説明

スチレン系熱可塑性エラストマーラテックス、およびその製造方法

【課題】 透明性、および金属密着性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマー皮膜が得られるラテックスを提供すること。
【解決手段】 スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のポリビニルアルコール系樹脂(B)を水に溶解し、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を水中に分散してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマーラテックスに関するもので、さらに詳しくは、透明性、および金属密着性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマー皮膜が得られるラテックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性に優れ、低温でのゴム弾性に優れることから、加硫ゴムの代替品、あるいは各種プラスチックの改質剤として有用である。
また、かかるスチレン系熱可塑性エラストマーを水に乳化分散してなるラテックスは、高い凝集力を有し、機械強度、柔軟性、ゴム弾性を有する皮膜を得ることができることから、粘・接着剤やコーティング剤などに広く用いられている。
【0003】
かかるスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスは、通常、スチレン系熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液を、界面活性剤や水溶性高分子などの乳化剤、および水と混合し、ホモジナイザーや超音波分散機などを用いて乳化させた後、加熱などによって有機溶剤を除去して製造されている。
近年、かかるスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスの製造法に関し、粒子径が小さく、保存安定性に優れたラテックスを得る方法として、特定構造のアンモニウム塩、またはアミン塩を乳化剤として用いる方法(例えば、特許文献1参照。)や、乳化前の有機溶剤相に粘着付与樹脂を共存させることでラテックスに機械安定性を付与する方法(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、従来の製造法によるスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスから得られた乾燥皮膜は透明性の点で改善の余地があり、例えば、コーティング剤用途への適用には制約があるものであった。
【0005】
一方、リチウム二次電池の負極バインダーにはポリフッ化ビニリデンが広く用いられているが、これは、通常、N−メチルピロリドンなどの有機溶剤溶液にして使用されており、環境面への配慮から、水系で使用可能なバインダーが強く望まれている。
かかる要望に対し、例えば、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子や、さらにこれに柔軟性を付与するために、ゴムや熱可塑性エラストマーなどのラテックスを併用したものが検討されている。
しかしながら、これらの水系バインダーの場合、負極集電体として用いる金属素材との密着性が不充分であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−212287号公報
【特許文献2】特開2000−219748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透明性に優れ、金属表面との密着性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマー皮膜が得られる、スチレン系熱可塑性エラストマーラテックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のポリビニルアルコール系樹脂(B)を水に溶解し、スチレン系熱可塑性エラストマーを水中に分散してなることを特徴とするスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスによって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明ではスチレン系熱可塑性エラストマー(以下、エラストマーと略記することがある。)とポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)とを溶融混練することによって、PVA系樹脂中にスチレン系熱可塑性エラストマーが微分散した溶融混練物とし、かかる溶融混練物中のPVA系樹脂を水に溶解させることによってスチレン系熱可塑性エラストマーが水中に微分散したラテックスが得られたものである。
【0009】
この場合、PVA系樹脂は、溶融混練によってエラストマーを微粒子化する媒体として働き、さらにかかる微粒子が水中に微分散した際の保護コロイドとして働いているものと推測される。
本発明においては、特に、エラストマーとして、カルボン酸基あるいはその誘導体基を側鎖に有するものを用い、PVA系樹脂として、側鎖にα−ヒドロキシアルキル基を有するものを用いることが好ましく、かかる場合には、これらが溶融混練時に反応し、エラストマーの表面にPVA系樹脂がグラフトした微粒子が得られ、かかるグラフトしたPVA系樹脂がエラストマーの安定性の向上に寄与するものと推測される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスは、コーティング剤、バインダー、粘・接着剤、水溶性樹脂の改質剤として有用であり、特に透明性に優れた皮膜が得られることから、美粧性が要求される用途に好適である。また、その乾燥皮膜は金属との密着性にも優れることから、各種金属素材のコーティング剤、バインダーに好適であり、例えば、リチウム二次電池の負極用バインダーなどへの適用が期待できる。
【0011】
また、本発明のラテックスの製造方法は、有機溶剤を使用する必要がないため、製造過程における安全性が高く、さらに得られたラテックス、およびその乾燥物中も有機溶剤を含まず、安全面、物性面で優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスは、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、PVA系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のPVA系樹脂(B)を水に溶解し、かかるエラストマーを水中に分散して得られるものである。
【0013】
〔スチレン系熱可塑性エラストマー(A)〕
まず、本発明で用いられるスチレン系熱可塑性エラストマー(A)について説明する。
本発明で用いられるエラストマー(A)は、スチレンに代表される芳香族ビニル化合物の重合体ブロックをハードセグメントとし、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物の重合体ブロックや、かかる重合体ブロックに残存する二重結合の一部、または全部が水素添加されたブロック、あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するものである。
特に、本発明においては、かかるエラストマーとして、側鎖にカルボン酸基あるいはその誘導体基を有するものが好ましく用いられる。
【0014】
かかるエラストマー(A)中の各ブロックの構成は、ハードセグメントをXで示し、ソフトセグメントをYで示した場合に、X−Yで表されるジブロック共重合体、X−Y−XまたはY−X−Yで表されるトリブロック共重合体、さらにXとYが交互に接続したポリブロック共重合体などを挙げることができ、その構造も直鎖状、分岐状、星型などを挙げることができる。中でも、力学特性の点でX−Y−Xで表される直鎖状のトリブロック共重合体が好適である。
【0015】
ハードセグメントである芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの形成に用いられるモノマーとしては、スチレン;α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン等のアルキルスチレン;モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン等のハロゲン化スチレン;ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、インデン、アセトナフチレンなどのベンゼン環以外の芳香環を有するビニル化合物、およびその誘導体等を挙げることができる。かかる芳香族ビニル化合物の重合体ブロックは、上述のモノマーの単独重合体ブロックでも、複数のモノマーによる共重合体ブロックでもよいが、スチレンの単独重合体ブロックが好適に用いられる。
【0016】
なお、かかる芳香族ビニル化合物の重合体ブロックは、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族ビニル化合物以外のモノマーが少量共重合されたものでもよく、かかるモノマーとしては、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどのオレフィン類、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物、メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物やアリルエーテル化合物等を挙げることができ、その共重合比率は、通常、重合体ブロック全体の10モル%以下である。
【0017】
エラストマー(A)中の芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの重量平均分子量は、通常、10,000〜300,000であり、特に20,000〜200,000、さらに50,000〜100,000のものが好ましく用いられる。
【0018】
また、ソフトセグメントである重合体ブロックの形成に用いられるモノマーとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン化合物、およびイソブチレンを挙げることができ、これらを単独で用いても、複数を組合わせて用いてもよい。中でもイソプレン、ブタジエン、およびイソブチレンの単独重合ブロックや共重合ブロックが好ましく、特にブタジエン、あるいはイソブチレンの単独重合ブロックが好適に用いられる。
【0019】
なお、かかる共役ジエン化合物の重合体ブロックの場合、重合によって複数の結合形式をとる場合があり、例えば、ブタジエンでは、1,2−結合によるブタジエン単位(−CH−CH(CH=CH)−)と1,4−結合によるブタジエン単位(−CH−CH=CH−CH−)が生成する。これらの生成比率は、共役ジエン化合物の種類により異なるので、一概にはいえないが、ブタジエンの場合、1,2−結合が生成する比率は、通常、20〜80モル%の範囲である。
【0020】
かかる共役ジエン化合物による重合体ブロックは、残存する二重結合の一部または全部を水素添加することによって、スチレン系熱可塑性エラストマーの耐熱性や耐候性を向上させることが可能である。その際の水素添加率は、50モル%以上であることが好ましく、特に70モル%以上のものが好ましく用いられる。
なお、かかる水素添加により、例えばブタジエンの1,2−結合によるブタジエン単位は、ブチレン単位(−CH−CH(CH−CH)−)となり、1,4−結合によって生成するブタジエン単位は二つの連続したエチレン単位(−CH−CH−CH−CH−)となるが、通常は前者が優先して生成する。
【0021】
なお、かかるソフトセグメントである重合体ブロックは、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述のモノマー以外のモノマーが少量共重合されたものでもよく、かかるモノマーとしては、スチレンなどの芳香族ビニル化合物、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどのオレフィン類、メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物やアリルエーテル化合物等を挙げることができ、その共重合比率は、通常、重合体ブロック全体の10モル%以下である。
【0022】
また、エラストマー(A)中の共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンに由来する重合体ブロックの重量平均分子量は、通常、10,000〜300,000であり、特に20,000〜200,000、さらに50,000〜100,000のものが好ましく用いられる。
【0023】
上述の通り、本発明に用いられるエラストマー(A)は、ハードセグメントが芳香族ビニル化合物の重合体ブロックであり、ソフトセグメントが共役ジエン化合物の重合体ブロック、はその残存二重結合の一部、あるいは全部が水素添加された重合体ブロック、イソブチレンの重合体ブロックなどからなるものであり、その代表例としては、スチレンとブタジエンを原料とするスチレン/ブタジエンブロック共重合体(SBS)、SBSのブタジエン構造単位における側鎖二重結合が水素添加されたスチレン/ブタジエン/ブチレンブロック共重合体(SBBS)、さらに主鎖二重結合が水素添加されたスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンとイソプレンを原料とするスチレン/イソプレンブロック共重合体(SIPS)、スチレンとイソブチレンを原料とするスチレン/イソブチレンブロック共重合体(SIBS)などを挙げることができ、中でも熱安定性、耐候性に優れるSEBSやSIBSが好ましく用いられる。
【0024】
かかるエラストマー(A)中のハードセグメントである芳香族ビニル化合物の重合体ブロックとソフトセグメントである重合体ブロックの含有比率としては、重量比で、通常、10/90〜70/30であり、特に、20/80〜50/50の範囲のものが好適である。芳香族ビニル化合物の重合体ブロックの含有比率が多すぎたり、少なすぎたりすると、エラストマー(A)の柔軟性とゴム弾性のバランスが崩れる場合があり、その結果、本発明のラテックスから得られた乾燥皮膜などの特性が不充分となる場合がある。
【0025】
かかるエラストマー(A)は、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと、共役ジエン化合物あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するブロック共重合体を得て、さらに必要に応じて共役ジエン化合物の重合体ブロック中の二重結合を水素添加することによって得ることができる。
まず、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと、共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンの重合体ブロックを有するブロック共重合体の製造法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、アルキルリチウム化合物などを開始剤とし、不活性有機溶媒中で芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物、あるいはイソブチレンを逐次重合させる方法などを挙げることができる。
次に、この芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックを有するブロック共重合体を水素添加する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、水素化ホウ素化合物などの還元剤を用いる方法や、白金、パラジウム、ラネーニッケルなどの金属触媒を用いた水素還元などを挙げることができる。
【0026】
なお、本発明で用いられるエラストマー(A)は、側鎖にカルボン酸基あるいはその誘導体基を有するものであることが好ましく、かかるカルボン酸(誘導体)基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることによって、特に安定性に優れたラテックスを得ることが可能となる。
【0027】
エラストマー(A)中のカルボン酸(誘導体)基の含有量は、滴定法で測定した酸価が、通常、0.5〜20mgCHONa/gであり、特に1〜10mgCHONa/g、さらに2〜5mgCHONa/gのものが好ましく用いられる。
かかる酸価が低すぎると、カルボン酸(誘導体)基を導入した効果が充分に得られず、また、高すぎるとPVA系樹脂(B)との溶融混練時にゲルが発生する場合がある。
【0028】
かかるカルボン酸基あるいはその誘導体基をエラストマーに導入する方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、エラストマーの製造時、すなわち、共重合時にα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合させる方法、あるいは、エラストマーの製造後、これにα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体を付加させる方法が好ましく用いられる。かかる付加方法としては、例えば、ラジカル開始剤の存在下、あるいは非存在下、溶液中でのラジカル反応による方法や、押出機中で溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0029】
かかるカルボキシル基導入に用いられるα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、フタル酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート等のα,β−不飽和モノカルボン酸エステル;無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水フタル酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物などを挙げることができる。
【0030】
本発明で用いられるエラストマー(A)の重量平均分子量は、通常、50,000〜500,000であり、特に120,000〜450,000、さらに150,000〜400,000のものが好ましく用いられる。
また、エラストマー(A)の220℃、せん断速度122sec−1での溶融粘度は、通常100〜3000mPa・sであり、特に300〜2000mPa・s、さらに800〜1500mPa・sのものが好ましく用いられる。
かかる重量平均分子量が大きすぎたり、溶融粘度が高すぎると、PVA系樹脂(B)と溶融混練する際の作業性やPVA系樹脂(B)中での分散性が低下する場合があり、逆に重量平均分子量が小さすぎたり、溶融粘度が低すぎると、本発明のラテックスから得られた乾燥皮膜の機械強度が不充分となる場合がある。
なお、かかるエラストマー(A)の重量平均分子量は、GPCを用い、ポリスチレンを標準として求めた値である。
【0031】
また、本発明においては、上述のエラストマー(A)として、一種類のものを用いてもよいが、所望の特性を得る目的で複数のものを適宜混合して用いることも可能である。なお、その場合には、カルボン酸(誘導体)基を有するものと、有さないものとを併用してもよい。
【0032】
かかるカルボン酸(誘導体)基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(A)の市販品としては、例えばSBSのカルボキシル基変性品である旭化成社製の「タフテックMシリーズ」や、JSR社製「f−ダイナロン」、シェルジャパン社製「クレイトンFG」などを挙げることができる。
【0033】
また、カルボン酸(誘導体)基を有さないスチレン系熱可塑性エラストマー(A)の市販品としては、例えばSBSである旭化成社製の「タフプレン」「アサプレンT」「アサフレックス」、SBBSである旭化成社製「タフテックPシリーズ」、SEBSである旭化成社製「タフテックHシリーズ」などを挙げることができる。
その他の市販品として、シェルジャパン社製の「クレイトンG」「クレイトンD」「カリフレックスTR」、クラレ社製の「セプトン」、「ハイプラー」、JSR社製の「ダイナロン」、「JSR−TR」、「JSR−SIS」、日本ゼオン社製の「クインタック」、電気化学社製の「電化STR」などを挙げることができる。
【0034】
〔PVA系樹脂(B)〕
次に、本発明で用いられるPVA系樹脂(B)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)は、ビニルエステル系単量体を重合して得られたポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られた水溶性樹脂であり、ビニルアルコール構造単位を主成分とし、ケン化度に応じて残存するビニルエステル構造単位を有するものである。
なお、本発明においては、PVA系樹脂(B)として、特に側鎖にα−ヒドロキシアルキル基を有する変性PVA系樹脂が好ましく用いられる。かかるα−ヒドロキシアルキル基中の一級水酸基は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)としてカルボン酸基、またはその誘導体基を有するものを用いた場合、これらの官能基との反応性が高く、溶融混練時にこれらが反応することによって、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)にPVA系樹脂(B)がグラフトし、それによって、ラテックスとしたときの安定性の向上に寄与するものである。
【0035】
かかるα−ヒドロキシアルキル基は、通常、その炭素数が2〜10であり、特に2〜6、さらに2〜4のものが好ましく用いられる。かかる炭素数が多すぎるとPVA系樹脂(B)の水溶性が阻害される場合がある。
また、α−ヒドロキシアルキル基の中でも、特に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシアルキル基が、スチレン系熱可塑性エラストマーラテックスの安定性向上の点で好ましい。
【化1】

【0036】
かかるα−ヒドロキシアルキル基は、熱安定性の点からPVA系樹脂の主鎖に直接結合していることが望ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種結合鎖を介してPVA系樹脂の主鎖と結合していてもよい。
かかる結合鎖としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖、−O−、−(CHO)−、等のエーテル結合を含む結合鎖、−CO−、−CO(CHCO−等のカルボニル基を含む結合鎖、−S−、−SO−、−SO−、等の硫黄原子を含む結合鎖、−NR−、−CONR−、等の窒素原子を含む結合鎖、ケイ素、チタン、アルミニウムなどの金属原子を含む結合鎖などを挙げることができる。
かかる結合鎖が長いと本発明のラテックスから得られる皮膜等の耐水性を阻害したり、ラテックスの安定性が低下させる傾向があるため、短いものが好ましく、原子数で3以下であることが望ましい。
従って、本発明に用いられるPVA系樹脂(B)の最も好ましいのは、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシアルキル基がPVA系樹脂の主鎖に直接結合した、下記一般式(2)で表わされる構造単位を有するものである。
【化2】

【0037】
なお、α−ヒドロキシアルキル基は、本発明の効果を損なわない限り、水酸基以外の少量の置換基を有しているものでもよく、かかる置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基や、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基が挙げられる。
【0038】
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)中のα−ヒドロキシアルキル基の含有量は、通常1〜12モル%であり、特に3〜10モル%、さらに6〜8モル%のものが好ましく用いられる。かかるα−ヒドロキシアルキル基の含有量が少なすぎると、これを導入した効果が充分に得られず、多すぎると本発明のスチレン系熱可塑性樹脂エラストマーラテックスから得られた皮膜等の耐水性が不足する傾向がある。
【0039】
PVA系樹脂にα−ヒドロキシアルキル基を導入する方法としては、共重合による方法、後反応による方法のいずれでも可能である。
例えば、後反応による方法としては、PVA系樹脂の水酸基にグリシジル化合物を付加反応する方法が挙げられる。ただし、かかる方法によると、α−ヒドロキシアルキル基がエーテル結合によって主鎖と結合するため、熱安定性が必要となる用途に対しては好ましくない場合がある。
【0040】
また、共重合の場合、ビニルエステル系単量体を共重合してポリビニルエステル系樹脂とする際に、共重合モノマーとしてα−ヒドロキシアルキル基を有するオレフィン化合物を用いればよく、かかるオレフィン化合物としては、4−ヒドロキシ−1−ブテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセンなどのモノヒドロキシオレフィン化合物、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセンなどのジヒドロキシオレフィン化合物を挙げることができる。
なお、かかる水酸基を有するオレフィン化合物中の水酸基がケン化工程等で脱保護可能な官能基で保護されているものもビニルエステル等との共重合性の点で好ましく、例えば、これらのアシル化物などの誘導体を挙げることができ、特に、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルとケン化工程での副生物が共通するアセチル化物が好ましく用いられる。
従って、上記一般式(2)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂(B)を共重合によって製造する場合には、共重合モノマーとして3,4−ジヒドロキシ−1−ブテンおよびその誘導体が好ましく用いられる。
【0041】
一般式(2)で表される構造単位を有するPVA系樹脂(B)の製造法としては、例えば、(i)共重合モノマーとして3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、あるいはそのアシル化物などの誘導体を用い、これとビニルエステル系モノマー、エチレンと共重合し、次いで得られた共重合体をケン化する方法、(ii)共重合モノマーとしてビニルエチレンカーボネートを用い、得られた共重合体をケン化、脱炭酸する方法、(iii)共重合モノマーとして2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランを用い、得られた共重合体をケン化、脱アセタール化する方法等を挙げることができる。
かかる(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を用いることができる。
【0042】
中でも、共重合反応性に優れ、変性基をEVOH中に均一に導入することが容易である点、工業的な取扱い性に優れる点から(i)の方法が好ましく用いられる。特に、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテンのアセチル化物である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンはビニルエステル系モノマー等との共重合性に優れ、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルとケン化時の副生成物が共通するため、その分離回収を同時に行うことが可能な点から好ましい。
【0043】
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、80〜100モル%のものが用いられ、特に85〜99.9モル%、さらに88〜99モル%のものが好ましく用いられる。かかるケン化度が低すぎると、スチレン系熱可塑性エラストマーとの溶融混練時に酢酸臭が発生し、それが溶融混練物、さらにはラテックス中に残存する場合がある。
【0044】
また、PVA系樹脂(B)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、200〜1800であり、特に250〜1000、さらに300〜500のものが好ましく用いられる。かかる平均重合度が小さすぎたり、大きすぎたりすると、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)との溶融混練物とした際に、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)が溶融混練物中での分散状態が低下し、その結果、均一な微粒子が分散したラテックスが得られにくくなる場合があり、また、大きすぎる場合には、溶融混練時にせん断発熱が大きくなり、PVA系樹脂(B)、あるいはスチレン系熱可塑性エラストマー(A)
が熱分解しやすくなる工傾向がある。
【0045】
なお、本発明で用いられるPVA系樹脂(B)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、上述のα−ヒドロキシ基を含有するPVA系樹脂と、その他の変性PVA系樹脂、あるいは未変性PVAとの組合わせ、あるいは重合度、ケン化度が異なるPVA系樹脂同士の組み合わせなどを挙げることができる。
【0046】
〔スチレン系熱可塑性エラストマーラテックス〕
次に、本発明で得られるスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスについて説明する。
本発明のラテックスは、上述のスチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、PVA系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のPVA系樹脂(B)を水に溶解し、かかるエラストマーを水中に分散して得られるものである。
【0047】
本発明のラテックスの製造において、エラストマー(A)とPVA系樹脂(B)の配合比(A/B)は、重量比で、通常10/90〜40/60であり、特に20/80〜30/70の範囲が好適に用いられる。かかる配合比が小さすぎると、得られるラテックス中のエラストマー濃度が低くなり、さらにラテックスから得られる乾燥物中のPVA系樹脂の比率が高くなるため、耐水性が不足する傾向がある。また、大きすぎると、溶融混練物中でエラストマー(A)が充分に分散せず、均一に微分散したラテックスがえられにくくなる場合がある。
【0048】
まず、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とPVA系樹脂(B)を溶融混練する工程について説明する。
かかるエラストマー(A)とPVA系樹脂(B)との溶融混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ブラストミルなどの公知の混練装置を用いて行うことができ、中でも押出機を用いる方法が工業的に好ましい。
かかる押出機としては単軸押出機や二軸押出機が挙げられるが、中でもスクリューの回転方向が同方向の二軸押出機が適度なせん断により充分な混練が得られる点でより好ましい。かかる押出機のL/Dは、通常10〜80であり、特に15〜70、さらには15〜60であるものが好ましく用いられる。かかるL/Dが小さすぎると、溶融混練が不充分で、溶融混練物中のエラストマー(A)の分散性が不充分となる場合があり、逆に大きすぎると過度のせん断を与えることにより好ましくないせん断発熱を引き起こす傾向がある。
【0049】
押出機のスクリュー回転数は、通常、10〜400rpmであり、特に30〜300rpm、さらには50〜250rpmの範囲が好ましく用いられる。かかる回転数が小さすぎると吐出が不安定となる傾向があり、また、大きすぎると好ましくないせん断発熱によって樹脂の劣化の原因と成る場合がある。
【0050】
押出機内における樹脂温度は、通常は80〜260℃で行われ、特に130〜240℃、さらに180〜230℃の範囲が好適に用いられる。かかる樹脂温度が高すぎるとPVA系樹脂(B)、あるいはエラストマー(A)が熱分解する場合があり、逆に低すぎると、溶融混練が不充分で、溶融混練物中のエラストマー(A)の分散性が不足する傾向がある。
かかる樹脂温度の調整方法は特に限定されないが、通常は、押出機内シリンダーの温度、および回転数を適宜設定する方法が用いられる。
【0051】
押出機から吐出された溶融混練物は、次工程への移送、および取り扱いの簡便性から、通常はペレットとされることが好ましく、かかるペレット化法は特に限定されないが、前記樹脂組成物をダイスからストランド状に押出し、冷却の後、適切な長さにカットする方法が用いられる。かかる冷却の方法としては、特に限定されないが、押し出された樹脂の温度よりも低温に保持された液体に接触させる方法や、冷風を吹き付ける方法が好ましく用いられ、前述の液体としてはPVA系樹脂(B)を溶解しない有機溶剤である必要があり、例えばアルコール系溶剤が挙げられるが、環境の点では空冷方式が好ましく用いられる。
かかるペレットの形状は通常、円筒状であり、その大きさは、後にこれを水と接触させ、その中のPVA系樹脂(B)を溶解除去することを考えると、小さいほうが好ましく、例えば、ダイスの口径は2〜6mmφ、ストランドのカット長さは1〜6mm程度が好適に用いられる。なお、押出機から吐出されたEVOHがまだ溶融状態である間に、大気中あるいは有機溶剤中でカットする方法も用いることができ、その場合には球状に近いペレットが得られるが、その場合の大きさとしては、直径が2〜5mmφの範囲が好適に用いられる。
【0052】
次に、上述の工程で得られたスチレン系熱可塑性エラストマー(A)とPVA系樹脂(B)の溶融混練物から、本発明のラテックスを製造する工程について説明する。
かかる工程は、得られたエラストマー(A)とPVA系樹脂(B)の溶融混練物から、これに含まれるPVA系樹脂(B)を溶解するもので、その方法としては特に限定されるものではないが、通常は、上述の方法で得られた溶融混練物のペレットを水中に投入し、必要に応じて撹拌、および加熱することで本発明のラテックスを得ることができる。
【0053】
かかる方法によって得られたスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスの固形分濃度は、通常、10〜50重量%であり、特に10〜40重量%の範囲が好適に用いられる。かかる固形分濃度が小さすぎると、その水分の除去に多大なエネルギーや時間を要するため好ましくなく、また、固形分濃度が大きすぎると、流動性が低下し、作業性を阻害する場合がある。
【0054】
かかる方法で得られた本発明のラテックス中のスチレン系熱可塑性エラストマーの粒径は、通常、50〜2000nmであり、特に100〜1000nm、さらに150〜800nmμmである。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0056】
実施例1
〔PVA系樹脂(B1)の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0057】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂(B1)を作製した。
【0058】
得られたPVA系樹脂(B1)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、98.9モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。また、MFR(210℃、荷重2160g)は5.5g/10分、溶融粘度(220℃、せん断速度122sec−1)は1040mPa・sであった。
【0059】
〔溶融混練物の作製〕
スチレン系熱可塑性エラストマー(A1)としてカルボキシル基を有するスチレン/エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEBS)(旭化成社製「タフテックM1913」(酸化10mgCHONa/g、溶融粘度1060mPa・s(220℃ せん断速度122sec−1))を用い、その20部と、PVA系樹脂(B1)80部をドライブレント゛した後、二軸押出機を用い、下記条件で溶融混練し、ストランド状に押し出してペレタイザーでカットし、溶融混練物ペレット(直径約1mm、長さ約2mm)を得た。

直径(D)15mm、
L/D=60
スクリュ回転数:200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/D=90/205/210/
210/210/215/220/220/220℃
吐出量:1.5kg/hr
【0060】
〔ラテックス〕 得られたペレット30部を常温の水70部に投入し、攪拌しながら昇温し、80℃で90分間撹拌することで、本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスが得られた。
【0061】
(金属密着性)
銅版(日本テストパネル社「テスト用銅板」、15cm×7cm×2mm)に、得られたスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスをバーコーター(No.40)にて塗工し、120℃の熱風乾燥機中で10分間、加熱乾燥し、厚さ10μmの皮膜を形成した。
得られた乾燥皮膜の金属密着性を、JIS K5600に従って鉛筆硬度法によって評価した。結果を表2に示す。
【0062】
(透明性)
得られたラテックスをPETフィルム上にバーコーター(No.40)を用い、膜厚が約10μmとなるように塗布し、23℃、50%RHの環境下で風乾し、フィルムを作製した。かかるフィルムの透明性をヘイズメーター(日本電色工業社製「HazeMeter NDH2000」を用い、JIS K 7105に従って測定し、膜厚10μmに換算したヘイズ値を求めた。結果を表2に示す。
【0063】
実施例2
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.5部、メタノール20.5部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン11.0部を酢酸ビニルの初期仕込率10%、酢酸ビニル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを9時間等速滴下の条件で仕込、アゾイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0064】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂(B2)を作製した。
得られたPVA(B2)のケン化度は98.9モル%。、平均重合度は300。1,2−ジオール構造単位の含有量は8モル%であった。
【0065】
実施例1において、PVA系樹脂として上述のPVA系樹脂(B2)を用いた以外は同様にスチレン系熱可塑性エラストマー(A1)との溶融混練物、およびラテックスを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0066】
比較例1
エラストマーとして、SBRラテックス(日本ゼオン社製「タイプA」、濃度45%)を水で濃度30%に希釈した後、その80部と、PVA(B1)の30%水溶液20部を混合して、実施例1と同様のPVA系樹脂を同様の含有比率で含有するSBRラテックスを得た。
かかるSBRラテックスを用い、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

A1:カルボキシル基含有SEBS
※:SBRラテックス
【0068】
【表2】

【0069】
このように、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)とPVA系樹脂(B)とを溶融混練し、かかる溶融混練物中のPVA系樹脂(B)を水に溶解し、エラストマー(B)を水中に分散させてなる本発明のラテックス(実施例1、2)からは、透明性に優れ、金属密着性に優れた乾燥皮膜が得られたが、エラストマーとしてSBRラテックスを用い、これに実施例1と同様のPVA系樹脂を同様の比率で配合したもの(比較例1)からは、いずれの特性も不充分な乾燥皮膜しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスは、コーティング剤、バインダー、粘・接着剤、水溶性樹脂の改質剤として有用であり、特に透明性に優れた皮膜が得られることから、美粧性が要求される用途に好適である。また、その乾燥皮膜は金属との密着性にも優れることから、各種金属素材のコーティング剤、バインダーに好適であり、例えば、リチウム二次電池の負極用バインダーなどへの適用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のポリビニルアルコール系樹脂(B)を水に溶解し、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を水中に分散してなることを特徴とするスチレン系熱可塑性エラストマーラテックス。
【請求項2】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)が、側鎖にカルボン酸基あるいはその誘導体基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1記載のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックス。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、側鎖にα−ヒドロキシアルキル基を有するポリビニルアルコール系樹脂である請求項1または2記載のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックス。
【請求項4】
α−ヒドロキシアルキル基が、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシアルキル基である請求項3記載のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックス。
【化1】

【請求項5】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の配合比(A/B)が重量比で10/90〜40/60である請求項1〜4いずれか記載のスチレン系熱可塑性エラストマーラテックス。
【請求項6】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を溶融混練し、得られた溶融混練物中のポリビニルアルコール系樹脂(B)を水に溶解し、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を水中に分散させることを特徴とするスチレン系熱可塑性エラストマーラテックスの製造方法。

【公開番号】特開2011−173998(P2011−173998A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39513(P2010−39513)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】