説明

スクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法

【課題】 エステル交換反応またはエステル化反応および重合反応に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べポリマー色調が良好で、かつ高温溶融時における固有粘度の減少量が小さく、製糸工程において節糸の発生率が飛躍的に小さいスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法を提供することである。
【解決手段】 テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として重縮合触媒の存在下で重縮合して得られるポリエステルを製造する方法において、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を、リン原子換算で10〜200ppm添加することにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱安定性に優れたポリエステルの製造方法に関するものである。更に詳しくは、エステル交換反応またはエステル化反応および重合反応に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べポリマーの高温溶融時における固有粘度の減少が小さく、製糸工程において節糸の発生率が飛躍的に小さいスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、資材用、医療用に用いられている。その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
一般的にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるが、高分子量のポリマーを製造する商業的なプロセスでは、重縮合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム触媒、チタン触媒などが広く用いられている。これら重縮合触媒は、もちろんポリエチレンテレフタレートの重縮合反応を促進するが、熱分解反応や酸化分解反応などの副反応も促進する。近年ではスクリーン紗用途のモノフィラメントなど、従来のポリマーに比べより高粘度で高強度を求められる用途において、紡糸工程での固有粘度の減少は、高強度を保つ上で重要な問題となっている。
【0004】
特にチタン触媒を用いる場合では、触媒活性が高いために副反応も大きく促進するため、ポリマーが黄色く着色したり、製糸、製膜といった次工程において固有粘度の減少が大きくなるといった問題が生じる。ポリマーが黄色味を帯びるということは、例えばポリエステルを繊維として用いる場合、特に衣料用繊維では商品価値を損なうので、好ましくない。
【0005】
かかる問題に対して、重縮合触媒とともにリン化合物を添加することでポリマーの色調や耐熱性を向上させる検討が広くなされている。この方法は、リン化合物により重縮合触媒の活性を抑制して、ポリマーの色調や耐熱性を向上させるというものである。
【0006】
例えば、特許文献1には、チタン化合物を触媒として用いるポリエステル組成物において、チタン化合物やリン化合物量、さらにはマグネシウム化合物、マンガン化合物、カルシウム化合物量を規定することにより、耐熱性の優れたポリエステル組成物が提案されている。しかしながら、この方法では副反応の抑制に一定の効果は見られるものの、一定量以上のリン化合物を加えると重縮合触媒の重合活性が抑えられ過ぎて、目標の重合度まで到達しないといった問題が発生する。また、重合活性を適度に抑える程度のリン化合物の添加では、例えば高強度が要求されるスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法としては耐熱性の面で不十分であり、紡糸時の節糸発生率においても要求を満たすことができない。
【0007】
また、特許文献2には、アンチモン化合物を用いるポリエステル組成物を製造する際、重縮合反応が30〜60%完了の時期にリン化合物を添加して、色調や熱安定性に優れるポリエステルを製造する方法が明示されている。しかし、この方法では重縮合反応が30〜60%の段階でリン化合物を加えるため、重縮合触媒の重合活性が抑えられ過ぎて、目標の重合度まで到達しなかったり、重合反応時間が遅延し結果としてポリマーの色調が悪化するといった問題が発生する。
【0008】
特許文献3には、イソフタル酸やポリエチレングリコール等を共重合する改質ポリエステルにおいて、リン化合物の添加による重合反応の遅延を解決すべく、リン化合物を重縮合反応終了後に添加する方法が提案されているが、重縮合反応後にリン化合物を添加するためリン化合物が均一に分散できず、得られたポリエステルの耐熱性に斑ができ、ポリエステルをチップ化する際に吐出されたストランド状のポリエステルが引きちぎれチップ化を安定してできないという安全上の問題が発生する。また製品の形状が不安定になるとともに品質が安定しないという問題も発生する。
【0009】
特許文献4には、連続重合方法において、重縮合反応終了後にリン化合物を添加する方法が開示されているが、これらの方法を用いるとリン化合物による重縮合触媒の失活は防げるが、連続重合工程のため重縮合反応が終了した後にポリエステルとリン化合物を混合するための混合工程が新たに必要となり、コストアップに繋がるとともに、重縮合反応終了直後におこる副反応は抑制できず、混合工程におけるポリマーの劣化は避けられない。
【特許文献1】特開2006−188667号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特公昭33−3748号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭48−79896号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特表2000−510180公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、エステル交換反応またはエステル化反応および重合反応に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べ高温溶融時における固有粘度の減少量が小さく、製糸工程において節糸の発生率が飛躍的に小さいスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として重縮合触媒の存在下で重縮合して得られるポリエステルを製造する方法において、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を、リン原子換算で10〜200ppm添加することにより達成できる。
【発明の効果】
【0012】
従来の製造方法で得られたポリエステルに比べてポリマーの高温溶融時における固有粘度の減少量が小さく製糸工程において節糸の発生率を飛躍的に小さくできる。この製造方法で得られたポリエステルはスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造工程における、高強度の維持、節糸の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合反応させ合成されるものである。このような方法により得られるポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4−ジカルボキシレート等が挙げられる。なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体において好適である。
【0014】
本発明のポリエステルは、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を添加することが必須である。
このような方法でリン化合物を添加すると、重縮合触媒の失活を極めて効果的に抑制することができ、高温溶融時における固有粘度の減少量が小さく製糸工程において節糸の発生率が飛躍的に小さいポリエステルを得ることができる。節糸の発生率が小さいことはスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルとしては極めて重要な特性である。単糸繊度が細ければ糸切れ等の欠点となり製品への混入は起こらないが、単糸繊度が太いがゆえに糸切れには至らず製品中に欠点を持ち込んでしまい、その使用用途ゆえに最終製品で大きな問題となる。
【0015】
ポリエステルの着色や耐熱性の悪化は、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P178〜198)に明示されているように、ポリエステルの副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は、重縮合触媒に限らずエステル化触媒、エステル交換触媒を含む金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このビニル末端基によりポリエンが形成されることによってポリマーが黄色に着色し、また、アルデヒド成分を発生するために、主鎖エステル結合が切断されるため、耐熱性が劣ったポリマーとなる。この主鎖結合が切断されると、ポリエステルの分子量が低下するために固有粘度は低下するが、高強度が要求されるスクリーン紗用途のモノフィラメントに使用するポリエステルなどの高粘度なものほど分子量低下の影響が大きく固有粘度の低下が大きい。
【0016】
特にチタン化合物を重縮合触媒として用いると、熱による副反応の活性が強いために、ビニル末端基成分やアルデヒド成分が多く発生し、黄色に着色した耐熱性の劣ったポリマーとなる。リン化合物は、重縮合触媒と適度に相互作用することにより、重縮合触媒の活性を調整する役割を果たす。しかし従来の、リン化合物を重縮合反応を開始する前に添加する方法では、重縮合触媒の副反応の活性とともに重縮合活性をも低下させることは避けられなかった。ところが、本発明によると重縮合触媒の重合活性を十分に保持したままに、副反応活性のみを極めて小さく抑えることができ、高強度でかつ節糸の少ないスクリーン紗用途のモノフィラメントに適したポリエステルが製造できる。
【0017】
また、本発明者らは上記ポリエステルの着色と耐熱性劣化のメカニズムを詳細に検討したところ、ポリエステルのβ水素の引き抜きと、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分の発生する反応はポリエステルの重縮合反応が実質的に完了する直後に多量に起こり、その後はビニル末端基成分がポリエンに形成される反応が進行し、リン化合物の添加によっても抑制しがたいことを見出した。
【0018】
さらに5価のリン化合物はその他のリン化合物と比べポリエステルの副反応を助長させている金属触媒の失活効果が高く、ゲルの形成を抑制し、節糸の発生率が極めて小さいことを見出した。
【0019】
そのため、5価のリン化合物をポリエステルの重縮合反応が実質的に終了した後ではなく、実質的に重縮合反応が終了する前に添加することにより、重縮合完了直後に起こるβ水素の引き抜きとビニル末端基成分およびアルデヒド成分の生成を特異的に抑制できることを見出したものである。これは従来のリン化合物やリン化合物の添加方法では達成し得なかったものである。
【0020】
通常ポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体に、重縮合触媒の添加をおこなった後、反応器内を減圧にして、重縮合反応を進行させることにより製造される。ポリエステルは、用途・目的によって様々な重合度が求められるため、所望の重合度に達した時点で、反応器内に不活性ガスを流入させて、反応機内を常圧または加圧にして重縮合反応を停止し、反応器外に吐出する。本発明ではポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を、リン原子換算で10〜200ppm添加することが必須である。
【0021】
本発明のリン化合物を添加する時期は、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点とすると金属触媒の失活が少ないまま副反応を抑制できるため好ましい。より好ましくは90〜98%であり、さらに好ましくは95〜98%である。リン化合物を添加する時期におけるポリエステルの固有粘度は、直接サンプリングを行い後述する方法で粘度測定を行って算出しても良いが、反応器の攪拌翼にかかるトルク負荷から算出しても良い。
【0022】
本発明において添加するリン化合物は、5価のリン化合物であることが必須である。5価のリン化合物とは、ホスフェイト系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物のことを指す。これら5価のリン化合物は重縮合触媒と配位して触媒活性を抑えることによりポリエステルの副反応を特に抑制する。具体的には、例えばリン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸ステアリル等のホスフェイト系化合物、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルオスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、3,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジエチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル、ベンジルホスホン酸ジメチルエステル、ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、ベンジルホスホン酸ジフェニルエステル、リチウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ナトリウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、マグネシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、カルシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸メチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル等のホスホネート系化合物、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロピルホスフィン酸、イソプロピルホスフィン酸、ブチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、トリルホスフィン酸、キシリルホスフィン酸、ビフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジポロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジトリルホスフィン酸、ジキシリルホスフィン酸、ジビフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アントリルホスフィン酸、2−カルボキシフェニルホスフィン酸、3−カルボキシフェニルホスフィン酸、4−カルボキシフェニルホスフィン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、ビス(2−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,6−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,4−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、及びビス(2,4,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸、メチルホスフィン酸メチルエステル、ジメチルホスフィン酸メチルエステル、メチルホスフィン酸エチルエステル、ジメチルホスフィン酸エチルエステル、エチルホスフィン酸メチルエステル、ジエチルホスフィン酸メチルエステル、エチルホスフィン酸エチルエステル、ジエチルホスフィン酸エチルエステル、フェニルホスフィン酸メチルエステル、フェニルホスフィン酸エチルエステル、フェニルホスフィン酸フェニルエステル、ジフェニルホスフィン酸メチルエステル、ジフェニルホスフィン酸エチルエステル、ジフェニルホスフィン酸フェニルエステル、ベンジルホスフィン酸メチルエステル、ベンジルホスフィン酸エチルエステル、ベンジルホスフィン酸フェニルエステル、ビスベンジルホスフィン酸メチルエステル、ビスベンジルホスフィン酸エチルエステル、ビスベンジルホスフィン酸フェニルエステル等のホスフィネート系化合物、トリメチルホスフィンオキサイド、トリエチルホスフィンオキサイド、トリプロピルホスフィンオキサイド、トリイソプロピルホスフィンオキサイド、トリブチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド系化合物が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせても良い。
【0023】
上記リン化合物は、重量平均分子量が100〜2000の範囲であることが好ましい。リン化合物の分子量が上記範囲を内であると、減圧条件下での添加におけるリン化合物の飛散が少なく、また、リン化合物のポリエステル中への溶融が早く均一に分散されるためリン由来の凝集異物の発生が抑えられる。重量平均分子量は、好ましくは150〜1000、さらに好ましくは200〜1000である。
【0024】
本発明の製造方法により得られるポリエステルは、リン化合物が得られるポリエステルに対してリン原子換算で10〜200ppmになるように添加することが耐熱性向上のため好ましい。上記範囲より添加量が少ないと所望の目的効果を発揮するに至らず、上記範囲より添加量が多いと重縮合触媒が失活して重合反応が遅延したり、目的の粘度まで反応が進行しないといった問題が発生する。リンの添加量は15〜100ppmが好ましく、さらに好ましくは20〜50ppmである。
【0025】
本発明のポリエステルは、重縮合触媒として、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物などが用いられる。これらの重縮合触媒は単独、あるいは併用して用いてかまわない。さらにナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン等の化合物を併用しても良い。これらの重縮合触媒は、得られるポリエステルに対して金属原子換算で1〜1000ppmになるように添加することが好ましい。なかでもチタン化合物を重縮合触媒として用いると、異物の発生が抑制されるため好ましい。
【0026】
重縮合触媒がアンチモン化合物の場合は、得られるポリエステルに対して、アンチモン原子換算で150〜300ppmとなるように添加することが好ましい。
【0027】
重縮合触媒がチタン化合物の場合は、得られるポリエステルに対して、チタン原子換算で1〜30ppmとなるように添加することが好ましい。3〜15ppmであるとポリマーの熱分解性や色調が良好となり好ましく、さらに好ましくは5〜10ppmである。
【0028】
上記重縮合触媒として用いるチタン化合物は、多価カルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸および/または含窒素カルボン酸がキレート剤とするチタン錯体であると、ポリマーの熱安定性及び色調の観点から好ましい。チタン化合物のキレート剤としては、多価カルボン酸として、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、ピロメリット酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられ、含窒素カルボン酸として、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン三、メトキシエチルイミノ二酢酸等が挙げられる。これらのチタン化合物は単独で用いても併用で用いてもよい。
【0029】
また、重縮合触媒としてチタン化合物を用いる場合は、アンチモン化合物の含有量がアンチモン原子換算で30ppm以下が好ましく、さらに好ましくはアンチモン化合物を含まない。
【0030】
本発明のリン化合物は、重合系に溶解または溶融可能であり、本発明で得られるポリエステルと同じポリエステルを主体とする容器に充填して添加することが好ましい。上記のような容器にリン化合物を入れて添加を行うと、減圧下での重合反応器に添加を行うことで、リン化合物が飛散して、減圧ラインにリン化合物が流出することを防止することができるとともに、リン化合物をポリマー中に所望量添加することができる。本発明でいう容器とは、リン化合物がまとめられるものであればよく、例えば、ふたや栓を有する射出成型容器、あるいはシートやフィルムをシールあるいは縫製などで袋状にしたものなどが含まれる。上記の容器は、孔などの空気抜きを作ることがさらに好ましい。空気抜きを作った容器にリン化合物を入れて添加すると、真空条件下で重合反応器に添加しても、空気膨張により容器が破裂してリン化合物が減圧ラインに流出したり、重合反応器の上部や壁面に付着することなく、ポリマー中にリン化合物を所望量添加することができる。この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄いほうがよいが、リン化合物の封入・添加作業の際は破裂しない程度の厚みが必要であり、そのため厚みは10〜500ミクロンの厚みで均一な肉厚のものが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法により得られるポリエステルは、固有粘度が0.78dlg−1のポリエステルを150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下290℃で60分間溶融させた前後の固有粘度の減少が0.001〜0.1の範囲であることが好ましい。固有粘度の減少が小さいほど熱劣化や酸化劣化による主鎖切断反応が少ないことを意味しており、熱安定性に優れているといえる。固有粘度の減少が上記範囲を超える場合には、繊維用、フィルム用、ボトル用等の形成体への製造工程において粘度むらが発生したり、物性の低下が生じる。好ましくは固有粘度の減少が0.001〜0.05、さらに好ましくは0.001〜0.03である。
【0032】
本発明の製造方法により得られるポリエステルは、130℃で3時間減圧乾燥させた後、空気流通下300℃で6時間溶解処理し、次いでオルソクロロフェノールを加え30分間溶解し、目開き20ミクロンのフィルターを通過させフィルター補足物量を秤量し求めたゲル化率が0.5%以下と好ましく、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0033】
本発明の製造方法により得られるポリエステルは、次工程の製糸工程で繊維直径に対し10%広げたスリット(繊維直径が30ミクロンの場合は33ミクロンに設定)中にフィラメントを通し、引き取り速度500m/分で15万メートル走らせた時の切断された回数を節糸発生数とし、4回以下と良好である。
【0034】
本発明の製造方法により得られるポリエステルは溶融射出成型等によってフィラメント状に形成した後、延伸、或いは紡糸等を施すことにより、スクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルとして有用なものとなる。
【0035】
また、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほかに従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤、紫外線吸着剤等が添加されても良い。
【0036】
以下に本発明のポリエステルの製造方法を説明する。具体例としてポリエチレンテレフタレートの例を記載するがこれに限定されるものではない。
【0037】
ポリエチレンテレフタレートは通常、次のいずれかのプロセスで製造される。
【0038】
すなわち、(A)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子ポリマーを得るプロセス、(B)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応は進行するが、前述のチタン化合物を触媒として添加してもよい。また、エステル交換反応においては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、コバルト、亜鉛、リチウム等の化合物や前述のチタン化合物を触媒として用いて進行させてもよい。
【0039】
本発明のポリエステルは、(A)または(B)の一連の反応の任意の段階、好ましくは(A)または(B)の一連の反応の前半で得られた低重合体に、重縮合触媒として前述のチタン化合物やアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物を添加した後、反応器内を減圧にしてから、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を、リン原子換算で10〜200ppm添加して、目的のポリエチレンテレフタレートを得るというものである。
【実施例】
【0040】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
(1)ポリマーの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)Δ固有粘度290
固有粘度が0.78dlg−1のポリエステルを150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下290℃で60分間溶融させた後、(1)の方法にて固有粘度を測定し、加熱溶融前後の差をΔ固有粘度290として測定した。
(3)吐出安定性
重縮合反応終了後、得られたポリエステルをストランド状に吐出しカッターによってチップ化する際、単位重量当たりのストランド切れが発生した回数を測定する。ただし回分式の場合は、吐出開始直後と終了直前のそれぞれ1分間に発生するストランド切れ回数は除外する。
【0041】
吐出安定性(回/t)=(ストランド切れ回数/吐出重量)
(4)節糸発生数
繊維直径に対し10%広げたスリット(繊維直径が30ミクロンの場合は33ミクロンに設定)中にモノフィラメントを通し、引き取り速度500m/分で15万メートル走らせた時のモノフィラメントが切断された回数を節糸発生数とした。
(5)ゲル化率
130℃で3時間減圧乾燥させた後、空気流通下300℃で6時間溶解処理する。次いで、オルソクロロフェノールを加え30分間溶解し、目開き20ミクロンのフィルターを通過させフィルター補足物量を秤量する。
ゲル化率(%)=(フィルター補足物量/乾燥後のサンプル重量)×100
実施例1
あらかじめビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約1950kgが仕込まれ、温度245℃、圧力1.8×10Paに保持されたエステル化反応槽に高純度テレフタル酸(三井化学社製)1300kgとエチレングリコール(日本触媒社製)560kgのスラリーを3時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物1590kgを重縮合反応槽に移送した。
【0042】
エステル化反応生成物に、ポリマーに対しチタン原子換算で10ppm相当のクエン酸キレートチタン化合物を触媒として添加し、7分後に酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーをポリマーに対して酸化チタン粒子量換算で0.3重量%添加した。さらに5分後に反応系を減圧にして重縮合反応を開始した。反応器内を250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度到達までの時間は60分、最終圧力到達までの時間は30分とした。所定の攪拌トルク、すなわち目標粘度の95%となった時点で、重縮合反応槽上部よりポリマーに対してリン原子換算で25ppm相当のジエチルホスホノ酢酸エチル(和光純薬社製)を添加容器(ポリエチレンテレフタレートを射出成型により厚み0.2mm、内容量500cmおよび蓋に成型し、蓋に空気抜きを設けた容器)に詰め添加した。その後反応を継続し、所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の攪拌トルク到達までの時間は2時間55分であった。得られたポリマーは耐熱性に優れたポリエステルであった。ゲル化率も低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0043】
実施例2〜4
リン化合物を添加する時期を変更した以外は実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。実施例2、3ではわずかに重合時間が遅延したが耐熱性は優れていた。また実施例4では重合時間がわずかながら短縮したが耐熱性には変化はなかった。
【0044】
いずれのポリエステルもゲル化率が低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0045】
実施例5〜10
リン化合物の添加量を変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。リン化合物の添加量が多いほど重合時間は延びる傾向にあるが、大幅な遅延はなく得られたポリマーは耐熱性に優れたポリエステルであり、ゲル化率も低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0046】
実施例11〜14
リン化合物の種類(5価のリン化合物で重量平均分子量がちがう)を変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。添加する5価のリン化合物の重量平均分子量が大きいほど高温溶融時における固有粘度の減少が小さい傾向があるが、いずれの条件でも耐熱性に優れたポリエステルであり、ゲル化率も低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0047】
実施例15
リン化合物の種類(5価のリン化合物でかつ重量平均分子量が違う2種類のリン化合物を同時に使用)を変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。得られたポリマーは耐熱性に優れたポリエステルであり、ゲル化率も低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0048】
実施例16
重縮合触媒を三酸化アンチモン(日本精鉱社製)に変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。重合遅延もなく得られたポリマーは耐熱性に優れゲル化率が低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0049】
実施例17〜19
リン化合物の添加容器を変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。
【0050】
実施例17では若干高温溶融時における固有粘度の減少が大きくなっているが、ポリマーは耐熱性に優れゲル化率が低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。リン化合物を添加する容器1の空気孔のない容器で添加したため、減圧下の反応容器内で破裂しリン化合物の一部が系外に飛散したためと考えられる。実施例18ではリン化合物をポリエチレンテレフタレートを射出成型した添加容器から、単なるポリエチレンテレフタレートのフィルムで簡易的に作成した添加容器2により添加を行ったが、得られたポリマーは実施例1で得られたポリエステルと遜色のない物であった。実施例19では若干高温溶融時における固有粘度の減少が大きくなっているが、添加容器を使用せず直接リン化合物を添加したため、減圧下の反応容器内でリン化合物の一部が系外に飛散したためと考えられる。
【0051】
実施例20〜22
重縮合触媒の添加量を変更する以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。重縮合触媒の添加量が多いほど重合時間が短くなる傾向があるが、高温溶融時における固有粘度の減少も大きくなっている。
しかしながら、いずれのポリエステルもゲル化率が低く、製糸工程における節糸の発生数が少なく良好であった。
【0052】
比較例1〜2
リン化合物を添加する時期を変更した以外は実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。
【0053】
比較例1では耐熱性やゲル化率、製糸工程における節糸の発生数は実施例1と同等なポリマーを得られたが、
目標粘度の60%到達時点でリン化合物を添加したため、重合時間が大幅に遅延した。また比較例2では重合遅延はないものの、リン化合物の分散不良が原因と考えられる吐出安定性が大幅に悪化した。ゲル化率、節糸発生数にも品質の不均一が原因と推定されるバラツキが発生した。
【0054】
比較例3
リン化合物の添加を行わない以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。重合時間は短縮されるものの、得られるポリマーの耐熱性、ゲル化率、節糸発生数が、いずれも悪化した。
【0055】
比較例4〜6
リン化合物の種類(3価のリン化合物)を変更した以外実施例1と同様にポリエステル重合、溶融紡糸した。
比較例4、5、6ともにゲル化率が上がり、節糸発生数が悪化した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を主たる酸成分とし、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主たるグリコール成分として重縮合触媒の存在下で重縮合して得られる固有粘度0.70〜1.30のポリエステルを製造する方法において、ポリエステルの粘度が目標粘度の85〜98%に到達した時点で、5価のリン化合物を、リン原子換算で10〜200ppm添加することを特徴とするスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
重縮合触媒としてのチタン化合物をポリエステルに対してチタン原子換算で1〜30ppm含有し、アンチモン化合物の含有量がアンチモン原子換算で30ppm以下もしくは含まないことを特徴とする請求項1に記載のスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
5価のリン化合物の重量平均分子量が100〜2000であることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
5価のリン化合物を添加するに際し、製造するポリエステルと同じポリエステルを主体とする容器に入れて添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーン紗用途モノフィラメント用ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−57457(P2009−57457A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225660(P2007−225660)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】