説明

スパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置

【課題】 基板表面で均一・高濃度のイオンフラックスを形成し、またターゲットへの再堆積を生じる事のない、スパッタ成膜用の容量結合型プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】 容量結合型の機構を備えた上部電極1、上部電極に取り付けられた非磁性物質で作られたターゲット部材2、ターゲット部材の上部表面の上に配列された複数のマグネットで、そのうち2つの間に等しい距離を持ちかつ交互に替わる磁極極性持つ複数のマグネット6、上部電極に平行に配置された下部電極3、下部電極の上に搭載されたウェハ17、10〜300MHzの範囲の周波数で動作し、整合回路15を介して上部電極に接続された高周波電源16、を備えるプラズマ処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置に関し、特に、半導体産業において集積回路の製造工程の間に金属あるいは誘電体物質のスパッタ処理に有用な高周波(HFまたはVHF)電極でのプラズマイオン密度とイオンエネルギを独立に制御できる改善されたプラズマ源を有するプラズマ支援スパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
径方向に高い均一性を有する大面積高密度プラズマ源は、大面積基板を、当該基板の表面に組み付けられているデバイスに電荷誘導ダメージを与えることなく処理することが高く要求されている。特に、堆積膜の高い均一性を備える、金属と誘電体物質のスパッタ処理のための新しいプラズマ源の開発が重要である。従来のプラズマ源において上記特性を得ることの困難性が、図6〜図9に示されるごとく、2つの従来の構成を用いて説明され、これらの従来の構成は通常200ミリウェハまたは平板パネルのプラズマ処理装置において適用される。
【0003】
図6は、半導体産業におけるスパッタ成膜応用のために用いる簡略化された従来のマグネトロン型プラズマ源を示す。反応容器101は、非磁性金属で作られた上部電極102、円筒形側壁103、そして下部電極104から成っている。上部電極102は反応容器101の天井板を形成し、下部電極104は反応容器101の底板105の上に設けられている。上部電極102と下部電極104は、反応容器101の少なくとも一部にわたって互いに平行である。側壁103と底板105は、例えばステンレスのような金属で作られている。側壁103と底板105は接地されている。側壁103の上側部分は、反応容器の外側に室を作るため、上方に延びている。側壁103は誘電体リング106を有している。スパッタされる必要のある物質で作られたターゲットプレート107は上部電極102の下面に固定されている。通常、ターゲットプレート107は上部電極102に比較してわずかにより小さい寸法を有している。上部電極102とターゲットプレート107の合成された構造は、反応容器101の残りの部分から電気的に絶縁するため、誘電体リング106の上に置かれている。上部電極102の上面上に円形およびリング形状をした2つのマグネット108A,108Bが図6と図7に示されるように同心円的位置関係にて配置されている。2つのマグネット108A,108Bは上部電極102に固定され、2つのマグネット108Aと108Bの上に磁路として用いられるプレート121が配置される。中央のマグネット108Aは円柱形の形状を有し、図7に示されるごとくいかなるキャビティ(空洞)も持たない。外側のマグネット108Bはリング形状を有している。マグネット108A,108Bの各々の高さと幅は重要なことではなく、反応容器101の他の寸法に従って選択される。マグネット108A,108Bは、反応容器101の内側に向かって反対の極性を有するように上部電極102の上に配置される。マグネット108A,108Bの配列は、これらの2つのマグネットの間に曲線的な磁界109を生成する。
【0004】
上部電極102は整合回路111を介して0.1MHzから300MHzの範囲の周波数で動作する高周波電源110に接続されている。高周波電源110の周波数は通常13.56MHzである。高周波電源が上部電極102に電力を供給するとき、プラズマは容量結合型機構によって生成される。いったんプラズマが作られると、プラズマ内の電子は曲線の磁界の中に閉じ込められ、このことがその領域におけるプラズマ密度の増加をもたらす。
【0005】
基板112は下部電極104の上に配置され、この下部電極は絶縁物質113を介して底板105から電気的に絶縁されている。下部電極104は高周波電源から高周波電力を与えられてもよいし、与えられなくてもよい。もし高周波電力が高周波電源114によって整合回路115を介して下部電極104に与えられるのであるならば、図6に示すように、高周波電源の周波数は通常0.1MHzから30MHzの範囲に存在する。高周波電流が下部電極104に与えられるとき、それは負にバイアスされ、そのため基板112の表面の上にイオン衝突を起こす原因となる。イオン衝突は基板112に堆積された膜の上をエッチング処理する原因になるけれども、下部電極104の自己バイアス電圧は、膜堆積速度が基板112上の膜エッチング速度を超えるように、制御される。
【0006】
図8に示された他の従来のマグネトロン型のスパッタ源は、図6で与えられた前述のプラズマ源のわずかな改良である。ここで、中央のマグネット108Aは上部電極102の下側で非対称の磁界109を形成するために偏芯(off-axis)のモードで配置されている。このマグネット配列の平面図が図9に示されている。このマグネットの構成は上部電極102の中心軸(図において点線116として示されている)の周りに回転させされる。図8と図9に示されたマグネット108A,108Bによって形成されるマグネットの配列は非対称に回転する。
【0007】
また、従来の磁石を用いたプラズマ処理装置の例は、他にも特許文献1〜4に示すようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−156374号公報
【特許文献2】特開昭59−133370号公報
【特許文献3】特開平10−021591号公報
【特許文献4】特開平03−240953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示された平行平板型プラズマ反応容器は、平行電極間の大面積プラズマ、プラズマの容易な発火、そして下部電極表面におけるプラズマイオンエネルギ制御可能性、といういくつかの利点を有している。図6において与えられたマグネット配列を用いれば、上部電極102の下側にドーナツ形状の曲げられた磁界が生成される。いったんプラズマが発火されると、ドーナツの形状をしたより高い密度のプラズマが電子の磁界による閉じ込めの作用によって上部電極102の下側に形成される。このより高い密度のプラズマは主にマグネット108A,108Bの磁極の間の領域内に閉じ込められるので、マグネットの磁極の近傍においては低いプラズマ密度が存在する。
【0010】
さらに、磁界の強さは磁極の方向に向かって増大する。これは電子のミラー反射の原因となり、当該ミラー反射はマグネット108A,108Bの磁極において低い電子密度をもたらす原因となる。電子密度が低いとき、イオン密度は、同様にまた、イオンが電子によって生成された静電界によってプラズマの中でトラップされるので、低くなる。
【0011】
上述したように2つの理由のため、磁極でのイオンの流れはより小さくなり、低いスパッタリング速度という結果をもたらす。しかしながら、マグネット108Aと,108Bの各磁極の間にドーナツの形状で高密度プラズマが存在するので、2つのマグネットの間の領域に対応するターゲットプレート107の面は強くスパッタされることになる。これらのスパッタされた原子の一部はガス分子による散乱が原因でもとの方向へ反射され、そしてターゲットプレート107の上に再び堆積する。磁極に対応するターゲットプレート表面の場所でスパッタ速度が相対的により小さいので、これらの場所におけるスパッタされた原子の堆積が支配的となる。しかしながら、再度堆積した膜は低い密度を有し、ターゲットプレート107の上に緩くくっつき、こうしてそれは容易にパーティクルとして離れる。さらに、ドーナツ形状をした領域のみのエッチングが原因で、ターゲットの利用効率が非常に減少する。
【0012】
ターゲットプレート107上のスパッタされた物質の再堆積を避けるため、図8に示されるように、マグネット108A,108Bは非対称に配置され、そして上部電極の中心軸116の周りに回転させられる。磁極に対応する場所にスパッタ物質の再堆積があるとしたとしても、再堆積した膜はすぐにマグネットの回転が原因でプラズマの中にスパッタされて戻される。従って、プラズマにおけるパーティクルの源は除去される。
【0013】
しかしながら、図8に与えられた構成で生成されるプラズマは径方向に不均一である。このことが基板112の表面の上に不均一なイオンの流れをもたらす原因となる。これは、特に、もし基板112が下部電極104に対し高周波電力を与えることによって負にバイアスされているならば、基板表面の上に作られた局所的電荷増大の原因となり、それは基板107の上でのサブミクロン大の素子の電気的ブレークダウンという結果をついにはもたらす。
【0014】
本発明の目的は、ウェハまたは基板の表面におけるより高いイオンの濃度とより高いイオンの束(flux)の均一性を備え、そしてターゲット部材へのスパッタされた物質の戻りによる再堆積を生じない、スパッタ成膜応用のための磁気的に強められた容量結合型のプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の構成は、ターゲット部材下側に、磁気的に強められた容量結合型のプラズマを維持する。マグネットはターゲット部材の下側に多く(cluster:集団)のポイントカスプ磁界(磁場)を生成するために設けられ、それ故、ターゲット部材の近傍においてより高い磁界強度が存在し、それがより高いプラズマ密度を結果的にもたらす。ウェハが配置される下部電極に向かって磁界が急速に弱くなるため、ウェハは磁界がない環境にある。このことはウェハに負のバイアス電圧を与える目的で下部電極に対して高周波電力を与えることが容易となる。さらに、マグネット配列の回転のために、ターゲット上でスパッタされた原子が再堆積するのを防止され、そしてターゲットのエロージョンの形状がほとんど均一となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるプラズマ処理装置は所定の配列を有する複数のマグネットを用いることで多くのポイントカスプ磁界を作ることによってターゲット部材の下側に高密度プラズマを作ることができる。上部電極と下部電極の各々に与えられる高周波電力を制御することによってプラズマ密度(あるいはイオン束)とウェハ表面に衝突するイオンエネルギの独立な制御を容易に行うことができる。本発明は、基板表面でのより高いイオン濃度、より高いイオン束の均一性で、かつターゲット部材に戻るスパッタ物質の再堆積を生じさせないことで、スパッタ成膜応用のための磁気的に強められた容量結合型のプラズマ処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】容量結合型の電極、ターゲット部材、そしてマグネット配列を示す第1実施形態の断面図である。
【図2】第1実施形態で用いられたマグネット配列を示す。
【図3】第2実施形態の縦断面図である。
【図4】第4実施形態の縦断面図である。
【図5】第4実施形態におけるシートとマグネットの側面図である。
【図6】プラズマ処理のために用いられる第1の従来のプラズマ源を示す概略図である。
【図7】図6で示された上部電極の上面図である。
【図8】プラズマ処理のために用いられた第2の従来のプラズマ源を示す概略図である。
【図9】図8で示された上部電極の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、好ましい実施形態が添付された図面に従って説明される。実施形態の説明を通して本発明の詳細が明らかにされる。
【0019】
実施形態のプラズマ処理装置のために用いられるプラズマ源の図を示している。図1はプラズマ処理装置の断面図を示し、図2はマグネット配列を示す。
【0020】
上記のプラズマ処理装置において、反応容器50は、上部電極1、ターゲット部材2、下部電極3、円筒形側壁21、天井板(トッププレート)22a、底板(ボトムプレート)22b、そしてウェハホルダ23から構成されている。ターゲット部材2は上部電極1の面に設けられている。複数のマグネット6はターゲット部材2の上面の上側であって上部電極1とターゲット部材2の間のキャビティ(空洞)13に設けられている。さらに、反応容器50はガス導入部4と真空排気部5を有している。この真空排気部5は真空ポンプ(図示されず)に接続されている。
【0021】
上部電極1は例えばAl(アルミニウム)のような金属で作られており、誘電体物質、例えばセラミックで作られたリング14aの上に配置されている。上部電極1は円形の形状を有している。上部電極11の寸法は重要なことではなく、処理されるべき基板の大きさに依存している。円筒形側壁21、天井板22a、そして底板22bは金属で作られており、電気的に接地されている。
【0022】
ターゲット部材2は例えば銅のような金属で作られており、スパッタされる必要があり、ウェハ17の表面に堆積される。このウェハ17はウェハホルダ23に設けられた下部電極3の上に搭載される。ターゲット部材2は上部電極1に対して例えばボルトまたは拡散接合によって強く固定されている。上部電極1とターゲット部材2の形状は上部電極1とターゲット部材2の間にキャビティ13が存在するように設計されている。上部電極とターゲット部材の直径は重要な事項ではなく、ウェハ17の直径に依存して選択される。例えば、もしウェハの直径が200mmであるならば、ターゲットの直径は200mmから350mmの範囲に存在する。マグネット6の下側のターゲット部材2の厚みは同様にまた重要な事項ではなく、通常、およそ15mm程度である。
【0023】
上部電極1とターゲット部材2の間のキャビティ13内にあるマグネット6の配列は図2に示されている。複数のマグネット6は円形シート7に固定されている。マグネット6はお互いに等しい距離で配列され、交互に替わる極性を有している。いかなる2つの隣り合うマグネット6の間の間隔は重要な事項ではなく、10mmから50mmの範囲において変わり得る。各マグネットの寸法は同じである。マグネット6の断面形状は四角形状あるいは円形状である。もし断面の形状が円の形状であるならば、その直径は5mmから40mmの範囲において変わり得る。もし断面の形状が四角の形状であるならば、同等の寸法が採用される。マグネット6の高さは重要な事項ではなく、5mmから30mmの範囲にすることができる。さらに、マグネット6の磁界24の強さは同様にまた重要な事項ではない。通常、マグネット6の強さは、ターゲット部材2の下面でおよそ100ガウスから600ガウスの強さの磁界を生成するように選択される。
【0024】
先に説明されたようにターゲット部材2の上にマグネット6が配列されるとき、いずれの磁極から出る磁界ライン24はすぐに最も近い反対の極性を有する磁極に向かって曲がる。それ故に、このマグネット配列は多くのポイントカスプ磁界を作り出す。マグネット6はお互いに接近するように配列されているので、磁界ライン24はマグネット6から短い距離で曲がる。それ故、このマグネット配列は、ターゲット部材2の内側領域の近傍で強い磁界24を作り、下部電極3に向かって非常に急速に衰える。従って、ターゲット部材2と下部電極3の間の適当な距離を維持することによって、下部電極3の表面で磁界に拘束されない環境を得ることができる。
【0025】
各マグネット6の1つの磁極はシート7に取り付けられ、このシートは好ましくは金属で作られている。各マグネット6の他の磁極はプラズマ処理反応容器50の内部に対向している。マグネット6が取り付けられたシート7は上部電極1とターゲット部材2の間のキャビティ13内であって、ベアリング8の支持部を備えて固定されている。シート7は上部電極の1の中心軸の周りに回転させることができる。さらに、マグネット6の下面とターゲット部材の上面との間に小さい間隔、好ましくは、およそ1mmの間隔を持つように設けられている。複数のマグネット6を備えたシート7を回転させるために、シート7の上面は適当なギヤ装置10a,10bを介してモータ9につながっている。シート7の上面におけるギヤ装置10a,10bは絶縁物質で作られたロッド11によって接続されている。このことはモータ9とマグネット6に高周波電流が流れるのを取り除くために重要なことである。絶縁物質で作られたロッド11は上部電極1に形成された小さな孔12を通過させられる。上部電極1に作られた小さな孔12の直径はできるだけ小さいものとされ、これは上部電極1とターゲット部材2の間のキャビティに高周波電流が通電するのを防止するためである。シート7を含むマグネット配列は予め定められた周波数、通常およそ5〜10Hzで回転させられる。モータ9は好ましくは反応容器50の側壁21の外側に配置され、DCまたはAC電流によって動作させられる。先に説明されたようにマグネット配列は回転させられるのであるが、当該マグネット配列を回転させるためには異なる他の技術を用いることもでき、例えば小さな孔12を用いることを省略できる或る種の磁気結合を用いることができる。
【0026】
上部電極1、ターゲット部材2、そしてマグネット配列から成る合成構造は誘電体リング14A,14Bを配置することによって反応容器50の他の部分から電気的に絶縁されている。上部電極1は整合回路15を介して高周波電源16に接続されている。高周波電源16の周波数は、重要な事項ではなく、10MHzから300MHzの範囲に存在させることができる。
【0027】
下部電極3は整合回路19を介して高周波電源18に接続される。下部電極3は高周波電源18から高周波電力を与えられる。高周波電源18の周波数は、重要な事項ではなく、0.1MHzから300MHzの範囲において変えることができる。高周波電源18は省略することもできる。下部電極3に高周波電力が与えられないのであるならば、下部電極3の電気的状態は浮遊状態であるかまたは接地状態である。下部電極3の正確な電気的な状態は各ウェハの処理技術によって決定される。
【0028】
図1に示されるようにプラズマ処理反容器50のガス導入装置が存在する。複数のガス入り口4を備えた円形管20は側壁21の内面に固定されている。しかしながら、反応容器50の中にプロセスガスを導入する異なる技術を採用することもできる。
【0029】
高周波電源16から上部電極1に対して高周波電力が適用されるとき、ターゲット部材2の下面へ高周波電流が流れ、そして容量結合型機構によってプラズマを生成する。ターゲット部材2の近傍における磁界24のため、プラズマ中の電子はサイクロトロン回転を行い、ターゲット部材2に接近させて閉じ込める。このことは、プラズマ密度の増加という結果をもたらす。マグネット6はターゲット部材2の下面を通して複数の曲げられた磁界24を作るように設けられているので、高密度プラズマは、曲げられた磁界ライン24の各組の中に生成される。設けられたマグネット6の数に依存して、局所的な高密度プラズマサイトの数は変化する。多くの互いに接近するマグネット6を調整することによって、高密度プラズマの生成サイトの総数は増加させることができる。それ故にターゲット部材2の下側の平均的プラズマ密度は従来技術の欄で説明された従来のプラズマ源のそれらに比較して非常に増加させることができる。
【0030】
プラズマの生成で、ターゲット部材は負にバイアスされ、それはターゲット部材2の表面面積が、プラズマが接触している接地された表面の面積よりも小さくなるからである。この負の自己バイアス電圧が原因で、プラズマ中のイオンはターゲット部材2に向かって加速し、エネルギを得てターゲット2の上に衝突する。これはターゲット部材2をスパッタし、スパッタされものがプラズマに向かう。ターゲット部材2からのスパッタされた原子の一部はプラズマを通り抜けて通過し、ウェハ17の表面に堆積する。スパッタされた原子の他の一部はターゲット部材2に再び堆積し、これはガス状態におけるスキャッタリング(散乱)によるものである。残りのスパッタされた原子はプラズマに晒された円筒形側壁21、そして他の表面の上に堆積する。
【0031】
いったんプラズマがターゲット部材2の下側に生成されると、ターゲット部材2の近傍の電子とイオンはE×Bによって駆動される。ここで、EとBはそれぞれターゲット表面での直流電界と磁界である。しかしながら、このプラズマのE×Bドリフトは、マグネット6の間隔によって定義されるより小さい領域に局所的に存在させられる。何故なら、マグネット6は隣り合うマグネットのE×Bドリフトをなくさせるように設けられている。それ故にこのマグネット配列はターゲット部材2の下側数cmの所で拡散プロセスによってほとんど径方向に均一なプラズマを作る。さらにマグネット6の回転のため、ターゲット部材2の上で再堆積サイトは全く存在しない。このことは、同様にまた、ターゲット部材2のほとんど均一なエロージョンの原因となり、これはターゲットの利用効率の増大という結果をもたらす。
【0032】
先に説明されたように下部電極の表面では全く磁界は存在しない。それ故に、高周波電源18から供給される高周波電力はウェハ表面上のプラズマ均一性を乱すことなく下部電極3に与えられる。もしウェハの表面で磁界が存在するならば、プラズマはE×Bドリフトのため反応容器50の他の側に向かって移動し、ここでEとBはそれぞれウェハ表面における直流電界と磁界の強さである。下部電極に対して適当な高周波電力を与えることによってその自己バイアス電圧は変化させられ、それによってウェハの表面に衝突するイオンのエネルギは変化させられる。
【0033】
第1実施形態のプラズマ処理装置は従来のプラズマ源のそれらと比較してターゲット部材の下側に高い密度のプラズマを作ることができる。それは均一な成膜速度とターゲット部材の均一なエロージョン速度でウェハ上の金属の膜のスパッタ堆積を容易化できる。さらに、それは、上部電極1と下部電極2のそれぞれに与えられる高周波電力を制御することによってプラズマ密度(あるいはイオン束)と、ウェハ表面上に衝突するイオンのエネルギの独立した制御を容易にすることができる。
次に本発明の第2実施形態が図3に基づいて説明される。この実施形態は第1実施形態の拡張である。第2実施形態における上部電極1は高周波電源16からの高周波電力に加えて直流電源25からの直流バイアス電圧を供給される。この直流電力は高周波カットオフフィルタ26を経由して供給され、このカットオフフィルタは高周波電源16からの高周波電流から直流電源25を保護する。この付加された構造を除いて、すべての他の構成は第1実施形態で説明されたものと同じである。第1実施形態で説明されたそれらと実質的に同じである図3に示された他の構成要素は、それぞれ、同じ参照番号が付されている。
【0034】
第2実施形態において、プラズマによって作られる自己バイアス電圧よりも大きい負の直流電圧の応用はターゲット部材2のスパッタリング速度の増大をもたらす。これは結果的にウェハ17の表面での成膜速度の増大をもたらす。
【0035】
図4を参照して第3の実施形態が説明される。第3実施形態は同様にまた第1実施形態の拡張である。この実施形態における上部電極1は整合回路28を介して第2の高周波電源27から他の高周波電流が供給される。上部電極1に対する第2の高周波電流の印加に伴い2つの高周波フィルタ29,30が電気回路に付加される。高周波フィルタ29は高周波電源16から到来する高周波電流をカットオフし、高周波フィルタ30は高周波電源27から到来する高周波電流をカットオフする。この変形を除いて、すべての他の構成要素は第1実施形態で説明されたそれらと同じである。
【0036】
第2の高周波電源27の周波数は基本の高周波電源16よりも低くなっており、好ましくは0.1MHzから30MHzの範囲に存在する。第2の高周波電源27からのより低い高周波の交流電流の印加はターゲット部材上での自己バイアス電圧の増大をもたらす。このことは、ターゲット部材2のより高いスパッタ速度の原因となり、それによってウェハの表面により高い成膜速度をもたらす。
【0037】
図5に従って第4実施形態が説明される。この実施形態は同様にまた上記の実施形態の拡張である。すなわち、第4実施形態のハードウェア的な構成はマグネットの配列を除いて各実施形態のそれと同じである。マグネット配列のみが変更されているので、マグネット配列のみが図5に示される。図5は複数のマグネットとシート7の側面図を示している。
【0038】
各マグネット6の高さを除いてマグネットの他の寸法、マグネットの強さ、マグネット間の間隔は、第1実施形態で説明されたそれらと同じである。マグネット6の高さは径方向に変化させている。例えば、マグネット6の高さはシート7の中心に向かってあるいはターゲット部材2に向かって図5に示されるごとくより短くなる。他の方法としてマグネット6の高さを変えることもできる。例えば、マグネットの高さはシート7の外縁に向かって短くしてもよい。マグネットの高さの変化の基準は次の通りである。
【0039】
第1実施形態において説明されたように磁界24が存在するとき、プラズマ密度は増加し、プラズマは磁界24の領域の中に閉じ込められるようになる。プラズマ密度の増加と閉じ込めの強さが磁界の強さに依存して変化する。それ故に、マグネットの高さを変化させることによって、ターゲット部材2の下側の磁界の強さは変化させられ、それによってプラズマ密度とプラズマ閉じ込めは変化させられる。すなわち、マグネットの高さはターゲット部材の近傍におけるプラズマ密度のパラメータを制御するものとして扱うことができる。ウェハプロセスの形式、与えられる電力、採用される圧力に依存して、ウェハ表面で均一な成膜を得るためにターゲット部材2の近傍でプラズマ密度の径方向の外形(プロファイル)を変化させることは重要である。これらの状況において、マグネットの高さはウェハ上で均一な膜を得るため、上述されたごとく適当に変化させられる。
【0040】
同様に、磁界の異なる強さを持つマグネットを選択することによって、それらを径方向に対照的パターンで配列することによってターゲット部材2の下側で磁界24の強さを変化させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 上部電極
2 ターゲットプレート
3 下部電極
6 マグネット
17 ウェハ
21 円筒形側壁
21b 底板
23 ウェハホルダ
50 反応容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導入部と真空排気部を備える反応容器と、
前記反応容器に設けられ、ターゲット部材を取付可能な上部電極と、
前記ターゲット部材の上方に設けられ、2つの間の等しい距離と交互に異なる極性を有するように縦横に配列され、前記ターゲット部材の下側に磁場を形成するための複数のマグネットと、
前記反応容器にて前記上部電極の対向位置に設けられ、処理されるべきウェハが搭載される下部電極と、
整合部を介して前記上部電極に接続され10MHzから300MHzの範囲における周波数で動作する高周波電源と、を備えることを特徴とするスパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記複数のマグネットは前記上部電極の中心軸の周りに回転機構によって回転させられることを特徴とする請求項1に記載のスパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記回転機構はモータ、このモータに接続される第1のギヤ装置、前記マグネットを備えたシートに設けられる第2のギヤ装置、前記第1と第2のギヤ装置を接続する絶縁物で作られたロッドを備えることを特徴とする請求項2に記載のスパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記上部電極は高周波カットオフフィルタを介して直流電源に接続されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記上部電極は整合部を介して第2の高周波電源に接続されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスパッタ成膜応用のためのプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−17088(P2011−17088A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215112(P2010−215112)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2001−167163(P2001−167163)の分割
【原出願日】平成13年6月1日(2001.6.1)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】