説明

スタッドレスタイヤ用ゴム組成物

【課題】経年老化に伴う硬化を低減するようにしたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部、天然由来のポリフェノールを含む植物油脂を内包したマイクロカプセルを1〜30重量部、シリカを10〜120重量部配合すると共に、シランカップリング剤を前記シリカ配合量に対して1〜12重量%配合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物に関し、更に詳しくは、経年老化に伴う硬化を抑制するようにしたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤ(氷雪路用空気入りタイヤ)のトレッド部には、氷雪路走行時でも優れたグリップ性能を確保するように、低温下のゴム硬度が最適になるように設計されたゴム組成物が使用されている。しかしながら、タイヤの使用開始時にゴム硬度が最適であったとしても、長期間使用すると経年老化によりゴムが硬化するため、氷上摩擦力が低下するという問題がある。
【0003】
このような老化防止対策としては、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物に配合する老化防止剤を増量することが考えられる。しかしながら、老化防止剤を増量しても、経年老化によるゴム硬化を十分に抑制することができなかったり、老化防止剤がタイヤ表面へ移行するようになるため、タイヤ表面が茶色に変色して外観が損なわれたりするという問題があった。
【0004】
この対策として、特許文献1は、熱膨張性物質及び非極性オイルを内包した熱膨張性マイクロカプセルを配合するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提案している。しかし、このゴム組成物では、カプセルに内包されたオイルが徐々にゴム中にマイグレーションすることによりゴム硬度の上昇を抑制することはできても、経年老化、すなわち酸化によるゴムの硬化を抑制するには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−138181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、経年老化に伴う硬化を低減するようにしたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部、天然由来のポリフェノールを含む植物油脂を内包したマイクロカプセルを1〜30重量部、シリカを10〜120重量部配合すると共に、シランカップリング剤を前記シリカ配合量に対して1〜12重量%配合したことを特徴とする。
【0008】
前記ジエン系ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1種であるとよい。また、前記植物油脂は、前記ポリフェノールを0.9×10-3重量%以上含むことが好ましく、更にグレープシードオイルであるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部、天然由来のポリフェノールを含む植物油脂を内包したマイクロカプセルを1〜30重量部、シリカを10〜120重量部配合すると共に、シランカップリング剤をシリカに対して1〜12重量%配合するようにしたので、ゴム製品中に分散した植物油脂を内包したマイクロカプセルからポリフェノールを含む植物油脂が徐々に放出され、このポリフェノールの抗酸化作用によりゴム成分が老化するのを防止するため、経年老化に伴う硬化を抑制することができる。また、ポリフェノールを含む植物油脂をマイクロカプセルに内包するようにしたので、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の成形加工及び加硫時にポリフェノールが消費されるのを抑制して、ゴム成分の経年老化の防止に選択的に作用させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムとする。ジエン系ゴムとしては、ガラス転移温度(以下「Tg」という。)が好ましくは−50℃以下、より好ましくは−120℃〜−55℃のものを使用するとよい。ジエン系ゴムのTgを−50℃以下にすることにより、ゴム組成物の氷上摩擦力を高いレベルで確保することができる。ジエン系ゴムのTgは、示差走査熱量測定(DSC)により10℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、その転移域の中点の温度とする。なお、ジエン系ゴムが油展オイルを含む場合には、油展オイルを除いた状態のガラス転移温度とする。
【0011】
このようなジエン系ゴムとしては、特に制限されるものではなく、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム等を例示することができる。なかでも、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独又は複数種のブレンドとして使用することができる。なかでもジエン系ゴムとして天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)を配合することが好ましく、両者の重量比を好ましくはNR:BR=1:9〜9:1、より好ましくはNR:BR=3:7〜7:3にするとよい。NRとBRの重量比をこのような範囲内にすることにより、BRの優れた低温性能を生かしながら、ゴム組成物の成形加工性と耐摩耗性を優れたものにすることができる。
【0012】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを配合することにより、氷上摩擦力を向上する。すなわち熱膨張性マイクロカプセルを配合したゴム組成物をトレッド部に用いて未加硫タイヤを成形し加硫工程で加熱することによって、熱膨張性マイクロカプセルが膨張して樹脂被覆気泡を形成する。このようにトレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成することにより、トレッドが氷路面に踏み込むとき氷路面の水膜を吸収除去し、氷路面から離れると遠心力で水を離脱させて再び氷路面に踏込むことを繰り返して、トレッドの氷路面に対する氷上摩擦力を向上可能にする。
【0013】
本発明に使用する熱膨張性マイクロカプセルは、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。これらの樹脂被覆気泡により、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力が増大する。このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えばスェーデン国エクスパンセル社製の商品名「EXPANCEL 091DU−80」又は「EXPANCEL 092DU−120」等、或いは松本油脂製薬社製の商品名「マイクロスフェアー F−85」又は「マイクロスフェアー F−100」等を使用することができる。
【0014】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し0.5〜20重量部であり、好ましくは1〜15重量部である。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が0.5重量部未満であると、トレッドゴム中に形成される樹脂被覆気泡の容積が不足し氷上摩擦力を十分に得ることができない。また、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が20重量部を超えると、トレッドゴムの耐摩耗性が悪化する。
【0015】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、天然由来の成分としてポリフェノールを含む植物油脂を内包するマイクロカプセル(以下「植物油脂含有マイクロカプセル」という。)を配合することにより、ゴム組成物中に分散した植物油脂含有マイクロカプセルから植物油脂が徐々に放出され、植物油脂が含有するポリフェノールの抗酸化作用によりゴム成分が経年老化するのを防止する。また、ポリフェノールを含む植物油脂をマイクロカプセルに内包するようにしたので、ゴム組成物の成形加工及び加硫時にポリフェノールが熱分解したり、酸素と接触して消費されたりするのを抑制する。このためポリフェノールをゴム成分の経年老化を防止するのに選択的に作用させることができる。したがって、ジエン系ゴムに対するポリフェノールを含む植物油脂の配合量を同じにした場合、植物油脂をマイクロカプセルに内包させて配合した方が、植物油脂をそのまま配合したときよりも、ゴム成分の経年老化を防止する作用が優れゴムの硬化を一層低減することができる。
【0016】
本発明では、天然由来のポリフェノールを含む植物油脂をマイクロカプセルに内包させるため、安全衛生性が優れることが特徴である。すなわち、本発明で使用する植物油脂は、人為的な操作による天然ポリフェノール及び/又は化学合成されたポリフェノール系酸化防止剤を含むものではない。
【0017】
植物油脂中の天然由来のポリフェノール含有量は、好ましくは0.03×10-3重量%以上、より好ましくは0.9×10-3重量%以上、更に好ましくは1.1×10-3重量%以上である。植物油脂中のポリフェノール含有量が0.03×10-3重量%未満であると、抗酸化作用が十分に得られずゴム成分が硬化するのを抑制することができない。植物油脂中のポリフェノール含有量は、フォーリン−チオカルト法により定量した。フォーリン−チオカルト法は、還元性のある物質に対し強アルカリ下で青く発色するフォーリン−チオカルト試薬を用いるものであり、試料(植物油脂)中のポリフェノールを比色法(660nm)により一括して総ポリフェノール量として測定した。なお、標準試料として(+)−カテキンを用い、その検量線からポリフェノール量を求めた。
【0018】
天然由来のポリフェノールを含む植物油脂としては、例えばグレープシードオイル、オリーブオイル、紅花オイル、ひまわりオイル、キャノーラオイル、クルミ種子油、ゴマ油等を例示することができる。これらの植物油脂は、単独で使用することができる。また、複数種をブレンドして使用してもよい。
【0019】
植物油脂としては、特にグレープシードオイル、オリーブオイルが好ましい。グレープシードオイルは世界各国で生産されているが、とりわけチリ産のグレープシードオイルは、ポリフェノール含有量が1.1×10-3重量%以上と極めて高く好ましい。しかし、チリ産のグレープシードオイル以外でも、品種改良等によりポリフェノールを0.9×10-3重量%以上含む植物油脂であれば同様の効果が期待される。また、グレープシードオイルは、天然由来のポリフェノールの含有量が多いことに加え、ビタミンEをも多く含む。ビタミンEは抗酸化作用を有するため、ポリフェノールと共にスタッドレスタイヤ用ゴム組成物の経年老化を防止し、硬化を抑制する作用を行う。
【0020】
植物油脂含有マイクロカプセルの殻材は、ゴム組成物の成形加工や加硫時には、ポリフェノールを含む植物油脂が酸素と接触するのを防ぎ、ポリフェノールが酸化により消費されるのを防止する。また、加硫後においては、ポリフェノールを含む植物油脂が、空気入りタイヤなどのゴム製品中へ徐々に放出されるようにして、ゴム成分が経年老化により硬化するのを抑制可能にする。
【0021】
このような植物油脂含有マイクロカプセルの殻材は、通常のマイクロカプセル化剤として有用な熱可塑性樹脂により形成することができる。熱可塑性樹脂は、重合性成分を重合開始剤存在下で重合することによって形成するものである。重合性成分としては、一般には、重合性二重結合を少なくとも1個有する(ラジカル)重合性単量体と呼ばれている単量体成分を含む。単量体成分としては、特に限定はないが、たとえば、アクリロニトリル等のニトリル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有単量体;塩化ビニリデン;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;エチレン、プロピレン等のエチレン不飽和モノオレフイン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体成分は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0022】
重合性成分は、上記単量体成分以外に、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい。架橋剤を用いて重合させることにより、マイクロカプセル殻材の耐熱性や耐溶剤性が向上し、またゴム製品中での植物油脂の放出スピードをコントロールすることができる。
【0023】
架橋剤としては、特に限定はないが、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物;メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。これらの架橋剤は、1種または2種以上を併用してもよい。上記で、「PEG#○○○ジ(メタ)アクリレート」と表記されている一連の化合物は、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを意味する。
【0024】
また本発明の植物油脂含有マイクロカプセルの製造方法は、重合性成分、植物油脂、水を必須成分とする水性分散媒等を必ず含み、必要に応じて電解質、水溶性添加剤等の重合助剤、分散安定剤、分散補助安定剤等の各成分を混合して、重合性成分を重合させることによって行われる。これらの各成分の配合順序等については特に限定はなく、水性分散媒に溶解または分散し得る成分をあらかじめ配合しておき、他の成分と配合してもよい。
【0025】
植物油脂含有マイクロカプセルの製造方法では、所定粒子径の球状油滴が調製されるように重合性成分および植物油脂等の油性混合物を水性分散媒中に乳化分散させる。油性混合物を乳化分散させる方法としては、例えば、ホモミキサー(例えば特殊機化工業社製)、ホモディスパー(例えば特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、スタティックミキサー(例えばノリタケエンジニアリング社製)等の静止型分散装置を用いる方法、膜乳化法、超音波分散法、マイクロチャネル法等の一般的な分散方法を挙げることができる。
【0026】
次いで、油性混合物が球状油滴として水性分散媒に分散された分散液を加熱することにより、懸濁重合を開始する。重合温度は、重合開始剤の種類によって自由に設定されるが、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜90℃、更に好ましくは50〜85℃の範囲で制御される。反応温度を保持する時間は、0.1〜20時間程度が好ましい。
【0027】
重合反応終了後、所望により、分散安定剤を塩酸等により分解し、得られた生成物(マイクロカプセル)を吸引濾過、遠心分離、遠心濾過等の操作により、分散液から単離する。更に得られたマイクロカプセルの含水ケーキを水洗し、乾燥して植物油脂含有マイクロカプセルを得ることができる。
【0028】
植物油脂含有マイクロカプセル中の植物油脂の含有量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは20〜50重量%にするとよい。植物油脂含有マイクロカプセル中の植物油脂の含有量が10重量%未満であると、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の経年老化を抑制する期間が短くなる。また、植物油脂の含有量が70重量%を超えると、マイクロカプセルの製造が困難になると共に、成形加工や加硫中に壊れやすくなる。
【0029】
本発明において、植物油脂含有マイクロカプセルの大きさは、特に制限されるものではないが、好ましくは直径1〜100μm、より好ましくは直径5〜50μmにするとよい。マイクロカプセルの直径が1μm未満であると、植物油脂を内包する量が少なくなる。また、マイクロカプセルの直径が100μmを超えると、植物油脂を内包困難になり、またゴム成形加工や加硫中に壊れやすくなる。
【0030】
ポリフェノールを含む植物油脂含有マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部にする。植物油脂含有マイクロカプセルの配合量が1重量部未満であるときは、ポリフェノールの抗酸化作用が十分に得られずゴム成分が経年老化により硬化するのを抑制することができない。また、植物油脂含有マイクロカプセルを30重量部より多く配合しても、更なる向上効果が得られないだけでなく、耐摩耗性が低下する。
【0031】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、シリカを配合することにより、低温時のゴムの柔軟性(低温でのしなやかさ)を確保して、トレッドの氷路面に対する凝着性を高め、氷上摩擦力を向上することができる。更に、シリカを配合することにより氷雪に覆われていない湿潤路面(ウェット路面)におけるウェットグリップ性能(0℃のtanδ)を高くすると共に、ゴム組成物の発熱性(60℃のtanδ)を小さくしタイヤの転がり抵抗を低減することができる。
【0032】
シリカとしては、BET比表面積が70〜300m2/g、好ましくは70〜280m2/gのものを使用する。シリカのBET比表面積が70m2/g未満であると、ゴム組成物に対する補強性が不十分となる。また、シリカのBET比表面積が300m2/gを超えると、シリカの分散性が悪化しゴムの加工性が悪化するため好ましくない。なお、本発明において、シリカのBET比表面積は、ASTM−D−4820−93に準拠して測定するものとする。シリカの種類としては、通常タイヤ用ゴム組成物に配合されるシリカであればよく、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0033】
シリカの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し10〜120重量部、好ましくは
10〜90重量部である。シリカの配合量が、10重量部未満であると氷上摩擦力(低温でのしなやかさ)やウェットグリップ性能(0℃のtanδ)を高くすることができない。また、シリカの配合量が、120重量部を超えるとゴムの加工性が著しく悪化する。
【0034】
本発明において、シリカと共にシランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を改良することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し1〜12重量%、好ましくは3〜10重量%にする。シランカップリング剤の配合量が1重量%未満であると、シリカの分散性を十分に改良することができない。また、シランカップリング剤の配合量が12重量%を超えると、シランカップリング剤同士が凝集・縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0035】
シランカップリング剤の種類としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましい。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0036】
本発明では、カーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックを配合することにより、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の強度を高くし、耐摩耗性を向上する。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは10〜100重量部、より好ましくは20〜90重量部にするとよい。カーボンブラックの配合量が10重量部未満の場合、ゴム組成物の補強硬化が十分に得られず耐摩耗性が不足する。また、カーボンブラックの配合量が100重量部を超えると、ゴム組成物の粘度が高くなり成形加工性が悪化する。
【0037】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物には、シリカ、カーボンブラック以外に他の無機充填剤を配合することができる。他の無機充填剤としては、例えばクレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム等を必要に応じて配合することができる。
【0038】
スタッドレスタイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、老化防止剤、オイル、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してスタッドレスタイヤ用ゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。スタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えばバンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0039】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物により構成されたスタッドレスタイヤは、経年老化を防止して硬化を抑制するので製品寿命を長くすることができる。特にこのゴム組成物はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適であり、トレッド部の経年老化に伴う硬化を抑制すると共に、成形加工及び加硫時に植物油脂含有マイクロカプセル中のポリフェノールが消費されることなく、トレッド中に多く含まれるのでトレッドゴムの経年老化の防止に選択的に作用させることができる。
【0040】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
植物油脂含有マイクロカプセル(グレープシードオイルを内包したマイクロカプセル)の製造
水系として、固形分40%のコロイダルシリカ40g、ジエタノールアミン−アジピン酸縮合物0.5g、塩化ナトリウムを150g、イオン交換水500gを加えて混合後、pH3.5に調整し、水性分散媒体を調製した。油系として、アクリロニトリル100g、メタクリロニトリル50g、メタクリル酸50g、エチレングリコールジメタクリレートを1g、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3gを混合し、グレープシードオイル(チリ産グレープシードオイル、ケータック・プランナーズ社製食用ぶどう油)90gを更に加えて、油性混合物を調製した。
【0042】
この水性分散媒体と油性混合物とを混合し、得られた混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製TKホモミキサー)により、回転数9000rpmで5分間分散して懸濁液を調製した。この懸濁液をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換し、反応温度60℃、反応圧力0.5MPaで8時間反応させて植物油脂含有マイクロカプセルを得た。植物油脂含有マイクロカプセルは、グレープシードオイルを30重量%内包し、平均粒子径は19μmであった。
【0043】
オイル含有マイクロカプセル(ナフテンオイルを内包したマイクロカプセル)の製造
上記植物油脂含有マイクロカプセルの製造において、グレープシードオイルをナフテンオイルに変更した以外は同様の手順でオイル含有マイクロカプセルを製造した。オイル含有マイクロカプセルは、ナフテンオイルを30重量%内包し、平均粒子径は22μmであった。
【0044】
スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の調製及び評価
表1,2に示す配合からなる8種類のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜4、比較例1〜4)を、それぞれ加硫促進剤、硫黄及び各種マイクロカプセル(植物油脂含有マイクロカプセル又はオイル含有マイクロカプセル、熱膨張性マイクロカプセル)を除く配合成分を秤量し、1.7L密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後このマスターバッチを1.7L密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤、硫黄及び各種マイクロカプセル(植物油脂含有マイクロカプセル又はオイル含有マイクロカプセル、熱膨張性マイクロカプセル)を加え2分間混合し、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0045】
得られた8種類のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いて、下記に示す方法により、熱老化試験前後におけるゴム硬度の増加率(老化硬度増加率)、氷上摩擦力及び熱老化処理後の氷上摩擦力を測定した。
【0046】
老化硬度増加率
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いてリュプケサンプル(厚さ12.5mm、直径29mmの円柱状)の形状に加硫した試験片を作成した。各試験片を2群に分けその一方を80℃で120時間の条件で空気加熱老化処理を行った。この老化処理前後の試験片を用いて、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃のゴム硬度を測定し、それぞれについて(老化処理後のゴム硬度/老化処理前のゴム硬度×100)により熱老化に伴うゴム硬度の増加率(%)を算出した。得られた結果は、表1では比較例1の値を100、表2では比較例4の値を100とする指数にし「老化硬度増加率」として表1,2に示した。この指数が小さいほど熱老化に伴うスタッドレスタイヤ用ゴム組成物の硬化が抑制されたことを意味する。
【0047】
氷上摩擦力
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いて、所定の金型中で170℃で10分間プレス加硫して試験片を作成した。得られた試験片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて氷上摩擦係数を測定した。測定条件は、温度を−1.5℃、荷重を0.54MPa、ドラム回転速度を25km/hにした。得られた結果は、表1では比較例1の値を100、表2では比較例4の値を100とする指数にし「氷上摩擦力」として表1,2に示した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく優れることを意味する。
【0048】
熱老化処理後の氷上摩擦力
得られたスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を用いて、所定の金型中で170℃で10分間プレス加硫して試験片を作成した。得られた試験片を80℃、120時間の条件で空気加熱老化処理を行った。この熱老化処理を施した試験片を使用して上述した方法で氷上摩擦力を測定した。得られた結果は、表1では比較例1の値を100、表2では比較例4の値を100とする指数にし「熱老化処理後の氷上摩擦力」として表1,2に示した。この指数が大きいほど熱老化処理後の氷上摩擦力が大きく、経年老化に伴う性能低下が抑制され優れていることを意味する。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
カーボンブラック:東海カーボン社製シースト6
シリカ:東ソー・シリカ社製Nipsil AQ、BET比表面積200m2/g
シランカップリング剤:ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、デクサ社製Si69
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD
ワックス:大内新興化学工業社製パラフィンワックス
プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
グレープシードオイル:チリ産グレープシードオイル、ケータック・プランナーズ社製食用ぶどう油、天然由来のポリフェノール含有量が1.3×10-3重量%のもの(ポリフェノール含有量は前述した方法により測定)
植物油脂含有マイクロカプセル:グレープシードオイルを内包したマイクロカプセル、上述した方法で製造したもの
オイル含有マイクロカプセル:ナフテンオイルを内包したマイクロカプセル、上述した方法で製造したもの
熱膨張性マイクロカプセル:松本油脂製薬社製マイクロスフェアーF100
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部、天然由来のポリフェノールを含む植物油脂を内包したマイクロカプセルを1〜30重量部、シリカを10〜120重量部配合すると共に、シランカップリング剤を前記シリカ配合量に対して1〜12重量%配合したスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記植物油脂が、前記ポリフェノールを0.9×10-3重量%以上含む請求項1又は2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記植物油脂がグレープシードオイルである請求項1,2又は3に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。

【公開番号】特開2011−148897(P2011−148897A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10813(P2010−10813)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】