膜や皮膚上で他の有効成分の薬理作用を効果的に発現させるために使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、ジフェンヒドラミン又はその塩は、アミノアルキルエーテル系のH1受容体遮断薬(抗ヒスタミン薬)であり、優れた抗アレルギー効果を呈することが知られており、眼科用や耳鼻科用の医薬成分として使用されている。
【0004】
そこで、ジフェンヒドラミン又はその塩の薬理作用を一層効果的に享受するには、ジフェンヒドラミン又はその塩と共にアルギン酸又はその塩を同時に粘膜や皮膚に適用できる水性組成物が有効であると考えられている。しかしながら、本発明者等の検討によって、ジフェンヒドラミン又はその塩と共に、アルギン酸又はその塩を配合して水性組成物を処方すると、ジフェンヒドラミン又はその塩の熱に対する安定性が劣悪化し、熱に晒されることによりジフェンヒドラミン又はその塩の分解が誘発されるという問題点が確認された。従って、ジフェンヒドラミン又はその塩と共に、アルギン酸又はその塩を配合した水性組成物を実用化するためには、ジフェンヒドラミン又はその塩の熱に対する安定性を改善する処方の開発が必要とされる。
【0005】
一方、グリチルリチン酸又はその塩は抗炎症作用を有し、粘膜や皮膚において、炎症を改善する効果が期待できる事が知られている。またテトラヒドロゾリン又はその塩は、α−アドレナリン作動薬として血管収縮作用を有し、眼粘膜において充血除去効果を奏する成分であることが知られている。更に、塩化ナトリウムは、浸透圧の調節等を目的として、粘膜や皮膚に適用される水性組成物に配合されている。しかしながら、これらの成分が、アルギン酸又はその塩の存在によって誘発されるジフェンヒドラミン又はその塩の不安定化に対して、如何なる作用を及ぼすかについては知られていない。
【特許文献1】特開2002-332248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と共に、アルギン酸及び/又はその塩を含んでいながら、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の熱に対する安定性が改善されている水性組成物を提供することである。更に、本発明は、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物を安定化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物に、(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムから選択される1種又は2種以上を配合することによって、(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の熱に対する安定性が格段に改善されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる水性組成物である:
項1. 以下の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とする、水性組成物:
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、
(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び
(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種。
項2. 眼科用組成物である、項1に記載の水性組成物。
【0009】
更に、本発明は、下記に掲げる水性組成物の安定化方法である:
項3. (A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物の安定化方法であって、前記水性組成物に(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、安定化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水性組成物中で、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と共に、アルギン酸及び/又はその塩を含んでいながら、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の熱に対する安定性が改善され、これらの成分を安定に保持することができる。
【0011】
また、(C)成分として、グリチルリチン酸、塩酸テトラヒドロゾリン、及び/又はこれらの塩を使用する場合には、本発明の水性組成物は、(A)成分に基づく抗ヒスタミン作用と共に、上記(C)成分に基づく抗炎症作用又は充血除去作用も同時に発現できるという利点もある。更に、本発明の水性組成物は、(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有しており、該成分は粘膜や皮膚に適用されることによってゲル化できるので、適用部位において(A)成分や(C)成分を長時間滞留させて、これらの薬理作用を一層効果的に発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書中、w/v%は、質量対体積百分率を示し、溶液100mLに溶けている各成分(溶質)の重量gを意味するものである。また、コンタクトレンズという語句は、特記しない限り、ハード、酸素透過性ハード、ソフト等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する意味で用いる。また、本明細書において、水性組成物とは、該組成物100重量部当たり、水を少なくとも5重量部以上、好ましくは20重量部以上、更に好ましくは50重量部以上含有する組成物を意味する。
(I) 水性組成物
本発明の水性組成物は、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を(以下、単に(A)成分と表記することもある)含有する。ジフェンヒドラミンは、2-(ジフェニルメトキシ)-N,N-ジメチルエチルアミンとも称され、抗ヒスタミン作用を発現することが知られているる公知化合物である。
【0013】
また、ジフェンヒドラミンの塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。このような塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、クエン酸塩、サリチル酸塩、タンニン酸塩、フマル酸塩等が挙げられる。これらのジフェンヒドラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0014】
ジフェンヒドラミン及び/又はその塩は、公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0015】
本発明の水性組成物には、これらのジフェンヒドラミン及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。当該(A)成分として、好ましくは塩酸ジフェンヒドラミンである。
【0016】
本発明の水性組成物中の(A)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。水性組成物中の(A)成分の配合割合の一例として、該成分が総量で0.0001〜0.1w/v%、好ましくは0.001〜0.07w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%となる割合が例示される。より具体的には、水性組成物が点眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.01〜0.05w/v%が例示される。また、水性組成物が洗眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.001〜0.005w/v%が例示される。
【0017】
本発明の水性組成物は、更にアルギン酸及び/又はその塩(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。アルギン酸及び/又はその塩を含有することによって、上記(A)成分等の粘膜又は皮膚上での滞留性を向上させ、更には保湿効果をも備えさせることが可能になる。
【0018】
アルギン酸とは、D−マンヌロン酸(以下、単に「M」と表示することもある)とL−グルロン酸(以下、単に「G」と表示することもある)から構成される多糖類であり、マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、及びマンヌロン酸とグルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。
【0019】
本発明に使用されるアルギン酸において、そのグルロン酸に対するマンヌロン酸の構成比率(M/G比;モル比)については、特に制限されず、例えばM/G比が0.4〜4.0の範囲に含まれるものが広く使用される。M/G比が小さい程、水性組成物がゲル化し易い傾向があり、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の適用部位における滞留性を向上させるという観点からは、M/G比が2.5以下、好ましくは2.0以下、更に好ましくは0.4〜2.0、より好ましくは0.5〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.6であることが望ましい。なお、本発明において、M/G比は、アルギン酸をブロック単位で分解したものを分画し、それぞれを定量することにより算出される値であり、具体的には、A. Haug et al., Carbohyd. Res. 32(1974), p.217-225に記載の方法に従って測定される。
【0020】
また、本発明に使用されるアルギン酸において、MM画分、GG画分及びMG画分の比率についても、特に制限されず、水性組成物の用途や形状に応じて適宜選択することができる。
【0021】
また、本発明で使用されるアルギン酸は、低分子量のものから高分子量のものまで適宜使用することができる。
【0022】
また、アルギン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。アルギン酸の塩として、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアルギン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明の水性組成物には、(B)成分として、上記のアルギン酸及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。特に、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムは水溶性であり、本発明において好適に使用される。
【0024】
本発明の水性組成物中の(B)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。水性組成物中の(B)成分の配合割合の一例として、(B)成分が総量で0.001〜5w/v%、好ましくは0.002〜2w/v%、更に好ましくは0.005〜0.3w/v%となる割合が例示される。より具体的には、水性組成物が点眼剤であれば、特に好ましくは0.002〜0.1w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.1w/v%が例示される。また、水性組成物が洗眼剤であれば、特に好ましくは0.01〜0.1w/v%、更に特に好ましくは0.01〜0.05w/v%が例示される。
【0025】
更に、本発明の水性組成物は、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸の塩、テトラヒドロゾリン、テトラヒドロゾリンの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。上記(B)成分が存在する水性組成物中では、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の熱に対する安定性が損なわれ、熱に晒されることにより、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩自体が分解される傾向を示すが、(C)成分を更に共存させることにより、上記(B)成分によって誘発されるジフェンヒドラミン及び/又はその塩自体の不安定化を抑制することが可能になる。
【0026】
(C)成分に包含される化合物はいずれも公知の化合物である。上記(C)成分の内、グリチルリチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、その具体例としてカリウム塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩等が例示される。特に好ましい塩としてはグリチルリチン酸ニカリウムである。また、上記(C)成分の内、テトラヒドロゾリンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、その具体例として塩酸塩、硝酸塩等が例示される。特に好ましい塩としては塩酸テトラヒドロゾリンである。
【0027】
本発明の水性組成物では、上記(C)成分に含まれる化合物の内、1種の化合物を選択して単独で使用してもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の水性組成物中の(C)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、(C)成分の種類、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。具体的には、(C)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:0.0005〜0.5w/v%、好ましくは0.005〜0.4w/v%、更に好ましくは0.001〜0.25w/v%;水性組成物が点眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.25w/v%、更に特に好ましくは0.05〜0.25w/v%;水性組成物が洗眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.025w/v%。
(C)成分がテトラヒドロゾリン及び/又はその塩の場合:0.0001〜0.1w/v%、好ましくは0.001〜0.07w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%;水性組成物が点眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.01〜0.05w/v%;水性組成物が洗眼剤であれば、特に好ましくは0.001〜0.01w/v%、更に特に好ましくは0.001〜0.005w/v%。
(C)成分が塩化ナトリウムの場合:0.001〜5w/v%、好ましくは0.01〜3w/v%、更に好ましくは0.01〜1.5w/v%;水性組成物が点眼剤または洗眼剤であれば、特に好ましくは0.03〜0.8w/v%。
【0029】
(C)成分が上記割合を充足することにより、本発明の水性組成物中で、上記(B)成分存在下で、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩に熱に対する安定性を備えさせることが可能になる。
【0030】
特に、本発明の水性組成物において、上記(A)〜(C)成分がそれぞれ以下の比率を満たすことによって、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の熱に対する安定性を一層効果的に獲得することができる。
(C)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:(A)成分1重量部に対して、(B)成分が0.01〜200重量部、且つ(C)成分が0.1〜100重量部;好ましくは(B)成分が0.1〜50重量部、且つ(C)成分が1〜25重量部。
(C)成分がテトラヒドロゾリン及び/又はその塩の場合:(A)成分1重量部に対して、(B)成分が0.01〜200重量部、且つ(C)成分が0.02〜20重量部;好ましくは(B)成分が0.1〜50重量部、且つ(C)成分が0.2〜5重量部。
(C)成分が塩化ナトリウムの場合:(A)成分1重量部に対して、(B)成分が0.01〜200重量部、且つ(C)成分が0.1〜800重量部;好ましくは(B)成分が0.1〜50重量部、且つ(C)成分が0.6〜100重量部。
【0031】
本発明の水性組成物は、上記(A)〜(C)成分に加えて、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の水性組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、ε−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩などが挙げられる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明の効果を一層効率的に奏させる観点から、上記緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤は好適であり、ホウ酸緩衝剤が特に好適である。当該ホウ酸緩衝剤の具体例として、ホウ酸及びその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)が例示される。特に、ホウ酸、ホウ砂が好適である。
【0032】
本発明の水性組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類や期待される効果等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、水性組成物において、該緩衝剤が0.01〜3w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%、更に好ましくは0.3〜2w/v%、特に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0033】
また、本発明の水性組成物は、上記(A)〜(C)成分の化学的安定性が著しく損なわれない範囲で、生体に許容される範囲内のpHに調節することができる。適切なpHは、該水性組成物の適用部位、剤形等により異なるが、通常6〜9、好ましくは6.5〜8.5、更に好ましくは6.8〜8.2、特に好ましくは7〜8程度である。かかる範囲内から著しく逸脱すると、含有成分の安定性が低下する可能性がある。pHの調節は、前記緩衝剤、或いは後述するpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0034】
本発明の水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤形等により異なるが、通常0.3〜4.2、好ましくは0.3〜2.1、更に好ましくは0.5〜1.8、より好ましくは0.6〜1.5、特に好ましくは0.8〜1.5程度である。浸透圧の調整は無機塩及び多価アルコール、糖アルコール、糖類などを用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0035】
本発明の水性組成物において浸透圧比は、第十四改正日本薬局方に準じて0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を用いて測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム含有水溶液)を用いる。
【0036】
本発明の水性組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的に、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
【0037】
エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、硝酸ナファゾリン、プラノプロフェン、マレイン酸クロルフェニラミン、メチル硫酸ネオスチグミン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、ε−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、アズレンスルホン酸ナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム、グルコース、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン等。
【0038】
また、本発明の水性組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0039】
マクロゴール、ポロクサマー、ポロキサミン、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、アルキルジアミノエチルグリシン、塩化ベンザルコニウム、パラベン類、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、メントール、ウイキョウ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油、エデト酸ナトリウム、塩化ベンゼトニウム、クエン酸、トロメタモールなど。
【0040】
本発明の水性組成物は、その剤型は任意であり、その用途に応じて種々の形態をとることができる。例えば、液状であってもよく、軟膏等の半固形状であってもよい。好ましくは液状である。
【0041】
また、本発明の水性組成物は、上記(A)〜(C)成分の有用な薬理作用を発現できるため、医薬品や医薬部外品等の製剤として使用できる。本発明の水性組成物の製剤形態としては、具体的には、点眼剤[但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、人工涙液、洗眼剤[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、眼軟膏剤等の眼科用組成物;コンタクトレンズ用組成物[コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用組成物(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)等];点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物;口腔咽頭薬、含嗽薬(含嗽用剤)等の口腔用組成物;点耳薬等が挙げられる。上記(A)〜(C)成分の薬理作用を鑑みれば、中でも好ましくは眼科用組成物であり、更に好ましくは点眼剤及び洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤である。
【0042】
なお、上記コンタクトレンズ用組成物は、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズを含むあらゆるコンタクトレンズに適用できるが、特に酸素透過性のハードコンタクトレンズ又はソフトコンタクトレンズに対して吸着し難い成分から構成されているため、上記コンタクトレンズ用組成物は、これらのコンタクトレンズに対してより好適に使用される。
【0043】
本発明の水性組成物は、目的とする剤型や用途に応じた公知の方法により製造できる。
【0044】
(II) 安定化方法
前述するように、(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物において、(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を共存させることにより、(B)成分の存在により誘発される(A)成分の熱に対する不安定化を改善することができる。故に、本発明は、別の観点から、(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物に、(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(A)及び(B)成分を含有する水性組成物の安定化方法を提供する。
【0045】
当該安定化方法において、使用する(A)〜(C)成分の種類及び濃度、その他の配合成分の種類や濃度、水性組成物の用途や形態等については、前記「(I)水性組成物」の場合と同様である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。以下、アルギン酸は、M/G比の規格が1.0〜1.6のLessonia nigrescens由来のものを使用した。
【0047】
試験例1 グリチルリチン酸二カリウムを用いた安定性試験
表1に記載の処方に従い、塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を調製した(実施例1及び比較例1−2)。これらの塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を用いて、以下の熱安定性評価試験を行った。先ず、各々の塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を透明ガラス製アンプル管(容量10mL)に8mLずつ充填し、これらを試験サンプルとした(n=2)。この試験サンプルを70℃の恒温器内で7、14、21日間、遮光下で保存した。保存前と後の試験サンプル中の塩酸ジフェンヒドラミン濃度を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。塩酸ジフェンヒドラミンの分解は、一次分解速度式により近似されたので、最小二乗法により分解速度定数(k)を求めた。具体的には、各保存日数(7、14、21日)における塩酸ジフェンヒドラミンの残存率(%)の自然対数と、保存日数(7、14、21日)を用いて、速度定数(k)を算出した。尚、残存率(%)は、以下の式により求めた。
【0048】
【数1】

【0049】
得られた結果を表1に示す。本結果から、実施例1の水性組成物における塩酸ジフェンヒドラミンの分解速度定数は、比較例2の水性組成物の場合よりも、小さい値を示した。この結果から、実施例1の水性組成物では、塩酸ジフェンヒドラミンの分解が抑制されていることが明らかとなった。
【0050】
【表1】

【0051】
試験例2 塩酸テトラヒドロゾリンを用いた安定性試験
表2に記載の処方に従い、塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を調製した(実施例2及び比較例1−2)。これらの塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を用いて、上記試験例1と同様の方法で、熱安定性評価試験を行い、各々の水性組成物における塩酸ジフェンヒドラミンの分解速度定数(k)を求めた。
【0052】
結果を表2に示す。この結果から、塩酸ジフェンヒドラミン及びアルギン酸を併用することによって引き起こされる塩酸ジフェンヒドラミンの不安定化は、塩酸テトラヒドロゾリンの配合によって改善できることが確認された。
【0053】
【表2】

【0054】
試験例3 塩化ナトリウムを用いた安定性試験
表3に記載の処方に従い、塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を調製した(実施例3及び比較例1−2)。これらの塩酸ジフェンヒドラミン含有水性組成物を用いて、上記試験例1と同様の方法で、熱安定性評価試験を行い、各々の水性組成物における塩酸ジフェンヒドラミンの分解速度定数(k)を求めた。
【0055】
結果を表3に示す。この結果から、塩酸ジフェンヒドラミン及びアルギン酸を併用することによって誘発される塩酸ジフェンヒドラミンの不安定化は、塩化ナトリウムを配合することによって、改善できることが確認された。
【0056】
【表3】

【0057】
試験例4 安定性試験
表4に記載の処方に従い、点眼剤(実施例4−15)を調製した。これらの点眼剤を用いて、上記試験例1と同様の方法で、熱安定性評価試験を行った。
【0058】
その結果、いすれのSCL用点眼剤でも、塩酸ジフェンヒドラミンが安定化されていることが確認された。
【0059】
【表4】

【0060】
処方例
表5及び6に記載の処方に従い、点眼剤(実施例16−28)及び洗眼剤(実施例29−41)を調製した。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とする、水性組成物:
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、
(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び
(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種。
【請求項2】
眼科用組成物である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物の安定化方法であって、前記水性組成物に(C)グリチルリチン酸、テトラヒドロゾリン、これらの塩、及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、安定化方法。

【公開番号】特開2008−1660(P2008−1660A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174597(P2006−174597)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】