説明

スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法

【課題】良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができるスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法を提供することを目的とする。
【解決手段】半田ペーストを基板に印刷するスクリーン印刷において、半田ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて版離れ動作における初期停留時間T0を所定のタイマー値として予め設定しておき、スキージング動作後の版離れにおいて、初期停留時間T0が経過した後に半田ペーストの粘度が回復した状態で基板10のマスクプレート12からの離隔を開始させる。これにより、版離れにおける半田ペーストの型崩れを抑制して、良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーストを基板に印刷するスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品を基板に半田接合する際の半田供給方法として、スクリーン印刷による方法が知られている。この方法では、マスクプレートに設けられたパターン孔を介して半田粒子をフラックス成分に含有させた半田ペーストが基板の電極面に印刷され、マスクプレートの下面に基板を当接させた状態でマスクプレートの上面でスキージを摺動させるスクリーン印刷機構を備えたスクリーン印刷装置が用いられる(例えば特許文献1)。
【0003】
スクリーン印刷において良好な印刷品質を確保するためには、パターン孔内へ確実に半田ペーストを充填させる充填性とともに、充填後にマスクプレートを基板の下面から離隔させる版離れの際に、半田ペーストをパターン孔から型くずれすることなく離脱させる版離れ性が良好であることが求められる。このため、スクリーン印刷動作においては、基板をマスクプレートから離隔させる際の動作速度や動作パターンを、使用される半田の性状に合わせて最適に設定する各種の試みがなされている。
【0004】
例えば、上述の特許文献例においては、基板がマスクプレートから離れる際に、パターン孔内における半田ペーストの流動を促進させるような動きを付与することにより、半田ペーストの粘度を低下させて版離れ性を向上させるようにしている。
【特許文献1】特開平7−80083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年電子部品の用途の多様化や環境保護の観点から、従来一般に用いられていた半田と異なる組成の半田が電子部品の半田接合用に用いられるようになっている。例えば、環境保護の要請からは有害な半田成分をほとんど含まない鉛フリー半田が広く用いられるようになっており、また車載用の電子機器にはアクリル系の樹脂をフラックス成分として用いた車載用半田が用いられる。
【0006】
これらの半田ペーストは、従来のPb−Sn共晶半田をロジン系など汎用のフラックス中に含有させた半田ペーストと比較して、性状や粘度特性が大きく異なっており、従来の版離れ動作パターンをそのまま適用することが難しくなってきている。すなわち、鉛フリー半田を構成する錫系合金はPb−Sn共晶半田よりも比重が小さいことから、自重による版抜け作用が小さく、形状が崩れやすいという特徴がある。さらにフラックスとしてアクリル系の樹脂を用いたものでは、チキソ比が小さいことに起因して、版離れ時の型崩れを誘発しやすい。このように、鉛フリー半田を用いた半田ペーストの印刷においては、版離れ時の形状の保持が難しく、良好な印刷品質を確保することが困難であるという課題があった。
【0007】
そこで本発明は、良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができるスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスクリーン印刷装置は、パターン孔が形成されたマスクプレートの下面に基板を当接させ、ペーストを前記パターン孔を介して基板に印刷するスクリーン印刷装置であ
って、前記基板を下受けして保持する基板下受部と、前記基板下受部を昇降させることによりマスクプレートの下面から前記基板を離隔させる版離れ手段と、前記版離れ手段を制御する版離れ制御手段と、前記ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて前記版離れ手段による版離れ動作における初期停留時間を所定のタイマー値として設定するタイマー設定部とを備え、前記版離れ制御手段は、前記マスクプレートの下面に基板を当接させたまま前記初期停留時間の間前記基板を静止状態で保持し、前記初期停留時間が経過した後に前記基板下受部の下降を開始させるように前記版離れ手段を制御する。
【0009】
本発明のスクリーン印刷方法は、パターン孔が形成されたマスクプレートの下面に基板を当接させ、ペーストを前記パターン孔を介して基板に印刷するスクリーン印刷方法であって、前記ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて前記マスクプレートの下面から前記基板を離隔させる版離れ動作における初期停留時間を所定のタイマー値として設定するタイマー設定工程と、前記マスクプレートの下面に前記基板を当接させるマスク装着工程と、装着された状態のマスクプレート上でスキージを移動させることにより前記パターン孔内にペーストを充填させる充填工程と、前記マスクプレートの下面から基板を離隔させる版離れ工程とを含み、前記版離れ工程において、前記マスクプレートの下面に基板を当接させたまま前記初期停留時間の間前記基板を静止状態で保持し、前記初期停留時間が経過した後に前記基板の前記マスクプレートからの離隔を開始させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて版離れ動作における初期停留時間を所定のタイマー値として設定しておき、版離れ工程において、マスクプレートの下面に基板が当接した状態から初期停留時間の間基板を静止状態で保持し、初期停留時間が経過した後にペーストの粘度が回復した状態で基板のマスクプレートからの離隔を開始させることにより、版離れにおける半田ペーストの型崩れを抑制して、良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の側面図、図2は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の正面図、図3は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の制御系の構成を示すブロック図、図4は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置による印刷動作のフロー図、図5は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置による印刷動作の動作説明図、図6は本発明の一実施の形態のスクリーン印刷動作における版離れ動作の説明図である。
【0012】
まず図1、図2を参照して、スクリーン印刷装置の構造を説明する。図1において、スクリーン印刷装置は、基板位置決め部1の上方にスクリーン印刷機構を配設して構成されている。基板位置決め部1は、Y軸テーブル2、X軸テーブル3およびθ軸テーブル4を段積みし、更にその上に第1のZ軸テーブル5、第2のZ軸テーブル6を組み合わせて構成されている。
【0013】
第1のZ軸テーブル5の構成を説明する。θ軸テーブル4の上面に設けられた水平なベースプレート4aの上面側には、同様に水平なベースプレート5aが昇降ガイド機構(図示省略)によって昇降自在に保持されている。ベースプレート5aは、複数の送りねじ5cをモータ5bによってベルト5dを介して回転駆動する構成のZ軸昇降機構によって昇降する。
【0014】
ベースプレート5aには垂直フレーム5eが立設されており、垂直フレーム5eの上端部には基板搬送機構8が保持されている。基板搬送機構8は基板搬送方向(X方向−−図1において紙面垂直方向)に平行に配設された2条の搬送レールを備えており、これらの
搬送レールによって印刷対象の基板10の両端部を支持して搬送する。第1のZ軸テーブル5を駆動することにより、基板搬送機構8によって保持された状態の基板10を、搬送レール8とともに後述するスクリーン印刷機構に対して昇降させることができる。
【0015】
第2のZ軸テーブル6の構成を説明する。基板搬送機構8とベースプレート5aの中間には、水平なベースプレート6aが昇降ガイド機構(図示省略)に沿って昇降自在に配設されている。ベースプレート6aは、複数の送りねじ6cをモータ6bによってベルト6dを介して回転駆動する構成のZ軸昇降機構によって昇降する。ベースプレート6aの上面には、上面に基板10を保持する下受け面が設けられた下受テーブル7が配設されている。
【0016】
第2のZ軸テーブル6を駆動することにより、下受テーブル7は基板搬送機構8に保持された状態の基板10に対して昇降する。そして下受テーブル7の下受け面が基板10の下面に当接することにより、下受テーブル7は基板10を下面側から支持する。基板搬送機構8の上面にはクランプ機構9が配設されている。クランプ機構9は、左右対向して配置された2つのクランプ部材9aを備えており、一方側のクランプ部材9aを駆動機構9bによって進退させることにより、下受テーブル7によって支持された状態の基板10を両側からクランプして保持する。下受テーブル7およびクランプ機構9は、基板10を下受けして保持する基板下受部となっている。そして第1のZ軸テーブル5は、この基板下受部を昇降させることにより、マスクプレート12の下面から基板10を離隔させる版離れ手段を構成する。
【0017】
次に基板位置決め部1の上方に配設されたスクリーン印刷機構について説明する。図1,図2において、マスク枠11にはマスクプレート12が展張されており、マスクプレート12には、基板10において印刷対象となる電極10aの形状・位置(図3参照)に対応して、パターン孔12aが設けられている。マスクプレート12上にはスキージヘッド13が配設されている。スキージヘッド13は、水平なプレート14にスキージ16を昇降させるスキージ昇降機構15を配設した構成となっている。スキージ昇降機構15を駆動することによりスキージ16は昇降して、マスクプレート12の上面に当接する。そしてこの状態で水平移動機構(図示省略)によってプレート14をY方向に移動させることにより、スキージ16はマスクプレート12の上面で摺動し、これによりパターン孔12a内に半田ペースト(ペースト)が充填される。
【0018】
次に、図3を参照して制御系の構成を説明する。ここでは、スクリーン印刷装置の機能のうち、スクリーン印刷後に基板をマスクプレートの下面から離隔させる版離れ動作に関する機能のみについて示している。図3において制御部20は制御装置のCPUによる演算処理機能であり、以下に説明する各部の動作や処理を制御する機能を有している。
【0019】
タイマー設定部21は、使用される半田ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて、第1のZ軸テーブル5による版離れ動作における初期停留時間T0(図6(a)参照)を所定のタイマー値として設定する。ここで粘度回復時間とは、撹拌によって流動性が増して粘度が低下した状態の半田ペーストが撹拌前の粘度状態に戻るのに必要とされる時間であり、この粘度回復時間は半田ペーストの組成に応じて異なったものとなる。例えばチキソ比の小さいアクリル系樹脂をフラックス成分とする半田ペーストは、撹拌動作によって粘度が低下した後に元の粘度まで回復するのに、ロジン系など汎用のフラックスを用いた一般の半田ペーストと比較して長い時間を必要とすることが知られている。
【0020】
そしてこのような粘度回復時間が長い特性を有し、半田粒子の比重が従来型のPb−Sn共晶半田よりも小さい鉛フリーの半田粒子を含有する半田ペーストを用いる場合には、スキージング後に基板をマスクプレートから離隔させる版離れ動作において半田ペースト
が型崩れしやすく、良好な印刷品質を確保することが難しいという問題が生じている。このような課題を解決するため、本実施の形態においては、スキージング後の版離れ動作開始に先立って、基板をタイマー値によって規定される所定時間だけ停止状態に置いて、パターン孔内に充填された半田ペーストの粘度を回復させ、その後に版離れ動作を開始するようにしている。
【0021】
このタイマー値の設定は、作業者が操作パネルの入力装置からデータ入力することにより行われ、実際の設定例では、3〜10sec.のオーダーの時間に設定される。版離れパターン記憶部22は、印刷動作における版離れパターン、すなわち第1のZ軸テーブル5による版離れ速度パターンや、上述の初期停留時間のタイマー値の組み合わせを各基板、半田ペーストの種類毎に記憶する。
【0022】
駆動部23は、版離れ手段としての第1のZ軸テーブル5の駆動源であるZ軸モータ5bを駆動する。版離れパターン記憶部22に記憶された版離れパターンにしたがって制御部20が駆動部23を制御することにより、対象となる基板や半田ペーストの種類に応じて適正な版離れ条件で版離れ動作が実行される。したがって制御部20は、版離れ手段である第1のZ軸テーブル5を制御する版離れ制御手段となっている。そして後述するように、制御部20は、マスクプレート12の下面に基板10を当接させたまま初期停留時間の間基板10を静止状態で保持し、初期停留時間が経過した後に、基板下受部の下降を開始させるように第1のZ軸テーブル5を制御する。
【0023】
次にスクリーン印刷動作について、図4のフローに沿って図5を参照しながら説明する。ここで行われるスクリーン印刷は、基板10に半田バンプを形成するために半田ペーストを印刷するものである。マスクプレート12としては、微小サイズ(例えば0.4mm×0.2mm程度)のパターン孔12a(パターン孔)が高密度で形成された薄型のものが使用され、さらに使用する半田ペーストとしては、前述のような鉛を成分として含まない鉛フリー半田をフラックスに含有させた組成で、粘度回復時間が長い特性を有する種類のものを用いている。
【0024】
このような印刷条件下で行われるスクリーン印刷は印刷難度が高く、特にスキージング後の版離れ動作において基板の全範囲にわたって均一で半田ペーストの型崩れのない良好な版離れを行うことが難しい。すなわち、パターン孔が高密度で存在するため版離れ時のタック力が大きい一方、マスクプレート自体は薄くて撓みやすいため、基板を下降させる版離れ動作時にはマスクプレートが下方に引っ張られ気味になりやすい。この結果、基板の外周部と中央部とで版離れのタイミングに差が生じ、均一な版離れを実現することが困難であった。
【0025】
さらに、前述のような鉛フリー半田を成分とし、粘度回復時間が長い特性を有する種類のものを用いる場合には、パターン孔12a内の半田ペーストの粘度が低下して流動性に富んだ状態で版離れが開始される結果、基板10の表面に付着した半田ペーストが基板10とともに下降する際に、パターン孔12aの内壁に付着した半田ペーストとの間で部分的に繋がった状態となるいわゆる糸引き現象が発生する。そしてこのような糸引き現象は、基板10表面における半田ペーストの形状の型崩れの要因となり、特に微小サイズのパターン孔が対象である場合にはこの傾向が顕著となり、印刷不具合を招く結果となっていた。本実施の形態に示すスクリーン印刷においては、このような難度が高い半田バンプ形成のためのスクリーン印刷を対象として、以下に示すような方法によって均一な版離れ性と印刷品質の確保を実現している。
【0026】
まず印刷動作の開始に先立って、半田ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて、マスクプレート12の下面から基板10を離隔させる版離れ動作における初期停留時間
を所定のタイマー値として設定する(タイマー設定工程)。このタイマー設定処理は、タイマー設定部21を操作することにより行われる。
【0027】
印刷動作が開始されると、まず第1のZ軸テーブル5を駆動して下受テーブル7を上昇させ、図5(a)に示すように、下受テーブル7によって基板10を下受けする。次いで下受けテーブル7上の基板10をクランパ9aによって両側から挟み込んで保持させ、Z軸テーブル5を駆動して基板下受部(下受けテーブル7、クランプ機構9)を基板10とともにを上昇させる。これにより上昇した基板10はマスクプレート12の下面に当接する(マスク装着工程)。このとき、基板10の上面をマスクプレート12の下面の正規高さ位置から、所定の突き上げ代hだけ高い位置まで上昇させ、基板10とマスクプレート12との当接具合を突き上げ勝手に設定する。
【0028】
次に図5(b)に示すように、マスクプレート12にスキージ16を当接させ、マスクプレート12上にクリーム状の半田ペースト17が供給された状態で、スキージ16を移動させる(ST1)。このスキージング動作により、図5(c)に示すように、各パターン孔12a内には半田ペースト17が充填される(ST2)(充填工程)。この充填工程において、半田ペースト17はスキージング動作時のスキージ16による撹拌作用によって粘度が低下して流動性が増大するため、微小なパターン孔12a内に半田ペースト17を良好に充填することができる。
【0029】
次いで版離れ動作が行われる。ここで、版離れ開始に際しては、タイマー値計測が行われる(ST3)。すなわちマスクプレート12の下面に基板10を当接させたまま、予め設定された初期停留時間T0の間基板10を静止状態で保持する。そしてタイマー値がタイムアップして初期停留時間T0が経過した後に、版離れを開始する(ST4)。
【0030】
すなわち、Z軸テーブル5を駆動して下受テーブル7およびクランプ機構9を基板10とともに下降させ、パターン孔12a内に充填された半田ペースト17を基板10上に付着させたまま、基板10をマスクプレート12の下面から離隔させる。このとき、図5(d)に示すように、基板10とマスクプレート12の離隔は基板10の外周部分から開始され、外周部の離隔が開始した状態においては、中央部はまだ密着状態にある。
【0031】
この後、下受けテーブル7を更に下降させることにより、図5(e)に示すように、基板10の全範囲においてマスクプレート12が基板10の上面から離隔し、版離れが終了する(ST5)(版離れ工程)。これにより、パターン孔12aを介して基板10の上面へ半田ペースト17を印刷するスクリーン印刷動作が完了する。
【0032】
次に図6を参照して、上述のスクリーン印刷動作における版離れ動作の動作パターンについて説明する。図6(a)は、この版離れ動作における第1のZ軸テーブル5の下降速度パターンを示している。ここでは、基板10を下降させる際の下降速度V(版離れ速度)の時間的変化を、基板10の下降量を示す下降ストロークSと関係付けながら図示している。速度パターンとして一般的な台形パターンを想定しており、速度パターンを示す台形(速度線と時間軸とで形成される)の面積が、当該下降動作における下降ストロークに相当する。
【0033】
図5(a)に示すように、版離れ動作の開始に際しては、まず前述のタイマー値に相当する初期停留時間T0が設定されており、この間は第1のZ軸テーブル5は動作せず、基板10は静止状態で保持される。前述のように初期停留時間T0は使用される半田ペースト17の種類に固有の粘度回復時間に応じて設定されることから、基板10が初期停留時間T0の間静止状態に保持されることにより、スキージング動作時の撹拌作用によって一旦低下した半田ペースト17の粘度はスキージング前の状態の粘度に回復する。これによ
り、半田ペースト17内の半田粒子は粘度が回復したフラックス成分によって凝集力が増大した状態となる。そして以下に示す版離れは、このようにしてパターン孔12a内の半田ペースト17の粘度が回復し、半田粒子の凝集力が増大した状態で開始される。
【0034】
版離れ動作は、第1の下降時間T1,第2の下降時間T2の2段階に分けて行われる。ここで第1の下降時間T1、第2の下降時間T2の間に、基板10はそれぞれ第1の下降ストロークS1、第2の下降ストロークS2だけ下降する。すなわち、この版離れ動作パターンに示すように、上述のスクリーン印刷方法における版離れ工程では、マスクプレート12の下面に基板10を当接させたまま初期停留時間T0の間基板10を静止状態で保持し、初期停留時間T0が経過した後に基板10のマスクプレート12からの離隔を開始させるようにしている。
【0035】
そして、基板10のマスクプレート12からの離隔が開始した後から、下降ストロークが第1の下降ストロークS1に到達するまで間は、下降速度を低速(例えば0.1mm/s程度)の第1の下降速度V1(第1の版離れ速度)に設定し、下受けテーブル7をゆっくり下降させるようにしている。そして下降ストロークが第1の下降ストロークS1に到達すると、一旦下降速度を零に戻した後再び下降速度を増速して第1の下降速度V1よりも高速(例えば5mm/s程度)の第2の下降速度V2(第2の版離れ速度)で下受けテーブル7を下降させる。これにより下受けテーブル7は第2の下降ストロークS2だけ下降して下降位置にて停止する。
【0036】
すなわち、図6(b)に示すように、半田ペースト17はパターン孔12a内に充填された状態から、図6(b)に示すように、基板10の上面がマスクプレート12の下面から第1の下降ストロークS1だけ離隔するようになるまでの間、低速(第1の下降速度V1)で下降する。ここで、第1の下降ストロークS1は、マスクプレート12の厚みtに応じて設定される。本実施の形態においては、厚みtの1/2倍〜2倍の範囲(望ましくは1/2倍〜9/10倍、さらに望ましくは2/3倍〜3/4倍の範囲)に設定される。
【0037】
この第1の下降ストロークS1だけ基板10が下降する第1の下降時間T1の間は、基板10の下降速度が0.1mm/sのオーダーの低速であることから、パターン孔12a内の半田ペースト17のうち、パターン孔12aの側壁面に接触する位置にある半田ペースト17は、図6(c)に示すように、基板10の下降開始後も側壁面に付着した状態のままパターン孔12a内に残留する傾向が強い。そして基板10の上面に印刷されて基板10とともに下降する半田ペースト17とは、垂下状態で糸引き状に引き延ばされた半田ペースト17によって連結された状態となる。このとき、基板10上の半田ペースト17は前述の初期停留時間T0の間の静止によって粘度が回復し、半田粒子がフラックス成分によって凝集した状態となっていることから、上述の糸引きよる半田ペースト17の型崩れが極力抑制される。
【0038】
図6(d)は、基板10が第2の下降ストロークS2だけ下降する第2の下降時間T2における半田ペースト17の状態を示している。すなわち、図6(c)のタイミングにおいて、下降速度は低速の第1の下降速度V1から第2の下降速度V2に急激に増速することから、図6(c)においてパターン孔12a内の側壁面に付着して一部が基板10上の半田ペースト17と連結状態にあった半田ペースト17は、増速時の衝撃的な引張り力により引きちぎられる。これにより、図6(b)においてパターン孔12a内に充填されていた半田ペースト17は、一部分をパターン孔12aの側壁面に残留させた状態で大部分が基板10とともに下降し、版離れが行われる。このとき、半田ペースト17は、前述のように粘度が回復して半田粒子の凝集力が増大した状態にあることから、基板10上の半田ペースト17の型崩れが抑制される。
【0039】
すなわち、上述の版離れ動作パターンは、マスクプレート12の下面に基板10が当接した状態から、基板10の上面がマスクプレート12の下面からマスクプレート12の厚みの1/2倍〜2倍の間に設定される所定隙間だけ離隔するまでの間、第1の版離れ速度V1で基板下受部を下降させ、次いで第1の版離れ速度V1よりも高速の第2の版離れ速度V2で基板下受部を下降させるように、版離れ手段を制御する形態となっている。
【0040】
これにより、印刷に用いられる半田ペースト17が経時変化によって粘度の変動が生じている場合においても、粘度状態によって版離れ性が大きく左右される度合いが少なく、いずれの場合においても許容範囲内の版離れ性を確保することができる。したがって、鉛フリー半田やアクリル系半田のように印刷難度が高い半田ペーストを使用した場合においても、良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができる。
【0041】
なお、第1の下降ストロークS1および初期下降時間T1は、タクトタイムの面からはできるだけ小さく設定する方が有利であるが、前述のように連結状態の半田ペースト17を的確に引きちぎって印刷された半田ペースト17の型崩れを極力防止するためには、基板10がある程度以上マスクプレート12の下面から離れている方が望ましい。このため実際の第1の下降ストロークS1の決定は、許容されるタクトタイムと必要とされる印刷品質とを比較衡量した上で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法は、性状や粘度特性が従来と異なる半田ペーストを使用した場合においても、良好な版離れ性と安定した印刷品質を確保することができるという効果を有し、特に鉛フリー半田を基板に印刷する用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の正面図
【図2】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の側面図
【図3】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置の制御系の構成を示すブロック図
【図4】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置による印刷動作のフロー図
【図5】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷装置による印刷動作の動作説明図
【図6】本発明の一実施の形態のスクリーン印刷動作における版離れ動作の説明図
【符号の説明】
【0044】
1 基板位置決め部
5 第1のZ軸テーブル(版離れ手段)
5b Z軸モータ
7 下受けテーブル(基板下受部)
9 クランプ機構(基板下受部)
10 基板
12 マスクプレート
12a パターン孔
13 スキージヘッド
16 スキージ
17 半田ペースト(ぺースト)
20 制御部(版離れ制御手段)
T0 初期停留時間
T1 第1の下降時間
T2 第2の下降時間
V1 第1の下降速度
V2 第2の下降速度
S1 第1の下降ストローク
S2 第2の下降ストローク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン孔が形成されたマスクプレートの下面に基板を当接させ、ペーストを前記パターン孔を介して基板に印刷するスクリーン印刷装置であって、
前記基板を下受けして保持する基板下受部と、前記基板下受部を昇降させることによりマスクプレートの下面から前記基板を離隔させる版離れ手段と、前記版離れ手段を制御する版離れ制御手段と、前記ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて前記版離れ手段による版離れ動作における初期停留時間を所定のタイマー値として設定するタイマー設定部とを備え、
前記版離れ制御手段は、前記マスクプレートの下面に基板を当接させたまま前記初期停留時間の間前記基板を静止状態で保持し、前記初期停留時間が経過した後に前記基板下受部の下降を開始させるように前記版離れ手段を制御することを特徴とするスクリーン印刷装置。
【請求項2】
パターン孔が形成されたマスクプレートの下面に基板を当接させ、ペーストを前記パターン孔を介して基板に印刷するスクリーン印刷方法であって、
前記ペーストの種類に固有の粘度回復時間に基づいて前記マスクプレートの下面から前記基板を離隔させる版離れ動作における初期停留時間を所定のタイマー値として設定するタイマー設定工程と、前記マスクプレートの下面に前記基板を当接させるマスク装着工程と、装着された状態のマスクプレート上でスキージを移動させることにより前記パターン孔内にペーストを充填させる充填工程と、前記マスクプレートの下面から基板を離隔させる版離れ工程とを含み、
前記版離れ工程において、前記マスクプレートの下面に基板を当接させたまま前記初期停留時間の間前記基板を静止状態で保持し、前記初期停留時間が経過した後に前記基板の前記マスクプレートからの離隔を開始させることを特徴とするスクリーン印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−36958(P2008−36958A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214119(P2006−214119)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】