説明

ステントおよびその製造方法

【課題】引張強度および延性がともに優れた、拡張可能なステントを提供する。
【解決手段】ステント本体1を備え、ステント本体1の少なくとも一部がタングステン合金で構成され、タングステン合金で構成された部分の結晶粒径が5μm以下である、拡張可能なステント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔の治療に用いられる拡張可能なステントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、血管、リンパ管、胆管、尿管等の生体内の管腔の病変部に設置し、管径を適度に維持して、それぞれの管腔の通過性を確保するための医療器具である。
【0003】
ステントを構成する材料に対しては、高引張強度および高延性という相反する2つの機械的特性が同時に要求される。これは、引張強度が低い場合にはステントとして必要なラジアルフォース(半径方向の強度)が得られず、また、延性が低い場合にはステントを病変部に留置して拡張した際に破断してしまうからである。
【0004】
ステントを構成する材料として合金が用いられることがあるが、合金の引張強度および延性にはトレードオフの関係が認められる。すなわち、合金は、一般的に、高強度になると延性が低くなり、延性が改善されると強度が低下する。
このような合金のなかでも、従来、バルーン拡張型ステントには、例えば、ステンレス鋼316L、コバルト合金L605、コバルト合金MP32Nなどが用いられており、これらは、引張強度300MPa、延性40%を示す。
【0005】
近年、ステントを構成する材料に対する機械的特性の要求がより高まっており、従来の上記機械的特性よりも高い物性が求められている。
特に、ステントの構成材料として引張強度が高い合金等の金属材料を用いると、ステントの厚さを薄くすることができ、生体内への金属投与量を減少できることから、とりわけ、高い引張強度が要求されている。
【0006】
実用化されている高強度の金属材料のなかでは、タングステンを主成分としたタングステン合金が、高い引張強度を有する。
例えば、特許文献1には、タングステンが「75重量%乃至99重量%の範囲の量」である「タングステンとレニウムとを含む合金」で構成されたステント等の医療用インプラントが開示されている([請求項1]、[請求項2]等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4516757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タングステン合金としては、WVM,WC,WL,WT,WRe,WCu,DENSIMET,INERMETなどの品種(PLANSEE社製)が実用化され、なかでも、WRe(タングステン−レニウム合金)は、引張強度と延性とのバランスが取れた合金とされている。
しかし、引張強度は1000MPa以上であるものの、延性は20%以下であるため、延性については上述した要求が満たされない。
また、特許文献1には、引張強度および延性が開示されておらず、これらの物性が上述した要求を満たすか否かは不明である。
【0009】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、ステント本体の少なくとも一部がタングステン合金で構成されたステントであって、引張強度および延性がともに優れた、拡張可能なステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、タングステン合金部分の結晶粒を微細化することで、引張強度が損なわれずに、延性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(13)を提供する。
【0011】
(1)ステント本体を備え、上記ステント本体の少なくとも一部がタングステン合金で構成され、上記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径が5μm以下である、拡張可能なステント。
【0012】
(2)上記ステント本体の全体が、上記タングステン合金で構成されている、上記(1)に記載の拡張可能なステント。
【0013】
(3)上記タングステン合金が、タングステン−レニウム合金(W−Re合金)である、上記(1)または(2)に記載の拡張可能なステント。
【0014】
(4)上記ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質と生分解性ポリマーとを含有する組成物を用いて形成される層を備える、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【0015】
(5)上記ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質を含有する層と、生分解性ポリマーを含有する層とを、この順に備える、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【0016】
(6)上記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、および、NO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(4)または(5)に記載の拡張可能なステント。
【0017】
(7)上記生分解性ポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、および、ポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1種、または、これらの共重合体、混合物、もしくは、複合物である、上記(4)または(5)に記載の拡張可能なステント。
【0018】
(8)上記ステント本体が、管状体である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【0019】
(9)バルーン拡張型ステントである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【0020】
(10)自己拡張型ステントである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【0021】
(11)少なくとも一部がタングステン合金で構成された金属材料を準備する工程と、上記金属材料に微細化処理を施すことにより、上記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径を5μm以下にする工程と、上記微細化処理が施された上記金属材料からステント本体を形成する工程と、を備え、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の拡張可能なステントを得る、拡張可能なステントの製造方法。
【0022】
(12)上記微細化処理が、強歪加工処理である、上記(11)に記載の拡張可能なステントの製造方法。
【0023】
(13)上記強歪加工処理が、ECAE処理である、上記(12)に記載の拡張可能なステントの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、引張強度および延性がともに優れた、拡張可能なステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のステントの一様態を示す側面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[ステント]
本発明の拡張可能なステント(以下、単に「本発明のステント」ともいう)は、ステント本体を備え、上記ステント本体の少なくとも一部がタングステン合金で構成され、上記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径が5μm以下である、拡張可能なステントである。
【0027】
〔ステント本体〕
ステント本体は、血管等の生体内の管腔に安定して留置することができるという理由から、管状体であることが好ましい。
管状体であるステント本体には、内面および外面を有する略円筒形のものが含まれ、具体的には、例えば、後述するタングステン合金で構成された略円筒形のパイプに開口部を設けたステント本体、ワイヤや繊維を編み上げて円筒形に成形したステント本体等が含まれる。
ステント本体の長さ、太さは、用途により様々ではあるが、通常は長さが5〜500mm、太さ(略円形の断面の直径)が1〜50mmである。
【0028】
次に、図1および図2に基いて、ステント本体(ステント1)の一例について説明する。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明のステントの一様態を示す側面図であり、図2は、図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図である。
図1に示すように、ステント1は、両末端部が開口した、一方向(長軸方向)に延びる細長い円筒体である。円筒体の側面には、その外周側と内周側とを連通する多数の開口部が形成されている。
【0030】
ステント1は、線状部材2より形成されており、内部に開口部を有する略菱形の要素11を基本単位としている。複数の要素11がステント1の周方向に連続配置されて結合されることで環状ユニット12が形成されている。環状ユニット12は、隣接する環状ユニットと線状の連結部材13を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット12が一部結合した状態で、ステント1の長軸方向に連続配置されている。
図2に示すように、各線状部材2の断面形状は、外側面31が内側面32に対してわずかに長い弧を形成している。ステント1は、各線状部材2が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能となっている。
【0031】
本発明においては、このようなステント本体の少なくとも一部がタングステン合金で構成されており、ステント全体の引張強度および延性がともに優れるという理由から、ステント本体の全体がタングステン合金で構成されているのが好ましい。
次に、ステント本体を構成するタングステン合金について説明する。
【0032】
〔タングステン合金〕
タングステン合金とは、タングステン(W)を主成分として含む合金の総称である。ここで、「主成分」とは、タングステン合金中のタングステン量が、例えば、50質量%以上であることをいう。
【0033】
本発明において用いられるタングステン合金としては、生体内において安全性が高く、上記の結晶粒径が得られるものであれば特に限定されない。
【0034】
タングステン合金が含有する、タングステン以外の元素としては、例えば、レニウム(Re)、ハフニウム(Hf)、トリウム(Th)、炭素(C)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、スカンジウム(Sc)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)などの生体適合性元素;ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などの希土類元素;等が挙げられる。
【0035】
これらの元素を含有するタングステン合金としては、例えば、WVM,WC,WL,WT,WRe,WCu,DENSIMET,INERMET等が挙げられ、なかでも、引張強度と延性とのバランスに優れているという理由から、WRe(W−Re合金、タングステン−レニウム合金)であるのが好ましい。
W−Re合金としては、延性が高いものが好ましく、例えば、W−Re26(Re:26質量%含有)が挙げられる。
【0036】
〔タングステン合金で構成された部分〕
本発明においては、ステント本体における、タングステン合金で構成された部分(以下、「タングステン合金部分」ともいう)の結晶粒径が5μm以下である。このように、タングステン合金部分の結晶粒を微細化して、その結晶粒径を5μm以下にすることで、引張強度が損なわれずに、延性が改善される。こうして、ステント本体の引張強度および延性が良好となり、ステントとして必要な物性が得られる。
このとき、タングステン合金部分の結晶粒径は、ステント本体の引張強度および延性がより良好となるという理由から、1μm以下であることが好ましい。
【0037】
また、タングステン合金部分の結晶粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明において、「結晶粒径」とは、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡または光学顕微鏡を用いた観察によって得られた組織写真から、リニア−インターセプト法により測定した平均結晶粒径のことをいう。
【0039】
タングステン合金部分の結晶粒を微細化し、結晶粒径を5μm以下とする処理(以下、「微細化処理」という)としては、特に限定されないが、例えば、強歪加工処理が挙げられる。
【0040】
強歪加工処理とは、金属材料に対して形状を変形させることなく塑性歪を繰り返し付与することにより、結晶粒を微細化する処理である。強歪加工処理による結晶粒の微細化は、その合金の組成は特に限定されず、生体適合性や分解速度の観点から好ましい組成の合金にも適用できる。なお、強歪加工処理を施した後に焼鈍を施してもよい。
このような強歪加工処理としては、具体的には、例えば、圧延処理、熱間引抜加工処理、ECAE処理等を好適に用いることができる。
【0041】
ECAE(Equal Channel Angular Extrusion)処理は、屈曲したダイス中でタングステン合金に極めて大きなせん断歪を与えることで合金中に動的再結晶を生じさせ、結晶粒を微細化する処理である。なお、処理の際に加熱してもよい。
ECAE処理は、タングステン合金部分の結晶粒径が容易に小さくなるため、好ましい。ECAE処理によれば、5μm以下、場合によっては1μm以下の結晶粒径とすることも可能である。
【0042】
〔ステント本体表面の層〕
本発明のステントは、ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質と生分解性ポリマーとを含有する組成物を用いて形成される層(以下、「組成物層」ともいう)を備えていてもよい。組成物層を備えた本発明のステントを生体内の管腔の病変部へ設置すれば、生物学的生理活性物質が徐放されて病変部の治療が促進される。
【0043】
この組成物における生物学的生理活性物質と生分解性ポリマーとの質量比(生物学的生理活性物質/生分解性ポリマー)は、1/99〜99/1であるのが好ましく、30/70〜70/30であるのがより好ましい。生分解性ポリマーの物性と分解性とを考慮しつつ、病変部の治療に必要な量の生物学的生理活性物質を搭載できるからである。
組成物層の厚さは、0.1〜100μmが好ましく、1〜15μmがより好ましく、3〜7μmがさらに好ましい。この範囲の厚さの層であれば、血管等の生体内の管腔に容易に挿入することができる。
【0044】
ステント本体の表面に、組成物層を形成する場合には、例えば、次のように行う。
まず、生物学的生理活性物質と生分解性ポリマーとを、アセトン、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の溶媒に、濃度が0.001〜20質量%、好ましくは0.01〜10質量%となるように、溶解させて溶液を得る。次に、得られた溶液を、スプレー、ディスペンサー等を用いて、ステント本体の表面に塗布し、その後、溶媒を揮発させることで、当該ステント本体の表面に組成物層を形成する。
【0045】
また、本発明のステントは、ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質を含有する層(以下、「生物学的生理活性物質層」ともいう)と、生分解性ポリマーを含有する層(以下、「生分解性ポリマー層」ともいう)とを、この順に備えていてもよい。これにより、生物学的生理活性物質の安定化や生物学的生理活性物質の病変部への段階的放出が可能になる。
【0046】
生物学的生理活性物質層の厚さは、0.1〜100μmが好ましく、1〜15μmがより好ましく、3〜7μmがさらに好ましい。
生分解性ポリマー層の厚さは、0.1〜100μmが好ましく、1〜15μmがより好ましく、3〜7μmがさらに好ましい。
この範囲の厚さの層であれば、血管等の生体内の管腔に容易に挿入することができ、かつ生分解性ポリマーの物性と分解性とを考慮しながら病変部の治療に必要な量の生物学的生理活性物質を搭載することができる。
なお、ステント本体の表面には、生物学的生理活性物質層と、生分解性ポリマー層とが、各々複数あってもよい。
【0047】
ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質層および生分解性ポリマー層を形成する場合には、例えば、次のように行う。
まず、生物学的生理活性物質を、所定の濃度となるように溶媒に溶解させて溶液を得て、得られた溶液を、スプレー、ディスペンサー等を用いて、ステント本体の表面に塗布し、その後、溶媒を揮発させることで、当該ステント本体の表面に生物学的生理活性物質層を形成する。
次いで、生分解性ポリマーについても同様に、所定の濃度となるように溶媒に溶解させて溶液を得て、得られた溶液を生物学的生理活性物質層上に塗布し、その後、溶媒を揮発させることで、生分解性ポリマー層を形成する。
このとき、いずれも、溶媒としては、アセトン、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン等を用いることができ、濃度としては、例えば、0.001〜20質量%であり、好ましくは0.01〜10質量%である。
【0048】
生物学的生理活性物質としては、本発明のステントを病変部に留置した際に起こりうる管腔の再狭窄、再閉塞を抑制するものであれば特に限定されず、任意に選択することができるが、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、および、NO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1種であることが、病変部組織の細胞の挙動を制御して病変部を治療できるという理由から、好ましい。
【0049】
抗癌剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート等が好ましい。
【0050】
免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、エベロリムス、ABT−578、AP23573、CCI−779、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。
【0051】
抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
抗リウマチ剤としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット等が好ましい。
抗血栓薬としては、例えば、へパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0052】
HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等が好ましい。
ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。
カルシウム拮抗剤としては、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0053】
抗高脂血症剤としては、例えば、プロブコールが好ましい。
インテグリン阻害薬としては、例えば、AJM300が好ましい。
抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。
抗酸化剤としては、例えば、α−トコフェロールが好ましい。
GPIIbIIIa拮抗薬としては、例えば、アブシキシマブが好ましい。
レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0054】
フラボノイドとしては、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジン等が好ましい。
カロチノイドとしては、例えば、β―カロチン、リコピン等が好ましい。
脂質改善薬としては、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
DNA合成阻害剤としては、例えば、5−FUが好ましい。
チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン、スタウロスポリン等が好ましい。
【0055】
抗血小板薬としては、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレル等が好ましい。
抗炎症剤としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
生体由来材料としては、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等が好ましい。
【0056】
インターフェロンとしては、例えばインターフェロン−γ1aが好ましい。
NO産生促進物質としては、例えばL−アルギニンが好ましい。
【0057】
これらの生物学的生理活性物質を、症例に合わせて、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
生分解性ポリマーとしては、本発明のステントを病変部に留置した際に、徐々に生分解するポリマーであって、生体内に悪影響を及ぼさないポリマーであれば特に限定されないが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、および、ポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1種、または、これらの共重合体、混合物、もしくは、複合物であるのが好ましい。生体組織との反応性が低く、生体内での分解速度を制御することができるからである。
【0059】
[ステントの製造方法]
本発明のステントを得る、ステントの製造方法(以下、「本発明のステントの製造方法」ともいう)は、本発明のステントを得ることができる方法であれば、特に限定されないが、少なくとも一部がタングステン合金で構成された金属材料を準備する工程と、上記金属材料に微細化処理を施すことにより、上記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径を5μm以下にする工程と、上記微細化処理が施された上記金属材料からステント本体を形成する工程と、を備える方法であることが好ましい。
【0060】
この場合、まず、タングステン合金(例えば、W−Re26)のインゴットを準備し、このインゴットに微細化処理を施す。
微細化処理としては、上述したとおり、強歪加工処理が挙げられ、強歪加工処理としては、圧延処理、ECAE処理等が好適に用いられる。
次に、微細化処理を施したインゴットを研磨して所望のサイズのパイプを作製し、このパイプの表面に開口部を形成する。なお、パイプを作製した後、熱間引抜加工処理を行って、結晶粒をさらに微細化してもよい。開口部を形成する方法としては、例えば、パイプに開口パターンを貼り付けて、開口パターン以外のパイプ部分をレーザエッチング、化学エッチング等のエッチング技術で溶かして開口部を形成する方法;コンピュータに記憶させたパターン情報に基づいたレーザーカット技術により、パイプをパターン通りに切断することによって開口部を形成する方法;等が挙げられる。これにより、ステント本体が管状体である、本発明のステントが製造される。
【0061】
[ステントの使用方法]
本発明のステントの使用方法は、通常のステントの使用方法と同様であり、特に限定されない。例えば、動脈硬化で狭くなった冠動脈を拡張して血液の通りを良くすることを目的として、本発明のステントを血管で用いる場合がある。
この場合、本発明のステントを、バルーン拡張型ステントとしても、自己拡張型ステントとしても使用することができる。
前者の場合、本発明のステントは、それ自体に拡張機能はなく、病変部に挿入された後にバルーンの拡張力によって拡張(塑性変形)されて血管等の管腔の内壁に密着固定される。
後者の場合、本発明のステントは、生体内の管腔への挿入時には中心軸方向に圧縮され、病変部で開放されて拡張し、圧縮前の形状に復元することで、血管等の管腔の内壁に密着固定される。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<実験例1>
まず、W−Re26のインゴットを準備し、このインゴットを、電気炉を用いて、700K、36000秒の条件で溶体化処理し、試験片1を得た。
さらに、試験片1を、573KでECAE処理し(1パスあたりの圧下率:約5%、最終圧下率:50%)、その後、473Kで50000秒焼鈍して、試験片2を得た。
【0064】
試験片1および試験片2について、光学顕微鏡(ライカ社製)を用いて、100〜1000倍の倍率で観察し、得られた組織写真から、リニア−インターセプト法により結晶粒径(平均結晶粒径)を測定した。
その結果、試験片1の結晶粒径は80〜120μmであったのに対し、試験片2の結晶粒径は1〜4μmであった。すなわち、試験片2では、試験片1よりも結晶粒を微細化することができた。
【0065】
次に、試験片2から、厚さ8mm、幅8mm、長さ100mmの角棒材を切出し、センタレス研磨を施して直径3mmの丸棒材に加工した。旋盤加工にて丸棒材の中空に断面直径2.4mmの貫通孔を開けてパイプを作製した。このパイプを573Kで熱間引抜加工処理し、外径2mm、内径1.6mmのパイプ(以下「試験片3」という)を得た。
【0066】
試験片3について、上記と同様に結晶粒径を測定した結果、結晶粒径は0.2〜0.9μmであった。すなわち、試験片3では、試験片2よりも結晶粒をさらに微細化することができた。これは、熱間引抜加工処理時の動的再結晶によるものと考えられる。
【0067】
次に、試験片1、試験片2および試験片3から、厚さ0.4mm、幅3mm、長さ5mmの試験片(それぞれ、試験片10、試験片20および試験片30とする)を圧延方向に平行に切出し、室温において引張試験を行い、引張強度[MPa]および延性[%]を測定した。測定結果を下記第1表に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
上記第1表に示す結果から、結晶粒が微細化することによって、引張強度を維持しつつ、延性を大幅に改善できることが分かった。
【0070】
<実験例2>
実験例1で得られたパイプ(試験片3)をレーザ加工して直径2mm、長さ15mmのステントを作製した。このステントを、バルーンカテーテルにて直径3mmに拡張したところ、破損部は確認されなかった。これにより、実用可能なステントが作製できること分かった。
【0071】
<実験例3>
まず、生物学的生理活性物質(免疫抑制剤であるシロリムス)と、生分解性ポリマー(ポリ乳酸、重量平均分子量:7.5万)と、可塑剤(アセチル化モノグリセライド)とを、質量比5:4:1の割合で、溶媒であるアセトンに、濃度が0.5質量%となるように溶解させて溶液を得た。
得られた溶液を、実験例2で作製したものと同じステント(ステント本体)の表面に、スプレーを用いて噴霧し、真空乾燥器を用いて溶媒を完全に揮発させて、質量約0.6mg、平均厚さ10μmの層(組成物層)をステント本体の外面に形成した。
このステントを、実験例2と同様に、バルーンカテーテルを用いて直径3mmに拡張したところ、破損部は確認されなかった。また、組成物層についても、ひび割れや脱落がなく、実用可能なステントが作製できることを確認された。
【符号の説明】
【0072】
1 ステント(ステント本体)
11 略菱形の要素
12 環状ユニット
13 連結部材
2 線状部材
31 外側面
32 内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステント本体を備え、
前記ステント本体の少なくとも一部がタングステン合金で構成され、
前記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径が5μm以下である、拡張可能なステント。
【請求項2】
前記ステント本体の全体が、前記タングステン合金で構成されている、請求項1に記載の拡張可能なステント。
【請求項3】
前記タングステン合金が、タングステン−レニウム合金(W−Re合金)である、請求項1または2に記載の拡張可能なステント。
【請求項4】
前記ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質と生分解性ポリマーとを含有する組成物を用いて形成される層を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【請求項5】
前記ステント本体の表面に、生物学的生理活性物質を含有する層と、生分解性ポリマーを含有する層とを、この順に備える、請求項1〜3のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【請求項6】
前記生物学的生理活性物質が、
抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、および、NO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4または5に記載の拡張可能なステント。
【請求項7】
前記生分解性ポリマーが、
ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、および、ポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1種、または、これらの共重合体、混合物、もしくは、複合物である、請求項4または5に記載の拡張可能なステント。
【請求項8】
前記ステント本体が、管状体である、請求項1〜7のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【請求項9】
バルーン拡張型ステントである、請求項1〜8のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【請求項10】
自己拡張型ステントである、請求項1〜8のいずれかに記載の拡張可能なステント。
【請求項11】
少なくとも一部がタングステン合金で構成された金属材料を準備する工程と、
前記金属材料に微細化処理を施すことにより、前記タングステン合金で構成された部分の結晶粒径を5μm以下にする工程と、
前記微細化処理が施された前記金属材料からステント本体を形成する工程と、を備え、請求項1〜10のいずれかに記載の拡張可能なステントを得る、拡張可能なステントの製造方法。
【請求項12】
前記微細化処理が、強歪加工処理である、請求項11に記載の拡張可能なステントの製造方法。
【請求項13】
前記強歪加工処理が、ECAE処理である、請求項12に記載の拡張可能なステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196264(P2012−196264A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61057(P2011−61057)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】