説明

ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法

【課題】皮膜を容易に除去することができ、リサイクル性に優れ、しかも、環境負荷の少ない、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】マグネシウム合金からなる芯金の表面が、レーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるステアリングホイールから、予め前記皮膜を機械的に剥離する工程、及び前記芯金の表面に残存して付着している架橋ポリウレタン樹脂組成物にレーザ光を照射して架橋ポリウレタンを分解する工程によって、ステアリングホイール用芯金をクリーニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金からなる芯金の表面が架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるステアリングホイールから、前記皮膜を除去する、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法に関する。また、そのような方法によってクリーニングされたステアリングホイール用芯金を用いた、インゴットの製造方法、及びステアリングホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は実用金属中で単位重量あたりの強度が最も高く、リサイクルも可能であることから、近年、自動車部品や電気機器用途に広く用いられるようになってきている。中でも、強度と軽量性の両立が求められる自動車用の部品として好適に使用されている。自動車部品のリサイクルは義務化されており、リサイクル時のエネルギー消費が少ないことやCO排出が少ないことも重要である。しかしながら、マグネシウム合金は鉄などと比べてリサイクル性が十分ではないことから、低コストでリサイクル効率のよいリサイクル方法が求められている。また、廃液の排出などによる環境負荷が少ないリサイクル方法も求められている。
【0003】
自動車部品などに使用された金属をリサイクルする際には、金属に樹脂やゴムが複合されていることや塗料が塗られていることも多いため、そのようなものに由来する有機成分を金属から分離することが必要である。鉄の場合には、融点が1000℃以上であるため、溶融時に、鉄の溶融に先行して有機成分が分解される。ところが、マグネシウム合金の融点は約600℃と鉄などに比べて低いうえに、酸化され易いので、高温にすることには限界があり、溶融時の分解によって有機成分を分離することは難しい。また、溶融マグネシウムは比重が小さいため、比重差によって有機成分やその分解物を分離することも容易ではない。溶融金属中に有機成分やその分解物が残存すると冷却後、成形品の表面に有機成分が析出することなどによる品質の低下や歩留の低下が発生するおそれがある。
【0004】
マグネシウム合金は酸化され易いので、マグネシウム合金を溶融してインゴットに再生する場合、通常、炉の鍋蓋は閉じて行う。しかし、有機成分が残存するマグネシウム合金を溶融した場合、鍋蓋を開けた瞬間、気化した有機成分が爆発するおそれがある。
【0005】
このようなことから、通常、マグネシウム合金をリサイクルする際には、付着している樹脂やゴム、あるいは塗膜などを除去する前処理を行った後、溶融してインゴットに再生する。特許文献1には、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、あるいはアクリル樹脂塗料などが塗装されたマグネシウム合金材から、カッターナイフ又はウェットブラストによって塗膜の一部を除去し、その後、アルカリ剥離液でさらに塗膜を除去した後、溶融する、マグネシウム合金の再生方法が記載されている。特許文献2には、塗装が施されたマグネシウム合金部品から、強アルカリ性の水溶液又は有機溶剤による化学的処理、あるいはショットブラスト処理によって塗装を剥離した後、塩化物を添加して再溶融するマグネシウム合金部品の再生方法が記載されている。しかしながら、ブラスト処理の場合には、細かい凹凸部分に付着した有機成分を除去することが困難であるし、粉塵も大量に発生する。マグネシウムを含む粉塵は燃焼しやすく、安全上の問題を有していた。また、アルカリ液や有機溶剤を用いる場合には、廃液処理をしなければならないという問題を有していた。
【0006】
自動車部品においてマグネシウム合金の利用が進んでいるが、中でも、ステアリングホイールにはマグネシウム合金が多く使用されている。ステアリングホイールは、通常、マグネシウム合金からなる芯金が、架橋ポリウレタン樹脂組成物からなる発泡体の皮膜で覆われた構造からなる。当該皮膜は、RIM成形(Reaction Injection Molding)などによって形成することができる。また、このような皮膜には、強度を向上させるために、カーボンブラックなどを含有させることも多い。このような架橋ポリウレタン樹脂組成物はマグネシウム合金との密着性が高いため、マグネシウム合金からの剥離が困難である。また、架橋しているため、有機溶媒に溶解することができず、有機溶媒を用いて溶解除去することも困難であった。しかも、芯金には剥離防止のために凹部が設けられていたり、スポーク部が一体成形されていることが多く、そのことが、剥離を一層困難にしている。さらに、空気を含んだ発泡体であるために熱伝導率が低く、焼成による熱分解では、内部まで熱が伝わりにくいため、表面のみが先に炭化して、内部の分解が進みにくく、完全に皮膜を除去することが難しかった。
【0007】
一方、金属表面の塗膜などの除去のために、レーザを用いることもできる。特許文献3には、エポキシ系塗料、ポリウレタン系塗料、あるいはビニルエステル樹脂塗料などが塗装された鋼製の構造部材に、パルスレーザを照射することによって、塗膜を除去する方法について記載されている。また、特許文献4には、合成樹脂塗膜を有するアルミニウム合金板に赤外線レーザを照射することによって、塗膜を除去する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−99993公報
【特許文献2】特開2002−356721公報
【特許文献3】特開2000−263259公報
【特許文献4】特開2007−105607公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、皮膜を容易に除去することができ、リサイクル性に優れ、しかも、環境負荷の少ない、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法を提供することを目的とするものである。また、そのような方法でクリーニングされたステアリングホイール用芯金を用いた、インゴットの製造方法、及びステアリングホイールの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、マグネシウム合金からなる芯金の表面が、レーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるステアリングホイールから、前記皮膜を除去する、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法であって、前記ステアリングホイールから予め前記皮膜を機械的に剥離する工程、及び前記芯金の表面に残存して付着している架橋ポリウレタン樹脂組成物にレーザ光を照射して架橋ポリウレタンを分解する工程を有することを特徴とする、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法を提供することによって解決される。
【0011】
このとき、前記架橋ポリウレタン樹脂組成物が発泡体であることが好適である。前記レーザ光の波長が350〜11000nmであることも好適である。前記レーザ光がパルス波であることも好適である。また、前記架橋ポリウレタンを分解する工程に引き続き、分解して液化したポリウレタンを洗浄する工程又は拭き取る工程を有することも好適である。
【0012】
以上のような方法によりクリーニングしたステアリングホイール用芯金を、加熱溶融してから冷却する、マグネシウム合金からなるインゴットの製造方法が本発明の好適な実施態様である。また、以上のような方法によりクリーニングしたステアリングホイール用芯金を、架橋ポリウレタン樹脂で覆う、ステアリングホイールの製造方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウム合金からなる芯金から皮膜を容易に除去することができ、リサイクル性に優れ、しかも環境負荷が小さいステアリングホイール用芯金のクリーニング方法が提供される。したがって、このような方法によりクリーニングされたステアリングホイール用芯金は、マグネシウム合金からなるインゴットの製造、又はステアリングホイールの製造に好適に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における、皮膜を刃物で削り取った後の、ステアリングホイール用芯金の外観写真である。
【図2】実施例1における、皮膜を機械的に剥離した後に残存している皮膜とステアリングホイール用芯金の接着界面の断面写真である。
【図3】実施例1における、レーザ照射後の、ステアリングホイール用芯金の外観写真である。
【図4】実施例1において、液化した皮膜成分を拭き取り、その後、周波数1kHzでレーザ照射した後の、ステアリングホイール用芯金の外観写真である。
【図5】比較例1における、大気炉で焼成した後の、ステアリングホイール用芯金の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のステアリングホイール用芯金のクリーニング方法は、マグネシウム合金からなる芯金の表面が、レーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるステアリングホイールから、前記皮膜を除去するものである。
【0016】
クリーニングに供されるステアリングホイールは、マグネシウム合金からなる芯金の表面が、レーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるものである。ステアリングホイールの形状は特に限定されない。通常、乗員が握るリム部、スポーク部及び車体に取り付けるためのボス部からなる。マグネシウム合金からなるステアリングホイール用芯金は、マグネシウム合金によって、リム部、スポーク部及びボス部が一体成形されたものでもよいし、ステアリングホイールの一部のみにマグネシウム合金からなる芯金が使用されていてもよい。リム部は、通常、円形である。クリーニングに供されるステアリングホイールは、マグネシウム合金からなる芯金の全部が皮膜で覆われていてもよいし、一部のみが皮膜で覆われていてもよい。通常、リム部は全体が皮膜で覆われている。また、皮膜と芯金の密着性の向上やズレ防止のため、芯金のリム部には、表面に、溝(凹部)が形成されていることも多い。芯金のマグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とするものであればよく、マグネシウム元素の含有量は、通常50重量%以上であり、好適には80重量%以上である。マグネシウム合金としては、Mg−Al系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Al−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金、Mg−Zn−希土類元素系合金などが挙げられる。通常、ステアリングホイール用芯金には、Mg−Al系合金が使用されている。
【0017】
本発明のレーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜は、レーザ光吸収剤を含有し、架橋ポリウレタン樹脂を主成分とするものであれば、特に限定されない。ここでいう、架橋ポリウレタン樹脂組成物は、通常、ポリイソシアネートとポリオールを反応させて得られる重合体である。3価以上のポリイソシアネート又はポリオールを用いることで架橋構造を導入することができる。架橋ポリウレタン樹脂組成物に含有されるレーザ光吸収剤は特に制限されないが、通常、赤外線吸収剤、特にカーボングラックなどの黒色顔料が好適に用いられる。架橋ポリウレタン樹脂組成物にカーボングラックが含有されることで、皮膜の強度が向上する。架橋ポリウレタン樹脂組成物は、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤又は充填剤などの添加剤を、単独又は2種以上の組み合わせで含有していてもよい。芯金を覆う皮膜の厚さは特に限定されないが、通常1〜30mm程度である。架橋ポリウレタン樹脂組成物はマグネシウム合金に対する密着性がよく、ステアリングホイールの皮膜として好適に用いられる。
【0018】
ステアリングホイールの皮膜には、架橋ポリウレタン樹脂組成物の発泡体が好適に用いられる。発泡体であることで、ソフトな手触りが得られると共に、材料を軽量化できる。また、断熱性も高い。架橋ポリウレタン樹脂組成物の発泡体からなる皮膜の形成法としては、RIM成形が好適に用いられる。これは、2種以上のモノマーを触媒、架橋剤、発泡剤などと共に金型内に混合射出し、重合反応を起こさせると同時に発泡させて、発泡成形品を得る方法である。原料が粘度の低いモノマーの状態で金型に入るため、射出圧が低圧でよく、ステアリングホイールの製造に好適に用いられる。
【0019】
本発明のクリーニング方法は、ステアリングホイールから予め皮膜を機械的に剥離する工程を有する。この工程では、短時間で大まかに芯金から皮膜を除去する。機械的な剥離方法であれば方法は特に制限されない。例えば、手作業でする場合には、皮膜に切り込みを入れ、そこから大まかに引き剥がす方法や刃物などで削り取ったりする方法、あるいはその組み合わせなどが挙げられる。剥離前に、剥離し易いよう、熱湯に浸漬して、架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜を膨潤あるいは軟化させておいてもよい。作業後の芯金表面は、ほぼ全体に薄く皮膜が残った状態であっても構わない。なお、本発明の発明者らの検討によると、皮膜を芯金から機械的に引き剥がした場合、芯金表面のほぼ全面に皮膜が残存し易いことが分かっている。これは、マグネシウム合金芯金と架橋ポリウレタン樹脂組成物が強固に接着しているためであると考えられる。また、架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜が発泡体である場合には、当該架橋ポリウレタン樹脂組成物はちぎれ易いため、芯金表面に皮膜が残存し易い要因になりうる。
【0020】
前記機械的に剥離する工程に引き続き、芯金の表面に残存して付着している架橋ポリウレタン樹脂組成物にレーザ光を照射する。レーザ照射された架橋ポリウレタンは熱分解して低分子化することによって、気化又は液化する。このとき、架橋ポリウレタン樹脂組成物がレーザ光吸収剤を含有するので、レーザ光を効率よく吸収することができる。そして、レーザ光の照射は、高エネルギー密度の光を、きわめて短時間照射するものであるから、部分的に炭化するようなことがなく、表層部でも内部でも一気に分子鎖が切断されて、全体が液化又は気化する。また、走査の容易なレーザ光を採用することでリム部の溝やリム部とスポーク部との接続部などのような入り組んだ部分においても簡便に皮膜を除去できる。
【0021】
本発明で使用するレーザの種類としては、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザ等の公知のいずれも用いることができ、特に限定されない。また、レーザ光は1つの波長からなるものに限らず、2以上の波長が混合されたものであってもよい。レーザ光による架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜の分解は、波長が350〜11000nmのレーザを用いることで、残存する皮膜をより効率的に除去することができる。架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜には、レーザ光吸収剤が含有されるため、該皮膜は当該波長領域のレーザ光を効率的に吸収する。レーザ光の波長が500〜1100nmであることがより好適である。
【0022】
低エネルギー出力のレーザを用いた場合においても、良好に皮膜は除去される。また、低エネルギー出力のレーザを用いることができれば、レーザ照射による芯金へのダメージも抑制される。そして、本発明ではレーザをパルス照射することによって、さらに効率的に残存する皮膜を除去することができる。パルス照射することにより、低出力のレーザであっても、瞬間的に架橋ポリウレタンを熱分解して低分子化させることができると共に、芯金の温度上昇も抑えることができる。したがって、レーザマーカのような、低出力で、走査精度が高く、比較的安価なものを好適に用いることができる。
【0023】
レーザの走査方法は、特に限定されないが、ステアリングホイールを固定してレーザ光を走査する方法、レーザ光を固定してステアリングホイールを動かす方法、あるいはレーザ光を走査すると同時にステアリングホイールも動かす方法等が採用できる。レーザ光の照射角度は皮膜にエネルギーが十分に伝達される範囲においては特に制限されない。照射エネルギーの制御は電流、電圧のいずれによる制御も採用できるし、パルス照射する場合にはその周波数やデューティー比によっても制御することができる。パルス照射の場合には、パルス周波数を変えることにより、パルス1回あたりのエネルギー量が変化することになる。すなわち、単位時間当たりのエネルギー量が一定であれば、パルス周波数が低いほど、パルス1回あたりのエネルギーは高くなる。レーザ光の強度は、架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜が低分子化するのに必要な強度であればよい。低分子化した後の皮膜成分は、気化あるいは液化する。芯金へのダメージを抑えたい場合など、より低出力でレーザ照射したい場合には、皮膜を液化させて、後の工程で、洗浄又は拭き取ることができる。また、後工程を省略したい場合には、液化させる場合より、高い出力でレーザ照射して皮膜成分をすべて気化させることもできる。レーザ照射する部分は、残存する皮膜のみに照射してもよいし、芯金全面に照射してもよい。前述のように、架橋ポリウレタン樹脂組成物にレーザ光吸収剤が含有されることやレーザをパルス照射することによって、低出力のレーザ光で皮膜を除去できるため、マグネシウム合金に直接レーザが照射されても、芯金への影響は少ない。このように、低出力のレーザで皮膜を除去できるため、工場内リサイクルなどにおいて、ステアリングホイール用芯金を架橋ポリウレタン樹脂組成物で覆って再利用する場合においても、芯金に熱履歴を残すことなく、芯金を再利用に供することができる。
【0024】
レーザ照射により、液化した皮膜成分は、低分子化しているため、有機溶剤に浸漬することで、容易に除去される。このときの有機溶剤は特に制限されないが、アセトン、エタノール、2−プロパノール、メタノール、キシレンなどが挙げられる。また、有機溶剤を浸みこませるなどした、ティシュペーパー又は布きれなどを用いて液化した皮膜成分を拭き取ることによっても、皮膜成分を芯金から容易に除去することができる。
【0025】
本発明のクリーニング方法によりクリーニングされた、ステアリングホイール用芯金をマグネシウム合金からなるインゴットの製造に供することが、本発明の好適な実施態様である。レーザ照射により芯金から完全に皮膜を除去することにより、溶融した場合に品質に影響するような不純物の発生は抑制される。したがって、品質のよいインゴットに再生することができる。なお、本発明の発明者らの検討結果によれば、機械的な方法のみによって芯金から皮膜を剥離した場合、600gの芯金に対して、約3gの皮膜が残存していた。そして、このような芯金11kgを1400kgのクリーンスクラップに混ぜて溶融した場合であっても、融液の表面一面に析出物が見られ、高純度のインゴットへ再生することができなかった。このようなことからも、芯金を再生するためには芯金表面から皮膜を完全に除去することが重要であるということが分かる。
【0026】
本発明のクリーニング方法によりクリーニングされた、ステアリングホイール用芯金を、ステアリングホイールの製造に供することも、本発明の好適な実施態様である。ステアリングホイールの製造時に発生する不良品は、通常、素材ごとに分離されたのち、マグネシウム合金は再溶融されるが、本発明のクリーニング方法を用いれば、ステアリングホイール用芯金に熱履歴を残すことなく皮膜が除去でき、そのまま再利用することができる。また、本発明の方法によれば、不良品を溶融して再生する場合と比較して、CO排出が少なく、エネルギー効率にも優れるため、環境負荷が少ない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
【0028】
(1)ステアリングホイールの断面形状観察
架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜を物理的に剥離した後、リム部を厚さ10mmに切断し、エポキシ樹脂に包理してから、切断面を研磨して鏡面を得た。試料の断面方向から、日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8500FS」を用いて電子顕微鏡写真を撮影した。
【0029】
実施例1
ASTM No.AM60(マグネシウム含有量94重量%及びアルミニウム含有量6重量%)のマグネシウム合金からなるステアリングホイール用芯金表面が、架橋ポリウレタン樹脂組成物からなる皮膜で覆われたステアリングホイールを試験に供した。当該皮膜は黒色顔料を含有した架橋ポリウレタン樹脂組成物の発泡体であった。該ステアリングホイールを100℃の熱湯に10分間浸漬した後、前記皮膜を手作業で大まかに剥離した。さらに、該ステアリングホイールを旋盤に取り付け、回転させながら、残存する皮膜を刃物で削り取った。芯金の形状は、直径が約380mm、リム部の断面の形状が長径約20mm、短径約15mmの楕円形であった。芯金は、試験を実施する上での都合から、リム部を10〜15cm程度の大きさに切断した。このときのステアリングホイール用芯金の外観写真を図1に示す。当該写真から分かるように、上記の工程の後では、芯金の表面の大部分に皮膜が残存していた。このとき、芯金600gに対して、約10gの皮膜が残存していた。また、皮膜を機械的に剥離した後に残存している皮膜とステアリングホイール用芯金の接着界面の断面写真を図2に示す。当該写真から、発泡した皮膜が芯金にしっかり密着していることがわかる。
【0030】
上記のようにしてステアリングホイール用芯金を覆う皮膜を機械的に剥離した後、芯金の表面にレーザ光をパルス照射した。レーザ装置は、ミヤチテクノス株式会社製のYVOレーザマーカ(波長1064nm)を使用した。レーザ光線のスポット径が50〜60μm、芯金の最上部までの距離が130mmになるようにセッティングした。出力は25A、周波数50kHzとし、走査速度100mm/secで照射した。レーザ照射に際しては、直線で走査し、走査方向に対して直角方向に50μmずつ移動させながら、切断した芯金の長手方向に約4cmの部分の全面に1回照射した。このときの芯金の外観写真を図3に示す。当該写真から分かるように、芯金表面の多くの部分は皮膜が完全に除去されていた。この部分では、レーザ照射によって、架橋ポリウレタンが瞬間的に加熱分解されて、低分子化し、気化したものと推測される。また、一部分では液化した樹脂成分が観察された。これは、架橋ポリウレタンが低分子化した結果、液化したものであった。表面に残存する液化した皮膜成分は、アセトンを浸み込ませたティッシュペーパーを用いて拭き取った。その後、細部まで確実に皮膜を除去するため、1度目のレーザ照射と同じ領域に周波数1kHzで1回レーザ照射した。このときの芯金の外観写真を図4に示す。当該写真からわかるように、機械的な剥離では取りきれなかった芯金表面の皮膜がレーザ光によって完全に除去された。
【0031】
比較例1
大気炉で焼成してステアリングホイール用芯金のクリーニングを行った例である。実施例1と同じ方法で皮膜を機械的に剥離したステアリングホイール用芯金を大気炉で1時間焼成した。焼成した温度は300、400及び500℃であった。大気炉で焼成した結果の一例として、500℃で焼成した場合のステアリングホイール用芯金の外観写真を図5に示す。当該写真からわかるように、焼成後のステアリングホイール用芯金表面には、炭化した皮膜成分が残存していた。また、焼成後の芯金の表面の状態は、焼成温度による大きな差は見られなかった。処理開始直後に皮膜表面が炭化してバリア層となり、皮膜内部は密封された状態となる。皮膜は、空気を含んだ発泡体であり、熱伝導率が低いため、皮膜内部は表面と比較して温度が低く、架橋ポリウレタンの分解が進まない。その結果、皮膜が炭化して焼き付いたと推定される。
【0032】
比較例2
溶剤等を用いて架橋ポリウレタン樹脂組成物を除去する方法でステアリングホイール用芯金のクリーニングを行った例である。試験には、アセトン、キシレン、水酸化ナトリウム及び塩酸を用いた。実施例1と同じ方法で皮膜を機械的に剥離したステアリングホイール用芯金を上記の各液体に72時間浸漬した後、必要に応じて水洗して、乾燥させた。アセトン及びキシレンに浸漬した場合、皮膜は全く溶解されなかった。水酸化ナトリウムに浸漬した場合でも、皮膜は全く溶解されなかった。塩酸に浸漬した場合には、マグネシウム合金表面から発泡して発熱したため、試験を中断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる芯金の表面が、レーザ光吸収剤を含有する架橋ポリウレタン樹脂組成物の皮膜で覆われてなるステアリングホイールから、前記皮膜を除去する、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法であって、
前記ステアリングホイールから予め前記皮膜を機械的に剥離する工程、及び
前記芯金の表面に残存して付着している架橋ポリウレタン樹脂組成物にレーザ光を照射して架橋ポリウレタンを分解する工程
を有することを特徴とする、ステアリングホイール用芯金のクリーニング方法。
【請求項2】
前記架橋ポリウレタン樹脂組成物が発泡体である、請求項1記載のステアリングホイール用芯金のクリーニング方法。
【請求項3】
前記レーザ光の波長が350〜11000nmである請求項1又は2記載のステアリングホイール用芯金のクリーニング方法。
【請求項4】
前記レーザ光がパルス波である請求項1〜3のいずれか記載のステアリングホイール用芯金のクリーニング方法。
【請求項5】
前記架橋ポリウレタンを分解する工程に引き続き、分解して液化したポリウレタンを洗浄する工程又は拭き取る工程を有する請求項1〜4のいずれか記載のステアリングホイール用芯金のクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の方法によりクリーニングしたステアリングホイール用芯金を、加熱溶融してから冷却する、マグネシウム合金からなるインゴットの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか記載の方法によりクリーニングしたステアリングホイール用芯金を、架橋ポリウレタン樹脂組成物で覆う、ステアリングホイールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5498(P2011−5498A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148242(P2009−148242)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(591152654)日本サーモケミカル株式会社 (5)
【Fターム(参考)】