説明

ステント被膜のためのポリウレタンウレア

本発明は、式(I)で示される構成単位を有し、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー単位の少なくとも1つで終端されていないポリウレタンウレアであって、特にステント被膜の製造に使用することができるポリウレタンウレアに関する。本発明はまた、本発明のポリウレタンウレアから作られた下塗を有する基材に関する。本発明は更に、有効成分を含んでなり、本発明のポリウレタンウレアから作られた少なくとも1つの層、および有効成分を含まず、本発明のポリウレタンウレアから作られた少なくとも1つの層を含んでなる被覆構造物に関する。本発明は最後に、基材の被覆方法であって、本発明のポリウレタンウレアから作られた少なくとも1つの層を基材に適用する方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にステント被膜を製造するために使用できるポリウレタンウレアに関する。従って、本発明は、本発明のポリウレタンウレアを含んでなる下塗を有する基材を提供する。本発明はまた、本発明のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分含有層および本発明のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分不含有層を含んでなる層状構造物も提供する。本発明は最後に、基材の被覆方法であって、本発明のポリウレタンウレアの少なくとも1つの層を基材に適用する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
ステントのような植え込み型物品のためのポリマー系被膜は、先行技術から知られている。この被膜は、パクリタキセルまたはシロリムスのような有効成分をしばしば含有しており、ステントを体内に植え込むと長時間にわたって有効成分を放出するように設計されている。有効成分を遅延送達する特定の目的は、治療中の血管における再狭窄のリスクを軽減することである。
【0003】
そのような被覆ステントの1つは、例えばDE 10 2005 010 998 A1に記載されている。同特許文献では、ポリウレタンウレアを含んでなる有効成分含有被膜が提示されている。しかしながら、ポリウレタンウレア被膜からの有効成分の送達が速すぎることが明らかになっている。従って、放出開始時点(植え込み直後)では、単位時間あたりに送達される有効成分の量が多すぎる一方で、総放出時間の終了時点では、放出される有効成分の濃度が低すぎる。また、有効成分の総送達時間が短すぎる。
【0004】
WO 2009/115264 A1も同様に、ステント上被膜を製造するために使用できる有効成分含有ポリウレタンウレアを開示している。このポリウレタンウレア被膜は、良好な生体適合性を特徴とする。しかしながら、この被膜を備えたステントであっても、DE 10 2005 010 998 A1に既に記載されている放出速度を基本的には示す。換言すれば、特に放出開始時点に、被膜から放出される有効成分の量が多すぎる。
【0005】
ステント用の有効成分含有ポリウレタンウレア被膜は、2つの未公開PCT出願PCT/EP2009/006101およびPCT/EP2009/006102からも知られている。これらのPCT出願に記載されているポリウレタンウレアはそれぞれ、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー単位で終端されている。
【0006】
先行技術から知られているポリマー系の有効成分含有ステント用被膜は、有効成分を放出するが、その放出が速すぎ、初期濃度が高すぎる。その結果、特に、4〜12週間の理想的な目標送達時間にわたって必要な濃度で有効成分が利用可能になることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE 10 2005 010 998 A1
【特許文献2】WO 2009/115264 A1
【特許文献3】PCT/EP2009/006101
【特許文献4】PCT/EP2009/006102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、植え込み後4〜12週間にわたって一定送達速度で有効成分を放出する有効成分含有ステント用被膜の製造に特に適したポリウレタンウレアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、式(I):
【化1】

で示される構成単位を有し、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー単位の少なくとも1つで終端されていないポリウレタンウレアによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例2のポリマーからのシロリムスの放出絶対量を示す。
【図2】図2は、実施例2のポリマーからのシロリムスの放出割合を示す。
【図3】図3は、実施例3のポリマーからのシロリムスの放出絶対量を示す。
【図4】図4は、実施例3のポリマーからのシロリムスの放出割合を示す。
【図5】図5は、実施例4のポリマーからのシロリムスの放出絶対量を示す。
【図6】図6は、実施例4のポリマーからのシロリムスの放出割合を示す。
【図7】図7は、実施例5のポリマーからのシロリムスの放出絶対量を示す。
【図8】図8は、実施例5のポリマーからのシロリムスの放出割合を示す。
【図9】図9は、実施例6のポリマーからのシロリムスの放出絶対量を示す。
【図10】図10は、実施例6のポリマーからのシロリムスの放出割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の意味におけるポリウレタンウレアは、
(a)以下の一般構造:
【化2】

で示されるウレタン基を有する反復単位を少なくとも2個、および
(b)
【化3】

で示されるウレア基を有する反復単位を少なくとも1個
有するポリマー化合物である。
【0012】
ポリウレタンウレアの数平均分子量は、好ましくは1000〜200,000g/mol、より好ましくは3000〜100,000g/molである。本発明において、数平均分子量は、30℃で、ジメチルアセトアミド中、標準としてのポリスチレンに対して測定される。
【0013】
本発明のポリウレタンウレアは、少なくとも1種のポリカーボネートポリオール成分a)、少なくとも1種のポリイソシアネート成分b)、少なくとも1種のジアミンおよび/またはアミノアルコール成分c)、並びに任意に別のポリオール成分d)を含んでなる成分を反応させることによって調製してよい。
【0014】
本発明の1つの好ましい態様では、ポリウレタンウレアは、1.7〜2.3の平均ヒドロキシル官能価を好ましくは有するポリカーボネートポリオール成分に基づく。
【0015】
ポリウレタンウレアは、好ましくは実質的に直鎖分子であり、あまり好ましくはないが、分岐であってもよい。本発明において「実質的に直鎖分枝」とは、僅かに初期架橋を伴った系を意味し、親ポリカーボネートポリオール成分a)は、好ましくは1.7〜2.3、より好ましくは1.8〜2.2、特に好ましくは1.9〜2.1の平均ヒドロキシル官能価を有してよい。
【0016】
ポリカーボネートポリオール成分a)は、炭酸誘導体と、式(II):
【化4】

で示される二官能性アルコールとの反応から得ることができるポリカーボネートポリオールa1)を含有してよい。
【0017】
ポリカーボネートポリオールa1)を調製するために、高温で、圧力反応器内で、TCDアルコールDM(3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0/2.6]デカン/トリシクロデカンジメタノール)と、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲンとを反応させることができる。ジメチルカーボネートとの反応が好ましい。ジメチルカーボネートを使用する場合、メタノール脱離生成物を、過剰ジメチルカーボネートとの混合物として蒸留により除去する。
【0018】
式(II)で示されるジオールに基づくポリカーボネートポリオールa1)は、好ましくは200〜10,000g/mol、より好ましくは300〜8000g/mol、特に好ましくは400〜6000g/molの、OH価により測定した分子量を有する。
【0019】
また、ポリカーボネートポリオール成分a)は、ポリカーボネートポリオールa1)に加えて、別のポリカーボネートポリオールa2)を含有することができる。
【0020】
ポリカーボネートポリオールa2)は好ましくは、平均ヒドロキシル官能価1.7〜2.3およびOH価により測定した分子量400〜6000g/molを有し、ヘキサン−1,6−ジオール、ブタン−1,4−ジオールまたはそれらの混合物に基づく化合物を含有してよい。
【0021】
ポリカーボネートポリオールa2)は、好ましくは400〜6000g/mol、より好ましくは500〜5000g/mol、特に好ましくは600〜3000g/molの、OH価により測定した分子量を有する。ポリカーボネートポリオールa2)は、例えば、炭酸誘導体(例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲン)とポリオール(好ましくはジオール)との反応により得ることができる。本発明において考えられるジオールは、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールおよび1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、およびラクトン変性ジオールを包含する。
【0022】
ポリカーボネートポリオールa2)は、好ましくは40〜100重量%のヘキサンジオール(好ましくは1,6−ヘキサンジオール)および/またはヘキサンジオール誘導体を含有する。ポリカーボネートポリオールa2)は好ましくは、末端OH基に加えてエーテル基またはエステル基も含有するヘキサンジオール誘導体を含有する。これらは例えば、1molのヘキサンジオールと少なくとも1mol、好ましくは1〜2molのカプロラクトンとの反応によって、或いはジへキシレングリコールまたはトリへキシレングリコールを与えるヘキサンジオール同士のエーテル化によって、得ることができる生成物である。ポリエーテル−ポリカーボネートジオールを使用してもよい。ヒドロキシルポリカーボネートは特に、実質的に直鎖であってよい。しかしながら、ヒドロキシルポリカーボネートは、多官能性成分、特に低分子量ポリオールの配合の結果として、場合により僅かに分枝していてもよい。この目的に適したポリオールの例は、グリセロール、ヘキサン−1,2,6−トリオール、ブタン−1,2,4−トリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キニトール、マンニトール、ソルビトール、メチルグリコシドまたは1,3,4,6−ジアンヒドロヘキシトールを包含する。好ましいポリカーボネートポリオールa2)は、ヘキサン−1,6−ジオールに基づくポリカーボネートポリオール、および例えばブタン−1,4−ジオールのような変性作用を有するコジオールに基づくポリカーボネートポリオール、またはε−カプロラクトンに基づくポリカーボネートポリオールである。別の好ましいポリカーボネートポリオールa2)は、ヘキサン−1,6−ジオールおよびブタン−1,4−ジオールの混合物に基づくポリカーボネートポリオールである。
【0023】
1つの好ましい態様では、使用するポリカーボネートポリオール成分a)は、ポリカーボネートポリオールa1)と、ヘキサン−1,6−ジオールおよびブタン−1,4−ジオールまたはそれらの混合物に基づくポリカーボネートポリオールa2)との混合物である。
【0024】
ポリカーボネートポリオールa1)およびa2)の混合物の場合、混合物中のa1)の割合は、ポリカーボネートポリオールの総モル量に基づいて、好ましくは少なくとも5mol%、より好ましくは少なくとも10mol%である。
【0025】
ポリウレタンウレアは更に、合成成分b)としての少なくとも1種のポリイソシアネートに由来する単位を有してよい。
【0026】
ポリイソシアネートb)として、当業者に知られており、1以上、好ましくは2以上の平均NCO官能価を有する、芳香族、芳香脂肪族、脂肪族および脂環式イソシアネートの全てを、それらがホスゲン法またはホスゲンフリー法のどちらによって調製されたかに関係なく、単独でまたは互いの所望の混合物として使用することができる。ポリイソシアネートは、イミノオキサジアジンジオン構造、イソシアヌレート構造、ウレトジオン構造、ウレタン構造、アロファネート構造、ビウレット構造、ウレア構造、オキサジアジントリオン構造、オキサゾリジノン構造、アシルウレア構造および/またはカルボジイミド構造を有してもよい。ポリイソシアネートは、単独でまたは互いの所望の混合物として使用してよい。
【0027】
3〜30個、好ましくは4〜20個の炭素原子の(存在するNCO基を除く)炭素骨格構造を有する、脂肪族または脂環式の例の群からのイソシアネートを使用することが好ましい。
【0028】
成分b)の特に好ましい化合物は、脂肪族的および/または脂環式的に結合したNCO基を有する前記した種類、例えば、ビス(イソシアナトアルキル)エーテル、ビス−およびトリス−(イソシアナトアルキル)−ベンゼン、−トルエン、および−キシレン、プロパンジイソシアネート、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート、HDI)、ヘプタンジイソシアネート、オクタンジイソシアネート、ノナンジイソシアネート(例えば、一般に2,4,4異性体および2,2,4異性体の混合物としての、トリメチル−HDI(TMDI))、ノナントリイソシアネート(例えば4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート)、デカンジイソシアネート、デカントリイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、ドデカントリイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンおよび1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)またはビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)に相当する。
【0029】
成分b)の特に好ましい化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチル−HDI(TMDI)、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート(MPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンおよび1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、3(4)−イソシアナトメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート(IMCI)および/または4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)或いはこれらイソシアネートの混合物である。更なる例は、3個以上のNCO基を有し、ウレトジオン構造、イソシアヌレート構造、ウレタン構造、アロファネート構造、ビウレット構造、イミノオキサジアジンジオン構造および/またはオキサジアジントリオン構造を有する、前記ジイソシアネートの誘導体である。
【0030】
ポリウレタンウレアの調製におけるポリイソシアネートb)の量は、それぞれの場合にポリカーボネートポリオール成分a)の化合物の量に基づいて、好ましくは1.0〜3.5mol、より好ましくは1.0〜3.3mol、特に1.0〜3.0molである。
【0031】
ポリウレタンウレアは、連鎖延長剤c)として作用する合成成分としての少なくとも1種のジアミンまたはアミノアルコールに由来する単位を有してよい。
【0032】
そのような連鎖延長剤c)の例は、ジアミンまたはポリアミンおよびヒドラジドであり、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパンおよび1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、イソホロンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの異性体混合物、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,3−キシリレンジアミンおよび1,4−キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチル−1,3−および−1,4−キシリレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジメチルエチレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンおよび他の(C〜C)ジ−およびテトラ−アルキルジシクロヘキシルメタン、例えば4,4’−ジアミノ−3,5−ジエチル−3’,5’−ジイソプロピルジシクロヘキシルメタンである。
【0033】
ジアミンまたはアミノアルコールとして一般に考えられるものは、NCO基に対する反応性が異なる活性水素を有する低分子量のジアミンまたはアミノアルコール、例えば、第一級アミノ基の他に第二級アミノ基も有するか、或いはアミノ基(第一級または第二級)の他にOH基も有する化合物である。そのような化合物の例は、第一級アミンおよび第二級アミン、例えば、3−アミノ−1−メチルアミノプロパン、3−アミノ−1−エチルアミノプロパン、3−アミノ−1−シクロヘキシルアミノプロパン、3−アミノ−1−メチルアミノブタン、およびアミノアルコール、例えば、N−アミノエチルエタノールアミン、エタノールアミン、3−アミノプロパノール、ネオペンタノールアミン、特に好ましくはジエタノールアミンである。
【0034】
ポリウレタンウレアの成分c)は、ポリウレタンウレアの調製において連鎖延長剤として使用してよい。
【0035】
ポリウレタンウレアの調製における成分c)の量は、各々の場合に成分a)の化合物の量に基づいて、好ましくは0.1〜1.5mol、より好ましくは0.2〜1.3mol、特に0.3〜1.2molである。
【0036】
別の態様では、ポリウレタンウレアは、合成成分としての少なくとも1種の別のポリオールd)に由来する更なる単位を含んでなる。
【0037】
ポリウレタンウレアを合成するために使用する別の低分子量ポリオールd)は一般に、ポリマー鎖を剛直化および/または分枝する効果を有する。その分子量は、好ましくは62〜500g/mol、より好ましくは62〜400g/mol、特に62〜200g/molである。
【0038】
適当なポリオールは、脂肪族基、脂環式基または芳香族基を有してよい。本発明で挙げることができる例は、一分子あたり約20個までの炭素原子を有する低分子量ポリオール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、水素化ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、およびトリメチロールプロパン、グリセロールまたはペンタエリスリトール、並びにそれらのおよび適切な場合には他の低分子量ポリオールとの混合物である。エステルジオール、例えば、α−ヒドロキシブチル−ε−ヒドロキシカプロン酸エステル、ω−ヒドロキシヘキシル−γ−ヒドロキシ酪酸エステル、アジピン酸(β−ヒドロキシエチル)エステルまたはテレフタル酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルを使用してもよい。
【0039】
ポリウレタンウレアの調製における成分d)の量は、各々の場合にポリカーボネートポリオール成分a)の化合物の量に基づいて、好ましくは0.05〜1.0mol、より好ましくは0.05〜0.5mol、特に0.1〜0.5molである。
【0040】
イソシアネート含有成分b)と、ヒドロキシ官能性化合物またはアミン官能性化合物である成分a)、c)および必要に応じてd)との反応は、典型的には、反応性ヒドロキシ化合物または反応性アミン化合物に対して僅かにNCO過剰で実施する。目的粘度の達成で示される反応の終点で、なお残留する活性イソシアネート基が常に存在する。大きいポリマー鎖との反応が起こらないよう、これらの基はブロックしなければならない。大きいポリマー鎖との反応は、三次元架橋、およびバッチのゲル化をもたらす。そのような溶液はもはや加工することができない。バッチは、典型的には多量のアルコールを含有する。室温でバッチを静置または撹拌すると数時間以内に、このアルコールが残留イソシアネート基をブロックする。
【0041】
ポリウレタンウレアの調製中に残留イソシアネート含有物をブロックする場合、そのようなウレアは、合成成分e)として、各鎖末端に位置して末端をキャップするモノマーも有する。
【0042】
これらの合成成分e)は、一方では、NCO基に対して反応性である単官能性化合物、例えばモノアミン、特に第二級モノアミン、またはモノアルコールに由来する。本発明で挙げることができる例は、エタノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、イソノニルオキシプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン、ジエチル(メチル)アミノプロピルアミン、モルホリン、ピペリジンおよびそれらの適当な置換誘導体である。
【0043】
NCO過剰を解消するために、ポリウレタンウレアにおいて実質的に合成成分e)を使用するので、e)の必要量は、本質的にNCO過剰量に依存し、一般的に明記することはできない。
【0044】
合成の際、合成成分e)を使用しないことが好ましい。その場合、非常に高濃度で存在する溶媒アルコールと、未反応イソシアネートとを反応させて、末端ウレタンを生成することが好ましい。
【0045】
本発明のポリウレタン溶液を調製するために、ヒドロキシル基の全てが消費されるまで、溶融物中または溶液中で、ポリカーボネートポリオール成分a)、ポリイソシアネートb)および必要に応じてポリオールd)を反応させる。
【0046】
この場合に使用する、反応に関与する各成分間の化学量論は、先に記載した量的割合による。
【0047】
反応は、好ましくは60〜110℃、より好ましくは75〜110℃、特に90〜110℃の温度で実施する。反応速度のためには、110℃の温度が好ましい。より高い温度を採用してもよいが、そのような場合、使用する各成分によっては、分解の危険性や、得られたポリマーにおける変色の事例が存在する。
【0048】
イソシアネートとヒドロキシル基含有成分の全てとから生成するプレポリマーにとっては、完全反応混合物の粘度が非常に高くなるという危険性は存在するが、溶融物における反応が好ましい。そのような場合、溶媒を添加してもよい。しかしながら、希釈により反応速度が有意に低下するので、溶媒は可能な限り約50重量%以下で用いるべきである。
【0049】
イソシアネート基およびヒドロキシル基を有する成分の反応の場合、反応は、溶融物において1〜24時間以内で実施してよい。少量の溶媒添加により減速するが、反応時間は同等の時間内である。
【0050】
各成分の付加/反応の順は、先に記載した順とは異なっていてよい。このことは特に、ポリウレタンウレアから製造できる被膜の機械的性質を変えるときに有利な場合がある。例えば、ヒドロキシル基含有成分の全てを同時に反応させる場合は、ハードセグメントとソフトセグメントの混合物が生じる。例えば、ポリカーボネートポリオール成分の後に低分子量ポリオールを添加する場合は、規定されたブロックが生じ、得られた被膜の部分で異なった性質が得られる。従って、本発明は、各成分の付加/反応の順を特に限定しない。
【0051】
これらの反応段階の後、別の溶媒を添加し、場合により溶解した連鎖延長剤であるジアミンまたは溶解した連鎖延長剤であるアミノアルコール(成分(c))を添加してよい。
【0052】
例えば反応の開始時に溶媒の全量を添加した場合に起こり得るような、不必要な反応速度低下が起こらないように、別の溶媒は、段階的に添加することが好ましい。また、反応開始時の高い溶媒含量は、溶媒の性質によって少なくとも相互に決まる比較的低い温度をもたらす。このこともまた、反応を減速する。
【0053】
目的粘度に達した後、単官能性脂肪族アミンにより残留NCO含有物をブロックしてよい。溶媒混合物中に存在するアルコールとの反応により、なお残留するイソシアネート基をブロックすることが好ましい。
【0054】
本発明のポリウレタンウレアは、特定の所望の最終用途に一般的な添加剤および成分を更に含んでよい。
【0055】
そのような例は、薬理有効成分、および薬理有効成分の放出を促進する添加剤(薬剤溶出添加剤)である。1つの好ましい態様では、ポリウレタンウレアは、薬理有効成分を含んでなる。
【0056】
医療機器上の被膜に使用してよい薬理有効成分は、例えば、抗血栓剤、抗生物質、抗腫瘍剤、成長ホルモン、抗ウィルス剤、抗血管形成剤、血管形成剤、抗有糸分裂剤、抗炎症剤、細胞周期調節因子、遺伝因子、ホルモン、およびそれらの同族体、誘導体、断片、薬物塩、並びにそれらの組み合わせである。
【0057】
従って、薬理有効成分の特定の例は、抗血栓剤(抗血栓形成剤)、および動脈の急性血栓症、狭窄症または晩発性再狭窄症を抑制するための他の剤を包含する。それらの例は、ヘパリン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子、抗トロンボキサンB剤;抗−Bトロンボグロブリン、プロスタグランジン−E、アスピリン、ジピリジモール、抗トロンボキサンA剤、マウス・モノクローナル抗体7E3、トリアゾロピリミジン、シプロステン、ヒルジン、チクロピジン、ニコランジルなどである。
【0058】
成長因子も同様に、動脈狭窄部位での内膜下線維筋性過形成を抑制するために薬理有効成分として使用できる。或いは、狭窄部位では、所望のあらゆる細胞増殖阻害剤を使用することができる。
【0059】
薬理有効成分は、血管痙攣を防ぐために、血管拡張剤からなってもよい。これは例えば、パパベリンのような鎮痙剤であってよい。薬理有効成分は、カルシウム拮抗薬のような血管作用薬自体、或いはα−およびβ−アドレナリン作用薬または拮抗薬であってよい。また、薬理有効成分は、医療グレードのシアノアクリレートまたは線維素のような生物起源接着剤であってよい。
【0060】
薬理有効成分はまた、(例えば、腫瘍部位で継続して制御放出される抗新生物薬を使用するための)剤用制御放出賦形剤を好ましくは伴った、5−フルオロウラシルのような抗新生物薬であってよい。
【0061】
薬理有効成分は、体内の感染の局所病巣で医療機器の被膜から継続放出するための制御放出賦形剤と好ましくは組み合わせた、抗生物質であってよい。同様に薬理有効成分は、局所組織における炎症を抑制する目的または他の理由のため、ステロイドを含有してよい。
【0062】
適当な薬理有効成分の特定の例は、以下を包含する:
(a)ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヒルジン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ウロキナーゼおよびストレプトキナーゼを包含する細胞溶解物質、それらの同族体、類似体、断片、誘導体および薬物塩;
(b)抗生物質、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、バンコマイシン、アミノグリコシド、キノロン、ポリミキシン、エリスロマイシン;テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、スルホンアミド、それらの同族体、類似体、誘導体、薬物塩およびそれらの混合物;
(c)パクリタキセル、ドセタキセル、免疫抑制剤、例えば、シロリムス、またはエベロリムス、ビオリムスA9、タクロリムスまたはゾタロリムスのようなシロリムス関連リムス誘導体、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファランおよびイホスファミドを包含するアルキル化剤;メトトレキサート、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシルおよびシタラビンを包含する代謝拮抗剤;ビンブラスチンを包含する植物性アルカロイド;ビンクリスチンおよびエトポシド;ドキソルビシン、ダウノマイシン、ブレオマイシンおよびマイトマイシンを包含する抗生物質;カルムスチンおよびロムスチンを包含するニトロソウレア;シスプラチンを包含する無機イオン;インターフェロンを包含する生体反応変性剤;アンギオスタチンおよびエンドスタチン;アスパラギナーゼを包含する酵素;およびタモキシフェンおよびフルタミドを包含するホルモン、それらの同族体、類似体、断片、誘導体、薬物塩並びにそれらの混合物;
(d)抗ウィルス剤、例えば、アマンタジン、リマンタジン、リバビリン、イドクスウリジン、ビダラビン、トリフルリジン、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、ホスホノホルメート、インターフェロン、それらの同族体、類似体、断片、誘導体、薬物塩並びにそれらの混合物;および
(e)抗炎症剤、例えば、イブプロフェン、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロン。
【0063】
本発明は更に、本発明のポリウレタンウレアを含んでなる下塗が適用された基材を提供する。
【0064】
本発明のポリウレタンウレアを含んでなり、化学的性質および/または物理的性質が下塗と異なる仕上塗が、下塗に適用されていることが好ましい場合もある。
【0065】
下塗は特に、薬理有効成分を含有してよい。
【0066】
仕上塗は、下塗より有意に低い濃度、例えば下塗の単位体積あたりに存在する有効成分の量の10%未満の、有効成分を含有してよい。仕上塗が有効成分を含有しない、または有効成分を実質的に含有しないことが特に好ましい。また、仕上塗の存在により、下塗からの有効成分の送達が遅くなる。
【0067】
本発明の基材の1つの特に好ましい態様では、下塗は5〜20μmの厚さを有し、および/または仕上塗は0.5〜10μmの厚さを有する。
【0068】
基材は特に、医療機器であってよい。
【0069】
用語「医療機器」とは、本発明では広く理解される。医療機器の適当な非限定例は、以下である:コンタクトレンズ;カニューレ;カテーテル、例えば、導尿カテーテルまたは尿管カテーテルのような泌尿器カテーテル;中心静脈カテーテル;静脈カテーテル或いは入口カテーテルまたは出口カテーテル;拡張バルーン;血管形成および生検のためのカテーテル;ステント、塞栓症フィルターまたは大静脈フィルターを挿入するために使用するカテーテル;バルーンカテーテルまたは他の拡張性医療機器;内視鏡;喉頭鏡;気管内チューブのような気管機器;人工呼吸装置および他の気管吸引機器;気管支肺胞洗浄カテーテル;冠動脈血管形成術で使用するカテーテル;ガイドロッド、挿入器など;代用血管;ペースメーカー部品;人工内耳;栄養補給のための歯科インプラントチューブ、ドレナージ管;およびガイドワイヤー。
【0070】
本発明のポリウレタンウレアは更に、被膜、例えば、手袋、ステントおよび他のインプラント;体外血液チューブ;膜、例えば透析のための膜;血液フィルター;循環支援のための機器;創傷処置のための処置材料;蓄尿袋および蓄便袋を製造するために使用してよい。医学上の有効成分、例えば、ステントまたはバルーン表面または避妊具のための医学上の有効成分を含有するインプラントも包含される。
【0071】
医療機器が、植え込み型機器、とりわけステントであることが特に好ましい。
【0072】
本発明の別の対象は、本発明のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分含有層、および本発明のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分不含有層を含んでなる層状構造物である。
【0073】
本発明はまた、本発明のポリウレタンウレアの少なくとも1つの層を基材に適用する、基材の被覆方法も提供する。
【0074】
この方法では、有効成分含有ポリウレタンウレアを含んでなる下塗を基材に適用し、有効成分不含有ポリウレタンウレアを含んでなる仕上塗を下塗に適用することが好ましい。
【0075】
本発明はまた、本発明の方法によって製造した基材も提供する。
【実施例】
【0076】
以下において、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0077】
方法:
本発明の実施例および比較例に記載した樹脂のNCO含有量は、DIN EN ISO 11909に従って滴定によって測定した。
固形分は、DIN EN ISO 3251に従って測定した。このために、1〜1.5gのポリウレタンウレア溶液を、減圧乾燥室内で恒量に達するまで50℃で約17時間乾燥した。
特に記載のない限り、%で記載した量は重量%であると理解され、得られた有機ポリウレタンウレア溶液に基づく。
OH価は、DIN 53240に従って測定した。
粘度は、Anton Paar GmbH(ドイツ国オストフィルデルン)製Physics MCR 51レオメーターを用いて測定した。
【0078】
使用した物質および略語:
・Desmophen(登録商標) C2200:ポリカーボネートポリオール、OH価56mgKOH/g、数平均分子量2000g/mol(Bayer MaterialScience AG(ドイツ国レーフエルクーゼン))
・Polyether LB 25:数平均分子量2250g/molおよびOH価25mgKOH/gを有する、エチレンオキシド/プロピレンオキシドに基づく単官能性ポリエーテル(Bayer MaterialScience AG(ドイツ国レーフエルクーゼン))
・TCD Alcohol DM:3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0/2.6]デカン/トリシクロデカンジメタノール(Celanese Corp.(米国ダラス))
・シロリムス:シロリムス(Streptomyces hygroscopics;CAS:53123-88-9;Poli Industria Chimica S.p.A;Rozzano(イタリア国))
・使用したステント:標準的な炭化ケイ素被膜を有さない、長さ18mm、壁厚さ60μmおよび総表面積76.56mmを有するBiotronik(ドイツ国ベルリン)製ProKinetik Stentsシリーズの冠状動脈適応用CoCrステント
【0079】
実施例1:
数平均分子量1300g/molを有し、TCD Alcohol DMに基づく脂環式ポリカーボネートジオールの調製
上部取り付け蒸留器、撹拌機および受器を備えた16L容の圧力反応器に、1.2gのアセチルアセトン酸イットリウム(III)を含む5436gのTCD Alcohol DM、および3810gのジメチルカーボネートを、80℃で導入した。次いで、反応混合物を、窒素雰囲気下2時間にわたって135℃に加熱し、この温度で撹拌しながら24時間維持した。その間、圧力は6.3bar(絶対)に上昇した。続いて、60℃に冷却し、空気を導入した。その後、ジメチルカーボネートとの混合物として、メタノール脱離生成物を蒸留によって除去し、温度を150℃に段階的に上昇させた。次いで、150℃で撹拌を4時間以上継続し、続いて180℃に加熱し、その後、180℃で再び4時間撹拌した。次いで、圧力を20mbarに低下させながら、温度を90℃に下げ、窒素(5L/時)を反応混合物に流通させた。続いて、温度を4時間にわたって180℃に上昇させ、この温度で6時間維持した。この間、ジメチルカーボネートとの混合物として、更なるメタノールを、反応混合物から除去した。
空気の導入および反応バッチの室温への冷却の後、以下の特性を有する黄色がかった固体ポリカーボネートジオールを得た:
Mn=1290g/mol;OH価=87mgKOH/g。
【0080】
実施例2:(本発明)
97.8gのDesmophen C 2200、63.6gの実施例1のポリカーボネートジオール、および47.8gの4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)を、NCO含量が3.3%で一定になるまで、110℃で4時間反応させた。混合物を放冷し、335gのトルエンおよび185gのイソプロパノールで希釈した。室温で、イソホロンジアミン12.6gの1−メトキシプロパン−2−オール92.0g中溶液を添加した。分子量増大の終了および所望の粘度範囲への到達の後、残留イソシアネート含有物をイソプロパノールでブロックするために、室温で15時間撹拌を継続した。これにより、23℃で46,400mPasの粘度を有する、トルエン/イソプロパノール/1−メトキシプロパン−2−オール中27.0%濃度のポリウレタンウレア溶液833.8gを得た。
【0081】
実施例3:(比較)
この実施例は、実施例1のポリカーボネートジオールの添加を伴わない、疎水性被膜の合成を記載している。
195.4gのDesmophen C 2200、47.8gの4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)を、NCO含量が2.8%で一定になるまで、110℃で17時間反応させた。混合物を放冷し、350gのトルエンおよび200gのイソプロパノールで希釈した。室温で、イソホロンジアミン11.5gの1−メトキシプロパン−2−オール85.0g中溶液を添加した。分子量増大の終了および所望の粘度範囲への到達の後、残留イソシアネート含有物をイソプロパノールでブロックするために、室温で20時間撹拌を継続した。これにより、23℃で24,600mPasの粘度を有する、トルエン/イソプロパノール/1−メトキシプロパン−2−オール中29.3%濃度のポリウレタンウレア溶液889.7gを得た。
【0082】
実施例4:(比較)
この実施例は、実施例1のポリカーボネートジオールの添加を伴わない、親水性被膜の合成を記載している。
195.4gのDesmophen C 2200、40.0gのLB 25、および47.8gの4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)を、NCO含量が2.2%で一定になるまで、110℃で19時間反応させた。混合物を放冷し、350gのトルエンおよび200gのイソプロパノールで希釈した。室温で、イソホロンジアミン12.0gの1−メトキシプロパン−2−オール100g中溶液を添加した。分子量増大の終了および所望の粘度範囲への到達の後、残留イソシアネート含有物をイソプロパノールでブロックするために、4時間撹拌を継続した。これにより、23℃で19,300mPasの粘度を有する、トルエン/イソプロパノール/1−メトキシプロパン−2−オール中31.6%濃度のポリウレタンウレア溶液945.2gを得た。
【0083】
実施例5:(比較)
この実施例は、実施例1のポリカーボネートジオールの添加を伴った、親水性被膜の合成を記載している。
97.8gのDesmophen C 2200、63.6gの実施例1のポリカーボネートジオール、30.0gのLB 25、および47.8gの4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)を、NCO含量が2.6%で一定になるまで、110℃で2時間反応させた。混合物を放冷し、335gのトルエンおよび185gのイソプロパノールで希釈した。室温で、イソホロンジアミン12.0gの1−メトキシプロパン−2−オール94.0g中溶液を添加した。分子量増大の終了および所望の粘度範囲への到達の後、残留イソシアネート含有物をイソプロパノールでブロックするために、15時間撹拌を継続した。これにより、23℃で33,300mPasの粘度を有する、トルエン/イソプロパノール/1−メトキシプロパン−2−オール中31.0%濃度のポリウレタンウレア溶液865.2gを得た。
【0084】
実施例6:(比較)
586.2gのDesmophen C 2200、21.6gのブタン−1,4−ジオール、および141.3gの4,4’−ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)を、150℃で140分間反応させた。熱い反応混合物を、80℃に予熱した皿に注ぎ、乾燥室内に90℃で2時間保管した。冷却により固体生成物を得た。ステントを被覆するため、固体生成物は溶媒に溶解しなければならない。このため、得られた固体生成物30gを、70gのトルエン/イソプロパノール混合物(64重量%のトルエン、36重量%のイソプロパノール)に添加し、室温で4時間撹拌した。これにより、23℃で640mPasの粘度を有し、未溶解成分を含まない透明な溶液を得た。
【0085】
実施例7:ステントを被覆するための被覆溶液の調製
ポリマー割合27.0重量%を有する実施例2のポリウレタン原液を、1:80の比で、トルエン54%と2−プロパノール46%の混合物を用いて希釈し、約0.34重量%のポリマー割合を得た。希釈した溶液を、ポリマー重量に基づいて15重量%の、メタノール溶液(約5mg/mL)としての有効成分(シロリムスまたはパクリタキセル)と混合した。被覆溶液のために、0.5gのポリウレタン原液をエルレンマイヤーフラスコに計量添加し、40gのトルエン/2−プロパノール混合物を希釈のために撹拌しながら添加した。次いで、20mgのパクリタキセルまたはシロリムスを4mLのメタノールに溶解し、同様に撹拌しながら添加した。
【0086】
同様に、実施例3、4、5および6のポリウレタン原液を希釈し、ポリマー重量に基づいて15重量%の有効成分と混合した。
【0087】
実施例8:一般的なステント被覆方法
a)単一被覆系
被覆前に、超音波洗浄機でクロロホルムを用いてステントを洗浄した。次いで、洗浄したステントを光学顕微鏡で調べ、必要な場合は再び洗浄した。ウルトラミクロ天秤を用いて、未被覆ステントの初期重量を測定した。
噴霧被覆装置を用いてステントを被覆した。この被覆技術の基礎は、実施例7のような被覆溶液を、0.3〜0.5barの噴霧圧でノズル内において圧縮空気により霧化することである。使用する噴霧ノズルの内径は、0.1〜3mmであってよい。噴流中に位置し、ステントを長軸中心に回転させるマウントに、本発明で被覆するステントを配置した。ステントとノズルの距離は、10〜100mmであってよい。本発明の被覆手順の進行は、ステントの重量測定、および初期重量に対する差の算出により確認した。被覆完了の後、減圧乾燥室内において、40℃で約10mbarの圧力下、12時間〜24時間ステントを乾燥した。
【0088】
b)多重被覆系
第一下塗は、実施例7に記載した量のシロリムスを添加した、実施例7に記載の(実施例2〜6のポリウレタン溶液から調製した)希釈したポリマー原液からなる。先の段落に記載したように、これらの有効成分含有ポリウレタン溶液でステントを被覆し、記載したように乾燥した。次いで、第二工程において、シロリムスを含有しない実施例7の希釈した純ポリウレタン溶液を、仕上塗として、乾燥した有効成分含有ポリウレタン被膜に適用し、記載したように乾燥した。各々の場合において採用した仕上塗は、有効成分含有マトリックスとして使用したものと同じポリウレタン溶液であった。
【0089】
c)塗り厚の測定
共焦点レーザー顕微鏡(Olympus LEXT OLS 300)を用いて、上記のように被覆したステントについて、適用したポリマー/有効成分被膜の塗り厚を測定した。選択した下塗重量1000〜1100μgで、ステント上の様々な測定位置において6μm〜14μmの塗り厚が測定された。被覆重量100μgの仕上塗で、1.2μm〜1.4μmの塗り厚を得た。被覆重量700μgの仕上塗で、8μm〜9μmの塗り厚を得た。
【0090】
実施例9:一般的な薬剤放出測定方法
実施例8の被覆ステントを、バルーン付きカテーテル(Biotronik(ドイツ国ベルリン)製ステントシステムLekton 3.0/20のバルーン付きカテーテル)に手作業で圧着した。各々の場合において、ねじ蓋で閉めることができ、37℃に加熱した(付加的に、0.05重量%の非イオン性洗浄剤Brij 35および3mg/Lの酸化防止剤BHT(ブチルヒドロキシトルエン)を含有する)0.9%濃度NaCl水溶液2mLを導入したガラス瓶に、圧着したステントを浸し、手動ポンプ(Guidant(Boston Scientific))を用いて10barの圧力で拡張した。ガラス瓶を密閉し、37℃で振盪機(IKA MS 3 basic)を用いてゆっくりと振盪した。予め設定した時間の後、溶離媒体からステントを取り出し、ティッシューの上で乾燥した。次いで、溶離媒体2mLが入ったガラス瓶にステントを再び入れ、37℃で振盪した。
【0091】
有効成分の放出量は、HPLC装置(Knauer Berlin;UV検出器K-2501;HPLCポンプK-1001;Solvent Organizer K-1500;Smartline Autosampler 3800;Jet Stream Oven、Eurospher-100カラム、C18、120×4 mm)を用いて測定した。1mL/分の流速で、シロリムス用移動相として、超純水とアセトニトリルの混合物(35/65;v/v)を使用し、パクリタキセル用移動相として、アセトニトリルとKHPO水溶液の混合物(pH=3.5)(50/50;v/v)を使用した。測定の際、UV検出器は、測定波長254nmに設定した。
【0092】
実施例10:放出量測定の結果
本発明の目的は、有効成分シロリムスを数週間わたって連続して放出するステント被膜を開発することである。このため、実施例7〜9の記載に従って、有効成分含有ポリウレタン下塗に加えて、有効成分不含有ポリウレタンの量を増加させた仕上塗も有するステントを製造した。以下の一連の表は、有効成分不含有仕上塗を伴わないか、または有効成分不含有仕上塗の重量を増加させて伴った、有効成分含有ポリウレタン被膜からのシロリムスの放出速度を示す。
【0093】
それぞれの被膜について、2つの表およびグラフを示す:シロリムスの絶対量としての放出、および使用したシロリムスの割合としての放出。値は、対象となる時点で累積的に放出された量に相当する。
【0094】
1.実施例2のポリウレタン(本発明)の被膜を有するステント
【表1】

【0095】
【表2−1】

【0096】
【表2−2】

【0097】
【表3−1】

【0098】
【表3−2】

【0099】
2.実施例3のポリウレタン(比較)の被膜を有するステント
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
3.実施例4のポリウレタン(比較)の被膜を有するステント
【表7】

【0103】
【表8】

【0104】
【表9】

【0105】
4.実施例5のポリウレタン(比較)の被膜を有するステント
【表10】

【0106】
【表11】

【0107】
【表12】

【0108】
5.実施例6のポリウレタン(比較)の被膜を有するステント
【表13】

【0109】
【表14】

【0110】
6.結果の考察
開発の目的は、被膜中に存在する貯留部から数週間にわたって連続して少量ずつ有効成分を送達するステント被膜を製造することであった。
【0111】
原データは以下のことを示している。
実施例2(本発明):長期にわたって放出が起こった。200時間後もなお、シロリムスが連続して放出された。有効成分含有被膜上に有効成分不含有ポリマー被膜を有する被膜が、有意な効果を示した。これにより、放出速度が更に低下した。200時間を超えた後もなお、貯留有効成分の全ては放出されず、有効成分が連続して送達された。
【0112】
実施例3(比較):迅速な放出が起こった。約30時間後、貯留有効成分の全てが放出された。薬剤不含有仕上塗の適用により、有意な放出減速は起こらなかった。
【0113】
実施例4(比較):迅速な放出が起こった。約30時間後、貯留有効成分の全てが放出された。薬剤不含有仕上塗の適用による放出減速は、実質的には起こらなかった。仕上塗は、使用有効成分の70%を超える放出を防いだ。
【0114】
実施例5(比較):迅速な放出が起こった。約30時間後、貯留有効成分の全てが放出された。薬剤不含有仕上塗の適用により、有意な放出減速は起こらなかった。
【0115】
実施例6(比較):迅速な放出が起こった。放出された物質の量は、いずれの他のステントより実質的に多かった。約20時間後、貯留有効成分の全てが放出された。
【0116】
比較化合物の全てについて、30時間以内に、貯留有効成分の全てが放出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で示される構成単位を有し、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー単位の少なくとも1つで終端されていないポリウレタンウレア。
【請求項2】
平均ヒドロキシル官能価1.7〜2.3を好ましくは有するポリカーボネートポリオール成分に基づくことを特徴とする、請求項1に記載のポリウレタンウレア。
【請求項3】
ポリカーボネートポリオール成分が、炭酸誘導体と式(II):
【化2】

で示される二官能性アルコールとの反応により得ることができるポリカーボネートポリオールa1)を含んでなることを特徴とする、請求項2に記載のポリウレタンウレア。
【請求項4】
ポリカーボネートポリオール成分が、ポリカーボネートポリオールa1)に加えて、別のポリカーボネートポリオールa2)を含んでなることを特徴とする、請求項3に記載のポリウレタンウレア。
【請求項5】
ポリカーボネートポリオールa2)が、平均ヒドロキシル官能価1.7〜2.3およびOH価により測定した分子量400〜6000g/molを有し、ヘキサン−1,6−ジオール、ブタン−1,4−ジオールまたはそれらの混合物に基づく化合物を含んでなることを特徴とする、請求項4に記載のポリウレタンウレア。
【請求項6】
30℃でジメチルアセトアミド中で測定した数平均分子量1000〜100,000g/molを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタンウレア。
【請求項7】
薬理有効成分を含んでなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタンウレア。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリウレタンウレアを含んでなる下塗が適用された基材。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタンウレアを含んでなり、化学的性質および/または物理的性質が下塗と異なる仕上塗が、下塗に適用されていることを特徴とする、請求項8に記載の基材。
【請求項10】
下塗が薬理有効成分を含んでなることを特徴とする、請求項9に記載の基材。
【請求項11】
仕上塗が有効成分を含まないことを特徴とする、請求項9または10に記載の基材。
【請求項12】
下塗が5〜20μmの塗り厚を有し、および/または仕上塗が0.5〜10μmの塗り厚を有することを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の基材。
【請求項13】
医療用品、好ましくは植え込み型物品、より好ましくはステントであることを特徴とする、請求項9〜12のいずれかに記載の基材。
【請求項14】
請求項7に記載のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分含有層、および請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの有効成分不含有層を含んでなる層状構造物。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリウレタンウレアを含んでなる少なくとも1つの層を基材に適用する、基材の被覆方法。
【請求項16】
請求項7に記載の有効成分含有ポリウレタンウレアを含んでなる下塗を基材に適用し、請求項1〜6のいずれかに記載の有効成分不含有ポリウレタンウレアを含んでなる仕上塗を下塗に適用することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法により得ることができる被覆基材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2013−514395(P2013−514395A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543632(P2012−543632)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069393
【国際公開番号】WO2011/082946
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】