説明

スクリーン版、スクリーン版の製造方法、バンプ形成方法

【課題】ペースト吐出により形成されるバンプの高さをスクリーン版内でより均一化することが可能なスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法を提供すること。
【解決手段】ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が第1の所定のサイズである第1の領域と、前記第1の領域の隣に位置する領域であって、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が前記第1の所定のサイズとは異なる第2の所定のサイズである第2の領域とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーストを吐出するためのピットが穿設されたスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法に係り、特に、ペースト吐出により形成されるバンプの高さをスクリーン版内で均一化するのに好適なスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な構造物を物体面上に形成するためスクリーン印刷を応用する技術が種々の場面で用いられている。配線板または金属箔上に微細構造物としての導電性バンプを形成するのもそのひとつである。このような方法で印刷・形成される導電性バンプは、先端が尖る形状になるので半硬化状態の絶縁板(プリプレグ)を貫通しやすく、絶縁板を貫通する配線層間の微細な層間接続導体として使用することができる。
【0003】
導電性バンプの形成は、絶縁板を貫通するためある程度の高さが必要である。また、その形成高さに均一性が求められる。均一性が悪いと絶縁板への貫通が不完全の導電性バンプの発生確率が増加したり、周りに比べて高い導電性バンプが積層加圧時に割れその小片が残留したりして、配線板としての製造歩留まりが悪化するからである。
【0004】
形成高さの不均一性には、上記のようなスクリーン版内の各所での局所的な不均一性のほかに、スクリーン印刷の原理上の要因による大局的な不均一性がある。スキージが移動する方向では、移動方向の各位置でスクリーン版が被印刷物面から離れる角度や速度が変化するなどの影響で、バンプの形成高さに不均一性が発生する可能性がある。また、スキージの長手方向には、スキージの撓み、磨耗の差などの影響によりバンプの形成高さに不均一性が発生する可能性がある。
【0005】
一方、一般に、微細な層間接続導体を有する配線板では、生産性向上のため大判の絶縁板上に複数の配線板を同時に製造する工法が採用されている場合が多い。このような場合でのスクリーン印刷による導電性バンプ形成は、効率的な層間接続導体の形成として好ましい。しかしながら、複数の配線板のそれぞれで均一的高さに導電性バンプが形成されるかという点で課題が生じる。つまりは、このような場合、大局的なバンプ高さ不均一性も配線板としての製造歩留まりを悪化させる。
【0006】
スクリーン印刷の従来技術には、導電性バンプを形成するスクリーン印刷とは異なるスクリーン印刷ではあるが、例えば下記特許文献1ないし5記載のものがある。このうち特許文献1ないし4に開示のスクリーン印刷は、ペースト状物体たるはんだペーストの均一的印刷、塗布に関している。これらのいずれも本願で開示するようなスクリーン版を想起させるような記載はない。
【0007】
また、特許文献5に開示のスクリーン印刷は、ディスプレイパネル製造における蛍光体ペーストのスクリーン印刷に関している。このスクリーン印刷は、スクリーン版として、メッシュに形成パターンを乳剤でパターニングしたものを用いており、ピットの穿設されたスクリーン版による印刷ではない。また、パターニングによる開口率をスクリーン版に設定された各領域で異ならせるとの記載があるが、それに関する具体的、体系的な設計方法までは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−306287号公報
【特許文献2】特開平6−92054号公報
【特許文献3】特開平7−115265号公報
【特許文献4】実公昭62−189156号公報
【特許文献5】特開2004−32245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情を考慮してなされたもので、ペーストを吐出するためのピットが穿設されたスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法において、ペースト吐出により形成されるバンプの高さをスクリーン版内でより均一化することが可能なスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様であるスクリーン版は、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が第1の所定のサイズである第1の領域と、前記第1の領域の隣に位置する領域であって、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が前記第1の所定のサイズとは異なる第2の所定のサイズである第2の領域とを具備することを特徴とする。
【0011】
すなわち、このスクリーン版では、互いに隣の領域である第1、第2の領域において、それらの領域内に穿設された複数のピットの平均径が異なっている。つまり、スクリーン印刷の原理上の要因による大局的なバンプ高さ不均一性を克服するように、領域間でピットの平均径が異ならせている。一般に、ピット径が大きければピット内に充填されるペースト量が増すため形成されるバンプ高さがより高くなり、ピット径が小さければ逆にピット内に充填されるペースト量が減少するためバンプ高さがより低くなる。この一般的な性質を逆用して、スクリーン印刷の原理上の要因による大局的なバンプ高さ不均一性を改善する。
【0012】
また、本発明の別の態様であるスクリーン版の製造方法は、多数のピットが穿設されたスクリーン版において横方向または縦方向にn個(nは2以上の整数)の領域を設定する工程と、前記スクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプを印刷、形成する工程と、前記被印刷物面上に形成されたバンプの高さそれぞれまたは前記被印刷物面上に形成されたバンプのうちのサンプリングされた一部のバンプの高さそれぞれを計測する工程と、前記n個の領域ごとに、前記バンプの高さの平均値を推定する工程と、前記n個の領域ごとの前記平均値から、前記スクリーン版における横または縦方向位置xとバンプ高さhの関係を記述する関数を最小二乗法を用いて同定する工程と、前記関数における、横または縦方向位置xに対するバンプ高さhの変化に応じて、前記バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横または縦方向位置xでの補正係数CF(x)を求める工程と、前記補正係数CF(x)を利用して、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求める工程と、前記あるべき径の値に基づいて板部材にピットを穿設する工程とを具備することを特徴とする。
【0013】
すなわち、この方法では、スクリーン版を用いて実際に被印刷物面上にバンプを印刷、形成し、その高さを計測する。そしてn個の領域それぞれでバンプ高さの平均値を推定し、これに適合するように、位置xでのバンプ高さhをxの関数として、最小二乗法を用いて同定する。さらに、この関数における、位置xに対するバンプ高さhの変化に応じて、バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横または縦方向位置xでの補正係数を求める。そして、この補正係数を利用して、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求め、これにより、板部材にピットを穿設する。これによれば、スクリーン版内でのピットの位置により、その径が、バンプとして形成される高さを均一化するように、穿設されることになる。
【0014】
また、本発明のさらに別の態様であるバンプ形成方法は、多数のピットが穿設されたスクリーン版において横方向または縦方向にn個(nは2以上の整数)の領域を設定する工程と、前記スクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプを印刷、形成する工程と、前記被印刷物面上に形成されたバンプの高さそれぞれまたは前記被印刷物面上に形成されたバンプのうちのサンプリングされた一部のバンプの高さそれぞれを計測する工程と、前記n個の領域ごとに、前記バンプの高さの平均値を推定する工程と、前記n個の領域ごとの前記平均値から、前記スクリーン版における横または縦方向位置xとバンプ高さhの関係を記述する関数を最小二乗法を用いて同定する工程と、前記関数における、横または縦方向位置xに対するバンプ高さhの変化に応じて、前記バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横または縦方向位置xでの補正係数CF(x)を求める工程と、前記補正係数CF(x)を利用して、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求める工程と、前記あるべき径の値に基づいて板部材にピットを穿設する工程とを経て得られたスクリーン版を印刷機に取り付け、当該スクリーン版上にペースト状物体を供給し、当該スクリーン版上にスキージを押しつけることにより、被印刷物面上に当該スクリーン版を線状に当接させ、当該スクリーン版上で前記スキージを進行することにより、当該スクリーン版が有するピットを介して前記被印刷物面上に前記ペースト状物体を吐出させ該ペースト状物体のバンプを形成することを特徴とする。
【0015】
このバンプ形成方法は、上記のスクリーン版の製造方法によって得られたスクリーン版を用いて行う形成方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ペースト吐出により形成されるバンプの高さをスクリーン版内でより均一化することが可能なスクリーン版、その製造方法、およびこのスクリーン版を利用するバンプ形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るスクリーン版を得るための、スクリーン版ピット径の補正係数取得方法の一例を示す流れ図。
【図2】スクリーン版上に取った各領域の配置例を示す構成図。
【図3】ある未補正スクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの高いものの位置を示す配置図。
【図4】図3と同じ未補正スクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの低いものの位置を示す配置図。
【図5】補正係数の調整について説明するグラフ。
【図6】ピット径が補正されたスクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの高いものの位置を示す配置図。
【図7】図6と同じスクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの低いものの位置を示す配置図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施態様として、前記第1の領域とは反対側の、前記第2の領域の隣に位置する領域であって、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が前記第2の所定のサイズとは異なる第3の所定のサイズである第3の領域をさらに具備する、とすることができる。これは領域の数を3つに増加させたものであり、これによれば、スクリーン版はより細やかな対応となる。
【0019】
ここで、前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域が、縦方向に隣り合う領域である、とすることができる。縦方向は、例えばスキージの長手方向に相当し、スキージの撓みや磨耗の差などの影響によりバンプの形成高さに不均一性をもたらし得る。そこで、このように第1、第2、第3の領域が、縦方向に隣り合う領域であれば、この不均一性を改善できる。
【0020】
また、ここで、前記第2の領域の複数のピットの平均径が、前記第1の領域の複数のピットの平均径および前記第3の領域の複数のピットの平均径のいずれよりも大きい、とすることができる。これはひとつの例であるが、実際のスクリーン版における対症的な対応としては、このようなピット径が好ましい場合が多い。
【0021】
また、実施態様として、前記第1の領域と前記第2の領域とが、横方向に隣り合う領域である、とすることができる。横方向は、例えばスキージが移動する方向に相当し、移動方向の各位置でスクリーンが被印刷物面から離れる角度が変化するなどの影響で、バンプの形成高さに不均一性をもたらし得る。そこで、このように第1の領域と第2の領域とが、横方向に隣り合う領域であれば、この不均一性を改善できる。
【0022】
また、前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域が、横方向に隣り合う領域である、とすることもできる。これは領域の数を横方向に3つに増加させたものであり、これによれば、領域を2つとする場合より、スクリーン版はより細やかな対応となる。
【0023】
ここで、前記第1の領域の複数のピットの平均径が、前記第2の領域の複数のピットの平均径より小さく、該第2の領域の複数のピットの平均径が、前記第3の領域の複数のピットの平均径より小さいとすることができる。これはひとつの例であるが、実際のスクリーン版における対症的な対応としては、このようなピット径が好ましい場合が多い。
【0024】
また、実施態様として、前記第1の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第1の所定の幅に分布しており、前記第2の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第2の所定の幅に分布している、とすることができる。また、前記第1の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第1の所定の幅に分布しており、前記第2の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第2の所定の幅に分布しており、前記第3の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第3の所定の幅に分布している、とすることもできる。これらは、それぞれの領域内でもピットの径を変えていることを意味している。すなわち、形成されるバンプの高さを均一化するためにスクリーン版はより細やかな対応となっている。
【0025】
また、スクリーン版の製造方法としての実施態様として、前記関数が、1以上n−1以下の次数の代数関数である、とすることができる。このような代数関数を前記関数として用いることは非常に実用的である。
【0026】
以上を踏まえ、以下では本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るスクリーン版を得るための、スクリーン版ピット径の補正係数取得方法の一例を示す流れ図である。以下、図1を中心として、適宜途中で他の図(図2ないし図7)を参照しつつこの方法を説明する。なお、これにより取得された補正係数を用いて、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求め、このあるべき径の値に基づいて板部材にピットを穿設すれば、本発明の一実施形態に係るスクリーン版を製造することができる。
【0027】
まず、ピット径について何らの補正もされていない(=呼び径として同一のピットを有する)スクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプをオフコンタクトで印刷、形成する(ステップ11)。被印刷物は、通常の配線板製造方法で使用のものと同じように、金属箔(銅箔)やパターン化金属箔を有する絶縁板である。バンプのもととなるペーストは、例えばペースト状樹脂の中に金属微細粒(銀、金、銅、半田など)を分散させ、加えて揮発性の溶剤を混合させたものである。各ピットの位置については、実際に生産する配線板に応じた位置でよく、または、この方法を実施するため特別に設定された位置でもよい。
【0028】
なお、被印刷物面上にバンプを印刷、形成する手順は以下である。まず、スクリーン版を印刷機に取り付け、このスクリーン版上にペースト状物体を供給し、続いて当該スクリーン版上にスキージを押しつけることにより、被印刷物面上に当該スクリーン版を線状に当接させる。そして、当該スクリーン版上でスキージを進行することにより、当該スクリーン版が有するピットを介して被印刷物面上にペースト状物体を吐出させる。これにより、被印刷物面上にペースト状物体のバンプを形成することができる。
【0029】
スクリーン版となる板部材は、その材料として、例えばアルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、銅、真ちゅうなどが用いられ、その厚さは、例えば50μmから500μm程度(より具体的に以下では例えば150μmとする)である。各ピットの呼び径は、例えば50μmから500μm程度である(より具体的に以下では150μmとする)。このようなピット径のスクリーン版を用い乾燥工程を挟みながらここでは例えば3回重ねて印刷を行い、高さ例えば100μm程度のバンプを形成する。
【0030】
ここで、このスクリーン版は、便宜的に縦に6領域、横に6領域あるものと考える。この領域数は、最大では、形成するバンプの数と等しい数と考え得るが、後述する代数関数(実験上の経験からこの次数は例えば2次か3次が適当)の同定に足る数とすればよく、以下説明の例では、6領域と考え、上記代数関数は2次とする。
【0031】
スクリーン版上の上記領域の様子を図2に示す。図2は、スクリーン版上に取った各領域の配置例を示す構成図である。図2に示すように、スクリーン版21は、縦領域1、同2、…、同6のような、各隣に配置の領域があり、同時に、横領域1、同2、…、同6のような、各隣に配置の領域がある。ここで、スクリーン版21の縦方向がスクリーン印刷のスキージの長手方向に一致し、横方向がスキージが進行する方向に一致する。スクリーン版21における上記縦領域、横領域の存在する大きさは、縦例えば400mm、横例えば500mmである。上記のひとつの領域あたりピットの数は例えば数千である。なお、実際のスクリーン版21には、400mm×500mmの領域の外側に印刷機に取り付けるための予備領域(不図示)が設けてあり、全体として例えば550mm×850mmの大きさである。
【0032】
被印刷物面上にバンプを印刷、形成したら、次に、それぞれのバンプ高さを専用機を用いて計測する(ステップ12)。専用機を用いることで多数のバンプについて短時間で効率的にそれらの高さを計測することができる。この専用機のバンプ高さ計測原理は、被印刷物面上に対して斜め一定の角度から光を当て、バンプにより生じる影を撮像素子で撮影し、得られた撮像画像を画像処理することによっている。このような画像処理により、バンプの数が全部で例え数万あっても高速に計測することができる。それぞれのバンプの高さは、被印刷物面上でのその位置座標(したがって、縦領域、横領域のうちのどこに対応するかも含まれる)に対応付けて保持される。
【0033】
なお、印刷、形成されたバンプのすべてについて高さを計測する代わりに、例えばある空間周期でサンプリングされた一部のバンプについてその高さを計測するようにしてもよい。これによれば、計測がさらに高速化できる。スクリーン版によってはバンプの形成密度が高い場合もありこのような場合には、サンプリングしても、得られるバンプ高さ情報の質はほとんど低下しない。
【0034】
ここで、被印刷物面上にバンプを印刷、形成し、専用機により得られたバンプ高さのデータ例について、図3、図4を参照して説明する。図3は、ある未補正スクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの高いものの位置を示す配置図である。図4は、図3と同じ未補正スクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの低いものの位置を示す配置図である。
【0035】
すなわち、図3は、得られたバンプ高さデータの平均に対してある高めの閾値を設定し、それ以上の高さのバンプが位置する地点をプロットして得られたものである(黒三角点で示す)。図4は、得られたバンプ高さデータの平均に対してある低めの閾値を設定し、それ以下の高さのバンプが位置する地点をプロットして得られたものである(黒丸点で示す)。これらの図から、このスクリーン版を用いた場合には、バンプ高さに関して、大局的に見て図で左側ほど高くバンプが形成され、その中でも縦方向に端である領域で特に高くバンプが形成されていることがわかる。このようになる要因についてはすでに説明した通りである。
【0036】
なお、図3、図4に示した配置図を与えたスクリーン版は、横方向に6シート、縦方向に3シートを一度に印刷するものであり、1シートは、横に4つ、縦に3つの12面で構成される。その1面ごとが最終製品として1つの配線板に相当する。すなわち、このスクリーン版は、4×3の12面付け1シートを、6×3の18シート有する構成である。なお、ここで説明のシートの数および面の数は、上記説明した領域の数とは無関係の数であってよい。
【0037】
図1に戻って、それぞれのバンプ高さを計測したら、次に、上記保持されたバンプ高さのデータを用いて、縦に取られた6領域ごとにバンプ高さの平均値を算出し、また、横に取られた6領域ごとにバンプ高さの平均値を算出する(ステップ13)。この算出は、上記画像処理を行う装置(例えば所定のソフトウエアを備えたPC)に所定の計算用ソフトウエアを備えさせておけば、容易にかつ高速に求めることができる。なお、バンプをサンプリングして高さ計測している場合も処理として同じであるが、この場合には、平均値の算出によってその領域のバンプ高さの平均値を推定しているという見方ができる。
【0038】
次に、上記より得られた縦に関する6つのバンプ高さ平均値(これを、ha1、ha2、…、ha6とする)を用いて、縦位置xa対バンプ高さhの関係を記述する2次関数:h=f(xa)=kxa+kxa+kを、最小二乗法を用いて同定する(ステップ14)。すなわち、この式におけるk、k、kを当初は未知数として、6つの残差二乗値の和を求め、次にこの和を極小とするk、k、kを求める。この最小二乗法は、実際には、例えば、一般的な表計算ソフトを用いれば容易に実行できる。
【0039】
以上と同様の処理を、横に関しても行う。すなわち、上記より得られた横に関する6つのバンプ高さ平均値(これを、hb1、hb2、…、hb6とする)を用いて、横位置xb対バンプ高さhの2次関数:h=g(xb)=kxb+kxb+kを、最小二乗法を用いて同定する(ステップ14)。すなわち、この式におけるk、k、kを当初は未知数として、6つの残差二乗値の和を求め、次にこの和を極小とするk、k、kを求める。
【0040】
そして、次に、上記求められた縦位置に関する2次関数h=f(xa)を、ha1、ha2、…、ha6の平均値を用いて正規化する(ステップ15;hn=fn(xa))。すなわち、h=f(xa)の両辺をこの平均値で割る。この正規化2次関数は、大局的なバンプ高さ平均に対する各縦位置でのバンプ高さの比を示す関数になる。同様に横位置に関する2次関数h=g(xb)についても正規化する(ステップ15;hn=g(xb))。この正規化2次関数は、大局的なバンプ高さ平均に対する各横位置でのバンプ高さの比を示す関数になる。
【0041】
次に、上記求められた正規化2次関数の逆数として、スクリーン版ピット径の補正係数CFを求める(ステップ16;CF(xa)=1/fn(xa)、CF(xb)=1/gn(xb))。これは、すなわち、横位置xaまたは縦方向xbに対するバンプ高さhの変化に応じて、バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横位置xaまたは縦位置xbでの補正係数CFを求める、ということである。
【0042】
一般に、ピット径が大きければピット内に充填されるペースト量が増すため形成されるバンプ高さがより高くなり、ピット径が小さければ逆にピット内に充填されるペースト量が減少するためバンプ高さがより低くなる。補正係数CFは、この一般的な性質を逆用して、スクリーン印刷の原理上の要因による大局的なバンプ高さ不均一性を改善するためのものである。このような逆用が適用されるのであれば、補正係数CFの算出は、正規化2次関数の逆数には限られない。例えば、CF(xa)=1−(fn(xa)−1)などとすることもできる。
【0043】
次に、上記求められた補正係数CFを調整し(ステップ17)、調整後補正係数CFsを求める。この調整は、補正の効き方を調整するものであり、概略的には図5に示すような変換である。図5は、補正係数の調整について説明するグラフである。
【0044】
すなわち、補正の効きを調整しなければ図5における「無調整時」のように、補正係数CFと調整後補正係数CFsとは一致する。補正の効きを増せば、「強調整時」のように、CFの変化に対するCFsの変化量は増加する(ただし、正規化の意味を保持するためCF=1のとき、CFs=1とする)。また、補正の効きを減らせば、「弱調整時」のように、CFの変化に対するCFsの変化量は減少する(ただし、正規化の意味を保持するためCF=1のとき、CFs=1とする)。
【0045】
調整後補正係数CFsの算出は、実際には、実験を通して試行錯誤的に求めることが有用である。すなわち、当初は補正の効きを調整せずに以降のステップ18、およびそれに基づくスクリーン版の製造とバンプ形成とを行い、その結果をフィードバックすることでより適切に調整することができる。また、必ずしも、CFに対してCFsの変化の特性は、図5に示すような直線である必要はない。適宜曲線を含むような特性としてもよい。
【0046】
補正係数を調整したら、次に、上記求められた調整後補正係数CFs(xa)、CFs(xb)を用いて、未補正スクリーン版の各ピットについて、あるべき各径を計算する(ステップ18)。すなわち、例えば、各ピットの縦位置xa、横位置xbを用いて、補正なしの径である150μmにCFs(xa)とCFs(xb)とを掛けてこれを求める。ここで、xa、xbについては、各ピットの実際の位置の値を用いてよいが、より簡略化した方法では、そのピットが属する縦領域または横領域の中心でのxaまたはxbを用いるとしてもよい。
【0047】
いずれの場合も、互いに隣となる領域間において、それらの領域内に穿設された複数のピットの平均径は異なることになる。また、前者の場合は、ひとつの領域に穿設された複数のピットの径が、数値としてある幅に分布し、隣の領域に穿設されたピットの径も、数値としてある幅に分布することになる。すなわち、前者では、形成されるバンプの高さを均一化するためにスクリーン版はより細やかな対応となる。
【0048】
ここで、以上の方法によりピット径を補正し製造したスクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプを印刷、形成した例について図6、図7を参照して説明する(なお、被印刷物面上にバンプを印刷、形成する手順はすでに述べた。)。図6は、ピット径が補正されたスクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの高いものの位置を示す配置図である。図7は、図6と同じスクリーン版により形成されたバンプのうち比較的高さの低いものの位置を示す配置図である。
【0049】
図6、図7は、それぞれ、未補正のスクリーン版の場合である図3、図4に示した配置図についてこれを補正化した後に相当している。すなわち、図6は、得られたバンプ高さデータの平均に対してある高めの閾値を設定し、それ以上の高さのバンプが位置する地点をプロットして得られたものである(黒三角点で示す)。図7は、得られたバンプ高さデータの平均に対してある低めの閾値を設定し、それ以下の高さのバンプが位置する地点をプロットして得られたものである(黒丸点で示す)。なお、ここで使用のスクリーン版は、ピット径補正のCFs(xa)、CFs(xb)について、それぞれ、各ピットの実際の縦位置xa、横位置xbを用いている。
【0050】
図6、図7を図3、図4と比較して分かるように、本方法によれば、大局的なバンプ高さの不均一性は大きく改善される。すなわち、ペースト吐出により形成されるバンプの高さをスクリーン版内でより均一化することが可能なスクリーン版が得られる。ここでのスクリーン版の補正されたピット径は、最大で156μm、最小で146μmである。形成されたバンプ高さのばらつきは、3σ/(平均のh)で見て、0.090(±9.0%の高さばらつき内に99%以上のバンプが含まれる)であった。
【0051】
また、ピット径補正のCFs(xa)、CFs(xb)について、それぞれ、各ピットが含まれる縦領域または横領域の中心での縦位置xa、横位置xbを用いて算出したものを用いて、これにより各ピット径を補正したスクリーン版を製造し、同様にバンプを印刷、形成した場合についても調べた。このスクリーン版の補正されたピット径は、最大で155μm、最小で146μmである。形成されたバンプ高さのばらつきは、3σ/(平均のh)で見て、0.092(±9.2%の高さばらつき内に99%以上のバンプが含まれる)であった。
【0052】
比較ため、何らピット径について補正がされていないスクリーン版については、以下の結果であった。この場合、スクリーン版のピット径は一律150μmである。形成されたバンプ高さのばらつきは、3σ/(平均のh)で見て、0.109(±10.9%の高さばらつき内に99%以上のバンプが含まれる)であった。
【0053】
本方法によるバンプ高さの形成均一化は、大局的な不均一性の改善である。この点は、図3、図4と図6、図7とを比較すればよく分かる。本方法適用後に残るバンプ高さの不均一性は、スクリーン版内の各所での局所的な不均一性ということになる。ちなみに、大局的なバンプ高さばらつきが図3、図4で示される場合について上記の方法を実行し補正スクリーン版を得ると、縦方向には、上側でピット径が小、中央でピット径が大、下側でピット径が小のスクリーン版となる。横方向には、左側でピット径が小、右に行くほどピット径が大のスクリーン版となる。
【0054】
なお、図1を用いての説明は、未補正スクリーン版を用いた場合の大局的なバンプ高さばらつきの分布が縦方向にも横方向にも発生している場合(すなわち図3、図4に示したような場合)を前提として行っている。もし、いずれかの方向には大局的なバンプ高さばらつきが無視してよいほどの小ささで発生している場合には、その方向には領域分けを行わず、別の一方のみの領域分けに基づいて上記の方法を実行することができる。
【0055】
以上、本発明の一実施形態に係るスクリーン版を得るための、スクリーン版ピット径の補正係数取得方法の一例について説明したが、以下補足する。まず、スクリーン版におけるバンプの数、取るべき領域の数、代数関数の次数の3者の相互関係についてである。バンプの数は、一般に非常に大きな数(例えば数万のオーダー)であるが、それらに数によらず、領域の数および代数関数の次数を決めてよい。
【0056】
代数関数の次数は、バンプの高さ分布の大局的な傾向を記述するため、無闇に大きくするには及ばず、実験的な見地からは例えば、2次か3次程度が適当である(ただし原理的には、もっと大きな次数とすることもできる。また最低では1次とすることもあり得る)。取るべき領域の数は、この2次関数、3次関数を同定するため必要な、位置とバンプ高さとの組データが得られるような領域数とする。例えば代数関数が2次であれば、取るべき領域の数は、最低で3、最大ではバンプの数と同じ数(この場合は、もはや「領域」と呼ぶには及ばない)とすることができる。代数関数が2次以外の場合、例えば1次や3次の場合も同様に考えることができる。
【0057】
次の補足事項として、上記説明では、バンプの高さを実際に計測するようにしていたが、このような直接的な方法によらずにバンプ高さを推定しその推定値をバンプ高さとして用いて上記一連の処理を行うようにしてもよい。すなわち、形成されるバンプ高さを導出するためのモデルを決定しておき、実際のスクリーン版についてはこのモデルによるシミュレーションを用いてバンプ高さを推定する方法である。モデルには、バンプ高さを決定している各種の要因(例えば、スクリーン版の各部が被印刷物から離れるベクトル速度など)がパラメータとして含まれる。これらの各種の要因を既知化しモデルに取り込んでいくことによりシミュレーション精度を上げていくことができる。
【0058】
さらに補足事項として、上記説明では、例えば2次の代数関数を求め、しかる後補正係数を求めるようにしているが、ある程度の範囲(例えば10mmの範囲)に存在するバンプの高さの平均値それぞれを計測ないし推定し、代数関数を同定することなく、例えばバンプ高さ平均値の正規化のみ行いその逆数を補正係数とするように補正係数の導出を行うようにしてもよい。この場合の関数は、代数関数のような連続な関数ではなく例えば10mmごとに値が変化するディスクリートは関数として捉えることができる。
【0059】
また、図1での説明では、縦に関する関数h=f(xa)と、横に関する関数h=g(xb)とを別々に求めるようにして以下一連の処理を行っているが、次のようにすることもできる。すなわち、バンプ高さhを、縦位置xaおよび横位置xbの2元の関数、例えば、h=mxa+mxb+mxaxb+mxa+mxb+mで表わされるものとしておいて、各領域でのバンプ高さ平均値を使った最小二乗法を用い、この式の各係数を同定し、以下一連の処理を行う。
【0060】
また、スクリーン版にピットを穿設するための穴あけについてであるが、径の違いに対応するためには、レーザ光を用いた穴あけが向いている。レーザ光を用いれば例えばソフトウエア上での対応により穴径を連続的に変化させることができる。機械的なドリリングによる穴あけの場合には、穴径を細かく連続的に変化させることにやや難があるが、例えば数種の径のドリルを設定し、実際に形成する穴をあるべき径に最も近いドリルでの穴で済ませるなどの方法を採ることができる。
【符号の説明】
【0061】
21…スクリーン版。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が第1の所定のサイズである第1の領域と、
前記第1の領域の隣に位置する領域であって、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が前記第1の所定のサイズとは異なる第2の所定のサイズである第2の領域と
を具備することを特徴とするスクリーン版。
【請求項2】
前記第1の領域とは反対側の、前記第2の領域の隣に位置する領域であって、ペーストを吐出するためのピットが複数穿設され、該複数のピットの平均径が前記第2の所定のサイズとは異なる第3の所定のサイズである第3の領域をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のスクリーン版。
【請求項3】
前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域が、縦方向に隣り合う領域であることを特徴とする請求項2記載のスクリーン版。
【請求項4】
前記第2の領域の複数のピットの平均径が、前記第1の領域の複数のピットの平均径および前記第3の領域の複数のピットの平均径のいずれよりも大きいことを特徴とする請求項3記載のスクリーン版。
【請求項5】
前記第1の領域と前記第2の領域とが、横方向に隣り合う領域であることを特徴とする請求項1記載のスクリーン版。
【請求項6】
前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域が、横方向に隣り合う領域であることを特徴とする請求項2記載のスクリーン版。
【請求項7】
前記第1の領域の複数のピットの平均径が、前記第2の領域の複数のピットの平均径より小さく、該第2の領域の複数のピットの平均径が、前記第3の領域の複数のピットの平均径より小さいことを特徴とする請求項6記載のスクリーン版。
【請求項8】
前記第1の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第1の所定の幅に分布しており、
前記第2の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第2の所定の幅に分布していること
を特徴とする請求項1記載のスクリーン版。
【請求項9】
前記第1の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第1の所定の幅に分布しており、
前記第2の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第2の所定の幅に分布しており、
前記第3の領域に穿設された前記複数のピットの径が、数値として第3の所定の幅に分布していること
を特徴とする請求項2記載のスクリーン版。
【請求項10】
多数のピットが穿設されたスクリーン版において横方向または縦方向にn個(nは2以上の整数)の領域を設定する工程と、
前記スクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプを印刷、形成する工程と、
前記被印刷物面上に形成されたバンプの高さそれぞれまたは前記被印刷物面上に形成されたバンプのうちのサンプリングされた一部のバンプの高さそれぞれを計測する工程と、
前記n個の領域ごとに、前記バンプの高さの平均値を推定する工程と、
前記n個の領域ごとの前記平均値から、前記スクリーン版における横または縦方向位置xとバンプ高さhの関係を記述する関数を最小二乗法を用いて同定する工程と、
前記関数における、横または縦方向位置xに対するバンプ高さhの変化に応じて、前記バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横または縦方向位置xでの補正係数CF(x)を求める工程と、
前記補正係数CF(x)を利用して、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求める工程と、
前記あるべき径の値に基づいて板部材にピットを穿設する工程と
を具備することを特徴とするスクリーン版の製造方法。
【請求項11】
前記関数が、1以上n−1以下の次数の代数関数であることを特徴とする請求項10記載のスクリーン版の製造方法。
【請求項12】
多数のピットが穿設されたスクリーン版において横方向または縦方向にn個(nは2以上の整数)の領域を設定する工程と、前記スクリーン版を用いて被印刷物面上にバンプを印刷、形成する工程と、前記被印刷物面上に形成されたバンプの高さそれぞれまたは前記被印刷物面上に形成されたバンプのうちのサンプリングされた一部のバンプの高さそれぞれを計測する工程と、前記n個の領域ごとに、前記バンプの高さの平均値を推定する工程と、前記n個の領域ごとの前記平均値から、前記スクリーン版における横または縦方向位置xとバンプ高さhの関係を記述する関数を最小二乗法を用いて同定する工程と、前記関数における、横または縦方向位置xに対するバンプ高さhの変化に応じて、前記バンプ高さhが大きいほど小となり、小さいほど大となる、任意の横または縦方向位置xでの補正係数CF(x)を求める工程と、前記補正係数CF(x)を利用して、任意のスクリーン版についてその有すべきピットそれぞれのあるべき径の値を求める工程と、前記あるべき径の値に基づいて板部材にピットを穿設する工程とを経て得られたスクリーン版を印刷機に取り付け、
当該スクリーン版上にペースト状物体を供給し、
当該スクリーン版上にスキージを押しつけることにより、被印刷物面上に当該スクリーン版を線状に当接させ、
当該スクリーン版上で前記スキージを進行することにより、当該スクリーン版が有するピットを介して前記被印刷物面上に前記ペースト状物体を吐出させ該ペースト状物体のバンプを形成すること
を特徴とするバンプ形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−105394(P2010−105394A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225390(P2009−225390)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】