説明

スクロール圧縮機

【課題】チップシール断面形状が概矩形であることにより、チップシールにねじれ方向の力が働いた時にエッジ部がチップシール溝壁面に干渉して、浮上性能が低下するという課題があったので、チップシール格納溝およびチップシール断面形状を工夫しこれを解決するものである。
【解決手段】旋回スクロール213巻終わり端285から巻始めにかけて概半巻きの区間は、チップシール格納溝251の断面を、旋回スクロール213のチップシール格納溝251の底面254に外壁側が内壁側よりも低くなるような傾斜面293を設けるとともに、この傾斜面293に対向する部分のチップシール244の反シール面には格納溝251の傾斜面293にならうような傾斜面295を設け、かつ外側に面取り状の逃げ部286cを設けるチップシール断面形状にするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機等に使用されるスクロール圧縮機のチップシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下に従来のスクロール圧縮機の圧縮機機構部への給油方式とチップシールの機能について図面を基に説明する。
【0003】
図6は従来のスクロール圧縮機の縦断面図で、図7はその圧縮機構の部分断面図である。
【0004】
底部に潤滑油を溜める油溜207を有する吐出圧力雰囲気の密閉容器201の内部に圧縮機構とこれを駆動する電動機の固定子203aを固定し、電動機の回転子203bに圧縮機構を駆動するクランク軸206を結合し、密閉容器201の圧縮機構の周囲を油溜207とする。圧縮機構は、固定スクロール210と、この固定スクロール210と噛み合って複数個の圧縮室214を形成する旋回スクロール213と、この旋回スクロール213の自転を防止して旋回のみをさせる自転拘束部品215と、この旋回スクロール213の反ラップ側に設けた旋回駆動軸222と、クランク軸206の主軸218の内方に設けこの旋回駆動軸222が嵌入する偏芯軸受223と、このクランク軸206の主軸218を支承する主軸受219と旋回スクロール213の背面の鏡板背面224から微小な間隔の隙間をおいてこの旋回スクロール213の軸方向の動きを制限する軸方向移動制限平面部226を有する軸受部品221を配置する。この軸方向移動制限平面部226に、鏡板背面224にかかる気体圧力を中心部に掛かる吐出圧力と鏡板背面224の外周にかかる吐出圧力よりも低い圧力とに仕切る摺動仕切環225を配設する。この摺動仕切り環225の外方の空間に形成される背圧室245は旋回スクロール鏡板213の内部に設けた絞り機構246を有する第1の連通通路241を介して旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249と連通する構成となっている。
【0005】
また、旋回スクロール鏡板内部227に形成され、チップシール格納溝251に連絡する第2の連絡通路248を背圧室245に連絡する第1の連絡通路241の途中から分岐し、この分岐部253より下流の第1の連絡通路に絞り機構246を設ける構成になっている。
【0006】
さらに、クランク軸206にもその内部を貫通する給油通路243を設け、この給油通路243の反圧縮機構側の端面はオイルポンプ242を介して油溜207と、圧縮機構側の端面は旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249とそれぞれ連通する構成になっている。
【0007】
このような構成にすることによって、油溜207からオイルポンプ242などで旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249へ導かれた潤滑油は、第1の連絡通路241から絞り機構246を経由して最外周の圧縮室に適量供給されるとともに、第1の連絡通路241から分岐する第2の連絡通路248からチップシール格納溝251とチップシール244背面のスキマに形成される空間にも充分に供給されることによって、チップシール格納溝251の長手方向に形成される低圧側への漏れ通路を遮断するとともに、チップシール格納溝251から溢れでる潤滑油によって圧縮室を形成する壁面にも供給する給油構成であった。
【0008】
また、図5に示すように、チップシール244はチップシール格納溝251よりも長手方向の長さが適量短く形成されており、かつ巻始め端にすきま270を形成させてチップシール格納溝251に組付けられているため、旋回スクロール213の旋回運動によって、巻始め端すきま270が吐出孔260に連通する時にチップシール244背面に吐出圧力を導入して浮上し、固定スクロール210底面に押付けられるため、チップシール244を横断して外側に形成されるより低圧の圧縮室への漏れ通路を遮断する構成であった。
【特許文献1】特開2000−213477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の構成では、吐出孔260および第2の連絡通路248のチップシール格納溝側の開口端252から半巻き以上下流部(巻終り部もしくは吸入側)では通路抵抗による圧力低下でチップシール244を浮上させる能力が低下する上、チップシールの外側の圧縮室281の方が内側の圧縮室282より圧力が高くなるタイミング(図4参照)があるため、チップシール244がチップシール格納溝251の内外壁にねじられて押し付けられる結果、チップシール244の巻終り部が引っかかって、浮上が不十分となり、チップシール244を横断してより低圧側の圧縮室へ漏れ込んで性能低下するという課題を有していた。
【0010】
これを、改善する方策としては、第2の連絡通路248の開口端252の位置を巻終り側に設置することがあるが、この場合第2の連絡通路248の両端の圧力差が大きくなって高圧高温の潤滑油が、チップシール格納溝251経由で吸入室近傍の圧縮室281および282へ過剰に漏込んでしまうため、吸入冷媒の過熱損失によって、やはり性能低下を招くという課題を有していた。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、圧縮機としてより高い性能を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、旋回スクロール巻終わり端から巻始めにかけて概半巻きの区間は旋回スクロールのチップシール格納溝の底面に外壁側が内壁側よりも低くなるような傾斜面を設けるとともに、この傾斜面に対向する部分のチップシールの反シール面は格納溝の傾斜面にならうような傾斜面を設け、かつ外側に面取り状の逃げ部を設けるチップシール断面形状にするものである。
【0013】
上記のようなチップシール断面形状にすることによって、チップシールの浮上性を向上させ、圧縮効率を高めるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクロール圧縮機は、チップシールの浮上性および安定性を向上させる断面形状にすることによって、高い性能を確保するスクロール圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロール巻終わり端から巻始めにかけて概半巻きの区間は旋回スクロールのチップシール格納溝の底面に外壁側が内壁側よりも低くなるような傾斜面を設けるとともに、この傾斜面に対向する部分のチップシールの反シール面は格納溝の傾斜面にならうような傾斜面を設け、かつ外側に面取り状の逃げ部を設けるチップシール断面形状にするにより、チップシールの浮上性および安定性が向上し、圧縮効率を高めることができる。
【0016】
(実施の形態1)
以下本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図6および図7(図3)において、底部に潤滑油を溜める油溜207を有する吐出圧力雰囲気の密閉容器201の内部に圧縮機構とこれを駆動する電動機の固定子203aを固定し、電動機の回転子203bに圧縮機構を駆動するクランク軸206を結合し、密閉容器201の圧縮機構の周囲を油溜207とする。圧縮機構は、固定スクロール210と、この固定スクロール210と噛み合って複数個の圧縮室214を形成する旋回スクロール213と、この旋回スクロール213の自転を防止して旋回のみをさせる自転拘束部品215と、この旋回スクロール213の反ラップ側に設けた旋回駆動軸222と、クランク軸206の主軸218の内方に設けこの旋回駆動軸222が嵌入する偏芯軸受223と、このクランク軸206の主軸218を支承する主軸受219と旋回スクロール213の背面の鏡板背面224から微小な間隔の隙間をおいてこの旋回スクロール213の軸方向の動きを制限する軸方向移動制限平面部226を有する軸受部品221を配置する。この軸方向移動制限平面部226に、鏡板背面224にかかる気体圧力を中心部に掛かる吐出圧力と鏡板背面224の外周にかかる吐出圧力よりも低い圧力とに仕切る摺動仕切環225を配設する。この摺動仕切り環225の外方の空間に形成される背圧室245は旋回スクロール鏡板213の内部に設けた第1の連通通路241を介して旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249と連通する構成となっている。
【0018】
また、旋回スクロール鏡板内部227に形成され、チップシール格納溝251に連絡する第2の連絡通路248を背圧室245に連絡する第1の連絡通路241の途中から分岐させる構成になっている。
【0019】
さらに、クランク軸206にもその内部を貫通する給油通路243を設け、この給油通路243の反圧縮機構側の端面はオイルポンプ242を介して油溜207と、圧縮機構側の端面は旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249とそれぞれ連通する構成になっている。
【0020】
このような構成にすることによって、油溜207からオイルポンプ242などで旋回スクロール鏡板背面224の中心部の吐出圧力が作用する空間249へ導かれた潤滑油は、第1の連絡通路241から絞り機構246等を経由して最外周の圧縮室に適量供給されるとともに、第1の連絡通路241から分岐する第2の連絡通路248からチップシール格納溝251とチップシール244背面のスキマに形成される空間にも充分に供給されることによって、チップシール格納溝251の長手方向に形成される低圧側への漏れ通路を遮断するとともに、チップシール格納溝251から溢れでる潤滑油によって圧縮室を形成する壁面にも供給する給油構成になっている。
【0021】
また、図5に示すように、チップシール244はチップシール格納溝251よりも長手方向の長さが適量短く形成されており、かつ巻始め端に適量すきま270を形成させてチップシール格納溝251に組付けられているため、旋回スクロール213の旋回運動によって、巻始め端すきま270が吐出孔260に連通する時にチップシール244背面に吐出圧力を導入して固定スクロール210底面に押付けられるため、チップシール244を横断して外側に形成されるより低圧の圧縮室への漏れ通路を遮断する構成になっている。
【0022】
さらに、図1および図2に示すように、旋回スクロール巻終わり端285から巻始め側にかけて概半巻きの区間のチップシール格納溝251の底面形状は、外壁側が内壁側よりも低くなるような傾斜面293を有する形状になっており、またこれに組付けられるチップシール244の反シール面は格納溝251の傾斜面293に対向する部分が、格納溝251の傾斜面293にならうような傾斜面295と外側に面取り状の逃げ部286cを有する形状になっている。
【0023】
上記のような断面形状を有するチップシール格納溝251とチップシール244にすることによって、吐出孔260から離れていることによって発生する通路抵抗損失によってチップシール浮上性が悪くなることを、回避することが可能になる。
【0024】
すなわち、チップシール244に隣接する圧縮室281(282)の圧力差によりチップシール244がチップシール格納溝251の両側壁面にねじれた状態(図4のタイミング)で押付けられる旋回スクロール巻終り端285から概半巻始め側のポイント(図1参照)においても、チップシール244の面取り状の逃がし部286cにより、外壁側からの導入圧力を受けやすくするとともに、チップシール格納溝251およびチップシール244に設けた傾斜面(293および295)のガイド作用によって、チップシール244を内壁側に移動時にスムーズに浮上させることができる。チップシール244は一度浮上すれば、内壁側からの圧力が作用しても固定スクロール底面255に沿って移動するだけで、浮上は安定する(一連の動作は図2参照)。
【0025】
さらに、チップシール244の面取り状の逃がし部286cとチップシール格納溝251の底面254との間に形成されるスキマに潤滑油を導き、その潤滑油がチップシール巻終り側に移動する時の反力によって、チップシール244はチップシール格納溝251側壁面および固定スクロール210底面255へ押し付けられ、巻終わり部においてもチップシール横断方向のシール性能は維持される。この作用が継続的におこなわれることで、同時にチップシール格納溝251に沿って、高圧側から低圧側へ洩れ込む経路も遮断することができる。
【0026】
この結果、チップシールの浮上は安定し、より高い性能を確保するスクロール圧縮機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明のスクロール圧縮機は、チップシールの浮上性および安定性を向上させることによって、高い性能を確保するスクロール圧縮機を提供することができるので、冷凍機や空気圧縮機、膨張機等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のチップシール断面形状と旋回スクロールと相対位置関係を示す斜視図
【図2】本発明のチップシール格納溝およびチップシ−ルの断面形状と動作説明図
【図3】従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の拡大断面図
【図4】チップシールの外側の圧縮室が内側の圧縮室より圧力が高くなるタイミングを説明する図
【図5】スクロール圧縮機構部の巻始め部の部分拡大断面図
【図6】従来のスクロール圧縮機の縦断面図
【図7】従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の拡大縦断面図
【符号の説明】
【0029】
201 密閉容器
202 圧縮機構
203a,203b 電動機
206 クランク軸
207 油溜
210 固定スクロール
213 旋回スクロール
214 圧縮室
215 自転拘束部品
218 主軸
219 主軸受
221 軸受部品
222 旋回駆動軸
223 偏芯軸受
225 摺動仕切環
241 第1の連絡通路
242 オイルポンプ
244 チップシール
245 背圧室
248 第2の連絡通路
251 チップシール格納溝
252 第2の連絡通路の開口端
253 連絡通路の分岐部
254 チップシール格納溝底面
255 固定スクロール底面
260 吐出孔
270 チップシール巻始めスキマ
281 チップシール外側の最外周圧縮室
282 チップシール内側の最外周圧縮室
285 旋回スクロール巻終り端
286c チップシールの面取り部
292a(b、c) チップシール断面形状
293 チップシール格納溝底面の傾斜面
295 チップシール反シール面の傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に潤滑油を溜める油溜を有し、吐出圧力が作用する密閉容器の内部動機と、この電動機で駆動する圧縮機構を配設し、前記圧縮機構を固定スクロールと、前記固定スクロールと噛み合い複数個の圧縮室を形成する旋回スクロールと、この旋回スクロールの自転を防止して旋回のみをさせる自転拘束部品と、前記旋回スクロールを旋回駆動するクランク軸と、このクランク軸に形成した主軸を支承する主軸受を有する軸受部品を含んで構成し、前記旋回スクロールの反ラップ側の鏡板背面に、前記クランク軸に設けた偏心駆動係合部に係合して前記旋回スクロールを旋回駆動する旋回駆動係合部を設け、この旋回駆動係合部の外方に前記鏡板背面に作用する圧力を前記鏡板背面の中心部に作用する吐出圧力と、前記鏡板背面の外周に作用する吐出圧力より低い圧力とに仕切る摺動仕切り環を配設し、前記鏡板背面の中心部に前記油溜りより高圧潤滑油を供給し、前記鏡板背面中心部と前記摺動仕切り環の外方の空間に形成される背圧室とを前記旋回スクロールの鏡板内部に形成される第1の連絡通路で連絡するとともに、この第1の連絡通路の途中から分岐し、前記旋回スクロールのラップ先端部に設けたチップシールを格納するチップシール格納溝の底面とを連絡する第2の連絡通路とを備え、前記旋回スクロール巻終わり端から巻始めにかけて概半巻きの区間は前記旋回スクロールのチップシール格納溝の底面に外壁側が内壁側よりも低くなるような傾斜面を設けるとともに、前記傾斜面に対向する部分の前記チップシールの反シール面は前記傾斜面にならうような傾斜面を設け、かつ外側に面取り状の逃げ部を設けるチップシール断面形状を有するスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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