説明

スクロール圧縮機

【課題】回転時に圧縮室で発生する流体荷重が偏心部に作用することで生じるクランク軸の撓みを抑制して、軸受耐力の低下を抑制する。
【解決手段】スクロール圧縮機(1)は、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)を備えている。この流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側にある上部流体撓み抑制ウェイト(81)と、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向と同じ側にある中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側にある下部流体撓み抑制ウェイト(83)とからなり、上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)は互いにバランスされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、流体圧力が高い場合の軸受耐力の低下の抑制に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定スクロールと可動スクロールとが噛合して圧縮室を形成するスクロール圧縮機が知られている。例えば、特許文献1には、この種のスクロール圧縮機が開示されている。このスクロール圧縮機は、主軸と該主軸の一端に偏心形成された偏心部とを有するクランク軸を備え、このクランク軸の偏心部に可動スクロールが連結されている。クランク軸を回転させると、可動スクロールは偏心回転する。そして、低圧の流体が圧縮室へ吸入、圧縮され、高圧の流体となって外部へ吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−61569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスクロール圧縮機では、圧縮室内の流体圧力によって、荷重(流体荷重)が偏心部に作用する。この流体荷重は、圧縮室内の流体圧力が高くなるにつれて大きくなる。そのため、流体圧力が高い場合は、クランク軸の撓みが大きくなってしまい、クランク軸を支える軸受の磨耗が大きくなって軸受耐力が低下するという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体圧力が高い場合の軸受耐力の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、固定スクロール(21)と可動スクロール(31)とが噛合して流体の圧縮室(30)が形成される圧縮機構(20)と、主軸(41)と該主軸(41)の一端に偏心形成されて可動スクロール(31)の背面側に連結される偏心部(42)とを有するクランク軸(40)と、クランク軸(40)の主軸(41)の上部を支持する上部軸受(63)と、クランク軸(40)の主軸(41)の下部を支持する下部軸受(71)と、ステータ(51)とクランク軸(40)の主軸(41)に連結されたロータ(52)とを有し、可動スクロール(31)を回転駆動させる駆動モータ(50)とを備えたスクロール圧縮機を前提としている。そして、クランク軸(40)の主軸(41)及び駆動モータ(50)のロータ(52)の少なくとも一方には、回転時に圧縮室(30)で発生する流体荷重が偏心部(42)に作用することで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するウェイト(80)が設けられている。
【0007】
上記第1の発明のスクロール圧縮機では、クランク軸(40)の主軸(41)の上部が上部軸受(63)に支持され、主軸(41)の下部が下部軸受(71)に支持されている。そのため、クランク軸(40)の偏心部(42)に流体荷重が作用すると、主軸(41)の上部及び下部に反力が作用してクランク軸(40)は流体荷重の方向に撓もうとする。
【0008】
上記第1の発明では、主軸(41)及びロータ(52)の少なくとも一方に設けられたウェイト(80)の遠心力によって、回転時に流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みが抑制される。そのため、流体圧力が高くなって流体荷重が大きくなっても、クランク軸(40)の撓みは増大しなくなる。よって、流体圧力が高い場合に、クランク軸(40)が軸受に片当たりして局所的に過大な接触面圧が発生することが抑制され、軸受の磨耗が抑制される。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、ウェイト(80)は、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)を備えたものである。その流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)は、主軸(41)の上部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側に位置する上部流体撓み抑制ウェイト(81)と、主軸(41)の中央部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向と同じ側に位置する中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と、主軸(41)の下部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側に位置する下部流体撓み抑制ウェイト(83)とからなり、上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)は互いにバランスされているものである。
【0010】
上記第2の発明では、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)が設けられている。クランク軸(40)を回転させると、主軸(41)の上部には、上部流体撓み抑制ウェイト(81)の遠心力が流体荷重の方向とは反対方向に発生する。また、主軸(41)の中央部には、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)の遠心力が流体荷重の方向と同じ方向に発生し、主軸(41)の下部には、下部流体撓み抑制ウェイト(83)の遠心力が流体荷重の方向とは反対方向に発生する。上部流体撓み抑制ウェイト(81)の遠心力は偏心部(42)に作用する流体荷重と、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)の遠心力は主軸(41)の上部の反力と、下部流体撓み抑制ウェイト(83)の遠心力は主軸(41)の下部の反力と、それぞれ作用する方向が反対である。そのため、これら3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)の遠心力は、流体荷重及びその反力によるクランク軸(40)の撓みを抑制するように作用する。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、ウェイト(80)は、回転時に可動スクロール(31)の遠心力とバランスするバランスウェイト(91,92)を備えたものである。そのバランスウェイト(91,92)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置する第1バランスウェイト(91)と、該第1バランスウェイト(91)よりも偏心部(42)から離れた位置に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)と同じ側に位置する第2バランスウェイト(92)からなるものである。
【0012】
上記第3の発明では、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)に加えて、2つのバランスウェイト(91,92)が設けられている。クランク軸(40)を回転させると、第1バランスウェイト(91)の遠心力は偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に発生し、第2バランスウェイト(92)の遠心力は偏心部(42)の偏心方向と同じ方向に発生する。これら2つの遠心力が主軸(41)に作用すると、偏心部(42)には、偏心部(42)の偏心方向とは反対方向、つまり、可動スクロール(31)の遠心力とは反対方向の力が生じて、可動スクロール(31)の遠心力はバランスされる。
【0013】
第4の発明は、上記第3の発明において、ウェイト(80)は、可動スクロール(31)の遠心力とバランスウェイト(91,92)の遠心力をバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制する遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を備えたものである。その遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)は、主軸(41)の上部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置する上部遠心撓み抑制ウェイト(101)と、主軸(41)の中央部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)と同じ側に位置する中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)と、主軸(41)の下部に設けられ、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置する下部遠心撓み抑制ウェイト(103)とからなり、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)は互いにバランスされているものである。
【0014】
上記第4の発明では、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)及び2つのバランスウェイト(91,92)に加えて、3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)が設けられている。クランク軸(40)を回転させると、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)の遠心力は偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に発生する。また、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)の遠心力は偏心部(42)の偏心方向と同じ方向に発生し、下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の遠心力は偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に発生する。上部遠心撓み抑制ウェイト(101)の遠心力と可動スクロール(31)の遠心力、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)の遠心力と第1バランスウェイト(91)の遠心力、下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の遠心力と第2バランスウェイト(92)の遠心力は、それぞれ作用する方向が反対である。そのため、これら3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)の遠心力は、可動スクロール(31)と2つのバランスウェイト(91,92)の遠心力によって生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するように作用する。
【0015】
第5の発明は、上記第4の発明において、上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)の少なくとも1つは、第1バランスウェイト(91)、第2バランスウェイト(92)、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の何れかと一体に形成されているものである。
【0016】
上記第5の発明では、部品点数及び組立工数を減らすことができる。
【0017】
第6の発明は、上記第1の発明において、ウェイト(80)は、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第1力、第2力及び第3力と、可動スクロール(31)の遠心力とバランスする第4力及び第5力と、可動スクロール(31)の遠心力と第4力及び第5力をバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第6力、第7力及び第8力とを発生させるものである。そして、主軸(41)の上部に設けられ第1力及び第6力の合力を遠心力として発生させる上部ウェイト(111)と、主軸(41)の中央部に設けられ第2力、第4力及び第7力の合力を遠心力として発生させる中央部ウェイト(112)と、主軸(41)の下部に設けられ第3力、第5力及び第8力の合力を遠心力として発生させる下部ウェイト(113)からなるものである。
【0018】
上記第6の発明では、3つのウェイト(111,112,113)によって、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの力と可動スクロール(31)の遠心力とバランスする2つの力と可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの力を発生させている。この状態は、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を主軸(41)に設けてクランク軸(40)を回転させた状態と同じである。よって、第6の発明においても、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みが抑制されると共に、可動スクロール(31)の遠心力とバランスしつつ、可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みが抑制された状態が形成される。
【0019】
第7の発明は、上記第1の発明において、ウェイト(80)は、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第1力、第2力及び第3力と、可動スクロール(31)の遠心力とバランスする第4力及び第5力と、可動スクロール(31)の遠心力と第4力及び第5力をバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第6力、第7力及び第8力とを発生させるものである。そして、主軸(41)の上部に設けられ上記第1力、第4力、及び第6力の合力を遠心力として発生させる上部ウェイト(111)と、主軸(41)の中央部に設けられ上記第2力及び第7力の合力を遠心力として発生させる中央部ウェイト(112)と、主軸(41)の下部に設けられ第3力、第5力及び第8力の合力を遠心力として発生させる下部ウェイト(113)からなるものである。
【0020】
上記第7の発明では、3つのウェイト(111,112,113)によって、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの力と可動スクロール(31)の遠心力とバランスする2つの力と可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの力を発生させている。この状態は、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を主軸(41)に設けてクランク軸(40)を回転させた状態と同じである。よって、第7の発明においても、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みが抑制されると共に、可動スクロール(31)の遠心力とバランスしつつ、可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みが抑制された状態が形成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転時に流体荷重が偏心部(42)に作用することで生じる流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制するウェイト(80)を、クランク軸(40)の主軸(41)及び駆動モータ(50)のロータ(52)の少なくとも一方に設けるようにした。これにより、流体圧力が高い場合に、クランク軸(40)の撓みが流体荷重の方向に大きくなるのを抑制することができる。その結果、従来に比べて、軸受の磨耗を抑制でき、磨耗による軸受耐力の低下を抑制できる。
【0022】
第2の発明によれば、上記ウェイト(80)として、上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)を設けるようにした。これにより、流体荷重によるクランク軸(40)の撓みを確実に抑制できる。
【0023】
第3の発明によれば、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)に加えて、2つのバランスウェイト(91,92)を設けるようにした。これにより、流体荷重によるクランク軸(40)の撓みを抑制しつつ、可動スクロール(31)の遠心力を確実にバランスすることができる。
【0024】
第4の発明によれば、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)及び2つのバランスウェイト(91,92)に加えて、3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を設けるようにした。これにより、流体荷重によるクランク軸(40)の撓みを確実に抑制すると共に、可動スクロール(31)の遠心力をバランスしつつ、可動スクロール(31)及びバランスウェイト(91,92)の遠心力によって生じるクランク軸(40)の撓みを確実に抑制できる。
【0025】
第5の発明によれば、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)の少なくとも1つを、2つのバランスウェイト(91,92)及び3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)の何れかと一体に形成するようにした。そのため、部品点数及び組立工数を減らすことができ、スクロール圧縮機(1)を低コスト化できる。
【0026】
第6の発明によれば、上記ウェイト(80)として、上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)を設けて、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力と、可動スクロール(31)の遠心力とバランスする2つの遠心力と、可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力を発生させるようにした。この状態は、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を主軸(41)に設けてクランク軸(40)を回転させた状態と同じである。よって、第6の発明においても、流体圧力が高い場合に軸受の磨耗を抑制して軸受耐力の低下を抑制できる。また、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を設けた場合に比べて、ウェイトの総重量及び総体積を小さくできるため、スクロール圧縮機(1)を軽量化できると共に、ウェイトの設置スペースを小さくしてスクロール圧縮機(1)を小型化することができる。
【0027】
第7の発明によれば、上記ウェイト(80)として、上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)を設けて、回転時に、流体荷重の方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力と、可動スクロール(31)の遠心力とバランスする2つの遠心力と、可動スクロール(31)の遠心力方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力を発生させるようにした。この状態は、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を主軸(41)に設けてクランク軸(40)を回転させた状態と同じである。よって、第7の発明においても、流体圧力が高い場合に軸受の磨耗を抑制して軸受耐力の低下を抑制できる。また、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)と3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を設けた場合に比べて、ウェイトの総重量及び総体積を小さくできるため、スクロール圧縮機(1)を軽量化できると共に、ウェイトの設置スペースを小さくしてスクロール圧縮機(1)を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施形態1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態1のクランク軸に作用する力を示す概念図である。
【図3】図3は、実施形態2のクランク軸に作用する力を示す概念図である。
【図4】図4は、実施形態3のクランク軸に作用する力を示す概念図である。
【図5】図5は、実施形態3のウェイトの回転時の遠心力を示す表である。
【図6】図6は、実施形態4のクランク軸に作用する力を示す概念図である。
【図7】図7は、実施形態4のウェイトの回転時の遠心力及び重心方向(偏心部の偏心方向を基準としたクランク軸の回転方向の角度)を示す表である。
【図8】図8は、実施形態4の変形例のクランク軸に作用する力を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態及び変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0030】
《発明の実施形態1》
本実施形態のスクロール圧縮機(1)は、例えば、冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示省略)に接続され、冷媒を圧縮するためのものである。図1に示すように、スクロール圧縮機(1)は、ケーシング(10)、圧縮機構(20)、ハウジング(60)、駆動モータ(50)、下部軸受部(70)、クランク軸(40)を備えている。
【0031】
上記ケーシング(10)は、上下方向に軸線を有する円筒状の密閉容器である。ケーシング(10)の内部空間には、上から下に向かって順に、圧縮機構(20)、ハウジング(60)、駆動モータ(50)、下部軸受部(70)が配置されている。また、クランク軸(40)は、ケーシング(10)の内部において、ケーシング(10)の軸線に沿うように配置されている。
【0032】
ケーシング(10)の上部には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(20)へ導く吸入管(14)が貫通固定されている。ケーシング(10)の中央部には、ケーシング(10)内の冷媒を冷媒回路へ吐出させる吐出管(15)が貫通固定されている。ケーシング(10)の下部には、潤滑油が貯留された油溜まり部(16)が形成されている。
【0033】
上記クランク軸(40)は、主軸(41)、偏心部(42)、油吸入部(44)を備えている。主軸(41)は、上下方向に延びるように配置され、その上端には、側面が全周に亘って径方向に突出した突出部(43)が形成されている。偏心部(42)は、その突出部(43)の上面、つまり、主軸(41)の上端に偏心形成されている。この偏心部(42)は、円柱状に形成され、突出部(43)の上面から上方へ突出し、その軸心が主軸(41)の軸心に対して偏心している。また、油吸入部(44)は、円筒状に形成され、一端が主軸(41)の下端に固定され、他端が油溜まり部(16)に浸漬されている。クランク軸(40)の内部には、下端の油吸入部(44)から上端の偏心部(42)へ貫く給油路(45)が形成されている。
【0034】
上記圧縮機構(20)は、ハウジング(60)の上面に固定される固定スクロール(21)と該固定スクロール(21)に噛合する可動スクロール(31)とを備えている。
【0035】
上記固定スクロール(21)は、鏡板(22)と、該鏡板(22)の前面(図1では下面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(23)と、該ラップ(23)の外周側に位置して該ラップ(23)と連続的に形成された外周壁部(24)とを有している。外周壁部(24)の先端面は、ラップ(23)の先端面と略面一に形成され、ハウジング(60)の上面に接して固定されている。また、外周壁部(24)には、吸入ポート(25)が設けられ、その吸入ポート(25)には、吸入管(14)が気密状に接合されている。また、固定スクロール(21)の鏡板(22)の中央部には、鏡板(22)を厚さ方向に貫通する吐出口(26)が設けられている。鏡板(22)の背面(図1では上面)側の吐出口(26)の開口は、蓋材(27)によって閉口されている。吐出口(26)は、固定スクロール(21)の鏡板(22)及びハウジング(60)に形成される通路(図示省略)を介して、ハウジング(60)の下方の下部空間(18)に連通している。
【0036】
上記可動スクロール(31)は、鏡板(32)と、該鏡板(32)の前面(図1では上面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(33)とを備えている。可動スクロール(31)のラップ(33)は固定スクロール(21)のラップ(23)に噛合しており、固定スクロール(21)の鏡板(22)と可動スクロール(31)の鏡板(32)との間には、両ラップ(23,33)によって仕切られた空間からなる圧縮室(30)が形成される。また、可動スクロール(31)の鏡板(32)の背面側の中心部には、円筒状のボス部(34)が一体に形成されている。ボス部(34)には軸受(35)が圧入されており、その軸受(35)には、クランク軸(40)の偏心部(42)が回転可能に支持されている。
【0037】
このように、偏心部(42)は、可動スクロール(31)の背面側に連結されている。そのため、クランク軸(40)を回転させると、図2に示すように、偏心部(42)には、圧縮室(30)で発生する流体荷重Aが作用する。この流体荷重Aは、偏心回転時の可動スクロール(31)の移動方向に対して概ね反対方向に作用する。具体的に、流体荷重Aは、偏心部(42)の偏心方向に対して、クランク軸(40)の反回転方向に55度から145度傾けた方向に作用する。また、偏心部(42)には、クランク軸(40)の回転によって、可動スクロール(31)の遠心力Bが作用する。この可動スクロール(31)の遠心力Bは、偏心部(42)の偏心方向に作用する。
【0038】
上記ハウジング(60)は、図1に示すように、皿状に形成され、環状の外周部と上面に凹状の凹部(61)が形成された中央部を有している。ハウジング(60)は、外周部においてケーシング(10)に圧入固定されて気密状に密着されている。よって、ケーシング(10)の内部空間は、ハウジング(60)によって圧縮機構(20)が収容される上部空間(17)と駆動モータ(50)が収容される下部空間(18)に区画されている。
【0039】
上記ハウジング(60)には、凹部(61)の底面からハウジング(60)下端面に貫通する貫通孔(62)が形成されている。貫通孔(62)には、上部軸受(63)が圧入固定されており、その上部軸受(63)には、主軸(41)の上部が回転可能に支持されている。そのため、図2に示すように、偏心部(42)に流体荷重Aが作用すると、主軸(41)の上部軸受(63)に支持された部分には、流体荷重Aとは反対方向の反力Cが作用する。
【0040】
また、図1に示すように、上記ハウジング(60)の上面には、凹部(61)の外周縁部に環状のシール部材(64)が設けられている。このシール部材(64)は、可動スクロール(31)の鏡板(32)の背面側に当接した状態で保持され、可動スクロール(31)の背面側の空間をシール部材(64)の内周側の空間と外周側の空間とに区画している。シール部材(64)の内周側の空間は、凹部(61)とその凹部(61)に連通する給油路(45)によって空間形成されている。一方、シール部材(64)の外周側の空間は、ハウジング(60)の外周部と可動スクロール(31)の間の隙間によって空間形成されている。シール部材(64)の外周側の空間には、可動スクロール(31)の鏡板(32)の背面に形成されたキー溝(図示省略)と、ハウジング(60)の外周部の上面に形成されたキー溝(図示省略)とに係合され、可動スクロール(31)の自転を防止するオルダムカップリング(67)が設けられている。
【0041】
上記駆動モータ(50)は、ステータ(51)とロータ(52)とを備えている。ステータ(51)は、焼嵌め等によってケーシング(10)に固定されている。ロータ(52)は、ステータ(51)の内側において、ステータ(51)と同軸に配置され、クランク軸(40)の主軸(41)に焼嵌め等によって固定されている。
【0042】
上記下部軸受部(70)は、筒状の軸受保持部(72)と、該軸受保持部(72)の外周面に外向きに突設されケーシング(10)に固定される固定部(73)とを有している。軸受保持部(72)には、下部軸受(71)が圧入されており、その下部軸受(71)には、主軸(41)の下部が回転可能に支持されている。そのため、図2に示すように、偏心部(42)に流体荷重Aが作用すると共に、主軸(41)の上部軸受(63)に支持された部分に反力Cが作用すると、主軸(41)の下部軸受(71)に支持された部分には、反力Cとは反対方向の反力Dが作用する。
【0043】
上記クランク軸(40)の主軸(41)には、図1に示すように、上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)が設けられている。これら3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)は、回転時に流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みを抑制するものであり、本発明のウェイト(80)の一部を構成している。
【0044】
これら3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)は、図2に示すように、それぞれ平面視C字状に形成されている。上部流体撓み抑制ウェイト(81)は、突出部(43)(以下、主軸(41)の上部と言う)の、主軸(41)の軸心を基準に流体荷重Aの方向とは反対側の側面に取り付けられている。中央部流体撓み抑制ウェイト(82)は、ハウジング(60)とロータ(52)の間(以下、主軸(41)の中央部と言う)の、主軸(41)の軸心を基準に上部流体撓み抑制ウェイト(81)とは反対側の側面に取り付けられている。下部流体撓み抑制ウェイト(83)は、ロータ(52)と下部軸受部(70)の間(以下、主軸(41)の下部と言う)の、主軸(41)の軸心を基準に上部流体撓み抑制ウェイト(81)と同じ側の側面に取り付けられている。上部流体撓み抑制ウェイト(81)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)の重心は、主軸(41)の軸心を基準に流体荷重Aの方向に対して反対側に位置し、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)の重心は同じ側に位置している。
【0045】
−運転動作−
スクロール圧縮機(1)では、駆動モータ(50)を駆動すると、クランク軸(40)が回転して、可動スクロール(31)が偏心回転する。可動スクロール(31)は、その自転運動がオルダムカップリング(67)によって規制されているため、自転運動は行わずに公転運動だけを行う。
【0046】
可動スクロール(31)が公転運動すると、冷媒回路の低圧の流体(ガス冷媒)が、吸入管(14)から吸入ポート(25)を介して圧縮室(30)に吸入される。そして、更に可動スクロール(31)が公転運動すると、圧縮室(30)は吸入ポート(25)から遮断されて閉じきり状態となり、固定スクロール(21)のラップ(23)及び可動スクロール(31)のラップ(33)に沿って中央部に向かって移動してゆく。その過程で、圧縮室(30)の容積は次第に縮小し、圧縮室(30)内の流体は圧縮されてゆく。
【0047】
圧縮室(30)の容積が縮小すると、やがて圧縮室(30)は、吐出口(26)に連通する。圧縮室(30)内で圧縮された流体は、吐出口(26)から固定スクロール(21)の鏡板(22)及びハウジング(60)に形成された通路(図示省略)を通って下部空間(18)に流出され、吐出管(15)から冷媒回路へ吐出される。
【0048】
スクロール圧縮機(1)では、圧縮室(30)内で流体が圧縮されると、圧縮室(30)内の流体圧力が回転時の負荷となり、偏心部(42)に流体荷重Aが作用する。偏心部(42)に流体荷重Aが作用すると、上部軸受(63)に支持された主軸(41)の上部には反力Cが作用し、下部軸受(71)に支持された主軸(41)の下部には反力Dが作用する。流体荷重A、反力C及び反力Dは、流体圧力が高くなるにつれて大きくなる。そのため、流体圧力が高い場合、クランク軸(40)は流体荷重Aの方向に大きく撓もうとする。
【0049】
ところが、本実施形態では、主軸(41)に設けられた3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)の遠心力によって、流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みは抑制される。
【0050】
具体的に、図2に示すように、クランク軸(40)を回転させると、上部流体撓み抑制ウェイト(81)の遠心力Eは流体荷重Aの方向とは反対方向に作用し、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)の遠心力Fは流体荷重Aの方向と同じ方向に作用し、下部流体撓み抑制ウェイト(83)の遠心力Gは流体荷重Aの方向とは反対方向に作用する。これら3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)の遠心力E、F、Gは、互いにバランスがとれている。また、遠心力Eと流体荷重A、遠心力Fと反力C、遠心力Gと反力Dは、それぞれ作用する方向が反対である。よって、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)の遠心力E、F、Gは、流体荷重A、反力C、反力Dによって生じた流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みを抑制するように作用する。その結果、クランク軸(40)が各軸受(63,71)に片当たりして、局所的に過大な接触面圧を発生することが抑制され、軸受(63,71)の磨耗は抑制される。
【0051】
−実施形態の効果−
本実施形態では、回転時に流体荷重Aが偏心部(42)に作用することで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するウェイト(80)を、クランク軸(40)の主軸(41)に設けるようにした。これにより、流体圧力が高い場合に、クランク軸(40)の撓みが流体荷重Aの方向に大きくなるのを抑制できる。その結果、従来に比べて、軸受の磨耗を抑制でき、磨耗による軸受耐力の低下を抑制できる。
【0052】
また、本実施形態では、上記ウェイト(80)として、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)を設けるようにした。これにより、流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みを抑制した状態を確実に形成することができる。
【0053】
《実施形態1の変形例》
上記実施形態1については、以下のような構成としてもよい。
【0054】
上記実施形態1では、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)が主軸(41)の中央部(ハウジング(60)とロータ(52)の間)に取り付けられているが、その中央部流体撓み抑制ウェイト(82)をロータ(52)の上面に取り付けても構わない。また、下部流体撓み抑制ウェイト(83)が主軸(41)の下部(ロータ(52)と下部軸受部(70)の間)に取り付けられているが、その下部流体撓み抑制ウェイト(83)をロータ(52)の下面に取り付けても構わない。
【0055】
また、上記実施形態1では、3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)をそれぞれ平面視C字状に形成し、主軸(41)の側面に取り付けるようにした。しかし、上部流体撓み抑制ウェイト(81)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重Aの方向とは反対側に位置し、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に流体荷重Aの方向と同じ側に位置するものであれば、その形状及び配置はこの限りでない。
【0056】
《実施形態2》
次に、本発明の実施形態2を図面に基づいて詳細に説明する。実施形態2は、上記実施形態1のウェイトの数を変更したものである。つまり、上記実施形態1では、主軸(41)に3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)が設けられていたが、実施形態2では、図3に示すように、それに加えて、2つのバランスウェイト(91,92)を設けるようにした。
【0057】
クランク軸(40)の主軸(41)には、第1バランスウェイト(91)及び第2バランスウェイト(92)が設けられている。この2つのバランスウェイト(91,92)は、回転時に可動スクロール(31)の遠心力Bとバランスするものであり、本発明のウェイト(80)の一部を構成している。この2つのバランスウェイト(91,92)は、それぞれ平面視C字状に形成されている。第1バランスウェイト(91)は、主軸(41)の中央部の、主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側の側面に取り付けられている。一方、第2バランスウェイト(92)は、主軸(41)の下部の、主軸(41)の軸心を基準に第1バランスウェイト(91)とは反対側の側面に取り付けられている。このように、第1バランスウェイト(91)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置するように設けられ、第2バランスウェイト(92)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)と同じ側に位置するように設けられている。
【0058】
第1バランスウェイト(91)及び第2バランスウェイト(92)を取り付けた状態でクランク軸(40)を回転させると、主軸(41)の中央部には、第1バランスウェイト(91)の遠心力Hが偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に作用し、主軸(41)の下部には、第2バランスウェイト(92)の遠心力Iが偏心部(42)の偏心方向と同じ方向に作用する。これら2つの遠心力H、Iが主軸(41)に作用すると、偏心部(42)には、偏心部(42)の偏心方向とは反対方向、つまり、可動スクロール(31)の遠心力Bとは反対方向の力Jが生じて可動スクロール(31)の遠心力Bはバランスされ、クランク軸(40)の姿勢が維持される。その結果、クランク軸(40)が各軸受(63,71)に片当たりすることを一層抑制でき、より確実に各軸受(63,71)の磨耗を抑制できる。尚、その他の構成、作用及び効果は上記実施形態1と同様である。
【0059】
《実施形態2の変形例》
上記実施形態2については、以下のような構成としてもよい。
【0060】
上記実施形態2では、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と第1バランスウェイト(91)が、それぞれ主軸(41)の中央部(ハウジング(60)とロータ(52)の間)に取り付けられている。しかし、ウェイトの取り付け場所はこの限りではなく、これら2つのウェイト(82,91)の少なくとも1つをロータ(52)の上面に取り付けても構わない。
【0061】
また、上記実施形態2では、下部流体撓み抑制ウェイト(83)と第2バランスウェイト(92)が、それぞれ主軸(41)の下部(ロータ(52)と下部軸受部(70)の間)に取り付けられている。しかし、ウェイトの取り付け場所はこの限りではなく、これら2つのウェイト(83,92)の少なくとも1つをロータ(52)の下面に取り付けても構わない。
【0062】
また、上記実施形態2では、2つのバランスウェイト(91,92)をそれぞれ平面視C字状に形成し、主軸(41)の側面に取り付けるようにした。しかし、第1バランスウェイト(91)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置し、第2バランスウェイト(92)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)と同じ側に位置するものであれば、その形状及び配置はこの限りでない。
【0063】
また、上記実施形態2では、主軸(41)の中央部に第1バランスウェイト(91)を設けているが、この限りではなく、例えば、主軸(41)の上部に第1バランスウェイト(91)を設けて、遠心力Hを作用させても構わない。
【0064】
また、上記実施形態2では、流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)とバランスウェイト(91,92)を別々に設けるようにした。しかし、この限りではなく、例えば、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と第1バランスウェイト(91)を一体に形成しても構わない。このように、流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)及びバランスウェイト(91,92)の何れかを一体に形成しても、同様の効果を奏する。
【0065】
《実施形態3》
次に、本発明の実施形態3を図面に基づいて詳細に説明する。実施形態3は、上記実施形態2のウェイトの数を変更したものである。つまり、上記実施形態2では、主軸(41)に3つの流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と2つのバランスウェイト(91,92)が設けられていたが、実施形態3では、図4及び図5に示すように、それらに加えて、3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を設けるようにした。
【0066】
クランク軸(40)の主軸(41)には、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)、及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)が設けられている。これら3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)は、可動スクロール(31)の遠心力Bと2つのバランスウェイト(91,92)の遠心力H、Iをバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するものであり、本発明のウェイト(80)の一部を構成している。これら3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)は、それぞれ平面視C字状に形成されている。上部遠心撓み抑制ウェイト(101)は、主軸(41)上部の、主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側の側面に取り付けられている。中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)は、主軸(41)中央部の、主軸(41)の軸心を基準に上部遠心撓み抑制ウェイト(101)とは反対側の側面に取り付けられている。下部遠心撓み抑制ウェイト(103)は、主軸(41)下部の、主軸(41)の軸心を基準に上部遠心撓み抑制ウェイト(101)と同じ側の側面に取り付けられている。上部遠心撓み抑制ウェイト(101)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の重心は、主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置し、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)の重心は同じ側に位置している。
【0067】
これら3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を取り付けた状態でクランク軸(40)を回転させると、主軸(41)の上部には、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)の遠心力Kが偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に作用する。また、主軸(41)の中央部には、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)の遠心力Lが偏心部(42)の偏心方向と同じ方向に作用し、主軸(41)の下部には、下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の遠心力Mが偏心部(42)の偏心方向とは反対方向に作用する。これら3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)の遠心力K、L、Mは、互いにバランスがとれている。また、遠心力Kと可動スクロール(31)の遠心力B、遠心力Lと第1バランスウェイト(91)の遠心力H、遠心力Mと第2バランスウェイト(92)の遠心力Iは、それぞれ作用する方向が反対である。従って、3つの遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)の遠心力K、L、Mは、可動スクロール(31)と2つのバランスウェイト(91,92)の遠心力B、H、Iによって生じるクランク軸(40)の撓みを抑制する方向に作用する。そのため、クランク軸(40)の回転数が高く、可動スクロール(31)及び2つのバランスウェイト(91,92)の遠心力B、H、Iが大きい場合でも、クランク軸(40)の撓みは、遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)の遠心力K、L、Mによって抑制される。その結果、クランク軸(40)が各軸受(63,71)に片当たりすることを一層抑制でき、より確実に各軸受(63,71)の磨耗を抑制できる。尚、その他の構成、作用及び効果は上記実施形態2と同様である。
【0068】
《実施形態3の変形例》
上記実施形態3については、以下のような構成としてもよい。
【0069】
上記実施形態3では、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と第1バランスウェイト(91)と中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)とが、それぞれ主軸(41)の中央部(ハウジング(60)とロータ(52)の間)に取り付けられている。しかし、ウェイトの取り付け場所はこの限りではなく、これら3つのウェイト(82,91,102)の少なくとも1つをロータ(52)の上面に取り付けても構わない。
【0070】
また、上記実施形態3では、下部流体撓み抑制ウェイト(83)と第2バランスウェイト(92)と下部遠心撓み抑制ウェイト(103)とが、それぞれ主軸(41)の下部(ロータ(52)と下部軸受部(70)の間)に取り付けられている。しかし、ウェイトの取り付け場所はこの限りではなく、これら3つのウェイト(83,92,103)の少なくとも1つをロータ(52)の下面に取り付けても構わない。
【0071】
また、上記実施形態3では、遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)も、それぞれ平面視C字状に形成し、主軸(41)の側面に取り付けるようにした。しかし、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)とは反対側に位置し、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)は、重心が主軸(41)の軸心を基準に偏心部(42)と同じ側に位置するものであれば、その形状及び配置はこの限りでない。
【0072】
また、上記実施形態3では、主軸(41)の中央部に第1バランスウェイト(91)を設けているが、この限りではなく、例えば、主軸(41)の上部に第1バランスウェイト(91)を設けて、遠心力Hを作用させても構わない。
【0073】
また、上記実施形態3では、流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)、バランスウェイト(91,92)及び遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を別々に設けるようにした。しかし、この限りではなく、流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)と、バランスウェイト(91,92)及び遠心力撓み抑制ウェイト(101,102,103)の何れかを一体に形成しても、同様の効果を奏する。
【0074】
《実施形態4》
次に、本発明の実施形態4を図面に基づいて詳細に説明する。実施形態4は、上記実施形態3においてウェイト(80)の数を変更したものである。つまり、上記実施形態3では、主軸(41)に合計8つのウエイト(81,82,91〜93,101〜103)が設けられていたが、実施形態4では、図6及び図7に示すように、3つのウェイト(111,112,113)を設けるようにした。
【0075】
クランク軸(40)の主軸(41)には、上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)が設けられている。上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)は、流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みを抑制しつつ、可動スクロール(31)の遠心力Bとバランスし、さらに、可動スクロール(31)の遠心力Bをバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するものである。上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)は、主軸(41)の上部、中央部、下部にそれぞれ設けられている。上部ウェイト(111)は、回転時に、上部流体撓み抑制ウェイト(81)の遠心力Eと上部遠心撓み抑制ウェイト(101)の遠心力Kの合力と同じ大きさの遠心力N1が発生するように構成されている。中央部ウェイト(112)は、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)の遠心力Fと第1バランスウェイト(91)の遠心力Hと中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)の遠心力Lの合力と同じ大きさの遠心力O1が発生するように構成されている。下部ウェイト(113)は、回転時に、下部流体撓み抑制ウェイト(83)の遠心力Gと第2バランスウェイト(92)の遠心力Iと下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の遠心力Mの合力と同じ大きさの遠心力Pが発生するように構成されている。ここで、遠心力E、遠心力F、遠心力G、遠心力H、遠心力I、遠心力K、遠心力L、遠心力Mは、それぞれ本発明の第1力、第2力、第3力、第4力、第5力、第6力、第7力、第8力を構成している。
【0076】
実施形態4では、上記実施形態3と同様の状態が形成されている。具体的には、流体荷重Aの方向のクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力E、F、Gが発生し、可動スクロール(31)の遠心力Bとバランスする2つの遠心力H及びIが発生し、可動スクロール(31)の遠心力Bを2つの遠心力H及びIによってバランスすることで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制する3つの遠心力K、L、Mが発生した状態が形成されている。従って、実施形態4においても、上記実施形態3と同様に、流体圧力が高い場合に軸受の磨耗を抑制して軸受耐力の低下を抑制できる。また、上記実施形態4と比べて、ウェイトの総重量及び総体積を小さくできるため、スクロール圧縮機(1)を軽量化できると共に、ウェイトの設置スペースを小さくしてスクロール圧縮機(1)を小型化できる。尚、その他の構成、作用及び効果は上記実施形態3と同様である。
【0077】
《実施形態4の変形例》
上記実施形態4については、以下のような構成としてもよい。
【0078】
上記実施形態4では、中央部ウェイト(112)が主軸(41)の中央部(ハウジング(60)とロータ(52)の間)に取り付けられているが、その中央部ウェイト(112)をロータ(52)の上面に取り付けても構わない。また、下部ウェイト(113)が主軸(41)の下部(ロータ(52)と下部軸受部(70)の間)に取り付けられているが、その下部ウェイト(113)をロータ(52)の下面に取り付けても構わない。
【0079】
また、上記実施形態4では、上部ウェイト(111)、中央部ウェイト(112)及び下部ウェイト(113)をそれぞれ平面視C字状に形成し、主軸(41)の側面に取り付けるようにしたが、その形状及び配置はこの限りでない。
【0080】
また、上記実施形態4では、回転時に、遠心力Eと遠心力Kの合力N1を発生させる上部ウェイト(111)と遠心力Fと遠心力Hと遠心力Lの合力O1を発生させる中央部ウェイト(112)を設けるようにした。しかし、上部ウェイト(111)及び中央部ウェイト(112)はこの限りではなく、図8に示すように、回転時に、遠心力Eと遠心力Hと遠心力Kとの合力N2を発生させる上部ウェイト(111)と遠心力Fと遠心力Lの合力O2を発生させる中央部ウェイト(112)を設けても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続され、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機として有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 スクロール圧縮機
20 圧縮機構
21 固定スクロール
30 圧縮室
31 可動スクロール
40 クランク軸
41 主軸
42 偏心部
50 駆動モータ
52 ロータ
63 上部軸受
71 下部軸受
80 ウェイト
81 上部流体撓み抑制ウェイト
82 中央部流体撓み抑制ウェイト
83 下部流体撓み抑制ウェイト
91 第1バランスウェイト
92 第2バランスウェイト
101 上部遠心撓み抑制ウェイト
102 中央部遠心撓み抑制ウェイト
103 下部遠心撓み抑制ウェイト
111 上部ウェイト
112 中央部ウェイト
113 下部ウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(21)と可動スクロール(31)とが噛合して流体の圧縮室(30)が形成される圧縮機構(20)と、
主軸(41)と該主軸(41)の一端に偏心形成されて上記可動スクロール(31)の背面側に連結される偏心部(42)とを有するクランク軸(40)と、
上記クランク軸(40)の主軸(41)の上部を支持する上部軸受(63)と、
上記クランク軸(40)の主軸(41)の下部を支持する下部軸受(71)と、
ステータ(51)と上記クランク軸(40)の主軸(41)に連結されたロータ(52)とを有し、上記可動スクロール(31)を回転駆動させる駆動モータ(50)とを備えたスクロール圧縮機であって、
上記クランク軸(40)の主軸(41)及び上記駆動モータ(50)のロータ(52)の少なくとも一方には、回転時に上記圧縮室(30)で発生する流体荷重が上記偏心部(42)に作用することで生じるクランク軸(40)の撓みを抑制するウェイト(80)が設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記ウェイト(80)は、流体荷重の方向の上記クランク軸(40)の撓みを抑制する流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)を備えたものであり、
上記流体撓み抑制ウェイト(81,82,83)は、上記主軸(41)の上部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側に位置する上部流体撓み抑制ウェイト(81)と、上記主軸(41)の中央部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向と同じ側に位置する中央部流体撓み抑制ウェイト(82)と、上記主軸(41)の下部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に流体荷重の方向とは反対側に位置する下部流体撓み抑制ウェイト(83)とからなり、上記上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)は互いにバランスされている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記ウェイト(80)は、回転時に上記可動スクロール(31)の遠心力とバランスするバランスウェイト(91,92)を備えたものであり、
上記バランスウェイト(91,92)は、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に上記偏心部(42)とは反対側に位置する第1バランスウェイト(91)と、該第1バランスウェイト(91)よりも上記偏心部(42)から離れた位置に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に上記偏心部(42)と同じ側に位置する第2バランスウェイト(92)とからなる
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記ウェイト(80)は、上記可動スクロール(31)の遠心力と上記バランスウェイト(91,92)の遠心力をバランスすることで生じる上記クランク軸(40)の撓みを抑制する遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)を備えたものであり、
上記遠心撓み抑制ウェイト(101,102,103)は、上記主軸(41)の上部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に上記偏心部(42)とは反対側に位置する上部遠心撓み抑制ウェイト(101)と、上記主軸(41)の中央部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に上記偏心部(42)と同じ側に位置する中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)と、上記主軸(41)の下部に設けられ、重心が上記主軸(41)の軸心を基準に上記偏心部(42)とは反対側に位置する下部遠心撓み抑制ウェイト(103)とからなり、上記上部遠心撓み抑制ウェイト(101)、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)は互いにバランスされている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
上記上部流体撓み抑制ウェイト(81)、中央部流体撓み抑制ウェイト(82)及び下部流体撓み抑制ウェイト(83)の少なくとも1つは、上記第1バランスウェイト(91)、第2バランスウェイト(92)、上部遠心撓み抑制ウェイト(101)、中央部遠心撓み抑制ウェイト(102)及び下部遠心撓み抑制ウェイト(103)の何れかと一体に形成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1において、
上記ウェイト(80)は、回転時に、流体荷重の方向の上記クランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第1力、第2力及び第3力と、上記可動スクロール(31)の遠心力とバランスする第4力及び第5力と、上記可動スクロール(31)の遠心力と上記第4力及び第5力をバランスすることで生じる上記クランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第6力、第7力及び第8力とを発生させるものであり、上記主軸(41)の上部に設けられ上記第1力及び第6力の合力を遠心力として発生させる上部ウェイト(111)と、上記主軸(41)の中央部に設けられ上記第2力、第4力、及び第7力の合力を遠心力として発生させる中央部ウェイト(112)と、上記主軸(41)の下部に設けられ上記第3力、第5力、及び第8力の合力を遠心力として発生させる下部ウェイト(113)からなる
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項1において、
上記ウェイト(80)は、回転時に、流体荷重の方向の上記クランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第1力、第2力及び第3力と、上記可動スクロール(31)の遠心力とバランスする第4力及び第5力と、上記可動スクロール(31)の遠心力と上記第4力及び第5力をバランスすることで生じる上記クランク軸(40)の撓みを抑制し、且つ互いにバランスのとれた第6力、第7力及び第8力とを発生させるものであり、上記主軸(41)の上部に設けられ上記第1力、第4力、及び第6力の合力を遠心力として発生させる上部ウェイト(111)と、上記主軸(41)の中央部に設けられ上記第2力及び第7力の合力を遠心力として発生させる中央部ウェイト(112)と、上記主軸(41)の下部に設けられ上記第3力、第5力、及び第8力の合力を遠心力として発生させる下部ウェイト(113)からなる
ことを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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