説明

スパッタリング薄膜形成装置

【課題】製膜速度が高く、品質が高い薄膜を形成することができるスパッタリング薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】スパッタ装置10は、真空容器11内に設けられたターゲットホルダ14と、ターゲットホルダ14に対向して設けられた基板ホルダ15と、真空容器11内にプラズマ生成ガスを導入する手段19と、ターゲットTの表面を含む領域にスパッタ用の電界を生成する手段161と、真空容器11の壁の内面と外面の間に設けられ、誘電体窓183により真空容器の内部と仕切られた高周波アンテナ配置室182と、高周波アンテナ配置室182内に配置され、ターゲット保持手段に保持されたターゲットの表面を含む領域に高周波誘導電界を形成する高周波アンテナ13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマによりターゲットをスパッタし、基板表面に所定の薄膜を形成するスパッタリング薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空容器内に金属スパッタリングターゲット(カソード)と基板を対向するように配置した平行平板型スパッタリング薄膜形成装置が多く用いられている。この装置では、アルゴンガスなどの不活性ガスを真空容器内に導入し、スパッタリングターゲットに直流電圧又は高周波電圧を印加することで、真空容器内にプラズマを発生させ、プラズマ中のイオンによりターゲットをスパッタし、基板の表面に目的の薄膜を形成する。
【0003】
また、高速製膜を可能にするスパッタリング薄膜形成装置の一例として、マグネトロンスパッタリング装置が挙げられる。マグネトロンスパッタリング装置では、ターゲットの背面に設けられた電磁石又は永久磁石によりターゲットの表面近傍の空間にこの表面と平行な磁界を印加すると共に、ターゲットに直流電圧又は高周波電圧を印加してこの表面と垂直な電界を生成する。これら磁界及び電界を利用して、ターゲット表面近傍にプラズマを局在化させて生成し、そこでのプラズマ密度を高めることにより、プラズマから正イオンをターゲットに照射してターゲットを効率よくスパッタする。マグネトロンスパッタリング装置では磁界を用いない場合に比べて、膜の生成速度が速い、基板の温度上昇が少ないため基板の損傷を抑制しやすい、などの特長がある。
【0004】
しかしながら、このようなマグネトロンスパッタリング装置によっても、ターゲット表面近傍のプラズマ密度を十分には高くすることができず、スパッタリング速度を十分に速くすることができない。また、ターゲット表面に垂直な電界(ターゲットバイアス)を強くすると、ある程度の製膜速度の向上を図ることができるが、イオンが高いエネルギーでターゲットに衝突して反跳し、基板側に入射することによるダメージ(プラズマダメージ)も大きくなる。さらに、酸化物薄膜を生成する際に行われる反応性スパッタリングにおいては、ターゲットの表面が酸素と反応して酸化物で覆われることでターゲット表面がチャージアップし、ターゲット表面の電界が緩和されてしまうため、プラズマ密度が低下する。その結果、基板上での製膜速度は著しく低下し、従来のスパッタリング薄膜形成装置では酸化物薄膜を高速で製膜することが困難である。
【0005】
特許文献1には、上述のマグネトロンスパッタリング装置の構成に加えて、製膜室内においてターゲットと基板の間に高周波コイルが設けられたスパッタリング薄膜形成装置が開示されている。また、特許文献2には、製膜室外に高周波コイルを設けたマグネトロンスパッタリング装置が開示されている。これら装置では、通常のマグネトロンスパッタリング装置と同様に磁界及び電界が生成されるのに加え、高周波コイルに高周波電流を流すことにより高周波誘導電界が形成される。これにより、ターゲットをスパッタするイオンが増加するため製膜速度がさらに高まる。酸化物や窒化物等の薄膜を生成する場合には、ターゲットをスパッタするイオンが増加することにより、ターゲットの表面で生成された化合物(酸化物、窒化物など)が直ちにスパッタされるため、ターゲット表面が化合物で覆われることがなく、それにより製膜速度の低下を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-273629号公報([0007]-[0009], 図2, 図4)
【特許文献2】特表2002-513862号公報([0020]-[0021], [0028], 図2, 図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のスパッタリング薄膜形成装置では高周波コイルが製膜室内に配置されているため、プラズマに直接晒されてしまう。そのため、高周波コイルがプラズマによりスパッタされ、高周波コイルの材料が不純物として薄膜に混入してしまい、薄膜の品質が低下するおそれがある。また、高周波コイルが基板とターゲットの間に配置されているため、ターゲットと基板の間の距離が長くなるため、ターゲット粒子が拡散し、基板に到達するターゲット粒子が減少する。これにより、製膜速度が低下する。一方、特許文献2に記載のスパッタリング薄膜形成装置では、高周波コイルを製膜室の外に配置するため、高周波コイルのスパッタやターゲットと基板の距離に関する問題は生じないが、高周波コイルを製膜室内に設けた場合よりも製膜室内の高周波誘導電界の強度が弱くなるという問題が生じる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高品質な薄膜を高速で形成することができるスパッタリング薄膜形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置は、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられたターゲット保持手段と、
c) 前記ターゲット保持手段に対向して設けられた基板保持手段と、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記ターゲット保持手段に保持されるターゲットの表面を含む領域にスパッタ用の直流電界又は高周波電界を生成する電界生成手段と、
f) 前記真空容器の壁の内面と外面の間に設けられ、誘電体製の仕切材により真空容器の内部と仕切られたアンテナ配置部と、
g) 前記アンテナ配置部内に配置され、前記ターゲット保持手段に保持されたターゲットの表面を含む領域に高周波誘導電界を形成する高周波アンテナと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置では、電界生成手段により生成された電界により、電離したプラズマ生成ガスの分子に由来するプラズマがターゲット表面付近に生成される。それに加えて、ターゲット表面を含む領域に、高周波アンテナによりプラズマを生成し、ターゲット表面近傍でのスパッタ放電に重畳することにより、ターゲット表面近傍のプラズマを高密度に保つことが可能になる。そのため、より高速でスパッタリングを行うことができる。また、反応性スパッタリング製膜プロセスにおいても、ターゲット表面が化合物(酸化物、窒化物など)で覆われた場合でも、ターゲット表面近傍のプラズマを高密度のまま維持し、製膜速度の低下を防ぐことができる。
【0011】
そして、高周波アンテナ配置部と真空容器の内部が誘電体製の仕切材で仕切られているため、高周波アンテナが真空容器内のプラズマに晒されてスパッタされることがない。従って、基板上に形成される薄膜に高周波アンテナの材料が混入することがない。
【0012】
また、高周波アンテナが、真空容器の壁の内面と外面の間に設けられた高周波アンテナ配置部内に配置されているため、真空容器の外に高周波アンテナが設けられた場合よりも強い高周波誘導電界を真空容器の内部に生成することができると共に、ターゲット保持手段と基板保持手段の距離を短くすることができる。そのため、製膜速度を高めることができる。
【0013】
本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置は、前記直流電界又は高周波電界と直交する成分を持つ磁界を前記ターゲットの表面を含む領域に生成する磁界生成手段を備えることが好ましい。このような磁界生成手段を用いることにより、電界生成手段と高周波アンテナによって生成されたプラズマが上記磁界によりターゲット表面近傍に局在化するため、プラズマ密度がさらに高まり、ターゲットをより効率よくスパッタすることができる。一方、本発明は、例えば基板保持手段とターゲット保持手段を2つの電極を電界生成手段とする2極スパッタリング装置のように、磁界生成手段を持たないスパッタリング薄膜形成装置にも適用することができる。
【0014】
本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置は、前記基板保持手段に保持された基板の表面を含む領域に高周波誘導電界を生成する基板活性化用高周波アンテナを備えることができる。それにより、基板の表面が活性化され、基板表面での薄膜形成プロセスに関わる反応が促進される。基板活性化用高周波アンテナは、真空容器内に設けることもできるが、ターゲット近傍に高周波誘導電界を生成する高周波アンテナと同様の理由により、真空容器の壁の内面と外面の間に設けられた基板活性化用高周波アンテナ配置部内に配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置によれば、高周波アンテナを真空容器の内面と外面の間に設けられた高周波アンテナ配置部内に配置することにより、ターゲットの表面を含む領域に強い高周波誘導電界を形成することができる。それによりプラズマの密度を高め、製膜速度を高くすることができる。また、高周波アンテナが誘電体製の仕切材により真空容器内と分離しており、高周波アンテナがプラズマにスパッタされることがない。それにより、高周波アンテナの材料が不純物として薄膜に混入することを防ぐことができ、高品質な薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の第1の実施例を示す縦断面図。
【図2】高周波アンテナの例を示す側面図。
【図3】本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の第2の実施例における真空容器の底面を示す図。
【図4】第2実施例のスパッタリング薄膜形成装置の変形例における真空容器の底面を示す図。
【図5】本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の第3の実施例を示す縦断面図。
【図6】本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の第4の実施例を示す縦断面図。
【図7】第4実施例のスパッタリング薄膜形成装置の変形例を示す縦断面図。
【図8】本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の第5の実施例を示す縦断面図。
【図9】高周波アンテナの変形例を示す縦断面図(a)及び要部上面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図9を用いて、本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
図1及び図2を用いて、第1の実施例に係るスパッタリング薄膜形成装置10について説明する。このスパッタリング薄膜形成装置10は、長方形の板状のターゲットTをプラズマによりスパッタし、基板Sの表面に所定の薄膜を形成するためのものである。
【0019】
スパッタリング薄膜形成装置10は、真空ポンプ(図示せず)により内部を真空にすることが可能な真空容器11と、真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段19と、真空容器11の底部に後述のように設けられたマグネトロンスパッタ用磁石12と、同じく真空容器11の底部に後述のように設けられた高周波アンテナ13と、マグネトロンスパッタ用磁石12の上面に設けられたターゲットホルダ14と、ターゲットホルダ14に対向して設けられた基板ホルダ15とを有する。ターゲットホルダ14上面には板状のターゲットTを、基板ホルダ15の下面には基板Sを、それぞれ取り付けることができる。また、このスパッタリング薄膜形成装置10には、高周波アンテナ13に高周波電力を供給する高周波電源161と、ターゲットホルダ14と基板ホルダ15の間にターゲットホルダ14側を正とする直流電圧を印加するための直流電源162が設けられている。高周波電源161はインピーダンス整合器163を介して高周波アンテナ13に接続されている。
【0020】
真空容器11の底部の部材111には、開口112が設けられると共に、その開口112を下側から塞ぐように、ターゲットホルダ14及びマグネトロンスパッタ用磁石12、並びに高周波アンテナ13を収容するためのターゲット・アンテナ配置部18が取り付けられている。ターゲット・アンテナ配置部18と真空容器11の底部材111の接続部はシール材により気密性が確保されている。従って、ターゲット・アンテナ配置部18の壁は真空容器11の壁の一部としての役割を有する。ターゲット・アンテナ配置部18には、基板ホルダ15の直下の位置にターゲット配置室(ターゲット配置部)181が設けられている。それと共に、ターゲット・アンテナ配置部18の壁内(即ち真空容器11の壁内)であってターゲット配置室181の側方に、ターゲット配置室181を挟むように1対の高周波アンテナ配置室182が設けられている。
【0021】
ターゲット配置室181は上端で真空容器11の内部空間113と連通している。ターゲット配置室181室内にはマグネトロンスパッタ用磁石12が載置されている。マグネトロンスパッタ用磁石12の上下方向の位置は、その上に設けられたターゲットホルダ14に載置されるターゲットTの上面がターゲット・アンテナ配置部18の上端付近(上端と同じ位置である必要はない)に配置されるように調整されている。このようにマグネトロンスパッタ用磁石12及びターゲットホルダ14が設けられることにより、ターゲットTは真空容器11の内部空間113と連通した空間内に配置される。
【0022】
また、ターゲット配置室181上端の内部空間113との境界には、ターゲット配置室181の側壁から内側に向かって延び、ターゲットTの4辺の縁付近(縁を含む部分)を上から覆うように庇189が設けられている。
【0023】
高周波アンテナ配置室182内には下側から高周波アンテナ13が挿入されている。高周波アンテナ13は金属製のパイプ状導体をU字形に曲げたものであり(図2)、2つの高周波アンテナ配置室182内に1個ずつ、「U」の字を上下逆向きにした状態で立設されている。このようなU字形の高周波アンテナは巻数が1回未満の誘導結合アンテナに相当し、巻数が1回以上の誘導結合アンテナよりもインダクタンスが低いため、高周波アンテナの両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が低減される。これにより、基板上での低イオンダメージの薄膜形成プロセスが可能となる。高周波アンテナ13のパイプは、スパッタリング薄膜形成装置10の使用時に水などの冷媒を通過させることにより高周波アンテナ13を冷却する機能を有する。高周波アンテナ13の高さ方向の位置は、「U」の字の底部とターゲットTの上面が同程度の高さ(完全に同じである必要はない)になるように調整されている。
【0024】
高周波アンテナ配置室182と真空容器11の内部空間の間には誘電体製の窓(誘電体窓)183が設けられている。また、高周波アンテナ配置室182内には、高周波アンテナ13以外の空間を埋める塊状の誘電体製充填材184が充填されている。以上のように高周波アンテナ13、誘電体窓183及び誘電体製充填材184が設けられることにより、高周波アンテナ13は、真空容器11の内部空間113に生成されるプラズマに晒されることがない。但し、誘電体窓183自体はこのプラズマに晒される。そのため、誘電体窓183の材料には、石英等、耐プラズマ性の高いものを用いることが望ましい。一方、誘電体製充填材184は、誘電体窓183が存在することでプラズマに晒されないため、耐プラズマ性よりもむしろ加工性に優れたものを用いることが望ましい。そのような加工性に優れた材料には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂がある。アルミナ、シリカその他のセラミックス等、樹脂以外のものを誘電体製充填材184の材料として用いてもよい。
【0025】
高周波アンテナ13の2本の脚(「U」の字における2本の縦線に相当)にはフィードスルーを介して蓋185が取り付けられている。蓋185は高周波アンテナ配置室182の下部に取り付けられるものであり、真空シールにより、高周波アンテナ配置室182及び真空容器11により構成される領域と外部の境界を気密に閉塞することができる。また、蓋185を高周波アンテナ配置室182の下部から着脱することにより、その蓋185に伴って高周波アンテナ13を高周波アンテナ配置室182から容易に着脱することができる。
【0026】
第1実施例に係るスパッタリング薄膜形成装置10の動作を説明する。
まず、ターゲットTをターゲットホルダ14に、基板Sを基板ホルダ15に、それぞれ取り付ける。次に、真空ポンプにより真空容器11内を真空にした後、真空容器11内が所定の圧力になるように、プラズマ生成ガス導入手段19によりプラズマ生成ガスを真空容器11内に導入する。続いて、マグネトロンスパッタ用磁石12の電磁石に直流電流を流すことにより、マグネトロンスパッタ用磁石12から、ターゲットTの近傍であって高周波アンテナ13の導体を含む領域内に磁界を形成する。それと共に、ターゲットホルダ14と基板ホルダ15を電極として両者の間に直流電源162により直流電圧を印加し、両電極間に直流電界を形成する。さらに、高周波電源161から高周波アンテナ13に高周波電力を投入することにより、高周波アンテナ13の周囲に高周波誘導電界を形成する。
【0027】
上記磁界、上記直流電界及び上記高周波誘導電界により、プラズマ生成ガスの分子が電離してプラズマが生成される。そして、このプラズマから供給される電子は、上記磁界及び上記電界が直交した領域でのE×Bドリフトにより効果的に閉じ込められ、ガス分子の電離が促進され、多量の陽イオンが生成される。これら陽イオンがターゲットTの表面に衝突することにより、ターゲットTの表面からスパッタ粒子が飛び出す。そのスパッタ粒子はターゲットTの表面から基板Sの表面に輸送され、基板Sの表面に付着する。こうして基板Sの表面にスパッタ粒子が堆積することにより、薄膜が形成される。
【0028】
本実施例のスパッタリング薄膜形成装置10では、従来のマグネトロンスパッタリング装置と同様の構成(マグネトロンスパッタ用磁石12及び直流電源162)に加えて高周波アンテナ13を設けたことにより、マグネトロンスパッタリング装置又は高周波アンテナのいずれか一方のみを用いた場合よりも高密度のプラズマがターゲットTの表面に生成される。それによりターゲットTのスパッタが促進され、製膜速度が高まる。
【0029】
そして、高周波アンテナ13は、誘電体窓183によって真空容器11の内部空間113と分離された空間に配置されているため、高周波アンテナ13が内部空間113内のプラズマに晒されてスパッタされることがない。そのため、基板S上に生成される薄膜に高周波アンテナ13の材料が不純物として混入することを防ぐことができる。それと共に、高周波アンテナ13の温度が上昇することを抑えることもできる。
【0030】
しかも、高周波アンテナ13は、真空容器11の外ではなく、真空容器11の壁内に設けられた高周波アンテナ配置室182に配置されるため、真空容器11の外に高周波アンテナを配置した場合よりも強い高周波誘導電界を内部空間113に生成することができる。さらに、ターゲットホルダ14と基板ホルダ15の間には高周波アンテナ等を配置する必要がないため、ターゲット保持手段と基板保持手段の間の距離を短くすることができる。これらにより、製膜速度を高めることができる。
【0031】
また、本実施例では、ターゲットTの4辺の縁付近を上から覆うように庇189が設けられていることにより、所望のターゲット表面領域のみをスパッタし、ターゲット保持手段などの不要かつ不純物生成の原因となる部材のスパッタを防止することができる。
【実施例2】
【0032】
図3を用いて、第2の実施例に係るスパッタリング薄膜形成装置20について説明する。本実施例のスパッタリング薄膜形成装置20は長方形の基板に薄膜を形成するために、その基板の形状に対応した長方形のターゲットをスパッタするための装置である。このスパッタリング薄膜形成装置20では、長方形のターゲットに対応して、マグネトロンスパッタ用磁石12Aの上面及びターゲットホルダ14Aも長方形である。高周波アンテナ配置室182Aはマグネトロンスパッタ用磁石12Aの長辺の両側方に設けられ、その長辺方向に延びた形状を有する。誘電体窓183Aには、高周波アンテナ配置室182Aの形状に対応した長方形のものが用いられている。高周波アンテナ配置室182A内には高周波アンテナ13が複数(この例では1室につき4個)、高周波アンテナ配置室182Aの長手方向に並べられている。高周波電源は、全ての高周波アンテナ13に並列に接続してもよいし、複数個ずつの高周波アンテナ13にグループ分けして、グループ毎に1個ずつ並列に接続してもよく、さらには個々の高周波アンテナ13に1個ずつ接続してもよい。ここまでに述べた点以外は、スパッタリング薄膜形成装置20全体の構成は第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10の構成と同様である。
【0033】
スパッタリング薄膜形成装置20の動作も、基本的には第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10の動作と同様である。なお、本実施例では、高周波アンテナ配置室182Aの長手方向に複数並べられた高周波アンテナ13にそれぞれ同じ大きさの電力を投入してもよいし、個々の高周波アンテナに異なる大きさの電力を投入してもよい。
【0034】
図4を用いて、第2実施例の変形例であるスパッタリング薄膜形成装置20Aを説明する。スパッタリング薄膜形成装置20Aでは、各高周波アンテナ配置室182Aの長手方向に高周波アンテナが3個ずつ設けられている。これら3個の高周波アンテナのうち両端に設けられた2個の高周波アンテナよりも、真ん中に設けられた1個の高周波アンテナ13Aの方が、「U」の字の底部が長い形状を有する。それ以外の点は、スパッタリング薄膜形成装置20Aは第2実施例のスパッタリング薄膜形成装置20と同様の構成を有する。この変形例では、プラズマ生成装置では一般に真空容器の中心に近い位置よりも端部(壁)に近い位置の方が空間的な密度勾配が大きくなることから、真空容器11の端部付近での密度を細かく制御することができるように両端の2個の高周波アンテナ13における導体の高周波アンテナ配置室182A長手方向の長さを短くする一方、真空容器11の中央付近ではさほど細かな制御が必要ではないため、真ん中に設けられた1個の高周波アンテナ13Aの導体を長くした。
【実施例3】
【0035】
図5を用いて、第3の実施例に係るスパッタリング薄膜形成装置30について説明する。本実施例のスパッタリング薄膜形成装置30は、第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10における誘電体製充填材184の代わりに、高周波アンテナ配置室182A内を真空にするための排気管186が蓋185Aに設けられている。従って、真空容器11の内部空間113に加え、高周波アンテナ配置室182Aも真空となるため、より効率良く内部空間113に高周波誘導電界を生成することができる。また、誘電体窓183の表裏両側の圧力差がないため、誘電体窓183の機械的強度が問題になることがなく、その厚みを薄くすることができるという点においても、内部空間113への高周波誘導電界の生成効率を高めることができる。スパッタリング薄膜形成装置30の動作は第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10と同様である。
【実施例4】
【0036】
図6を用いて、第4の実施例に係るスパッタリング薄膜形成装置40について説明する。本実施例のスパッタリング薄膜形成装置40は、第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10における基板ホルダ15の近傍に基板活性化用高周波アンテナ41を設けたものである。基板活性化用高周波アンテナ41は、基板ホルダ15に取り付けられた基板Sの表面付近に高周波誘導電界を生成し、その高周波誘導電界によって基板S表面の原子を活性化することにより、基板S表面へのスパッタ粒子の付着を促進するためのものである。基板活性化用高周波アンテナ41は高周波アンテナ13と同様に金属製のパイプ状導体をU字形に曲げたものである。基板活性化用高周波アンテナ41の導体の周囲には、それをプラズマやスパッタ粒子から保護するための誘電体製のパイプ411が設けられている。このような基板活性化用高周波アンテナ41を用いる点を除いて、スパッタリング薄膜形成装置40の構成及び動作は第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10と同様である。
【0037】
図7を用いて、第4実施例の変形例であるスパッタリング薄膜形成装置40Aを説明する。この例は、基板活性化用高周波アンテナ41Aを高周波アンテナ13と同様に真空容器11Aの壁内に設けたものであり、具体的には以下の構成を有する。このスパッタリング薄膜形成装置40Aでは、真空容器11Aの上面に開口が設けられており、その開口を上側から気密に塞ぐように基板・アンテナ配置部42が取り付けられている。基板・アンテナ配置部42には、ターゲットホルダ14と対向するように基板ホルダ15Aが設けられていると共に、基板ホルダ15Aの両側方に基板活性化用高周波アンテナ配置室43が設けられている。基板活性化用高周波アンテナ配置室43には、上側から基板活性化用高周波アンテナ41Aが挿入されており、さらに基板活性化用高周波アンテナ41Aの周囲に誘電体製の充填剤が充填されている。基板活性化用高周波アンテナ配置室43と真空容器11Aの内部空間113の間には、誘電体製の窓(第2誘電体窓)44が設けられている。変形例のスパッタリング薄膜形成装置40Aの動作は第4実施例のスパッタリング薄膜形成装置40の動作と同様である。
【実施例5】
【0038】
ここまでに説明した各実施例ではマグネトロンスパッタ用磁石(磁界生成手段)を用いているが、本発明はマグネトロンスパッタ用磁石を使用しないスパッタリング薄膜形成装置にも適用することができる。図8に示したスパッタリング薄膜形成装置50は、ターゲットホルダ14Bを第1の電極、それに対向する基板ホルダ15を第2の電極とし、それら両電極の間に、ターゲットホルダ14B側を負とする電圧を印加する直流電源162Aを有する。その一方、スパッタリング薄膜形成装置50には、マグネトロンスパッタ用磁石12に相当するものは設けられていない。これらの点以外は第1実施例のスパッタリング薄膜形成装置10と同様である。このスパッタリング薄膜形成装置50は、従来の二極スパッタリング装置に高周波アンテナ13を設けたものに相当し、従来の二極スパッタリング装置よりも高速で製膜を行うことができる。
【0039】
(その他の実施例)
本発明に係るスパッタリング薄膜形成装置は上記実施例1〜5に限定されない。
例えば、U字形の高周波アンテナ13の代わりに、ターゲット配置室181を取り囲むようにほぼ1周(但し完全には1周しないため、巻数は1周未満)の高周波アンテナ13Bを用いてもよい(図9)。
【0040】
また、上記実施例では真空容器の壁とは別体のアンテナ配置部(高周波アンテナ配置室)内に高周波アンテナを配置したが、真空容器の壁とアンテナ配置部は一体のものにしてもよい。
【0041】
上記実施例では高周波アンテナの周囲に誘電体製充填材を設けるか高周波アンテナ配置室内を真空にすることにより、高周波アンテナと外気が接触しないようにしたが、両者が接触する場合も本発明の範囲内に含まれる。但し、不要な放電を生じさせないように、上記実施例のように両者を接触させない方が望ましい。
【0042】
上記実施例ではターゲットホルダと接地の間に、ターゲットホルダ側を負とする直流電圧を印加したが、その代わりに、両者の間に高周波電圧を印加してもよい。
【0043】
真空容器11内には、プラズマ生成ガスに加えて、ターゲット粒子と反応して膜の材料となる反応性ガスを導入することができる。特に、酸素あるいは窒素などの反応性ガスを混入して用いる場合には、従来の反応性スパッタリング薄膜形成装置ではターゲットホルダ上のターゲットの表面に化合物(酸化物あるいは窒化物など)層が形成されることによりスパッタ速度が低下するという問題があったが、本実施例のスパッタリング薄膜形成装置ではターゲット表面が化合物層で覆われた場合でも、誘導結合プラズマをスパッタ放電に重畳することにより、ターゲット表面近傍のプラズマが高い密度に維持されるため、高速でのスパッタを維持することができる。
【符号の説明】
【0044】
10、20、20A、30、40、40A、50、60…スパッタリング薄膜形成装置
11、11A…真空容器
111…底部材
112…開口
113…内部空間
12、12A…マグネトロンスパッタ用磁石
13、13A、13B…高周波アンテナ
14、14A、14B…ターゲットホルダ
15、15A…基板ホルダ
161…高周波電源
162、162A…直流電源
163…インピーダンス整合器
18…ターゲット・アンテナ配置部
181…ターゲット配置室
182、182A…高周波アンテナ配置室(アンテナ配置部)
183、183A…誘電体窓(誘電体製の仕切材)
184…誘電体製充填材
185、185A…蓋
186…排気管
189…庇
19…プラズマ生成ガス導入手段
41、41A…基板活性化用高周波アンテナ
411…パイプ
42…基板・アンテナ配置部
43…基板活性化用高周波アンテナ配置室
44…第2誘電体窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられたターゲット保持手段と、
c) 前記ターゲット保持手段に対向して設けられた基板保持手段と、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記ターゲット保持手段に保持されるターゲットの表面を含む領域にスパッタ用の直流電界又は高周波電界を生成する電界生成手段と、
f) 前記真空容器の壁の内面と外面の間に設けられ、誘電体製の仕切材により真空容器の内部と仕切られたアンテナ配置部と、
g) 前記アンテナ配置部内に配置され、前記ターゲット保持手段に保持されたターゲットの表面を含む領域に高周波誘導電界を形成する高周波アンテナと、
を備えることを特徴とするスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項2】
前記直流電界又は高周波電界と直交する成分を持つ磁界を前記ターゲットの表面を含む領域に生成する磁界生成手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項3】
前記アンテナ配置部内に誘電体製の充填材が充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項4】
前記アンテナ配置部内が真空であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項5】
前記高周波アンテナ配置部の側方に、前記ターゲット保持手段及び該ターゲット保持手段に保持されるターゲットを収容し、前記真空容器内と連通するターゲット配置部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項6】
前記高周波アンテナが、巻数が1周未満の導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項7】
前記高周波アンテナがU字形であることを特徴とする請求項6に記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項8】
前記高周波誘導結合プラズマ生成手段が複数個配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項9】
複数の前記高周波誘導結合プラズマ生成手段により生成される高周波誘導電界の強度が高周波誘導結合プラズマ生成手段毎に異なる値に設定可能であることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項10】
前記基板保持手段に保持された基板の表面を含む領域に高周波誘導電界を生成する基板活性化用高周波アンテナを備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスパッタリング薄膜形成装置。
【請求項11】
前記基板活性化用高周波アンテナが、前記真空容器の壁の内面と外面の間に設けられた基板活性化用高周波アンテナ配置部内に配置され、該基板活性化用高周波アンテナと前記真空容器の内部の間に誘電体製の第2仕切材が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のスパッタリング薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179061(P2011−179061A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43539(P2010−43539)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】