スパッタリング装置およびスパッタリング方法
【課題】プラズマをターゲット表面の広範囲に発生させることが可能な磁場形状を実現し、ターゲット材料の利用効率を向上させ、ダストや異常放電を抑制することを可能とするマグネトロンスパッタ装置、および当該装置を用いたスパッタリング方法を提供する。
【解決手段】マグネトロン電極の磁気回路10を、ターゲット2の中央部から外周部へ向かって「中心垂直磁石101、内側平行磁石103、外側平行磁石104、外周垂直磁石102を配置した磁気回路10」として、内側平行磁石103をターゲット2に近づける。
【解決手段】マグネトロン電極の磁気回路10を、ターゲット2の中央部から外周部へ向かって「中心垂直磁石101、内側平行磁石103、外側平行磁石104、外周垂直磁石102を配置した磁気回路10」として、内側平行磁石103をターゲット2に近づける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置及びスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングとは、真空中に基板とターゲット(スパッタ膜の原材料となる部材)を配置して、その真空中でプラズマを発生させることにより基板に膜を形成する技術である。プラズマを利用したスパッタリングによれば、高エネルギーのスパッタ粒子が基板に到達するために、スパッタ粒子の基板との付着力が高くなる。そのため、プラズマを利用したスパッタリングは、緻密な膜を形成できるといった利点があり、電子部品や光学薄膜等の多くの製品の量産に用いられている。
【0003】
さらに、スパッタリングのうちマグネトロンスパッタでは、ターゲットの裏面に磁気回路を設置してターゲット表面に磁気トンネルを形成する。この磁力線によって電子を捕捉することで、電離確率が高まり、高密度プラズマを発生させ、成膜速度を高めることができる。そのため、マグネトロンスパッタの工業的利用が急速に進んだ。
【0004】
しかしながら、マグネトロンスパッタでは、ターゲット上のごく一部に磁気トンネルが局在するため、プラズマが局在し、ターゲットのごく一部が選択的に侵食される。実際には、ターゲットのうちの約10〜20%しか、スパッタリングによって放出されない。この問題を解決するため、例えば、ターゲットの裏面に配置した磁石を回転させることで、ターゲットの利用効率を高めようとする方法や、ターゲットの裏面に配置した磁石を遥動することによって、プラズマ生成領域を時間的に移動させる方法や、電磁石等によってプラズマを移動させる方法などが提案されている。しかしながら、これらの方法では、スパッタリング装置に可動部を追加する必要があるので、装置の機構が複雑になり設備コストも高くなりがちであった。
【0005】
一方、ターゲットの裏面に配置した磁石を固定したまま、ターゲット表面の広領域にプラズマを発生させる手段として、ターゲットの裏面に「ターゲット面に対して、垂直方向に磁化された磁石と、平行方向に磁化された磁石との組み合わせからなる磁気回路」を配置する方法(特許文献1〜3を参照)が提案されている。
【特許文献1】特表平7−507360号公報
【特許文献2】特表平11−500490号公報
【特許文献3】米国特許第4964968号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されたように、ターゲット面に対して垂直方向に磁化された磁石と、平行方向に磁化された磁石との組み合わせからなる磁気回路を用いると、ターゲット表面の広領域にプラズマを発生させることができる場合がある。一方で、そのためには、磁気回路とターゲットとの間隔を狭くして、互いを接近させる必要があった。
【0007】
例えば、特許文献3に開示されたマグネトロンスパッタ装置は、第1〜第4の磁石を含む磁気回路を有しているが、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させるために、各磁石による磁気ローブを実質的にスパッタ領域内に配置する必要がある。そのために、ターゲットと磁気回路との距離を短くしなければならず、磁気回路を、ターゲットを冷却するための冷却水路の内部に設置する必要がある。水路の内部に設置された磁気回路は、冷却水により腐食するおそれがあるため、長期間の使用において磁力や磁場形状に変動をもたらす。この変動は、成膜レートや膜厚の面内均一性などに影響を与えるため、製品の品質低下や歩留まり悪化の原因となる。
【0008】
一方で、磁気回路を冷却水路の外部に設置すると、磁気回路からターゲット表面までの間隔が長くなるため、磁気ローブをスパッタ領域に配置しにくく、かつターゲット表面近傍の磁力線の形状が、単純な2重リング磁石による磁気ループに近い狭い形状になり、ターゲット面に対して平行な磁力線が形成されにくい傾向にある。
【0009】
そのため、特許文献1〜3に記載された技術によっては、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させにくく、材料利用効率が充分に向上しない。また、ターゲットのエロージョン範囲が狭くなると、スパッタされたターゲット分子が、被製膜体に付着せずに、再びターゲットに付着(膜再付着)しやすく、ダストや異常放電の原因となり、製造されるスパッタ膜の質を悪化させる恐れがある。
【0010】
本発明は、冷却水路の外部に設置した磁気回路によって、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させることが可能なマグネトロン電極を有するマグネトロンスパッタ装置を提供することを目的とする。それにより、ターゲット材料の利用効率を向上させ、ダストや異常放電を抑制することを可能とするスパッタリング装置及びスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、磁場シミュレーション及びプラズマシミュレーションを用いて、ターゲット表面上の広範囲にプラズマを形成することができる磁気回路を検討した。まず、ターゲットの裏面に配置する磁気回路の基本形を、図2に示されるように、「ターゲット表面に対して垂直方向に磁化された中心垂直磁石101と外周垂直磁石102(垂直磁石ユニット)と、ターゲット表面に対して平行方向に磁化された内側平行磁石103と外側平行磁石104(平行磁石ユニット)」との組み合わせとした。そして、磁石の配置位置などを適切に調整して、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させることができる磁気回路を検討した。
【0012】
すなわち本発明の第1は、以下に示されるスパッタリング装置に関する。
[1]真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、スパッタ膜を形成される基板を保持する基板保持具と、を有するスパッタリング装置であって、以下の特徴を有する。
まず、前記垂直磁石ユニットは、中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり;前記中心垂直磁石と外周垂直磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり;前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置される。
次に、前記平行磁石ユニットは、内側平行磁石と外側平行磁石からなり;前記内側平行磁石と外側平行磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり;前記内側平行磁石と外側平行磁石はいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置される。
さらに、前記内側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD1、前記外側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD2、前記外周垂直磁石と前記ターゲット表面との間隔をD3としたとき、「D1<D2≦D3」となる。
【0013】
[2] [1]の装置において、前記間隔D1は30mm以下であってもよい。
[3] [1]または[2]の装置において、前記ターゲットと、前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットをさらに有し;前記磁気回路は、前記水冷ジャケットの外部に配置されていてもよい。
[4] [3]の装置において、前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に凹みの空間が形成され、前記内側平行磁石は、前記凹みの空間に設けられていてもよい。
[5] [4]の装置において、前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に形成された空間は、スリットにより複数の空間に分割されており、前記複数の空間のそれぞれに前記内側平行磁石が設けられ、
前記スリットの厚みは、前記水冷ジャケットの凹みが形成された部分の厚みよりも大きく、かつ前記スリットは水冷ジャケットの水路の一部になっていてもよい。
【0014】
本発明の第2は、以下のスパッタリング装置に関する。
[6]真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、スパッタ膜を形成される基板を保持する基板保持具と、前記ターゲットと前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットと、を有するスパッタリング装置であって、以下の特徴を有する。
まず、前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり;前記中心垂直磁石と外周垂直磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり;前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置される。
次に、前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、前記内側平行磁石と外側平行磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり;前記内側平行磁石と外側平行磁石はいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置される。
さらに、前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの内部に磁性体が設置されているか、または前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの一部が磁性体とされている。
【0015】
本発明の第3は、以下のスパッタリング方法に関する。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと;前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと;前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にパッタリング膜を形成するステップとを含む、スパッタリング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスパッタリング装置及びスパッタリング方法によれば、ターゲット表面の広範囲に、ターゲットに対して平行に近い磁力線を発生させることができるので、広範囲で電子をトラップすることができる。そのため、プラズマをターゲット表面の広範囲に発生させ、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。例えば従来では、ターゲットの材料利用効率は、約10〜20%であったが、本発明によれば約40%程度に向上させることができる。
【0017】
さらに、ターゲットの広範囲をスパッタリングさせることが可能であるため、膜再付着を防止することができ、かつ異常放電を抑制することができるので、ダストを低減させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.本発明のスパッタリング装置
本発明のスパッタリング装置は、マグネトロンスパッタ装置と称される。マグネトロンスパッタ装置とは、内部を減圧可能な真空チャンバと、真空チャンバ内部に配置されたマグネトロン電極と、スパッタ膜を形成される基板(被成膜体)を保持するための基板保持具とを有する(図1参照)。
【0019】
マグネトロン電極は、陰極となるターゲットと、ターゲットの裏面側に配置された磁気回路とを有する。またマグネトロン電極は、ターゲットと磁気回路との間に、ターゲットなどを冷却するための水冷ジャケットを有していてもよい(図1参照)。ターゲットの表面側(磁気回路が配置される面と反対側の面)には、基板保持具が配置される。本発明のスパッタリング装置のマグネトロン電極の形状は特に限定されず、円板形であったり、角板形(図2参照)であったりする。
【0020】
本発明のマグネトロン電極の磁気回路は、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む。図2は磁気回路の例を示しており、ターゲットの裏面の法線方向からみた上面図である。
【0021】
垂直磁石ユニットは中心垂直磁石101と外周垂直磁石102からなる。中心垂直磁石101はターゲット2の裏面の中央部に配置されており、外周垂直磁石102はターゲット2の裏面の外周部に配置されている。
ターゲット2の中央部に配置される中心垂直磁石101は、厳密な意味での中心に配置される必要はなく、外周垂直磁石102や、後述する平行磁石ユニットを構成する磁石(磁石103と104)によって囲まれるように、ターゲット2の中央部に配置されていればよい。
ターゲット2の外周部に配置される外周垂直磁石102は、プラズマを発生させる領域を規定する役割を有する。外周垂直磁石102をできるだけターゲットの外周に沿って配置すれば、ターゲット2の表面の全領域にプラズマを発生させやすくなるので好ましいが、一方で、プラズマがターゲット2以外の領域で発生する恐れも高まる。よって、外周垂直磁石102の配置位置は外周部に適切に配置することが必要である。
【0022】
中心垂直磁石101や外周垂直磁石102はそれぞれ、一つの磁石で構成されていてもよく(図2A)、2以上の磁石から構成されていてもよい(図2B)。図2Bに示されるように、2以上の磁石を組み合わせて構成すれば、製造コスト面で有利であったり、磁気回路の調整が容易であったりするので、好ましい場合がある。
【0023】
また各磁石は、非磁性材料からなるホルダに挿入されているか、または非磁性材料に固定されていてもよい。この場合は、磁石を固定するためのネジ穴等を設けることができるため、磁気回路の調整がしやすいという利点がある。
【0024】
中心垂直磁石101と外周垂直磁石102のいずれの磁場の方向も、ターゲット2の面に対して垂直である。「垂直」とは、交差角度が厳密に90°であることを意味しているのではない。
【0025】
また、中心垂直磁石101の磁場の方向と、外周垂直磁石102の磁場の方向とは、互いに逆向きである。つまり、中心垂直磁石101のターゲット側がS極である場合には、外周垂直磁石102のターゲット側がN極であり;中心垂直磁石101のターゲット側がN極である場合には、外周垂直磁石102のターゲット側がS極である。
【0026】
つまり、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102とをつなぐ磁力線が、ターゲット2の表面を覆うように存在することが好ましい。
【0027】
平行磁石ユニットは、内側平行磁石103と外側平行磁石104からなる。内側平行磁石103と外側平行磁石104のいずれも、中心垂直磁石101を囲むように環状に配置されており、かつ外周垂直磁石102よりも中央側に配置される。つまり、平行磁石ユニットは、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102との間に挟まれて配置されている。
また、内側平行磁石103と外側平行磁石104は、いずれも環状に配置されているが、内側平行磁石103の方が中心側に、つまり中心垂直磁石101の近くに配置される。
【0028】
内側平行磁石103と外側平行磁石104のいずれの磁場の方向も、ターゲット面に対して平行である。「平行」とは、交差角度が厳密に0°であることを意味しているのではない。
【0029】
また、内側平行磁石103の磁場の方向と、外側平行磁石104の磁場の方向は、互いに同じ向きである。つまり、内側平行磁石103の外周側がS極である場合には、外側平行磁石104の外周側もS極であり;内側平行磁石103の外周側がN極である場合には、外側平行磁石104の外周側もN極である。
【0030】
内側平行磁石103や外側平行磁石104はそれぞれ、垂直磁石(101や102)と同様に、一つの磁石で構成されていてもよく、2以上の磁石で構成されていてもよい。また各磁石は、非磁性材料からなるホルダに挿入されているか、または非磁性材料に固定されていてもよい。
【0031】
図3は、図2AのA−A断面図である(図3における矢印は磁化方向(S→N)を示す)。図3に示されるように、ターゲット2の中央部に中心垂直磁石101が配置され、ターゲット2の外周部に向かって、内側平行磁石103、外側平行磁石104、外周垂直磁石102の順に配置されている。中心垂直磁石101と外周垂直磁石102は、ヨーク105に接続して固定されていることが好ましい。一方、内側平行磁石103と外側平行磁石104は、ヨーク105に接続していない。
【0032】
磁気回路は、ターゲット2の裏面側に配置されている。ターゲット2は、パッキングプレート20に保持されていてもよい。ターゲット2と磁気回路10との間には、水冷ジャケット11が配置されていることが好ましい。水冷ジャケット11は、ターゲット2を冷却する機能を有する。
【0033】
本発明の重要な特徴の一つは、磁気回路10を構成する各磁石(磁石101〜104)と、ターゲット2の表面との間隔が適切に調整されていることである。つまり、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔をD1とし;外側平行磁石104とターゲット2の表面との間隔をD2とし;外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔をD3としたとき、「D1<D2≦D3」の関係を満たすことが好ましい。
【0034】
ただし後述するように、「内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1」は、(1)磁石103自体とターゲット2の表面との間隔を意味していたり、(2)磁石103の近傍に設けられた磁性体であって、磁石103と一体となって磁気回路を構成する磁性体がある場合には(図14の符合13参照)、当該磁性体とターゲット2の表面との間隔を意味していたりする。磁石103と一体となって磁気回路を構成する磁性体は、水冷ジャケット11の内部に配置されていたり、水冷ジャケットの一部の材質であったりする。
【0035】
一方、中心垂直磁石101とターゲット2の表面との間隔D4の大きさには、特段の制限はない。
【0036】
前述の通り、ターゲット2の裏面側に配置された磁気回路10は、ターゲット2の表面に磁場を発生させる。ターゲット2の表面のうち、磁気回路10により、適切な磁場が形成される領域がスパッタされて消費されやすい。「適切な磁場」とは、ターゲット2の表面上に形成される、ターゲット2の表面に対してできるだけ平行な方向の磁場である。ターゲット2の表面に対してできるだけ平行な方向の磁場、つまりスパッタリング装置に発生する電界の方向と直交する方向の磁場である。電界の方向と直交する方向の磁場により、マグネトロン放電が起こり、プラズマを発生させやすくなり、ターゲット材料の利用効率が高まる。
【0037】
本発明者は、磁気回路の構成、つまり間隔D1,間隔D2,間隔D3,間隔D4;ヨークの厚さt;各磁石の幅などの因子を制御しながら、磁場のシミュレーション(磁場の磁力線のベクトル)、プラズマのシミュレーション(発生するプラズマの分布)、ターゲットの侵食形状などのシミュレーションを行った。間隔D1〜D4はいずれも、17mm以上に設定した。磁気回路を構成する各磁石を、水冷ジャケットの外部に配置できるようにするためである。
【0038】
各因子を制御しながら、直交表によって解析条件の組み合わせを決定し、結果を分散分析することで各因子を最適化した。
【0039】
まず本発明者は、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させるためには、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1が重要であること、つまり、他の磁石とターゲット2の表面との間隔(間隔D2〜D4)よりも、間隔D1が小さいことが好ましいことを見出した。
【0040】
図4に示されるグラフは、間隔D2=32mm;間隔D3=40mm;間隔D4=35mmとして一定としたときに、間隔D1=25mm、22mm、17mmとしたときのターゲットの侵食形状をシミュレーションした結果を示す。図4に示されるように、間隔D1が小さくなるほど(25mm→22mm→17mm)、ターゲットのもっとも侵食されている領域(エロージョンセンタともいう)が広がることがわかる。
【0041】
次に本発明者は、外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔D3を調整することにより、発生したプラズマをターゲット2の表面の端部にまで広げることができることを見出した。つまり、間隔D3を大きくするほど、ターゲット2の表面の端部にまでプラズマが発生する。そのため間隔D3を、間隔D2と同じか、またはそれ以上にすることが好ましい。一方、間隔D3を過剰に大きくすると、プラズマがターゲットよりも外側の領域にまで発生して、装置を傷める可能性もある。
【0042】
図5Aは、間隔D1=間隔D4=25mm、間隔D2=40mm、間隔D3=35mmとした磁気回路を用いて、ターゲット2の表面に発生するプラズマの状態を示す図(図5C)と、その強度を示すグラフ(図5E)である。一方、図5Bは、間隔D1=間隔D2=間隔D3=間隔D4=25mmとした磁気回路を用いて、ターゲット2の表面に発生するプラズマの状態を示す図(図5D)と、その強度を示すグラフ(図5F)である。図5B(間隔D3=25mm)と比較して、図5A(間隔D3=35mm)は、プラズマがターゲット2の表面の端部にまで広がっていることがわかる。
【0043】
このように、外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔D3を大きくすると、ターゲット2の表面にプラズマを広がらせることができるが、一方で、間隔D3を過剰に大きくすると、ターゲット2の表面に形成される磁場が弱くなるため、電子の補足が不十分になり不具合を生じる。このため、間隔D3は、約40mm以下であることが好ましい。
【0044】
さらに本発明者は、上記各因子を制御しながら「長さX(図6参照)」を指標として、磁気回路を評価した。指標とした「長さX」を図6に示す。図6は、ターゲット2とパッキングプレート20の断面図である。ターゲット2の表面から突出する磁力線の磁場ベクトルと、ターゲット2の表面の法線ベクトルのなす角度が60°以上になる範囲の長さを「長さX」とした。
この「長さX」が大きければ、ターゲット2の表面に対して略平行な磁力線を、ターゲット表面の広範囲に形成することができる。そのため、プラズマを広範囲に発生させることができ、ターゲット材料の利用効率が高まると考えられる。
【0045】
その結果、中心垂直磁石101と内側平行磁石103との間隔や、外周垂直磁石102と外側平行磁石104との間隔は、磁気結合が保たれる程度に短くされていることが好ましいことを見出した。例えば、それぞれ10mm以下とすることが好ましい。
【0046】
さらに、磁石101〜104は、ターゲット面の法線方向から見て、互いに重ならないように配置されていてもよいが、必ずしもその必要はない。例えば、磁石101と磁石103、または磁石102と磁石104は、ターゲット面の法線方向から見て重なるように配置されてもよい。
【0047】
これらのシミュレーションの考察から得られた、好適な磁気回路の一例を図7に示す。図7に示される磁気回路を、実施の形態1のスパッタリング装置に適用した。
【0048】
マグネトロンスパッタ装置において、磁気回路を構成する磁石とターゲット表面との間隔を大きくすることは、一般的に容易である。
一方で、ターゲットを冷却するための水冷ジャケットを有するマグネトロンスパッタ装置において、磁気回路を構成する磁石とターゲット表面との間隔を小さくすることは困難な場合がある。水冷ジャケットの厚みのために、磁気回路を充分にターゲットに近づけることができないためである。また、水冷ジャケットの内部に磁石を配置することも考えられるが、磁石の劣化やメンテナンスの負担を軽減するためには、水冷ジャケットの外部に磁気回路を配置することが求められる。
【0049】
ところが、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1は、30mm以下であることが好ましい。図4に示されるように、間隔D1が30mm以下であると、ターゲット2の表面の広範囲にプラズマが発生して、ターゲット材料の利用効率を高めやすいからである。一般的に、ターゲット2の厚さは約10mm、パッキングプレート20の厚さは約5mm、水冷ジャケット11の厚さは約10mm(合計25mm)であるため、間隔D1を充分に小さくすることができない場合がある。
【0050】
そこで、本発明のマグネトロンスパッタ装置の水冷ジャケット11は、磁気回路10の側に、内側平行磁石103を配置するための凹みの空間12を有していてもよい(図9参照)。凹みの空間12に内側平行磁石103を配置することにより、間隔D1を小さくする(例えば30mm以下とする)ことができる。
【0051】
さらに、内側平行磁石103を配置するための凹みの空間12を、複数の空間に分割してもよい(図9参照)。つまり、複数の凹みの空間12はスリット14で区分されており、当該スリット14は水路として機能させることが好ましい。
【0052】
2.本発明のスパッタリング方法
本発明のスパッタリング装置を用いれば、通常のスパッタリング手法により、基板表面に金属スパッタ膜を作製することができる。以下、図1に示されるスパッタリング装置を参照して、本発明のスパッタリング方法を説明する。
【0053】
まず、基板保持具4’に、スパッタ膜を成膜したい被成膜体である基板4を保持する。次に、排気口7を通して、真空チャンバ1の内部を高真空とした後に、ガス導入装置5を通して一定流量の制御されたスパッタリングガスを、真空チャンバ1の内部に導入する。スパッタリングガスは、一般的にはArやXeなどの希ガス(不活性ガス)である。
【0054】
ターゲット2およびパッキングプレート20に、負のバイアス電圧を印加する。それにより、ターゲット2の表面と垂直な方向の電場が発生する。磁気回路10により、ターゲット2の表面には、ターゲット2の表面と略平行な磁場が発生している。そのため、磁場と電場が垂直に交わる部分で、マグネトロン放電が発生し、プラズマが発生する。そしてターゲット2がスパッタされ、スパッタされたターゲット成分が基板に付着して、スパッタ膜が形成される。
【0055】
このように、ターゲット2の表面のできるだけ広範囲に、ターゲット2の表面に対して平行な磁場(磁力線)が形成されていれば、ターゲット2の表面の広い領域でプラズマを生成させることができる。ターゲット2の表面の広い領域でプラズマを生成させることができれば、広範囲のターゲット2の表面をスパッタリングすることができるので、材料利用効率を高めることができる。
【0056】
以下において、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の例を説明する。
【0057】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1のスパッタリング装置の概略図である。図1に示されるスパッタリング装置は、真空チャンバ1;ターゲット2と水冷ジャケット11と磁気回路10とを含むマグネトロン電極;基板4を有する。
【0058】
真空チャンバ1には、ガス導入装置5、排気装置6、排気口7、バルブ8が設けられる。排気装置6は、真空チャンバ1の内部を負圧することができる。ガス導入装置5は、真空チャンバ1の内部にスパッタリングガスを導入することができる。スパッタリングガスは、一般的にArガスなどの不活性ガスである。
【0059】
マグネトロン電極は、膜の材料からなるターゲット2、ターゲット2に接続された高電圧印加電源3、ターゲット2の裏面(基板4が配置された面とは反対側の面)側に配置された磁気回路10を有する。磁気回路10とターゲット2との間には、水冷ジャケット11が配置されている。また、ターゲット2は、パッキングプレート20に貼り付けられている。そして、マグネトロン電極の周囲には、アースシールド9が配置されている。ターゲットの材質は、成膜したい膜の成分に応じて任意に選択することができる。
【0060】
また、基板4は基板保持具4’に保持されており、ターゲット2に対向する位置に設置されている。
【0061】
磁気回路10は、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102からなる垂直磁石ユニット;内側平行磁石103と外側平行磁石104からなる平行磁石ユニット:中心垂直磁石101と外周垂直磁石102とを磁気的に結合するヨーク105を有する。
【0062】
磁気回路10を、図7に示される磁気回路(本発明の磁気回路)とした。このときに生成されるプラズマ分布の解析結果を図10に示す。プラズマ分布の解析は、磁場にArガスを0.325Pa導入し、かつターゲット2に−400VのDC高電圧を印加した条件下で行った。さらに、ターゲット2の表面に入射するArイオンフラックスから予想されるターゲットエロージョン形状が、図12に示される(曲線A;横軸rは、ターゲット中心からの距離を表す)。
【0063】
一方、磁気回路10を、従来の磁気回路(平行磁石ユニットである磁石103と磁石104を省略して、垂直磁石ユニットである磁石101と磁石102だけで構成される)とした。このときに生成されるプラズマ分布の解析結果を図11に示す。プラズマ分布の解析は、磁場にArガスを0.325Pa導入し、かつターゲット2に−400VのDC高電圧を印加した条件下で行った。また、ターゲット2の表面に入射するArイオンフラックスから予想されるターゲットエロージョン形状が、図12に示される(曲線B)。また、図13には、従来の磁気回路としたときに形成される磁場の磁力線を示す。
【0064】
従来の磁気回路を用いた場合には、図11に示されるように、磁気回路の垂直磁石ユニットの磁石同士の間の領域に、局所的にプラズマが生成している。これに対して、本発明の磁気回路(図7)を用いた場合には、図10に示されるようにプラズマ分布が明らかに広がっている。
【0065】
また図12に示すように、従来の磁気回路を用いた場合にはターゲットエロージョン形状が偏っている(曲線B)のに対して、本発明の磁気回路を用いた場合には、ターゲットエロージョン形状が広がっている(曲線A)ことがわかった。具体的に、曲線Bから求められるターゲット材料の利用効率は約16%であるのに対し、曲線Aから求められるターゲット材料の利用効率は約40%であり、2倍以上の向上が見られた。
【0066】
このように、実施の形態1によれば、広範囲に広がったプラズマを形成できることから、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。
【0067】
[実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2のスパッタリング装置の概略図である。図8において、図1と同じ構成要素については、同じ符号を用いているので、説明を省略する。
【0068】
図8に示されるスパッタリング装置は、実施の形態1と同様に、ターゲット2と磁気回路10との間に、水冷ジャケット11を配置している。その水冷ジャケット11の磁気回路側には、凹みの空間12が設けられている。凹みの空間12には、内側平行磁石103が入り込み、磁石103とターゲット2の表面との間隔D1が小さくされている。
【0069】
水冷ジャケット11の空間12以外の部分は、空間12の部分よりも厚くされているので、冷却水の流れを確保しやすい。
【0070】
実施の形態2のスパッタリング装置では、例えば、ターゲット2の厚みを5mm、パッキングプレート20の厚みを10mmとする。このとき、凹みの空間12が形成された水冷ジャケット11の部分の厚みを7mm、その他の部分の厚みを14mmとする。この配置によれば、磁石103とターゲット2の表面との間隔を22mmとしつつ、凹みの空間12以外の部分の水冷ジャケット11の厚みを十分な厚み(14mm)に設定できる。そのため、水冷ジャケットの水冷による熱交換能力を十分に確保することができる。
【0071】
このように、実施の形態2のスパッタリング装置によれば、ターゲットに高出力が印加されても、水冷ジャケットによる熱交換能力を損なうことなく、維持することができる。もちろん実施の形態1のスパッタリング装置と同様に、ターゲット2の表面の広範囲にプラズマを形成することができるので、ターゲット材料の利用効率を高めることができる。
【0072】
[実施の形態3]
図9Aおよび図9Bは、本発明の実施の形態3のスパッタリング装置のうちの、マグネトロン電極(磁気回路10と水冷ジャケット11のみ)の概略図である。図9Aは水冷ジャケット11の断面図であり、図9Bはターゲット裏面の法線方向から見たときの水冷ジャケット11の上面透視図である。図9Aおよび図9Bにおいて、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0073】
実施の形態3のスパッタリング装置は、実施の形態2のスパッタリング装置と同様に、磁石103とターゲット2の表面との間隔D1を短くするために、水冷ジャケット11の一部に凹みの空間12を設けてある(図9A参照)。さらに、水冷ジャケット11に形成された凹みの空間12は、スリット14によって、複数の空間に分割されている(図9B)。つまり、磁石103も分割されて、各空間12に配置され、ターゲット2の表面に近づけて設置される。
【0074】
凹みの空間12を分割するスリット14は、冷却水の流路として機能して、水冷ジャケットの各部分(11−1、11−2、11−3)を互いに連通させている。凹みの空間12によって、水冷ジャケット11の厚さが小さくなるため、冷却水に対するコンダクタンスが低下する恐れがあるにも関わらず、実施の形態3のスパッタリング装置の水冷ジャケット11は、冷却水の流れを確保しやすく、冷却性能が下がりにくい。
【0075】
このように、実施の形態3のスパッタリング装置は、水冷ジャケットの熱交換能力を損なうことなく維持することができる。そのため、放電のON/OFFによるターゲットの伸縮を抑制することができ、ターゲットに再付着した物質の応力による剥がれを低減できる。ダスト抑制にも効果的である。よって、実施の形態3のスパッタリング装置は、高出力を印加するスパッタ装置にも好ましく適用することができる。
もちろん、実施の形態1のスパッタリング装置と同様に、ターゲット表面の広範囲にプラズマを形成することができるので、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。
【0076】
[実施の形態4]
図14には、実施の形態4のスパッタリング装置のマグネトロン電極(水冷ジャケット11と磁気回路10のみ)の概略図である。図14において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0077】
実施の形態4のスパッタリング装置は、水冷ジャケット11の内部に設置された磁気回路部品13(磁性体)を有する。磁気回路部品13は、磁気回路10の磁石103と磁気的に結合して、一つの磁気部材として機能する。したがって、磁石103自体をターゲット2に近づけた場合と同様の効果が期待される。また、水冷ジャケット11の内部に磁気回路部品13を配置する代わりに、水冷ジャケット11の、磁石103の近傍だけの材質を磁性体としてもよい。
【0078】
実施の形態4のスパッタリング装置では、例えば、ターゲットの厚みを5mm、パッキングプレート20の厚みを10mmとする(図3参照)。このとき、水冷ジャケット11の内部に磁気回路部品13を設置する。磁気回路部品13(磁性体)は冷却水と接触するので、交換などのメンテナンスが必要になる場合もあるが、磁石に比べると磁性体は安価でかつ寿命が長いため、メンテナンスによる負担は低い。さらに、磁気回路部品13(磁性体)をステンレス系材料としたり、または鉄系材料の表面に樹脂塗装やNiメッキなどのコーティングを施して、耐腐食性を高めて寿命を長くしてもよい。
【0079】
このように、実施の形態4によれば、簡便で安価に、かつ低コスト、低メンテナンス性の高いスパッタリング装置となりうる。もちろん、実施の形態1と同様に、ターゲット表面の広範囲にプラズマを形成できるので、ターゲット材料の利用効率を高めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のスパッタリング装置及び方法は、ターゲット材料の利用効率を向上させることを可能とし、安価にスパッタ薄膜を製造することが可能である。また、プラズマをターゲット表面の広範囲に発生させることで、ターゲット表面への膜再付着を防止するとともに異常放電を抑制する効果によってダストを低減した品質の良い薄膜を提供できる。そのため、光学部品表面への反射防止膜を安価で高品質に形成することが可能であるなど、光学薄膜に限らず広く薄膜形成に用いる装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のスパッタリング装置の例(実施の形態1)の概略を示す図である。
【図2】本発明のスパッタリング装置の磁気回路の例の概略を示す上面図である。
【図3】本発明のスパッタリング装置の磁気回路の例の概略を示す断面図である。
【図4】磁気回路の内側平行磁石とターゲットの表面との間隔D1と、ターゲットのエロージョン形状のシミュレーション結果との関係を示すグラフである。
【図5】磁気回路の外周垂直磁石とターゲットの表面との間隔D3と、発生するプラズマとの関係を示す図である。
【図6】好適化を行うための評価指標とした長さXを説明するための図である。
【図7】好適化された磁気回路の一例を示す図である。
【図8】本発明のスパッタリング装置の例(実施の形態2)の概略を示す図である。
【図9】本発明のスパッタリング装置の例におけるマグネトロン電極(実施の形態3)の概略を示す図である。
【図10】本発明の磁気回路によって生じるプラズマ分布を示す図である。
【図11】従来の磁気回路によって生じるプラズマ分布を示す図である。
【図12】本発明の磁気回路および従来の磁気回路を用いてスパッタリングしたときの、ターゲットエロージョン形状を示す図である。
【図13】従来の磁気回路によって生じる磁力線の形状を示す図である。
【図14】本発明のスパッタリング装置の例におけるマグネトロン電極(実施の形態4)の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 真空チャンバ
2 ターゲット
3 高電圧印加電源
4 基板
4’ 基板保持具
5 ガス導入装置
6 排気装置
7 排気口
8 バルブ
9 アースシールド
10 磁気回路
11 水冷ジャケット
12 空間
13 磁気回路部品(磁性体)
14 スリット
20 パッキングプレート
101 中心垂直磁石
102 外周垂直磁石
103 内側平行磁石
104 外側平行磁石
105 ヨーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置及びスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングとは、真空中に基板とターゲット(スパッタ膜の原材料となる部材)を配置して、その真空中でプラズマを発生させることにより基板に膜を形成する技術である。プラズマを利用したスパッタリングによれば、高エネルギーのスパッタ粒子が基板に到達するために、スパッタ粒子の基板との付着力が高くなる。そのため、プラズマを利用したスパッタリングは、緻密な膜を形成できるといった利点があり、電子部品や光学薄膜等の多くの製品の量産に用いられている。
【0003】
さらに、スパッタリングのうちマグネトロンスパッタでは、ターゲットの裏面に磁気回路を設置してターゲット表面に磁気トンネルを形成する。この磁力線によって電子を捕捉することで、電離確率が高まり、高密度プラズマを発生させ、成膜速度を高めることができる。そのため、マグネトロンスパッタの工業的利用が急速に進んだ。
【0004】
しかしながら、マグネトロンスパッタでは、ターゲット上のごく一部に磁気トンネルが局在するため、プラズマが局在し、ターゲットのごく一部が選択的に侵食される。実際には、ターゲットのうちの約10〜20%しか、スパッタリングによって放出されない。この問題を解決するため、例えば、ターゲットの裏面に配置した磁石を回転させることで、ターゲットの利用効率を高めようとする方法や、ターゲットの裏面に配置した磁石を遥動することによって、プラズマ生成領域を時間的に移動させる方法や、電磁石等によってプラズマを移動させる方法などが提案されている。しかしながら、これらの方法では、スパッタリング装置に可動部を追加する必要があるので、装置の機構が複雑になり設備コストも高くなりがちであった。
【0005】
一方、ターゲットの裏面に配置した磁石を固定したまま、ターゲット表面の広領域にプラズマを発生させる手段として、ターゲットの裏面に「ターゲット面に対して、垂直方向に磁化された磁石と、平行方向に磁化された磁石との組み合わせからなる磁気回路」を配置する方法(特許文献1〜3を参照)が提案されている。
【特許文献1】特表平7−507360号公報
【特許文献2】特表平11−500490号公報
【特許文献3】米国特許第4964968号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されたように、ターゲット面に対して垂直方向に磁化された磁石と、平行方向に磁化された磁石との組み合わせからなる磁気回路を用いると、ターゲット表面の広領域にプラズマを発生させることができる場合がある。一方で、そのためには、磁気回路とターゲットとの間隔を狭くして、互いを接近させる必要があった。
【0007】
例えば、特許文献3に開示されたマグネトロンスパッタ装置は、第1〜第4の磁石を含む磁気回路を有しているが、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させるために、各磁石による磁気ローブを実質的にスパッタ領域内に配置する必要がある。そのために、ターゲットと磁気回路との距離を短くしなければならず、磁気回路を、ターゲットを冷却するための冷却水路の内部に設置する必要がある。水路の内部に設置された磁気回路は、冷却水により腐食するおそれがあるため、長期間の使用において磁力や磁場形状に変動をもたらす。この変動は、成膜レートや膜厚の面内均一性などに影響を与えるため、製品の品質低下や歩留まり悪化の原因となる。
【0008】
一方で、磁気回路を冷却水路の外部に設置すると、磁気回路からターゲット表面までの間隔が長くなるため、磁気ローブをスパッタ領域に配置しにくく、かつターゲット表面近傍の磁力線の形状が、単純な2重リング磁石による磁気ループに近い狭い形状になり、ターゲット面に対して平行な磁力線が形成されにくい傾向にある。
【0009】
そのため、特許文献1〜3に記載された技術によっては、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させにくく、材料利用効率が充分に向上しない。また、ターゲットのエロージョン範囲が狭くなると、スパッタされたターゲット分子が、被製膜体に付着せずに、再びターゲットに付着(膜再付着)しやすく、ダストや異常放電の原因となり、製造されるスパッタ膜の質を悪化させる恐れがある。
【0010】
本発明は、冷却水路の外部に設置した磁気回路によって、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させることが可能なマグネトロン電極を有するマグネトロンスパッタ装置を提供することを目的とする。それにより、ターゲット材料の利用効率を向上させ、ダストや異常放電を抑制することを可能とするスパッタリング装置及びスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、磁場シミュレーション及びプラズマシミュレーションを用いて、ターゲット表面上の広範囲にプラズマを形成することができる磁気回路を検討した。まず、ターゲットの裏面に配置する磁気回路の基本形を、図2に示されるように、「ターゲット表面に対して垂直方向に磁化された中心垂直磁石101と外周垂直磁石102(垂直磁石ユニット)と、ターゲット表面に対して平行方向に磁化された内側平行磁石103と外側平行磁石104(平行磁石ユニット)」との組み合わせとした。そして、磁石の配置位置などを適切に調整して、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させることができる磁気回路を検討した。
【0012】
すなわち本発明の第1は、以下に示されるスパッタリング装置に関する。
[1]真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、スパッタ膜を形成される基板を保持する基板保持具と、を有するスパッタリング装置であって、以下の特徴を有する。
まず、前記垂直磁石ユニットは、中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり;前記中心垂直磁石と外周垂直磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり;前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置される。
次に、前記平行磁石ユニットは、内側平行磁石と外側平行磁石からなり;前記内側平行磁石と外側平行磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり;前記内側平行磁石と外側平行磁石はいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置される。
さらに、前記内側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD1、前記外側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD2、前記外周垂直磁石と前記ターゲット表面との間隔をD3としたとき、「D1<D2≦D3」となる。
【0013】
[2] [1]の装置において、前記間隔D1は30mm以下であってもよい。
[3] [1]または[2]の装置において、前記ターゲットと、前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットをさらに有し;前記磁気回路は、前記水冷ジャケットの外部に配置されていてもよい。
[4] [3]の装置において、前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に凹みの空間が形成され、前記内側平行磁石は、前記凹みの空間に設けられていてもよい。
[5] [4]の装置において、前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に形成された空間は、スリットにより複数の空間に分割されており、前記複数の空間のそれぞれに前記内側平行磁石が設けられ、
前記スリットの厚みは、前記水冷ジャケットの凹みが形成された部分の厚みよりも大きく、かつ前記スリットは水冷ジャケットの水路の一部になっていてもよい。
【0014】
本発明の第2は、以下のスパッタリング装置に関する。
[6]真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、スパッタ膜を形成される基板を保持する基板保持具と、前記ターゲットと前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットと、を有するスパッタリング装置であって、以下の特徴を有する。
まず、前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり;前記中心垂直磁石と外周垂直磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり;前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置される。
次に、前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、前記内側平行磁石と外側平行磁石のいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり;前記内側平行磁石と外側平行磁石はいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置される。
さらに、前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの内部に磁性体が設置されているか、または前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの一部が磁性体とされている。
【0015】
本発明の第3は、以下のスパッタリング方法に関する。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと;前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと;前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にパッタリング膜を形成するステップとを含む、スパッタリング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスパッタリング装置及びスパッタリング方法によれば、ターゲット表面の広範囲に、ターゲットに対して平行に近い磁力線を発生させることができるので、広範囲で電子をトラップすることができる。そのため、プラズマをターゲット表面の広範囲に発生させ、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。例えば従来では、ターゲットの材料利用効率は、約10〜20%であったが、本発明によれば約40%程度に向上させることができる。
【0017】
さらに、ターゲットの広範囲をスパッタリングさせることが可能であるため、膜再付着を防止することができ、かつ異常放電を抑制することができるので、ダストを低減させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.本発明のスパッタリング装置
本発明のスパッタリング装置は、マグネトロンスパッタ装置と称される。マグネトロンスパッタ装置とは、内部を減圧可能な真空チャンバと、真空チャンバ内部に配置されたマグネトロン電極と、スパッタ膜を形成される基板(被成膜体)を保持するための基板保持具とを有する(図1参照)。
【0019】
マグネトロン電極は、陰極となるターゲットと、ターゲットの裏面側に配置された磁気回路とを有する。またマグネトロン電極は、ターゲットと磁気回路との間に、ターゲットなどを冷却するための水冷ジャケットを有していてもよい(図1参照)。ターゲットの表面側(磁気回路が配置される面と反対側の面)には、基板保持具が配置される。本発明のスパッタリング装置のマグネトロン電極の形状は特に限定されず、円板形であったり、角板形(図2参照)であったりする。
【0020】
本発明のマグネトロン電極の磁気回路は、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む。図2は磁気回路の例を示しており、ターゲットの裏面の法線方向からみた上面図である。
【0021】
垂直磁石ユニットは中心垂直磁石101と外周垂直磁石102からなる。中心垂直磁石101はターゲット2の裏面の中央部に配置されており、外周垂直磁石102はターゲット2の裏面の外周部に配置されている。
ターゲット2の中央部に配置される中心垂直磁石101は、厳密な意味での中心に配置される必要はなく、外周垂直磁石102や、後述する平行磁石ユニットを構成する磁石(磁石103と104)によって囲まれるように、ターゲット2の中央部に配置されていればよい。
ターゲット2の外周部に配置される外周垂直磁石102は、プラズマを発生させる領域を規定する役割を有する。外周垂直磁石102をできるだけターゲットの外周に沿って配置すれば、ターゲット2の表面の全領域にプラズマを発生させやすくなるので好ましいが、一方で、プラズマがターゲット2以外の領域で発生する恐れも高まる。よって、外周垂直磁石102の配置位置は外周部に適切に配置することが必要である。
【0022】
中心垂直磁石101や外周垂直磁石102はそれぞれ、一つの磁石で構成されていてもよく(図2A)、2以上の磁石から構成されていてもよい(図2B)。図2Bに示されるように、2以上の磁石を組み合わせて構成すれば、製造コスト面で有利であったり、磁気回路の調整が容易であったりするので、好ましい場合がある。
【0023】
また各磁石は、非磁性材料からなるホルダに挿入されているか、または非磁性材料に固定されていてもよい。この場合は、磁石を固定するためのネジ穴等を設けることができるため、磁気回路の調整がしやすいという利点がある。
【0024】
中心垂直磁石101と外周垂直磁石102のいずれの磁場の方向も、ターゲット2の面に対して垂直である。「垂直」とは、交差角度が厳密に90°であることを意味しているのではない。
【0025】
また、中心垂直磁石101の磁場の方向と、外周垂直磁石102の磁場の方向とは、互いに逆向きである。つまり、中心垂直磁石101のターゲット側がS極である場合には、外周垂直磁石102のターゲット側がN極であり;中心垂直磁石101のターゲット側がN極である場合には、外周垂直磁石102のターゲット側がS極である。
【0026】
つまり、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102とをつなぐ磁力線が、ターゲット2の表面を覆うように存在することが好ましい。
【0027】
平行磁石ユニットは、内側平行磁石103と外側平行磁石104からなる。内側平行磁石103と外側平行磁石104のいずれも、中心垂直磁石101を囲むように環状に配置されており、かつ外周垂直磁石102よりも中央側に配置される。つまり、平行磁石ユニットは、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102との間に挟まれて配置されている。
また、内側平行磁石103と外側平行磁石104は、いずれも環状に配置されているが、内側平行磁石103の方が中心側に、つまり中心垂直磁石101の近くに配置される。
【0028】
内側平行磁石103と外側平行磁石104のいずれの磁場の方向も、ターゲット面に対して平行である。「平行」とは、交差角度が厳密に0°であることを意味しているのではない。
【0029】
また、内側平行磁石103の磁場の方向と、外側平行磁石104の磁場の方向は、互いに同じ向きである。つまり、内側平行磁石103の外周側がS極である場合には、外側平行磁石104の外周側もS極であり;内側平行磁石103の外周側がN極である場合には、外側平行磁石104の外周側もN極である。
【0030】
内側平行磁石103や外側平行磁石104はそれぞれ、垂直磁石(101や102)と同様に、一つの磁石で構成されていてもよく、2以上の磁石で構成されていてもよい。また各磁石は、非磁性材料からなるホルダに挿入されているか、または非磁性材料に固定されていてもよい。
【0031】
図3は、図2AのA−A断面図である(図3における矢印は磁化方向(S→N)を示す)。図3に示されるように、ターゲット2の中央部に中心垂直磁石101が配置され、ターゲット2の外周部に向かって、内側平行磁石103、外側平行磁石104、外周垂直磁石102の順に配置されている。中心垂直磁石101と外周垂直磁石102は、ヨーク105に接続して固定されていることが好ましい。一方、内側平行磁石103と外側平行磁石104は、ヨーク105に接続していない。
【0032】
磁気回路は、ターゲット2の裏面側に配置されている。ターゲット2は、パッキングプレート20に保持されていてもよい。ターゲット2と磁気回路10との間には、水冷ジャケット11が配置されていることが好ましい。水冷ジャケット11は、ターゲット2を冷却する機能を有する。
【0033】
本発明の重要な特徴の一つは、磁気回路10を構成する各磁石(磁石101〜104)と、ターゲット2の表面との間隔が適切に調整されていることである。つまり、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔をD1とし;外側平行磁石104とターゲット2の表面との間隔をD2とし;外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔をD3としたとき、「D1<D2≦D3」の関係を満たすことが好ましい。
【0034】
ただし後述するように、「内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1」は、(1)磁石103自体とターゲット2の表面との間隔を意味していたり、(2)磁石103の近傍に設けられた磁性体であって、磁石103と一体となって磁気回路を構成する磁性体がある場合には(図14の符合13参照)、当該磁性体とターゲット2の表面との間隔を意味していたりする。磁石103と一体となって磁気回路を構成する磁性体は、水冷ジャケット11の内部に配置されていたり、水冷ジャケットの一部の材質であったりする。
【0035】
一方、中心垂直磁石101とターゲット2の表面との間隔D4の大きさには、特段の制限はない。
【0036】
前述の通り、ターゲット2の裏面側に配置された磁気回路10は、ターゲット2の表面に磁場を発生させる。ターゲット2の表面のうち、磁気回路10により、適切な磁場が形成される領域がスパッタされて消費されやすい。「適切な磁場」とは、ターゲット2の表面上に形成される、ターゲット2の表面に対してできるだけ平行な方向の磁場である。ターゲット2の表面に対してできるだけ平行な方向の磁場、つまりスパッタリング装置に発生する電界の方向と直交する方向の磁場である。電界の方向と直交する方向の磁場により、マグネトロン放電が起こり、プラズマを発生させやすくなり、ターゲット材料の利用効率が高まる。
【0037】
本発明者は、磁気回路の構成、つまり間隔D1,間隔D2,間隔D3,間隔D4;ヨークの厚さt;各磁石の幅などの因子を制御しながら、磁場のシミュレーション(磁場の磁力線のベクトル)、プラズマのシミュレーション(発生するプラズマの分布)、ターゲットの侵食形状などのシミュレーションを行った。間隔D1〜D4はいずれも、17mm以上に設定した。磁気回路を構成する各磁石を、水冷ジャケットの外部に配置できるようにするためである。
【0038】
各因子を制御しながら、直交表によって解析条件の組み合わせを決定し、結果を分散分析することで各因子を最適化した。
【0039】
まず本発明者は、ターゲット表面の広範囲にプラズマを発生させるためには、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1が重要であること、つまり、他の磁石とターゲット2の表面との間隔(間隔D2〜D4)よりも、間隔D1が小さいことが好ましいことを見出した。
【0040】
図4に示されるグラフは、間隔D2=32mm;間隔D3=40mm;間隔D4=35mmとして一定としたときに、間隔D1=25mm、22mm、17mmとしたときのターゲットの侵食形状をシミュレーションした結果を示す。図4に示されるように、間隔D1が小さくなるほど(25mm→22mm→17mm)、ターゲットのもっとも侵食されている領域(エロージョンセンタともいう)が広がることがわかる。
【0041】
次に本発明者は、外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔D3を調整することにより、発生したプラズマをターゲット2の表面の端部にまで広げることができることを見出した。つまり、間隔D3を大きくするほど、ターゲット2の表面の端部にまでプラズマが発生する。そのため間隔D3を、間隔D2と同じか、またはそれ以上にすることが好ましい。一方、間隔D3を過剰に大きくすると、プラズマがターゲットよりも外側の領域にまで発生して、装置を傷める可能性もある。
【0042】
図5Aは、間隔D1=間隔D4=25mm、間隔D2=40mm、間隔D3=35mmとした磁気回路を用いて、ターゲット2の表面に発生するプラズマの状態を示す図(図5C)と、その強度を示すグラフ(図5E)である。一方、図5Bは、間隔D1=間隔D2=間隔D3=間隔D4=25mmとした磁気回路を用いて、ターゲット2の表面に発生するプラズマの状態を示す図(図5D)と、その強度を示すグラフ(図5F)である。図5B(間隔D3=25mm)と比較して、図5A(間隔D3=35mm)は、プラズマがターゲット2の表面の端部にまで広がっていることがわかる。
【0043】
このように、外周垂直磁石102とターゲット2の表面との間隔D3を大きくすると、ターゲット2の表面にプラズマを広がらせることができるが、一方で、間隔D3を過剰に大きくすると、ターゲット2の表面に形成される磁場が弱くなるため、電子の補足が不十分になり不具合を生じる。このため、間隔D3は、約40mm以下であることが好ましい。
【0044】
さらに本発明者は、上記各因子を制御しながら「長さX(図6参照)」を指標として、磁気回路を評価した。指標とした「長さX」を図6に示す。図6は、ターゲット2とパッキングプレート20の断面図である。ターゲット2の表面から突出する磁力線の磁場ベクトルと、ターゲット2の表面の法線ベクトルのなす角度が60°以上になる範囲の長さを「長さX」とした。
この「長さX」が大きければ、ターゲット2の表面に対して略平行な磁力線を、ターゲット表面の広範囲に形成することができる。そのため、プラズマを広範囲に発生させることができ、ターゲット材料の利用効率が高まると考えられる。
【0045】
その結果、中心垂直磁石101と内側平行磁石103との間隔や、外周垂直磁石102と外側平行磁石104との間隔は、磁気結合が保たれる程度に短くされていることが好ましいことを見出した。例えば、それぞれ10mm以下とすることが好ましい。
【0046】
さらに、磁石101〜104は、ターゲット面の法線方向から見て、互いに重ならないように配置されていてもよいが、必ずしもその必要はない。例えば、磁石101と磁石103、または磁石102と磁石104は、ターゲット面の法線方向から見て重なるように配置されてもよい。
【0047】
これらのシミュレーションの考察から得られた、好適な磁気回路の一例を図7に示す。図7に示される磁気回路を、実施の形態1のスパッタリング装置に適用した。
【0048】
マグネトロンスパッタ装置において、磁気回路を構成する磁石とターゲット表面との間隔を大きくすることは、一般的に容易である。
一方で、ターゲットを冷却するための水冷ジャケットを有するマグネトロンスパッタ装置において、磁気回路を構成する磁石とターゲット表面との間隔を小さくすることは困難な場合がある。水冷ジャケットの厚みのために、磁気回路を充分にターゲットに近づけることができないためである。また、水冷ジャケットの内部に磁石を配置することも考えられるが、磁石の劣化やメンテナンスの負担を軽減するためには、水冷ジャケットの外部に磁気回路を配置することが求められる。
【0049】
ところが、内側平行磁石103とターゲット2の表面との間隔D1は、30mm以下であることが好ましい。図4に示されるように、間隔D1が30mm以下であると、ターゲット2の表面の広範囲にプラズマが発生して、ターゲット材料の利用効率を高めやすいからである。一般的に、ターゲット2の厚さは約10mm、パッキングプレート20の厚さは約5mm、水冷ジャケット11の厚さは約10mm(合計25mm)であるため、間隔D1を充分に小さくすることができない場合がある。
【0050】
そこで、本発明のマグネトロンスパッタ装置の水冷ジャケット11は、磁気回路10の側に、内側平行磁石103を配置するための凹みの空間12を有していてもよい(図9参照)。凹みの空間12に内側平行磁石103を配置することにより、間隔D1を小さくする(例えば30mm以下とする)ことができる。
【0051】
さらに、内側平行磁石103を配置するための凹みの空間12を、複数の空間に分割してもよい(図9参照)。つまり、複数の凹みの空間12はスリット14で区分されており、当該スリット14は水路として機能させることが好ましい。
【0052】
2.本発明のスパッタリング方法
本発明のスパッタリング装置を用いれば、通常のスパッタリング手法により、基板表面に金属スパッタ膜を作製することができる。以下、図1に示されるスパッタリング装置を参照して、本発明のスパッタリング方法を説明する。
【0053】
まず、基板保持具4’に、スパッタ膜を成膜したい被成膜体である基板4を保持する。次に、排気口7を通して、真空チャンバ1の内部を高真空とした後に、ガス導入装置5を通して一定流量の制御されたスパッタリングガスを、真空チャンバ1の内部に導入する。スパッタリングガスは、一般的にはArやXeなどの希ガス(不活性ガス)である。
【0054】
ターゲット2およびパッキングプレート20に、負のバイアス電圧を印加する。それにより、ターゲット2の表面と垂直な方向の電場が発生する。磁気回路10により、ターゲット2の表面には、ターゲット2の表面と略平行な磁場が発生している。そのため、磁場と電場が垂直に交わる部分で、マグネトロン放電が発生し、プラズマが発生する。そしてターゲット2がスパッタされ、スパッタされたターゲット成分が基板に付着して、スパッタ膜が形成される。
【0055】
このように、ターゲット2の表面のできるだけ広範囲に、ターゲット2の表面に対して平行な磁場(磁力線)が形成されていれば、ターゲット2の表面の広い領域でプラズマを生成させることができる。ターゲット2の表面の広い領域でプラズマを生成させることができれば、広範囲のターゲット2の表面をスパッタリングすることができるので、材料利用効率を高めることができる。
【0056】
以下において、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の例を説明する。
【0057】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1のスパッタリング装置の概略図である。図1に示されるスパッタリング装置は、真空チャンバ1;ターゲット2と水冷ジャケット11と磁気回路10とを含むマグネトロン電極;基板4を有する。
【0058】
真空チャンバ1には、ガス導入装置5、排気装置6、排気口7、バルブ8が設けられる。排気装置6は、真空チャンバ1の内部を負圧することができる。ガス導入装置5は、真空チャンバ1の内部にスパッタリングガスを導入することができる。スパッタリングガスは、一般的にArガスなどの不活性ガスである。
【0059】
マグネトロン電極は、膜の材料からなるターゲット2、ターゲット2に接続された高電圧印加電源3、ターゲット2の裏面(基板4が配置された面とは反対側の面)側に配置された磁気回路10を有する。磁気回路10とターゲット2との間には、水冷ジャケット11が配置されている。また、ターゲット2は、パッキングプレート20に貼り付けられている。そして、マグネトロン電極の周囲には、アースシールド9が配置されている。ターゲットの材質は、成膜したい膜の成分に応じて任意に選択することができる。
【0060】
また、基板4は基板保持具4’に保持されており、ターゲット2に対向する位置に設置されている。
【0061】
磁気回路10は、中心垂直磁石101と外周垂直磁石102からなる垂直磁石ユニット;内側平行磁石103と外側平行磁石104からなる平行磁石ユニット:中心垂直磁石101と外周垂直磁石102とを磁気的に結合するヨーク105を有する。
【0062】
磁気回路10を、図7に示される磁気回路(本発明の磁気回路)とした。このときに生成されるプラズマ分布の解析結果を図10に示す。プラズマ分布の解析は、磁場にArガスを0.325Pa導入し、かつターゲット2に−400VのDC高電圧を印加した条件下で行った。さらに、ターゲット2の表面に入射するArイオンフラックスから予想されるターゲットエロージョン形状が、図12に示される(曲線A;横軸rは、ターゲット中心からの距離を表す)。
【0063】
一方、磁気回路10を、従来の磁気回路(平行磁石ユニットである磁石103と磁石104を省略して、垂直磁石ユニットである磁石101と磁石102だけで構成される)とした。このときに生成されるプラズマ分布の解析結果を図11に示す。プラズマ分布の解析は、磁場にArガスを0.325Pa導入し、かつターゲット2に−400VのDC高電圧を印加した条件下で行った。また、ターゲット2の表面に入射するArイオンフラックスから予想されるターゲットエロージョン形状が、図12に示される(曲線B)。また、図13には、従来の磁気回路としたときに形成される磁場の磁力線を示す。
【0064】
従来の磁気回路を用いた場合には、図11に示されるように、磁気回路の垂直磁石ユニットの磁石同士の間の領域に、局所的にプラズマが生成している。これに対して、本発明の磁気回路(図7)を用いた場合には、図10に示されるようにプラズマ分布が明らかに広がっている。
【0065】
また図12に示すように、従来の磁気回路を用いた場合にはターゲットエロージョン形状が偏っている(曲線B)のに対して、本発明の磁気回路を用いた場合には、ターゲットエロージョン形状が広がっている(曲線A)ことがわかった。具体的に、曲線Bから求められるターゲット材料の利用効率は約16%であるのに対し、曲線Aから求められるターゲット材料の利用効率は約40%であり、2倍以上の向上が見られた。
【0066】
このように、実施の形態1によれば、広範囲に広がったプラズマを形成できることから、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。
【0067】
[実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2のスパッタリング装置の概略図である。図8において、図1と同じ構成要素については、同じ符号を用いているので、説明を省略する。
【0068】
図8に示されるスパッタリング装置は、実施の形態1と同様に、ターゲット2と磁気回路10との間に、水冷ジャケット11を配置している。その水冷ジャケット11の磁気回路側には、凹みの空間12が設けられている。凹みの空間12には、内側平行磁石103が入り込み、磁石103とターゲット2の表面との間隔D1が小さくされている。
【0069】
水冷ジャケット11の空間12以外の部分は、空間12の部分よりも厚くされているので、冷却水の流れを確保しやすい。
【0070】
実施の形態2のスパッタリング装置では、例えば、ターゲット2の厚みを5mm、パッキングプレート20の厚みを10mmとする。このとき、凹みの空間12が形成された水冷ジャケット11の部分の厚みを7mm、その他の部分の厚みを14mmとする。この配置によれば、磁石103とターゲット2の表面との間隔を22mmとしつつ、凹みの空間12以外の部分の水冷ジャケット11の厚みを十分な厚み(14mm)に設定できる。そのため、水冷ジャケットの水冷による熱交換能力を十分に確保することができる。
【0071】
このように、実施の形態2のスパッタリング装置によれば、ターゲットに高出力が印加されても、水冷ジャケットによる熱交換能力を損なうことなく、維持することができる。もちろん実施の形態1のスパッタリング装置と同様に、ターゲット2の表面の広範囲にプラズマを形成することができるので、ターゲット材料の利用効率を高めることができる。
【0072】
[実施の形態3]
図9Aおよび図9Bは、本発明の実施の形態3のスパッタリング装置のうちの、マグネトロン電極(磁気回路10と水冷ジャケット11のみ)の概略図である。図9Aは水冷ジャケット11の断面図であり、図9Bはターゲット裏面の法線方向から見たときの水冷ジャケット11の上面透視図である。図9Aおよび図9Bにおいて、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0073】
実施の形態3のスパッタリング装置は、実施の形態2のスパッタリング装置と同様に、磁石103とターゲット2の表面との間隔D1を短くするために、水冷ジャケット11の一部に凹みの空間12を設けてある(図9A参照)。さらに、水冷ジャケット11に形成された凹みの空間12は、スリット14によって、複数の空間に分割されている(図9B)。つまり、磁石103も分割されて、各空間12に配置され、ターゲット2の表面に近づけて設置される。
【0074】
凹みの空間12を分割するスリット14は、冷却水の流路として機能して、水冷ジャケットの各部分(11−1、11−2、11−3)を互いに連通させている。凹みの空間12によって、水冷ジャケット11の厚さが小さくなるため、冷却水に対するコンダクタンスが低下する恐れがあるにも関わらず、実施の形態3のスパッタリング装置の水冷ジャケット11は、冷却水の流れを確保しやすく、冷却性能が下がりにくい。
【0075】
このように、実施の形態3のスパッタリング装置は、水冷ジャケットの熱交換能力を損なうことなく維持することができる。そのため、放電のON/OFFによるターゲットの伸縮を抑制することができ、ターゲットに再付着した物質の応力による剥がれを低減できる。ダスト抑制にも効果的である。よって、実施の形態3のスパッタリング装置は、高出力を印加するスパッタ装置にも好ましく適用することができる。
もちろん、実施の形態1のスパッタリング装置と同様に、ターゲット表面の広範囲にプラズマを形成することができるので、ターゲット材料の利用効率を向上させることができる。
【0076】
[実施の形態4]
図14には、実施の形態4のスパッタリング装置のマグネトロン電極(水冷ジャケット11と磁気回路10のみ)の概略図である。図14において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0077】
実施の形態4のスパッタリング装置は、水冷ジャケット11の内部に設置された磁気回路部品13(磁性体)を有する。磁気回路部品13は、磁気回路10の磁石103と磁気的に結合して、一つの磁気部材として機能する。したがって、磁石103自体をターゲット2に近づけた場合と同様の効果が期待される。また、水冷ジャケット11の内部に磁気回路部品13を配置する代わりに、水冷ジャケット11の、磁石103の近傍だけの材質を磁性体としてもよい。
【0078】
実施の形態4のスパッタリング装置では、例えば、ターゲットの厚みを5mm、パッキングプレート20の厚みを10mmとする(図3参照)。このとき、水冷ジャケット11の内部に磁気回路部品13を設置する。磁気回路部品13(磁性体)は冷却水と接触するので、交換などのメンテナンスが必要になる場合もあるが、磁石に比べると磁性体は安価でかつ寿命が長いため、メンテナンスによる負担は低い。さらに、磁気回路部品13(磁性体)をステンレス系材料としたり、または鉄系材料の表面に樹脂塗装やNiメッキなどのコーティングを施して、耐腐食性を高めて寿命を長くしてもよい。
【0079】
このように、実施の形態4によれば、簡便で安価に、かつ低コスト、低メンテナンス性の高いスパッタリング装置となりうる。もちろん、実施の形態1と同様に、ターゲット表面の広範囲にプラズマを形成できるので、ターゲット材料の利用効率を高めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のスパッタリング装置及び方法は、ターゲット材料の利用効率を向上させることを可能とし、安価にスパッタ薄膜を製造することが可能である。また、プラズマをターゲット表面の広範囲に発生させることで、ターゲット表面への膜再付着を防止するとともに異常放電を抑制する効果によってダストを低減した品質の良い薄膜を提供できる。そのため、光学部品表面への反射防止膜を安価で高品質に形成することが可能であるなど、光学薄膜に限らず広く薄膜形成に用いる装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のスパッタリング装置の例(実施の形態1)の概略を示す図である。
【図2】本発明のスパッタリング装置の磁気回路の例の概略を示す上面図である。
【図3】本発明のスパッタリング装置の磁気回路の例の概略を示す断面図である。
【図4】磁気回路の内側平行磁石とターゲットの表面との間隔D1と、ターゲットのエロージョン形状のシミュレーション結果との関係を示すグラフである。
【図5】磁気回路の外周垂直磁石とターゲットの表面との間隔D3と、発生するプラズマとの関係を示す図である。
【図6】好適化を行うための評価指標とした長さXを説明するための図である。
【図7】好適化された磁気回路の一例を示す図である。
【図8】本発明のスパッタリング装置の例(実施の形態2)の概略を示す図である。
【図9】本発明のスパッタリング装置の例におけるマグネトロン電極(実施の形態3)の概略を示す図である。
【図10】本発明の磁気回路によって生じるプラズマ分布を示す図である。
【図11】従来の磁気回路によって生じるプラズマ分布を示す図である。
【図12】本発明の磁気回路および従来の磁気回路を用いてスパッタリングしたときの、ターゲットエロージョン形状を示す図である。
【図13】従来の磁気回路によって生じる磁力線の形状を示す図である。
【図14】本発明のスパッタリング装置の例におけるマグネトロン電極(実施の形態4)の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 真空チャンバ
2 ターゲット
3 高電圧印加電源
4 基板
4’ 基板保持具
5 ガス導入装置
6 排気装置
7 排気口
8 バルブ
9 アースシールド
10 磁気回路
11 水冷ジャケット
12 空間
13 磁気回路部品(磁性体)
14 スリット
20 パッキングプレート
101 中心垂直磁石
102 外周垂直磁石
103 内側平行磁石
104 外側平行磁石
105 ヨーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、基板を保持する基板保持具と、を有するスパッタリング装置において、
前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり、
前記垂直磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり、
前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、
前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、
前記平行磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり、
前記前記平行磁石ユニットはいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、前記中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置され、
前記内側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD1、前記外側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD2、前記外周垂直磁石と前記ターゲット表面との間隔をD3としたとき、
D1<D2≦D3
である、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記間隔D1は30mm以下である、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ターゲットと、前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットをさらに有し、
前記磁気回路は、前記水冷ジャケットの外部に配置されている、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に凹みの空間が形成され、前記内側平行磁石は、前記凹みの空間に設けられる、請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に形成された空間は、スリットにより複数の空間に分割されており、前記複数の空間のそれぞれに前記内側平行磁石が設けられ、
前記スリットの厚みは、前記水冷ジャケットの凹みが形成された部分の厚みよりも大きく、かつ前記スリットは水冷ジャケットの水路の一部である、
請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、基板を保持する基板保持具と、前記ターゲットと前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットと、を有するスパッタリング装置において、
前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり、
前記垂直磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり、
前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、
前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、
前記平行磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり、
前記平行磁石ユニットはいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置され、
前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの内部に磁性体を設置するか、または前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの一部を磁性体とする、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと、
前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと、
前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にパッタリング膜を形成するステップと
を含む、スパッタリング方法。
【請求項8】
請求項6に記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと、
前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと、
前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にスパッタ膜を形成するステップと
を含む、スパッタリング方法。
【請求項1】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、基板を保持する基板保持具と、を有するスパッタリング装置において、
前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり、
前記垂直磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり、
前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、
前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、
前記平行磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり、
前記前記平行磁石ユニットはいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、前記中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置され、
前記内側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD1、前記外側平行磁石と前記ターゲット表面との間隔をD2、前記外周垂直磁石と前記ターゲット表面との間隔をD3としたとき、
D1<D2≦D3
である、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記間隔D1は30mm以下である、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ターゲットと、前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットをさらに有し、
前記磁気回路は、前記水冷ジャケットの外部に配置されている、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に凹みの空間が形成され、前記内側平行磁石は、前記凹みの空間に設けられる、請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記水冷ジャケットの前記磁気回路側の一部に形成された空間は、スリットにより複数の空間に分割されており、前記複数の空間のそれぞれに前記内側平行磁石が設けられ、
前記スリットの厚みは、前記水冷ジャケットの凹みが形成された部分の厚みよりも大きく、かつ前記スリットは水冷ジャケットの水路の一部である、
請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に設置され、垂直磁石ユニットと平行磁石ユニットとを含む磁気回路と、前記ターゲットの表面側に配置され、基板を保持する基板保持具と、前記ターゲットと前記磁気回路との間に設けられた水冷ジャケットと、を有するスパッタリング装置において、
前記垂直磁石ユニットは中心垂直磁石と外周垂直磁石からなり、
前記垂直磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略垂直であり、かつ前記中心垂直磁石と外周垂直磁石の磁場方向は互いに逆向きであり、
前記中心垂直磁石は前記ターゲットの裏面の中央部に設置され、前記外周垂直磁石は前記ターゲットの裏面の外周部に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、
前記平行磁石ユニットは内側平行磁石と外側平行磁石からなり、
前記平行磁石ユニットのいずれの磁場方向も、前記ターゲット表面に対して略平行であり、かつ前記内側平行磁石と外側平行磁石の磁場方向は互いに同じ向きであり、
前記平行磁石ユニットはいずれも、前記中心垂直磁石と外周垂直磁石との間に、中心垂直磁石を囲むように環状に設置され、かつ前記内側平行磁石は、前記外側平行磁石よりも前記ターゲットの裏面の中心側に配置され、
前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの内部に磁性体を設置するか、または前記内側平行磁石に対応する前記水冷ジャケットの一部を磁性体とする、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと、
前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと、
前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にパッタリング膜を形成するステップと
を含む、スパッタリング方法。
【請求項8】
請求項6に記載のスパッタリング装置を用いるスパッタリング方法であって、
前記基板保持装置に、被成膜体を保持するステップと、
前記スパッタリング装置の真空チャンバ内に、スパッタリングガスを導入するステップと、
前記チャンバ内に配置されたターゲットに電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基板にスパッタ膜を形成するステップと
を含む、スパッタリング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図5】
【公開番号】特開2009−149973(P2009−149973A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221602(P2008−221602)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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