説明

スキャニングソナー装置および追尾方法

【課題】目標とする魚群が移動中と見なせる場合には、俯角を変えて能動的に探査して、目標とする魚群の仮定外の移動に対しても追尾を継続し、移動中でないと見なせる場合は、固定俯角で探査して魚群の位置、特徴、周囲の状況を読み取りやすくするスキャニングソナー装置および追尾方法を提供する。
【解決手段】
基準となる俯角で追尾対象を観測して得られた反射波の強度に応じたデータがその範囲の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上となる俯角を確定する第1の探査手順と、第1の探査手順で確定された俯角に固定して追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測する第2の探査手順と、現在の探査手順で得られた信号の変化に応じて、次の探査手順を第1または第2の探査手順に設定する探査制御手順と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚群等の追尾に用いるスキャニングソナー装置および追尾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漁労用の船舶に装備され、魚群の探査に用いられる漁労用のスキャニングソナー装置は、該スキャニングソナー装置から海中の全方位方向へ、水平面に対して所定の角度θ(以下、この所定の角度θを「俯角θ」という)で、俯角方向の幅が狭い傘状の送波指向特性で超音波(以下、「探査ビーム」という)を送波し、所定の比較的狭い(指向性の強い)受波指向特性を、探査ビームに沿って高速(予め定められた速度)で複数回回転させて観測(スキャン)する装置である(図5(a)参照)。この受波指向特性によるスキャンによって、探査ビームが海中の魚群や岩などの物体から反射してくる反射波を観測する。
【0003】
スキャニングソナー装置は、観測した反射波の強度に応じたデータを、探査ビームを送波してから反射波を観測した時間と、受波指向特性の回転角度とに応じて平面的な画像に展開して海中の物体を平面的な画面に表示する。これは、観測した反射波の強度に応じたデータを受波指向特性の回転に応じた渦巻き状の画像に展開することに相当する(図5(b)参照)。
【0004】
また、図5(b)において、スキャニングソナー装置の表示画面の中心は、該スキャニングソナー装置を装備した船舶を表しており、画面に表示されている観測した反射波を表す範囲の方向φが、海中の物体が存在する方向、すなわち、スキャニングソナー装置を装備した船舶の進行方向に対する物体の方向を表している。
【0005】
また、表示画面の中心から、観測した反射波を表す範囲までの距離Rを、スキャニングソナー装置を装備した船舶から物体までの距離として認識することができる。すなわち、探査ビームは、海中において一定の速度で伝搬するため、物体との距離によって反射波が観測されるまでの時間が異なることを利用して、探査ビームを送波したときから、探査ビームが物体に反射した反射波が観測されるまでの時間を計測し、この計測された時間の半分の時間で伝搬する超音波の距離が物体までの距離となる。
例えば、スキャニングソナー装置に表示された海中の反射波を示す範囲が、表示画面の中心に近い場合は物体との距離が近く、表示画面の中心から遠い場合は物体との距離が遠いことを示す。
【0006】
また、従来のスキャニングソナー装置において認識した魚群を追尾するためには、船舶の操縦者が、該スキャニングソナー装置から送波する探査ビームの俯角θを制御することが必要であった。
そこで、認識した魚群の追尾を容易にするため、追尾対象として指定された反射波、すなわち、目的とする魚群を自動で追尾する、自動追尾の機能を備えたスキャニングソナー装置が提案されている。
【0007】
従来の自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置は、例えば、目的とする魚群の行動特性を、水平方向の移動は深さ方向の移動に比べて十分少ないと仮定し、この仮定に基づいて探査ビームの俯角θを制御することによって魚群の自動追尾を行うものである。すなわち、目的とする魚群が水平方向に移動し、自船舶に近づいてきたときは探査ビームの俯角θを下げ(図5(a)の俯角θを大きくする)、目的とする魚群が遠ざかったときは探査ビームの俯角θを上げる(図5(a)の俯角θを小さくする)ことによって、目的とする魚群を該スキャニングソナー装置の画像表示範囲内に納めるというものである。
【0008】
また、特許文献1の自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置では、探査ビームの俯角θを常に能動的に変化させ、測定の結果得られた反射波の強度に応じたデータに基づいて海中の物体を立体的に認識し、目標とする魚群の俯角θ方向に対する移動を推定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2008−203227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置では、目標とする魚群が仮定外の移動、例えば、深さ方向に移動した場合には、自動追尾を失敗してしまうという問題がある。
また、特許文献1に開示された自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置においては、もともとスキャニングソナー装置では、表示された画像データが対象とする海中の立体的な位置を示すために画像データに加えて俯角θを別に表示しているが、常に能動的に俯角θを変化させて観測を繰り返すと、実際の海中における目標とする魚群の立体的な位置が読み取りにくくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置において、目標とする魚群が移動中と見なせる場合には、俯角θを変化させて能動的に探査することによって、目標とする魚群の仮定外の移動、例えば、深さ方向への移動に対しても追尾を継続し、移動していないと見なせる場合には、俯角θを変化させずに探査することによって、標的とする魚群の位置、更にその特徴や周囲の状況を読み取りやすくすることができるスキャニングソナー装置および追尾方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の追尾方法は、漁労用の船舶等に装備され、所定の俯角を持って送波した超音波の反射を観測して得られた反射波の強度に応じたデータを画像として表示し、前記反射波の強度に応じたデータが一定値以上になる範囲を追尾対象として指定し、追尾するスキャニングソナー装置の追尾方法において、前記追尾対象の反射波を観測して基準となる俯角、およびこの俯角に対して、予め定められた角度だけ上側、下側あるいはその両方の1つ以上の俯角で前記超音波を送波し、前記基準となる俯角で観測して得られた反射波の強度に応じたデータが上側、下側あるいはその両方の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上になる俯角を確定する第1の探査手順と、前記超音波を送波する俯角を前記第1の探査手順によって確定された俯角に固定して前記超音波を送波し、観測して得られた前記追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測する第2の探査手順と、現在の探査手順によって得られた前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータの変化に応じて、次の探査手順を前記第1の探査手順または前記第2の探査手順に設定する探査制御手順と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の前記探査制御手順は、前記第1の探査手順によって観測された前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータが、予め定められた値以上であるときは、次の探査手順を前記第2の探査手順に切り換え、前記第2の探査手順によって観測された前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータが、予め定められた値以下であるときは、次の探査手順を前記第1の探査手順に切り換えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の前記探査制御手順は、前記第1の探査手順によって前記追尾対象の前記反射波を観測した回数が、予め定められた回数以上であるときは、次の探査手順を前記第2の探査手順に切り換えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の前記探査制御手順は、前記第2の探査手順によって前記追尾対象の前記反射波を観測をしている経過時間が、予め定められた時間以上であるときは、次の探査手順を前記第1の探査手順に切り換えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の本発明のスキャニングソナー装置は、漁労用の船舶等に装備され、所定の俯角を持って送波した超音波の反射を観測して得られた反射波の強度に応じたデータを画像として表示し、前記反射波の強度に応じたデータが一定値以上になる範囲を追尾対象として指定し、追尾するスキャニングソナー装置において、前記追尾対象の反射波を観測して基準となる俯角、およびこの俯角に対して、予め定められた角度だけ上側、下側あるいはその両方の1つ以上の俯角で前記超音波を送波し、前記基準となる俯角で観測して得られた反射波の強度に応じたデータが上側、下側あるいはその両方の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上になる俯角を確定する第1の探査手段と、前記超音波を送波する俯角を前記第1の探査手段によって確定された俯角に固定して前記超音波を送波し、観測して得られた前記追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測する第2の探査手段と、現在の探査手段によって得られた前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータの変化に応じて、次の探査手段を前記第1の探査手段または前記第2の探査手段に設定する探査制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動追尾機能を備えたスキャニングソナー装置において、所定の探査シーケンスに従い俯角を変更して基準となる俯角で追尾対象を観測して得られた反射波の強度に応じたデータがその周囲の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上となる俯角を確定するモードと、俯角を固定して追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測するモードとの2つのモードを持ち、観測している追尾対象の反射波の強度に応じたデータの変化、すなわち、追尾している魚群の移動に応じて2つのモードを切り換えることができるようにしたので、目標とする魚群の移動中は、目標とする魚群が仮定外の移動、例えば深さ方向に移動した場合においても追尾を継続し、移動していないと見なせる場合には、標的とする魚群の位置、更にその特徴や周囲の状況を読み取りやすくすることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態によるスキャニングソナー装置の構成を示したブロック図である。図1において、スキャニングソナー装置1は、操作制御部10、探査制御部20、俯角制御部30、送受波部40、表示制御部50、追尾制御部60、から構成される。図1におけるスキャニングソナー装置1は、漁労用の船舶に装備され、海中の魚群を探査する装置である。また、スキャニングソナー装置1は、スキャニングソナー装置1の利用者(操作者)によって指定された魚群(以下、指定された魚群を「追尾標的」という)の追尾を行う。
海中の追尾標的の探査を行う場合、スキャニングソナー装置1は、まず、海中の全方位方向へ水平面に対して所定の俯角θを持った傘状の探査ビームを送波する。続いて、スキャニングソナー装置1は、受波指向特性を高速回転させて探査ビームの反射波を複数回スキャンする。続いて、スキャニングソナー装置1は、スキャンした結果を受波指向特性に応じた平面画像に展開して画面に表示する。
【0018】
なお、スキャニングソナー装置1は、追尾標的を追尾する追尾モードとして、後述する図2に示すような探査モードと、後述する図3に示すような監視モードを持っており、探査モードと監視モードを切り換えて、操作者によって指定された反射波が同等のレベルを示す範囲、すなわち、追尾標的の追尾を行う。
【0019】
操作制御部10は、操作者が操作することによって、本実施形態のスキャニングソナー装置1を制御するための、例えば、キーボードやマウス等の入力装置101を含む制御ブロックである。
操作者が入力装置101を操作して指定した内容は、表示制御部50によって制御される表示装置501に表示される。なお、表示制御部50の表示装置501を介して表示する項目は、操作者が操作制御部10を操作することによって指示することができる。
また、操作制御部10は、操作者によって指示された俯角(以下、「指示俯角θa」という)を俯角制御部30に出力する。また、操作制御部10は、操作者によって指示された、探査ビームの送波の開始を表す探査開始指示信号を送受波部40に出力する。また、操作制御部10は、操作者によって指示された、自動追尾の開始を表す自動追尾開始指示信号を探査制御部20に出力する。また、操作制御部10は、操作者によって指定された、追尾標的を指定する追尾標的設定信号を追尾制御部60に出力する。
また、操作制御部10は、送受波部40から送受波状態を表す送受波状態信号を入力し、表示制御部50の表示装置501を介して、操作者に伝える。
【0020】
俯角制御部30は、送波する探査ビームおよび探査ビームの反射波をスキャンする受波指向特性の俯角を制御するブロックである。
俯角制御部30は、操作制御部10から入力された指示俯角θaに従って、送受波部40によって送波される探査ビームと、探査ビームの反射波をスキャンする受波指向特性の俯角の設定値を出力する。また、俯角制御部30は、追尾制御部60から入力された追尾標的を追尾する俯角および探査制御部20から入力された俯角制御の指示に従って、送受波部40によって送波される探査ビームと、探査ビームの反射波をスキャンする受波指向特性の俯角の設定値を出力する。
【0021】
送受波部40は、俯角制御部30から入力された俯角の設定値に従って、探査ビームを送波し、受波指向特性による探査ビームの反射波のスキャンした結果を表示制御部50と、追尾制御部60に出力するブロックである。なお、送受波部40は、受波指向特性によってスキャンされた探査ビームの反射波の強度に応じたデータを、追尾標的までの距離と、受波指向特性の回転角度とに基づいて、平面的な画像(以下、展開された画像を「フレームデータ」という)に展開し、展開したフレームデータを表示制御部50と、追尾制御部60に出力する。また、現在の送受波状態を表す送受波状態信号を操作制御部10に出力する。送受波部40は、探査ビーム送波部401、受波信号観測部402、フレーム変換部403、から構成される。
【0022】
探査ビーム送波部401は、俯角制御部30から入力された俯角の設定値に従って、探査ビームを送波するブロックである。
受波信号観測部402は、俯角制御部30から入力された俯角の設定値に従って、探査ビームの反射波を観測し、得られた反射波の強度(以下、反射波の強度を「エコー強度」という)に応じたデータ(以下、反射波の強度に応じたデータを「エコー強度データ」という)と、探査ビームを送波してから反射波を観測するまでの時間を追尾標的までの距離Rに変換したデータと、受波指向特性の回転角度φとをフレーム変換部403に出力するブロックである。
フレーム変換部403は、受波信号観測部402から入力されたエコー強度データをフレーム毎に記憶し、記憶したフレーム毎のエコー強度データを、受波信号観測部402から入力された追尾標的までの距離Rと、受波指向特性の回転角度φに基づいて、R−φ座標の平面データに展開したフレームデータを作成し、作成したフレームデータを表示制御部50と、追尾制御部60に出力するブロックである。ここで、平面展開したR−φ座標のフレームデータとは、2次元で表されるX−Y座標系のデータであり、例えば、X方向を受波指向特性の回転角度φとし、Y方向を追尾標的までの距離Rとして示し、エコー強度データを展開したデータである。
【0023】
表示制御部50は、操作制御部10を介して操作者が指示した指示内容および送受波状態信号と、フレーム変換部403から入力されたフレームデータとを、例えば、ブラウン管ディスプレイや液晶ディスプレイ等の表示装置501に表示するブロックである。フレームデータは通常、極座標変換により、地表面と同等の位置関係に変換した後に表示される。なお、表示制御部50の表示装置501への表示内容は、操作者が操作制御部10を操作することによって指示した項目を表示することができる。
【0024】
追尾制御部60は、操作制御部10から入力された追尾標的設定信号に基づいて、フレーム変換部403から入力されたフレームデータから追尾する反射波の範囲(以下、追尾する反射波の範囲を「標的像」という)を特定し、特定した標的像の特徴を抽出するブロックである。また、抽出した特徴に従って、標的像の移動を判断し、次に送波する追尾標的を追尾する俯角を決定する。追尾制御部60は、標的像抽出部601、特徴量算出部602、標的移動判断部603、から構成される。
【0025】
標的像抽出部601は、フレーム変換部403から入力されたフレームデータから標的像を抽出するブロックである。標的像抽出部601は、例えば、フレームデータに含まれるエコー強度データがある一定以上のレベルを示す範囲の面積を抽出して、抽出したデータのR−φ座標とエコー強度データの範囲(面積)を特徴量算出部602に出力するブロックである。
特徴量算出部602は、標的像抽出部601から入力されたR−φ座標とエコー強度データの範囲(面積)とに基づいて、追尾する標的像のエコー強度(以下、「標的像エコー強度」という)を算出し、算出した標的像エコー強度を標的移動判断部603および探査制御部20に出力するブロックである。ここで、標的像エコー強度とは、例えば、標的像内のエコー強度の総和や平均値、標的像内のエコー強度の分布(偏り)等、標的像の特徴を表す指標であり、標的像の移動判断に用いられる。なお、標的像エコー強度は、上述のエコー強度の総和や平均値やエコー強度の分布に限定されるものではなく、標的像の移動を判断するための様々な特徴を表す指標を含むものである。
標的移動判断部603は、特徴量算出部602から入力された標的像エコー強度と探査制御部20から入力された現在の追尾モードの設定とに基づいて、次に追尾標的を追尾するための俯角(以下、「基準俯角θs」という)を決定し、俯角制御部30に出力するブロックである。
【0026】
探査制御部20は、操作制御部10から入力された自動追尾開始指示信号に応じて、特徴量算出部602から入力された標的像エコー強度に基づいて、追尾モードの切り換え、すなわち、探査モードまたは監視モードの切り換えを制御するブロックである。探査制御部20は、遷移条件判定部201、遷移条件検出部202、探査シーケンス部203、から構成される。
【0027】
遷移条件判定部201は、探査条件、すなわち、追尾モード(探査モードまたは監視モード)を決定するブロックである。遷移条件判定部201は、操作制御部10から入力された自動追尾開始指示信号に応じて、最初の追尾モードを決定し、探査シーケンス部203に出力する。その後、遷移条件検出部202から入力される現在の追尾モードにおける標的像エコー強度の判定結果に応じて、次の追尾モードを決定する。
遷移条件検出部202は、特徴量算出部602から入力された標的像エコー強度と、探査シーケンス部203から出力される現在の探査モードにおける俯角制御の指示の内容と、より標的像エコー強度が現在の俯角制御の指示による探査毎、あるいは所定の探査シーケンス毎に、所定の条件を満足する結果であるか否かを判定し、その判定結果を遷移条件判定部201に出力するブロックである。
探査シーケンス部203は、遷移条件判定部201から入力された追尾モードの決定結果に応じて、次に送波する探査ビームの俯角制御の指示を俯角制御部30に出力するブロックである。また、探査シーケンス部203は、現在の追尾モードの設定を標的移動判断部603に出力する。
【0028】
次に、本実施形態のスキャニングソナー装置1が持つ追尾モードについて説明する。スキャニングソナー装置1は、探査ビームおよび受波指向特性の俯角を所定の探査シーケンスに従い変更して追尾標的の最大部を判定する探査モードと、探査ビームおよび受波指向特性の俯角を固定して追尾標的の移動を探査毎に監視する監視モードとの2つのモードを持ち、この2つのモードを切り換えて追尾標的を追尾する。図2は、本実施形態のスキャニングソナー装置1における探査モードの探査の方法を示した図である。また、図3は、本実施形態のスキャニングソナー装置1における監視モードの探査の方法を示した図である。
【0029】
探査モードにおいては、探査シーケンスを複数回繰り返し、1回の探査シーケンスにおいては、図2(a)に示すように、受波指向特性の俯角を、例えば、受波指向特性1(俯角=θ)、受波指向特性2(変更俯角=−Δθ、Δθは、予め定められた固定の値)、受波指向特性3(変更俯角=+Δθ、Δθは、予め定められた固定の値)のように変更し、追尾標的のピークを観測する。このときの受波指向特性によって観測された追尾標的の表示画面の例を図2(b−1)〜(b−3)に示す。この図において、図2(a)の受波指向特性1の表示画面は図2(b−1)、受波指向特性2の表示画面は図2(b−2)、受波指向特性3の表示画面は図2(b−3)である。
図2(a)においては、3回の受波指向特性の俯角制御による1回の探査シーケンスで追尾標的のピークが観測される例を示したが、1回目の探査シーケンスにおいて、俯角θで観測した標的像エコー強度と、その上下の俯角の標的像エコー強度との比較により、追尾標的のピークが上下の俯角より更に外側にあると考えられる場合は、ピークがあると考えられる側の俯角を新たな俯角θとして探査シーケンスを繰り返す。このように、受波指向特性を変更することによって追尾標的のピーク、すなわち、標的像エコー強度の最大値を観測する受波指向特性の俯角、あるいは標的像エコー強度が予め定められた一定値以上となる範囲内へ俯角を向けることができる。このようにして定めた俯角を監視俯角θwとする。
なお、1回の探査シーケンスにおいて、受波指向特性の俯角を変更する回数は限定されるものではなく、探査シーケンスの回数は、後述する図4に示す処理手順によって決定される。また、図2(a)においては、受波指向特性の俯角変更のみを示したが、受波指向特性の俯角変更にともなって探査ビームの俯角変更も行われている。
【0030】
監視モードにおいては、図3(a)に示すように、受波指向特性1の俯角を、例えば、探査モードによって探査した結果で得られた標的像エコー強度の最大値が観測された受波指向特性の監視俯角θwに固定し、追尾標的の移動を観測する。このときの受波指向特性1によって観測された追尾標的の表示画面の例を図3(b−1)〜(b−3)に示す。この図において、図3(a)の受波指向特性1の表示画面は、追尾標的の移動にともない最初が図3(b−1)、次が図3(b−2)、その次が図3(b−3)のように変化する。
このように、受波指向特性を固定して追尾標的を観測することによって追尾標的の俯角方向の移動を検出することができる。
なお、図3(a)においては、3回の観測によって追尾標的の移動を観測している例を示したが、受波指向特性の俯角を固定した追尾標的の移動の観測回数は限定されるものではなく、後述する図4に示す処理手順によって決定される。
【0031】
次に、スキャニングソナー装置1において追尾標的を追尾する処理手順について説明する。図4は、本実施形態のスキャニングソナー装置1における追尾標的を追尾する処理手順を示したフローチャートである。
【0032】
まず、操作者がスキャニングソナー装置1の操作制御部10を操作することによって、自動追尾が開始され、さらにステップS10において追尾標的の指定がされる。
【0033】
続いて、遷移条件判定部201は、ステップS100において、追尾標的の追尾が中止されているか否かを確認し、追尾標的の追尾が中止されている場合は、処理を完了する。ステップS100において追尾標的の追尾が中止されていない場合は、ステップS110に進む。
【0034】
続いて、遷移条件判定部201は、ステップS110において、最初の追尾モードを探査モードに設定し、探査を実行する。
具体的には、探査シーケンス部203によって俯角制御部30に俯角制御の値が指示される。例えば、図2(a)に示すように1回目は指示俯角θa、2回目以降は標的移動判断部603から出力された基準俯角θsに対する変更俯角θ±Δθが探査シーケンスに従い指示される。続いて、俯角制御部30が探査ビームおよび受波指向特性の俯角を設定して送受波部40によって探査を行い、送受波部40から得られたフレームデータから追尾制御部60が標的像エコー強度と次の基準俯角θsを出力する。
【0035】
続いて、遷移条件検出部202は、ステップS111において、追尾標的の存在確率が高い俯角方向へ俯角を設定するための探査シーケンスが継続中であるか否かを判断し、探査シーケンスが継続中である場合は、ステップS100に戻り、追尾の中止の判断と、探査モードによる探査を繰り返す。また、探査シーケンスが継続中でない場合は、ステップS120に進む。
例えば、探査シーケンスが継続中であるか否かの判断は、探査シーケンスが予め定められた所定の回数(例えば3回)、このステップS111を実行したか否かに基づいて行い、所定の回数に達した場合は、ステップS120に進む。
【0036】
続いて、遷移条件検出部202は、ステップS120において、今回の探査による標的像エコー強度が最初の探査結果であるか否かを判断し、最初の探査結果である場合は、ステップS121に進む。最初の探査結果でない場合は、ステップS130に進む。
【0037】
ステップS120において、今回の探査による標的像エコー強度が最初の探査結果である場合は、遷移条件検出部202は、ステップS121において、標的像エコー強度のピークを検出したか否かを確認し、標的像エコー強度のピークを検出した場合は、ステップS200に進む。標的像エコー強度のピークを検出していない場合は、ステップS100に戻り、探査モードによる追尾標的の追尾を繰り返す。
【0038】
一方、ステップS120において、今回の探査による標的像エコー強度が最初の探査結果でない場合、例えば、探査モードで観測した追尾標的を監視モードで監視していたが、追尾標的の移動にともなって再び探査モードによる観測を行った場合は、遷移条件検出部202は、ステップS130において、標的像エコー強度が予め定められた閾値以上の値であるか否かを判定し、標的像エコー強度が予め定められた閾値以上の値である場合は、ステップS200に進み、再び監視モードでの監視を行う。標的像エコー強度が予め定められた閾値以上の値でない場合は、ステップS140に進む。
【0039】
ステップS130において、標的像エコー強度が予め定められた閾値以上の値でない場合は、遷移条件判定部201は、ステップS140において、探査を実行した回数が予め定められた回数以上であるか否かを判定し、探査を実行した回数が予め定められた回数以上である場合は、ステップS200に進み、再び監視モードでの監視を行う。探査を実行した回数が予め定められた回数以上でない場合は、ステップS100に戻り、探査モードによる追尾標的の追尾を繰り返す。
【0040】
続いて、遷移条件判定部201は、ステップS200において、追尾標的の追尾が中止されているか否かを確認し、追尾標的の追尾が中止されている場合は、処理を完了する。ステップS200において追尾標的の追尾が中止されていない場合は、ステップS210に進む。
【0041】
続いて、遷移条件判定部201は、ステップS210において、追尾モードを監視モードに設定し、探査を実行する。
具体的には、探査シーケンス部203が、今までの探査モードによる探査結果において標的像エコー強度の最大値を観測する受波指向特性の監視俯角θwに受波指向特性の俯角を固定する指示がされる。例えば、図3(a)の受波指向特性1に固定する指示がされる。続いて、俯角制御部30が探査ビームおよび受波指向特性の俯角を監視俯角θwに設定して送受波部40によって探査を行い、送受波部40から得られたフレームデータから追尾制御部60が標的像エコー強度を出力する。
【0042】
続いて、遷移条件検出部202は、ステップS220において、標的像エコー強度が予め定められた閾値以下の値であるか否かを判定し、標的像エコー強度が予め定められた閾値以下の値でない場合は、ステップS230に進む。標的像エコー強度が予め定められた閾値以下の値である場合は、ステップS100に戻り、探査モードによる追尾標的の追尾をやり直す。
【0043】
ステップS220において、標的像エコー強度が予め定められた閾値以下の値でない場合は、遷移条件判定部201は、ステップS230において、監視モードによる探査を実行してからの経過時間が予め定められた時間以上であるか否かを判定し、監視モードによる探査を実行してからの経過時間が予め定められた時間以上でない場合は、ステップS200に戻り、監視モードによる探査を繰り返す。監視モードによる探査を実行してからの経過時間が予め定められた時間以上である場合は、ステップS100に戻り、探査モードによる追尾標的の追尾をやり直す。
【0044】
上記に述べたとおり、本発明を実施するための最良の形態によれば、追尾標的を追尾する追尾モードを探査モードと監視モードとの2種類の間で切り換えることができる。このことによって、探査モードで追尾した標的像エコー強度の最大値の移動を監視モードによって即時に確認することができ、監視モードによって追尾している途中で、追尾標的が仮定外の移動、例えば、深さ方向に移動した場合においても探査モードによって再び標的像エコー強度の最大値を観測し、追尾標的の追尾を継続することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、探査モードで観測した追尾標的を監視モードで監視しているときに、追尾標的の移動にともなって再び探査モードによる観測が必要となった場合、2回目以降の探査モードにおいては、監視モードで観測していた標的像エコー強度と同様の閾値によって監視俯角θwを判断することにより、1回目の探査モードにおいて実行していた監視俯角θwを決定するための受波指向特性の俯角を複数回変更した観測を多くの探査シーケンスに渡って実行する必要がない。従って、監視モードで監視していた追尾標的と同等の標的像エコー強度を観測後、直ちに監視モードに移行することができる。このことによって、早急に監視モードに復帰することができ、追尾標的を即時に再確認することができる。
【0046】
なお、本実施形態において、ステップS130およびステップS220による標的像エコー強度と閾値との比較では、閾値を予め定められた値と比較する例を示したが、閾値を追尾開始後の過去の標的像エコー強度を基にした値を基準とし、その値に対する予め定められた割合とすることもできる。
【0047】
なお、上述した実施形態におけるスキャニングソナー装置1の一部、例えば、探査制御部20、または追尾制御部60の機能をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0048】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態によるスキャニングソナー装置の構成を示したブロック図である。
【図2】本実施形態のスキャニングソナー装置における探査モードの探査の方法を示した図である。
【図3】本実施形態のスキャニングソナー装置における監視モードの探査の方法を示した図である。
【図4】本実施形態におけるスキャニングソナー装置において追尾標的を追尾の処理手順を示したフローチャートである。
【図5】スキャニングソナー装置における探査の方法を示した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 スキャニングソナー装置、10 操作制御部、101 入力装置、20 探査制御部、 201 遷移条件判定部、202 遷移条件検出部、203 探査シーケンス部、30 俯角制御部、40 送受波部、401 探査ビーム送波部、402 受波信号観測部、403 フレーム変換部、50 表示制御部、501 表示装置、60 追尾制御部、601 標的像抽出部、602 特徴量算出部、603 標的移動判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁労用の船舶等に装備され、所定の俯角を持って送波した超音波の反射を観測して得られた反射波の強度に応じたデータを画像として表示し、前記反射波の強度に応じたデータが一定値以上になる範囲を追尾対象として指定し、追尾するスキャニングソナー装置の追尾方法において、
前記追尾対象の反射波を観測して基準となる俯角、およびこの俯角に対して、予め定められた角度だけ上側、下側あるいはその両方の1つ以上の俯角で前記超音波を送波し、前記基準となる俯角で観測して得られた反射波の強度に応じたデータが上側、下側あるいはその両方の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上になる俯角を確定する第1の探査手順と、
前記超音波を送波する俯角を前記第1の探査手順によって確定された俯角に固定して前記超音波を送波し、観測して得られた前記追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測する第2の探査手順と、
現在の探査手順によって得られた前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータの変化に応じて、次の探査手順を前記第1の探査手順または前記第2の探査手順に設定する探査制御手順と、
を含むことを特徴とする追尾方法。
【請求項2】
前記探査制御手順は、
前記第1の探査手順によって観測された前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータが、予め定められた値以上であるときは、次の探査手順を前記第2の探査手順に切り換え、
前記第2の探査手順によって観測された前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータが、予め定められた値以下であるときは、次の探査手順を前記第1の探査手順に切り換える
ことを特徴とする請求項1に記載の追尾方法。
【請求項3】
前記探査制御手順は、
前記第1の探査手順によって前記追尾対象の前記反射波を観測した回数が、予め定められた回数以上であるときは、次の探査手順を前記第2の探査手順に切り換える
ことを特徴とする請求項1に記載の追尾方法。
【請求項4】
前記探査制御手順は、
前記第2の探査手順によって前記追尾対象の前記反射波を観測をしている経過時間が、予め定められた時間以上であるときは、次の探査手順を前記第1の探査手順に切り換える
ことを特徴とする請求項1に記載の追尾方法。
【請求項5】
漁労用の船舶等に装備され、所定の俯角を持って送波した超音波の反射を観測して得られた反射波の強度に応じたデータを画像として表示し、前記反射波の強度に応じたデータが一定値以上になる範囲を追尾対象として指定し、追尾するスキャニングソナー装置において、
前記追尾対象の反射波を観測して基準となる俯角、およびこの俯角に対して、予め定められた角度だけ上側、下側あるいはその両方の1つ以上の俯角で前記超音波を送波し、前記基準となる俯角で観測して得られた反射波の強度に応じたデータが上側、下側あるいはその両方の俯角で観測した追尾対象の反射波の強度に応じたデータより同等かそれ以上になる俯角を確定する第1の探査手段と、
前記超音波を送波する俯角を前記第1の探査手段によって確定された俯角に固定して前記超音波を送波し、観測して得られた前記追尾対象の反射波の強度に応じたデータを観測する第2の探査手段と、
現在の探査手段によって得られた前記追尾対象の前記反射波の強度に応じたデータの変化に応じて、次の探査手段を前記第1の探査手段または前記第2の探査手段に設定する探査制御手段と、
を備えることを特徴とするスキャニングソナー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−145223(P2010−145223A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322354(P2008−322354)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】