説明

ステレオ画像撮像装置

【課題】多焦点レンズ群によって、パンフォーカス性の高いステレオ画像を生成することができるステレオ画像撮像装置を提供する。
【解決手段】撮像画像51、52を取得する撮像素子4と、所定の基線長Dをもって入射された第1光路L1の光と第2光路L2の光とを撮像素子4に導く撮像光学系2と、撮像素子4によって撮像された撮像画像51、52を処理する画像処理手段6と、を備えるステレオ画像撮像装置1において、撮像光学系2は、第1の焦点距離をもつ第1レンズ部と第2の焦点距離をもつ第2レンズ部とを少なくとも有する多焦点レンズ群2として構成され、画像処理手段6は、多焦点レンズ群2を介して撮像素子4によって撮像された、第1光路L1の光による第1撮像画像51及び第2光路L2の光による第2撮像画像52に基づいて、左眼用視差画像61及び右眼用視差画像62を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視のための視差画像を撮像する技術に関し、特に、多焦点レンズを採用したステレオ画像撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像コンテンツ(動画、静止画を含む)を三次元立体視することが可能なテレビ、パーソナルコンピュータ、携帯電話機などが一般に広く普及し始めている。立体視の原理は人間の両眼視差に基づくものであり、これら三次元対応機器は両眼視差のある左眼用及び右眼用の視差画像(以下「ステレオ画像」ともいう)をそれぞれ人間の左右の眼に対して与えると、人間は脳内でその視差画像を立体像として再構成して奥行きのある立体像を認識する。ステレオ画像を撮像するための装置としては、光路をミラー又はプリズムにより二分割し、一つの撮像素子に左眼用及び右眼用の視差画像を撮像するステレオアダプタが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、二つの撮像光学系を用いてそれぞれ独立に左眼用及び右眼用の視差画像を撮像する二眼式の撮像装置もある。
【0003】
特許文献1では、撮像レンズの前方に装着されたステレオアダプタが、撮像レンズに入射する光束を視差を有するように左右に二分割し、その二分割された光束を1フレームの半分にそれぞれ左眼用画像及び右眼用画像として撮像する。
【0004】
図14は、従来のステレオアダプタにより生成されたステレオ画像の説明図である。ステレオアダプタを取付けない通常のカメラによる撮影では、フレームの高さ方向の長さが垂直画角φに相当し、幅方向の長さが水平画角θに相当する画像100が得られるが、ステレオアダプタをカメラに取付けると、左眼用視差画像101と右眼用視差画像102とが得られる。これら各視差画像を適当な立体視用ビューア又は裸眼で観ると、人間の脳内で立体画像103が構成される。
【0005】
ところで、カメラに採用されるレンズは一般的には単焦点であるが、眼鏡、コンタクトレンズなどの視力矯正器具の分野では、遠近両用の二焦点レンズなどが利用されている。二焦点レンズは、例えば、近距離に位置する被写体を撮像するのに適した短い焦点距離をもつレンズ部と、遠距離に位置する被写体を撮像するのに適した長い焦点距離をもつレンズ部とが同一のレンズ面に一体的に構成されたものである。そして、このような二焦点レンズを採用した撮像装置とその画像改質処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2では、二焦点レンズを採用した撮像装置において、近距離の被写体にピントの合った画像と遠距離の被写体にピントの合った画像とが重なりあった撮像画像に対して画像改質処理を施すことによって、近距離の被写体及び遠距離の被写体の両方にピントの合った鮮明な画像を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−158169号公報
【特許文献2】特表2008−516299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、ステレオ画像による三次元立体視は、人間の脳内処理に依存している。このため、左右の視差画像において、視差範囲、奥行き(飛び出し、引っ込み)範囲、被写体のピントなどが適切に設定されていないと、立体視の成立が妨害され、観察者に著しい視覚疲労や不快感(映像酔い)を与える恐れがある。観察者が立体映像を快適に楽しむための一つ条件として、近距離の観察対象である被写体(手前)から遠距離の観察対象である被写体(奥)までの範囲でピントの合ったパンフォーカス性の高い視差画像を撮像することが必要である。
【0009】
また、観察者が三次元コンテンツを観る場合、その場面に応じて、視点が近距離、中距離、遠距離の被写体グループに順次移ることがある。また、三次元コンテンツの製作者側が注目させたい被写体を場面ごとに変えたいこともある。このため、ステレオ画像の生成に際しては、近距離の被写体と遠距離の被写体との間の範囲(中間距離)における合焦も考慮する必要がある。さらに、観察者の視点がある被写体グループのみにピントを合わせて、他の被写体グループをボケさせるような処理も場合によっては必要となる。
【0010】
特許文献1に記載された技術によれば、ステレオアダプタによりカメラの撮像光学系(レンズ系)に入射する光路を二分割することができ、左眼用の視差画像と右眼用の視差画像とをフィルムに同時に撮像することができる。しかし、単焦点レンズを採用した従来のステレオアダプタでは、図14の画像101、102に示したように、単焦点レンズの被写界深度に位置する被写体についてはピントの合った像Aが撮像されるが、その被写界深度から外れる被写体についてはピントのボケた像Bが撮像され、パンフォーカス性の高い視差画像を得ることが難しい。なお、ステレオアダプタに単焦点レンズを採用した場合、近距離から遠距離まで広くピントの合った視差画像を得るためには、例えば、絞りを閉じてF値を大きくすることも考えられる。しかしながら、この場合、光路の分離が適切になされず、左右の視差画像の中央接合部に黒い帯が出現することがある。また、深い被写界深度を得るためにF値を大きくすると、入射する光量が減少するため露出不足となり、動画像を撮像したり、速いシャッタースピードが求められる動きのある被写体を撮像したりするには不向きである。
【0011】
さらに、前述した特許文献1では、撮像素子の撮像面の領域(1フレーム分に相当する)を二分割し、分割された左領域と右領域とに左眼用の視差画像と右眼用の視差画像とが撮像される。このため、各視差画像は、通常(ステレオアダプタを用いない撮像)の場合に比べて、水平方向の大きさ(水平画角)が略半分の画像、すなわち、縦長タイプの画像となる。つまり、図14に示したように、左眼用視差画像101と右眼用視差画像102は、基準の通常画像100と比べると、水平画角が略半分(θ/2)となり、縦長の画像となってしまう。一般的に人間の視野角は、縦方向よりも横方向の方が広いため、横長の画像の方が迫力や臨場感が増加するが、特許文献1に記載のステレオアダプタでは、臨場感のある風景などを撮像した場合、横長タイプ(パノラマ型)の視差画像を生成することができなかった。
【0012】
本発明は前述した問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、パンフォーカス性の高いステレオ画像を生成することができるステレオ画像撮像装置を提供することである。さらに、本発明の他の目的は、撮像素子によって取得された左右の撮像画像を立体視に適するように改質することができるステレオ画像撮像装置を提供することである。また、本発明の目的は、ステレオ画像撮像装置において、立体視に適したパノラマタイプの視差画像を取得することができる光路分割のためのミラー機構を提供することである。加えて、携帯情報端末に適したミラー機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決するため、本発明のステレオ画像撮像装置は、撮像画像を取得する撮像素子と、立体視のための両眼視差を与える所定の基線長をもって入射された第1光路の光と第2光路の光とを前記撮像素子の撮像面に導く撮像光学系と、前記撮像素子によって撮像された撮像画像を処理する画像処理手段と、を備えるステレオ画像撮像装置において、前記撮像光学系は、第1の焦点距離をもつ第1レンズ部と前記第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離をもつ第2レンズ部とを少なくとも有する多焦点レンズ群として構成され、前記画像処理手段は、前記多焦点レンズ群を介して前記撮像素子によって撮像された、前記第1光路の光による第1撮像画像及び前記第2光路の光による第2撮像画像に基づいて、左眼用視差画像及び右眼用視差画像を生成することを特徴とする。
【0014】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記撮像面の光軸上に位置する点光源を遠距離撮像用の前記第2レンズ部によって結像した位置までの前記撮像面からの距離と、近距離撮像用の前記第1レンズ部によって物体側に結像した位置までの前記撮像面からの距離との比が100以下であることが好ましい。
【0015】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記画像処理手段は、改質フィルタによって前記第1及び第2撮像画像を改質して、前記第1レンズ部の被写界深度に相当する第1範囲、前記第2レンズの被写界深度に相当する第2範囲及び前記第1の範囲又は第2範囲より遠く前記第1及び第2範囲とは異なる第3範囲のボケの信号成分を補正して、左眼用視差画像及び右眼用視差画像を生成することが好ましい。
【0016】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記改質フィルタによる改質は、前記第3範囲の水平走査線上の信号を抽出し、フーリエ解析することによって得られた空間周波数の交流成分の累積値が、前記第1及び第2撮像画像に比べて、前記左眼用視差画像及び右眼用視差画像の方が大きくなることが好ましい。
【0017】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記改質フィルタは、前記第1及び第2レンズ部のうち、合焦のレンズ部を通る光による合焦のポイントスプレット関数と他方のレンズ部を通る光によるボケのポイントスプレット関数とを用いて求めた前記多焦点レンズ群の代表ポイントスプレット関数に基づいて構成されることが好ましい。
【0018】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記改質フィルタは、前記合焦のポイントスプレット関数と前記ボケのポイントスプレット関数との比を、前記第1レンズ部と前記第2レンズ部との面積比とは異なる比に設定されていることが好ましい。また、前記合焦のポイントスプレット関数の少なくも一部は、理想レンズのポイントスプレット関数が適用されることが好ましい。
【0019】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記画像処理手段は、前記左眼用視差画像と前記右眼用視差画像とを比較することによって、前記各視差画像における被写体のずれ量を検出し、前記検出されたずれ量に基づいて、光軸方向についての被写体の相対的な位置関係を特定することが好ましい。また、前記画像処理手段は、前記被写体の相対的な位置関係に基づいて、前記各撮像画像又は各視差画像に対して、合焦の領域とボケの領域とを設定し、前記設定された各領域に対して、異なる画像改質処理を実行することが好ましい。
【0020】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記画像処理手段は、選択された特定の被写体の領域、前記特定の被写体と略等距離にある被写体の領域、又は前記特定の被写体とそれより近い距離にある被写体の領域を前記合焦の領域に設定することが好ましい。また、前記特定の被写体は、観察者の視点の情報に基づいて選択されることが好ましい。また、前記特定の被写体は、観察者によって入力された被写体の輪郭の情報又は指定領域の情報に基づいて選択されることが好ましい。
【0021】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記第1光路の光及び第2光路の光を、前記撮像光学系を介してそれぞれ前記撮像素子の撮像面に導くことが可能に構成されたミラー機構を備え、前記第1レンズ部及び前記第2レンズ部は、直線状の境界線によって分割されており、前記ミラー機構による光路の分割方向と直交するように配置されることが好ましい。
【0022】
また、上記ステレオ画像撮像装置において、前記ミラー機構は、光を縦方向に分割して前記第1光路及び前記第2光路を形成することが好ましい。また、前記ミラー機構は、前記第1光路を前記撮像面に導くための内側及び外側ミラーを含む第1ミラー群と、前記第2光路を前記撮像面に導くための内側及び外側ミラーを含む第2ミラー群とを有し、前記各内側ミラーは、垂直方向について相互に段違いとなるように配置され、垂直方向に対してそれぞれ第1角度をもって傾斜し、前記各外側ミラーは、垂直方向に対してそれぞれ第2角度をもって傾斜することが好ましい。また、前記第1角度が前記第2角度より大きく、前記第1角度と前記第2角度との差が前記撮像面に対応する垂直画角の1/4であることが好ましい。さらに、前記撮像光学系の入射瞳は、光軸方向について、前記各外側ミラーの後端部より被写体側にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ステレオ画像撮像装置に多焦点レンズを採用したので、手前から奥まで広くピントの合ったパンフォーカス性の高い左眼用及び右眼用の視差画像を生成することができる。また、立体視のための視差画像に適した画像改質処理を実行することができる。各視差画像のずれ量を算出できるので、被写体グループのおおよその前後の距離関係を推定することができ、ステレオ画像において、観察者の視点のある特定の範囲を改質することができる。さらに、光路を上下に分割することができるミラー機構を備えるので、パノラマタイプの臨場感のあるステレオ画像を取得することができる。その他の効果については、発明を実施するための形態において述べる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態のミラー機構を採用したステレオ画像撮像装置の概略構成図
【図2】(A)(B)は、二焦点レンズ及び撮像素子の配置の一例を示す図
【図3】ステレオ画像の第1例の説明図
【図4】原画像の説明図
【図5】画像改質の様子を示す説明図
【図6】雑音低減の様子を示す説明図
【図7】画像再生処理を示すフローチャート
【図8】ずれ量検出処理の説明図
【図9】(A)(B)(C)は、本発明の実施形態のミラー機構の概略の上面構成図、正面構成図、側面構成図
【図10】(A)(B)は、ミラー機構における各ミラーの傾きと垂直方向の光路の一部の様子を示す説明図
【図11】(A)(B)は、二焦点レンズ及び撮像素子の配置の他の一例を示す図
【図12】ステレオ画像の第2例の説明図
【図13】本発明の実施形態の二眼式のステレオ画像撮像装置の概略構成図
【図14】従来のステレオアダプタによるステレオ画像の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0026】
本発明のステレオ画像撮像装置は、両眼視差を与えるための所定の基線長Dをもって入射された第1光路L1の光と第2光路L2の光とを用いて、被写体に対する左右の両眼視差があるステレオ画像(左眼用視差画像及び右眼用視差画像)を生成する装置であり、多焦点レンズ群として構成された撮像光学系を備えている。具体的なステレオ画像撮像装置としては、ミラー機構を採用したものでもよいし、二眼式のものであってもよい。
【0027】
本発明のステレオ画像撮像装置は、三次元コンテンツ(適当な手段によって立体視可能な静止画像データ、動画像データ)を撮像するためのカメラに適用することができる。本装置は、多焦点レンズを光学撮像系に採用したので、大きな絞り値(F値)を設定しなくてもパンフォーカス性の高い画像が得られる。このため、比較的高い露出で被写体を撮像することでき、特に動画像の撮像に好適である。また、本発明のステレオ画像撮像装置は、携帯電話、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、携帯型ゲーム機などの各種情報端末に搭載してもよい。なお、ミラー機構を脱着可能な構成としたり、二眼レンズの一方だけを使用可能な構成とすることにより、二次元画像の撮像と三次元画像の撮像とを切り換えられるようにすることもできる。
【0028】
図1は、ミラー機構を採用したステレオ画像撮像装置の一実施形態における概略構成図である。本実施形態のステレオ画像撮像装置1は、撮像光学系2、撮像素子4、画像処理手段6、ミラー機構8を備える。なお、本明細書では、説明のため、ステレオ画像撮像装置1は略水平に置かれているものとし、光軸L0を基準として、垂直方向(高さ方向)をX方向、水平方向(幅方向)をY方向とし、光軸L0の方向(奥行き方向)をZ方向とする。基線長Dの方向はY方向に平行である。基線長Dは、負担の少ない立体視のために、人間の瞳孔間間隔(約5〜6.5cm)に近い長さであることが好ましいが、本発明を適用する装置に応じて、より短い又は長い長さ(例えば、数mm〜1メートル)としてもよい。
【0029】
本発明の撮像光学系2は、多焦点レンズ群であり、対物側の合焦の距離に位置する被写体を撮像素子4の撮像面に結像する。以下、本明細書では、その説明において、撮像光学系2を単に多焦点レンズ群2と記載することもある。多焦点レンズ群2は、一枚の多焦点レンズ20によって構成されていてもよいし、半円レンズや多焦点レンズのように、部分的に焦点の異なるレンズを一枚又は複数枚と通常のレンズとを組み合わせたレンズ群25であってもよい。多焦点レンズ群2は、物体側について、第1の焦点距離をもつ第1レンズ部21と、第2の焦点距離をもつ第2レンズ部22とを少なくとも有する。以下、簡単のため、多焦点レンズ群2が一枚の多焦点レンズ20によって構成されるものとして扱い、多焦点レンズ20が第1レンズ部21と第2レンズ部22とを有すると説明するが、多焦点レンズ群2の構成はこれに限定されるものではない。第1レンズ部21は、光軸L0上の第1範囲にある被写体Aを撮像するのに適しており、第2レンズ部22は、第2範囲にある被写体Bを撮像するのに適している。第1範囲は第1レンズ部21の被写界深度に相当し、第2範囲は第2レンズ部22の被写界深度に相当する。なお、本明細書において、光軸L0上の第1範囲又は第2範囲よりも遠距離において、第1範囲及び第2範囲以外の任意の領域を第3範囲とする。図1においては、第1範囲と第2範囲との中間の範囲を第3範囲としている。
【0030】
例えば、第1レンズ部21を短い焦点距離を有する近距離撮像用のレンズとし、第2レンズ部22を長い焦点距離を有する遠距離撮像用のレンズとして構成してもよい。なお、多焦点レンズの構成はこれに限定されず、近距離撮像用のレンズと中距離撮像用のレンズとを組み合わせてもよいし、中距離撮像用のレンズと遠距離撮像用のレンズを組み合わせてもよい。つまり、本発明において使用される多焦点レンズ20は、焦点距離が互いに異なる第1レンズ部21と第2レンズ部22とを有していればよい。また、以下の実施形態においては、多焦点レンズ20として、特に二つの異なった焦点距離を有する二焦点レンズを中心として説明するが、三つ以上の異なった焦点距離を有するものとしてもよい。以下、多焦点レンズ20について、単に二焦点レンズ20と記載することもある。具体的な二焦点レンズ20の構成は後述する(図2及び図11参照)。
【0031】
また、本実施形態では、撮像光学系(多焦点レンズ群)2を固定焦点のレンズ群として構成したが、焦点距離を変化させることができるバリフォーカルレンズ又はズームレンズとして構成することもできる。なお、各レンズ部が有する焦点距離に応じて、第1〜3範囲に相当する距離範囲も異なるものとなる。第1範囲と第2範囲とは重ならないことが好ましいが、一部重畳していてもよい。
【0032】
二焦点レンズ20は、ミラー機構を採用した場合は、第1光路L1の光が入射される領域201と第2光路L2が入射される領域202とに分割されるが、第1レンズ部21及び第2レンズ部22が各領域に均等に分割されるように配置される。すなわち、領域201内の第1レンズ部21の面積と、領域202内の第1レンズ部21の面積とが等しくなり、領域201内の第2レンズ部22の面積と、領域202内の第2レンズ部22の面積とが等しくなるように配置される。例えば、半円形の第1レンズ部21及び第2レンズ部22からなる二焦点レンズ20の場合は、第1レンズ部21と第2レンズ部22との境界の方向が、ミラー機構による光の分割方向と直交するように配置される(図2及び図11(A)参照)。第1レンズ部21及び第2レンズ部22が同心円状に配置された二焦点レンズ20の場合は、二焦点レンズ20の中心を通れば何れの方向で分割されてもよい(図11(B)参照)。
【0033】
撮像素子4は、撮像光学系2を介して入射された光を電気信号に変換するセンサであり、所定の大きさの受光領域(撮像面)40を有する。撮像素子4としては、CMOS(Complementary Metal−oxide Semiconductor)センサ、CCD(CCD:Charge Coupled Device)センサ等を使用することができる。撮像面40には、立体視のための左右の視差画像を生成するために、第1光路L1の光が入射する第1撮像面41及び第2光路L2の光が入射する第2撮像面42が形成される。ミラー機構を採用したステレオ画像撮像装置では、第1撮像面41及び第2撮像面42の配置は、ミラー機構8による光路の分割方向と基本的には同じ方向に並行に配置される。撮像面40における第1撮像面41及び第2撮像面42の具体的な構成については、図2及び図11を用いて後述する。なお、図1においては、一つの撮像素子4の撮像面40を2分割して第1撮像面41及び第2撮像面42を設けているが、第1光路L1の光が入射する撮像素子と、第2光路L2の光が入射する撮像素子を設けて、それぞれの撮像素子の撮像面を第1撮像面41及び第2撮像面42としてもよい。
【0034】
画像処理手段6は、撮像素子4によって撮像された撮像画像51、52を信号として取得し、それらの撮像画像51、52に対して画像改質処理を施して、左眼用及び右眼用の視差画像61、62を出力する装置である。画像処理手段6のハードウェア的な構成については、例えば、特許文献2の図1又は図8に記載されたように、アナログ信号を増幅するフロントエンド、アナログ−デジタル変換のためのAD変換器、画像改質処理のための改質フィルタ部、画像信号を補正する補正部、デジタル−アナログ変換のためのDA変換器、及びこれらの各構成要素を制御する制御部などを含む構成とすることができる。
【0035】
ミラー機構8は、近距離被写体Aや遠距離被写体B(説明のため、点として示すが大きさを有するものである)から出た光を分割し、分割された光を撮像光学系2を介して撮像素子4の第1撮像面41と第2撮像面42とに導く機構である。ミラー機構8は、第1光路L1の光を導くための第1ミラー群81と、第2光路L2の光を導くための第2ミラー群82とを有する。第1ミラー群81は内側ミラー81aと外側ミラー81bとを含み、第2ミラー群82は内側ミラー82aと外側ミラー82bとを含む。ミラー機構8の具体的な構成としては、従来と同様に横方向(左右)に光を分割する方式や、図9及び図10を用いて後述するように縦方向(上下)に光を分割する方式等を使用することができる。ミラー機構8と撮像光学系2を近づけて配置すれば、小型化することが可能である。
【0036】
また、本実施形態のステレオ画像撮像装置によって生成された左眼用及び右眼用の視差画像は、図示しない表示装置に出力してもよい。表示装置としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどを使用することができる。表示装置が三次元表示対応であれば、観察者は裸眼で立体映像を観ることができる。また、適当なビューア(立体視用眼鏡)を使用して立体映像を観ることもできる。
【0037】
本発明のステレオ画像撮像装置は、ミラー機構を脱着可能な構成とし、二次元画像の撮像と三次元画像の撮像と切り換えられるようにすることもできる。また、簡易な操作によって、ミラーを折り畳むことができる構成としてもよい。
【0038】
以下、図1乃至図3を用いて、横方向(左右)に光路を分割したステレオ画像撮像装置の動作について詳細に説明する。
【0039】
図2は、横方向に光路を分割したステレオ画像撮像装置における二焦点レンズ及び撮像素子の配置の一例を示す図である。半円形の第1レンズ部21と半円形の第2レンズ部22とを有する二焦点レンズ20を使用した場合、二焦点レンズ20の中心が光軸上に位置し、且つ第1レンズ部21及び第2レンズ部22の配置がミラー機構8による光路の分割方向と直交するように、二焦点レンズ20は配置される。すなわち、図2に示すように、二焦点レンズ20は、光路の分割方向である横方向と直交するように、第1レンズ部21と第2レンズ部22とが上下に配置されている。また、撮像素子4は、二焦点レンズ20を含む撮像光学系2(図2では他のレンズについては省略する)の結像面に撮像面40が位置するように配置される。このため、撮像素子4の撮像面40は、光路の分割方向と同じく左右に分割され、水平画角が半分(θ/2)である第1撮像面41及び第2撮像面42が形成される。
【0040】
撮像面40の光軸L0上に位置する点光源P0を近距離撮像用の第1レンズ部21によって物体側に結像した位置P1までの撮像面40からの距離をA1、同じく遠距離撮像用の第2レンズ部22によって結像した位置P2までの撮像面40からの距離をA2とすると、A2/A1が100以下となるように多焦点レンズ群2の第1レンズ部21及び第2レンズ部22を設計することが好ましい。このように設計すると画像改質によって第1範囲と第2範囲の間の第3範囲においてもフォーカスを合わせることができるので、パンフォーカス性の高い画像を得ることができる。特に無限遠の被写体までパンフォーカス性を得るためには、遠距離撮像用の第2レンズ部22によって結像した位置P2が過焦点距離の位置となるように第2レンズ部22を設計することが好ましい。過焦点距離とは、被写界深度の最遠点が無限遠にまで拡がるように焦点合わせをした時の物体距離である。本実施形態では、撮像光学系(多焦点レンズ群)2を固定焦点のレンズ群として構成したが、焦点距離を変化させることができるバリフォーカルレンズ又はズームレンズとして構成してもよい。この場合、焦点距離を変更するとA2/A1の値も変わるが、A2/A1が100以下となる構成を含めば足りる。
【0041】
図2では、二つの半円形のレンズを組み合わせて円形の二焦点レンズを構成する例を説明したが、これに限定されず、半楕円形又は多角形の各レンズ部を組み合わせて、各レンズ部の配置が光路の分割方向と直交するように配置して構成してもよいし、同心円状の二焦点レンズ(この場合は、各レンズ部の配置は特に制限されない)を用いてもよい。
【0042】
近距離被写体Aや遠距離被写体Bから出た光の一部は、一点鎖線で示す第1光路L1に沿って、ミラー機構8の第1ミラー群81の開口に入射し、他の一部は、二点鎖線で示す第2光路L2に沿って、ミラー機構8の第2ミラー群の開口に入射する。第1ミラー群81の開口から入射した光は、外側ミラー81bに反射され、次いで、内側ミラー81aで反射され、二焦点レンズ20の領域201を含む撮像光学系2に入射する。そして、撮像光学系2を介して、撮像素子4の第1撮像面41に収束する。第2ミラー群82の開口から入射した光も、同様にして、外側ミラー82b及び内側ミラー82aで反射され、二焦点レンズ20の領域202を含む撮像光学系2によって、撮像素子4の第2撮像面42に収束する。第1撮像面41及び第2撮像面42において収束した光は、電気信号に変換され、それぞれ、第1撮像画像51及び第2撮像画像52として画像処理手段6に出力される。
【0043】
図3は、横方向に分割したステレオ画像の説明図である。光路を左右に分割するミラー機構を用いた場合、撮像面40が左右に二等分されて、通常の水平画角の半分(θ/2)となる縦長の第1撮像面41と第2撮像面42とが形成される(図2参照)。このため、図3に示すとおり、撮像される撮像画像51、52は縦長の形状(水平画角θ/2)となる。第1撮像面41及び第2撮像面42には、二焦点レンズ20のうちの第1レンズ部21を通過した光と第2レンズ部22を通過した光とが収束する。このため、第1撮像画像51は、第1レンズ部21により形成される近距離にピントの合った画像成分51aと第2レンズ部22により形成される遠距離にピントの合った信号成分51bとを重ね合わせた信号となる。第2撮像画像52も同様に信号成分52aと信号成分52bとを重ね合わせた信号となる。
【0044】
各撮像画像は、画像処理手段6によって、画像改質処理が施され、手前の被写体から奥の被写体まで広くピントの合ったパンフォーカス性の高い左眼用視差画像61及び右眼用視差画像62(水平画角θ/2)として出力される。画像改質処理の詳細については、図4〜図6を用いて後述する。
【0045】
そして、左眼用視差画像61及び右眼用視差画像62は適用な表示装置によって表示される。観察者は、裸眼で又は適当なビューアを用いて、これらを立体画像70として認識することができる。
【0046】
以下、本発明の画像改質処理について説明する。本発明では、二焦点レンズを撮像装置に採用したので、前述したとおり、撮像画像には、第1範囲(近距離)にピントの合った信号成分と、第2範囲(遠距離)にピントの合った信号成分と、いずれの範囲にもピントの合っていないボケの信号成分とが含まれる。このため、そのままでは、合成された画像は不鮮明なものであるので、適当な画像改質処理を実行する必要がある。画像改質処理については、特許文献2に記載された画像改質処理方法(図1、4、5、6、11)を利用することもできるが、さらに雑音対策を施した画像改質処理方法を利用することが好ましい。なお、ステレオ画像撮像装置は、複数の画像改質処理方法の中から画像改質処理方法をユーザーに選択させるように構成されていてもよい。
【0047】
特許文献2には、デジタルフィルタなどで構成される改質フィルタ部が、撮像素子から出力されたピントのあった像成分とピントのボケた像成分を含む撮像画像のうち、ピントのボケた像成分を除去し、ピントの合った像成分を抽出することが記載されている。この改質フィルタ部は、改質フィルタ係数列を算出する改質フィルタ係数算出部を含むものである。改質フィルタ係数算出部は、多焦点レンズ(二焦点レンズ)から所定の距離に配置された被写体に対する多焦点レンズのポイントスプレッド関数(以下、単に「PSF」ともいう)に基づいて、多焦点レンズの伝達関数を算出し、この伝達関数の逆関数に対して逆フーリエ変換(Fourier transform:FT)又は逆高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)等を実行し、逆関数の係数列、すなわち、改質フィルタ係数列を算出する。多焦点レンズと改質フィルタ部との縦続接続による伝達特性は1となるので、この結果、改質フィルタ部を通った出力画像は被写体像と等しくなり、多焦点レンズにより生じたピントのボケた成分を除去したことと等しくなる。
【0048】
なお、多焦点レンズ(二焦点レンズ)の伝達関数(以下「代表PSF」という)は、一般的には、多焦点レンズを構成する第1及び第2レンズ部のうちのいずれか一方を合焦のレンズ部、他方をボケのレンズ部とし、合焦のレンズ部を通る光によるポイントスプレット関数(以下「合焦PSF」という)を「PSF_F」、ボケのレンズ部を通る光によるポイントスプレット関数(以下「ボケPSF」という)を「PSF_B」とし、合焦のレンズ部の光の量(%)を「Φf」、ボケのレンズ部の光の量(%)を「Φb」とすると、以下の式のように表わされる。
PSF_Double=Φf×PSF_F+Φb×PSF_B・・・(1)
【0049】
Φf及びΦbは、合焦のレンズ部とボケのレンズ部を通る光の量を それぞれ「Lf」「Lb」とし、全体の光の量は「L」=Lf+Lbとすると、以下のように示される。
Φf=Lf/L、 Φb=Lb/L・・・(2)
【0050】
式(1)(2)によれば、二焦点レンズを通る光の総量が1になるように正規化されているので、二焦点レンズの伝達関数(代表PSF)「PSF_Double」は光の量に依存しない。
【0051】
また、通常の二焦点レンズにおいて、第1レンズ部と第2レンズ部とは略等しい面積をもって構成されるので、第1レンズ部と第2レンズ部との面積比は50%:50%であり、すなわち、各レンズ部を通る光の量の比も50%:50%となる。すなわち、以下の式に示すとおり、代表PSFは、合焦PSFとボケPSFとを50%:50%の比率で含むものとなる。
PSF_Double=0.5×PSF_F+0.5×PSF_B・・・(3)
【0052】
このようにして求めた「PSF_Double」が多焦点レンズの伝達関数であり、前述した特許文献2に記載の撮像装置では、この伝達関数の逆関数に対して逆FT又は逆FFT等を実行し、逆関数の係数列、すなわち、改質フィルタ係数列を算出した。なお、特許文献2に記載の撮像装置では、二焦点レンズを構成する第1レンズ部と第2レンズ部とが等しく半円形であり、それぞれの合焦点に点光源を配置した場合、撮像素子上には、それぞれ同様のピントのあった像とピントのボケた像が投射され、第1レンズ部の焦点位置に対する合焦PSF及びボケPSFと、第2レンズ部の焦点位置に対する合焦PSF及びボケPSFとが近い特性の関数となる。このため、代表PSFによれば、第1レンズ部又は第2レンズ部のいずれを介して結像されたボケ像であっても、その信号成分が改質されるのである。
【0053】
前述した画像改質処理によれば、第1範囲及び第2範囲にある被写体に対応する信号成分が改質されるばかりでなく、第3範囲にある被写体に対応する信号成分もかなり向上することが本願の出願人による実験によって確かめられた。これは、第1及び第2範囲のピントの合った各信号成分を合わせることによって、情報量が増え、第3範囲において、コントラストと色の変調度が上昇し、ボケの信号成分が補正されるためと考えられる。
【0054】
しかしながら、従来のとおり、50%:50%の比率を用いた二焦点レンズの伝達関数(代表PSF)に基づいて改質フィルタ係数列を求め、その改質フィルタ係数列によって改質処理を実行すると、撮像素子上での処理に起因し入射した光の信号とは異なる雑音であるランダム雑音までも強調し、増大させてしまうことがあった。特に、撮像条件が悪い場合(例えば、照度不足のため露出が低くなる場合など)には、ランダム雑音が増大する問題が顕著であり、立体視に好ましくない影響を与える。本発明の画像改質処理では、画像の鮮明度とランダム雑音とのバランスを考慮して、二焦点レンズの代表PSFの設定を変更し、立体視のためのステレオ画像に適した改質フィルタを構成する。以下、従来の代表PSFの設定に基づいて構成される改質フィルタを標準改質フィルタと呼称し、雑音対策を施した改質フィルタと区別する。
【0055】
本実施形態の雑音対策の改質フィルタ(以下「第1改質フィルタ」という)は、合焦PSFとボケPSFとの比率を第1レンズ部と第2レンズ部との面積比とは異なる比に設定した代表PSFに基づいて構成される。特に雑音対策としては、合焦PSFの比率をボケPSFの比率よりも大きくすることが好ましい。例えば、合焦PSFを60%(Φf=0.6)とし、ボケPSFを40%(Φb=0.4)に設定して、代表PSFを定めた。標準改質フィルタでは、改質フィルタ(特許文献2の図5の垂直v×水平hタップ改質フィルタ331)の中央部の3×3のマトリクスの各係数は、例えば、-0.003、−0.003、−0.003、−0.003、+2.000、−0.003、−0.003、−0.003、−0.003に設定されるところ、本実施形態の第1の雑音対策の改質フィルタでは、対応するマトリクスの係数は、−0.0025、−0.0025、−0.0025、−0.0025、+1.6644、−0.0025、−0.0025、−0.0025、−0.0025に設定される。この第1改質フィルタによれば、標準改質フィルタに比べて、ランダム雑音を約1dB低減させることができる(図6参照)。
【0056】
厳密にいえば、レンズには収差があり、光が一点に集まらないので、ある広がりを持つ。すなわち、合焦PSFには小さなボケが含まれる。よって、合焦PSFの全部又は一部に収差のない理想的なレンズのPSF(以下「理想PSF」という)「PSF_Δ」を適用して、改質フィルタを構成することもできる。
【0057】
そこで、本実施形態の雑音対策の改質フィルタ(以下「第2改質フィルタ」という)は、合焦PSFの一部又は全部を理想PSFを用いた代表PSFに基づいて構成される。標準改質フィルタは、実際のレンズ設計の際に計算されたPSF値を使用して、レンズの性能に合うように構成されるが、第2改質フィルタは、合焦のPSF値の一部又は全部に、理想レンズのPSF値を適用した。例えば、理想PSFの比率とボケPSFの比率を50%:50%として代表PSFを求めた。この第2改質フィルタによれば、標準改質フィルタに比べて、ランダム雑音を約3dB低減させることができる(図6参照)。
【0058】
なお、第1改質フィルタ及び第2改質フィルタを組み合わせてもよい。例えば、理想PSFを40%、合焦PSFを20%、ボケPSF量を40%として代表PSFを求めたり、理想PSFを60%、ボケPSF量を40%として代表PSFを求めたりしてもよい。
【0059】
図4は、公園において第1範囲(手前、近距離)から第3範囲(中間距離)を経て第2範囲(奥、遠距離)までを撮像した風景画像(以下「原画像」という)である。図4の原画像は、近接被写体に適した約300mmの距離に合焦するレンズによって撮像された画像(第1範囲(被写界深度):292mm〜310mm)と、10mに合焦するレンズによって撮像された画像(第2範囲(被写界深度):5m〜無縁遠)とを合成したものである。この原画像は、300mmと無限遠とに合焦する二焦点レンズにより撮像された画像とほぼ同等の特徴量などを有する。原画像の縦サイズは1148画像、横サイズは1528画素である。図4では、上から第530行、第620行、第710行、第800行及び第890行の水平走査線の位置が示されており、これらの90行毎の行は、各々、カメラから被写体までの距離2100mm、1200mm、700mm、450mm、350mmに相当し、第3範囲(中間距離)に含まれる。
【0060】
図5は、図4の原画像に示された各水平走査線の信号の空間周波数の交流成分を示すものであり、原画像の空間周波数の交流成分、標準改質フィルタによる画像改質処理の結果、第1改質フィルタによる画像改質処理の結果を示す。図5の横軸は、図4に示した原画像の水平走査線の位置に対応し、被写体までの距離に相当する。縦軸は、各水平走査線の信号パワーを示す空間周波数の交流成分である。ここでは、画像の画質を評価するための指標として、空間周波数の交流成分を以下のように算出した。まず、原画像の各水平走査線上の信号を抽出し、これらをフーリエ解析することによって、sin信号の重ね合わせである空間周波数を算出する。次に、空間周波数成分について周波数0(直流成分)を除いた交流成分を積分して、交流成分の累積値を算出する。この交流成分の累積値は、信号の画質や鮮明度に対応するものであり、これを比較することにより、信号の改質レベルを評価する指標とすることができる。
【0061】
図5の一番下の線は、原画像の信号の交流成分であり、四角印を結んだ線は、標準改質フィルタによって画像改質処理された信号の交流成分である。このように、標準改質フィルタによれば、中間距離についても信号を改質することができる。すなわち、この画像改質処理によると、ボケた信号成分が取り除かれるので、ピントのあった信号成分(例えば、図3の51a、51b)が抽出され、中間距離にある信号成分も補正されて、近距離から遠距離まで広くピントのあったパンフォーカス性の高い画像を生成することができる。
【0062】
図5の三角印で結んだ線は、第1改質フィルタによって画像改質処理された信号の交流成分である。図5に示したように、合焦PSFとボケPSFとの比を60%:40%とすると、信号の改質レベルはやや下がる。しかし、ランダム雑音については約1dB低減させることができた(図6参照)。
【0063】
図6は、標準改質フィルタ及び第1、第2改質フィルタによる画像改質処理における画像改質の結果の一覧である。図6では、画像の鮮明度を評価するための評価用チャートを用い、これを上下分割型の二焦点レンズ使用のカメラによって撮像した。評価用チャートは、複数の黒色線が放射状に配された楔形パターンを配置したチャートである。本実験では、評価用チャートとして、テレビの画質を評価したり、印刷物の歪を調整したりするために用いられるテストチャート(レジストレーションチャート)と同様に、二つの楔形パターン(9本)を縦方向と横方向に配した構成のものを用いた。また、画像の鮮明度を評価する指標として、レスポンス関数(MTF:Modulation Transfer Function)を用いた。MTFの測定方法としては、コントラスト測定法(矩形波チャート法)、フーリエ変換法(スリット法)などがある。本実験では、評価用チャートに対して、標準改質フィルタ、第1改質フィルタ、第2改質フィルタによる画像改質処理を実行し、各処理後の評価用チャートにおいて、コントラスト測定法によりMTFを算出し、処理前の評価用チャートを基準として、雑音レベルを算出した。コントラスト測定法では、楔形パターンの黒色部による最大信号値と最小信号値との差を算出し、その差と白色部分の信号値とを比較した。
【0064】
画像改質処理前の評価用チャートでは、MTFは16%であり、雑音レベルは基準の0dBである。標準改質フィルタによる画像改質処理では、MTFは83%に向上するが、雑音レベルも未処理の評価用チャートに比べて5.1dBに増大する。
【0065】
第1改質フィルタ(合焦PSFとボケPSFとの比60%:40%)による画像改質処理では、MTFは標準改質フィルタの83%に比べると78%に低下したが、雑音レベルは標準改質フィルタの5.1に比べて約1dB低減することができた。また、第2改質フィルタ(理想PSFとボケPSFとの比50%:50%)による画像改質処理では、MTFは標準改質フィルタの83%に比べると72%に低下したが、雑音レベルは標準改質フィルタの5.1に比べて約3dB低減することができた。
【0066】
このように、第1及び第2改質フィルタを用いた画像改質処理によれば、標準改質フィルタに比べて、改質レベルが低下するものの、立体視に好ましくないランダム雑音を低減することができる。
【0067】
以上説明したとおり、標準改質フィルタを用いた画像改質処理によれば、二焦点レンズを構成する各レンズ部のいずれにもピントが合わない範囲についても画質を改質することができるので、立体視に適したパンフォーカス性の高い視差画像を生成することができる。また、二焦点レンズの代表PSFの設定を変更し、改質フィルタの係数列が変更された改質フィルタを構成することによって、雑音を低減させることができ、ギラツキの少ない視差画像を生成することができる。
【0068】
さらに、本発明では、左右二つの視差画像を取得するので、これらの視差画像を相関させて画像を改質したり、画像の表示を変更したりすることも可能である。例えば、左右の視差画像を比較して、ノイズを減らし鮮明度を上げることができる。
【0069】
左右の視差画像は、別々に画像改質処理がなされたものであるので、ノイズの性質も異なる。一方の視差画像のみにノイズが含まれる場合、観察者の立体視に好ましくない影響を与えることがあるので、ノイズを特定して除去することもできる。具体的には、例えば、いずれか一方の視差画像にノイズと思われる信号が含まれる場合、その信号が含まれる領域を特定し、特定された領域と特定された領域に対応する他方の視差画像における領域とを比較する。そして、対応する他方の視差画像における領域に同様の信号が含まれていなければ、ノイズと判定することができ、そのノイズを除去することができる。
【0070】
また、表示された左右の視差画像のずれ量を利用して、観察者の観察対象を特定したり、画像における被写体の相対的な位置関係や距離を特定することができる。さらに、観察者の視点に合わせて視差画像を改質して表示することも可能である。
【0071】
図7は、本発明の画像表示処理を示すフローチャートである。はじめに、ステップ701において、画像処理手段6は、撮像素子4から出力された各撮像画像51、52を取得し、取得した各撮像画像51、52に対して、前述した標準改質フィルタ、第1改質フィルタ、第2改質フィルタ等を用いて、画像改質処理を実行し、パンフォーカス性の高い各視差画像61、62を生成する。通常のステレオ画像を表示するには、各視差画像61、62を右眼用表示手段と左眼用表示手段を用いて表示すればよい。ステップ702〜706は、ずれ量を利用した位置関係の特定及び画像改質処理に関するものである。なお、画像処理手段6は、各種データやプログラムを格納するメモリを含む記憶部、プロセッサを含む制御部などを備え、ハードウェアとプログラムとを協働させて、図7の各ステップの処理を実現可能なように構成される。
【0072】
また、画像処理手段6は、ステップ701ほかのステップにおいて、図示しない適当な表示装置において、生成した各視差画像61、62の少なくとも一方を表示装置において二次元画像として再生してもよい。
【0073】
ステップ702において、画像処理手段6は、視差画像における特定の被写体又は被写体を含む領域を選択する。特定の被写体とは、例えば、観察者の視点が向いている被写体である。この場合、画像処理手段6は、観察者の視点の情報を取得し、取得した視点の情報に基づいて、観察者が観察している被写体を特定してもよい。観察者の視点の情報は、図示しないカメラが観察者の目の動き(視線、輻輳角、運動など)を追跡すること等によって得られる。さらに、画像処理手段6が、単に画像中央付近を視点のある領域と仮定して、この領域を選択してもよいし、周知の画像認識技術を用いて、特徴のある部分(例えば、人間の顔など)の輪郭を抽出して輪郭によって切り取られる領域を選択することもできる。
【0074】
また、画像再生手段により視差画像の一方が再生されているので、画像処理手段6は、再生された視差画像において観察者が指定した被写体又は被写体を含む領域の情報を取得して、取得した領域を特定の領域として選択することもできる。特に、本発明のステレオ画像撮像装置がタッチパネルセンサを備える情報端末(例えば、スマートフォンなど)に搭載される場合に、観察者が立体視したい被写体の輪郭をなぞることで直感的に操作できるため好適である。画像処理手段6は、この輪郭の情報を取得してそのまま特定の領域を選択してもよいし、観察者によってなぞられた大まかな輪郭の領域又は大まかな円・半円などの指定領域に対して、周知の画像認識技術を適用し、より正確に被写体の輪郭を取り出してもよい。
【0075】
ステップ703において、画像処理手段6は、各視差画像61、62のずれ量を検出する。以下、ずれ量を検出する処理について説明する。
【0076】
図8は、ずれ量検出処理の説明図である。左右の視差画像61、62には、近距離被写体A、中距離被写体C及び遠距被写体Bが含まれる。各視差画像は、所定の基線長Dをもって撮像されたものであるので、対応する被写体の間には、その被写体が位置する奥行き方向(Z方向)の距離に応じて、幅方向(Y方向)にずれが生じる。図7のステップ703では、各視差画像を重ね合わせた画像63を用い、画像解析によって、被写体Aのずれ量ΔY1、被写体Bのずれ量ΔY2、被写体Cのずれ量ΔY3を検出することができる。検出したずれ量は、撮像光学系から被写体の実際の位置までの距離に対応する。
【0077】
また、画像64に示したとおり、ステップ702において選択された観察者の視点のある特定の被写体を基準として、その特定の被写体の輪郭を重ねて合わせるように、左右の視差画像61、62をスライドさせてもよい。この場合、重ねられた特定の被写体の変調度は高くなり、その特定の被写体に対しZ方向ついて前後にある被写体については変調度が低くなるので、変調度の相違に基づいてずれ量を検出することもできる。
【0078】
図7のステップ704において、画像処理手段6は、検出したずれ量に基づいて、画像中の被写体の相対的な位置関係を特定する。具体的には、各被写体のずれ量の大きさを比較し、ずれ量の大きい被写体ほど近距離にあると判定し、ずれ量の小さい被写体ほど遠距離にあると判定して、各被写体のZ方向に関する相対的な位置関係を特定することができる。また、視点のある特定の被写体を重ねる場合、そのずれ量は0となり、その他の領域においてずれ量が0の被写体があれば、それも同距離にあると判定できるし、その他のずれ量のある被写体は、特定の被写体の手前又は奥のいずれかにあると判定できる。
【0079】
ステップ705において、画像処理手段6は、ステップ702で選択された特定の被写体を含む領域を合焦の領域に設定し、合焦の領域以外をボケの領域に設定する。この場合、特定の被写体ばかりでなく、特定の被写体と等距離にある被写体を含む領域や特定の被写体よりも近距離の領域なども合焦の領域に設定してもよい。
【0080】
ステップ706において、画像処理手段6は、画像再生処理を実行する。例えば、改質処理後の視差画像において、合焦の領域については、改質された画素データ(改質成分)をそのまま用い、ボケの領域については、撮像画像中のボケを含んだ画像データ(ボケ成分)を重ねて、視点のある特定の被写体以外をぼかした状態で左右の視差画像を表示装置に表示する。また、ステップ705において、合焦の領域とボケの領域を特定しているので、例えば、改質処理前の撮像画像を用いて、合焦の領域に改質処理を施して、視差画像を生成し、生成された左右の視差画像を表示装置に表示してもよい。また、改質処理後の視差画像における合焦の領域と改質処理前の撮像画像におけるボケの領域とを適宜組み合わせて、左右の視差画像を表示装置に表示してもよい。すなわち、二焦点レンズによって取得したボケ成分を利用して、特定の被写体以外の領域をボケさせることができればよい。これによって、観察者の視点のある被写体又は所定の領域のみにピントの合った視差画像を生成し、左右の視差画像を再生することができる。さらに、観察者の視点が移動した場合、ステップ702〜705と同様に、移動した先の被写体を新たな合焦の領域に設定し、合焦の領域の画像を改質し、その他の領域をボケさせた画像を表示することが好ましい。
【0081】
三次元用の当該コンテンツが連続するフレームからなる動画像である場合、画像処理手段6は、ステップ707において、処理すべき次のフレーム(視差画像)があるか否か判定し、次のフレームがある場合(Yes)は、ステップ701の処理を実行し、次のフレームがない場合(No)は、処理を終了する。
【0082】
なお、図7に示したフローチャートは単なる例示であり、各ステップの処理順序は、これに限定されず、必要に応じて適宜入れ替えてもよい。また、再生の形態(動画コンテンツ、静止画コンテンツ)に応じて、一部の処理を省略したり、他の処理に置き換えてもよい。例えば、動画コンテンツであれば、同様の場面が数十フレーム分続くこともあるので、ステップ702において、一度、特定の被写体が選択されたら、大きく場面が変わるまでは、主に観察対象となる特定の被写体は変更されないと判断し、その後のステップ702を省略してもよい。また、動画コンテンツではフレームが連続的に再生され、観察者の視点を連続的に追跡しなければならないので、ステップ702で利用する観察者の視点の情報は、一つ前に再生されたフレーム(一つ前のループのステップ706)の中で特定した観察者の視点の情報を利用することもできる。また、観察者の視点が短い間隔で上下左右に大きく移動する場合、観察者が映像酔いに陥る虞があるため、ステップ706における特定の被写体を浮かび上がらせて再生する処理を中止して、代わりに、通常のパンフォーカス性の高い改質処理後の視差画像を再生してもよい。また、本フローチャートでは、改質処理後の各視差画像のずれ量に基づいて被写体の相対的な位置関係を特定したが、基線長に基づいて三角測量を利用して撮像光学系から被写体までの距離を推定してもよい。なお、三次元の動画像を表示する場合は、計算の負荷を低減するため、実際の距離を算出するのではなく、ずれ量を利用して相対的な位置関係のみを推定することが好ましい。
【0083】
なお、改質処理前の各撮像画像の特徴量に基づいて被写体の相対的な位置関係や距離を推定してもよい。例えば、画像処理手段6は、ステップ701、703では、被写体の輪郭が鮮明な改質処理後の視差画像を用いたが、改質処理後の視差画像の代わりに、改質処理前の撮像画像信号を取得し、取得した撮像画像信号から、線画抽出法又は有限要素法などの画像を細分化する方法を用いて要素画素を切り出し、その要素画素の平均位置(距離)を計算してもよい。
【0084】
また、本実施形態では、画像撮像装置の画像処理手段6が特定の被写体に合焦する左右の視差画像を生成し、生成された左右の視差画像を表示装置において再生すると説明したが、画像処理手段6とは異なる処理手段、例えば画像表示装置の画像処理手段によって、図7に示した各処理を実現してもよい。また、画像処理手段6は、特定の被写体に合焦する左右の視差画像を生成した後は、左右の視差画像を表示装置に出力し、表示装置が取得した視差画像の表示処理を実行する構成としてもよい。
【0085】
以上説明したとおり、本発明によれば、視差画像又は撮像画像から画像中の被写体の相対的な位置関係を推定することができるので、所望の距離にある被写体にピントを合わせたり、ぼかしたりすることができる。つまり、立体視のための視差画像において観察者の視点のある範囲を浮かび上がらせるような処理が可能である。また、観察者の視点を連続的に追跡することによって、観察対象の被写体にピントがあった視差画像を連続的に再生することができる。また、視点を誘導するためにピントの合った範囲を場面に応じて変更する処理も可能である。特に本発明では、多焦点レンズで得られた撮像画像には、距離に依存する自然なボケ画像の情報があるので、このボケ画像を利用することにより、画像処理のアプリケーションによる一様なボケ加工とは異なり、自然なボケを表現することができる。
【0086】
以上の実施形態では、光路を横方向に分割したステレオ画像撮像装置について説明したが、光路を縦方向(上下)に分割することもできる。以下、図9及び図10を用いて、光路を縦方向に分割するステレオ画像撮像装置のミラー機構について説明し、その後、図11を用いて、撮像手段及び二焦点レンズの配置を説明し、さらに図12を用いて撮像される画像について説明する。なお、図9及び図10のミラー機構は、単焦点レンズを用いてもステレオ画像を撮像することができる。また、図4〜図8において説明した各種処理については、光路を横方向に分割する方式のステレオ画像撮像装置に適用することもできるし、以下に説明する光路を縦方向に分割する方式のステレオ画像撮像装置にも適用することができる。また、図13に示す二眼式のステレオ画像撮像装置にも適用することができる。
【0087】
図9(A)(B)(C)は、本実施形態のミラー機構の概略の上面構成図、正面構成図、側面構成図である。図9(A)には、水平方向の光路の一部が示されている。ミラー機構8は、第1光路L1を第1撮像面41に導くための第1ミラー群81と、第2光路L2を第2撮像面に導くための第2ミラー群とを備える。第1ミラー群81は、内側ミラー81aと外側ミラー81bとを含み、第2ミラー群82は、内側ミラー82aと外側ミラー82bとを含む。なお、各ミラーは、光路を上下方向に振り分けるために、図10に示すように、垂直方向(X方向)について所定の角度をもって傾けて配置されているが、図9では簡略化のためその傾きを省略して図示している。
【0088】
図9(A)に示すように、第1ミラー群81と第2ミラー群82とは、撮像光学系2の光軸に対して対称となるように配置される。また、各ミラー群において、内側ミラーの上端部と外側ミラーの上端部とが略平行となるように配置される。図9(B)に示すように、第1ミラー群81と第2ミラー群82との少なくとも一部は上下に段違いに配置される。図9(C)に示すように、本実施形態のミラー機構は、内側ミラー81a、82bの後端部(Z方向の手前)と外側ミラーの後端部(Z方向の手前)との間に撮像光学系2の入射瞳Pが位置するように構成することが好ましい。つまり、内側ミラーの後端部を外側ミラーの後端部よりも被写体側に引っ込めて配置することができ、入射瞳Pをミラー機構にできるだけ近づけるように構成することができる。このように、入射瞳Pをミラーに近づけることによってミラー機構を小型化することができ、携帯情報端末に搭載するのに好適である。しかし、入射瞳Pをミラーに近づけすぎると、光路を分離することができず、視差画像に蹴られ(被写体の情報を持たない黒い画素領域)が生じることがある。
【0089】
従来のステレオアダプタでは水平画角が半分(θ/2)となるところ、本実施形態のミラー機構では、図9(A)に示したように、各ミラー群を上下に段違いに配置したので、水平画角θのステレオ画像を取得することができる。
【0090】
図9(A)を参照すると、例えば、光路L21の光(二点鎖線で示す)が第2ミラー機構の開口を介して入射されると、その光は、外側ミラー82bによって反射され、その反射した光は内側ミラー82aによって反射され、入射瞳Pに到達する。一方、光路L22の光(長破線で示す)が第2ミラー機構の開口を介して入射されると、外側ミラー82bによって反射され、その反射した光は内側ミラー82aによって反射され、入射瞳Pに到達する。この場合、入射瞳Pからの光路の拡がり、すなわち、水平画角はθである。説明のため、光路L21と光路L22との延長線との交点を仮想の入射瞳P´(入射瞳Pが仮想的に移動したもの)とする。仮想の入射瞳P´からの光路の拡がりはθで示される。
【0091】
図10(A)は、ミラー機構における第1ミラー群81の傾きを示す説明図であり、図9(A)に示したS1断面を入射瞳Pから観た図である。図10(B)は、第2ミラー群の垂直方向の傾きを示す説明図であり、図9(A)に示したS2断面を入射瞳Pから観た図である。はじめに、第2ミラー群82の内側ミラー82aは、その下端が入射瞳Pに近づく方向に垂直方向に対して角度αをもって傾斜して配置される。また、外側ミラー82bは、その上端が入射瞳Pに近づく方向に垂直方向に対して角度βをもって傾斜して配置される。同様にして、第1ミラー群81の内側ミラー81a及び外側ミラー81bも、それぞれ、垂直方向に対して角度α、βをもって傾斜して配置される。
【0092】
また、図10(B)は、ミラー機構における垂直方向の光路の一部の様子を模式的に示す。本実施形態のミラー機構は、各ミラーが傾斜をもって配置されているため、光路によって光学距離が異なり、各ミラーの上側と下側とで二つの反射点が生じる。具体的には、上側の光路L21の光(二点鎖線)が第2ミラー群82に入射すると、まず外側ミラー82bの上側の反射点1で反射され、次いで、内側ミラー82aの上側の反射点2で反射され、入射瞳Pに入射する。
【0093】
また、下側の光路L22の光(長鎖線)が第2ミラー群82に入射すると、まず外側ミラー82bの下側の反射点3で反射され、次いで、内側ミラー82aの下側の反射点4で反射され、入射瞳Pに入射する。各ミラーは相互に異なる角度α、βをもって配置されており、すなわち、相対的な角度差|α-β|があるので、外側及び内側ミラーによって反射する各光路の光は、|α-β|の2倍だけ、入射角が変わる。したがって、例えば、|α-β|=4°と設定され、上側光路L21の光が光軸L0に対して約+8°の角度で入射し、下側光路L22の光が光軸L0に対して約−8°の角度で入射する場合、各光は外側及び内側ミラーによって反射されると、光路L21の光は0°で入射瞳Pに入射し、光路L22の光は−16°で入射瞳Pに入射する。
【0094】
このように、垂直画角φ/2(例えば16°)自体の大きさは変わらないが、第2ミラー群82によって、下向き−8°から上向き+8°の垂直画角の範囲は、下向き−16°から0°に変更される。同様にして、第2ミラー群82とは少なくとも一部が段違いに配置された第1ミラー群81によって、下向き−8°から上向き+8°の垂直画角の範囲は、上向き16°から0°に変更される。なお、説明のため、光路L21の延長線と光路L22の延長線との交点を仮想の入射瞳P´とし、仮想の入射瞳P´からの垂直方向への光路の拡がりの角度、すなわち、垂直画角をφ/2と示す。
【0095】
図11(A)(B)は、縦方向に光路を分割したステレオ画像撮像装置における二焦点レンズ及び撮像素子の配置の一例を示す図である。半円形の第1レンズ部21と半円形の第2レンズ部22とを有する二焦点レンズ20を使用した場合、二焦点レンズ20の中心が光軸上に位置し、且つ第1レンズ部21及び第2レンズ部22の配置がミラー機構8による光路の分割方向と直交するように、二焦点レンズ20は配置される。すなわち、図11(A)に示すように、二焦点レンズ20は、光路の分割方向である縦方向と直交するように、第1レンズ部21と第2レンズ部22とが左右に配置されている。また、撮像素子4は、中心が光軸上に位置し、且つ、撮像素子4の撮像面40が、二焦点レンズ20を含む撮像光学系2(図11では他のレンズについては省略する)の結像面に位置するように配置される。このため、撮像素子4の撮像面40は、光路の分割方向と同じく上下に分割され、垂直画角が半分(φ/2)である第1撮像面41及び第2撮像面42が形成される。なお、図11(A)では、二つの半円形のレンズを組み合わせて円形の二焦点レンズを構成する例を説明したが、これに限定されず、半楕円形又は多角形の各レンズ部を組み合わせて、境界が光路の分割方向と直交するように配置して構成してもよい。
【0096】
なお、二焦点レンズとして、図11(B)に示すような円形の第1レンズ部21と、円環状(ドーナツ型)の第2レンズ部22とを用い、各レンズ部の光軸が一致する同心円状のものを採用すれば、光路の分割方向によって制約されない。さらに、多角形や楕円形の第1レンズ部21を内側に配して、その外側に、同様の形状の内縁(及び外縁)を有する環状の第2レンズ部22を配してもよい。多角形の角部は丸みを有する形状であってもよい。また、第1レンズ部21と第2レンズ部22との配置を逆にしてもよい。
【0097】
また、例えば、第2光路L2の光は、ミラー機構8において少なくとも一部が段違いの下側に配置された第2ミラー群82(図9参照)によって、第1レンズ部21と第2レンズ部22とを含む二焦点レンズ20の下部半面202を介して、第2撮像面42に収束される。よって、第2撮像面42からは、第2撮像画像52が、二焦点レンズ20下部半面201の第1レンズ部21を通った近距離にピントの合った像を含む信号と、第2レンズ部22を通った遠距離にピントが合った像を含む信号とを合成した信号として出力されるのである。
【0098】
なお、ミラー機構8によって、上下に分割した光路を導く構成とする場合、二焦点レンズ20は、図11(B)に示したとおり、円形の第1レンズ部21と、円環状(ドーナツ型)の第2レンズ部22とを用い、各レンズ部の光軸が一致する同心円型構造としてもよい。さらに、多角形や楕円形の第1レンズ部21を内側に配して、その外側に、同様の形状の内縁(及び外縁)を有する環状の第2レンズ部22を配してもよい。多角形の角部は丸みを有する形状であってもよい。また、第1レンズ部21と第2レンズ部22との配置を逆にしてもよい。本発明では、上下に分割された横長タイプのステレオ画像を生成するために、光路を上下に分割することができるようにミラー機構を構成した。
【0099】
図12は、縦方向に分割したステレオ画像の説明図である。光路を上下に分割するミラー機構8を用いた場合、撮像面40が上下に二等分されて、通常の垂直画角の半分(φ/2)となる横長の第1撮像面41と第2撮像面42とが形成される(図11)。このため、図12に示すとおり、撮像される撮像画像51、52は横長の形状(垂直画角φ/2)となる。第1撮像面41において取得された第1撮像画像51及び第2撮像面42において取得された第2撮像画像52には、画像処理手段6によって画像改質処理が施され、左眼用視差画像61及び右眼用視差画像62(垂直画角φ/2)が出力される。観察者は、裸眼で又は適当なビューアを用いて、これらを立体画像70として認識することができる。
【0100】
以上説明したとおり、本実施形態のミラー機構によれば、光路を上下に分割し、第1光路L1を撮像素子4の第1撮像面41に導き、第2光路L2を第2撮像面42に導くことができるので、水平画角θをもった横長タイプのステレオ画像を形成することができる。なお、本実施形態では、ミラー機構の各ミラーの配置(位置、光軸方向についての開きの角度、傾斜の角度など)を固定としたが、搭載するレンズの機能(ズーム機能など)に応じて、ミラーの配置を可変とする構成としてもよい。また、ステレオ画像を撮像するため撮像範囲が概ね同じとなるように第1ミラー群と第2ミラー群とを配置したが、例えば、第1ミラー群と第2ミラー群とを開散方向に広がるように配置することによって、超広角画像を撮像可能なミラー機構を構成することもできる。また、本実施形態では、各水平(垂直)画角が等しい二つのミラー群を用いたが、各画角が異なるミラー群を用いてもよいし、三つ以上のミラー群を用いてもよい。
【0101】
本実施形態のミラー機構の一つの実施例として、以下のとおり設計した。第1及び第2ミラー群における内側ミラー81a、82aについて、横(長手方向)の長さを8.0mm、縦(短手方向)の長さを1.0mmとした。外側ミラー81b、82bについて、横(長手方向)の長さを32.0mm、縦(短手方向)の長さを4.0mmとした。水平方向(Y方向)について、入射瞳Pと仮想の入射瞳P´との間隔は15.18mmに設定した。つまり、基線長Dは30.36mmである。水平画角θについては約50.0°を実現した。
【0102】
また、外側ミラーの傾斜角度αを5.10°、内側ミラーの傾斜角度βを1.10°に設定した。|α-β|は4°であり、垂直画角φ/2については16°を実現した。
【0103】
以上、本発明の実施形態として、ミラー機構を採用したステレオ画像撮像装置について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。本発明は、他の実施形態として、以下に説明するとおり、二眼式のステレオ画像撮像装置として構成してもよい。
【0104】
図13は、本発明の実施形態の二眼式のステレオ画像撮像装置の概略構成図である。図1で説明したステレオ画像撮像装置と同一の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図13に示すとおり、二眼式のステレオ画像撮像装置10は、二つの撮像光学系2、二つの撮像素子4、及び画像処理手段6を備え、図1のステレオ画像撮像装置1とは光路を分割するためのミラー機構を備えていない点で相違する。筺体(図示省略)には、所定の基線長Dをもって左側開口85と右側開口86とが設けられる。光路L1の光は、左側開口85から入射され、左側の撮像光学系2を介して、左側の撮像素子4の第1撮像面41に収束する。同様にして、光路L2の光は、右側開口86から入射され、右側の撮像光学系2を介して、右側の撮像素子4の第2撮像面42に収束する。第1及び第2撮像面では、収束した光が電気信号に変換され、第1撮像画像51及び第2撮像画像52として、画像処理手段6に出力される。第1撮像画像51及び第2撮像画像52は、画像処理手段6によって画像改質処理などを施され、それぞれ左眼用視差画像61及び右眼用視差画像62として図示しない表示装置などに出力される。
【符号の説明】
【0105】
1 ステレオ画像撮像装置
2 撮像光学系(多焦点レンズ群)
4 撮像素子
6 画像処理手段
8 ミラー機構
20 多焦点レンズ(二焦点レンズ)
21 第1レンズ部
22 第2レンズ部
25 単焦点レンズ
40 撮像面
41 第1撮像面
42 第2撮像面
51 第1撮像画像
52 第2撮像画像
61 左眼用視差画像
62 右眼用視差画像
81 第1ミラー群
81a 内側ミラー
81b 外側ミラー
82 第2ミラー群
82a 内側ミラー
82b 外側ミラー
L0 光軸
L1 第1光路
L2 第2光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像画像を取得する撮像素子と、立体視のための両眼視差を与える所定の基線長をもって入射された第1光路の光と第2光路の光とを前記撮像素子の撮像面に導く撮像光学系と、前記撮像素子によって撮像された撮像画像を処理する画像処理手段と、を備えるステレオ画像撮像装置において、
前記撮像光学系は、第1の焦点距離をもつ第1レンズ部と前記第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離をもつ第2レンズ部とを少なくとも有する多焦点レンズ群として構成され、
前記画像処理手段は、前記多焦点レンズ群を介して前記撮像素子によって撮像された、前記第1光路の光による第1撮像画像及び前記第2光路の光による第2撮像画像に基づいて、左眼用視差画像及び右眼用視差画像を生成することを特徴とするステレオ画像撮像装置。
【請求項2】
前記撮像面の光軸上に位置する点光源を遠距離撮像用の前記第2レンズ部によって結像した位置までの前記撮像面からの距離と、近距離撮像用の前記第1レンズ部によって物体側に結像した位置までの前記撮像面からの距離との比が100以下であることを特徴とする請求項1に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、改質フィルタによって前記第1及び第2撮像画像を改質して、前記第1レンズ部の被写界深度に相当する第1範囲、前記第2レンズの被写界深度に相当する第2範囲及び前記第1の範囲又は第2範囲より遠く前記第1及び第2範囲とは異なる第3範囲のボケの信号成分を補正して、左眼用視差画像及び右眼用視差画像を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項4】
前記改質フィルタによる改質は、前記第3範囲の水平走査線上の信号を抽出し、フーリエ解析することによって得られた空間周波数の交流成分の累積値が、前記第1及び第2撮像画像に比べて、前記左眼用視差画像及び右眼用視差画像の方が大きくなることを特徴とする請求項3に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項5】
前記改質フィルタは、前記第1及び第2レンズ部のうち、合焦のレンズ部を通る光による合焦のポイントスプレット関数と他方のレンズ部を通る光によるボケのポイントスプレット関数とを用いて求めた前記多焦点レンズ群の代表ポイントスプレット関数に基づいて構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項6】
前記改質フィルタは、前記合焦のポイントスプレット関数と前記ボケのポイントスプレット関数との比を、前記第1レンズ部と前記第2レンズ部との面積比とは異なる比に設定されていることを特徴とする請求項5に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項7】
前記合焦のポイントスプレット関数の少なくも一部は、理想レンズのポイントスプレット関数が適用されることを特徴とする請求項5又は6に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項8】
前記画像処理手段は、前記左眼用視差画像と前記右眼用視差画像とを比較することによって、前記各視差画像における被写体のずれ量を検出し、前記検出されたずれ量に基づいて、光軸方向についての被写体の相対的な位置関係を特定することを特徴する請求項1乃至7の何れか1項に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項9】
前記画像処理手段は、前記被写体の相対的な位置関係に基づいて、前記各撮像画像又は各視差画像に対して、合焦の領域とボケの領域とを設定し、前記設定された各領域に対して、異なる画像改質処理を実行することを特徴とする請求項8に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項10】
前記画像処理手段は、選択された特定の被写体の領域、前記特定の被写体と略等距離にある被写体の領域、又は前記特定の被写体とそれより近い距離にある被写体の領域を前記合焦の領域に設定することを特徴とする請求項9に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項11】
前記特定の被写体は、観察者の視点の情報に基づいて選択されることを特徴とする請求項10に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項12】
前記特定の被写体は、観察者によって入力された被写体の輪郭の情報又は指定領域の情報に基づいて選択されることを特徴とする請求項10に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項13】
前記第1光路の光及び第2光路の光を、前記撮像光学系を介してそれぞれ前記撮像素子の撮像面に導くことが可能に構成されたミラー機構を備え、
前記第1レンズ部及び前記第2レンズ部は、直線状の境界線によって分割されており、前記ミラー機構による光路の分割方向と直交するように配置されることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項14】
前記ミラー機構は、光を縦方向に分割して前記第1光路及び前記第2光路を形成することを特徴とする請求項13に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項15】
前記ミラー機構は、前記第1光路を前記撮像面に導くための内側及び外側ミラーを含む第1ミラー群と、前記第2光路を前記撮像面に導くための内側及び外側ミラーを含む第2ミラー群とを有し、
前記各内側ミラーは、垂直方向について相互に段違いとなるように配置され、垂直方向に対してそれぞれ第1角度をもって傾斜し、
前記各外側ミラーは、垂直方向に対してそれぞれ第2角度をもって傾斜することを特徴とする請求項14に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項16】
前記第1角度が前記第2角度より大きく、
前記第1角度と前記第2角度との差が前記撮像面に対応する垂直画角の1/4であることを特徴とする請求項15に記載のステレオ画像撮像装置。
【請求項17】
前記撮像光学系の入射瞳は、光軸方向について、前記各外側ミラーの後端部より被写体側にあることを特徴とする請求項15又は16に記載のステレオ画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−182738(P2012−182738A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45489(P2011−45489)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(503421128)リバーベル株式会社 (10)
【Fターム(参考)】