説明

スキュー角測定装置

【課題】磁極面におけるスキュー角を短時間に、しかも簡易に計測することのできるスキュー角測定装置を提供する。
【解決手段】計測対象物の磁極面に対向配置されて該磁極面と平行な予め定められた基準方向(Z方向)の磁界強度Bzを検出する第1の磁気センサ、および前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向(X方向)の磁界強度Bxを検出する第2の磁気センサと、これらの第1および第2の磁気センサにてそれぞれ検出された磁界強度Bx,Bzからその合成磁界の向きを求め、この合成磁界の向きと前記基準方向とがなす角を前記磁極面における磁極のスキュー角γとして求める演算手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや磁気ヘッドの磁性面における磁極のスキュー角を簡易に計測することのできるスキュー角測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転子に組み込まれるマグネット(永久磁石)の磁極は、通常、コギングトルクを軽減するべく、その回転軸と平行な軸に対して所定の角度だけ傾けて形成される。この磁極の傾き角度は、スキュー角と称される。またこのようなスキュー角を有する磁極面の形成は、例えばその着磁対象物(例えば円筒状のヨーク)を回転させながら、同時に軸方向に移動させながら着磁することによって行われる(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
一方、上述したモータ等の磁極面におけるスキュー角を測定する装置として、マグネットと磁気センサとを相対的に移動させながら、複数の検出点において上記磁気センサによりそれぞれ求められる着磁状態のプロファイルを解析して、具体的にはマグネットの回転角度に対する磁極のゼロクロス位置、エネルギ中心位置、磁極のピーク位置等からスキュー角を求めることが提唱されている(例えば特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開昭63−257444号公報
【特許文献2】特開平2000−19237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述した手法においては、マグネットの回転角度に対する磁極のゼロクロス位置等からその着磁状態のプロファイルを解析してスキュー角を求めるので、その解析処理に多大な負担が掛かることが否めない。しかも、例えばマグネットを回転させながら複数の検出点における着磁状態をそれぞれ検出することが必要なので、そのプロファイルの解析までに時間が掛かることが否めない。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、モータの回転子等の磁極面におけるスキュー角を短時間に、しかも簡易に計測することのできるスキュー角測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明に係るスキュー角測定装置は、磁極面における磁極のスキュー角を検出するものであって、
<a> モータの回転子等の計測対象物の磁極面に対向配置されて該磁極面と平行な予め定められた基準方向の磁界強度を検出する第1の磁気センサ、および前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向の磁界強度を検出する第2の磁気センサと、
<b> これらの第1および第2の磁気センサにてそれぞれ検出された磁界強度からその合成磁界の向きを求め、この合成磁界の向きと前記基準方向とがなす角を前記磁極面における磁極のスキュー角として求める演算手段と
を具備したことを特徴としている。
【0007】
ちなみに前記磁極面は、例えばモータの回転子のように磁性材により構成されて円筒面をなすものであって、前記基準方向は上記円筒面の軸方向として設定される。また前記第1および第2の磁気センサは、好ましくは前記磁極面に対して垂直に近接配置される棒状のプローブの先端に、該プローブの軸方向に対してその磁界検出方向をそれぞれ直交させて一体に組み込まれた、例えばホール素子からなる。
【発明の効果】
【0008】
上記構成のスキュー角測定装置によれば、計測対象物の磁極面に対向配置される第1および第2の磁気センサを用いて上記磁極面と平行な予め定められた基準方向の磁界強度、および前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向の磁界強度をそれぞれ計測するだけで、これらの各磁界強度から求められる合成磁界の向きから簡易に前記磁極面のスキュー角を求めることができる。
【0009】
具体的には磁極面の近傍における磁界は、該磁極面を構成するN極とS極との境界線に対して直交する向きに生じる。従って前述した第1および第2の磁気センサを用いて基準方向およびこの基準方向に直交する方向の磁界強度をそれぞれ求めれば、これらの各方向の磁界強度のベクトル合成成分として上記N極とS極との間に生じた磁界の向きを検出することができる。そしてこの磁界は上述したようにN極とS極との境界線に対して直交する向きに生じるものであるので、その磁界の向きから上記N極とS極との境界線の向き、つまり磁極面における磁極のスキュー角を簡易に検出することが可能となる。
【0010】
従って本装置によれば、基本的には第1および第2の磁気センサを先端部に組み込んだプローブを磁極面と垂直に近接配置するだけで、該磁極面に対してプローブ(第1および第2の磁気センサ)を相対的に移動させることなく、簡易に、しかも短時間に効率的に磁極面のスキュー角を計測することができる。
また第1および第2の磁気センサを、前記磁極面に対して垂直に近接配置される棒状のプローブの先端に、該プローブの軸方向に対してその磁界検出方向をそれぞれ直交させて一体に組み込んでおけば、磁極面に対する第1および第2の磁気センサの位置合わせを簡易に行うことができるので、その計測作業を簡易に行い得る等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るスキュー角測定装置について、スキュー角測定機能を備えたガウスメータを例に説明する。
図1はこの実施形態に係るスキュー角測定機能を備えたガウスメータ(スキュー角測定装置)の概略構成図で、1は測定対象物の一例であるモータの回転子(ロータ)を示している。この回転子(測定対象物)1は、円筒状に成形された磁性体からなり、その円筒面に複数のN極とS極とをその周方向に交互に配置して構成される。これらのN極およびS極は、回転子1の軸方向に対してそれぞれ所定の傾きをなして形成されており、この傾きがスキュー角と称される。
【0012】
ガウスメータ(スキュー角測定装置)は、上記回転子(測定対象物)1の磁性面(円筒面)に対して垂直に近接配置される扁平棒状のプローブ2と、このプローブ2の先端部に組み込まれた磁気センサを介して検出される前記磁性面近傍の磁界強度から、前記磁性面における磁極のスキュー角等を検出する測定装置本体3とからなる。ちなみにプローブ2は、例えば図2に示すように3つの磁気センサ2x,2y,2zの磁気検出方向を互いに直交させてその先端部に一体に組み込んだ3次元型のものからなる。具体的には上記3つの磁気センサ2x,2y,2zは、棒状のプローブ2の軸方向をY方向としたとき、該プローブ2の幅方向(水平方向)をX方向、およびその厚み方向(垂直方向)をZ方向として、これらの各方向にそれぞれ沿って設けられており、X方向、Y方向、およびZ方向の磁界強度Bx,By,Bzをそれぞれ独立に検出し得るように構成されている。これらの磁気センサ2x,2y,2zは、例えばホール効果素子からなる。
【0013】
本装置においては、プローブ2の先端部の扁平な面を上下面とし、その上下方向を前記回転子(測定対象物)1の軸方向に合わせて該プローブ2を磁性面(円筒面)に対して垂直に近接配置することで、上述したZ方向の磁界強度Bzを検出する磁気センサ2zを、前記磁極面に対向配置されて該磁極面と平行な予め定められた基準方向(軸方向)の磁界強度を検出する第1の磁気センサとし、またX方向の磁界強度Bxを検出する磁気センサ2xを、前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向(周方向)の磁界強度を検出する第2の磁気センサとしてそれぞれ用いるものとなっている。尚、プローブ2は、前記回転子(測定対象物)1の周面における磁界が最も安定していると看做し得る該周面の中腹部(中央部領域)に近接させて対向配置される。
【0014】
一方、測定装置本体3は、その入力インターフェースとして前記各磁気センサ2x,2y,2zをそれぞれ介して測定対象物1の磁界強度を、前述したX方向,Y方向,およびZ方向毎にそれぞれ分解して検出する3つのセンシングアンプ3x,3y,3zと、これらの各方向毎に検出された磁界強度Bx,By,Bzを互いに関連付けて記憶するメモリ4とを備える。また前述した回転子(測定対象物)1が回転機構5により支持され、その回転軸を中心に回転可能に設けられている場合には、前記測定装置本体3は上記回転機構5による回転子(測定対象物)1の回転角θを検出し(回転角検出手段6)、検出した回転角を前述した磁界強度Bx,By,Bzに関連付けて前記メモリ4に記憶する機能を備える。このようにしてメモリ4に、その回転角θと共に磁界強度Bx,By,Bzを対応付けて書き込むことで、回転子(測定対象物)1の周方向における各位置での磁界強度がそれぞれ求められる。
【0015】
また測定装置本体3は、例えばマイクロプロセッサを主体として構成されるものであって、上述した如く検出した前記回転子(測定対象物)1の各回転位置での磁界強度Bx,By,Bzから各回転位置での真の磁界強度Bを求める磁界計算部11、上記磁界の偏角αを求める偏角計算部12、上記磁界の伏角βを求める伏角計算部13、そして前記回転子(測定対象物)1の磁性面における磁極のスキュー角γを求めるスキュー角計算部14を備える。
【0016】
尚、これらの計算部11,12,13,14は、予め設定された動作プログラムに従って比較・演算処理を実行する前記マイクロプロセッサの演算処理機能により実現される。また測定装置本体3には、前述した磁気センサ2x,2y,2zの検出感度を設定したり、更には各種の測定モードを選択指定する為の操作部15が設けられると共に、上記各計算部11,12,13,14によりそれぞれ求められた処理結果を表示する為の出力部(例えばディスプレイ)16が設けられる。
【0017】
さて上述した如く構成されたガウスメータ(スキュー角測定装置)を用いた回転子(測定対象物)1の磁性面における磁極のスキュー角γの測定は、図3に上記回転子(測定対象物)1の磁性面を展開して示すように該磁性面の中央部領域に対して前述したプローブ2を垂直に近接配置し、第1の磁気センサ2zを上記磁性面と平行にして前記回転子1の軸方向(Z方向;基準方向)に沿って位置付けると共に、第2の磁気センサ2xを前記磁性面と平行で、且つ上記基準方向と直交する方向(X方向)に位置付けて行われる。そして第1の磁気センサ2zにて前記磁性面の近傍におけるZ方向の磁界強度Bzを検出すると共に、第2の磁気センサ2xにて前記磁性面の近傍におけるX方向の磁界強度Bxを検出することによって行われる。この際、本発明に係るスキュー角γの測定とは直接関係はないが、第3の磁気センサ2yを用いて前記磁性面と垂直な方向(Y方向)の磁界強度Byも同時に検出される。
【0018】
ここで前記回転子(測定対象物)1の磁性面の近傍に発生する磁界について簡単に説明すると、上記磁界は図4に模式的に示すようにN極からS極に向けて上記磁性面と垂直な方向(Y方向)に円弧を描くように生じる。従って磁性面に近接配置されたプローブ2の先端部に設けられた3つの磁気センサ2x,2y,2zにて前述したX方向、Y方向、およびZ方向の各磁界強度Bx,By,Bzをそれぞれ検出すれば、図5に示すようにこれらの磁界強度Bx,By,Bzのベクトル合成成分として、その検出位置における磁界強度Bとその向きとをそれぞれ求めることができる。
【0019】
前述した磁界計算部11は、このようなX方向、Y方向、およびZ方向の各磁界強度Bx,By,Bzをベクトル合成処理することで、その磁界強度Bを
B=(Bx+By+Bz1/2
として求めている。またこの磁界の向きは、例えばX方向に対する偏角αと、X-Y平面に対する伏角βとにより示され、前述した偏角計算部12は上記偏角αを
α=tan−1(Bx/By)
として、また伏角計算部13は上記伏角βを
β=tan−1[Bz/(Bx+By1/2
としてそれぞれ算出するものとなっている。
【0020】
また前述した磁性面(X-Z平面)と平行な面における上記磁界の向きは前述した図3に示すようにN極とS極との境界線に対して垂直である。換言すればプローブ2が受ける磁界の大きさ(強度)とその向きは、該プローブ2が位置付けられる磁性面上の位置に応じて3次元的に変化するが、上述した磁性面(X-Z平面)と平行な面における上記磁界の向きだけに着目すれば、その磁界の向きはN極とS極との境界線の向きに対して直角であると言える。
【0021】
従って或る位置において前記プローブ2を介して検出される前述したX方向およびZ方向の磁界強度Bx,Bzから、図6に示すように前記磁性面(X-Z平面)における磁界の向きを求めれば、この磁界の向きと直角な方向を前記N極とS極との境界線の向きとして、つまり磁極のスキュー角γとして検出することが可能となる。具体的には前述したスキュー角計算部14は、N極とS極との境界線の向きと基準方向(Z方向)とがなす角が、上記磁界の向きと上記基準方向に直交する向き(X方向)とのなす角に等しいことから、磁極のスキュー角γを
α=tan−1(Bz/Bx)
として計算している。
【0022】
尚、前記磁性面(X-Z平面)と平行な面における磁界の強度はN極とS極との境界線上において最も強くなり、またN極およびS極の各磁極中心点において実質的に零(0)となる。従って前述したプローブ2を介して検出されるX方向およびZ方向の磁界強度Bx,Bzが零(0)となるような場合には、その検出位置を若干ずらし、X方向およびZ方向の磁界強度Bx,Bzがそれぞれ検出し得るように調整するだけで、磁極のスキュー角γを容易に検出することが可能となる。またX方向またはZ方向の磁界強度Bx,Bzが最大となるように位置調整すれば、その検出位置をN極とS極との境界線上に位置付けることが可能となるので、その計測精度を十分に高めることが可能となる。
【0023】
以上説明したように本発明に係るガウスメータ(スキュー角測定装置)によれば、磁極面に対向配置されて該磁極面と平行な予め定められた基準方向(軸方向;Z方向)の磁界強度Bzを検出する第1の磁気センサ2zと、前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向(周方向;X方向)の磁界強度Bxを検出する第2の磁気センサ2xとを備えたプローブ2を用いて上記磁極面近傍の磁界を検出するので、上記基準方向(軸方向;Z方向)の磁界強度Bzと、該基準方向に垂直な方向(周方向;X方向)の磁界強度Bxとから容易に磁極のスキュー角γを測定することができる。しかも測定対象物1とプローブ2とを相対的に移動させることなく、静的に上記測定対象物1における磁極のスキュー角γを簡易に測定することができる。
【0024】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば前述したように円筒状の測定対象物1が回転自在に設けられているような場合には、測定対象物1を回転させてプローブ2による磁界検出位置をその周方向に走査しながら、磁界面における周方向の各位置にてそれぞれ検出されるスキュー角γを平均化して、その磁極のスキュー角γを求めるようにしても良い。またプローブ2を円筒状の測定対象物1における磁界面(周面)沿わせてその軸方向に移動させることで、N極とS極との境界線の全域に亘るスキュー角γの変化を求めることも可能である。
【0025】
またここではX方向、Y方向およびZ方向の3つの磁気センサ2x,2y,2zを備えたプローブ2を用いたが、スキュー角γだけを検出するのであれば、X方向およびZ方向の2つの磁気センサ2x,2zを備えるだけで十分である。またプローブ2が1個の磁気センサ2xしか備えていない場合には、該プローブ2をそのY軸(プローブの軸方向)を中心に90°回転させ、水平状態および垂直状態において磁界検出をそれぞれ実行することで上記1個の磁気センサ2xを第1の磁気センサおよび第2の磁気センサとして兼用することの可能である。またここでは円筒状の磁極面における磁極のスキュー角を検出する例について説明したが、平板状の磁極面や所定の円弧面をなす磁極面における磁極のスキュー角を検出する場合にも同様に適用することができる。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るガウスメータ(スキュー角測定装置)の要部概略構成図。
【図2】3つの磁気センサを先端部に一体に組み込んだプローブの要部概略構成を示す図。
【図3】円筒状の検出対象物の展開した磁性面と、この磁性面の近傍の磁界を検出するプローブとの関係を示す図。
【図4】円筒状の検出対象物の磁性面の近傍に発生する磁界の様子を模式的に示す図。
【図5】検出対象物の磁性面の近傍に発生する磁界Bと、3つの磁気センサによりそれぞれ検出される磁界Bx,By,Bzとの関係を示す図。
【図6】磁性面における磁極のスキュー角γと第1および第2の磁気センサによりそれぞれ検出される磁界Bx,Bzとの関係を示す図。
【符号の説明】
【0027】
1 検出対象物(モータの回転子)
2 プローブ
2x,2y,2z 磁気センサ(ホール効果素子)
3 測定装置本体(マイクロプロセッサ)
4 メモリ
11 磁界計算部
12 偏角計算部
13 伏角計算部
14 スキュー角計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極面に対向配置されて該磁極面と平行な予め定められた基準方向の磁界強度を検出する第1の磁気センサ、および前記磁極面と平行で、且つ上記基準方向に垂直な方向の磁界強度を検出する第2の磁気センサと、
これらの第1および第2の磁気センサにてそれぞれ検出された磁界強度からその合成磁界の向きを求め、この合成磁界の向きと前記基準方向とがなす角を前記磁極面における磁極のスキュー角として求める演算手段と
を具備したことを特徴とするスキュー角測定装置。
【請求項2】
前記磁極面は、磁性材により構成されて円筒面をなすものであって、前記基準方向は上記円筒面の軸方向として設定されるものである請求項1に記載のスキュー角測定装置。
【請求項3】
前記第1および第2の磁気センサは、前記磁極面に対して垂直に近接配置される棒状のプローブの先端に、該プローブの軸方向に対してその磁界検出方向をそれぞれ直交させて一体に組み込まれたものである請求項1に記載のスキュー角測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate