説明

ステント

【課題】従来のステントと比較して、細胞接着性が低いステントの提供。
【解決手段】ステント本体の表面に、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物からなり、細胞接着性をコントロールすることができるポリマー層を有するステント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体内の管腔に生じた狭窄部もしくは閉塞部に留置することにより、これらの病変部の開存状態を維持するステントに関する。
【背景技術】
【0002】
一つの例として、虚血性心疾患に適用される血管形成術の場合について説明する。
我が国における食生活の欧米化が、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の患者数を急激に増加させている。そしてこれを受け、それらの冠動脈病変を軽減化する方法として、経皮的経血管的冠動脈形成術(PTCA)が行われ、飛躍的に普及してきている。
【0003】
PTCAとは、次に示すような、病変部の血管内腔を拡張して血流を改善する方法である。
【0004】
まず、患者の脚または腕の動脈に小さな切開を施してイントロデューサーシース(導入器)を留置し、その内腔を通じてガイドワイヤを先行させながら、ガイドカテーテルと呼ばれる長い中空のチューブを血管内に挿入する。
【0005】
そして、例えば病変部が冠状動脈にあれば、冠状動脈の入口にガイドカテーテルを配置し、ガイドワイヤを抜き取り、別のガイドワイヤとバルーンカテーテルをガイドカテーテルの内腔に挿入し、ガイドワイヤを先行させながらバルーンカテーテルをX線造影下で患者の冠状動脈の病変部まで進めて、バルーンを病変部内に位置させる。
【0006】
さらに、その位置で医師がバルーンを所定の圧力で30〜60秒、1回あるいは複数回膨らませれば、病変部の血管内腔を拡張することができる。
【0007】
このようなPTCAは、現在では技術的な発展により適用症例が増加しており、PTCAの適用初期には、限局性(病変の長さが短いもの)で一枝病変(1つの部位にのみ狭窄がある病変)のものであったが、より遠位部で偏心的で石灰化しているようなもの、そして多枝病変(2つ以上の部位に狭窄がある病変)へと、PTCAの適用が拡大されている。
【0008】
しかしながら、PTCAにより病変部の血管内腔を拡張しても、血管内膜の増殖が起こり、再狭窄が30〜40%の割合で発生する。
【0009】
そこで、この対策としてステントが用いられる場合がある。
【0010】
このステントとは、血管あるいは他の管腔が狭窄または閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄または閉塞部位を拡張し、その内腔を確保するために狭窄または閉塞部位に留置することができる管状の医療用具である。
【0011】
それらの多くは、金属材料または高分子材料からなる医療用具であり、例えば、金属材料や高分子材料からなる管状体に細孔を設けたものや、金属材料のワイヤや、高分子材料を繊維状に編み上げて円筒形に成形したもの等、様々な形状のものが提案されている。
【0012】
このようなステントを、上記のようなPTCAを施した後の狭窄または閉塞部位に留置すれば、ある程度、再狭窄の発生を抑制することができる。
しかし、それだけでは顕著な効果を発揮することはできない。
【0013】
そこで、近年になり、このステントに抗癌剤等の生物学的生理活性物質(以下、「薬剤」ともいう)を、ポリマーを用いて担持させることによって、管腔の留置部で長期にわたって、局所的に、この薬剤をステントから放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みがなされている。
【0014】
この薬剤をポリマー中に含有させてステント表面に被覆したり、ステント表面の薬剤をポリマーで被覆すれば、ステント表面に薬剤を保持することができる。さらにステントを狭窄部等で拡張した際に、ポリマーが伸張するので、薬剤がステント表面から剥離することもない。
このような方法で、再狭窄率を低下させることができる。
【0015】
ここで、この薬剤をステントの表面に担持させるために用いられるポリマーとしては、生体適合性ポリマーや生分解性ポリマーが用いられるが、より好ましくは生分解性ポリマーが用いられる。ポリマーの全部または一部が薬剤の放出後も体内に留まることで、当該部位にポリマー起因の慢性炎症や血栓症が発生する場合があるためである。
【0016】
このような、生分解性ポリマーによりその表面に薬剤を担持したステントとして、例えば特許文献1には、再狭窄は血管形成術の方法による動脈の壁の損傷に対する自然の治療効果の反応であると思われるので、これを治療するための物質を備えたステント、および適用された薬剤の治療上重要な量を失うことなく、選択された血管に配達されると共にその中で拡張するステントを与えることを目的に、以下に挙げるステップを含んでいることを特徴とする血管内ステントを製造する方法:(a)全般的に円筒形のステントを製造する方法;(b)溶媒と、溶媒に溶解されたポリマーと、溶媒に分散された治療のための物質を含む溶液をステント本体に適用する;そして(c)溶媒を蒸発させる、という血管内ステントを製造する方法が記載されている。
そして、このポリマーは生体吸収性のポリマーであってもよく、具体的にはポリ(L−ラクティックアシッド)、ポリ(ラクタイドーコーグリコライド)等が挙げられている。
【0017】
また、例えば、特許文献2には、動脈の内膜肥厚の予防、治療効果を有する薬剤を強固に付着し、かつ該薬剤を体液中で徐放することができるように生体適合性ポリマーや生分解性ポリマーでコーティングしたステントを提供することを目的に、薬剤を生体適合性ポリマー及び/又は生分解性ポリマーを用いて付着・コーティングしたステントについて記載されている。
そして、この生分解性ポリマーの例示として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリ−L−リジン等のポリアミノ酸、澱粉、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリ−β−ヒドロキシアルカノエートが挙げられており、さらにこれらのポリマーは単独でも、適宜組み合せても利用しうることが記載されている。
【0018】
このような生体分解性のポリマーを表面に有するステントであれば、一定時間経過後に、そのポリマーが消失するので、ポリマー起因の慢性炎症や血栓症が発生することはない。
【0019】
以上のようにステントの性能は徐々に向上してきた。つまり、当初のステントは、PTCA適用後の再狭窄の抑制のために用いられていた。そして、その抑制率の向上(再狭窄率の低下)のためにポリマーを用いて表面に薬剤を担持させたステント、およびそのポリマーを生分解性のものとすることで、ポリマー起因の慢性炎症や血栓症が抑制されたステントが提案された。
【特許文献1】特開平8−33718号公報
【特許文献2】特許3476604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、ステントに細胞が接着し、ステントに接着した細胞が増殖した結果、再狭窄率が高くなる場合があることを、本発明者は見出した。
【0021】
また、表面に薬剤やポリマーを有さない当初のステント(つまり、単なる金属製のステント等)であっても、表面に薬剤や生分解性等のポリマーを有するステントであっても、細胞接着性があり、ステント表面の細胞接着性を、より下げる必要があることを、本発明者は見出した。
【0022】
従って、本発明は、従来のステントが有していた性能を有した上で、さらに、ステント表面の細胞接着性が低く再狭窄率が低いステントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は検討を重ね、ステント本体の表面に、特定種類の生分解性ポリマーの層を有するステントが本発明の課題を解決することを見出した。
【0024】
即ち、本発明は、下記(1)〜(9)である。
【0025】
(1)ステント本体の表面に、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物からなり、細胞接着性をコントロールすることができるポリマー層を有するステント。
【0026】
(2)前記ステント本体が、金属材料からなる上記(1)に記載のステント。
【0027】
(3)前記ステント本体が、高分子材料からなる上記(1)に記載のステント。
【0028】
(4)前記組成物が、さらに生物学的生理活性物質を含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のステント。
【0029】
(5)前記ステント本体と前記ポリマー層との間に、さらに前記生物学的生理活性物質からなる層を有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のステント。
【0030】
(6)前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つである上記(1)〜(5)のいずれかに記載のステント。
【0031】
(7)前記生分解性ポリエステル構成単位が、乳酸である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のステント。
【0032】
(8)前記多糖が、ヒアルロン酸、アミロース、プルラン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、およびヘパラン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである上記(1)〜(7)のいずれかに記載のステント。
【0033】
(9)前記共重合体における前記多糖の含有量が1〜50質量%である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のステント。
【発明の効果】
【0034】
本発明のステントは、従来のステントと同様にポリマー起因の慢性炎症や血栓症が発生することなく、さらに、従来のステントと比較して細胞接着性が低い。このため再狭窄率も低い。
【0035】
また、本発明のステントにおいては、前記組成物が、さらに生物学的生理活性物質を含有することが好ましく、これにより、ステントを拡張しても該組成物の柔軟性が高いので、ステント本体の表面に生物学的生理活性物質を担持しつづけることができ、さらに再狭窄率を低下させることができるという効果を奏する。
【0036】
また、本発明のステントにおいては、前記ステント本体と前記ポリマー層との間に、さらに前記生物学的生理活性物質からなる層を有することが好ましく、これにより、ステントを拡張しても該組成物の柔軟性が高いので、ステント本体の表面に生物学的生理活性物質を担持しつづけることができ、さらに再狭窄率を低下させることができるという効果を奏する。さらに、そのポリマー層の厚さを調整することで、この生物学的生理活性物質の徐放期間を調整することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、ステント本体の表面に、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物からなり、細胞接着性をコントロールすることができるポリマー層を有するステントである。
以下において、このステントを「本発明のステント」ともいう。
また、この「多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物」を、「生分解性組成物」ともいう。
【0038】
<ステント本体>
本発明で用いるステント本体の材料は、本発明のステントを血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体内の管腔に生じた病変部に留置することができる強度等を有すれば、その材料、形状、大きさなどは特に限定されない。留置手段としてはバルーン拡張手段が利用できるが、ステント本体の材料が弾性体であれば、この弾性力を利用した自己拡張手段を用いることができる。
【0039】
本発明で用いるステント本体の材料は、特に限定されず、金属材料、高分子材料、セラミックス等を用いることができるが、金属材料を用いることが好ましい。強度に優れ、本発明のステントを病変部に確実に留置することが可能だからである。
【0040】
ここで、金属材料としては、例えばステンレス鋼、Ni−Ti合金、タンタル、ニッケル、クロム、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。そして、これらの中でも、ステンレス鋼であることが好ましく、さらにSUS316Lであることが最も好ましい。耐食性が高いからである。
【0041】
金属材料で形成されたステント本体の多くは、バルーンを用いて拡張することができる。また、擬弾性と呼ばれる金属材料、例えば、Ni−Ti合金等の応力が一定で歪みが大きく変化する金属材料、あるいは応力の増加に応じてなだらかに歪みが増加し変化する金属材料で形成されたステント本体は、自己拡張が可能である。従って、事前に圧縮保持したステントを、病変部で圧縮を開放することで、弾性力により自ら拡張する。
【0042】
また、本発明で用いるステント本体の材料は高分子材料であることが好ましい。理由は、柔軟性に優れ、拡張した際に血管壁に過度の力が加わらないためである。
【0043】
ここで、高分子材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類またはそれを構成単位とするポリエステル系エラストマー、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド類またはそれを構成単位とするポリアミド系エラストマー、ポリウレタン類、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはそれらを構成単位とするポリオレフィン系エラストマー等のポリオレフィン類、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等が挙げられる。
【0044】
このような中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、セルロースナイトレートが好ましい。理由は、血小板が付着し難く、生体組成に対して刺激性を示さず、生物学的生理活性物質を含有させた際に、その溶出が可能であるためである。
【0045】
本発明で用いるステント本体の形状は、生体内の管腔に安定して留置することができる強度を有するものであれば特に限定されない。例えば、金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒状に形成したものや、金属材料やセラミックスよりなる管状体に細孔を設けたものが好適に挙げられる。
【0046】
本発明で用いるステント本体は、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプのいずれであっても良い。また、このステント本体の大きさは適用箇所に応じて適宣選択すれば良い。
【0047】
<ポリマー層>
本発明のステントは、上記のようなステント本体の表面にポリマー層を有する。このポリマー層は、生分解性組成物からなり、細胞接着性をコントロールすることができるものである。
【0048】
<生分解性組成物>
この生分解性組成物は、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物である。
【0049】
ここで、共重合体の重合形態は特に限定されず、これを含有する組成物からなるポリマー層が、細胞接着性をコントロールすることができるものであればよい。
【0050】
例えば、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との統計共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体、およびランダム共重合体であってもよいが、好ましくはグラフト共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体であり、さらに好ましくはグラフト共重合体である。
グラフト共重合体は、具体的には多糖を骨格として、生分解性ポリエステル構成単位がグラフトされたものである。
【0051】
そして、さらに好ましくは、共重合体における多糖の含有量が1〜50質量%であり、1〜30質量%がさらに好ましく、5〜20質量%が最も好ましい。このような範囲であれば、生分解性組成物を生体内に留置した場合に、分解に伴う炎症反応等を起こさない生分解速度であって、かつ、生体内で必要とされる期間の経過後には生体内から消失している生分解速度に調節することができるからである。この生体内で必要とされる期間とは、好ましくは2週間〜1年、さらに好ましくは1ヶ月〜10ヶ月、最も好ましくは2ヶ月〜6ヶ月である。また、このような範囲であれば、生分解性組成物に細胞が付着し難いため、細胞接着に起因する再狭窄を抑制することができる。
【0052】
<多糖>
また、多糖は生体内で安定であるものであれば特に限定されないが、ヒアルロン酸、アミロース、プルラン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、およびヘパラン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つであれば好ましい。理由は、ステントの拡張操作に追随する程度の延性を有するからである。
また、最も好ましくは多糖がデキストランのみの場合である。理由は、血管内で最も安定であり、血漿増量剤として実績があるためである。
【0053】
このような多糖の重量平均分子量は特に限定されないが、1000〜100000g/molが好ましく、5000〜50000g/molがさらに好ましく、15000〜30000g/molが最も好ましい。このような範囲の重量平均分子量である多糖を用いた共重合体を含有する生分解性組成物からなるポリマー層は、細胞接着性が低く、ステントの拡張時の拡張に耐え得る、より高い強度と柔軟性とを有することとなるので好ましい。
【0054】
<生分解性ポリエステル構成単位>
また、生分解性ポリエステル構成単位は重合した場合に生分解性ポリエステルとなるものであって、前記多糖と共重合体を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、乳酸(L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸)、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)、カプロラクトン(α−カプロラクトン、β−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等)、コハク酸とエチレングリコールおよび/またはブタンジオール(1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等)との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1つ、またはこれらのオリゴマーを挙げることができる。
【0055】
このような生分解性ポリエステル構成単位は、乳酸であることが好ましく、DL乳酸であることが、さらに好ましい。理由は、ポリマー層のバルーン拡張操作に追随するための強度が、より高くなり、柔軟性も高くなるためである。
【0056】
そして、さらに好ましくは、デキストランを骨格として、乳酸がグラフトされたポリ乳酸グラフト化デキストランである。理由はデキストランは血管内における安定性に優れており、血漿増量剤として実績があり、さらに乳酸は生体由来材料であるためである。
【0057】
そして、さらに好ましくは前記ポリ乳酸グラフト化デキストランの乳酸の1分子あたりのグラフト本数が1〜100本、さらに好ましくは1〜50本、最も好ましくは10〜30本である。理由は、より細胞接着性が低くなるためである。
【0058】
このような共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、10,000〜1,000,000g/molが好ましく、50,000〜800,000g/molがさらに好ましく、100,000〜500,000g/molが最も好ましい。このような範囲の重量平均分子量である共重合体を含有する生分解性組成物からなるポリマー層は、細胞接着性が低く、拡張に耐え得る、より高い強度と柔軟性とを有することとなるので好ましい。
【0059】
<共重合体の合成法>
このような多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体の合成法は特に限定されず、通常の方法を適用すればよい。
例えば、ブロック共重合体であればリビング重合で、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との各々を構成する単量体を順に重合させる方法、末端に活性基をもつ重合体をまず合成しその末端から別の単量体を重合させる方法、異種の重合体どうしをつなぐ方法などを挙げることができる。
【0060】
また、例えば、グラフト共重合体であれば、生分解性ポリエステル構成単位に多糖を化学的につなぐ方法や、多糖の上に生分解性ポリエステル構成単位を構成する単量体分子やオリゴマーを重合させる方法、マクロマーを用いる方法などが挙げられる。
【0061】
また、好ましい合成法としては、多糖の水酸基の大部分をトリメチルシリル(TMS)基で保護して有機溶媒に可溶化させ、残存する未反応の水酸基を開始点としてラクチド(環状ジエステル)を重合する方法(T.Ouchi,T.Kontani,Y.Ohya,「Modification of polylactide upon physical properties by solution-cast blends from polylactide and polylactide-grafted dextran」,Polymer,2003年4月10日(:申請承認日),第44巻、p3927を参照)が挙げられる。
【0062】
また、共重合体は、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との他に、他のモノマーを共重合することができる。
【0063】
共重合可能なモノマーとしては、例えば、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸のようなヒドロキシカルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールのような分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸のような分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0064】
<添加剤>
本発明で用いる生分解性組成物は、このような共重合体を含有する組成物であるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他に添加剤を含有してもよい。
例えば、生体に害を及ぼさない顔料、染料、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、粘度好物、チタン酸カリウム繊維等)、充填材(カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化チタン、金属粉、木粉、籾殻等)、耐熱安定剤、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤等を含有してもよい。これらは本発明の効果を阻害しない範囲内、例えば、生分解性組成物全体に対する含有率として20質量%以下、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下含有していてもよい。
【0065】
本発明で用いる生分解性組成物は、上記のような共重合体を含有する組成物であるが、さらに生物学的生理活性物質を含有することが好ましい。理由は、ステント表面が細胞接着を抑制でき、さらにステント本体の表面に生物学的生理活性物質を担持しつづけることができるので、再狭窄率をさらに低下させることができるからである。また、この共重合体はステントを拡張しても剥がれ落ちることがないので、これらの効果が有効に発揮される。
【0066】
このような生物学的生理活性物質は、前記共重合体の100質量部に対して、10〜500質量部、好ましくは、20〜300質量部、さらに好ましくは30〜200質量部の割合で、前記生分解性組成物に含有される。
このような割合であれば、生分解性組成物の物性と分解性とを考慮しつつ、できるだけ多くの量の本発明の生物学的生理活性物質を搭載することができるという点で好ましい。
【0067】
この生物学的生理活性物質は、本発明のステントを病変部に留置した際に起こりうる脈管系の狭窄、閉塞を抑制するものであれば特に限定されず、任意に選択することができる。例えば、前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つであれば、本発明のステントを病変部に留置した際に起こりうる脈管系の狭窄、閉塞を、確実に抑制するので好ましい。
【0068】
前記抗癌剤としては、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート等が好ましい。
【0069】
前記免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、エベロリムス、バイオリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。
【0070】
前記抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
【0071】
前記抗リウマチ剤としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット等が好ましい。
【0072】
前記抗血栓薬としては、例えば、へパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0073】
前記HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ニスバスタチン、イタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン等が好ましい。
【0074】
前記ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。
【0075】
前記カルシウム拮抗剤としては、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0076】
前記抗高脂血症剤としては、例えば、プロブコールが好ましい。
【0077】
前記インテグリン阻害薬としては、例えば、AJM300が好ましい。
【0078】
前記抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。
【0079】
前記抗酸化剤としては、例えば、カテキン類、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β−カロチン等が好ましい。カテキン類の中では、エピガロカテキンがレートが特に好ましい。
【0080】
前記GPIIbIIIa拮抗薬としては、例えば、アブシキシマブが好ましい。
【0081】
前記レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0082】
前記フラボノイドとしては、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジンが好ましい。
【0083】
前記カロチノイドとしては、例えば、β―カロチン、リコピンが好ましい。
【0084】
前記脂質改善薬としては、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
【0085】
前記DNA合成阻害剤としては、例えば、5−FUが好ましい。
【0086】
前記チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。
【0087】
前記抗血小板薬としては、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルが好ましい。
【0088】
前記抗炎症薬としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
【0089】
前記生体由来材料としては、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等が好ましい。
【0090】
前記インターフェロンとしては、例えば、インターフェロン−γ1aが好ましい。
【0091】
前記NO産生促進物質としては、例えば、L−アルギニンが好ましい。
【0092】
これらの生物学的生理活性物質を、1種類の生物学的生理活性物質にするのか、もしくは2種類以上の異なる生物学的生理活性物質を組み合わせるのかについては、症例に合せて適宜選択すればよい。
【0093】
上記のように、本発明のステントは前記ステント本体の表面に、このような生分解性組成物からなるポリマー層を有するが、このポリマー層の厚さ(平均厚さ)は、病変部への到達性(デリバリー性)や、ステント拡張時に必要な強度、および生体内で必要な期間の後には全て分解される分解速度等を考慮して決定されるべきである。具体的には、ポリマー層が厚すぎれば、デリバリー性は損なわれ、ステント拡張時にはポリマー層が破損し、さらに必要以上に生体内に留まることとなる。逆に、ポリマー層が薄すぎてもステント拡張時にはポリマー層が破損するし、また、生体内で必要な期間存在することができず、再狭窄を発生させることとなる。
【0094】
このポリマー層が生体内に存在すべき期間は、ポリマー層が生物学的生理活性物質を含有する場合と、含有しない場合とで異なる。
【0095】
ポリマー層が生物学的生理活性物質を含有する場合であれば、ポリマー層が生体内に存在すべき期間は、2週間〜1年、好ましくは3週間〜10ヶ月、最も好ましくは1ヶ月〜6ヶ月である。
また、ポリマー層が生物学的生理活性物質を含有しない場合であれば、ポリマー層が生体内に存在すべき期間は、2週間〜1年、好ましくは1ヶ月〜10ヶ月、最も好ましくは2ヶ月〜6ヶ月である。
【0096】
このように、ポリマー層の厚さ(平均厚さ)は、病変部への到達性(デリバリー性)や、ステント拡張時に必要な強度、および生体内で必要な期間の後には全て分解される分解速度等を考慮して決定すればよいが、ポリマー層が生物学的生理活性物質を含有する場合であれば、好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜50μmであり、最も好ましくは1〜10μmである。
また、ポリマー層が生物学的生理活性物質を含有しない場合であれば、好ましくは1〜75μmであり、さらに好ましくは1〜25μmであり、最も好ましくは1〜10μmである。
【0097】
また、本発明のステントにおいて、前記ステント本体と前記ポリマー層との間に、さらに前記生物学的生理活性物質からなる層を有することが好ましい。理由は、ステントを拡張しても、ステント本体の表面に生物学的生理活性物質を担持しつづけることができるので、再狭窄率を防止することができるという効果を奏するからである。さらに、そのポリマー層の厚さを調整することで、この生物学的生理活性物質の徐放速度を調整することができるという効果を奏するからである。
【0098】
ここで生物学的生理活性物質は、本発明のステントを病変部に留置した際に起こりうる脈管系の狭窄、閉塞を抑制するものであれば特に限定されず、任意に選択することができ、上述した生分解性組成物に含有させることができる生物学的生理活性物質と同じものを用いることができる。
【0099】
また、この生物学的生理活性物質の層の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されないが、好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜50μmであり、最も好ましくは1〜10μmである。この範囲の厚さの層であれば、病変部への到達性(デリバリー性)や血管壁への刺激性等、ステントが有すべき性能を損なわず、さらに、病変部の治療に必要な量の本発明の生物学的生理活性物質を搭載することができる。
【0100】
尚、本発明のステントにおいて、前記ステント本体の表面の前記ポリマー層、および前記生物学的生理活性物質からなる層は、各々複数あってもよい。
【0101】
このような本発明のステントとしては、例えば、コイル状のステント、網状のステント、多孔質の管状体のステント等が挙げられる。
【0102】
本発明のステントの形状としては、例えば、図1に示すものを挙げることができる。
図1において、ステント本体1は、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、目的部位に留置され、その形状を維持する。
図1に示す態様において、ステント本体1は、線状部材2からなり、内部に切り欠き部を有する略菱形の要素3を基本単位とする。複数の略菱形の要素3が、略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニット4をなしている。環状ユニット4は、隣接する環状ユニットと線状の連結部材5を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット4が一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント本体(ステント)1は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。ステント本体(ステント)1は、略菱形の切り欠き部を有しており、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0103】
図1に示した本発明のステントが、ステント本体1の表面に、生物学的生理活性物質からなる層6を有し、さらにその上面に生体内分解性組成物からなる層7を有する好ましい態様である場合のA―A断面を示したものが図2であり、図2のB―B断面を示したものが図3である。
【0104】
また、図1に示した本発明のステントが、ステント本体1の表面に、生物学的生理活性物質9と生体内分解性組成物8とからなる層を有する好ましい態様である場合のA―A断面を示したものが図4であり、図4のB―B断面を示したものが図5である。
【0105】
ステント本体1が線状部材2で構成される場合、ステント本体1を多数の切欠き部を有するように構成する線状部材2の幅方向の長さは、好ましくは0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.05〜0.2mmである。
【0106】
このような径方向の拡縮可能な構造のステント本体の、形状の他の具体例としては、特開平9−215753号公報、特開平7−529号公報に開示されているような弾性線材をコイル状に屈曲させて、それを複数接続して円筒状にされた例で弾性線材同士の隙間が切欠き部をなすステント本体;特表平8−502428号公報および特表平7−500272号公報に開示されているような、弾性線材をジグザグ状に屈曲させてそれを複数接続して円筒状にされた例で弾性線材同士の隙間が切欠き部をなすステント本体;特表平2000−501328号公報および特開平11−221288号公報に開示されているような、弾性線材をへび状平坦リボンの形に曲げて、これをマンドリルにヘリックス状に巻きつけて円筒形状にされた例で弾性線材同士の隙間が切欠き部をなすステント本体;特表平10−503676号公報に開示されているような、図1のステント本体とは切欠き部の形状が異なり、メアンダー(meander)模様の形状であるメッシュ形状の構造をしたステント本体;特表平8−507243号公報に開示されているような、板状部材をコイル状に屈曲させて円筒形状にされた例で隣接するコイル部分間の隙間が切欠き部をなすステント本体等が挙げられる。
【0107】
また、特公平4−68939号公報には、弾性板状部材をらせん状に成形して円筒状にされた例で隣接するらせん部分の隙間が切欠き部をなすステント本体、弾性線材を編組して円筒状にされた例で弾性線材同士の隙間が切欠き部をなすステント本体を含む複数の異なる構造を有する円筒形状のステント本体等が例示される。この他、ステント本体は、板バネコイル状、多重螺旋状、異型管状等であってもよい。
【0108】
また、特公平4−68939号公報の図2(a)、(b)には弾性板状部材を渦巻き状に曲げて円筒形状にしたステント本体が記載されているが、このように円筒体の側面に切欠き部を有しないが、円筒体の径方向に拡縮変形可能に構成された円筒形状のステント本体も、本発明のステント本体として使用することができる。これら上記の全ての文献および特許出願は、引用することで本明細書の一部をなす。
【0109】
本発明のステントの大きさは、適用箇所に応じて適宜選択することができる。例えば、心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常拡張前における長手方向に垂直方向(径方向)の断面の円の直径(以下、単に「外径」ともいう)は1.0〜3.0mm、長さは5〜50mm、厚さは0.01〜0.5mmであるのが好ましい。
【0110】
尚、上記に示したステント本体1は一態様に過ぎず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む。
【0111】
<ステントの製造方法>
本発明のステントを製造する方法を示す。
まず、ステント本体の製造方法を示す。
ステント本体は、公知の方法、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、真空成形、ブロー成形等の方法で製造することができる。以下に詳細を例示する。
【0112】
例えば、金属材料を用いてステント本体を製造する場合は、次のような方法を挙げることができる。
初めに、金属材料を不活性ガスまたは真空雰囲気にて溶解する。
次いで、それを冷却してインゴットを形成し、そのインゴットを機械的に研磨した後、熱間プレスおよび押し出しにより、太径パイプとする。そして、順次ダイス引き抜き工程および熱処理工程を繰り返すことにより、所定の肉厚、外形のパイプに細径化する。そしてパイプ表面に開口パターンを貼り付けて、この開口パターン以外のパイプ部分をレーザエッチング、化学エッチング等のエッチング技術で溶かして開口部を形成する。あるいは、コンピュータに記憶させたパターン情報に基づいたレーザーカット技術により、パイプをパターン通りに切断することによって、開口部を形成することもできる。
このような方法で、金属製の、本発明で用いるステント本体を製造することができる。
【0113】
また、高分子材料を用いてステント本体を製造する場合は、次のような方法を挙げることができる。
初めに、高分子材料を押出成形機を用いて、所定の肉厚、外形のパイプを成形する。そしてパイプ表面に開口パターンを貼り付けて、この開口パターン以外のパイプ部分をレーザエッチング、化学エッチング等のエッチング技術で溶かして開口部を形成する。あるいは、コンピュータに記憶させたパターン情報に基づいたレーザーカット技術により、パイプをパターン通りに切断することによって、開口部を形成することもできる。
【0114】
その他にも、例えばコイル状のステントであれば、金属材料や高分子材料を押出成形機を用いて所定の太さ、外形のワイヤとする。そして、ワイヤを曲げて波状等のパターンを付けた後、マンドレル上に螺旋状に巻き付けてから、マンドレルを抜き取り、形状付けされたワイヤを所定の長さに切断するという方法で製造することができる。
【0115】
上記に示した方法で製造したステント本体に、前記生分解性組成物、または、前記生分解性組成物と前記生物学的整理活性物質とを融解し、従来の方法により塗布したり、融液に浸漬させる。
【0116】
または、前記生物学的生理活性物質を融解し塗布または融液に浸漬させた後、乾燥させる。そして、前記生分解性組成物を、同様に融解して、同様の方法で塗布または融液に浸漬させる。
【0117】
ここで、前記生物学的生理活性物質および/または前記生分解性組成物を融解させる代わりに、ステント本体の表面を容易に濡らすことが可能なアセトン等の溶媒に溶解し、スプレー、ディスペンサー等を用いた従来の方法により塗布したり、または溶液に浸漬させた後、溶媒を揮発させる方法を用いることもできる。このような方法が、最も簡易であるので好ましい。また、このような方法で、ステント本体の表面に、前記生物学的生理活性物質が分散したポリマー層を容易に製造することができるので好ましい。
【0118】
ここで、ステント本体に、前記生物学的生理活性物質、前記生分解性組成物、およびこれらの混合物を塗布する前に、前記ステント本体の表面を化学的処理、またはプラズマ等を用いてエッチングのような表面に微細な凹凸を形成する作業を行うと好ましい。理由は、前記ステント本体と、前記生物学的生理活性物質、前記生分解性組成物、およびこれらの混合物との密着性が向上するからである。
【0119】
同様な理由で前記ステント本体の表面に接着剤等を塗布して良いし、前記ステント本体と、前記生物学的生理活性物質、前記生体内分解性組成物、およびこれらの混合物とを熱接着させても良い。
このような方法により、本発明のステントを製造することができる。
【0120】
<ステントの使用方法>
このような本発明のステントの使用方法は通常と同様である。例えば、本発明のステントを冠動脈に生じた狭窄部に留置する場合は、冠動脈の径より小径にした本発明のステントをカテーテルの先端バルーンに比着して、経皮的に狭窄部に到達させた後、本発明のステントをバルーンの拡張に基づく外力の作用により拡張し、冠動脈の内径を確保する方法が挙げられる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1)
電解研磨されたSUS316Lのステンレスプレート(直径20mmの円形、厚さ0.08mm)を用意し、この一方の主面をアセトン中で超音波洗浄器(US−3、アズワン社製)により超音波洗浄した。
【0123】
次に、ポリ乳酸グラフト化デキストラン(PLA−Dex)を作製した。
まず、デキストラン(数平均分子量=20000g/mol、シグマケミカル社製)を用意した。
そして、このデキストランの水酸基の大部分をトリメチルシリル(TMS)基で保護して有機溶媒に可溶化させ、残存する未反応の水酸基を開始点として乳酸を重合するという方法でPLA−Dexを作製した。
【0124】
そして、このようにして作製したPLA−Dexをテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)に溶解させた溶液を作製した。この溶液におけるPLA−Dexの濃度は1.0質量%とした。
【0125】
そして、この溶液をスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON社製)を用いてステンレスプレートに噴霧し、その後、溶媒であるTHFを真空下で蒸散させた。この結果、約10μmの厚さのPLA−Dexが、ステンレスプレートの一方主面上に形成されたことを確認した。
【0126】
次に、このステンレスプレート上で、ブタ血管平滑筋細胞粘着試験を行った。具体的には、前記ステンレスプレートのPLA−Dexの上をエチレンオキサイドガスで減菌した後、無菌操作下で、直径35mmのプラスチックディッシュ中央に置き、その上からブタ平滑筋細胞を15000cell/dishとなるように播種した。
そして、インキュベータにて3日間培養した後、培地を除去して10質量%のホルマリン溶液で、ブタ平滑筋細胞をステンレスプレート上へ固定化した。
そして、2日後にインキュベータからプレートを取り出し、真空乾燥機にて充分に乾燥させた。
【0127】
このような操作の後に、ステンレスプレートのPLA−Dex上に粘着しているブタ平滑筋細胞の数を、走査型電子顕微鏡を用いて計測した。
【0128】
この結果を図6(b)、表1に示す。PLA−Dexでコーティングしたステンレスプレート上でのブタ平滑筋細胞接着数は、32個/1mmであった。尚、この値は、3回測定した後の平均値である。
【0129】
(比較例1)
上記の実施例1で用いたPLA−Dexの代わりに、L−ポリ乳酸(L−乳酸のラクチドを開環重合して得られたガラス転移点60℃、溶融温度(融点)168℃、重量平均分子量が約18万のポリ乳酸)(PLLA)を用いて、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステンレスプレート上に形成されたPLLAの厚さも同じとした。
【0130】
この結果を図6(a)、表1に示す。PLLAでコーティングしたステンレスプレート上でのブタ平滑筋細胞接着数は、121個/1mmであった。尚、この値は同様に平均値である。
【0131】
【表1】

【0132】
(実施例2)
まず、抗高脂血症剤であるセリバスタチン(CV)と、PLA−Dexとを1:1の質量比でTHFに溶解させた溶液を製造した。この溶液における溶質(CV+PLA−Dex)の濃度は1.0質量%とした。
【0133】
次に、図1と同様な形状であるステント本体(外径2.0mm、長さ15mm、SUS316L製)の外面に、この溶液をスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON社製)を用いて噴霧し、その後、溶媒であるTHFを真空下で蒸散させた。この結果、約600μgのCVとPLA−Dexとの混合物の層が、ステントの表面に形成されたことを確認した。
【0134】
このステントを経皮的にブタ冠動脈内に挿入し、1ヶ月間留置し、病理評価を行った。
この結果を図7(a)、表2に示す。
このように、1ヶ月経過しても顕著な狭窄は認められず、狭窄率(AS%)も25%程度に抑制されることがわかった。
【0135】
(比較例2)
上記の実施例2で用いたPLA−Dexの代わりに、ポリ乳酸(商品名:poly−d,l−lactide、API社製)(PLA)を用いて、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステントの表面に形成したCVとPLAとの混合物の層の質量も、同じ約600μgとした。
【0136】
この結果を図7(b)、表2に示す。
このように、1ヶ月経過しても顕著な狭窄は認められなかったが、狭窄率(AS%)は38%程度であることがわかった。
【0137】
【表2】

【0138】
(実施例3)
上記の実施例2で用いたセリバスタチン(CV)を用いず、PLA−Dexのみを用い、その溶液における溶質(PLA−Dexのみ)の濃度を1.0質量%とし、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステントの表面に形成したPLA−Dexの層の質量も、同じ約600μgとした。
【0139】
この結果を図8(a)、表3に示す。
このように、1ヶ月経過しても顕著な狭窄は認められず、狭窄率(AS%)も45%であった。
【0140】
(比較例3)
上記の実施例3で用いたPLA−Dexの代わりに、PLAを用いて、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステントの表面に形成したPLAの層の質量も、同じ約600μgとした。
【0141】
この結果を図8(b)、表3に示す。
このように、1ヶ月経過後には、顕著な狭窄が認めらた。また、狭窄率(AS%)は58%であった。
【0142】
(比較例4)
上記の実施例3で用いたPLA−Dexの代わりに、ポリカプロラクトン(PCL)を用いて、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステントの表面に形成したPLAの層の質量も、同じ約600μgとした。
【0143】
この結果を図8(c)、表3に示す。
このように、1ヶ月経過後には、顕著な狭窄が認めらた。また、狭窄率(AS%)は78%であった。
【0144】
【表3】

【0145】
(実施例4)
上記の実施例2と同じ方法で、約600μgのCVとPLA−Dexとの混合物の層が表面に形成されたステントを作製した。
そして、バルーンカテーテルを用いて、最終外形が3.0mmになるまで拡張した。
その結果、図9に示すように、バルーン拡張に伴う層の破壊は認められなかった。
【0146】
(比較例5)
上記の実施例4で用いたPLA−Dexの代わりに、PLAを用いて、他の条件を全て同じとした試験を行った。ステントの表面に形成したPLAの層の質量も、同じ約600μgとした。
そして、バルーンカテーテルを用いて、最終外形が3.0mmになるまで拡張した。
その結果、図10に示すように、バルーン拡張に伴う層の破壊が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1は、本発明のステントの一態様を示す側面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線に沿って切断した拡大横断面図である。
【図3】図3は、図2のB−B線に沿って切断した拡大横断面図である。
【図4】図4は、図1のA−A線に沿って切断した拡大横断面図である。
【図5】図5は、図4のB−B線に沿って切断した拡大横断面図である。
【図6】図6は、実施例1および比較例1のステンレスプレート上でのブタ平滑筋細胞の拡大写真(50倍)である。
【図7】図7は、実施例2および比較例2のブタ冠動脈内ステント埋込後の病理像を示す拡大写真(20倍)である。
【図8】図8は、実施例3、比較例3、および比較例4のブタ冠動脈内ステント埋込後の病理像を示す拡大写真(20倍)である。
【図9】図9は、実施例4に係るステントのバルーン拡張後の拡大写真(100倍)である。
【図10】図10は、比較例5に係るステントのバルーン拡張後の拡大写真(100倍)である。
【符号の説明】
【0148】
1 ステント本体1
2 線状部材
3 略菱形の要素
4 環状ユニット
5 連結部材
6 生物学的生理活性物質からなる層
7 生体内分解性組成物からなる層
8 生体内分解性組成物
9 生物学的生理活性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステント本体の表面に、多糖と生分解性ポリエステル構成単位との共重合体を含有する組成物からなり、細胞接着性をコントロールすることができるポリマー層を有するステント。
【請求項2】
前記ステント本体が、金属材料からなる請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記ステント本体が、高分子材料からなる請求項1に記載のステント。
【請求項4】
前記組成物が、さらに生物学的生理活性物質を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のステント。
【請求項5】
前記ステント本体と前記ポリマー層との間に、さらに前記生物学的生理活性物質からなる層を有する請求項1〜4のいずれかに記載のステント。
【請求項6】
前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜5のいずれかに記載のステント。
【請求項7】
前記生分解性ポリエステル構成単位が、乳酸である請求項1〜6のいずれかに記載のステント。
【請求項8】
前記多糖が、ヒアルロン酸、アミロース、プルラン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、およびヘパラン硫酸からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜7のいずれかに記載のステント。
【請求項9】
前記共重合体における前記多糖の含有量が1〜50質量%である請求項1〜8のいずれかに記載のステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−262960(P2006−262960A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81594(P2005−81594)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】