説明

スチールコードおよびそれを用いた空気入りラジアルタイヤ

【課題】生産性に優れ、かつ、タイヤの補強素子として用いた場合、フレッティング摩耗耐久性を維持することができるスチールコードおよびそれを用いた空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】n本(n=1〜4)のフィラメント11からなるコア1と、コア1の周りに形成され、m本(m=n+(2〜6))のフィラメント12からなる1層のシース2と、シース2の外周面に巻き付けられた巻き付けワイヤ3と、からなるn+m+1の層撚り構造を有するスチールコードである。エラスティシティーが90%以下であり、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpが5.0〜10.0mmであり、かつ、巻き付けワイヤ3の鋼材の炭素含有量が0.50〜0.65%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチールコード(以下、単に「コード」とも称する)およびそれを用いた空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、コードの生産性とフレッティング摩耗耐久性とを両立することができるスチールコードおよびそれを用いた空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
小型トラック〜トラック・バス等に装着されるタイヤにおいては、軽量であることが重要なポイントの一つである。そのため、これらタイヤのボディプライの補強素子として用いられるスチールコードについても、可能な限り軽量化を図ったコードが用いられている。
【0003】
かかるスチールコードの改良に係る技術としては、例えば、特許文献1は、カーカスプライに適用するスチールコードに関し、軽量化およびコード強力低下の抑制を両立するために、コード巻き付けワイヤの撚りピッチが3.5〜5.0mmに規定したn+m+1構造のスチールコードが開示されている。特許文献1によれば、コード強力の低下は、コード巻き付けワイヤのフィラメント材とプライコードとの摩耗により発生する。また、コード巻き付けワイヤの撚りピッチはエラスティシティーを規定範囲にするために必要となる。
【0004】
また、特許文献2には、巻き付けワイヤの断線が生じず補強材として使用したときに高抗張力コードの性能を十分に発揮させることができる耐久性の良好な巻き付けワイヤ付きスチールコードが開示されている。さらに、特許文献3には、ゴム補強性能、信頼性とともに耐久性を向上しコード特性をさらに多様化して汎用性を高めたスチールコードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−96468号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平5−106179号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平11−21776号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のスチールコードは、コード巻き付けワイヤのピッチが3.5〜5.0mmと短く、コード製造時の作業性低下の要因となっていた。コード巻き付けワイヤのピッチを長くすると、コード製造時の作業性は向上するが、エラスティシティーが規定範囲から外れてしまう。エラスティシティーが規定範囲から外れると、タイヤ製造時にカーカスプライ端が乱れてしまい、製品不具合が発生してしまう。また、コード巻き付けワイヤの鋼材の炭素含有量はスチールコードと同程度の炭素含有量であり、コード製造プロセスにおいて生産性低下の要因となっていた。
【0007】
また、特許文献2および特許文献3に記載されたスチールコードは、耐久性の向上については効果はみられるものの、コード生産性や、これらスチールコードをタイヤの補強材として用いた場合のタイヤ生産性に関する検討については十分とは言えず、さらなる改良が求められているのが現状である。
【0008】
そこで本発明の目的は、コードの生産性とフレッティング摩耗耐久性とを両立することができるスチールコードおよびそれを用いた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、巻き付けワイヤの撚りピッチ、炭素含有量およびエラスティシティーを所定の範囲とすることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のスチールコードは、n本(n=1〜4)のフィラメントからなるコアと、該コアの周りに形成され、m本(m=n+(2〜6))のフィラメントからなる1層のシースと、該シースの外周面に巻き付けられた巻き付けワイヤと、からなるn+m+1の層撚り構造を有するスチールコードにおいて、
エラスティシティーが90%以下であり、前記巻き付けワイヤの撚りピッチpが5.0〜10.0mmであり、かつ、該巻き付けワイヤの鋼材の炭素含有量が0.50〜0.65%であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記巻き付けワイヤの型付け率rは、該巻き付けワイヤの撚りピッチpに対し、下記式、
(0.95−0.02×p)×100<r<(1.10−0.03×p)×100
で表される関係を満足することが好ましい。また、本発明においては、前記巻き付けワイヤの線径は0.10〜0.25mmであることが好ましい。さらに、本発明においては、前記コアとシースとの、撚りピッチおよび撚り方向のうちのいずれか一方または双方が異なっていても、撚りピッチおよび撚り方向が同一であってもよい。さらにまた、本発明においては、前記コアおよび前記シースの鋼材は、炭素含有量0.70〜0.95%であり、かつ、フィラメントの線径dは0.10〜0.30mmであることが好ましい。
【0012】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、本発明のスチールコードを補強素子として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コードの生産性とフレッティング摩耗耐久性とを両立することができるスチールコードおよびそれを用いた空気入りラジアルタイヤを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一好適実施形態に係るスチールコードの幅方向断面図である。
【図2】コードのエラスティシティーの定義に係る説明図である。
【図3】巻き付けワイヤの撚りピッチに係る説明図である。
【図4】巻き付けワイヤを外した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適実施形態に係るスチールコードの断面図を示す。本発明のスチールコード10は、n本(n=1〜4)のフィラメント11からなるコア1(図示例では3本)と、コア1の周りに形成され、m本(m=n+(2〜6))のフィラメント12からなる1層のシース2(図示例では9本)と、シース2の外周面に巻き付けられた巻き付けワイヤ3と、からなるn+m+1の層撚り構造を有するスチールコードである。
【0016】
本発明においては、スチールコード10のエラスティシティーが90%以下であり、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpが5.0〜10.0mm、かつ、巻き付けワイヤ3の鋼材の炭素含有量が0.50〜0.65%である。これにより、巻き付けワイヤ3の生産性が向上し、コードの生産性が向上する。また、コード生産性が向上する一方で、巻き付けワイヤ3とコード10本体のフレッティング摩耗によりコード強力が低下する問題に対しても、これまでと同程度に抑えることが可能となる。
【0017】
スチールコードのエラスティシティーが90%を超えると、巻き付けワイヤのコード本体の締め付けが緩く、コード移動量が大きくなり、フレッティング摩耗耐久性が低下しコード強力が低下してしまう。本発明の効果を良好に得るためには、エラスティシティーは70〜90%であることが好ましい。また、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpが10.0mmより大である場合には、型付け率rを調整してもエラスティシティーを確保することができず、タイヤ生産性が低下してしまう。一方、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpが5.0mmより小さいと、十分なコード生産性が得られない。
【0018】
ここで、コードのエラスティシティーとは、以下の定義に従うものとする。すなわち、図2に示すように、スチールコード20を直径20cmの円をなすように自由状態で1周周回した後、コードが交差した点P1に対し、円の中心を挟んで対称となる位置の点P2が点P1に当接するように、円を同一面内でつぶして、その直後に点P2を解放したときの、点P1と点P2との間の距離の変化率((解放後の距離L2/初期の距離L1)×100)(%)をエラスティシティーと定義する。これは、巻き付けワイヤのコードの締め付け程度の指標となる。
【0019】
また、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpとは、図3に示すように、巻き付けワイヤ3をシース2に対し巻きつけたときの長さをいう。さらに、巻き付けワイヤ3の型付け率rとは、巻き付けワイヤ3がシース2の外周面上にあるときのらせん径S(図1参照)と、巻き付けワイヤ3のみ外した状態で測定したらせん径S(図4参照)との比S/S×100(%)により定義される。
【0020】
本発明においては、巻き付けワイヤ3の型付け率rが、巻き付けワイヤ3の撚りピッチpに対し、下記式、
(0.95−0.02×p)×100<r<(1.10−0.03×p)×100
で表される関係を満足することが好ましい。型付け率rを上記範囲とすることで、撚りピッチが長い領域においても、所望のエラスティシティー、具体的には90%以下のエラスティシティーを確保することができ、結果として、コード生産性とフレッティング摩耗耐久性の向上とを良好に両立することが可能となる。また、上記要件を満足するコードをカーカスプライコードとして用いることにより、カーカスプライ端部の乱れが少ない成形性に優れたタイヤを製造することができる。
【0021】
巻き付けワイヤ3の型付け率rが上記範囲以上である場合、エラスティシティーを確保することが困難になり、タイヤ生産性が低下してしまう場合がある。一方、型付け率rが上記範囲以下である場合、巻き付けの際に、巻き付けワイヤ3の断線が発生するおそれがあり、コード生産性が低下してしまう場合がある。
【0022】
また、本発明においては、巻き付けワイヤ3の線径は0.10〜0.25mmであることが好ましく、より好ましくは0.10〜0.15mmである。巻きつけワイヤ3の線径が0.25mmを超えると、タイヤの軽量化の観点から好ましくない。一方、0.10mm未満であると、十分なコード強力を得ることが困難になる。
【0023】
さらに、本発明においては、コア1およびシース2の各層を構成するフィラメントの線径dは、好ましくは0.10〜0.30mm、より好ましくは0.15〜0.20mmの範囲内である。使用するフィラメントの線径が、0.10mm未満ではフィラメントの線製造効率が悪く、一方、0.25mmを超えると、カーカスプライコードへの過大な曲げ入力によりフィラメントが疲労破断しやすくなり、走行時の耐コード破断性が低下する。
【0024】
さらにまた、本発明においては、コアおよびシースフィラメントの鋼材の炭素含有量は0.70〜0.95%であることが好ましく、コード生産性の観点から、より好ましくは、0.80〜0.90%である。巻き付けワイヤ3の鋼材の炭素含有量を、コアおよびシースフィラメントの鋼材の炭素含有量よりも少なくすることで、コード強力の低下を良好に抑制することができる。
【0025】
本発明においては、コードが上記条件を満足するものであれば、それ以外のコード構造に係る条件については、特に制限されるものではなく、撚りピッチおよび撚り方向は、いずれか一方または双方を異なるものとしてもよく、または、双方を同一としてもよい。例えば、コア1の撚りピッチとしては、好適には5.0〜7.0mmとすることができ、また、シース2の撚りピッチとしては、好適には12.0〜14.0mmとすることができる。
【0026】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、本発明のスチールコードをカーカスプライ等の補強素子として用いたものであればよく、その具体的構成については、常法に従い適宜選定することができ、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜3、比較例1〜3および従来例>
3本のフィラメントからなるコアと、9本のフィラメントからなる1層のシースと、その外周面に巻き付けられた巻き付けワイヤとからなる3+9×0.175mm+0.15mm構造のコードを、巻き付けワイヤの撚りピッチpおよび型付け率rを下記表1中に示すように変えて作製した。巻き付けワイヤの撚りピッチpおよび型付け率rは、巻き付けワイヤにつき、巻き付ける前にあらかじめ型付けをすることで変化させた。
【0028】
各供試コードにつき、前述に従いエラスティシティーを測定した。また、各供試コードのコード生産性を、下記手法により評価した。得られた結果を表1に併記する。
【0029】
さらに、各供試コードをカーカスプライに用いたタイヤをタイヤサイズ11/70R22.5にて作製して、新品時および5万km走行後のカーカスプライコードのコード強力およびフレッティング摩耗耐久性につき評価した。評価方法は下記に示すとおりである。
【0030】
<コード生産性>
コード生産性は巻き付けワイヤを巻きつける工程において単位時間当たりに製造されるコード長さを、従来例を100として指数で表わした。
【0031】
<タイヤ生産性>
タイヤ生産性はコードをカーカスプライに用いた生タイヤを作製し、50℃にて7日間放置し、製作直後の状態とカーカスプライ形状を比較した。ここでは、カーカスプライのコード端が跳ね上がる方向に2mm以上変化していれば×、それ未満であれば○とした。なお、評価が○であってもタイヤ生産性が従来例と同程度である場合は△とした。
【0032】
<走行後強力保持率およびフレッティング摩耗耐久性>
走行後残強力およびフレッティング摩耗性は該カーカスコードをタイヤに使用し、該タイヤにて内圧850kPa、荷重3kNにて10万kmドラム走行させた後、カーカスコードをタイヤから抜き取り強力測定およびフレッティング摩耗耐久性を観察した。走行後の残強力は新品時の80%以内であれば○としている。フレッティング摩耗耐久性は、巻き付けワイヤを除去した後のスチールコード上での摩耗溝深さを測定し、摩耗率が20%以下であれば○とした。
【0033】
<総合評価>
総合評価は、従来例と比較した場合に、エラスティシティーが同程度で生産性が特に優れている場合を◎、エラスティシティーが同程度で生産性が優れている場合を○、エラスティシティーが同程度で生産性が悪いものを△、エラスティシティーと生産性が悪いものを×で表記した。
【0034】
【表1】

※1:型付け率rが(0.95−0.02×p)×<r<(1.10−0.03×p)×100の範囲にある場合○、範囲から外れる場合を×とした。
【0035】
上記表1から、本発明のスチールコードは、コードの生産性とフレッティング摩耗耐久性とを両立することができることがわかる。
【符号の説明】
【0036】
1 コア
2 シース
3 巻き付けワイヤ
10 スチールコード
11,12 フィラメント
20 スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n本(n=1〜4)のフィラメントからなるコアと、該コアの周りに形成され、m本(m=n+(2〜6))のフィラメントからなる1層のシースと、該シースの外周面に巻き付けられた巻き付けワイヤと、からなるn+m+1の層撚り構造を有するスチールコードにおいて、
エラスティシティーが90%以下であり、前記巻き付けワイヤの撚りピッチpが5.0〜10.0mmであり、かつ、該巻き付けワイヤの鋼材の炭素含有量が0.50〜0.65%であることを特徴とするスチールコード。
【請求項2】
前記巻き付けワイヤの型付け率rが、該巻き付けワイヤの撚りピッチpに対し、下記式、
(0.95−0.02×p)×100<r<(1.10−0.03×p)×100
で表される関係を満足する請求項1記載のスチールコード。
【請求項3】
前記巻き付けワイヤの線径が0.10〜0.25mmである請求項1または2記載のスチールコード。
【請求項4】
前記コアとシースとの、撚りピッチおよび撚り方向のうちのいずれか一方または双方が異なる請求項1〜3のうちいずれか一項記載のスチールコード。
【請求項5】
前記コアとシースとの、撚りピッチおよび撚り方向が同一である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のスチールコード。
【請求項6】
前記コアおよび前記シースの鋼材が、炭素含有量0.70〜0.95%であり、かつ、フィラメントの線径dが0.10〜0.30mmである請求項1〜5のうちいずれか一項記載のスチールコード。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項記載のスチールコードを補強素子として用いたことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−202296(P2011−202296A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68920(P2010−68920)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】