説明

スチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法

【課題】蒸留工程中に高粘稠なポリマー状物質の形成が防止され、留出されたスチレン誘導体の回収率が高い新しいスチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法を提供する。
【解決手段】アントラロビンを重合禁止剤として、一般式I

で表わされ、p−tert−ブチルスチレン,p−アセトキシスチレン,3,4−ジメトキシスチレンまたはα−メチル−m−クロロスレン等を代表とするスチレン誘導体に添加し、重合禁止剤の存在下に該スチレン誘導体を蒸留する、スチレン誘導体の蒸留方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、医農薬、機能性高分子、ポリマー合成などの原料として有用なスチレンまたはスチレン誘導体を、その合成後に精製の目的で蒸留する方法の改良技術を提供することに関するものである。
【0002】
【従来の技術】スチレン誘導体のうち、例えばp−tert−ブトキシスチレン(以下、「PTBST」と略す。「PTBST」は本出願人の登録商標。)は、超LSIの用途などに使用されるレジスト原料としてきわめて有用であることが知られており(特開昭59−199705号公報、特開平3−277608号公報)、また、m−tert−ブトキシスチレン(以下、「MTBST」と略す。)は、機能性高分子、医農薬などの中間体原料として有用であることが知られている(特開平2−160739号公報)。
【0003】スチレン誘導体の合成法としては、以下のような方法が知られている。
■p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、α−メチル−m−クロロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン誘導体は、対応するN−アシル−β−フェネチルアミン類を塩基で処理することで得る方法(特開昭61−212526号公報)が知られている。
■p−アセトキシスチレン、p−トリメチルシリルオキシスチレンなどのスチレン誘導体は、対応する置換ベンズアルデヒドをジブロモメタンと作用することで得られる(特開平8−157410号公報)ことが知られている。
■PTBSTやMTBSTなどのtert−ブトキシスチレンは、クロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレンなどのハロゲン置換スチレンと金属マグネシウムからグリニヤール試薬を調製し、次いでこれに過安息香酸tert−ブチルエステルと反応させることにより合成する方法(特開昭59−199705号公報)が知られている。
■tert−ブトキシフェニルクロライド、tert−ブトキシフェニルブロマイド、tert−ブトキシフェニルヨーダイドなどのtert−ブトキシフェニルハライドとマグネシウムからグリニヤール試薬を調製し、次いでこれに塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニルとカップリングさせることによって合成する方法(特公平4−71896号公報、特開平2−160739号公報)が知られている。
【0004】前記のようなスチレン誘導体の合成法では、通常、合成した目的化合物は、蒸留により分離、精製される。しかし、スチレン誘導体は、一般に光や熱により重合して高粘稠な液状のポリマー状物質を形成するために、蒸留に当たっての製品回収率が著しく低下する場合がある。さらに生成したポリマー状物質のために蒸留塔内、蒸留缶内、配管などにおいて、■蒸留塔や配管の閉塞、■に伴う減圧度の異常、■ポリマー状物質の付着による洗浄の困難などのトラブルを惹起することがある。したがって、これらのトラブル回避のために、従来でも種々の重合禁止剤をスチレン誘導体に加えて、その存在下に蒸留操作を行う方法がとられるのが普通である。例えば、PTBSTやMTBSTなどのtert−ブトキシスチレンの蒸留においては、4−tert−ブチルカテコールの存在下に蒸留を行う方法(特公平4−71896号公報、特開平2−160739号公報)や、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩または2,4−ジニトロフェノールなどの存在下に蒸留を行う方法(特開2000−327617号公報)が知られている。
【0005】しかしながら、前記した従来使用される重合禁止剤は、スチレンまたはスチレン誘導体の蒸留工程における長時間かつ高温という過酷な条件下では、ポリマー状物質の形成に十分な抑制効果を示さないので、高粘稠性のポリマー状物質が形成されてしまい、蒸留塔や蒸留缶などに■蒸留塔や配管の閉塞、■に伴う減圧度の異常、■ポリマー状物質の付着による洗浄の困難などのトラブルを引き起こすことが多い。また、このようなトラブルには至らないまでも、蒸留後の製品の収率が低下するといった問題が常に付随する。これらの理由から、従来のスチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法は満足できるものではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来の方法の欠点を克服できるスチレンまたはスチレン誘導体の新しい蒸留方法を提供することにある。つまり、従来の方法で起きたポリマー状物質の形成がほとんどなく、また長時間に及ぶ蒸留操作によっても、高い製品回収率でスチレン、あるいはp−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、α−メチル−m−クロロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、p−トリメチルシリルオキシスチレン、PTBSTやMTBSTなどのスチレン誘導体を蒸留により精製し得る経済性のよい新規な蒸留方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来の問題点を解決するために鋭意研究を行い、検討した。その結果、スチレンまたはスチレン誘導体の製造後の蒸留工程において、重合禁止剤としてアントラロビンを添加してその存在下に蒸留することにより、ポリマー状物質の生成を起こすことなく、スチレンまたはスチレン誘導体を高い回収率で蒸留できることを見出した。この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】したがって、本発明においては、アントラロビンを重合禁止剤として、スチレンまたはスチレン誘導体を蒸留することを特徴とする、スチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法が提供される。
【0009】以下、本発明の方法を詳細に説明する。
【0010】本発明において蒸留されるスチレンまたはスチレン誘導体は、公知の化合物であり、公知の合成方法(例えば特公平4−71896号公報)で合成できる。
【0011】本発明の方法において蒸留されるスチレンまたはスチレン誘導体としては、下記一般式(I)
【化4】


(式中、Rは、水素原子、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アリール基、特にフェニル基、アラルキル基、特にベンジル基、アルコキシアルキル基、ニトロ基、アルカノイル基、アロイル基、特にベンゾイル基、アルコキシカルボニル基、アリールアルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシアルキルオキシ基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、またはアルキルシリルオキシ基を表し、nは0、あるいは1から5までの整数であり、nが2以上のとき、Rは、同一または相異なってもよく、さらにX、X、Xは、同一または相異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルシリルオキシ基またはニトロ基を示す)で表わされる化合物があり、特に下記一般式(Ia)
【化5】


(式中、R’は、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、またはアルキルシリル基を表し、nは1から5までの整数であり、nが2以上のとき、R’は、同一または相異なってもよく、さらにX、X、Xは、同一または相異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルシリルオキシ基またはニトロ基を示す)で表わされるオキシスチレン誘導体があり、さらに好ましくは下記一般式(Ib)
【化6】


(式中、R’’は、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、特にフェニル基、アラルキル基、特にベンジル基、アルコキシアルキル基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、またはアルキルシリル基を示す)で表されるオキシスチレン誘導体がある。
【0012】一般式(I)、(Ia)または(Ib)のスチレンまたはスチレン誘導体としては、具体的には、例えば次のものが挙げられる。すなわち、スチレン、p−アミノスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−n−プロピルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−イソブチルスチレン、p−sec−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−アミルスチレン、p−イソアミルスチレン、p−sec−アミルスチレン、p−tert−アミルスチレン、p−シクロプロピルスチレン、p−シクロプロピルメチルスチレン、p−シクロペンチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン、p−ビニルスチレン、p−アリルスチレン、p−エチニルスチレン、p−プロパルギルスチレン、p−フルオロスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、p−ヨードスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、p−ヨードメチルスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−(4−メチルフェニル)スチレン、p−(4−フルオロフェニル)スチレン、p−(4−クロロフェニル)スチレン、p−(4−ブロモフェニル)スチレン、p−ベンジルスチレン、p−(4−フルオロベンジル)スチレン、p−(4−クロロベンジル)スチレン、p−メトキシメチルスチレン、p−エトキシメチルスチレン、p−n−プロピルオキシメチルスチレン、p−イソプロピルオキシメチルスチレン、p−ホルミルスチレン、p−アセチルスチレン、p−ベンゾイルスチレン、p−メトキシカルボニルスチレン、p−エトキシカルボニルスチレン、p−フェノキシカルボニルスチレン、p−ベンジルオキシカルボニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、p−n−プロポキシスチレン、p−イソプロポキシスチレン、p−n−ブトキシスチレン、p−イソブトキシスチレン、p−sec−ブトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、p−n−アミルオキシスチレン、p−イソアミルオキシスチレン、p−sec−アミルオキシスチレン、p−tert−アミルオキシスチレン、p−シクロプロピルオキシスチレン、p−シクロプロピルメチルオキシスチレン、p−シクロブチルオキシスチレン、p−シクロペンチルオキシスチレン、p−シクロヘキシルオキシスチレン、p−トリフルオロメトキシスチレン、p−ペンタフルオロエトキシスチレン、p−クロロメトキシスチレン、p−(2−クロロエトキシ)スチレン、p−ブロモメトキシスチレン、p−(2−ブロモエトキシ)スチレン、p−フェニルオキシスチレン、p−(4−メチルフェニルオキシ)スチレン、p−(4−フルオロフェニルオキシ)スチレン、p−(4−クロロフェニルオキシ)スチレン、p−(4−ブロモフェニルオキシ)スチレン、p−(4−メトキシフェニルオキシ)スチレン、p−(4−エトキシフェニルオキシ)スチレン、p−(4−tert−ブトキシフェニルオキシ)スチレン、p−ベンジルオキシスチレン、p−(4−メチルベンジルオキシ)スチレン、p−メトキシメトキシスチレン、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン、p−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)スチレン、p−アセトキシスチレン、p−(tert−ブチルカルボニルオキシ)スチレン、p−ベンジルオキシカルボニルオキシスチレン、p−メトキシカルボニルオキシスチレン、p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレン、p−トリメチルシリルオキシスチレン、p−tert−ブチルジメチルシリルオキシスチレン、m−ニトロスチレンなどが挙げられる。また上記の置換スチレンの置換基の位置はオルト、メタ、パラのどの位置であってもよい。
【0013】さらに、2つまたはそれ以上の置換基を有する式(I)(Ia)(Ib)のスチレン誘導体の例には、2,3−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、3,5−ジクロロスチレン、2,3−ジブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、2,5−ジブロモスチレン、2,3−ジフルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2,5−ジフルオロスチレン、2,6−ジフルオロスチレン、3,4−ジフルオロスチレン、3,5−ジフルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2,3−ジメトキシスチレン、2,4−ジメトキシスチレン、2,5−ジメトキシスチレン、2,6−ジメトキシスチレン、3,4−ジメトキシスチレン、3,5−ジメトキシスチレン、2,3−メチレンジオキシスチレン、3,4−メチレンジオキシスチレン、2,3−ビス(トリフルオロメチル)スチレン、2,4−ビス(トリフルオロメチル)スチレン、2,5−ビス(トリフルオロメチル)スチレン、2,6−ビス(トリフルオロメチル)スチレン、3,4−ビス(トリフルオロメチル)スチレン、3,5−ビス(トリフルオロメチル)スチレンであってもよい。さらに、そのスチレン誘導体は、スチレンのα位、およびβ位が置換されたスチレン誘導体、例えばα−メチルスチレン、α−メチル−m−クロロスチレン、α−エチルスチレン、α−トリメチルシリルオキシスチレン、α−メトキシスチレン、α−クロロスチレン、β−メチルスチレン、β−メトキシスチレン、β−クロロスチレン、β,β−ジメチルスチレン、β,β−ジクロロスチレン、α,β−ジメチルスチレン、β−ニトロスチレンであってもよい。
【0014】本発明の方法において重合禁止剤として使用されるアントラロビン(1,2,10−トリヒドロキシアントラセン)は、次式(II)で表される化合物である。
【化7】


【0015】このアントラロビンは、公知の化合物であり、公知の方法(例えば、Arch.Pharm.Chemi. 第57巻 第185頁−第186頁 (1950年)に記載の方法)で製造された物質であることができ、また市販品でもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明は、次のとおりに実施される。すなわち、蒸留しようとするスチレンまたはスチレン誘導体を製造した直後に重合禁止剤のアントラロビンを加える。こうした後に蒸留操作を行えばよい。
【0017】本発明の方法で使用される一般式(II)のアントラロビンの添加量は、蒸留される一般式(I)のスチレンまたはスチレン誘導体の置換基(R、X、XおよびX)の種類およびその数、蒸留温度および蒸留圧力などによって規定され、実験的に求められるが、一般的には蒸留される一般式(I)のスチレンまたはスチレン誘導体に対し、10〜100,000ppm好ましくは、100〜10,000ppmの範囲である。蒸留温度は、通常20〜200℃、好ましくは40〜150℃の温度である。また、スチレンまたはスチレン誘導体の蒸留は、減圧下で行われるのが普通であり、通常0.0001〜500mmHg、好ましくは0.0001〜100mmHgの圧力下で行われる。
【0018】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例により本発明は限定されるものではない。
【0019】実施例1蒸留コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた四径フラスコに、特公平4−71896号公報の方法で合成した直後のPTBST(p−tert−ブトキシスチレン)の100gに、重合禁止剤としてアントラロビンの0.05g(500ppmの濃度)を添加してなる混合物を装入した。この混合液をフラスコ内で130℃で5mmHgの減圧条件で48時間攪拌しながら蒸留した。この蒸留工程によりフラスコから95.0gのPTBSTが留出できた。フラスコ底部には、5.0gの高粘稠性の液状物質が蒸留されずに残留した。フラスコから蒸留で留出して回収できたPTBSTの回収率(%)を次式で計算した。得られた回収率(%)の測定値を後記の表1に示す。
【0020】
【数1】


【0021】実施例2実施例1で用いた蒸留されるPTBSTに代えてMTBST(特開平2−160739号公報に記載の方法で合成したもの)を用いた以外は、実施例1と同様な蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0022】実施例3実施例1で用いた蒸留されるPTBSTに代えてp−アセトキシスチレン(J.Org.Chem.第52巻 第422頁〜第424頁(1987年)に記載の方法で合成したもの)を用いた以外は、実施例1と同様な蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0023】実施例4実施例1で用いた蒸留されるPTBSTに代えて3,4−ジメトキシスチレン(特開昭61−212526号公報に記載の方法で合成したもの)を用いた以外は、実施例1と同様な蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0024】実施例5実施例1で用いた蒸留されるPTBSTに代えてα−メチル−m−クロロスチレン(特開昭61−212526号公報に記載の方法で合成したもの)を用いた以外は、実施例1と同様な蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0025】比較例1実施例1で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩を用いた以外は、実施例1と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0026】比較例2実施例2で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるp−tert−ブチルカテコールを用いた以外は、実施例2と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0027】比較例3実施例3で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩を用いた以外は、実施例3と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0028】比較例4実施例3で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるp−tert−ブチルカテコールを用いた以外は、実施例3と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0029】比較例5実施例4で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩を用いた以外は、実施例4と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0030】比較例6実施例4で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるp−tert−ブチルカテコールを用いた以外は、実施例4と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0031】比較例7実施例5で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩を用いた以外は、実施例5と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0032】比較例8実施例5で重合禁止剤として用いたアントラロビンに代えて公知の重合禁止剤であるp−tert−ブチルカテコールを用いた以外は、実施例5と同様に蒸留工程を操作した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】


【0034】
【発明の効果】本発明を実施すると、次のような効果がもたらされる。すなわち、■蒸留工程中に高粘稠なポリマー状物質の形成が防止され、■留出されたスチレンまたはスチレン誘導体の回収率が高い。したがって、本発明のスチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法は、従来の諸問題を解決し、工業的な方法として有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アントラロビンを重合禁止剤として、スチレンまたはスチレン誘導体に添加し、その重合禁止剤の存在下にスチレンまたはスチレン誘導体を蒸留することを特徴とする、スチレンまたはスチレン誘導体の蒸留方法。
【請求項2】蒸留されるスチレンまたはスチレン誘導体が、下記一般式(I)
【化1】


(式中、Rは、水素原子、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アリール基、特にフェニル基、アラルキル基、特にベンジル基、アルコキシアルキル基、ニトロ基、アルカノイル基、アロイル基、特にベンゾイル基、アルコキシカルボニル基、アリールアルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシアルキルオキシ基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、またはアルキルシリルオキシ基を表し、nは0、あるいは1から5までの整数であり、nが2以上のとき、Rは、同一または相異なってもよく、さらにX、X、Xは、同一または相異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルシリルオキシ基またはニトロ基を示す)で表わされる化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項3】蒸留されるスチレン誘導体が、下記一般式(Ia)
【化2】


(式中、R’は、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、またはアルキルシリル基を表し、nは1から5までの整数であり、nが2以上のとき、R’は、同一または相異なってもよく、さらにX、X、Xは、同一または相異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルシリルオキシ基またはニトロ基を示す)で表わされるオキシスチレン誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項4】蒸留されるスチレン誘導体が、下記一般式(Ib)
【化3】


(式中、R’’は、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、特にフェニル基、アラルキル基、特にベンジル基、アルコキシアルキル基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、またはアルキルシリル基を示す)で表わされるオキシスチレン誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項5】蒸留されるスチレン誘導体が、tert−ブトキシスチレンであることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留方法。

【公開番号】特開2003−96014(P2003−96014A)
【公開日】平成15年4月3日(2003.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−292893(P2001−292893)
【出願日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】