説明

スギ花粉由来の新規ポリペプチドおよび当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びにそれらの利用

【課題】スギ花粉症の診断や治療に有用な新規アレルゲンを提供する。
【解決手段】165アミノ酸残基からなる新規スギ花粉アレルゲンである、ポリペプチド(CJP8)。CJP8はトウヒ属 Picea abies由来のLipid transfer protein(LTP)と33.1%の相同性を有し、マメ科植物 Medicago属由来のLTP/Par allergenと27.1%の相同性を有するものである。CJP8は、スギ花粉症患者の血清IgEと高い反応頻度(37.5%)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スギ花粉由来の新規ポリペプチドおよび当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びにそれらの利用に関するものである。より具体的には、花粉や果物由来のパンアレルゲンとして知られているLipid transfer protein (LTP)と相同性を有し、スギ花粉症患者の血清IgEと高い反応頻度を示す新規スギ花粉アレルゲン、および当該新規スギアレルゲンをコードするポリヌクレオチド、並びにそれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スギ花粉症は、スギ林から早春に飛散するスギ花粉を吸収することによって起こるアレルギー疾患であり、鼻炎や皮膚炎、喘息発作などの即時型のアレルギー反応を誘発するものである。近年、スギ花粉症の患者数は急増し、深刻な社会問題となっている。
【0003】
スギ花粉症は、スギ花粉症のアレルギー反応を誘発するアレルゲン(以下「スギ花粉アレルゲン」と称す)を免疫系が認識することが引き金となって発症することが知られており、これまでに、いくつかのスギ花粉アレルゲンが同定されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、ペクテート・リアーゼ活性を有するタンパク質であるCry j1が開示されており、非特許文献2には、ペクチンを加水分解するポリメチルガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質であるCry j2が開示されている。また、特許文献1には、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動によって測定した分子量が57,000〜67,000ダルトンであり、等電点が7.0〜9.0の範囲にあるアレルゲンが開示されている。さらに、本発明者らは、イソフラボンレダクターゼ様のアレルゲンであるCJP−6の同定(例えば非特許文献3を参照のこと)および上記Cry j1およびCry j2の異性体の同定に成功している(例えば非特許文献4を参照のこと)。さらに本発明者らは、キシログルカンエンドトランスグルコシラーゼおよびヒドロラーゼ活性を有するスギアレルゲンCPA121を同定することに成功した(例えば特許文献2を参照のこと)。
【特許文献1】特開2001−151797号公報(公開日:平成13(2001)年6月5日)
【特許文献2】特開2006−217830号公報(公開日:平成18(2006)年8月24日)
【非特許文献1】Yasueda, H. et al., J. Allergy Clin. Immunol., 71, 77-86 (1983).
【非特許文献2】Sakagucji, H. et al., Allergy, 45, 309-312 (1990)
【非特許文献3】Kawamoto S. et al., Clin. Exp. Allergy, 32, 1064-1070(2002)
【非特許文献4】Fujimura, T. et al., Int. Arch. Allergy Immunol., 133, 125-135 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スギ花粉アレルゲンは主要アレルゲンの他に多種多様なアレルゲンの存在が示唆されているにも関わらず、上記のごとく同定されているスギ花粉アレルゲンの種類は非常に少ないというのが現状である。これまで同定されたアレルゲン以外のスギ花粉アレルゲンによってスギ花粉アレルギーが誘発される場合も多いため、スギ花粉症患者各人に適した診断や治療を行うためには、より多くのスギ花粉アレルゲンを同定し、スギ花粉アレルゲンに関するデータを蓄積する必要がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スギ花粉症の診断や治療に有用な新規スギ花粉アレルゲン、および当該新規スギアレルゲンをコードするポリヌクレオチド、並びにそれらの代表的な利用例を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、トウヒ属 Picea abies由来のLTPやマメ科植物 Medicago属由来のLTP/Par allergenと相同性を有し、かつスギ花粉症患者の血清IgEと高い反応頻度を示す新規ポリペプチド(「CJP8」という)を、スギ(Cryptomeria japonica)から見出すことに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるポリペプチドは、スギ花粉に含まれるアレルゲンであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、アレルゲン活性を有することを特徴としている。
【0009】
上記本発明にかかるポリペプチドは、トウヒ属 Picea abies由来のLTP(Plant Molecular Biology 12: 461-478, 2000 GenBank Accession # BAA23548.1)と33.1%の相同性を有し、マメ科植物 Medicago属由来のLTP/Par allergen(GenBank accession # ABE91051.2)と27.1%の相同性を有するものであった。また本発明にかかるポリペプチドは、スギ花粉症患者の血清IgEと高い反応頻度(37.5%)を示した。かかるポリペプチドは、スギから見出されておらず新規ポリペプチドであるといえる。それゆえ、本発明にかかるポリペプチドは、新規スギアレルゲンとしてアレルギー診断用薬剤や治療用薬剤等に応用することができる。
【0010】
また本発明にかかるポリペプチドは上記ポリペプチドの一部分であって、スギ花粉症患者由来のT細胞を増殖させる活性を有することを特徴とするポリペプチドであってもよい。
【0011】
上記ポリペプチドは、本発明にかかるポリペプチドのうち、特にスギ花粉症患者のT細胞によって特異的に認識されるエピトープを含んでいるので、アレルゲンとして作用し得る。よって、アレルギー診断用薬剤や、スギ花粉症患者に対する減感作療法の治療用薬剤等に利用することができる。
【0012】
また本発明にかかるポリヌクレオチドは上記本発明にかかるポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0013】
そして本発明にかかるポリヌクレオチドは下記の(c)または(d)のいずれかであってもよい:
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有するポリヌクレオチド。
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0014】
上記本発明にかかるポリヌクレオチドによれば、上記本発明にかかるポリペプチドを遺伝子工学的手法によって簡便かつ大量に生産することが可能となる。
【0015】
また本発明は、上記ポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクターを包含する。上記本発明にかかるベクターによれば、上記本発明にかかるポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することができる。よって、本発明にかかるポリペプチドを宿主細胞において発現させることができる。さらには、公知の無細胞タンパク質合成系を用いて本発明にかかるポリペプチドを合成することもできる。
【0016】
また本発明は上記本発明にかかるベクターを用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法をも包含する。さらに本発明は、上記本発明にかかるポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体をも包含する。上記形質転換体には、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されているので、当該形質転換体を有性生殖または無性生殖、もしくは培養等することにより、本発明にかかるポリペプチドを簡便かつ大量に生産することができる。
【0017】
また本発明にかかる抗体は、上記本発明にかかるポリペプチドと結合することを特徴としている。よって、本発明にかかる抗体によれば、上記本発明にかかるポリペプチドの検出を行うことができる。
【0018】
また本発明は、上記本発明にかかるポリヌクレオチドにおける少なくとも一部、またはその相補鎖が基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具を包含する。上記構成によれば、上記ポリヌクレオチドまたはその相補鎖をプローブとして、当該プローブとハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出することができる。したがって、種々の生物またはその組織もしくは細胞において、本発明のポリヌクレオチドの検出を行うことができる。
【0019】
また本発明は、上記本発明にかかるポリペプチドが基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具を包含する。また本発明は、上記本発明にかかる抗体が基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具を包含する。上記構成によれば、アレルゲン活性を有するポリペプチドや、それと結合する抗体等が基板上に固定化されているので、当該ポリペプチドや抗体と相互作用する物質を検出することができる。
【0020】
また本発明は、本発明にかかるポリペプチドを含むことを特徴とするアレルギー診断用薬剤を包含する。本発明にかかるペプチドは、スギ花粉症患者血清中のIgE抗体と結合し得るため、当該ポリペプチドを用いて皮内テストを行う、または被験者の血清を用いてELISAを行うことによって、被験者の血清中のIgE抗体の有無を検出することができる。よって本発明にかかるアレルギー診断薬剤は、スギ花粉アレルギーの診断に利用することができる。
【0021】
また本発明は、上記本発明にかかるポリペプチドを含むことを特徴とする治療用薬剤を包含する。上記本発明にかかるポリペプチドはスギ花粉アレルゲンである。よって当該ポリペプチドを含む薬剤は、スギ花粉アレルギーに対する減感作療法等における治療用薬剤として用いることができる。
【0022】
さらに本発明は、上記本発明にかかる抗体を含むことを特徴とする治療用薬剤を包含する。上記抗体は、スギ花粉アレルゲンと特異的に結合することができる。よって、本発明にかかる抗体を含む治療用薬剤を、スギ花粉症患者に投与すれば、本発明にかかる抗体が体内に侵入したスギ花粉アレルゲンをトラップし、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子架橋形成を阻害することができ、スギ花粉症の症状を改善することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、新規スギ花粉アレルゲンである。それゆえ、スギ花粉アレルギー診断薬や、スギ花粉症に対する減感作療法用の治療用薬剤等として好適に利用することができるという効果を奏する。また、従来公知のスギ花粉アレルゲンと組み合わせることによって、患者毎に最適な治療薬を提供することができる。また本発明はスギ花粉症の発症メカニズムの解明にも寄与し得る。それゆえ、スギ花粉症の根治または根絶にも本発明は奏効する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明にかかるポリペプチド、当該ポリペプチドをコードする遺伝子、およびこれらの利用について詳述する。
【0025】
(1)本発明にかかるポリペプチド
本発明にかかるポリペプチドは、スギ花粉に含まれるアレルゲンであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、アレルゲン活性を有することが好ましい。
【0026】
ここで上記「スギ」とは、スギ属の植物(Cryptomeria japonica)であれば、その種類は特に限定されない。上記「アレルゲン活性」とは、肥満細胞上のIgEと結合し、アトピー性の人に即時型アレルギー反応を引き起こす活性のみならず、単に血清中のIgEと結合する活性をも含むものとする。
【0027】
上記「1個又はそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、特に限定されるものではないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであることを意味する。
【0028】
このように、上記(b)のポリペプチドは、上記(a)のポリペプチドの変異体である。なお、ここでいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0029】
他の実施形態において、本発明にかかるポリペプチドは、N型糖鎖結合部位を含んでいてもよい。N型糖鎖とは、糖タンパク質の糖鎖のうち、タンパク質のアスパラギン残基に結合している糖鎖のことであり、N−アセチルグルコサミン2個とマンノース3個の基本構造からなる。
【0030】
なお、本発明にかかるポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合タンパク質であってもよい。したがって、本発明にポリペプチドは、既に説明した構造以外に、他の構造を含む複合タンパク質であってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0031】
また、本発明にかかるポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。このようなポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HisやMyc、Flag等によって本発明にかかるポリペプチドがエピトープ標識されるような場合が挙げられる。
【0032】
一方、本発明にかかるポリペプチドを取得する方法は、特に限定されるものではない。例えば、後述する本発明にかかるポリヌクレオチド(すなわち本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を宿主細胞に導入して、目的のポリペプチドを細胞内で発現させ当該細胞から単離してもよいし、細胞外に発現させてもよい。また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、他のタンパク質とつながった融合タンパク質として発現させてもよい。さらに本発明にかかるポリペプチドは、無細胞系によって合成されたものであってもよいし、化学合成されたものであってもよい。さらに、本発明にかかるポリペプチドは、スギ花粉から分離精製されたものであってもよい。また、スギ花粉からの分離精製方法は特に限定されるものではないが、例えば、スギ花粉抽出液をゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、等の従来公知の手法を用いて精製すればよい。
【0033】
本発明にかかるポリペプチドは、上記ポリペプチドの一部分であって、特にスギ花粉症患者のT細胞によって特異的に認識されるエピトープ(以下「T細胞エピトープ」と称する)を含む部分断片であってもよい。すなわち、本発明にかかるポリペプチドに含まれる部分断片であって、スギ花粉症患者由来のT細胞を増殖させる活性を有するポリペプチド(以下の説明において便宜上「本発明にかかる部分断片」という)も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
上記「スギ花粉症患者由来のT細胞を増殖させる活性を有する」とは、スギ花粉症患者由来の末梢血単核細胞群(T細胞が多く含まれる)を、被検体であるポリペプチドの存在下で培養したときの当該末梢血単核細胞群のDNA合成速度が、当該ポリペプチドの非存在下で培養したときの2倍以上(より好ましくは5倍以上)の速度にする活性のことを意味する。ここで「スギ花粉症患者」とは、スギ花粉アレルゲンに感作され、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体を体内で産生し、医師の認めるところの当該臨床所見を呈したヒトのことを意味する。特にスギ花粉アレルゲンに対するRAST値が高値(例えば3以上)を示す者のことを意味する。
【0035】
なお上記T細胞は、体内に取り込まれたアレルゲンを認識し、IgE抗体の産生を促す細胞である。したがって、T細胞がアレルゲンを認識する能力が低下すれば、当該アレルゲンに対するIgE抗体の産生量は低下し、それに伴い当該アレルゲンによって誘発されるアレルギー反応は沈静化する。そこで減感作療法では、微量のアレルゲンを当該アレルゲンに対してアレルギー反応を誘発する患者に投与することにより、当該アレルゲンに対するT細胞の感受性を低下させる。したがって、本発明のポリペプチド(本発明の部分断片を含む)は、スギ花粉症患者に対する減感作療法において利用することができる。
【0036】
本発明の部分断片の同定は、適宜公知の方法を用いて行うことが可能である。例えば以下のようにして同定することができる。まず本発明にかかるペプチドのオーバーラップペプチドを合成する。ここで「オーバーラップペプチド」とは、本発明にかかるポリペプチドのアミノ酸配列に基づき、N末端からC末端に至る全アミノ酸残基をカバーするペプチドのことである。かかるオーバーラップペプチドは、市販されているペプチド自動合成装置により容易に合成することができる。これらのオーバーラップペプチドの中から、スギ花粉症患者由来のT細胞を増殖させる活性を有するオーバーラップペプチド、すなわち少なくとも一つのT細胞エピトープを含むオーバーラップペプチドを同定すればよい。
【0037】
またT細胞エピトープを同定するためには、スギ花粉症患者の末梢血リンパ球から、本発明にかかるポリペプチドを特異的に認識し増殖応答するT細胞ラインを樹立する必要がある。一般に、患者毎に反応するT細胞エピトープが異なるため、患者毎にT細胞ラインを樹立することが望ましい。
【0038】
T細胞ラインの樹立するためには、下記のようにすればよい。
(i)まず、スギ花粉症患者の末梢血リンパ球を本発明にかかるポリペプチドの存在下で7日間程度培養することによることによって、抗原刺激によるT細胞の活性化を行う。
(ii)次に、活性化されたT細胞を抗原と抗原提示細胞と共に7日間培養を数回繰り返してさらに抗原刺激することにより、抗原特異的T細胞ラインを作製することができる。
【0039】
しかしながら、T細胞が増殖因子のIL−2の存在下でよく増殖している場合は、抗原刺激は最初だけにすることが好ましい。T細胞ラインを数回にわたって抗原刺激すると、増殖率の高いT細胞が選択的に取得され、T細胞エピトープを含むオーバーラップペプチドを同定する場合において、エピトープによっては十分な増殖応答を示さない場合が生じるからである。
【0040】
なお、抗原刺激に使用する本発明にかかるポリペプチドとしては、スギ花粉から取得した天然型のものが最も望ましいが、組換えタンパク質、あるいは上記オーバーラップペプチドの混合物も好適に使用できる。上記本発明にかかるポリペプチドは、大腸菌等の微生物で発現させ、精製したものも利用可能である。
【0041】
また、上記で使用する抗原提示細胞としては、T細胞ラインと同一患者の末梢血リンパ球を、マイトマイシンC処理あるいは放射線照射して増殖能力を失わせたものが望ましい。しかし、患者からの採血回数が多くなるため、下記の対応をしてもよい。すなわちEpstein−Barr virus(EBV)を自己のBリンパ球に感染させトランスフォーメーションを起こさせたものは、in vitroで増殖し続けリンパ芽球様細胞株(B細胞株)となるため、このB細胞株を抗原提示細胞として用いてもよい。B細胞株の樹立方法は既に確立されている(組織培養の技術第二版、187-191 頁、日本組織学会編(1988.8.10)参照)。
【0042】
それぞれの患者固有のT細胞ラインが認識する、T細胞エピトープを含むオーバーラップペプチドは以下のようにして同定される。ここで「認識する」という意味は、T細胞レセプターが抗原エピトープ(MHC分子を含めて)と特異的に結合し、その結果、T細胞が活性化されることを意味し、活性化の状態は、リンホカインの産生や、DNAの合成を [ 3H] チミジンの取込み量を指標として測定することにより観察される。すなわち、T細胞ラインとマイトマイシンC処理した同一人のB細胞株とを、96穴平底プレートに播種し、オーバーラップペプチドと共に混合培養し、 [ 3H] チミジンの取込み量(cpm)を液体シンチレーションカウンターで測定する。その際、 [ 3H] チミジンの取込みは、個々の培養系で異なるため、例えば、個々のペプチドに対するT細胞ラインの [ 3H] チミジン取込み量(cpm)を、抗原を添加していないコントロールの [ 3H] チミジン取込み量(cpm)で除した数(stimulation index:SI)が2以上のものを上記ペプチドと同定する。
【0043】
(2)本発明にかかるポリヌクレオチド
本発明にかかるポリヌクレオチドは、本発明にかかるポリペプチドをコードしている。本発明にかかるポリヌクレオチドには、当該ポリヌクレオチドの変異体も含まれる。上記変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0044】
このような変異体としては、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。上記変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0045】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドも含む。
【0046】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各種1本鎖DNAやRNAをも包含する。アンチセンス鎖は、プローブ等として利用可能である。DNAには、例えばクローニングや化学合成技術又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明にかかるポリヌクレオチドは、本発明にかかるポリペプチドをコードする塩基配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの塩基配列を含むものであってもよい。
【0047】
一実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは下記の(c)または(d)のいずれかであってもよい:
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有するポリヌクレオチド。
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0048】
上記(c)にかかるポリヌクレオチドは、上記本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0049】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0050】
上記ハイブリダイゼーションは、「Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)」に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(すなわちハイブリダイズし難くなる)。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定されないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0051】
本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法としては、公知の技術により本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。より具体的には、例えば、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、当該プローブを用いてゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーに対してスクリーニングを行えばよい。このようなプローブとしては、本発明にかかるポリヌクレオチドまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いかなる配列および長さのものを用いてもよい。
【0052】
また本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法としては、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明にかかるポリヌクレオチドの5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等の増幅反応を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。
【0053】
(3)抗体
本発明にかかる抗体は、本発明にかかるタンパク質と特異的に結合することができる抗体である。上記抗体とは免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0054】
上記抗体は、本発明にかかるポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞の同定などに利用することができる。例えば、本発明にかかるポリペプチドを含む花粉が大気中や屋内の空間またはヒトの粘膜にどの程度存在しているのかを調べるために利用することができる。
【0055】
上記抗体は、種々の公知の方法を用いて作製することができ、作製方法は特に限定されるものではない。例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)等の方法を用いて作製することができる。
【0056】
また、上記抗体には、上記タンパク質に特異的に結合しうる完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab’)フラグメントのような抗体フラグメントも含まれる。FabおよびF(ab’)フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ないため(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))、好ましく用いることができる。
【0057】
(4)本発明にかかるポリペプチド、およびポリヌクレオチドの利用
(4−1)ベクター
本発明にかかるベクターは、上記本発明にかかるポリヌクレオチドを含むものであれば特に限定されるものではない。例えば、上記本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0058】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明にかかる遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかる遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0059】
発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、および大腸菌および他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0060】
上記選択マーカーを用いれば、本発明にかかる遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明にかかるポリペプチドを融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質:GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明にかかるポリペプチドをGFP融合タンパク質として発現させてもよい。
【0061】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当該分野で周知である。
【0062】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明にかかるポリペプチドを昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0063】
このように、本発明にかかるベクターは、少なくとも、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいればよい。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
(4−2)形質転換体
本発明にかかる形質転換体は、本発明にかかるポリヌクレオチドが導入されているものであり、上記「形質転換体」とは、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体を含むことを意味する。
【0065】
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、各種微生物、植物または動物を挙げることができる。
【0066】
本発明にかかる形質転換体は、本発明にかかるポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドが発現し得るように宿主中に導入することによって取得することができる。
【0067】
宿主へのポリヌクレオチドの導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。また、遺伝子を細胞または組織に直接導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。
【0068】
目的のポリヌクレオチドが宿主に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換体からゲノムDNAを調製し、目的のポリヌクレオチドを増幅し得るプライマーを用いてPCRを行えばよい。
【0069】
PCR増幅産物については、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0070】
上記形質転換体を作製し、有性生殖あるいは無性生殖、または培養等することにより、上記形質転換体内で本発明にかかるポリペプチドを生産することができるため、当該ポリペプチドを簡便かつ大量製造することが可能となる。
【0071】
(4−3)ポリペプチドの生産方法
上記本発明にかかるベクターおよび形質転換体を用いることによって本発明にかかるポリペプチドの生産を行うことができる。
【0072】
一実施形態において、本発明にかかるポリペプチドの生産方法は、本発明にかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター(上記本発明にかかるベクター)を用いることを特徴とする。
【0073】
本実施形態の一つの局面において、本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを無細胞タンパク質合成系に用いることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットを用いればよい。好ましくは、本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0074】
本実施形態の他の局面において、本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、組換え発現系を用いることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明にかかるポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能に宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0075】
このように宿主に外来遺伝子(ポリヌクレオチド)を導入する場合、発現ベクターは、外来遺伝子(ポリヌクレオチド)を発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。遺伝子組換え技術を用いて産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0076】
本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、本発明にかかるポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)で実施され得る。
【0077】
また別の実施形態において、本発明にかかるポリペプチドの生産方法は、本発明にかかるポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することによって実施され得る。本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、上述した本発明にかかる抗体を用いて本発明にかかるポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定することによって達成し得る。また、本実施形態にかかるポリペプチドの生産方法は、上述したポリペプチドを精製する工程をさらに包含していてもよい。
【0078】
さらに他の実施形態において、本発明にかかるポリペプチドの生産方法は、目的のポリペプチドを化学合成する方法であってもよい。化学合成の具体的な実施態様は特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかるポリペプチドのアミノ酸配列情報に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明にかかるポリペプチドを化学合成することができる。
【0079】
本発明にかかるポリペプチドの生産方法によって取得されたポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0080】
変異ポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異ポリペプチドを作製することができる。変異ポリペプチドの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0081】
(4−4)検出器具
本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリヌクレオチドにおける少なくとも一部またはその相補鎖が基板上に固定化されたもの、本発明にかかるポリペプチドが基板上に固定化されたもの、または、本発明にかかる抗体が基板上に固定化されたものが含まれる。種々の目的に応じて、本発明にかかるポリペプチド、ポリヌクレオチドの発現パターンの検出などに利用することができる。
【0082】
一実施形態において、本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリヌクレオチドにおける少なくとも一部またはその相補鎖が基板上に固定化されていることを特徴としている。このような検出器具としては、例えば、DNAチップを挙げることができる。上記「DNAチップ」とは、合成したオリゴヌクレオチドを基板上に固定化した合成型DNAチップを意味するが、これに限定されず、PCR産物などのDNAを基板上に固定化した貼付け型DNAマイクロアレイも包含する。
【0083】
基板上に固定するプローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する公知の方法(例えば、SAGE法(Serial Analysis of Gene Expression法)(Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)等が挙げられるがこれらに限定されない)によって決定することができる。
【0084】
また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、当該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置して遺伝子の検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なる遺伝子を並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基板上に固定してDNAチップを構成してもよい。
【0085】
本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、種々の生物またはその組織もしくは細胞から作製したcDNAライブラリーを標的サンプルとする検出に用いることができ、発現しているmRNAの種類、発現レベルの把握や発現解析等を行うことができる。
【0086】
また他の実施形態において、本発明にかかる検出器具は、本発明にかかるポリペプチドまたは抗体が基板上に固定化されていることを特徴とする。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態にかかる検出器具は、いわゆるプロテインチップである。
【0087】
本発明にかかるポリペプチドまたは抗体を基板上に固定化する方法としては、例えば、ニトロセルロース膜やPDVF膜に固定化されるポリペプチドや抗体をドットブロットの要領でスポットする物理吸着法、または、ポリペプチドや抗体の変性を軽減するために、スライドガラス上にポリアクリルアミドのパッドを接合して、これにポリペプチドや抗体をスポットする方法が挙げられる。
【0088】
さらに、ポリペプチドや抗体を基板表面に吸着させるだけでなく、強固に結合させるため、アルデヒド修飾ガラスを利用した方法(G.MacBeath,S.L.Schreiber,Science,289,1760(2000))を用いることもできる。また、基板上でのポリペプチドの配向を揃えて固定化する方法としては、オリゴヒスチジンタグを介して、ニッケル錯体で表面修飾した基板へ固定化する方法(H.Zhu,M.Bilgin,R.Bangham,D.Hall,A.Casamayor,P.Bertone,N.Lan,R.Jansen,S.Bidlingmaier,T.Houfek,T.Mitchell,P.Miller,R.A.Dean,M.Gerstein,M.Snyder,Science,293,2101(2001))を用いることができる。
【0089】
上記検出器具は、例えば種々の生物またはその組織もしくは細胞からの抽出液を標的サンプルとする検出に用いることができ、本発明にかかるポリペプチド等と相互作用する物質を検出することができる。
【0090】
なお、上記「基板」は、目的物(例えば、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質)を担持することのできる物質をいい、「支持体」と交換可能に使用される。好ましい基板(支持体)としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、目的物をこれらの基板に固定化する方法は、特に限定されるものではない。例えば、Nature 357:519−520(1992)に記載の方法を用いることができる。
【0091】
本発明にかかる検出器具に用いる基板の材質としては、目的物を安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
【0092】
(4−5)薬剤
一実施形態において、本発明にかかるアレルギー診断用薬剤は、本発明にかかるポリペプチドを含むことを特徴としている。また本発明にかかるアレルギー診断用薬剤には、記述の部分断片が含まれるものであってもよい。
【0093】
本発明にかかるポリペプチドは、これまでにスギ花粉症の主要アレルゲンとして知られているCry j1やCry j2とは異なる構造を有する新規のスギ花粉アレルゲンである。アレルゲンを認識するIgE抗体は、アレルゲンであるタンパク質の特定の領域(エピトープ)を認識することから、本発明にかかるポリペプチドは、Cry j1やCry j2とは異なるエピトープを有していると考えられる。換言すれば、本発明にかかるポリペプチドを認識する抗体と、Cry j1またはCry j2を認識する抗体とは異なると考えられる。
【0094】
したがって、本発明にアレルギー診断用薬剤を用いることにより、本発明にかかるポリペプチドを認識する抗体を被験者の血清中から検出することで、スギ花粉に対するアレルギー診断を行うことができる。
【0095】
また、本発明にかかる治療用薬剤は、本発明にかかるポリペプチドを含むことを特徴としている。上記本発明にかかるポリペプチドはスギ花粉アレルゲンである。よって当該ポリペプチドを含む薬剤は、スギ花粉アレルギーに対する減感作療法等における治療用薬剤として用いることができる。
【0096】
ところで、スギ花粉症患者に対して減感作療法を行う場合には、当該スギ花粉症患者が保有している抗体により認識されるアレルゲンを当該患者に投与する必要がある。例えば、Cry j1に対する抗体を保有している患者には、Cry j1を投与する必要がある。よって、本発明にかかるポリペプチドに対する抗体を保有するスギ花粉症患者に対しては、本発明にかかるポリペプチドを用いて治療しなければ効果を奏さないと考えられる。しかし、Cry j1やCry j2等のアレルゲンしか見出されていなかったために、スギ花粉症患者に対して減感作療法を行う場合には、主にCry j1やCry j2が当該患者に投与されていた。よって、患者によっては大きな治療効果を得ることができない場合があった。本発明にかかる治療用薬剤は、本発明にかかるポリペプチドが原因で発症しているスギ花粉症を発症しているスギ花粉症患者に対して特に有効であるといえる。
【0097】
また、本発明にかかる抗体は、本発明にかかるポリペプチドを認識することができるので、上記抗体を含む治療用薬剤は、免疫されていない個体に注射して免疫能を賦与する受動免疫に用いることができる。また本発明にかかる抗体を含む治療用薬剤を、スギ花粉症患者に投与すれば、本発明にかかる抗体が体内に侵入したスギ花粉アレルゲンをトラップし、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子架橋形成を阻害することができ、スギ花粉症の症状を改善することができる。
【0098】
本発明にかかる治療用薬剤は通常、本発明にかかるポリペプチドまたは抗体を0.01〜100%(w/w)、好ましくは0.05〜50%(w/w)、さらに好ましくは0.5〜5.0%(w/w)含んでなる。また、減感作療法の治療用薬剤としては、本発明にかかるポリペプチドを0.01〜0.02%(w/w)含んでなることが好ましい。
【0099】
本発明にかかる治療用薬剤は、本発明にかかるポリペプチドまたは抗体が単独で含まれている形態はもとより、それ以外に生理的に許容される、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、プルランなどの担体、賦形剤、免疫助成剤、安定剤、さらには必要に応じてステロイドホルモンやクロモグリク酸ナトリウムなどの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、抗タキキニン剤を含む1種または2種以上の他の薬剤と組み合わせた組成物としての形態を包含する。
【0100】
さらに、本発明にかかる治療用薬剤は、投薬単位形態の薬剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、本発明にかかるポリペプチドまたは抗体を、例えば、1日当たりの用量またはその整数倍(4倍まで)またはその約数(1/40まで)に相当する量を含有し、投与に適する物理的に分離した一体の剤形にある薬剤を意味する。このような投薬単位形態の薬剤としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、口腔剤、シロップ剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
【0101】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0102】
以下、本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0103】
〔方法〕
以下に示す実施例において使用した試薬は、特記しない限り、ナカライデスク株式会社、和光純薬工業株式会社、シグマ社から購入した市販のものを使用した。また、制限酵素等の遺伝子工学用試薬はタカラバイオ株式会社、東洋紡積株式会社、インビトロジェン社等から購入し、販売者の指示に従って使用した。
【0104】
(1.花粉、試薬、患者血清)
スギ花粉は広島県豊田郡豊町三角島にてスギ(Cryptomeria japonica)の雄花より採取し、使用時まで−30℃にて保存した。試薬は特に記載のない限り片山化学工業株式会社(Osaka)より購入した生化学グレードのものを使用した。患者血清はRAST値3以上を示すスギ花粉症患者血清を用いた。陰性対照としての健常者血清は、ボランティアにより提供された。
【0105】
(2.スギ花粉粗抽出物の調製)
スギ花粉80gを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2:136mM NaCl、2.68mM KCl、8.1mM NaHPO、1.47mM KHPO)3.2L中で4℃、4時間攪拌した。攪拌後、6,800gで30分間遠心分離し、得られた上清に終濃度80%飽和(4℃)となるように硫酸アンモニウムを加え、4℃で一晩攪拌した。攪拌後、6,800gで30分間遠心分離し、得られた沈澱を蒸留水に溶解し、蒸留水に対し4℃で一晩透析した。透析後、6,800gで30分間遠心分離し、得られた上清を孔径0.22μmのフィルター(Millipore, Bedford, MA, USA)で濾過した。得られた濾液を凍結乾燥し、約8〜10gの凍結乾燥物をスギ花粉粗抽出物とし、使用時まで−80℃で保存した。
【0106】
(3.スギ花粉cDNAライブラリーの構築)
スギ花粉8gを抽出緩衝液(β−メルカプトエタノール 2.5mlと、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、v/v/v)10mlと、(100mM塩化ナトリウム、10mM EDTA、1% SDS、100mM Tris−HCL、pH8.0、10ml)と混合したもの)中にて破砕し、室温で40分間攪拌した。攪拌後、5,900gにて20分間遠心分離し、得られた上清15mlに等量のフェノールを加え、再び40分間攪拌した。5,900gにて20分間遠心分離し、更に2回同じ操作を繰り返した後、上清に等量のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1、v/v)を加え40分間攪拌した。攪拌後、遠心分離して得られた上清に、1/10量の3M酢酸ナトリウムと等量のイソプロパノールとを加え、暫く静置した。遠心分離後、生じた沈殿を70%エタノールで洗浄し100μlの0.5% ピロ炭酸ジエチルに溶解し、total RNAとした。得られたtotal RANから50μlのOligotexTM-dT30 super (Takara, Kyoto)を用いてpoly (A)+ RNAを精製し、得られたpoly(A)+ RNAを鋳型としてTimeSaverTMcDNA synthesis Kit (Amersham Biotech)を用いて2重鎖cDNAを合成した。より具体的には、得られたpoly (A)+ RNAを鋳型としてキット付属のfirst-strand reaction mixおよびoligo (dT) primerを用いてRT−PCRを行ってcDNAを合成し、得られたfirst-strand cDNAからsecond-strand reaction mixを用いてPCRにより2重鎖cDNAを合成した。得られた2重鎖cDNAをSizeStepTM 400 Spin Columnを用いて精製した後、Eco RI/Not IアダプターをT4 DNA ligaseを用いて付加した。緩衝液や試薬はキット付属のものを説明書の指示に従い添加した。得られたcDNAをλZIPLOX (Life Technologies, Frederick, MD, USA)のNot I/Sal I サイトに組み込み、Gigapack II Plus (Stratagene, La Jolla, CA, USA、登録商標)を使用してファージ粒子にパッケージングし、スギ花粉cDNAライブラリー(約5×104 pfu)を構築した。
【0107】
(4.cDNAの免疫スクリーニングおよびDNA塩基配列決定)
E.coli Y1090株の一晩培養液500μlと、上記で得られたスギ花粉cDNAライブラリー(約5×104 pfu) 100μlを混合し、37℃で15分間静置した後、LB軟寒天培地(0.6%(w/v)寒天)と共にLBプレート上(1.5%(w/v)寒天)に重層し固化させた。42℃にて5時間培養した後、20mM IPTGに浸して乾燥させたHybond-Cメンブレン(Amersham Bioscience)をプレート培地上に重層し、37℃で3時間培養した。培養後、メンブレンを10mM TBST(0.05%(v/v)Tween−20を含む、pH7.4)にて洗浄し、1%(w/v) BSA/TBSTで4℃、一晩ブロッキングを行った後、100倍希釈した抗スギ花粉ウサギ抗血清を1次抗体、HRP-conjugated anti-rabbit IgG (Cell Signaling Technology, Inc., Beverly, MA, USA)を2次抗体とし、ECL-Plus Western blotting detection reagent (Amersham Bioscience)を用いて陽性クローンを可視化した。得られた陽性クローンを、スギ花粉症患者IgEをプローブとした同様の方法で更なるスクリーニングに供した。得られたクローンをSM液(10mM 硫酸マグネシウム、100mM 塩化ナトリウム、0.01%(w/v) ゼラチン、50mM Tris−HCl、pH7.5)中に懸濁し、室温にて5分間混合後、上清25μlをE.coli DH10B株 100μlと混合し、更に5分間懸濁後、LBプレート上で37℃、一晩培養した。培養後のプレートよりシングルコロニーをピックアップし、LB液体倍地に植菌し37℃にて一晩培養した後、得られた培養液からQIAprep Spin Miniprep kit 250 (Qiagen, Inc., Valencia, CA, USA、登録商標)を用いて、ファージミドDNAを精製した。精製はキットの説明書の手順により、大腸菌を溶解緩衝液で溶菌した後、遠心分離により上清を取得し、上清中のファージミドDNAをQIAprep spin column(登録商標)を用いて精製した(各緩衝液はキット付属のものを用いた)。得られたファージミドのインサートcDNA配列を、λZIPLOX 中のT7 promoter及びSP6 promoter領域に対するプライマーを用いたPCRにより増幅し、Thermo sequence fluorescent labelled primer cycle sequence kit with 7-deaza-dGTP (Amersham Bioscience)を用いたサイクルシークエンス法によりABI PRISM 310 Genetic Analyser (PE Biosystems, Norwalk, CT, USA、登録商標)を用いて塩基配列を解析した。更に得られた塩基配列情報を元に5’−および3’−RACE PCRを実施し、全長cDNAをクローニングすると共に、これをpGEM-T easy vector (Promega, USA、登録商標)に挿入して塩基配列を決定した。
【0108】
(5.組換え型CJP8(rCJP8)の発現)
CJP8を、大腸菌シャペロンの一種であるtrigger factor(TF)融合タンパク質(N末端にHis×6、TFとCJP8の間にthrombin切断部位が存在)として発現すべく、CJP8 EXP F (配列番号4:GAAACATATGGCGATGAGAATGAAAAGCAG)およびCJP8 EXP R (配列番号5:GTTGCTCGAGTCAGGGAAATGATTTGAACACG)と命名した2種類のオリゴDNAプライマーを作製した。上記プライマーを用いてスギcDNAを鋳型としてPCR増幅を行った。得られたPCR産物をRAPID PCR PURIFICATION SYSTEM (MARLIGEN BIOSCIENCE INC, USA)を用いて精製し、pGEM-T easy vector(Promega, USA、登録商標)に連結した後、E.coli DH5αにサブクローニングした。37℃で一晩培養後、大腸菌よりプラスミドを精製し、Xho I、Nde I消化して得たCJP8 cDNA断片を同じくXho I、Nde I消化したpCold TF DNA vector (TaKaRa)に連結して発現プラスミドを得た。Rosetta-gami (DE3) pLys S株(Novagen、登録商標)に発現プラスミドを導入し、LB寒天培地に植菌後37℃で一晩培養した。ピックアップしたシングルコロニーをLB液体培地(15μg/ml kanamycin、34μg/ml chloramphenicol、12.5μg/ml tetracycline、50μg/ml ampicillin)5ml×2本で一晩前培養し、その培養液を2×YT培地(15μg/ml kanamycin、34μg/ml chloramphenicol、12.5μg/ml tetracycline、50μg/ml ampicillin)600ml×2本に植え継ぎ、37℃で本培養した。OD600が0.5に達した時点で、15℃で30分間冷却した。冷却後、終濃度1.0mMになるようにIPTGを添加し、15℃で24時間培養し、分子シャペロン融合タンパク質(TF−rCJP8)として発現させた。培養液を8,500rpm、4℃、20分間 遠心分離して、集菌した。集菌した菌体を30ml×2本のPBSに懸濁し、4℃で液が透明になるまで超音波破砕をした。破砕後、12,000rpm、4℃、20分間遠心分離し、上清を可溶性画分に、沈殿を不溶性画分とした。
【0109】
(6.IgE免疫染色)
12.5%濃度のアクリルアミドゲルを用いたLaemmliの不連続緩衝系により非還元条件下でSDS-PAGEを行い、0.25%(w/v) Coomassie brilliant blue (CBB)を用いてタンパク質の可視化を行った。免疫染色はCJP8をSDS−PAGE後、PVDF膜(Immobilon P, Millipore, Bedford, MA, USA)に転写し、ブロッキング緩衝液(5%(w/v) skim milk、 1%(w/v) BSA、0.05%(v/v)Tween-20、 PBS、pH7.4)にてブロッキング後、1次抗体(20倍希釈した花粉症患者血清IgE)と共にインキュベートした。インキュベート後、30,000倍希釈したBIOTINYLATED ANTI‐HUMAN IgE (Epsilon Chain Specific Vector Laboratories, Inc., 30 Ingold Road, Burlingame, CA, USA)を2次抗体、15,000倍希釈したhorseradish peroxidase (HRP)-conjugated streptavidin (Zymed)を増感剤として行い、陽性バンドをECL-advance Western blotting detection reagent (Amersham Bioscience)とX線フィルム(Fuji Photo Film, Tokyo)を用いて可視化した。
【0110】
(7.rCJP8の精製)
上記(5.組換え型CJP8(rCJP8)の発現)に記載の方法より得た可溶性画分に、終濃度40mMとなるようにイミダゾールを加え、孔系0.22μmのフィルターを通したものをサンプルとした。精製はAKTAクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare UK Ltd.)を利用して行われた。His-trap HP 5ml columnを接続し、イミダゾール濃度40〜500mMへのLinear gradientで溶出した。溶出画分をプールし、PD-10 columnを利用して超純水(MilliQ水)に溶媒置換し、凍結乾燥を行って濃縮した。凍結乾燥物をthrombin cleavage buffer(20 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 2.5 mM CaCl2, pH8.37)に溶かし、ブラッドフォード法でタンパク質を定量した。TF−rCJP8:thrombin=1mg:100Uになるようにthrombinを加え、28℃で4時間消化した。そして、thrombin消化物をPD-10 columnを用いて超純水(MilliQ水)に溶媒置換し、溶液10mlに対してプロテアーゼインヒビターカクテル(Complete Mini, EDTA-free , Roche社)を1錠加えた。本Thrombin消化後のサンプルをSDS−PAGE(12.5%ゲル)後、ネガティブゲル染色MSキット(wako)にて染色し、negative 像で現れるrCJP8のバンドをメスで切り出した。切り出したゲルをエチレンジアミン四酢酸ナトリウムで脱色し、超純水(MilliQ水)で10分間、3回洗浄した。そして、予め10%(w/v)SDS入り20mM Tris−HCl buffer(pH8.0)を300μl添加しておいた1.5mlチューブにゲルを入れてスパチュラで粉砕した後、ローターにて一晩4℃で振とうし、目的成分をゲルから抽出した。抽出終了後、PD-10 columnを用いて超純水(MilliQ水)に溶媒置換し、凍結乾燥で濃縮した。
【0111】
(8.ELISAによるスギ花粉症患者IgEとの結合試験)
rCJP8を2μg/mlとなるようにbicarbonate buffer(0.1mM NaHCO3、pH9.42)で希釈し、50μl(100ng)ずつELISAプレートにコートした。同時にHuman IgE standardもbicarbonate bufferで希釈し50μlずつELISAプレートにコートし、室温で2時間静置した。ELISA washing buffer(4mM Na2HPO4・12H2O、0.77mM NaH2PO4、150mM NaCl、0.05%(w/v)Tween20 )で3回洗浄後、Blocking buffer(3%(w/v)スキムミルク、1% BSA)を200μlアプライし、4℃で一晩静置した。再度、ELISA washing bufferで3回洗浄後、RAST値が4〜5のスギ花粉症患者8検体の血清、または健常者の8検体の血清をBlocking bufferで10倍希釈した溶液を50μlずつアプライし、室温で2時間静置した。Blocking bufferを、血清希釈液の代わりに50μlアプライし、室温で2時間静置した区分を標準とした。その後、再度、ELISA washing bufferで3回洗浄後、Blocking bufferで10,000倍希釈したAnti-Human IgE Biotin Conjugateを50μlずつアプライし、室温で2時間静置した。その後、ELISA washing bufferで4回洗浄後、Blocking bufferで1,000倍希釈したAlkaline Phosphatase-Conjugated Streptavidinを50μlずつアプライし、室温で1時間静置した。その後、ELISA washing bufferで6回洗浄後、AttoPhos(登録商標) Substrateを50μlずつ加え、WALLAC ARVOTM SX(PerkinElmer, Inc.)で435nmの吸光度を測定した。
【0112】
〔結果〕
(I.Lipid transfer proteinと相同性を有する新規スギ花粉アレルゲンの同定)
スギ花粉cDNAライブラリーを、ウサギ抗スギ花粉症粗抗原を用いた発現クローニングに供し、陽性クローンを20個取得した。続いてこれらを、スギ花粉症患者血清IgEを用いた二次スクリーニングに供した結果、12個の陽性クローンを単離した。これらの塩基配列解析を行ったところ、その中の「CJP8」と命名したクローンが、Lipid transfer protein(LTP)と相同性を有することが判明した。LTPは果物や花粉などにおける交差反応アレルゲンとして注目されていることから、本抗原に着目して更に詳細な解析を加えることにした。
【0113】
(II.CJP8の全長cDNAのクローニングと一次構造解析)
CJP8のcDNAの塩基配列と、CJP8の予想アミノ酸配列を図1に示す。
【0114】
CJP8は927bpのcDNAからなり、498bpのORF(配列番号2)から構成されていた。塩基配列から推定されるアミノ酸数は165で、このアミノ酸配列から予想されるCJP8の分子量は17.4kDa、予想される等電点(PI)は7.45だった。さらに本配列中には9個のシステイン残基(図1中丸印で示す)と、5ヶ所のN型糖鎖結合領域(図1中の下線部)が存在していた。CJP8の全長cDNAの塩基配列を配列番号3に示し、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0115】
決定された塩基配列より推定されるアミノ酸配列の相同性検索を、DDBJのBLAST検索を用いて行った。その結果を図2に示す。図2に示すようにCJP8は、植物Picea abies由来のLTPと33.1%の相同性を有することが明らかとなった。さらにMedicago truncatulaのLTPホモログ(LTP/Par allergen)とも相同性(27.1%)を示した。また興味深いことにCJP8のシステイン残基の数および位置は、モモの主要アレルゲンであるPru p 3、リンゴのアレルゲンMal d 3、花粉アレルゲンPar j 1のそれと比較した場合、高く保存されていることが判明した。
【0116】
(III.大腸菌発現系による組換え型CJP8(rCJP8)の発現と精製)
「5.組換え型CJP8(rCJP8)の発現」記載の方法で得られた可溶性画分を、SDS−PAGEにより分画し、CBB染色によってタンパク質を検出した結果、およびスギ花粉症患者血清IgEを用いてウエスタンブロット解析を行った結果を図3に示す。図3のレーン1は可溶性画分のCBB染色パターン、レーン2は公知のスギ花粉アレルゲンCry J1のCBB染色パターンであり、レーン3は可溶性画分のウエスタンブロット解析パターン、レーン4はCry J1のウエスタンブロット解析パターンである。TF−CJP8およびCry J1の分子量を、図3中に矢印で示す。
【0117】
図3によれば、rCJP8とTFとの融合タンパク質(TF−CJP8)が可溶性画分に発現していることが確認された(図3レーン1参照)。TF−CJP8とスギ花粉症患者血清IgEとの結合活性をウエスタンブロット解析にて調べた結果、陽性シグナルが検出され、CJP8がスギ花粉アレルゲンであることが示された(図3レーン3参照)。
【0118】
続いてTF−CJP8をthrombin消化に供してTFタグを切り離し、rCJP8精製標品を得た結果を図4に示す。図4のレーン1は分子量マーカー、レーン2はthrombin消化前のTF−CJP8(thrombinを含む)、レーン3はrCJP8精製標品のそれぞれのCBB染色結果を示す。図4によればrCJP8が精製されたことが確認できる(図4レーン3参照)。
【0119】
(IV.rCJP8の免疫化学的特性の解析)
精製されたrCJP8とスギ花粉症患者IgEとの反応性をELISAにより検討した結果を図5に示す。
【0120】
健常者8検体の示す平均値に標準偏差の3倍を加えた値(図5の破線)より高値を示したものを陽性と判定したところ、患者8検体中3検体(37.5%)がrCJP8に対して陽性であった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のように、本発明にかかるポリペプチドは、スギ花粉症患者の血清IgEと高頻度に反応することができるため、スギ花粉アレルゲンとして用いることが可能となる。そのため、新規アレルゲンとして、アレルギー診断用薬剤や治療用薬剤等に利用することができ、製薬産業等に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】CJP8のcDNAの塩基配列と、CJP8の予想アミノ酸配列を示す図である。
【図2】CJP8のアミノ酸配列、およびCJP8のアミノ酸配列と相同性を示すLTPのアミノ酸配列を示す図である。
【図3】TF−CJP8を含む可溶性画分をSDS−PAGEに供しCBB染色を行った結果を示す図、およびTF−CJP8を含む可溶性画分とスギ花粉症患者血清IgEとの結合活性をウエスタンブロット解析にて調べた結果を示す図である。
【図4】TF−CJP8をthrombin消化に供してrCJP8を精製した結果を示す図である。
【図5】rCJP8とスギ花粉症患者IgEとの反応性をELISAで検討した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スギ花粉に含まれるアレルゲンであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、アレルゲン活性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドの一部分であって、スギ花粉症患者由来のT細胞を増殖させる活性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
下記の(c)または(d)のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のポリヌクレオチド:
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有するポリヌクレオチド。
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリペプチドと結合することを特徴とする抗体。
【請求項6】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターを用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法。
【請求項8】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法。
【請求項10】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドにおける少なくとも一部、またはその相補鎖が基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項11】
請求項1または2に記載のポリペプチドが基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項12】
請求項5に記載の抗体が基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項13】
請求項1または2に記載のポリペプチドを含むことを特徴とするアレルギー診断用薬剤。
【請求項14】
請求項1または2に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする治療用薬剤。
【請求項15】
請求項5に記載の抗体を含むことを特徴とする治療用薬剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−82061(P2009−82061A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255559(P2007−255559)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】