説明

スイッチング電源装置用トランス

【課題】部品追加を行うことなく、負荷急増時に補助巻線の電圧上昇を抑制することができるスイッチング電源装置用トランスを提供すること。
【解決手段】コイルボビン15に1次側巻線2と、制御巻線(2次側巻線8)と、補助巻線Haと、をそれぞれ捲回したスイッチング電源装置用トランスTにおいて、前記補助巻線Haは、前記制御巻線8の外側に、該制御巻線8と同じ方向から捲回する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源装置に用いるトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、入力された直流電圧を断続して交流電圧を生成するスイッチング電源装置が知られている。このスイッチング電源装置は、例えばICを用いた他励式のオン・オフ方式を適用しており、ICの電源電圧を確立するための補助巻線を備えたトランスを用いている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来のスイッチング電源装置用トランスにおいて、補助巻線は、2次側回路に誘起する制御された電圧に比例した電圧を発生するように設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-144536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のスイッチング電源装置用トランスにあっては、負荷急変等によって急激に2次側回路における負荷が増加した際、リーケージインダクタンスによってサージ電圧が発生し、このサージ電圧によって補助巻線の電圧が上昇することがあった。
【0006】
そこで、この補助巻線の電圧上昇を抑制するために、2次側回路にスバナ回路を挿入する、又は制御巻線に対して直列に抵抗を挿入してサージ電圧を抑える、等の方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、上記の二つの方法では、いずれにおいても抵抗等の部品追加が必要になり、コストアップしてしまう問題があった。また、スバナ回路を追加する場合では、スバナ回路における電力損失が大きくなり、低消費電力化の弊害になることが考えられる。さらに、直列に抵抗を挿入する場合では、サージ電圧によって抵抗の瞬間電圧が大きくなるために定格の大きな抵抗を挿入する必要があり、これも低消費電力化の弊害になってしまうことが考えられる。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、部品追加を行うことなく、負荷急増時に補助巻線の電圧上昇を抑制することができるスイッチング電源装置用トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明では、コイルボビンに1次側巻線と、制御巻線と、補助巻線と、をそれぞれ捲回したスイッチング電源装置用トランスにおいて、前記補助巻線は、前記制御巻線の外側に、該制御巻線と同じ方向から捲回することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明のスイッチング電源装置用トランスにあっては、補助巻線が制御巻線の外側に、この制御巻線と同じ方向から捲回されている。
これにより、制御巻線と補助巻線の間の結合度合いが上昇し、この間に発生するリーケージインダクタンスを減少させることができて、サージ電圧の電圧に起因した補助巻線の電圧上昇を抑制することができる。
この結果、部品追加を行うことなく、負荷急増時に補助巻線の電圧上昇を抑制し、安価な回路構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のスイッチング電源装置用トランスを適用したスイッチング電源装置の構成を示した回路図である。
【図2】実施例1のスイッチング電源装置用トランスの巻線配置を示す断面説明図である。
【図3】従来のスイッチング電源装置用トランスの巻線配置を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のスイッチング電源装置用トランスを実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、構成を説明する。
図1において、1はトランス(スイッチング電源装置用トランス)Tの1次側巻線2に印加される直流電圧を断接して交流電圧に変換するためのスイッチング素子3を有するスイッチング電源装置である。このスイッチング電源装置1は、スイッチング素子3のオン・オフを制御する制御IC(制御回路)4と、この制御IC4を動作させるためのコンデンサ5と、このコンデンサ5を充電するための補助巻線Haと、スイッチング素子3に直列接続した過電流検出用の抵抗6と、を有している。ここで、この抵抗6に生じる電圧が制御IC4の入力端子P1に入力されるようになっている。
【0014】
7はトランスTの2次側巻線(制御巻線)8に誘起される交流電圧を整流する整流素子であり、9は整流素子7が出力する整流電圧を平滑する平滑コンデンサである。平滑コンデンサ9は、出力端子A1とアースラインの間に接続している。そして、この整流素子7と平滑コンデンサ9により直流電圧を出力する出力回路を構成する。
【0015】
10は出力端子A1の出力電圧を検出する電圧検出回路であり、出力端子A1とアースラインの間に接続している。
【0016】
この電圧検出回路10の検出電圧に応じて、定電圧IC11がフォトカプラの発光ダイオード12及びフォトトランジスタ13を介して、制御IC4の入力端子P2の電圧を変化させている。
【0017】
制御IC4は、入力端子P2の電圧に基づいたパルス幅のパルスを出力端子S1から出力し、スイッチング素子3のオン・オフを制御して出力端子A1の出力電圧を一定にする。また、この制御IC4は、入力端子P1に入力される入力電圧に基づいて、出力端子A1から過電流が流れたか否かを判断する。そして、過電流が流れたと判断した時には、スイッチング素子3のオン・オフ制御を停止して出力端子A1からの出力電圧を停止する。
【0018】
図2は、実施例1のスイッチング電源装置用トランスの巻線配置を示す断面説明図である。なお、図中矢印で巻線捲回方向を示す。
【0019】
トランスTは、コア14と、コイルボビン15と、1次側巻線2と、2次側巻線8と、補助巻線Haと、を備えている。
【0020】
コア14は、磁性体からなる円筒形状を呈しており、コイルボビン15の中心に挿入配置している。
【0021】
コイルボビン15は、硬質プラスチック等の絶縁体から構成する。このコイルボビン15は、両端が開放した中空円筒形状の本体部15aと、この本体部15aの両端部から径方向に突出した一対の鍔部15b,15bと、を有している。そして、本体部15aの一端に、1次側巻線2に接続する1次側端子16を突出形成し、本体部15aの他端に、2次側巻線8に接続する2次側端子17を突出形成している。
【0022】
1次側巻線2は、1次側端子16を介して、一端がスイッチング素子3に接続し、他端がスイッチング電源装置1に入力電圧を印加する図示しない直流電源に接続している(図1参照)。この1次側巻線2は、コイルボビン15の本体部15aの外側(外周面)に直接捲回した第一層2aと、補助巻線Haの外側(外周面)に捲回した第二層2bと、を有している。第一層2a及び第二層2bは、それぞれ1次側端子16から2次側端子17に向かって捲回している。すなわち、この1次側巻線2の第一層2a及び第二層2bは、同じ方向から捲回する。
【0023】
2次側巻線8は、1次側巻線2と相互インダクタンスで結合されるものであり、2次側端子17を介して、一端が整流素子7に接続し、他端がアースラインに接続している(図1参照)。この2次側巻線8は、1次側巻線2の第一層2aの外側(外周面)に捲回すると共に、2次側端子17から1次側端子16に向かって捲回している。すなわち、この2次側巻線8は、1次側巻線2の第一層2a及び第二層2bと反対の方向から捲回する。
【0024】
補助巻線Haは、一端がダイオードD1に接続し、他端がアースラインに接続している(図1参照)。この補助巻線Haは、2次側巻線8の外側(外周面)に捲回すると共に、2次側端子17から1次側端子16に向かって捲回している。すなわち、補助巻線Haは、2次側巻線8の外側であるすぐ上の層に、この2次側巻線8と同じ方向から捲回する。
【0025】
このように、実施例1のトランスTでは、コイルボビン15の外側に各巻線を、1次側巻線2の第一層2a、2次側巻線8、補助巻線Ha、1次側巻線2の第二層2bの順に捲回する巻線配置となる。
【0026】
次に、作用を説明する。
図3は、従来のスイッチング電源装置用トランスの巻線配置を示す断面説明図である。なお、図中矢印で巻線捲回方向を示す。
【0027】
トランスTの1次側巻線2に直流電圧が印加され、制御IC4が動作すると、スイッチング素子3によりこの直流電圧のオン・オフを繰り返す。そして、このオン・オフの繰り返しによってトランスTの2次側巻線8に交流電圧が誘起される。そして、整流素子7によってこの交流電圧が整流されて整流電圧が出力され、この整流電圧が平滑コンデンサ9により平滑されて出力端子A1から所定電圧の直流電圧が出力される。
【0028】
このとき、2次側巻線8に誘起される交流電圧を電圧検出回路10で検出し、フォトカプラの発光ダイオード12及びフォトトランジスタ13を介して制御IC4に電圧情報をフィードバックする。これにより、制御IC4はスイッチング素子3をオン・オフ制御し、トランスTにおいて適切に変圧された制御電圧を2次側巻線8に誘起することができる。
【0029】
ここで、このスイッチング電源装置1において、補助巻線Haでは、巻数比に応じて2次側巻線8に生じた電圧(2次側電圧)に比例した大きさの補助巻線電圧が発生する。
【0030】
しかしながら、図3に示す従来のトランスT1のように、コイルボビン15の外側に各巻線を、1次側巻線2の第一層2a、2次側巻線8、1次側巻線2の第二層2b、補助巻線Haの順に捲回すると共に、1次側巻線2の第一層2a、1次側巻線2の第二層2b、補助巻線Haをそれぞれ1次側端子16から2次側端子17に向かって捲回し、2次側巻線8のみを2次側端子17から1次側端子16に向かって捲回する場合では、2次側巻線8の負荷電流を増加させると、トランスT1のリーケージインダクタンスによって、補助巻線電圧が巻数比以上の電圧となってしまう。
【0031】
これに対し、実施例1のトランスTのように、補助巻線Haを2次側巻線8の外側、すなわち2次側巻線8の次の層に、この2次側巻線8と同じ方向から捲回することで、制御電圧を誘起する2次側巻線8と補助巻線Haとの結合の度合いが上昇する。そして、これによりリーケージインダクタンスを減少することができる。
【0032】
この結果、2次側巻線8において急激に負荷が増加した際に、トランスTのリーケージインダクタンスによるサージ電圧の発生に起因した補助巻線Haの電圧上昇を抑制することができる。
【0033】
次に、効果を説明する。
実施例1のスイッチング電源装置用トランスTにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0034】
(1) コイルボビン15に1次側巻線2と、制御巻線(2次側巻線8)と、補助巻線Haと、をそれぞれ捲回したスイッチング電源装置用トランスTにおいて、前記補助巻線Haは、前記制御巻線8の外側に、該制御巻線8と同じ方向から捲回する構成とした。
このため、部品追加を行うことなく、負荷急増時に補助巻線Haの電圧上昇を抑制し、安価な回路構成にすることができる。
【0035】
(2) 前記コイルボビン15は、一方の端部に前記1次側巻線2に接続した1次側端子16を有し、他方の端部に前記2次側巻線8に接続した2次側端子17を有し、前記1次側巻線2の第一層2a及び第二層2bは、前記1次側端子16から前記2次側端子17に向かって捲回し、前記制御巻線(2次側巻線8)及び前記補助巻線Haは、前記2次側端子17から前記1次側端子16に向かって捲回する構成とした。
このため、制御巻線8と補助巻線Haの結合度合いをさらに高め、負荷急増時の補助巻線Haの電圧上昇をさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 スイッチング電源装置
T トランス(スイッチング電源装置用トランス)
2 1次側巻線
2a 第一層
2b 第二層
8 2次側巻線(制御巻線)
Ha 補助巻線
14 コア
15 コイルボビン
16 1次側端子
17 2次側端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルボビンに1次側巻線と、制御巻線と、補助巻線と、をそれぞれ捲回したスイッチング電源装置用トランスにおいて、
前記補助巻線は、前記制御巻線の外側に、該制御巻線と同じ方向から捲回することを特徴とするスイッチング電源装置用トランス。
【請求項2】
請求項1に記載されたスイッチング電源装置用トランスにおいて、
前記コイルボビンは、一方の端部に前記1次側巻線に接続した1次側端子を有し、他方の端部に前記2次側巻線に接続した2次側端子を有し、
前記1次側巻線の第一層及び第二層は、前記1次側端子から前記2次側端子に向かって捲回し、
前記制御巻線及び前記補助巻線は、前記2次側端子から前記1次側端子に向かって捲回することを特徴とするスイッチング電源装置用トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−114000(P2011−114000A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266096(P2009−266096)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000180450)四変テック株式会社 (55)
【Fターム(参考)】