説明

ステント

【課題】管腔壁の損傷を低減することが可能なステントを提供する。
【解決手段】人体の血管等の管腔内に留置して使用される網目状のステント10であって、前記網目は、一本又は複数本の弾性を有するワイヤ素材11により形成され、このワイヤ素材11が前記ステント10の端部10A、10Bにおいて折曲せずにカーブ状に湾曲して、円筒形状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の管腔内に留置して管腔内の閉塞や管腔の破損を防止するためのステントに関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害の中でも急性的に突然発症する脳卒中は、脳血管の閉塞や脳血管からの出血を主な原因として発症する。
【0003】
その中でも脳血管の閉塞により起こる脳卒中は、脳の動脈に塞栓(血栓のほか、脂肪塞栓、腫瘍塞栓等)が入り込み、動脈を狭窄させて血流を遮断し、脳虚血を引き起こした際に生じる疾患で、脳梗塞と呼ばれる。脳への血流が塞栓により遮断されると、脳細胞は酸素と栄養の補給を絶たれ、短時間のうちに壊死へ向かう。このため、脳梗塞の発症初期の段階においては、正常な血流を迅速に確保することが重要である。早期に正常な血流が確保されなければ、脳組織がその部位の機能を失い、患者の生命も脅かされる危険性が高くなる。
【0004】
一方、脳血管からの出血により起こる脳卒中は、出血した場所によって脳出血とクモ膜下出血とに分けられる。その中でもクモ膜下出血は脳動脈壁にできた脳動脈瘤の破裂が起因となる場合がほとんどである。動脈瘤は血管壁が中膜を欠いているために破裂しやすく、また、クモ膜下出血は一度起こると再発しやすい特徴があるため、未破裂の動脈瘤が見つかった場合は破裂を防ぐ処置を行うか否か慎重な判断が必要となる。
【0005】
これまで、上記のように脳血管の閉塞の治療や脳血管にできた動脈瘤の処置を行う必要がある場合は、開頭や頸部切開により脳血管を直接手術する方法が多く採られてきた。その一方で、近年では、血管内治療技術の進歩により患者の身体的負担の少ない非侵襲的手法が注目を浴びている。ステント留置術は、このような手法の中でもよく知られるものの一つである。
【0006】
ステント留置術とは、ステントと呼ばれる微細な筒を血管等の管腔内に留置して、狭窄した部位を広げたり、動脈瘤の破裂を予防したりする手法である。一般的にステント留置術は、局所麻酔下に足の付け根の血管(大腿動脈)等からカテーテルを挿入し、これを通じて動脈瘤や狭窄が生じた病変部へステントを搬送して留置する。留置する方法には、バルーン拡張型と自己拡張型との二通りの方法がある。バルーン拡張型の場合、ステントを外側に装着したバルーンを病変部で膨張させて病変部とステントを拡張させた後、バルーンのみを抜き取ってステントを留置する。もしくは、ステントとは別にバルーンのみを狭窄部で拡張させて押し広げた後、ステントを狭窄部に留置する。一方、自己拡張型では、ステントを病変部に誘導して除荷すると、ステントが自動的に伸展して血管壁にフィットする。このように血管内にステントを留置することによって、狭窄部を拡張したり、動脈瘤への血流の制限を行う。
【0007】
図10に、従来のステント留置術で用いられるステントの一例を示す。図10に示すように、一般に従来のステント100は、細く弾性を有する金属製のワイヤ101を編んだものを筒状にして、適度な大きさにカットすることにより形成されている。また、必要に応じて樹脂コーティング等がされている。
【0008】
さらに、図11に示すように、端部200A、200Bのワイヤ201を溶接して繋いだステント200も従来から用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のステント100では、金属製のワイヤ101がカットされているためにその端部100A、100Bのワイヤ101がバリ状に突出している。また、従来のステント200も、ワイヤ201の溶接部(端部200A、200B)が鋭く突起している。そのため、ステント100、200の搬送や留置の際、又は留置後に、端部100A、100B、200A、200Bが血管を傷付けることがある。そのため、潰瘍や穿孔、出血を引き起こす恐れがあった。また、損傷した血管は治癒反応として内膜を形成しようとするが、この内膜の形成が過剰になると血管及びステント内を狭窄させて血流を阻害するため、再び危険な状態を招く可能性があった。このような内膜の過剰形成に対応するためには、定期的にステントを取り換える必要があった。
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みて、管腔壁の損傷を低減することが可能なステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、人体の血管等の管腔内に留置して使用される網目状のステントであって、前記網目は、一本又は複数本の弾性を有するワイヤ素材により形成され、そのワイヤ素材が前記ステントの端部において折曲せずにカーブ状に湾曲して、円筒形状に形成されることを特徴とするステントを提供する。
【0012】
ここで、前記ワイヤ素材の端は、前記円筒形状の端部以外の側部に位置するように形成されるのが好適である。
【0013】
また、本発明のステントは、一方の端部から他方の端部に至る径が略同一の円筒形状に形成されるのが良い。あるいは、中央寄りの側部の径よりも両端部の径が大きい、両端拡がり形状に形成されても良い。さらに、一方の端部が他方の端部の径に対して大きいテーパー形状に形成されても良い。
【0014】
なお、前記ワイヤ素材は、金、プラチナ又はタングステンにより構成されるワイヤ、もしくはニッケルチタンに金又はプラチナがコーティングされたワイヤであるのが好適である。
【0015】
また、前記円筒形状の外形直径は5ミリメートルに形成され、脳血管内に留置して使用されるのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のステントによれば、管腔壁の損傷を防止すると共に、管腔の狭窄リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るステントの概要を示す全体概略図である。
【図2】図1に示すステントを使用する病変部の状態の一例を示す模式図である。
【図3】図1に示すステントの使用方法の一例を示す模式図(その1)である。
【図4】図1に示すステントの使用方法の一例を示す模式図(その2)である。
【図5】図1に示すステントの使用方法の一例を示す模式図(その3)である。
【図6】図1に示すステントの使用方法の一例を示す模式図(その4)である。
【図7】ステント導入器の一例を示す断面模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るステント(両端部拡がり形状)の概要を示す全体概略図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るステント(テーパー形状)の概要を示す全体概略図である。
【図10】従来のステント留置術で用いられるステントの一例を示す模式図である。
【図11】従来のステント留置術で用いられるステントの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るステントの概要を示す全体概略図である。図1に示すように、本発明のステント10は、非常に細く柔軟性に富み、弾性を有するワイヤ(ワイヤ素材)11を円筒状に編むことにより構成されている。ここでステント10は、複数のワイヤから編まれても良いし、一本のワイヤのみから編まれても良い。そして、ワイヤ11の始端と終端は、ステント10の端部10A、10Bではなく、両端部10A、10B間に位置する側部10Cに位置するように編まれる(図1のA部参照)。さらに、ステント10の両端部10A、10Bでは、ワイヤ11は折れ曲がって突出することがないよう、カーブ状に丸みを持って曲がった湾曲部12を形成する。
【0020】
ここで、ステント10を構成するワイヤ11は、金、プラチナ、タングステンから構成されるワイヤ、あるいはニッケルチタンに金又はプラチナコーティングを施したワイヤを用いるのが好適である。
【0021】
以下、上記のステント10の使用方法について、その一例を説明する。なおここでは、図2に示すように塞栓43による脳血管41の狭窄部42に、本ステント10を用いる場合を例にとって説明する。また下記では、ステント10が自動拡張型の場合について説明している。
【0022】
(1)バルーンによる狭窄部の拡張
まず図3(a)に示すように、狭窄部42を超える位置までガイドワイヤ51を血管41内へ送る。
【0023】
そして図3(b)に示すように、このガイドワイヤ51にバルーンカテーテル61を通してバルーンカテーテル61を血管41内へ送り込み、バルーン部62が狭窄部42に達する位置まで移動させる。
【0024】
次いで図3(c)に示すように、バルーンカテーテル61に空気を送り、バルーン部62を膨張させて狭窄部42を拡張する。その後、バルーンカテーテル61を取り去る。
【0025】
(2)搬送カテーテル及びステント導入器の挿入
次に図4(a)に示すように、ガイドワイヤ51に搬送カテーテル71を通して、拡張した狭窄部42′を超える位置まで送り込む。
【0026】
次いで図4(b)に示すように、予めステント10が格納されたステント導入器81をガイドワイヤ51に挿通させて前進させ、搬送カテーテル71内へ挿入する。
【0027】
ステント導入器81の例を図7に示す。図7に示すように、ステント導入器81は、内側に設けられる内筒部82と、内筒部82の外側に設けられる外筒部83から構成され、ガイドワイヤ51は内筒部82の内側の挿通孔84に通され、ステント10はこの内筒部82と外筒部83との間の空隙85に装填される。なお、ステント導入器81の基端には操作部86が設けられている。ステント導入器81の外筒部83の外径は搬送カテーテル71の内径よりも小さいため、ステント導入器81は搬送カテーテル71の内部に導入することができる。
【0028】
(3)押出器の挿入とステントの押出し
次に図5(a)に示すように、ガイドワイヤ51に押出器91を挿通させて前進させ、ステント導入器81内へ挿入する。
【0029】
押出器91は、基端に操作部が設けられたカテーテルからなり、その内径がステント導入器81の内筒部82の外径より大きく、その外形はステント導入器81の外筒部83の内径より小さい。従って、ステント導入器81の空隙85に挿通可能である。図5(a)の状態からさらに押出器91を前進させると、図5(b)に示すように、押出器91はステント導入器81の空隙85からステント10を押出す。
【0030】
(4)ステントの放出、留置
次に、図6(a)に示すように、ステント10がステント導入器81から押し出された後に搬送カテーテル71を後退させる。
【0031】
すると、図6(b)に示すように、ステント10が搬送カテーテル71から放出されて、血管41内で拡張する。その後、搬送カテーテル71、ステント導入器81、押出器91、ガイドワイヤ51は体内から引き抜く。以上により、狭窄部42の血流を確保することが可能となる。
【0032】
なお、ここまではステントの形状としてストレートな円筒状のステント10を例に挙げて説明したが、本発明では目的や対象部位等に合わせて様々な形状のステントに適用することができる。以下に他の形状の例を示す。
【0033】
図8は、両端部拡がり形状のステントを示す模式図である。図8に示すように、このステント20は、両端部20A、20Bの径が側部20Cの径より大きく、側部20C中央近傍では一定の径を有しているが、両端部20A、20B近傍において徐々に両端部20A、20Bへ向かってフレア状に広がっている(フレア部23)。
【0034】
図9は、テーパー形状のステントを示す模式図である。図9に示すように、このステント30は、一方の端部30Aから他方の端部30Bに向かって徐々に径が大きくなるよう、側部30Cにおいてテーパー状に形成されている。
【0035】
これらのステント20、30は、図1に示すステント10と同様にワイヤ21、31が端部20A、20B、30A、30Bにくることなく側部20C、30Cに位置し、さらに端部20A、20B、30A、30Bではワイヤ21、31が折れ曲がって突起することがないよう、カーブ状に丸みを持って曲がった湾曲部22、32を形成している。
【0036】
このように、本発明では様々な形状のステントに適用して種々の目的、対象部位に合わせることが可能となる。
【0037】
なお上記では、例としてワイヤのみで形成されたステントについて述べたが、必要に応じて樹脂コーティング、薬剤コーティング(DES;薬剤溶出性ステント)等を施すこともできる。DESは、ステントに細胞増殖を抑制する薬剤等を塗布したもので、体内でゆっくりと薬剤が溶出することにより内膜の過剰形成を防ぎ、再狭窄を有効に防止することができる。
【0038】
さらに、上記では脳血管を例にとって説明したが、ステント留置術は脳血管に限らず他の部位の血管のほか、人体の管腔全般(例えば気管、食道、十二指腸、大腸、胆道等)にも適用できる。そのため、本発明のステントも治療する部位に応じたサイズで人体の管腔全般に適用が可能である。例えば脳血管に留置して使用する場合には、ステント10の外形直径は5ミリメートル程度であるのが最適である。
【0039】
上記のように構成したことにより、本発明のステントによれば、管腔壁の損傷を防止すると共に、管腔の狭窄リスクを低減することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、人体の管腔内に留置して管腔内の閉塞や管腔の破損を防止するためのステントに関し、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0042】
10 ステント
10A 端部
10B 端部
10C 側部
11 ワイヤ
12 湾曲部
20 ステント
20A 端部
20B 端部
20C 側部
21 ワイヤ
22 湾曲部
23 フレア部
30 ステント
30A 端部
30B 端部
30C 側部
31 ワイヤ
32 湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の血管等の管腔内に留置して使用される網目状のステントであって、
前記網目は、一本又は複数本の弾性を有するワイヤ素材により形成され、該ワイヤ素材が前記ステントの端部において折曲せずにカーブ状に湾曲して、円筒形状に形成されることを特徴とするステント。
【請求項2】
前記ワイヤ素材の端が、前記円筒形状の端部以外の側部に位置するように形成されることを特徴とする請求項1に記載のステント。
【請求項3】
一方の端部から他方の端部に至る径が略同一の円筒形状に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のステント。
【請求項4】
中央寄りの側部の径よりも両端部の径が大きい、両端拡がり形状に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のステント。
【請求項5】
一方の端部が他方の端部の径に対して大きいテーパー形状に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のステント。
【請求項6】
前記ワイヤ素材は、金、プラチナ又はタングステンにより構成されるワイヤ、もしくはニッケルチタンに金又はプラチナがコーティングされたワイヤであることを特徴とする請求項1又は2に記載のステント。
【請求項7】
前記円筒形状の外形直径が5ミリメートルに形成され、脳血管内に留置して使用されることを特徴とする請求項5に記載のステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−244926(P2011−244926A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119346(P2010−119346)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(505329233)アクセスポイント テクノロジーズ有限会社 (8)
【Fターム(参考)】