説明

スクリュ流体機械

【課題】ロータ軸の吐出側に安価で省スペースの軸封構造を有するスクリュ圧縮機を提供する。
【解決手段】ロータ室3内に収容された雌雄咬合するスクリュロータ4により対象気体を圧縮するスクリュ圧縮機1において、スクリュロータ4とスクリュロータ4のロータ軸7の吐出側の軸受11との間に非接触シール15と、非接触シール15と軸受11との間でロータ軸7の外周に嵌装したスリーブ18と、スリーブ18の外周に摺接するリップシール16と、非接触シール15とリップシール16との間の空間9をリップシール16の耐用圧力以下の低圧空間5に連通させる連通路20とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュ流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータ室内に収容された雌雄咬合するスクリュロータで対象気体を圧縮するスクリュ圧縮機や、ロータ室内で対象気体を膨張させて雌雄咬合するスクリュロータを回転させる縮リュエキスパンダなどのスククリュ流体機械では、対象気体を系内に封止、或いは、対象気体に外気などが混入するのを防止するために、ロータ軸のスクリュロータと軸受との間に軸封構造が設けられる。
【0003】
特許文献1に記載されているように、従来のスクリュ圧縮機では、吸込側の軸封装置としてリップシールが用いられ、吐出側の軸封装置としてメカニカルシールが用いられている。
【0004】
リップシールは安価で省スペースの軸封装置であるが、一般に、封止可能な最大圧力が0.3kgf/cm程度である。このため、リップシールは、高圧となる吐出側では軸封が不十分になったり耐久性が著しく低下するおそれがあるので、低圧の吸込側の軸封にのみ使用可能である。一方、メカニカルシールは、高圧の軸封が可能であるが、非常に高価であると共に設置のためのスペースが大きいという問題がある。
【特許文献1】特開2000−45948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記問題点に鑑みて、本発明は、ロータ軸の高圧側に安価で省スペースの軸封構造を有するスクリュ流体機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明によれば、ロータ室内に収容された雌雄咬合するスクリュロータにより対象気体を圧縮または前記対象気体の膨張力を回転力に変換するスクリュ流体機械において、前記スクリュロータと前記スクリュロータのロータ軸の高圧側の軸受との間に非接触シールと、前記非接触シールと前記軸受との間で前記ロータ軸の外周に嵌装したスリーブと、前記スリーブの外周に摺接するリップシールと、前記非接触シールと前記リップシールとの間の空間を前記リップシールの耐用圧力以下の低圧空間に連通させる連通路とを設けたものとする。
【0007】
この構成によれば、非接触シールによって対象気体や潤滑流体(潤滑油やシール水など)をロータ室内に略封止し、非接触シールから僅かに漏出した対象気体や潤滑流体をリップシールで完全に封止して軸受に浸入させない。さらに、連通路を設けたことで、スクリュロータ側から非接触シールとリップシールとの間の空間に僅かに漏出する対象気体および潤滑流体を低圧空間に排出する。これによって、漏出した対象気体によって圧力が上昇することを防止できるので、リップシールに過大な圧力が加わることがなく、リップシールのシール性が損なわれたり、リップシールが短時間で損耗することがない。また、この軸封構造は、非接触シールとリップシールとで構成するので、安価であり、設置スペースも小さくて済む。また、リップシールは、ロータ軸に直接当接せず、スリーブに摺接することでロータ軸を封止するので、さらに摩耗が少なく寿命が長い。
【0008】
また、本発明のスクリュ流体機械において、前記低圧空間は、前記対象気体の吸込流路、または、前記ロータ室の低圧部であってもよい。
【0009】
この構成によれば、非接触シールから漏出した対象気体および潤滑流体をロータ室に戻すことができるので、系外に排出せずに回収して再利用することができる。これによって、対象気体や潤滑流体のロスを防ぐことができ、無駄がない。
【0010】
また、本発明のスクリュ流体機械において、前記リップシールと前記軸受との間の空間を外部に連通させる開放流路を設けてもよい。
【0011】
この構成によれば、リップシールが摩耗するなどして潤滑流体が軸受側に漏出した場合にも、漏出した潤滑流体を外部に排出するので、軸受に潤滑流体が流入して不具合を生じさせることを防止できる。
【0012】
また、本発明のスクリュ流体機械において、前記スクリュロータと前記非接触シールとの間の前記ロータ軸に軸封流体を供給する軸封流体流路を設けてもよい。
【0013】
この構成によれば、軸封流体によって非接触シールの軸封効果が高くなり、スクリュ流体機械の効率を向上させられる。
【0014】
また、本発明のスクリュ流体機械において、前記リップシールの前記ロータ軸対する接触部に螺旋溝を形成してもよい。
【0015】
この構成によれば、リップシールの軸封能力が高くなる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のスクリュ流体機械のロータ軸の吐出側の軸封構造は、非接触シールでスクリュロータの高圧の吐出圧を略封止する。さらに、連通路で非接触シールから僅かに漏出する対象気体や潤滑流体を低圧部に排出して非接触シールの軸受側の圧力が上昇することを防止することにより、対象気体や潤滑流体が軸受に流入しないようにリップシールで完全に封止することを可能にする。このため、本発明のスクリュ流体機械は、安価で省スペースの軸封構造を有する。また、リップシールをロータ軸に嵌装したスリーブに摺接させることで、リップシールの摩耗を低減し、長寿命にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態のスクリュ圧縮機1を示す。スクリュ圧縮機1は、ハウジング2のロータ室3内に収容された雌雄咬合する一対のスクリュロータ4で、潤滑流体(潤滑油や水)を含む対象気体(例えば、空気や冷媒など)を圧縮するスクリュ流体機械である。
【0018】
ハウジング2には、ロータ室3に圧縮すべき対象気体を供給する吸込流路5と、ロータ室3内でスクリュロータ4によって圧縮された対象気体を排出する吐出流路6と、スクリュロータ4のロータ軸7を吸込側(低圧側)および吐出側(高圧側)で、それぞれ、支持および軸封する構造を設置するための軸受軸封空間8,9が設けられている。
【0019】
ロータ軸7は、吸込側の軸受軸封空間8内に設置されたころ軸受10と、吐出側(高圧側)の軸受軸封空間9内に設置された2つの玉軸受11とで回転可能に支持され、吸込側の軸受軸封空間9を貫通して延伸し、不図示のモータに接続される。
【0020】
ころ軸受10の前記モータ側には、モータ側への異物(ころ軸受10のグリスなど)の浸入を防ぐリップシール12が設置され、ころ軸受10のスクリュロータ4側には、ころ軸受10のグリスがスクリュロータ4側に流出しないように封止するリップシール13と、吸込流路5からころ軸受10側に対象気体や潤滑流体が浸入しないように封止するリップシール14とが設けられている。
【0021】
スクリュロータ4と玉軸受10との間の吐出側の軸受軸封空間9には、スクリュロータ4側から順に、ラビリンスシール15、リップシール16およびリップシール17が設けられている。ラビリンスシール15は、ロータ軸7に嵌合してロータ軸7とともに回転するロータと、該ロータと接触しないように軸受軸封室9の内壁に嵌合して固定されたステータとからなる公知の非接触シールである。また、ロータ軸7の外周にはラビリンスシール15と玉軸受11との間にスリーブ18が締まりばめで嵌装され、リップシール16および17は、ロータ軸7と一体に回転するスリーブ18の外周に摺接するようになっている。リップシール16は、ラビリンスシール15側からの対象気体の浸入を封止する向きに設置され、リップシール17は、玉軸受11からのグリスなどの流出を防止する向きに設置されている。スリーブ18は、外周面に、WC(タングステンカーバイト)やクロミア(酸化クロム)などの材料を溶射して、耐摩耗性を高めることが好ましく、リップシール16,17は、PTFE(4フッ化エチレン樹脂)等からなるものが好ましい。
【0022】
また、ハウジング2には、リップシール13とリップシール14との間の軸受軸封空間8を外部に連通させる開放流路19と、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9を吸込流路5に連通させる連通路20とが設けられている。
【0023】
続いて、前記スクリュ圧縮機1の作用について説明する。
スクリュ圧縮機1のスクリュロータ4は、吸込流路5から対象気体を吸い込んで圧縮し、吐出流路6から吐出する。よって、当然に、吸込流路5は、リップシール16の耐用圧力(例えば、約0.3kgf/cm)よりも低圧である。このとき、対象気体中に含まれる潤滑流体は、雌雄のスクリュロータ4の間およびスクリュロータ4とロータ室3内壁との間の潤滑とシールをする。
【0024】
吐出側のロータ軸7とハウジング2との隙間からは、圧縮された対象気体の圧力により、潤滑流体と対象気体とが流出しようとする。ラビリンスシール15は、ロータ軸7周りの軸受軸封空間9をステータとロータとの間の入り組んだ形状の微少な隙間だけを残して封止している。潤滑流体や対象気体は、ラビリンスシール15の隙間の流路抵抗のために、殆どスクリュロータ4側から軸受10側へとラビリンスシール15を通過することができない。僅かにラビリンスシール15の隙間を通過することができた潤滑流体や対象気体も、ラビリンスシール15の流路抵抗によってその圧力を失う。
【0025】
これによって、潤滑流体や対象気体は、ラビリンスシール15を通過しても、その圧力がリップシール16の耐用圧力よりも小さくなり、リップシール16によって完全に遮断されるので、玉軸受11側に浸入することができない。
【0026】
仮に、連通路20がなく、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9が密閉空間であれば、僅かずつラビリンスシール15を通して漏出した潤滑流体や対象気体が蓄積される。すると、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸封空間9内の物質量が増加して、その内部圧力を増大させる。ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9内の圧力がリップシール16の耐用圧力を超えると、リップシール16を変形または破損させて、潤滑流体や対象気体が玉軸受11側に浸入する。
【0027】
しかしながら、本実施形態のスクリュ圧縮機1には、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9を吸込流路5に連通させる連通路20が設けられているので、ラビリンスシール15の隙間を通過した潤滑流体や対象気体は、連通路20を介して吸込流路5に排出される。これによって、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9では、圧力が上昇せず、リップシール16の密封状態が保たれる。
【0028】
また、軸受軸封空間9の圧力が上昇しないことは、リップシール16を破損させたり、短時間で摩耗させることがなく、リップシールの寿命を長くすることに寄与する。また、リップシール16およびリップシール17をロータ軸7に嵌装したスリーブ18に摺接させることは、リップシール16,17の摩耗をさらに低減して、さらなる長寿命化を可能にする。
【0029】
また、軸受軸封空間9から吸込流路に排出された潤滑流体や対象気体は、再びロータ室3内に吸い込まれてスクリュロータ4により圧縮されるので、系外に排出されて損失になることはない。
【0030】
本実施形態のスクリュ圧縮機1において使用するラビリンスシール15およびリップシール16は、従来のスクリュ圧縮機において使用していたメカニカルシールと比べて、設置スペースが小さく、安価である。このため、本実施形態のスクリュ圧縮機1は、従来のスクリュ圧縮機よりも安価に提供できる。また、ラビリンスシール15は、非接触であるので、メカニカルシールのように摩耗することがなく、維持コストも低い。
【0031】
続いて、図2に本発明の第2実施形態のスクリュ圧縮機1を示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態のスクリュ圧縮機1において、連通路20は、ロータ室3の吸込側に近い中間圧力部に接続されている。この中間圧力部の圧力は、リップシール16の耐用圧力よりも十分に低い圧力である。なお、この第2実施形態のスクリュ圧縮機1は、潤滑流体に水を採用した、いわゆる水潤滑式のものである。
【0032】
また、ハウジング2には、ロータ軸7のスクリュロータ4とラビリンスシール15との間に、潤滑流体と同じ水を軸封流体として供給するための軸封流体流路21が設けられており、ロータ軸7には、軸封流体流路21から供給された水をロータ軸7の全周に行き渡らせる環状溝22が設けられている。
【0033】
これによって、ハウジング2とロータ軸7との隙間を軸封流体の水で満たし、対象気体をハウジング2とロータ軸7との間から漏出させない。ひいては、ラビリンスシール15から漏出する対象気体の量が非常に少なくなる。
【0034】
さらに、ハウジング2には、リップシール16とリップシール17との間の軸受軸封空間9を外部に連通させて大気開放する開放流路23が設けられている。
【0035】
これによって、リップシール16の寿命による摩耗などの原因で、万一、軸封流体の水がリップシール16を超えて玉軸受11側の軸受軸封空間9に浸入しても、その水は、開放流路23から外部に排出されるので、玉軸受11の内部に浸入して不具合を引き起こすことがない。
【0036】
さらに、図3に本発明の第3実施形態のスクリュ圧縮機1の細部を示す。図示しない部分の構成および図中で第2実施形態と同じ符号を付した構成要素は、第2実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0037】
本実施形態では、第2実施形態のラビリンスシール15に代えて、ロータ軸7に周囲に突出する外ねじ状の螺旋部24を設けることで螺旋シールを構成している。この螺旋シールによっても、軸封流体流路21から供給された軸封流体の水が、リップシール16側の軸受軸封空間9に漏出することを略抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、リップシール16のロータ軸7に対する接触部に螺旋溝25が形成されている。螺旋溝25は、リップシール16の封止能力を高めることができる。
【0039】
続いて、図4に本発明の第4実施形態のスクリュ圧縮機1を示す。本実施形態において、第1実施形態または第2実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態のハウジング2には、開放流路23と同様に、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9とを外部に連通させて大気開放する開放流路26が設けられている。
【0040】
開放流路26を設けたことで、ラビリンスシール15を通過した潤滑流体や対象気体は、開放流路26から外部に放出されるので、ラビリンスシール15とリップシール16との間の軸受軸封空間9の圧力を上昇させることがない。
【0041】
また、圧縮される対象気体が蒸気である場合、開放流路23,26にセラミック湿度センサを設けることでラビリンスシール15およびリップシール16のシール性が適正に維持されているか否かを確認することができる。さらに、湿度センサの測定値を監視して所定の値以上になったときに、警告メッセージを表示するような自動監視装置を設けてもよい。
【0042】
また、シール性を向上させるために、リップシール13,14,16,17を、それぞれ、軸方向に複数配設してもよい。
【0043】
尚、上記の第1乃至第4実施形態は、スクリュ圧縮機に係るものであるが、本発明は、スクリュエキスパンダ(膨張機)にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態のスクリュ圧縮機の概略断面図。
【図2】本発明の第2実施形態のスクリュ圧縮機の概略断面図。
【図3】本発明の第3実施形態のスクリュ圧縮機の概略部分断面図。
【図4】本発明の第4実施形態のスクリュ圧縮機の概略断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 スクリュ圧縮機(スクリュ流体機械)
2 ハウジング
3 ロータ室
4 スクリュロータ
5 吸込流路
6 吐出流路
7 ロータ軸
9 軸受軸封空間
11 玉軸受
15 ラビリンスシール(非接触シール)
16 リップシール
18 スリーブ
20 連通路
21 軸封流体流路
23 開放流路
25 螺旋溝
26 開放流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ室内に収容された雌雄咬合するスクリュロータにより対象気体を圧縮または前記対象気体の膨張力を回転力に変換するスクリュ流体機械において、
前記スクリュロータと前記スクリュロータのロータ軸の高圧側の軸受との間に非接触シールと、
前記非接触シールと前記軸受との間で前記ロータ軸の外周に嵌装したスリーブと、
前記スリーブの外周に摺接するリップシールと、
前記非接触シールと前記リップシールとの間の空間を前記リップシールの耐用圧力以下の低圧空間に連通させる連通路とを設けたことを特徴とするスクリュ流体機械。
【請求項2】
前記低圧空間は、前記対象気体の吸込流路、または、前記ロータ室の低圧部であることを特徴とする請求項1に記載のスクリュ流体機械。
【請求項3】
前記リップシールと前記軸受との間の空間を外部に連通させる開放流路を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のスクリュ流体機械。
【請求項4】
前記スクリュロータと前記非接触シールとの間の前記ロータ軸に軸封流体を供給する軸封流体流路を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスクリュ流体機械。
【請求項5】
前記リップシールの前記スリーブに対する接触部に螺旋溝を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスクリュ流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−196312(P2008−196312A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29270(P2007−29270)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】